説明

バイオマスと酸化鉄からの水素製造方法および装置

【課題】 バイオマス資源と酸化鉄を用いて、一酸化炭素等の副生物を含まない高純度の水素を製造することができる水素製造方法および装置を提供する。
【解決手段】 還元反応器10にバイオマスと酸化鉄粒子の混合物を供給し、この混合物を加熱して酸化鉄を還元する。この還元反応器で得られる鉄および炭素を含む固相を、第1の酸化反応器20内で600℃以下の温度で水蒸気と接触させて水素ガスを発生させる。そして、第1の酸化反応器20で得られる酸化鉄を含む固相を、第2の酸化反応器30内で200℃以上の温度で空気と接触させ、固相に含まれる酸化鉄を更に酸化した後に、酸化鉄移送手段44により還元反応器10に供給して鉄および酸化鉄を循環利用する。また、第2の酸化反応器30で得られる気相を窒素ガス供給ライン42により不活性ガスとして還元反応器10に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスと酸化鉄から水素を製造する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属鉄と水蒸気を接触させて水素を製造する方法として、スチームアイアン法が知られている。この方法では、水素と一酸化炭素を含む還元性ガスで酸化鉄の還元を行い、生成した鉄に水蒸気を反応させて水素を製造する。酸化鉄の還元酸化(Fe34→Fe→Fe34)を利用するので、酸化鉄を再利用することができる。さらに、特許文献1には、鉄にNiやCr等の金属を添加して、還元酸化の繰り返しによる金属鉄の凝集、いわゆるシンタリング現象を防止する方法が記載されている。酸化鉄の金属鉄への還元方法としては、水素と一酸化炭素の混合ガス、あるいは特許文献1に記載されているように、水素で行うことが一般的である。
【0003】
一方、バイオマス資源は、有限な資源でありかつ大気中に多量のCO2を排出する化石燃料とは異なり、再生産が可能でありかつカーボンニュートラルである。そのため、バイオマス資源の有効利用について現在多くの研究がなされている。しかしながら、廃木材や新聞紙などの木質バイオマスや食品残渣などの糖質系バイオマスの多くは有効利用されずに廃棄処理されている状況にある。
【0004】
バイオマス資源の有効利用法として、例えば、特許文献2に、バイオマスを含む廃棄物と酸化鉄との混合物を1400〜2200℃で急速加熱して、金属鉄と、水素および一酸化炭素を含むガスを製造する方法が記載されている。しかしながら、この方法では、水素とともに副生物として一酸化炭素が発生するという問題点がある。
【0005】
また一方では、鉄の酸化を利用した技術として、特許文献3に、圧縮空気と鉄粉を接触させて鉄を酸化させることにより、空気中の酸素を減少して窒素の濃度を高める窒素ガス製造方法が記載されている。
【特許文献1】国際公開第2002/081368号パンフレット
【特許文献2】特開2005−111394号公報
【特許文献3】特開2003−119009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、バイオマス資源と酸化鉄を用いて、一酸化炭素等の副生物を含まない高純度の水素を製造することができる水素製造方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、バイオマスと酸化鉄から水素を製造する方法であって、酸化鉄粒子とバイオマスとの混合物を加熱して、酸化鉄を還元する還元工程と、前記還元工程で得られる金属鉄および炭素を含む固相を600℃以下の温度で水蒸気と接触させて、水素ガスを発生させる第1の酸化工程とを含み、前記第1の酸化工程で得られる酸化鉄を含む固相を前記還元工程に供給して鉄および酸化鉄の循環を行うことを特徴とする。
【0008】
このように、先ず、還元工程では、例えば式1に示すように、バイオマス(Cnmx)を還元剤として、酸化鉄(Fe23)が金属鉄(Fe)まで還元される。この還元工程で得られる固相には、生成するFeおよび炭素(C)の他、未反応のバイオマスが含まれる。また、この還元工程で得られる気相には、生成するH2O、CO2、CO、CH4などが含まれる。酸化鉄は、式1に示すFe23の他、Fe34、FeOでもよい。
Fe23+Cnmx→2Fe+H2O+CO2+CO+CH4+C・・・(式1)
【0009】
次に、第1の酸化工程では、反応温度を600℃以下にすることで、式2に示すように、Feに共存する炭素(C)および未反応のバイオマスが反応せず、COやCO2の生成が回避される。よってバイオマスを用いて高純度のH2ガスを製造することができる。
3Fe+4H2O→Fe34+4H2・・・(式2)
【0010】
本発明に係る水素製造方法は、前記第1の酸化工程で得られる酸化鉄を含む固相を200℃以上の温度で空気と接触させる第2の酸化工程を更に含むことが好ましい。この場合、第1の酸化工程で得られる固相中の酸化鉄をこの第2の酸化工程で更に酸化した後に前記還元工程に供給することで、前記鉄および酸化鉄の循環を行うことが好ましい。
【0011】
このように、第2の酸化工程では、式3に示すように、第1の酸化工程で得られる固相中のFe34が空気中の酸素によって更に酸化されてFe23となる。また、空気中の酸素濃度が低下することから、窒素濃度の高い不活性ガスを得ることができる。
4Fe34+O2→6Fe23(ΔH=ca.−480kJ)・・・(式3)
【0012】
よって、不活性ガスの流通下で前記還元工程を行う場合には、前記第2の酸化工程で得られる気相を、前記還元工程の前記不活性ガスとして供給することが好ましい。不活性ガスの流通下で還元工程を行うことで、H2O、CO2、CO、CH4などの気相生成物を還元工程から常に除去することができる。また、上記の式3は、発熱反応であることから、前記第2の酸化工程で発生する熱で、前記還元工程における加熱の補助を行うことが好ましい。
【0013】
本発明は、別の態様として、水素製造装置であって、バイオマスと酸化鉄粒子の混合物が供給され、前記混合物を加熱して酸化鉄を還元する還元反応器と、この還元反応器で得られる金属鉄および炭素を含む固相を600℃以下の温度で水蒸気と接触させて水素ガスを発生させる第1の酸化反応器と、この第1の酸化反応器で得られる酸化鉄を含む固相を前記還元反応器に供給する鉄および酸化鉄循環手段とを備えることを特徴とする。この鉄および酸化鉄循環手段は、第1の酸化反応器で得られる酸化鉄を含む固相に空気を接触させて、固相中の酸化鉄を更に酸化する(例えば、Fe34をFe23に酸化する)第2の酸化反応器と、この第2の酸化反応器で得られる更に酸化した酸化鉄を含む固相を前記還元反応器に供給する鉄および酸化鉄移送手段とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、バイオマス資源と酸化鉄を用いて、一酸化炭素等の副生物を含まない高純度の水素を製造することができる水素製造方法および装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る水素製造方法及び装置の一実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る水素製造装置の一実施の形態を示す模式図である。図1に示すように、本実施の形態の水素製造装置は、バイオマスを還元剤として酸化鉄をFeまで還元する還元反応器10と、Feと水蒸気の反応により水素ガスとFe34を生成する第1の酸化反応器20とから主に構成されている。還元反応器10と第1の酸化反応器20は、固体原料が重力により下降するように、固体原料の進行方向に向かって傾斜して設けられている。
【0016】
還元反応器10には、反応器内にバイオマスと酸化鉄粒子の混合物を供給するための混合物投入口12が設けられている。還元反応器10の混合物投入口12には、供給されるバイオマスと酸化反応器20で生成した酸化鉄粒子と残存する炭素を混合してこれらの混合物を得るための混合手段(図示省略)が設置されている。混合手段としては、例えば、撹拌器、混練器などが好ましい。
【0017】
バイオマスとしては、例えば、小径木、間伐材、おが屑、木屑、古紙、もみ殻、稲わら、バガス、天然繊維、新聞紙、包装紙、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ダンボール等のセルロース系の木質バイオマスや、サトウキビ、テンサイ等のスクロース系バイオマスや、米、麦、トウモロコシ、イモ等のデンプン系バイオマス等や、食品加工残渣(米ぬか、おから等)、廃食用油、汚泥、廃プラスチック等の廃棄物系バイオマスを使用することができる。バイオマスは、破砕や粉砕等によって、小片、粒状または粉状に処理されたものが好ましい。
【0018】
酸化鉄粒子としては、微粒酸化鉄として市販されているものや、製鉄会社で排出される酸化鉄または鉄ダスト、各種鉄塩から調製される酸化鉄微粒子等を使用することができる。酸化鉄粒子の平均粒子径としては、反応性の観点から1nm〜100μmが好ましい。バイオマスと酸化鉄粒子の混合割合としては、バイオマス100重量部に対して、酸化鉄粒子20〜300重量部が好ましい。この範囲の混合割合とすることで、酸化鉄を十分にFeに還元することができる。
【0019】
なお、酸化鉄粒子には、鉄以外の元素を添加することができる。添加する元素としては、鉄粒子のシンタリング抑制の観点からクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ケイ素(Si)からなる第1群から選ばれた少なくとも1種の金属もしくは半金属、又は反応速度向上、いわゆる触媒の観点からコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)からなる第2群から選ばれた少なくとも1種の金属を添加することが好ましい。もちろん、第1群からと第2群からそれぞれ少なくとも1種の金属または半金属を選んだ少なくとも計2種の金属または半金属を添加することもできる。第1群、第2群の金属または半金属の各配合割合は、Feを含む金属および半金属を100mol%とした場合、0.1〜10mol%が好ましい。Feと添加する金属または半金属との調製方法は、物理混合法、含浸法、共沈法等により行い、特に共沈法が好ましい。
【0020】
還元反応器10には、供給された混合物を所定の還元反応温度に加熱する加熱手段(図示省略)が設置されている。還元反応温度としては、400〜800℃が好ましく、600〜800℃がより好ましい。この温度範囲にすることで、酸化鉄を十分にFeに還元することができる。加熱手段としては、電熱ヒータ、天然ガスバーナー、バイオマス燃焼バーナー等を用いることができる。
【0021】
還元反応器10には、反応器内に不活性ガスを常時流し、還元反応で生成する水や二酸化炭素等の気相生成物を系外に排出するためのガス流入口14とガス排出口16が設けられている。混合物の流れに対して不活性ガスが反対方向に流れるように、ガス流入口14とガス排出口16は配置されている。ガス排出口16から排出されたガス中には、可燃性ガスである水素や一酸化炭素が含まれるので、これらを燃焼して大気中に放出するための排ガス燃焼装置(図示省略)をガス排出口16の後に設置することが望ましい。または、ガス排出口16から排出されるガス中の水素を、他のガスと分離して、第1の酸化反応器20で得られる水素に加えるために、水素分離膜等(図示省略)をガス排出口16の後に設置してもよい。ガス流入口14には、不活性ガスを導入するために、窒素ガスのボンベ又は発生装置(図示省略)を設置することができる。
【0022】
第1の酸化反応器20には、還元反応器10で生成した金属鉄を含む固相を反応器内に供給するためのFe供給口22が設けられている。また、第1の酸化反応器20には、反応器内に水蒸気を導入するための水蒸気導入口24が設けられている。固相中の金属鉄と水蒸気とが所定の酸化反応温度で反応するために、第1の酸化反応器20には温度調節手段(図示省略)が設けられている。酸化反応温度としては、固相中の炭素および未反応のバイオマスが反応してCO又はCO2を副生するのを防止するために、600℃以下にする必要がある。より好ましい酸化反応温度は200〜600℃であり、特に350〜600℃が好ましい。
【0023】
第1の酸化反応器20には、還元反応器10から400〜800℃の高温の固相が供給されることから、所定の酸化反応温度を保持するために特に加熱する必要はなく、よって、温度調節手段は、水冷クーラ等の冷却手段で構成されている。なお、必要により電熱ヒータ等の加熱手段を組み合わせた構成にしてもよい。水蒸気導入口24からは、固相中のFeが全てFe34になるような十分な量の水蒸気を導入することが好ましい。例えば、金属鉄3モルに対して水蒸気4モル〜10モルを導入することが好ましい。
【0024】
第1の酸化反応器20には、金属鉄と水蒸気との反応より発生した高純度の水素ガスを排出するための水素排出口26が設けられている。水素ガスは、燃料電池等の水素を利用する装置(図示省略)に供給される。また、第1の酸化反応器20内に供給された固相中の金属鉄を水蒸気と十分に反応させるために、固相の流れに対して水蒸気が反対方向に流れるように、水蒸気導入口24と水素排出口26は配置されている。
【0025】
第1の酸化反応器20には、生成するFe34ならびに残存する炭素およびバイオマスを含む固相を排出するための循環口28が設けられている。この循環口28は、排出された固相を搬送する酸化鉄循環ライン40を介して、還元反応器10の混合物投入口12へと接続している。酸化鉄循環ライン40としては、コンベヤや空気搬送などを用いることができる。
【0026】
水素製造装置の各反応器は、ステンレススチールやアルミニウム等の金属、アルミナやジルコニア等のセラミックス、又はフェノール樹脂やポリフェニレンサルファイド等の耐熱性プラスチック等で作られており、熱や内外圧力に耐え得る構造をとっている。また、各反応器を断熱材で覆うこともできる。断熱材としては、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ粉末成形体などを使用することができる。
【0027】
以上の構成によれば、先ず、ガス流入口14から窒素ガスを還元反応器10内に流通させるとともに、還元反応器10内を所定の還元反応温度に加熱する。そして、バイオマスと酸化鉄粒子および共存炭素の混合物を、混合物投入口12から還元反応器10内へと投入する。還元反応器10内では、混合物が還元反応温度に加熱され、バイオマスを還元剤として酸化鉄がFeまで還元される。還元反応により発生するH2O、H2、CO、CO2、CH4等の気相生成物は、窒素ガスとともにガス排出口16から系外へと排出される。
【0028】
次に、還元反応器10で還元されたFeは、炭素および未反応のバイオマスとともに固相として第1の酸化反応器20に導入される。第1の酸化反応器20内では、水蒸気導入口24から導入された水蒸気と接触して、水素が発生する。第1の酸化反応器20内は600℃以下の酸化反応温度に保持されているので、固相中に共存する炭素および未反応のバイオマスからCOやCO2が発生することはない。これにより得られた高純度の水素ガスは、水素排出口26から系外へと排出される。
【0029】
また、第1の酸化反応器20でFeの酸化により生成したFe34は、残存する炭素およびバイオマスとともに固相として循環口28から排出され、酸化鉄循環ライン40を介して混合物投入口12から還元反応器10内に投入される。そして、新たに投入されるバイオマスと混合され、還元反応によりFe34は再びFeに還元される。固相中にFe34と共存する炭素は、還元反応器10内で還元剤として機能する。
【0030】
なお、用いるバイオマスの種類によっては、バイオマスそのものに由来する固体(例えば、SiO2、CaO、MgO、Na2O、K2O、Al23など)が蓄積する可能性がある。このような固体が鉄および酸化鉄の循環利用により蓄積した場合は、鉄および酸化鉄の循環利用を中止して、フレッシュな酸化鉄粒子と交換する。
【0031】
このように、還元反応器10内に投入した酸化鉄粒子は、Fe粒子を経て再び酸化鉄粒子となることから、鉄材料を繰り返し再利用することができる。時間当たり100kgのFeを循環させた場合(Fe23では143kg、Fe34では138kg)、時間当たり4.8kg(54Nm3)の水素が発生する。この水素を燃料電池に供給すると電気出力は77kWhとなる。
【0032】
以上のように、本実施の形態によれば、鉄および酸化鉄を循環利用できるので、原料として安価で豊富なバイオマス、水、空気を用いるだけで、COやCO2の副生物を含まない高純度の水素を連続的に製造することができる。また、本実施の形態は、多量の電気エネルギーを必要とせず、環境にやさしいプロセスである。
【0033】
なお、上記の説明では、還元反応器10に常に不活性ガスを流したが、特に不活性ガスを常に流さなくても、還元反応器10内が還元雰囲気に保たれていれば、還元を行うことができる。この場合、還元反応器10で発生するガスが酸化反応器20に流入することを防ぐため、酸化反応器20内の水素圧が還元反応器10内で発生するガス圧よりも高くなるように制御することが好ましい。これにより、酸化反応器20で発生する水素の一部が還元反応器10に流入して、還元反応器10内で発生するガスを排出口16から流出させるので、酸化鉄のバイオマスによる還元を促進することができる。さらに、酸化反応器20から還元反応器10に流入した水素は、還元反応器10で発生するガスのパージ用だけでなく、酸化鉄の還元剤としても働くことになる。
【0034】
本発明の別の実施の形態について説明する。図2は、本発明に係る水素製造装置の別の実施の形態を示す模式図である。図1と同様の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。図2に示すように、本実施の形態の水素製造装置は、上記で説明した還元反応器10と第1の酸化反応器20に加えて、Fe34を空気と接触させてFe23と窒素ガスを得る第2の酸化反応器30が設けられている。第2の酸化反応器30も、固体原料が重力により下降するように、固体原料の進行方向に向かって傾斜して設けられている。
【0035】
第2の酸化反応器30には、第1の酸化反応器20で得られた固相を反応器内に供給するためのFe34供給口32が設けられている。また、第2の酸化反応器30には、反応器内に空気を導入するための空気導入口34が設けられている。供給した固相中のFe34をFe23まで酸化するための酸化反応温度としては、200℃以上が好ましく、200〜500℃がより好ましい。
【0036】
Fe34の酸化反応は発熱反応であるとともに、第2の酸化反応器30では、固相中の残存炭素や残存バイオマスがCO2に完全酸化し、この反応も発熱反応である。さらに、第1の酸化反応器20から供給される固相は200〜600℃と高温である。よって、第2の酸化反応器30では、特に加熱手段を設けて加熱することなく、所定の酸化反応温度は保持され、自発的にFe34の酸化反応は進行する(なお、必要により電熱ヒータ等の加熱手段を設置してもよい)。また、第2の酸化反応器30で発生した熱を有効に利用するため、本実施の形態では、第2の酸化反応器30で発生する熱を還元反応器10の加熱手段の熱源として利用できるように、還元反応器10と第2の酸化反応器30は構成されている。
【0037】
空気導入口34からは、空気中の酸素が全て消費されて、固相中のFe34がFe23に酸化され、残存炭素およびバイオマスがCO、CO2、H2Oに酸化されるような量の空気を導入することが好ましい。例えば、Fe344モルに対して空気5〜20モルを導入することが好ましい。
【0038】
第2の酸化反応器30には、空気中の酸素が除去されて窒素が高濃度で存在する気相と、Fe23および残存する炭素と未反応のバイオマスを含む固相とを排出するための循環口36が設けられている。この循環口36には、得られる気相を不活性ガスとして還元反応器10のガス流入口14に供給する窒素ガス供給ライン42と、得られる固相を還元反応器10の混合物投入口12に供給するFe23移送ライン44とが分岐して設けられている。
【0039】
なお、第2の酸化反応器30で得られる気相中には、窒素の他にCO、CO2、H2O、O2が含まれる場合がある。この場合、窒素ガス供給ライン42に、PSA(pressure swing adsorption)法等を用いたガス精製装置(図示省略)を設置して、この気相を精製して得た高純度の窒素ガスを還元反応器10へ供給する。
【0040】
以上の構成によれば、先ず、バイオマスと酸化鉄粒子および共存炭素の混合物が、混合物投入口12から還元反応器10内へと投入され、窒素ガス流通下で還元反応温度に加熱される。これによりバイオマスを還元剤として酸化鉄がFeまで還元される。次に、還元反応器10で得られたFeと炭素および未反応のバイオマスを含む固相が、第1の酸化反応器20に導入され、600℃以下の酸化反応温度で、水蒸気導入口24から導入された水蒸気と接触する。これによりCOやCO2を副生することなく、水素が発生する。この高純度の水素ガスは水素排出口26から系外へと排出される。
【0041】
さらに、第1の酸化反応器20でFeの酸化により生成したFe34は、炭素および未反応のバイオマスとともに固相として第2の酸化反応器30に導入される。第2の酸化反応器30内では、空気導入口34から導入された空気中の酸素と反応して、Fe23まで酸化される。この際、空気中の酸素が消費されることから相対的に窒素濃度が上昇し、高濃度の窒素ガスが得られる。また、残存炭素とバイオマスが酸化されれば、酸素の消費は加速される。
【0042】
窒素ガスは、ガス精製装置を有する窒素ガス供給ライン42を介してガス流入口14から還元反応器10内へと供給される。Fe23は、残存する炭素およびバイオマスとともに、Fe23移送ライン44を介して混合物投入口12から還元反応器10内へと投入される。そして、新たに投入されるバイオマスと混合され、還元反応によりFe23は再びFeに還元される。Fe23に共存する炭素は、還元反応器10内で還元剤として機能する。
【0043】
このように、還元反応器10内に投入した酸化鉄粒子は、Fe粒子を経て再び酸化鉄粒子となることから、鉄材料を繰り返し再利用することができる。循環使用するFeの重量当たりの水素発生量は、図1の実施の形態と同じである。また、本実施の形態によれば、不活性ガスとして使用する窒素ガスを、空気から製造することができる。第2の酸化反応器30において、時間当たりFe34粒子を138kg処理する場合、空気からの脱酸素量は3.34Nm3となる。よって、窒素ガスの製造量は13.4Nm3/hとなり、発熱量は71,520kJ/hとなる。
【0044】
なお、図1および図2は、原料を連続的に供給し、反応を連続的に行う場合の実施の形態であるが、本発明はこのような連続方式のプロセスに限定されず、例えば、反応器内で反応を完了した後に、得られた固相を次の反応器に供給するバッチ方式のプロセスにしてもよい。
【実施例】
【0045】
(試験例1)
パルプ不織布工場における製造過程で発生したパルプ端材(ハビックス社)0.45gと、Ni−Cr−Fe23粒子(粒子径:0.01μm〜100μm。Ni及びCrの各配合量:5mol%及び5mol%)0.45g(粒子中のFe23のみの重量は、0.41g)とを乳鉢にて混合した。そして、常圧固定床流通式反応装置を用いて、上記の混合物の試料から水素を生成する試験を行った。試料を5℃/分の昇温速度で700℃まで加熱し、この温度で1時間保持してFe23をFeに還元する反応を行った。そして、この還元反応で生成した気相生成物の成分およびその生成量を測定した。なお、気相生成物は、常時、Arガスとともに反応装置外に排出した。
【0046】
次に、Arガスをキャリアガスとして反応装置内に水蒸気を供給し、反応装置内に残った固相生成物に水蒸気を接触させて、FeをFe34に酸化する反応を行った。そして、この酸化反応で生成した気相生成物の成分およびその生成量を測定した。なお、反応装置内は温度を350℃に保持して、酸化反応を1時間行った。以上の還元反応および酸化反応の測定結果を図3に示す。
【0047】
図3に示すように、時間の経過とともに温度が上昇すると、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンが発生し、Fe23の還元反応が始まった。試験開始から約200分後に還元反応を終え、次に、水蒸気を供給すると、Feの酸化反応により多量の水素が発生した。この60分間の酸化反応における水素の生成量は3000μmolであった。また、酸化反応では、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンは検出されなかった。
【0048】
(試験例2〜6)
酸化鉄の使用量を0.45gに代えて、5g、1.35g、0.3g、0.15gにした点を除いて試験例1と同様の手順で水素を生成する実験を行った。なお、酸化鉄の使用量が5gと1.35gの場合は、還元反応の反応温度を650℃とした。また、比較のため、酸化鉄を全く加えない試料についても同様の手順で試験を行った。以上の結果を表1に示す。なお、表1には、試験例1の結果も併記した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すように、酸化鉄の使用量が0.3gの試験例4では、酸化反応での水素の生成量は2784μmolであった。酸化鉄(Fe23)が100%Feに還元されたと仮定したときの水素生成量(以下、理論生成量という。なお、NiO、Cr23の添加量を考慮している)に対するこの水素生成量の割合(以下、水素生成収率)は、61.71%であり、酸化鉄を0.45g使用した試験例1よりも、水素生成収率は高かった。一方、酸化鉄を全く加えなかった試験例6では、700℃での反応でパルプ端材が分解して、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンが発生したが、その後の固相生成物に水蒸気を接触させても、水素は発生しなかった。
【0051】
(試験例7〜10)
酸化反応を終えた固相生成物をそのまま加熱して、再度、還元反応を行った後、水蒸気を加えて酸化反応を行った点と、最初の還元反応を650℃とし、2回目以降の還元反応を700℃にした点を除いて試験例1と同様の手順で水素を生成する実験を行った。その結果を表2に示す。なお、パルプ端材に代えて米ぬかを用いて還元反応および酸化反応を2回繰り返す試験も行った。米ぬかの場合、最初の還元反応を700℃とした。この結果も表2に併記した。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、いずれの試験例においても、2回目の酸化反応で水素が発生した。また、パルプ端材に代えて米ぬかを用いた試験例10でも、パルプ端材と同等の収率で水素が発生した。しかしながら、3回目の酸化反応では水素の発生量が顕著に少なかったことから(試験例9)、2回目の酸化反応を終えた固相中には酸化鉄を還元できる炭素または未反応のバイオマスがほとんど残っておらず、主に酸化鉄のみとなっていたと思われる。
【0054】
(試験例11、12)
Ni−Cr−Fe23粒子に代えてCu−Cr−Fe23粒子またはFe23粒子を用いた点を除いて試験例1と同様の手順で水素を生成する実験を行った。その結果を表3に示す。なお、Cu−Cr−Fe23粒子を用いた場合は酸化鉄の使用量を0.3gにした。
【0055】
【表3】

【0056】
表3に示すように、鉄以外の金属を添加しなかった試験例12は、収率が低かったものの、酸化反応により多量の水素が発生した。CuとCrを添加した試験例11は、無添加の試験例12と比べて水素生成収率が向上した。なお、表1のNiとCrを添加した試験例4は、CuとCrを添加した試験例11よりもさらに水素生成収率が高かった。
【0057】
(試験例13、14)
バイオマスと酸化鉄の混合方法を、乳鉢による混合方法に代えて積層またはサンドイッチ積層による混合方法にした点を除いて試験例1と同様の手順で水素を生成する実験を行った。その結果を表3に示す。表3に示すように、積層またはサンドイッチ積層にした試験例13、14は、収率が低かったものの、酸化反応により多量の水素が発生した。
【0058】
(試験例15、16)
還元反応における700℃の反応温度を500℃または400℃にした点を除いて試験例1と同様の手順で水素を生成する実験を行った。その結果を表3に示す。表3に示すように、500℃の反応温度の試験例15は、収率が低いものの、酸化反応によりある程度の量の水素が発生した。また、400℃の反応温度の試験例16は、酸化反応により水素が発生したが、その量は微量であった。
【0059】
(試験例17)
還元反応および酸化反応における反応温度をそれぞれ500℃にした点を除いて試験例4と同様の手順で水素を生成する実験を行った。その結果を表3に示す。表3に示すように、還元反応を500℃で行った場合であっても、酸化反応を500℃で行った試験例17は、酸化反応を350℃で行った試験例15に比べて、水素の収率が大幅に向上した。
【0060】
(試験例18、19)
酸化反応における反応時間を60分から250分または158分にした点を除いて試験例4と同様の手順で水素を生成する実験を行った。その結果を表3に示す。表3に示すように、反応時間が60分を超えても水素の生成が続いたことから、水素生成量は増加した。但し、水素発生速度は、酸化反応の開始とともに飛躍的に増加していき、酸化反応の開始から約30分経過したあたりでピークに達し、その後は徐々に減少し、酸化反応の開始から60分経過した後では、非常に低いものであった。
【0061】
(試験例20〜22)
酸化反応における反応温度を350℃から450℃、500℃、600℃にした点を除いて試験例4と同様の手順で水素を生成する実験を行った。その結果を表3に示す。表3に示すように、酸化反応における反応温度を600℃まで上げても、CO、CO2、CH4は発生しなかった。また、酸化反応における反応温度が高い方が、水素生成量が増加した。
【0062】
(試験例23〜25)
次に、試験例1の酸化反応後の反応装置内に残った固相生成物に、空気中の酸素を接触させて、Fe34をFe23に更に酸化する反応を行うため、反応装置内に空気を供給した。そして、この更なる酸化反応により生成した固相生成物の色を観察した。なお、反応装置内は温度を200℃、350℃または500℃に保持して、酸化反応を1時間行った。なお、昇温速度は5℃/分とした。
【0063】
(試験例26、27)
試験例9、試験例12の酸化反応後の反応装置内に残った固相生成物について、試験例25と同様の条件で空気による酸化反応を行った(試験例26、27)。以上の試験例23〜27の結果を表4に示す。
【0064】
(試験例28〜32)
比較のため、酸化鉄を全く加えなかった試験例6の酸化反応後の反応装置内に残った固相生成物について、試験例25と同様の条件で空気による酸化反応を行った(試験例28)。また、参考のため、試薬のFe34粒子0.30gを100℃、200℃、300℃、350℃の各温度で1時間にわたり加熱し、その固相生成物についても色の観察を行った(試験例29〜32)。これらの結果も表4に併記した。
【0065】
【表4】

【0066】
表4に示すように、反応温度を200℃とした試験例23では、固相生成物の色は黒色のままであった。しかし、試験例29〜32に示すように、Fe34のFe23への酸化は温度200℃で始まっていることから、試験例23では、酸化は起こっているものの、固相中に残留する炭素により黒色を呈したものと推測する。反応温度を350℃とした試験例24では、固相生成物の色に若干赤みがかかりFe34の多くがFe23に酸化した。さらに反応温度を500℃とした試験例25〜27では、固相生成物は赤色を呈し、Fe34のほとんどがFe23に酸化した。一方、酸化鉄を全く加えなかった試験例28は、バイオマスの灰分であることから、固相生成物は白色を呈した。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る水素製造装置の一実施の形態を示す模式図である。
【図2】本発明に係る水素製造装置の別の実施の形態を示す模式図である。
【図3】パルプ端材とFe23の混合物を還元および酸化した試験例1における気相生成物の生成量を示すグラフである。
【符号の説明】
【0068】
10 還元反応器
12 混合物投入口
14 ガス流入口
16 ガス排出口
20 第1の酸化反応器
22 Fe供給口
24 水蒸気導入口
26 水素排出口
28 循環口
30 第2の酸化反応器
32 Fe34供給口
34 空気導入口
36 循環口
40 酸化鉄循環ライン
42 窒素ガス供給ライン
44 Fe23移送ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスと酸化鉄から水素を製造する方法であって、
酸化鉄粒子とバイオマスとの混合物を加熱して、酸化鉄を還元する還元工程と、
前記還元工程で得られる金属鉄および炭素を含む固相を600℃以下の温度で水蒸気と接触させて、水素ガスを発生させる第1の酸化工程と
を含み、前記第1の酸化工程で得られる酸化鉄を含む固相を前記還元工程に供給して鉄および酸化鉄の循環を行う水素製造方法。
【請求項2】
前記第1の酸化工程で得られる酸化鉄を含む固相を200℃以上の温度で空気と接触させる第2の酸化工程を更に含み、前記第1の酸化工程で得られる固相の酸化鉄をこの第2の酸化工程で更に酸化した後に前記還元工程に供給することで、前記鉄および酸化鉄の循環を行う請求項1に記載の水素製造方法。
【請求項3】
不活性ガスの流通下で前記還元工程を行うとともに、前記第2の酸化工程で得られる気相を、前記還元工程に前記不活性ガスとして供給する請求項2に記載の水素製造方法。
【請求項4】
前記第2の酸化工程で発生する熱で、前記還元工程における加熱を行う請求項2又は3に記載の水素製造方法。
【請求項5】
バイオマスと酸化鉄粒子の混合物が供給され、前記混合物を加熱して酸化鉄を還元する還元反応器と、この還元反応器で得られる金属鉄および炭素を含む固相を600℃以下の温度で水蒸気と接触させて水素ガスを発生させる第1の酸化反応器と、この第1の酸化反応器で得られる酸化鉄を含む固相を前記還元反応器に供給する鉄および酸化鉄循環手段とを備えた水素製造装置。
【請求項6】
前記鉄および酸化鉄循環手段が、前記第1の酸化反応器で得られる酸化鉄を含む固相に200℃以上の温度で空気を接触させて、固相中の酸化鉄を更に酸化する第2の酸化反応器と、この第2の酸化反応器で得られる更に酸化した酸化鉄を含む固相を前記還元反応器に供給する鉄および酸化鉄移送手段とを備えるものである請求項5に記載の水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−137864(P2008−137864A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326948(P2006−326948)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(594050762)ハビックス株式会社 (6)
【出願人】(598102351)
【Fターム(参考)】