説明

バイオマスの処理方法

【課題】単糖の収率を大幅に向上させることができるバイオマスの処理方法を提供すること。
【解決手段】バイオマスに含まれるヘミセルロースを加水分解してオリゴ糖を含む液A1を得る第1オリゴ糖化工程110と、液A1中のアルカリを除去する第1アルカリ除去工程130と、第1アルカリ除去工程130でアルカリを除去した液A3中のオリゴ糖を単糖に変換する第1単糖化工程150と、第1オリゴ糖化工程110で生成する残渣B1を更に加水分解してオリゴ糖を含む液A2を得る第2オリゴ糖化工程120と、液A2中のアルカリを除去する第2アルカリ除去工程140と、第2アルカリ除去工程140でアルカリを除去した液A4中のオリゴ糖を単糖に変換する第2単糖化工程160と、を有することを特徴とするバイオマスの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオマスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスからエタノールを製造するために、先ずバイオマスを加水分解(糖化)し、グルコースやキシロースなどの単糖にすることが必要である。その後、発酵酵素により、単糖はエタノールに転換される。前者のバイオマスの糖化技術としては、液体酸(例えば硫酸)を用いる方法、酵素を用いる方法、また固体酸触媒を用いた糖化研究も始まっている。加えて、触媒や酵素を用いずに水の存在下、触媒や酵素を用いる場合より高温高圧で処理する方法が知られている。
【0003】
その中で、硫酸を用いる方法は実用化に近いレベルである。例えば、特許文献1ではヘミセルロース液を硫酸等の鉱酸を用いて加水分解し、このヘミセルロース加水分解液をH型強酸性陽イオン交換樹脂に通液し、この通液して得た流出液を遊離塩基形弱塩基性陰イオン交換樹脂に通液し、この弱塩基性陰イオン交換樹脂に極低濃度のアルカリ水溶液を通液し、ヘミセルロース加水分解液に含まれる酸性糖を分離する方法が記載されている。しかしながら、このような硫酸等による加水分解では廃酸の処理が必要になることや耐酸性の容器を使う必要があるなどの欠点がある。
また、酵素を用いる方法として、例えば特許文献2には、セルロース系バイオマスを酸で処理し、その後、塩基を加えて中性にpH調整し、セルラーゼ酵素により加水分解し、粗糖製品を作る方法が開示されている。さらに、粗糖製品から残渣を除いた糖流を陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィーにて処理して、無機酸と酢酸塩と糖を分離し、糖製品を得て、この糖製品を酵素発酵する方法が開示されている。しかし、酵素は高い選択性を持つが、長い反応時間が必要という欠点があった。
【0004】
そこで、硫酸や酵素を用いない方法として、固体酸触媒を用いる場合は、反応温度や時間を低減でき、糖化の選択性が高く、液体酸触媒(例えば硫酸など)と比較し、廃酸処理が不要であるなどメリットが多い。例えば、特許文献3及び特許文献4にはスルホン酸基含有炭素質材料を用いてセルロースなどの多糖類を加水分解する方法が記載され、特許文献5にはスルホン化活性炭を用いてセルロースなどのポリグルコースを加水分解する方法が記載され、特許文献6には分子内に酸性官能基または塩基性官能基を有する固体触媒を用いてセルロースを加水分解する方法が記載され、特許文献7にはスルホン酸基含有メソポーラス有機シリカを用いてショ糖等の2糖類やスターチ、デンプン(アミロース、アミロペクチン、グリコーゲン等)、セルロース等の多糖類を加水分解する方法が記載されている。
また、高温・高圧化した水のみを用いる方法として、例えば特許文献8には、セルロース等の物質を亜臨界状態または超臨界状態の水と接触させて分解し、単糖類や二糖類を生成する方法が記載されている。そして、この反応系にリン酸ジルコニウム触媒を存在させ、分解生成物である単糖類、ヘキソースを脱水し、HMF(ヒドロキシメチルフルフラール)を選択的に生成する方法が記載されている。このように高温・高圧化した水のみを用いてセルロース等の多糖類を加水分解すれば、加水分解反応工程において環境負荷物質を出さないという利点がある。
そのため、固体酸触媒処理や無触媒処理は優れた糖化方法と言える。
【0005】
従来技術によるバイオマスの加水分解プロセスの例を図4及び図5を用いて説明する。
例えば、図4では、第1オリゴ糖化工程410で無触媒にてバイオマス1を低温(190℃程度)で加圧熱水処理し、主にヘミセルロースの加水分解によりCオリゴ糖を多く含む(C単糖も含む)処理溶液Z1を得て残渣Y1と分離する(以下、炭素をn個持つ単糖をC単糖と呼び、炭素をn個持つ単糖を単位ユニットに持つオリゴ糖をCオリゴ糖と呼ぶ場合が有る)。第1単糖化工程420にて、この処理溶液Z1に含まれるヘミセルロース由来のCオリゴ糖を更に加水分解して単糖2を得る。
一方、第1オリゴ糖化工程410で得られた残渣Y1(主にセルロースとリグニンからなる)を第2オリゴ糖化工程430にて高温(第1オリゴ糖化工程410の温度より高い温度。230℃程度)にて無触媒加圧熱水処理を行い、主にセルロースを加水分解して、セルロース由来のCオリゴ糖を多く含む処理溶液Z2を得る。この処理溶液Z2を第2単糖化工程440にて、セルロース由来のCオリゴ糖を加水分解して単糖を得る。一方第2オリゴ糖化工程430で反応しないリグニンを含む残渣Y2は分離され、燃料等として使用される。
また、図5に示すように、第1オリゴ糖化工程510では無触媒でバイオマス1を加圧熱水処理し、第2オリゴ糖化工程530では固体酸触媒を用いて残渣Y1を加圧熱水処理し、第1単糖化工程520及び第2単糖化工程540に固体酸触媒を用いるプロセスや、その他、加水分解処理に酵素を用いるプロセスも有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-246295号公報
【特許文献2】特表2008-506370号公報
【特許文献3】WO2008/001696号公報
【特許文献4】WO2009/004951号公報
【特許文献5】特開2009-201405号公報
【特許文献6】特開2006-129735号公報
【特許文献7】特開2006-88041号公報
【特許文献8】特開2007-196174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、稲藁、コムギ藁、草木類、木片チップ等のバイオマスについて従来の触媒や酵素を用い、図4や図5に示す前記プロセスによる加水分解及び単糖化を行っても、最終的に得られる単糖が非常に少なくなるケースが見られ、実用上満足できるレベルのものではなかった。
【0008】
本発明の目的は、単糖の収率を大幅に向上させることができるバイオマスの処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
我々はこの問題について鋭意検討した結果、固体のバイオマスを処理して得られた、オリゴ糖を多く含む液には、バイオマス由来のアルカリ分(カリウムなど)が多く含まれ、このアルカリ分が図4及び図5の第1単糖化工程420,520、第2単糖化工程440,540におけるオリゴ糖から単糖への加水分解反応を阻害する、という知見を得た。そして、オリゴ糖を単糖に変換する前に予めアルカリを除去することによって単糖の収率が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
なお、特許文献1に記載されたヘミセルロース加水分解液をH型強酸性陽イオン交換樹脂に通液し、ヘミセルロース加水分解液に含まれるNa、Ca等の無機陽イオンを吸着除去する工程は、オリゴ糖を加水分解するための前処理としてのアルカリ除去を意図したものではなく、あくまでもヘミセルロース液中またはヘミセルロース加水分解液中に含まれる酸性糖を効率的に分離するための工程である。また、特許文献2に記載された陽イオン交換樹脂を用いたイオン排除クロマトグラフィーでは、あくまで、後段の酵素発酵における阻害物質である酢酸等の有機酸を除去することを目的としており、オリゴ糖を加水分解するための前処理としてのアルカリ除去を意図したものではない。
【0010】
本発明のバイオマスの処理方法は、バイオマスを加水分解してオリゴ糖を含む液を得るオリゴ糖化工程と、前記オリゴ糖化工程で得たオリゴ糖を含む液中からアルカリを除去するアルカリ除去工程と、前記アルカリ除去工程でアルカリを除去した液中のオリゴ糖を単糖に変換する単糖化工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明では、前記バイオマスは、セルロース及びヘミセルロースの少なくともいずれかを含んでいることが好ましい。
【0012】
また、本発明では、前記セルロースは、前記バイオマスに含まれる前記ヘミセルロースを加水分解処理して得られた残渣バイオマスであることが好ましい。
【0013】
本発明では、前記セルロース及び前記ヘミセルロースを含む前記バイオマスにおいて、
前記ヘミセルロースを選択的に、前記オリゴ糖化工程、前記アルカリ除去工程、及び前記単糖化工程で処理することが好ましい。
【0014】
本発明のバイオマスの処理方法は、バイオマスに含まれるヘミセルロースを加水分解してオリゴ糖を含む液を得る第1オリゴ糖化工程と、前記第1オリゴ糖化工程で得たオリゴ糖を含む液中のアルカリを除去する第1アルカリ除去工程と、前記第1アルカリ除去工程でアルカリを除去した液中のオリゴ糖を単糖に変換する第1単糖化工程と、前記第1オリゴ糖化工程で生成する残渣を更に加水分解してオリゴ糖を含む液を得る第2オリゴ糖化工程と、前記第2オリゴ糖化工程で得たオリゴ糖を含む液中のアルカリを除去する第2アルカリ除去工程と、前記第2アルカリ除去工程でアルカリを除去した液中のオリゴ糖を単糖に変換する第2単糖化工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明では、前記アルカリの除去を、陽イオン交換樹脂を用いて行うことが好ましい。
【0016】
本発明では、前記アルカリの除去を、前記アルカリを除去する工程の前段に行われるオリゴ糖化工程における温度以下で行うことが好ましい。
【0017】
本発明は、前記除去対象のアルカリとして、少なくともカリウムを含むものに好ましく適用できる。
【0018】
本発明では、前記オリゴ糖を含む液中のアルカリの濃度は、前記アルカリ除去後に20質量ppm以下であることが好ましい。
【0019】
本発明では、前記オリゴ糖から前記単糖への変換を、固体酸触媒を用いて行うことが好ましい。
【0020】
本発明では、前記固体酸触媒は、スルホ基を有する触媒であることが好ましい。
【0021】
本発明では、前記スルホ基を有する固体酸触媒は、スルホン化活性炭であることが好ましい。
【0022】
本発明では、前記固体酸触媒は、スルホ基を有する陽イオン交換樹脂であることが好ましい。
【0023】
本発明では、前記固体酸触媒は、プロトン型ゼオライトであることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、バイオマスを加水分解して得られる液に含まれるオリゴ糖の加水分解を行う前に、バイオマス由来のアルカリを除去する工程を設けることで、単糖の収率を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係るバイオマスの処理方法を示すフロー図。
【図2】本発明の第2実施形態に係るバイオマスの処理方法を示すフロー図。
【図3】本発明の第3実施形態に係るバイオマスの処理方法を示すフロー図。
【図4】従来技術に係るバイオマスの処理方法を示すフロー図。
【図5】別の従来技術に係るバイオマスの処理方法を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係るバイオマスの処理方法をフロー図にして示したものである。なお、各工程で用いられる装置は、バッチ式、流通式等を使用することができる。
【0027】
<原料バイオマス>
まず、原料として使用されるバイオマス1について説明する。バイオマス原料は主に、ヘミセルロース、セルロースの他、リグニンからなるが、オリゴ糖や単糖が得られるのはヘミセルロースとセルロースからである。本実施形態に用いられるバイオマス1は、通常、ヘミセルロースとセルロースを含むが、少なくともどちらか一方を含むバイオマスであれば特に制限は無い。例えば、図1のバイオマス1→第2オリゴ糖化工程120→第2アルカリ除去工程140→第2単糖化工程160→単糖2の工程のみを持つプロセスで本発明を実施する場合、バイオマス1は、ヘミセルロースを含まない、もしくは殆ど含まない残渣B1でも使用できる。紙資源も元はバイオマス由来であり、本願で言うバイオマスに含む。好ましくは、硬木系バイオマスに比べ、リグニン含有量が少なく吸水しやすいため加水分解を進めやすい草本系バイオマス(ソフトバイオマス)である。もちろん、本願で言うバイオマスには、より糖化し易いでんぷん質を多く含んでいてもよく、例えば米つきの稲穂やキャッサバ粕等がこれに相当する。
さらに、蒸煮・爆砕処理、アルカリ処理、アンモニア爆砕処理、有機溶媒処理、イオン液体処理、酸処理等により、予め反応し易い状態としたバイオマスを使用することも出来る。
また、バイオマス1は、加水分解効率が良くなるよう粉砕してあるのが、より好ましい。粉砕された後のサイズは、基本的には使用するスラリーポンプで供給できるサイズ以下であれば特に制限は無い。
【0028】
<加圧熱水処理>
バイオマス1に対して加圧熱水処理を実施する(オリゴ糖化工程)。
前述したようにバイオマス1は、ヘミセルロースとセルロースを含んでいる。ヘミセルロースとセルロースは反応性が異なるため、それぞれに合致した条件で多段反応を行うことができる。
そのため、バイオマス1にヘミセルロース及びセルロースを含んでいる場合は、加圧熱水処理工程(オリゴ糖化工程)は、第1オリゴ糖化工程110と第2オリゴ糖化工程120との2段階の工程で行われる。
【0029】
<第1オリゴ糖化工程(ヘミセルロースの加水分解)>
バイオマス1に含まれるヘミセルロースをオリゴ糖に加水分解するには、まず、水または温水にバイオマス1を加えてスラリー濃度を10質量%以上に調整する。このスラリーを第1オリゴ糖化工程110に供給する。
反応温度は、180〜230℃が好ましく、触媒を使用する場合は、更に低い温度でも良い。この触媒が固体酸触媒の場合は100〜180℃、液体酸触媒の場合は更に低い温度でも良く、特に酸濃度が高い場合には、100℃以下の温度が好ましい(100℃以下の場合、厳密には加圧とは言えないが、便宜上加圧熱水処理に含める)。
反応温度が180℃未満(固体酸触媒使用の場合は100℃未満。液体酸触媒使用の場合は40℃未満)の場合は、バイオマス1中の加水分解反応が低活性となって、Cオリゴ糖を含む液A1中のオリゴ糖濃度が低くなり、結果、単糖2の生産効率が低下する恐れがある。反応温度が230℃超(固体酸触媒使用の場合は180℃超、液体酸触媒使用の場合は100℃超)の場合は、ヘミセルロースの加水分解がオリゴ糖を超えて有機酸系の過分解物まで進む恐れが有り、最終的に得られる単糖収率が低下する恐れがある。
圧力は、当該温度の飽和蒸気圧以上が良い。
加圧熱水処理時間は、触媒を用いない場合、あるいは液体酸触媒を用いる場合は60分以内、固体酸触媒を用いる場合は3時間以内で行うことが好ましい。
液体酸触媒を用いる場合に前記60分(固体酸触媒を用いる場合は3時間)を超えると、加水分解がオリゴ糖を超えて有機酸系の過分解物まで進む恐れがあったり、それ以上長く反応させても、得られるCオリゴ糖の時間当たり収率が低くなり、結果、単糖2の生産効率が低下する恐れが有る。
なお、触媒を用いる場合は、加水分解を促進する酸触媒であれば良く、例えば、硫酸、塩酸などの液体酸または、ゼオライト、アルミナ、シリカアルミナ、陽イオン交換樹脂、スルホン化メソポーラスシリカ、ヘテロポリ酸、タングステン酸ジルコニア、硫酸ジルコニア、リン酸ジルコニア、活性炭、スルホン化処理した活性炭、スルホン化処理したシリカ、スルホン化処理した炭素系触媒などの固体酸を用いることができる。
【0030】
第1オリゴ糖化工程110により得られた処理物を固液分離し、得られた溶液を処理溶液A1とし、得られた固形分を残渣B1とする。ここで、処理溶液A1には主にCオリゴ糖及び単糖が含まれている。残渣B1には未反応のセルロースとリグニンが含まれている。この残渣B1を第2オリゴ糖化工程120に送る。なお、残渣B1を第2オリゴ糖化工程120に送る前に水または温水で洗浄し、洗浄液の一部または全部を処理溶液A1に混ぜても良い。洗浄することで、残渣B1中に水溶液として含まれているCオリゴ糖を回収できる。
【0031】
<第2オリゴ糖化工程(セルロースの加水分解)>
第1オリゴ糖化工程110から送られてきた残渣B1は、第2オリゴ糖化工程120で加圧熱水処理を受けてオリゴ糖に加水分解される。
残渣B1に含まれるセルロースをオリゴ糖に加水分解するには、残渣B1に水または温水を加えてスラリー濃度を10質量%以上に調整する。
反応温度は、230〜300℃が好ましく、触媒を使用する場合は、更に低い温度でも良い。この触媒が固体酸触媒の場合は120〜230℃、液体酸触媒の場合は更に低い温度でも良く、特に酸濃度が高い場合には、120℃以下の温度が好ましい(100℃以下の場合、厳密には加圧とは言えないが便宜上加圧熱水処理に含める)。
圧力は、当該温度の飽和蒸気圧以上が選ばれる。
加圧熱水処理時間は、触媒を用いない場合、あるいは液体酸触媒を用いる場合は60分以内、固体酸触媒を用いる場合は3時間以内で行うことが好ましい。
なお、触媒を用いる場合は、加水分解を促進する酸触媒であれば良く、例えば、第1オリゴ糖化工程110の説明で例示した液体酸や固体酸と同様のものを用いることができる。
好ましい反応温度、反応圧力、反応時間の範囲を外れた場合のリスクは第1オリゴ糖化工程110に準ずる。
【0032】
第2オリゴ糖化工程120により得られた処理物を固液分離し、得られた溶液を処理溶液A2とし、得られた固形分を残渣B2とする。ここで、処理溶液A2には主にCオリゴ糖及び単糖が含まれている。残渣B2には未反応のリグニンが含まれている。このリグニンを含む残渣B2は、各種燃料として広く利用できる。なお、残渣B2を水または温水で洗浄し、洗浄液の一部または全部を処理溶液A2に混ぜても良い。洗浄することで、残渣B2中に水溶液として含まれているCオリゴ糖を回収できる。
【0033】
なお、オリゴ糖化工程(第1オリゴ糖化工程110及び第2オリゴ糖化工程120)としては、前記したような触媒を使用して処理する方法以外に、ヘミセルラーゼやセルラーゼなどの酵素を用いて、ヘミセルロースやセルロースを加水分解し、オリゴ糖を含む液を得る工程も採用することができる。酵素を用いた場合の反応条件は、酵素の種類により最適条件が異なる。当業者であれば、例えばラボスケールで、温度、時間を変えた種々の条件の下、酵素でバイオマスのオリゴ糖化実験を行えば概ね把握できる。通常は、0.5気圧〜1気圧下(いわゆる地上の常圧)、0℃〜60℃、好ましくは5℃〜40℃、反応時間は10〜48時間である。
【0034】
<アルカリ除去工程>
オリゴ糖化工程(第1オリゴ糖化工程110と第2オリゴ糖化工程120)にて得られた処理溶液A1及びA2には、オリゴ糖の他、バイオマス由来のアルカリが含まれる。バイオマス中のアルカリは、バイオマスが加水分解されることで液中に溶出する。
このアルカリは、前述の通りオリゴ糖から単糖への加水分解反応を阻害するので、除去する必要がある。
そのため、オリゴ糖化工程の後、この処理溶液A1及びA2は、アルカリを除去するためのアルカリ除去工程(第1アルカリ除去工程130と第2アルカリ除去工程140)へと供給される。なお、処理溶液A1及びA2に含まれるオリゴ糖は、精製されている必要はなく、そのままアルカリ除去工程へ供給してもよい。
【0035】
<第1アルカリ除去工程>
第1オリゴ糖化工程110でのヘミセルロースの加水分解により得られた、主にCオリゴ糖からなる処理溶液A1には、バイオマス由来のアルカリが含まれている。このアルカリは主にカリウム(K)であり、その他、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)等である。また、オリゴ糖化工程で得られる液に含まれるアルカリの総量、すなわち、オリゴ糖化工程で得られる液に含まれるアルカリ金属(Na、K等)やアルカリ土類金属(Ca、Mg等)の総量は、100質量ppm〜1質量%であること
が通常である。
【0036】
第1アルカリ除去工程130におけるアルカリを除去する方法としては特に制限は無いが、固体による吸着除去あるいはイオン交換除去することが好ましい。例えば、アルカリイオン交換サイトを持つ市販のゼオライトや市販の陽イオン交換樹脂、アルミナ、活性炭等を用いることができる。
除去の温度は、前段(第1オリゴ糖化工程110)の反応温度以下が好ましい。前段の反応温度以上の場合は更に加温するためのエネルギーが必要となるので、好ましくない。
除去の方式はバッチ式でも流通式でも良いが、効率の面では流通式が好ましい。
吸着除去後のアルカリ濃度は、低ければ低いほど好ましいが、数十質量ppm以下となれば良く、20質量ppm以下となればより好ましい。
第1アルカリ除去工程130でアルカリを除去して得られた溶液を処理溶液A3とする。
【0037】
なお、後述する単糖化工程に酸触媒を用いる場合も、用いない場合もこのアルカリ除去は、単糖収率を上げるうえで有効である。
ただし単糖化工程で、酸触媒として使い捨ての硫酸を用いる場合は、硫酸量を増やして硫酸の濃度を高くすることで、アルカリ除去は必ずしも必要とはならないが、アルカリを除去した方が硫酸量を減らすことができる。しかし、繰り返し使用することを前提とする固体酸触媒を用いる場合は、バイオマス由来のアルカリによる加水分解性能の低下が問題になる傾向が強い。また、固体酸触媒量を増やすことは得策ではないので、このアルカリ除去が非常に有効となる。
そして、触媒を用いない場合も、前記バイオマス由来のアルカリは単糖化工程の加水分解反応の阻害物質となるため、除去する必要がある。
一方、酵素による加水分解の場合は、必ずしもアルカリ除去は必要とはならないが、アルカリ塩が多すぎると酵素の阻害物質となる可能性があり、本方法にて除去した方が単糖化を効率的に進めることができる。
【0038】
<第2アルカリ除去工程>
第2オリゴ糖化工程120でのセルロースの加水分解により得られた、主にCオリゴ糖からなる処理溶液A2にも、バイオマス由来のアルカリが含まれている。
この処理溶液A2に含まれるアルカリは第2アルカリ除去工程140で除去することができる。第2アルカリ除去工程140では、第1アルカリ除去工程130でのアルカリ除去と基本的に同様の条件でアルカリを除去できる。
第2アルカリ除去工程140でアルカリを除去して得られた溶液を処理溶液A4とする。
【0039】
<単糖化工程>
次に、アルカリ除去工程(第1アルカリ除去工程130と第2アルカリ除去工程140)によって得られた処理溶液A3、及びA4に含まれるオリゴ糖を、単糖化工程(第1単糖化工程150と第2単糖化工程160)で単糖2へ加水分解する処理を行う。
【0040】
<第1単糖化工程>
第1単糖化工程150では、Cオリゴ糖を主に含む処理溶液A3に対して、固体酸触媒を用いて、温度は100〜170℃、圧力は当該温度の飽和蒸気圧以上、反応時間は30分〜3時間で加水分解を行い、単糖2を得る。触媒を用いない場合は、温度130〜180℃、圧力は当該温度の飽和蒸気圧以上、反応時間30分〜3時間で加水分解を行い、単糖2を得る。
触媒としては、固体酸触媒が好ましく、例えば、ゼオライト、アルミナ、シリカアルミナ、陽イオン交換樹脂、スルホン化メソポーラスシリカ、ヘテロポリ酸、タングステン酸ジルコニア、硫酸ジルコニア、リン酸ジルコニア、活性炭、NAFION、ニオブ酸などを用いることができる。また、活性炭、シリカなどの多孔質担体に対してスルホン化処理した触媒も用いることができる。これらの中でも、スルホン化活性炭や陽イオン交換樹脂等のスルホ基を有する触媒やプロトン型ゼオライトを用いることが単糖化活性の点で好ましい。
触媒として硫酸等の液体酸を用いる場合は、更に低い温度(100℃以下)で、反応時間も1分〜3時間程度が良い。
触媒(固体酸触媒または液体酸触媒)を用いる場合も、触媒を用いない場合も、単糖化する際の温度が低かったり、反応時間が短かったりすると、オリゴ糖から単糖への反応が進まない。逆に、温度が高かったり、反応時間が長かったりすると過分解が起こり、単糖の収率が下がる。
【0041】
<第2単糖化工程>
第2単糖化工程160では、Cオリゴ糖を主に含む処理溶液A4に対して、第1単糖化工程150での単糖化と基本的に同様の条件で単糖2を得ることができる。
【0042】
<スルホン化活性炭の調製方法>
次に、単糖化工程で用いられる固体酸触媒のスルホン化活性炭の調製方法を説明する。
スルホン化活性炭は、活性炭をスルホン化することにより得られるものである。以下にスルホン化活性炭を調製する方法を説明する。
活性炭の原料としては特に限定されないが、反応性が高いという点からBET比表面積が200m/g以上であることが好ましい。例えば、市販のものを利用することができ、椰子殻、石油ピッチ、石炭、フェノール樹脂などの炭素材料を炭化、賦活することで製造してもよい。
【0043】
このような活性炭を濃硫酸または発煙硫酸中でよく分散させ、加熱攪拌することにより、スルホン化活性炭を生成する。加熱温度は100℃以上250℃以下、反応時間は30分以上24時間以下で行う。なお、濃硫酸または発煙硫酸は、活性炭1gに対して10ml以上30ml以下の量を用いる。
ここで、濃硫酸の濃度は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。濃硫酸の濃度が90質量%未満であると、活性炭のスルホン化が不十分となるおそれがある。また、発煙硫酸を用いる場合、その濃度は特に限定されないが、例えば、三酸化硫黄の含有率が30%以上60%以下であるものを用いることができる。
【0044】
得られたスルホン化活性炭中におけるスルホ基の量は、活性炭1gに対して、0.1mmol/g以上であることが好ましい。スルホ基の量が0.1mmol/g未満であると、活性が不十分となり、単糖の収率が低下するおそれがある。
【0045】
次に、スルホン化活性炭は、水または湯を用いて洗浄濾過される。
スルホン化活性炭は、表面にゆるく結合したスルホ基が反応時に脱離する可能性があるため、予め水熱処理により除去を行う。例えば、スルホン化活性炭を温度100℃以上250℃以下の温度の水に加え、圧力0.1MPa以上5MPa以下の水熱条件下で処理する。処理時間は30分以上5時間以下である。水熱処理終了後、濾過及び乾燥させる。
【0046】
このような処理を施したスルホン化活性炭を処理溶液A3や処理溶液A4に加えると、硫酸イオンの溶出が抑えられ、過分解を抑制することができる。
なお、スルホン化活性炭(固体酸触媒)の添加量は、オリゴ糖1gに対して0.01g以上5g以下の範囲内が好ましい。触媒の添加量が0.01g未満であると、単糖化が不十分となるおそれがある。また、触媒の添加量が5gを超えても糖収率の向上は得られない。
なお、単糖化工程で使用されたスルホン化活性炭(固体酸触媒)は、処理終了後の処理液を固液分離することで回収され、次の単糖化処理に再利用されてもよいし、燃料として再利用されてもよい。
【0047】
<第1実施形態の作用効果>
以上より、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、オリゴ糖化工程(第1オリゴ糖化工程110及び第2オリゴ糖化工程120)の後であって、単糖化工程(第1単糖化工程150と第2単糖化工程160)の前に、当該オリゴ糖化工程で得た処理溶液A1及びA2に含まれるアルカリをアルカリ除去工程(第1アルカリ除去工程130と第2アルカリ除去工程140)にて除去したので、当該単糖化工程におけるオリゴ糖の加水分解反応がより効率的に進行し、単糖2を高い収率で得ることができる。
【0048】
(2)また、本実施形態では、第1オリゴ糖化工程110で生成した残渣B1に対して第2オリゴ糖化工程120で加圧熱水処理を行っている。これによれば、第1オリゴ糖化工程110で加水分解されなかったセルロースをオリゴ糖にまで加水分解することができる。そして、加水分解された処理溶液A2に対して第2アルカリ除去工程140でアルカリ除去処理を行い、第2単糖化工程160で単糖化処理(オリゴ糖の加水分解処理)を行うので、単糖2をより高い収率で得ることができる。
【0049】
(3)そして、本実施形態では、単糖化工程(第1単糖化工程150と第2単糖化工程160)の固体酸触媒としてスルホン化した活性炭を用いた。スルホン化活性炭を用いると、単糖の選択性が高く、過分解物が生成しにくいため、単糖2をさらに高い収率で得ることができる。
【0050】
〔第2実施形態〕
図2は、本発明の第2実施形態に係るバイオマスの処理方法をフロー図にして示したものである。なお、第2実施形態の説明において第1実施形態と同一の構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
前述のように、第1アルカリ除去工程130で得た処理溶液A3に主に含まれるCオリゴ糖、及び第2アルカリ除去工程140で得た処理溶液A4に主に含まれるCオリゴ糖は、同様の条件で加水分解され得る。
そのため、第2実施形態では、処理溶液A3、及びA4を一つにまとめた後に、オリゴ糖の単糖化処理を単糖化工程210で行う以外は、第1実施形態と同様にしてバイオマスを処理する。
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏する他、オリゴ糖の加水分解処理を単糖化工程210の一つにまとめて行うことができるので、処理工程や設備の簡素化を図ることができる。
【0051】
〔第3実施形態〕
図3は、本発明の第3実施形態に係るバイオマスの処理方法をフロー図にして示したものである。なお、第3実施形態の説明において第1実施形態と同一の構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
前述のように、第1オリゴ糖化工程110で得た処理溶液A1、及び第2オリゴ糖化工程120で得た処理溶液A2に含まれるアルカリは、同様の条件で除去され得る。
そのため、第3実施形態では、第1オリゴ糖化工程110及び第2オリゴ糖化工程120にて得られた処理溶液A1、及びA2を一つにまとめた後に、アルカリ除去処理をアルカリ除去工程310で行い、アルカリが除去された主にCオリゴ糖及びCオリゴ糖を含む処理溶液A5を単糖化工程320へと供給してオリゴ糖の単糖化処理を行う。その他は第1実施形態と同様にしてバイオマスを処理する。
第3実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏する他、アルカリ除去処理をアルカリ除去工程310の一つにまとめ、さらにオリゴ糖の加水分解処理を単糖化工程320の一つにまとめて行うことができるので、処理工程や設備のさらなる簡素化を図ることができる。
【0052】
〔変形例〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上記実施形態では、単糖化工程において固体酸触媒としてスルホン化活性炭を用いたが、これに限られない。ゼオライト、アルミナ、シリカアルミナ、活性炭、陽イオン交換樹脂、スルホン化メソポーラスシリカ、スルホン化炭素材料、硫酸ジルコニア、タングステン酸ジルコニア、リン酸ジルコニア、NAFION、ニオブ酸等を用いて触媒単糖化処理及び触媒処理を行ってもよい。
また、バイオマスがヘミセルロース及びセルロースを含んでいる場合、第1オリゴ糖化工程110の後、処理物を固液分離せずに、そのまま、第1アルカリ除去工程130→第1単糖化工程150→単糖2の工程を有するプロセスでヘミセルロースを選択的に処理することもできる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
【0054】
<稲藁の無触媒加圧熱水処理>
5mm以下に裁断した稲藁15gとイオン交換水85gをオートクレーブに入れ、185℃、1.1MPaで、10分間、加圧熱水処理を行った。その後、残渣を分離して主にCオリゴ糖を含む処理液を得た。同じ操作を5回行い、得られた5回分の液を混合した。この混合液を混合オリゴ糖液a1とする。
【0055】
得られた混合オリゴ糖液a1をICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置にて分析したところ、混合オリゴ糖液a1中にアルカリ成分としてのカリウム(K)が0.21質量%含まれていた。
【0056】
また、この混合オリゴ糖液a1のオリゴ糖と単糖の割合を高速液体クロマトグラフィーにて分析した。
<分析用サンプルの調製>
測定サンプル液0.5mlをNaOH水溶液にて中和し、前処理カラムAgilent SampliQ SCX Polymer(アジレント・テクノロジー(株)製)3ml用にて処理後、溶出液と当該前処理カラムSCXの洗浄液(水、0.5ml)を混合し、再度NaOH水溶液にて中和した。さらに、中和後の溶液0.5mlをAgilent SampliQ SAX Polymer(アジレント・テクノロジー(株)製)3ml用にて処理することで、糖以外のイオン性成分を除去した。この溶出液及び当該前処理カラムSAXの洗浄液(水、0.5ml)を再度混合し、0.45μmフィルターにて濾過し、分析用サンプルとした。
【0057】
<高速液体クロマトグラフィー測定条件>
このサンプルを高速液体クロマトグラフィーにて分析した。測定装置および分析条件を次に示す。
・測定装置
検出器 :830−RI(日本分光(株)製)
ポンプ :880−PC(日本分光(株)製)
カラムオーブン:NFL700M(西尾工業(株)製)
・分析条件
カラム :Shodex SP−G+SP0810(昭和電工(株)製)
溶離液 :蒸留水
流速 :0.6mL/min
カラム温度 :80℃
【0058】
<オリゴ糖と単糖の割合の計算>
オリゴ糖と単糖の割合は次の計算式によって算出した。分析結果を表1に示す。
オリゴ糖(質量%)= A÷(A+B)×100
単糖(質量%) = B÷(A+B)×100
A:液体クロマトグラフィーで得られたチャートのオリゴ糖部分の面積値合計
B:液体クロマトグラフィーで得られたチャートの単糖部分の面積値合計
【0059】
【表1】

【0060】
<スルホン化活性炭触媒の調製>
市販の活性炭粉末(和光純薬工業(株)製)8.0gを95%濃硫酸(80mL)に加え、反応混合液を得た。当該反応混合液を125mL容のガラス製洗浄瓶に入れ、80mL/分の流量で窒素ガスを流しつつ、常温から150℃まで30分かけて昇温した。昇温後、当該反応混合液を攪拌しつつ、150℃で4時間反応させた。反応混合液を常温まで放冷した後、スルホン化された活性炭を濾別した。得られた活性炭を常温の水(2L)と80℃の蒸留水(6L)で洗浄した。洗浄後の活性炭(2g)を水(100mL)に加え、オートクレーブ中、200℃、1.6MPaで3時間水熱処理した。得られたスルホン化活性炭を常温の水(1L)で水洗濾過した後、濾別し、乾燥機により100℃で12時間乾燥した。
【0061】
〔比較例1〕
上記混合オリゴ糖液a1を50g、オートクレーブに入れ、触媒を用いずに150℃、0.47MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a2とする。反応液a2中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を前記表1に示した。
【0062】
〔比較例2〕
上記混合オリゴ糖液a1を50g、及び先に示したスルホン化活性炭触媒0.5gをオートクレーブに入れ、150℃、0.47MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a3とする。反応液a3中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表1に示した。
【0063】
<稲藁加圧熱水処理液からのアルカリ除去処理>
陽イオン交換樹脂であるアンバーリスト35WET(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を乾燥機中120℃で5時間乾燥した。乾燥後のアンバーリスト35WETを20gと上記混合オリゴ糖液a1を200g、ビーカーに入れ、室温(約25℃)で5時間攪拌した。攪拌後、その液部分を回収した。この液をアルカリ除去処理液a4とする。
アルカリ除去処理液a4中のカリウムをICPにて分析したところ、20質量ppm以下であった。また、回収したアンバーリスト35WETをICP発光分析装置にて分析したところ、陽イオン交換樹脂中に2.1質量%のカリウムを含むことが分かった。(アンバーリストは登録商標。)
【0064】
〔実施例1〕
脱アルカリした主にCオリゴ糖を含むアルカリ除去処理液a4を50g、オートクレーブに入れ、触媒を用いずに150℃、0.47MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a5とする。反応液a5中のオリゴ糖、及び単糖を前記と同様の方法で分析した。結果を表1に示した。
【0065】
〔実施例2〕
実施例1におけるオリゴ糖の加水分解に、先に示したスルホン化活性炭触媒0.5gを用いた以外は、実施例1と同じ方法で実験を行った。このとき得られた液を反応液a6とする。反応液a6中のオリゴ糖、及び単糖を前記と同様の方法で分析した。結果を表1に示した。
【0066】
表1が示すように、アルカリ除去せずに混合オリゴ糖液a1に対して単糖化処理を行った場合、単糖化工程における触媒の有無に関わらず、糖全体(オリゴ糖及び単糖)の中の単糖が占める割合は36.4質量%(反応液a2)、30.9質量%(反応液a3)であり、単糖の収率が非常に低い。
一方、アルカリ除去を行ったアルカリ除去処理液a4に対して単糖化処理を行った場合、単糖化工程において触媒を用いなかった場合は単糖の割合が80.4質量%(反応液a5)、触媒を用いた場合は更に83.5質量%(反応液a6)であり、単糖の収率が高い。
このようにバイオマスである稲藁の加圧熱水処理液中に含まれるオリゴ糖を単糖化する前に当該処理液に含まれるアルカリ成分を予め除去しておくことによって、単糖の収率が大幅に向上することがわかった。一方、アルカリ成分を除去しないと、単糖化工程でスルホン化活性炭を用いたとしても単糖の収率は向上しないことが分かった。
【0067】
なお、過分解物である酢酸、フルフラール、及び5−ヒドロキシメチルフルフラールの濃度をガスクロマトグラフィーを用いて測定した。その結果、全ての液(a1〜a6)において当該過分解物濃度の合計が0.5wt%以下であり、無視できる程度であった。
<過分解物測定装置>
過分解物測定装置として、以下の仕様のガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製GC−14A型:FID検出器付)を用いた。
・キャピラリーカラム:30m×0.536mm
・分析条件:
・Injection Temp :250℃
・Detector Temp :300℃
・Column Initial Temp :50℃
・Initial Time :0min
・Programming Rate :10℃/min
・Final Temp :250℃
・Final Hold Time :20min
・測定成分:酢酸、フルフラール、5−ヒドロキシメチルフルフラール
・濃度測定法:1−プロパノールを内標とした内部標準法
【0068】
次に、上記混合オリゴ糖液a1の製造と全く同じ方法にて、「稲藁の無触媒加圧熱水処理」を行い、混合オリゴ糖液a7を得た。すなわち、混合オリゴ糖液a1と混合オリゴ糖液a7とは、同じものである。
また、上記アルカリ除去処理液a4の製造と全く方法にて、「稲藁加圧熱水処理液からのアルカリ除去処理」を行い、アルカリ除去処理液a8を得た。すなわち、アルカリ除去処理液a4とアルカリ除去処理液a8とは、同じものである。
【0069】
〔比較例3〕
上記混合オリゴ糖液a7を20g、小型オートクレーブに入れ、触媒を用いずに130℃、0.27MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a9とする。反応液a9中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。
【0070】
〔比較例4〕
上記混合オリゴ糖液a7を20g、及び先に示したスルホン化活性炭触媒を0.2g、小型オートクレーブに入れ、130℃、0.27MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a10とする。反応液a10中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。
【0071】
〔比較例5〕
上記混合オリゴ糖液a7を20g、及び触媒として、予め乾燥機中120℃で3時間乾燥したアンバーリスト70(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を0.2g、小型オートクレーブに入れ、130℃、0.27MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a11とする。反応液a11中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。なお、アンバーリスト70は、スルホ基を有する陽イオン交換樹脂である。
【0072】
〔実施例3〕
上記アルカリ除去処理液a8を20g、小型オートクレーブに入れ、触媒を用いずに、130℃、0.27MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a12とする。反応液a12中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。
【0073】
〔実施例4〕
上記アルカリ除去処理液a8を20g、及び先に示したスルホン化活性炭触媒を0.2g、小型オートクレーブに入れ、130℃、0.27MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a13とする。反応液a13中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。
【0074】
〔実施例5〕
上記アルカリ除去処理液a8を20g、及び触媒として、予め乾燥機中120℃で3時間乾燥したアンバーリスト70(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を0.2g、小型オートクレーブに入れ、130℃、0.27MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a14とする。反応液a14中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。
【0075】
〔実施例6〕
上記アルカリ除去処理液a8を20g、小型オートクレーブに入れ、110℃、0.14MPaで、触媒を用いずに3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a15とする。反応液a15中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。
【0076】
〔実施例7〕
上記アルカリ除去処理液a8を20g、及び触媒として、予め乾燥機中120℃で3時間乾燥したアンバーリスト70(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を0.2g、小型オートクレーブに入れ、110℃、0.14MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a16とする。反応液a16中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。
【0077】
〔実施例8〕
上記アルカリ除去処理液a8を20g、及び触媒として、予め乾燥機中105℃で3時間乾燥したアンバーリスト31WET(ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)を0.2g、小型オートクレーブに入れ、110℃、0.14MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a17とする。反応液a17中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。なお、アンバーリスト31WETは、スルホ基を有する陽イオン交換樹脂である。
【0078】
〔実施例9〕
上記アルカリ除去処理液a8を20g、及び触媒として、HタイプモルデナイトCBV90A(Si/2Al=90(モル比)、ZEOLYST製)を0.2g、小型オートクレーブに入れ、110℃、0.14MPaで、3時間反応させた。このとき得られた液を反応液a18とする。反応液a18中のオリゴ糖と単糖の割合を前記と同様の方法で分析した。結果を表2に示した。なお、HタイプモルデナイトCBV90Aは、プロトン型ゼオライトである。
【0079】
【表2】

【0080】
表2が示すように、アルカリ除去せずに混合オリゴ糖液a7に対して反応温度130℃で単糖化処理を行った場合(比較例3〜5)、単糖化工程における触媒の有無に関わらず、糖全体(オリゴ糖及び単糖)の中の単糖が占める割合は20質量%未満であり、単糖の収率が非常に低い。
一方、アルカリ除去処理液a8に対して反応温度130℃で単糖化処理を行った場合(実施例3〜5)、単糖化工程における触媒の有無に関わらず、上記単糖が占める割合は70%を超えており、比較例3〜5に比べて単糖の収率が高い。
さらに単糖化工程の反応温度を110℃とし、触媒を用いなかった場合(実施例6)、上記単糖が占める割合は62.1質量%であり、実施例3と比べると減少した。但し、
触媒を使用した場合(実施例7〜9)、上記単糖が占める割合は70%を超えており、反応温度が110℃であっても、単糖の収率を高くすることができた。
なお、アンバーリスト70を使用した場合、単糖化工程における130℃での反応(実施例5)及び110℃での反応(実施例7)にてほぼ同等の単糖の割合を示しているが、これは130℃での反応の場合は、生成した単糖が逐次副反応等により別の物質に変化したためと推測される。
これらのことより、単糖化工程においては110℃程度の低い温度が、触媒の効果がより顕著に現れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、バイオマスを原料とした燃料、化学品等の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1…バイオマス
2…単糖
110…第1オリゴ糖化工程(オリゴ糖化工程)
120…第2オリゴ糖化工程(オリゴ糖化工程)
130…第1アルカリ除去工程(アルカリ除去工程)
140…第2アルカリ除去工程(アルカリ除去工程)
150…第1単糖化工程(単糖化工程)
160…第2単糖化工程(単糖化工程)
210…単糖化工程
310…アルカリ除去工程
320…単糖化工程
A1,A2,A3,A4,A5…処理溶液
B1,B2…残渣

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを加水分解してオリゴ糖を含む液を得るオリゴ糖化工程と、
前記オリゴ糖化工程で得たオリゴ糖を含む液中からアルカリを除去するアルカリ除去工程と、
前記アルカリ除去工程でアルカリを除去した液中のオリゴ糖を単糖に変換する単糖化工程と、
を有することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項2】
前記バイオマスは、セルロース及びヘミセルロースの少なくともいずれかを含んでいることを特徴とする請求項1に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項3】
前記セルロースは、前記バイオマスに含まれる前記ヘミセルロースを加水分解処理して得られた残渣バイオマスであることを特徴とする請求項2に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項4】
前記セルロース及び前記ヘミセルロースを含む前記バイオマスにおいて、
前記ヘミセルロースを選択的に、前記オリゴ糖化工程、前記アルカリ除去工程、及び前記単糖化工程で処理することを特徴とする請求項2に記載のバイオマス処理方法。
【請求項5】
バイオマスに含まれるヘミセルロースを加水分解してオリゴ糖を含む液を得る第1オリゴ糖化工程と、
前記第1オリゴ糖化工程で得たオリゴ糖を含む液中のアルカリを除去する第1アルカリ除去工程と、
前記第1アルカリ除去工程でアルカリを除去した液中のオリゴ糖を単糖に変換する第1単糖化工程と、
前記第1オリゴ糖化工程で生成する残渣を更に加水分解してオリゴ糖を含む液を得る第2オリゴ糖化工程と、
前記第2オリゴ糖化工程で得たオリゴ糖を含む液中のアルカリを除去する第2アルカリ除去工程と、
前記第2アルカリ除去工程でアルカリを除去した液中のオリゴ糖を単糖に変換する第2単糖化工程と、
を有することを特徴とするバイオマスの処理方法。
【請求項6】
前記アルカリの除去を、陽イオン交換樹脂を用いて行うことを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項7】
前記アルカリの除去を、前記アルカリを除去する工程の前段に行われるオリゴ糖化工程における温度以下で行うことを特徴とする請求項1から6までのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項8】
前記アルカリは、少なくともカリウムを含むことを特徴とする請求項1から7までのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項9】
前記オリゴ糖を含む液中の前記アルカリの濃度は、前記アルカリ除去後に20質量ppm以下であることを特徴とする請求項1から8までのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項10】
前記オリゴ糖から前記単糖への変換を、固体酸触媒を用いて行うことを特徴とする請求項1から9までのいずれか一項に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項11】
前記固体酸触媒は、スルホ基を有する触媒であることを特徴とする請求項10に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項12】
前記スルホ基を有する固体酸触媒は、スルホン化活性炭であることを特徴とする請求項11に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項13】
前記固体酸触媒は、スルホ基を有する陽イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項10に記載のバイオマスの処理方法。
【請求項14】
前記固体酸触媒は、プロトン型ゼオライトであることを特徴とする請求項10に記載のバイオマスの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−103874(P2011−103874A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121524(P2010−121524)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)