説明

バイオマスをベースとしたマイケル付加組成物

【課題】バイオマスをベースとしたマイケル付加組成物を提供する。
【解決手段】それぞれが少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター、少なくとも1つの多官能性マイケルドナーおよび少なくとも1つの触媒を含む官能性混合物およびポリマー組成物が提供され、前述のドナーもしくはアクセプターまたはドナーとアクセプターの組合せのいずれかのうちの少なくとも25%はバイオベースの材料から誘導されたものである。また、前記組成物を形成する工程を含む方法により形成される物品であって、前記物品が接着剤、シーラント、エラストマー、発泡体、フィルム、コーティング剤、またはこれらの組合せである物品も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング剤、接着剤、シーラント、エラストマー、発泡体およびフィルムを調製すべく、炭素をベースとしたマイケル付加反応で使用される、バイオベースの原料から得られる化学成分を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
コーティング剤、接着剤およびシーラントを調製するために使用される多くの組成物は、石油をベースとした原料から誘導された化学成分から調製される。例えば、米国特許出願公開第2003/0083436号は、アルカリアルコキシドをはじめとする非アミン強塩基触媒の存在下におけるα,β−不飽和多カルボン酸エステルとカルボニル基に隣接したメチレン基を有する特定のポリエステルまたはポリアミド化合物との間の反応の生成物を含む、接着剤として有用な組成物を開示している。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0083436号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
石油をベースとした原料から誘導される組成物の一つの制限は、これらの組成物の製造過程において大量のエネルギーが消費されることである。更に、これらの組成物は、石油をベースとした原料の価格が変動する結果として重大な価格変動を被る。従って、石油原料への依存性を低減させるべく、1以上の反応物がバイオベースであるか「持続可能」である、炭素をベースとしたマイケル付加反応を利用することが望ましい。バイオベースの原料は、これらに限定するものではないが、糖類、多糖類、デンプンおよびトウモロコシ製品(例えばイソソルビド)、セルロース、セルロース誘導体、修飾セルロース、作物油(例えばダイズ油およびヒマシ油)、脂肪(例えばグリセロールおよび脂肪酸)またはタンパク質を含む。また、マイケル付加反応で硬化可能であり;室温で硬化し;不適切に毒性であることがほとんどあり得ない及び/又は不適切に反応性であることがほとんどあり得ない1以上の触媒の使用する組成物を提供することも望ましい。このようなバイオベースの化学成分の使用は、より安定した長期価格設定をもたらし、非再生資源の使用を回避することにより環境への有害な影響を低減し、堆肥化可能な製品または生分解性製品の開発を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
従って、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの可溶性弱塩基性触媒;
を含む官能性混合物を提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルアクセプターは、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、及びこのアクセプターの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものであり、触媒はカルボン酸のナトリウム塩、カルボン酸のマグネシウム塩、カルボン酸のアルミニウム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルカルボン酸のクロム塩、芳香族カルボン酸のクロム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のカリウム塩、多カルボン酸のカリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸エステルのカリウム塩およびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0005】
また、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの塩基性触媒;
を含む官能性混合物も提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルアクセプターは、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、及びこのアクセプターの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものであり、塩基性触媒は第三級アミン触媒、テトラメチルグアニジン(TMG)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、水酸化物、エトキシド、炭酸塩、炭酸カリウム、重炭酸塩、重炭酸カリウム、リン酸塩、リン酸水素塩、またはマイケルドナーのアニオンからなる群から選択される。
【0006】
また、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの触媒;
を含む官能性混合物も提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルアクセプターは、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、及びこのアクセプターの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものである。
【0007】
また、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの可溶性弱塩基性触媒;
を含む官能性混合物も提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルドナーは、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、及びこのドナーの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものであり、触媒はカルボン酸のナトリウム塩、カルボン酸のマグネシウム塩、カルボン酸のアルミニウム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルカルボン酸のクロム塩、芳香族カルボン酸のクロム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のカリウム塩、多カルボン酸のカリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸エステルのカリウム塩およびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0008】
また、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの塩基性触媒;
を含む官能性混合物も提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルドナーは、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、及びこのドナーの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものであり、塩基性触媒は第三級アミン触媒、テトラメチルグアニジン(TMG)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、水酸化物、エトキシド、炭酸塩、炭酸カリウム、重炭酸塩、重炭酸カリウム、リン酸塩、リン酸水素塩、またはマイケルドナーのアニオンからなる群から選択される。
【0009】
また、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの触媒;
を含む官能性混合物も提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルドナーは、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、及びこのドナーの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものである。
【0010】
また、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの可溶性弱塩基性触媒;
を含む官能性混合物も提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルドナーは化学的骨格がバイオベースの原料から誘導された形態で存在し、少なくとも1つのマイケルアクセプターは化学的骨格がバイオベースの原料から誘導された形態で存在し、化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであるドナーおよびアクセプターの重量の総和は、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多く、触媒はカルボン酸のナトリウム塩、カルボン酸のマグネシウム塩、カルボン酸のアルミニウム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルカルボン酸のクロム塩、芳香族カルボン酸のクロム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のカリウム塩、多カルボン酸のカリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸エステルのカリウム塩およびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0011】
また、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの塩基性触媒;
を含む官能性混合物も提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルドナーは化学的骨格がバイオベースの原料から誘導された形態で存在し、少なくとも1つのマイケルアクセプターは化学的骨格がバイオベースの原料から誘導された形態で存在し、化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであるドナーおよびアクセプターの重量の総和は、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多く、塩基性触媒は第三級アミン触媒、テトラメチルグアニジン(TMG)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、水酸化物、エトキシド、炭酸塩、炭酸カリウム、重炭酸塩、重炭酸カリウム、リン酸塩、リン酸水素塩、またはマイケルドナーのアニオンからなる群から選択される。
【0012】
また、本発明は:
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの触媒;
を含む官能性混合物も提供し、ここで、少なくとも1つのマイケルドナーは化学的骨格がバイオベースの原料から誘導された形態で存在し、少なくとも1つのマイケルアクセプターは化学的骨格がバイオベースの原料から誘導された形態で存在し、化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであるドナーおよびアクセプターの重量の総和は、この官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い。
【0013】
また、本発明は、下記構造単位RおよびR(任意に下記構造単位R及び/又はRと組み合わせた)を含むポリマー組成物も提供する。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、mおよびnは1より大きい、または1に等しい整数値であり、(m+R):(n+R)のモル比は2:1未満、または2:1に等しく;R、R、RおよびRは有機基であり;RはHおよびCHから選択される有機基であり;R10はH、RおよびRから選択される有機基であり;このポリマー組成物の合計重量に基づき、少なくとも25重量%のR、R、RおよびRの合計は、バイオベースの原料から誘導されたものである)。
【0016】
本発明のポリマー組成物はマイケルドナーとマイケルアクセプターの対応する比により特徴付けられる。一実施態様によれば、ポリマー組成物は1:1のアクリレート基とAcAc基の比を有している。
【0017】
別の実施態様によれば、ポリマー組成物は、構造式(I)を含む。
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、RはH、C1〜C22、OC1〜OC22、別のアクセプター付加物、および炭素以外の少なくとも1つの元素を含む他の有機基から選択され;R、RおよびRは以下で述べられている有機基であり、少なくとも25重量%のRの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものであり、もしくは少なくとも25重量%のRの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものであり、もしくは少なくとも25重量%のRの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものであり、もしくは少なくとも25重量%のRの化学的骨格はバイオベースの原料から誘導されたものであり、もしくは少なくとも25重量%のR〜Rの化学的骨格の組合せはバイオベースの原料から誘導されたものであり、またはR〜Rのすべての化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものである)。構造式(I)のポリマー組成物は少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプターおよび少なくとも1つの多官能性マイケルドナーを含み、ここで、アクセプターもしくはドナー、またはアクセプターとドナーの組合せはバイオベースの原料から誘導されたものである。
【0020】
また、本発明は、添加される光開始剤を殆ど(1重量%未満)または全く必要としない光硬化性ポリマー組成物も提供する。
【0021】
また、本発明は、光潜在性塩基との組合せにおいて官能性混合物を用いる光硬化性組成物も提供する。
【0022】
また、本発明は、上記の本発明の官能性混合物を調製するための方法も提供し、この方法は:弱塩基性触媒、塩基性触媒および他の触媒からなる群から選択される1以上の触媒を、官能性混合物の一部(全てまで、及び全てを含む)に添加する工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
また、本発明は、光潜在性塩基を含有する官能性混合物を硬化させるための方法も提供し、この方法は:化学線照射、紫外線照射または電子ビーム(EB)照射からなる群から選択される1以上により官能性混合物を処理するステップを含む。本明細書で使用する場合、「(メタ)アクリレート」はアクリレートまたはメタクリレートを意味し;「(メタ)アクリル」はアクリルまたはメタクリルを意味し;「(メタ)アクリルアミド」はアクリルアミドまたはメタクリルアミドを意味する。
【0024】
本発明は、マイケル付加反応を受けることができる官能基を有する化合物の使用を含む。マイケル付加については、例えばRT MorrisonおよびRN BoydによるOrganic Chemistry、第三版、Allyn and Bacon、1973年に教示されている。この反応は、触媒の存在下において、マイケルドナーとマイケルアクセプターとの間で起こるものと考えられている。
【0025】
本明細書で使用する場合、「マイケルドナー」は少なくとも1つのマイケルドナー官能基を有する化合物であり、マイケルドナー官能基は少なくとも1つのマイケル活性水素原子を包含した官能基であり、マイケル活性水素原子はC=O及び/又はC≡Nをはじめとする2つの電子求引性基の間に位置する炭素原子に結合された水素原子である。マイケルドナー官能基の例は、マロン酸エステル、アセト酢酸エステル、マロンアミドおよびアセトアセトアミド(この場合、マイケル活性水素は2つのカルボニル基の間の炭素原子に結合されている);ならびにシアノ酢酸エステルおよびシアノアセトアミド(この場合、マイケル活性水素はカルボニル基とシアノ基との間の炭素原子に結合されている)である。2個以上のマイケル活性水素原子を有する化合物は本明細書では多官能性マイケルドナーとして知られている。マイケルドナーは、それぞれが1個以上のマイケル活性水素原子を包含した1個、2個、3個またはそれ以上の別な官能基を有していてよい。分子に存在するマイケル活性水素原子の合計個数がこのマイケルドナーの官能性である。本明細書で使用する場合、マイケルドナーの「骨格」または「スケルトン」は、1個または複数のマイケル活性水素原子を包含した官能基以外のドナー分子部分である。
【0026】
これらに限定するものではないが、バイオベースのマイケルドナー、バイオベースのマイケルアクセプター、およびバイオベースのマイケルドナーとバイオベースのマイケルアクセプターとの組合せを含め、1以上のバイオベースのマイケル成分が本発明により有用に使用される。官能性混合物は硬化可能であり、これらの官能性混合物からもたらされるポリマー組成物は更なる反応が可能であり得る。炭素マイケルドナーおよびアクセプターに基づく硬化可能な官能性混合物またはポリマー組成物は、1より多くのドナー及び/又は1より多くのアクセプターを含んでよい。幾つかのマイケルドナー及び/又はアクセプターが存在する実施態様では、バイオベースの原料から誘導された反応物の重量パーセントが、この官能性混合物またはポリマー組成物の合計重量に基づき、25重量パーセントより大きい限り、化学的骨格が石油ベースの原料と、バイオベースの原料の両方またはいずれかに基づくドナーおよびアクセプターの組合せが使用される。
【0027】
本明細書で使用する場合、「バイオベースのマイケルドナー」は少なくとも1つのマイケルドナー官能基を有する化合物であり、ここで、これらのマイケルドナー官能基は、先に説明されているように、糖、デンプン、セルロース、作物油、動物性脂肪または動物性タンパク質のいずれかから誘導された「骨格」分子上に配置されている。かかるバイオベースのマイケルドナーの例は、マルトース、フルクトースまたはスクロースなどの単糖類および二糖類のアセトアセテートである。例えば、糖類アセトアセテートを製造する一つのプロセスが、以下に描かれているように、米国特許第4,551,523号に記載されている。
【0028】
【化3】

【0029】
本明細書で使用する場合、「マイケルアクセプター」は、構造(II)を有する少なくとも1つの官能基を伴う化合物である。
【0030】
【化4】

【0031】
(式中、R、RおよびRは、独立して、水素、または有機基、例えばアルキル(直鎖状、分枝状または環状)、アリール、アリール置換アルキル(アラルキルまたはアリールキルとも呼ばれる)、およびアルキル置換アリール(アルカリールまたはアルキルアリールとも呼ばれる)、及びこれらの基の誘導体および置換体を含む有機基である。)R、RおよびRは、独立して、エーテル結合、カルボキシル基、更なるカルボニル基、これらのチオ類似体、窒素含有基、またはこれらの組合せを含んでいてよく、または含んでいなくてもよい。Rは酸素、窒素含有基、またはR、RおよびRに対して上で説明されているいずれかの有機基である。それぞれが構造(II)を包含した2以上の官能基を有する化合物は、本明細書では多官能性マイケルアクセプターとして知られている。分子に存在する構造(II)を包含した官能基の個数がこのマイケルアクセプターの官能性である。本明細書で使用する場合、マイケルアクセプターの「骨格」または「スケルトン」は、構造(II)以外のドナー分子部分である。任意の構造(II)が別の(II)基または骨格に直接的に結合されていてよい。
【0032】
本明細書で使用する場合、「バイオベースのマイケルアクセプター」は少なくとも1つのマイケルアクセプター官能基を有する化合物であり、ここで、これらの官能基は、先に定義されているように、糖、デンプン、セルロース、作物油、脂肪またはタンパク質のいずれかから誘導された「骨格」(上の構造(II)のR)分子上に配置されている。かかるバイオベースのマイケルアクセプターの例は、これらに限定するものではないが、以下に例示されているようなエポキシ化ダイズ油のジアクリレートまたはプロポキシル化グリセリルトリアクリレートを含む。
【0033】
【化5】

【0034】
本発明は少なくとも1つの触媒の使用を含む。本明細書で使用する場合、「触媒」はマイケル付加反応を触媒する化合物である。本発明はいかなる特定の理論にも限定されるものでもないが、触媒がマイケルドナーから水素イオンを引き抜くものと考えられる。一つの実施態様によれば、触媒は塩基性である。別の実施態様によれば、触媒は弱塩基性である。別の実施態様によれば、マイケルアクセプターおよびドナーは、触媒の濃度に比べ、低い酸含量を有している。別の実施態様によれば、マイケルドナーおよびアクセプターは、使用される触媒のタイプと無関係である。
【0035】
幾つかの実施態様では、1以上の任意のアジュバントを使用することができる。アジュバントはマイケルドナー、マイケルアクセプターまたは触媒ではない物質であり;アジュバントは、本明細書では「非官能性成分」とも呼ばれている。アジュバントは、官能性混合物または硬化したポリマー組成物のいずれかの特性を改善すべく選択される。好適なアジュバントは、これらに限定するものではないが、例えば溶媒、粘着付与剤、乳化剤、ポリマー、可塑剤、発泡剤、膨張可能な微小球体、顔料、染料、充填剤、安定剤および増粘剤をはじめとする物質を含む。アジュバントは、好適には、本発明の実施を妨げないように選択され、使用される(例えば、アジュバントは、好適には、成分の混合、官能性混合物の硬化、基体への適用、または硬化された官能性混合物の最終的な特性に支障を来さないように選択される)。アジュバントのほかに、1以上の接着促進剤の添加が本発明の官能性混合物およびポリマー組成物において有用に使用される。
【0036】
本発明の実施において、多官能性マイケルアクセプターの骨格は、多官能性マイケルドナーの骨格と同じであってもよいし、異なっていてもよい。幾つかの実施態様においては、1以上の多価アルコールが少なくとも1つの骨格として使用される。多官能性マイケルアクセプターまたは多官能性マイケルドナーのいずれかに対する骨格として好適な多価アルコールは、これらに限定するものではないが、例えばアルカンジオール、アルキレングリコール、アルカンジオールダイマー、アルカンジオールトリマー、グリセロール、ペンタエリトリトール、多価ポリアルキレンオキシド、他の多水酸基ポリマー、およびこれらの混合物を含む。骨格として好適なさらなる多価アルコールは、例えばシクロヘキサンジメタノール、ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリトリトール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールエタン、同様な多価アルコール、これらの置換体、およびこれらの混合物を含む。
【0037】
本発明における骨格として好適な更なる多価アルコールの例は、例えば(本明細書において上で名前を挙げられているものに加えて)分子量が150以上の多価アルコールを含む。また、好適な多価アルコールの混合物も好適である。
【0038】
幾つかの実施態様においては、多官能性マイケルドナーもしくは多官能性マイケルアクセプター、またはこれらの両者の骨格はオリゴマーまたはポリマーである。本明細書で使用され、FW Billmeyer,JRによるTextbook of Polymer Science、第二版、1971年(「Billmeyer」)で定められているポリマーは、より小さな化学的繰返し単位の反応生成物で作り上げられた比較的大きな分子である。通常、ポリマーは11以上の繰返し単位を有している。ポリマーは直鎖状構造、分枝状構造、星形構造、環状構造、高度に枝分かれした構造、または架橋された構造を有することができ;ポリマーは単一種の繰返し単位を有していてもよいし(「ホモポリマー」)、または1より多くの種類の繰返し単位を有していてもよい(「コポリマー」)。コポリマーは、ランダム、シーケンス、ブロック、他の配列、またはこれらの任意の混合もしくは組合せにおいて配列される様々な種類の繰返し単位を有することができる。
【0039】
ポリマーは比較的大きな分子量を有している。ポリマーの分子量は、例えばサイズ排除クロマトグラフィーまたは固有粘度をはじめとする標準的な方法により測定することができる。一般的に、ポリマーは、1,000またはそれ以上の数平均分子量(Mn)を有している。ポリマーは極めて高いMnを有していてよく;幾つかのポリマーは1,000,000を越えるMnを有しており;典型的なポリマーは1,000,000以下のMnを有している。
【0040】
本明細書で使用する場合、「オリゴマー」は、ポリマーよりも少ない個数の繰返し単位を有し、ポリマーよりも小さな分子量を有している点を除き、ポリマーと同様な構造物である。通常、オリゴマーは2個から10個の繰返し単位を有している。一般的に、オリゴマーは400から1,000のMnを有している。
【0041】
幾つかの実施態様において、官能性混合物は、「バッチ」として製造され、使用される。即ち、特定の量の官能性混合物が容器内で形成され、この後、所望に応じて使用される。また、例えばすべての成分またはパックを例えば押出機をはじめとする連続流装置に添加することにより、官能性混合物を連続的に製造および使用する実施態様も想定されている。
【0042】
本発明の実施においては、成分は任意の組合せにおいて、任意の順番で合わせられてよい。幾つかの実施態様では、成分は容器に同時的にまたは逐次的に添加され、混ぜ合わされる。幾つかの実施態様では、2つ以上の成分が共に混合され、混合物(本明細書において「パック」と呼ばれる)として保管され、後の時点で本発明の官能性混合物を形成すべく更なる成分と組み合わせられる。パックを形成すべく幾つかの成分が共に混合される場合には、残りの成分も、それらが純粋な形態で保管されている場合であっても、本明細書においては「パック」と呼ぶ。成分が2つ以上のパック中に保管される実施態様は、本明細書においては、「マルチ−パック」実施態様と呼ばれる。
【0043】
幾つかの実施態様においては、本発明の官能性混合物は2−パック組成物である。「2−パック」という用語は、本明細書においては、第一のパックと第二のパックを混ぜ合わせることにより得られる混合物中にマイケル付加を起こすのに必要なすべての成分が含まれていることを意味している。本発明の幾つかの実施態様は、第一のパックと第二のパックを混ぜ合わせることにより得られる混合物に何らアジュバントを加えることなく、第一のパックと第二のパックを混ぜ合わせることにより得られる官能性混合物を使用することを要件とすることが意図されている。また、本発明の官能性混合物を形成すべく、第一のパック、第二のパック、および1以上のアジュバントが混ぜ合わされる実施態様も意図されている。
【0044】
本発明の2−パック実施態様の実施においては、第一のパックが少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプターを含み、第二のパックが少なくとも1つの多官能性マイケルドナーを含んでいる。本発明の2−パック実施態様の実施においては、第一のパックと第二のパックのうちの一方または両方が、少なくとも1つの可溶性弱塩基性触媒を含んでいる。幾つかの2−パック実施態様においては、第一のパックもしくは第二のパック、または両方のパックは、任意のアジュバントを更に含んでいる。幾つかの2−パック実施態様では、各パックに対する成分は、どちらのパックもマイケルアクセプター、マイケルドナーおよび触媒の3つすべてを含むことがないように選択される。
【0045】
また、マイケルアクセプターおよびマイケルドナーの両者である少なくとも1つの化合物の使用を含む実施態様も意図されている。かかる化合物は、少なくとも1つのマイケルドナー官能基と構造(II)を有する少なくとも1つの官能基の両方を有している。かかる化合物は、マイケル付加に対する触媒として有効な化合物と同じパックでは使用されないことが意図されている。
【0046】
幾つかの実施態様においては、すべての多官能性マイケルアクセプターの合計重量と、すべての多官能性マイケルドナーの合計重量との比は、少なくとも0.25:1、もしくは少なくとも0.33:1、もしくは少なくとも0.5:1、または少なくとも0.66:1である。これとは独立して、幾つかの実施態様においては、すべての多官能性マイケルアクセプターの合計重量と、すべての多官能性マイケルドナーの合計重量との比は、4:1もしくはそれ未満、または3:1もしくはそれ未満、または2:1もしくはそれ未満、または1.5:1もしくはそれ未満である。
【0047】
本発明の幾つかの実施態様においては、官能性混合物の1以上の成分は溶媒中に溶解されており、さもなければ、(例えば乳濁液または分散液として)流体媒体中に担持されている。溶媒または他の流体媒体が1以上の成分と共に使用される場合、複数の成分の溶媒または他の流体媒体は、相互に独立して選択されてよい。幾つかの実施態様においては、官能性混合物は溶媒を実質的に含んでいない。本明細書における定義によれば、材料が、この材料の合計重量に基づき、少なくとも75重量%の固体を含んでいる場合、この材料は「実質的に溶媒を含んでいない」。「固体」という用語は、本明細書では、すべてのマイケルドナー、すべてのマイケルアクセプター、すべてのポリマー、純粋なときに25℃において固体のすべての材料、および200℃より高い沸点を有するすべての材料の重量を意味する。幾つかの実施態様においては、官能性混合物は、この官能性混合物の重量に基づき、少なくとも80重量%が固体であり、もしくは少なくとも90重量%が固体であり、もしくは少なくとも95重量%が固体であり、または少なくとも98重量%が固体である。
【0048】
また、「低固形分」の実施態様も意図されており、これらは、官能性混合物の重量に基づき、官能性混合物が75重量%未満の固体を含む実施態様である。幾つかの低固形分の実施態様では、固体は流体媒体に溶解されていてよく、もしくは流体媒体中に分散されていてよく、またはこれらの組合せであってよい。低固形分の実施態様では、非固体成分は1以上の非水性化合物、または水、またはこれらの組合せを含むことができる。幾つかの低固形分の実施態様では、官能性混合物は、この官能性混合物の重量に基づき、25重量%以上の固体を含む。幾つかの低固形分の実施態様では、1以上の多官能性マイケルドナー、1以上の多官能性マイケルアクセプター、またはそれぞれのうちの1以上はポリマーである。
【0049】
1以上の光開始剤を添加する場合、本発明の幾つかのポリマーは光硬化性である。一実施態様によれば、ポリマーは、光開始剤の添加を殆ど(官能性混合物の合計重量に基づき、1重量パーセント未満)または全く必要としない。これらのポリマーは、従来の光硬化条件下におけるUV光照射を含む従来の化学線照射を用いてこれらのポリマーが硬化することを可能にする固有の光開始能力を有する。光硬化性ポリマーは1,000より大きい重量平均分子量を有しており、5,000より大きい重量平均分子量、10,000より大きい重量平均分子量、および20,000より大きい重量平均分子量を含む。ポリマーは、例えば光硬化可能な反応性ホットメルト(RHM)を調製するために有用に使用することができる。また、ポリマーは、化学線にそれらを曝露することにより後硬化させることもできる。本発明のポリマーの光硬化能力は、米国特許第5,945,489号および第6,025,410号に開示されているようなオリゴマー組成物を上回る重大な利点を提供し、これらの特許で述べられているオリゴマー組成物は、分子量が小さいため、高線量の化学線照射または高レベルの光開始剤を必要とする。あるいは、本発明のポリマー組成物は初めに大きな分子量を呈し、これにより、接着剤、シーラント、発泡体およびエラストマーを含む物品としての有用性を持つために低レベルの放射線または光開始剤しか必要としない。
【0050】
別の実施態様によれば、硬化のため、光発生アミン塩基触媒(光潜在性塩基)が官能性混合物に添加される。本明細書において、「光潜在性塩基」は、可視光、UV光、電子線または他の化学放射線に曝露された際にアミン塩基を効果的に発生し、これにより炭素マイケル反応を触媒する化合物を意味する。
【0051】
本明細書において、「外部的に加えられた」という用語は、マイケルドナー、マイケルアクセプター、触媒(本発明の実施ために本明細書において上で定義されている通りの)、または本発明の組成物における硬化プロセスの生成物ではない化合物を意味する。
【0052】
独立して、本発明の幾つかの実施態様においては、官能性混合物はエポキシド基を有する化合物を全く含んでいない。独立して、本発明の幾つかの実施態様においては、官能性混合物はイソシアネート基を有する化合物を全く含んでいない。独立して、本発明の幾つかの実施態様においては、官能性混合物は、マイケル付加反応に関与する反応性基を有する化合物以外には、硬化に有効な化学反応を為し得る反応性基を有する化合物を全く含んでいない。
【0053】
ドナーとアクセプターの反応当量比、反応物の官能性、触媒およびその量、ならびにアジュバントのレベルまたは他の添加剤のレベルを操作することにより、当業者であれば、直鎖状、分枝状および架橋構造を有する本発明のポリマーを調製することができる。
【0054】
本発明の官能性混合物においては、多官能性マイケルドナーに対する多官能性マイケルアクセプターの相対的な割合は反応当量比により特徴付けることができ、この反応当量比は、官能性混合物におけるすべての官能基(II)の個数と、官能性混合物におけるマイケル活性水素原子の個数との比である。幾つかの実施態様においては、反応当量比は0.1:1もしくはそれ以上;または0.2:1もしくはそれ以上;または0.3:1もしくはそれ以上;または0.4:1もしくはそれ以上;または0.45:1もしくはそれ以上である。幾つかの実施態様においては、反応当量比は3:1もしくはそれ以下;または2:1もしくはそれ以下;または1.2:1もしくはそれ以下;または0.75:1もしくはそれ以下;または0.6:1もしくはそれ以下である。
【0055】
幾つかの実施態様においては、硬化された官能性混合物は未反応の官能基(II)を殆どまたは全く有さないことが意図されている。
【0056】
幾つかの実施態様は、硬化された官能性混合物が未反応の多官能性マイケルアクセプター分子を殆どまたは全く有していないが、有用な量の未反応官能基(II)を有していることが意図されている。幾つかの実施態様においては、硬化された官能性混合物における未反応官能基(II)の存在は、未反応の多官能性マイケルアクセプター分子を有する場合または有さない場合のいずれにおいても、望ましい(例えば、更なる化学反応を実施することが意図されている場合)。他の実施態様では、硬化された官能性混合物は未反応の多官能性マイケルアクセプター分子を殆どもしくは全く有していないことが望ましく、または硬化された官能性混合物が未反応官能基(II)を殆どまたは全く持っていないことが望ましい。かかる実施態様では、所望の場合は、実施者は、硬化された官能性混合物が未反応の多官能性マイケルアクセプター分子を殆どもしくは全く有さなくなるようにするのに充分な低さの反応当量比、または未反応官能基(II)を殆どもしくは全く持たなくなるようにするのに充分な低さの反応当量比を容易に選択することができるよう意図されている。類似的に、硬化された官能性混合物は有用な量の未反応ドナー基を有することができる。
【0057】
本発明の幾つかの実施態様においては、多官能性マイケルドナー、多官能性マイケルアクセプター、可溶性の弱塩基性触媒、および任意の他の成分は、これらの官能性混合物が均質(即ち、混合物が放置時または硬化時に相分離しない)であるように選択される。また、官能性混合物が液体中における懸濁物として分散されている1以上の成分を含む実施態様も意図されている。幾つかのこのような実施態様においては、懸濁物が安定していること(即ち、これらの固体が放置時または硬化時に沈降または凝固しないこと)が有用である。
【0058】
本発明の実施は少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプターの使用を含む。幾つかの実施態様においては、多官能性マイケルアクセプターの骨格は、例えば本明細書において上記されているものをはじめとする多価アルコールの残基である。幾つかの実施態様においては、多官能性マイケルアクセプターの骨格はポリマーであってよい。幾つかの実施態様においては、多官能性マイケルアクセプターの骨格はオリゴマーであってよい。
【0059】
本発明における幾つかの好適な多官能性マイケルアクセプターは、例えば、構造(II)のうちの幾分かまたはすべてが、エステル結合またはアミド結合を通じて多官能性マイケルアクセプター分子に結合された(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、フマル酸もしくはマレイン酸、これらの置換体、またはこれらの組合せの残基である分子を含む。エステル結合により化合物に結合された(メタ)アクリル酸の2つ以上の残基を含む構造(II)を有する化合物は、本明細書において、「多官能性(メタ)アクリレート」と呼ばれる。マイケル付加におけるアクセプターとして作用することができる少なくとも2つの二重結合を有する多官能性(メタ)アクリレートは、本発明における好適な多官能性マイケルアクセプターである。幾つかの好適な多官能性(メタ)アクリレートは、例えば多官能性アクリレート(各残基がエステル結合を介して骨格に結合されているアクリル酸の2つ以上の残基を有する化合物;MFAとも呼ばれる)である。
【0060】
本明細書において、化合物「のアクリレート」(または「のジアクリレート」もしくは「のトリアクリレート」など)と記載されているアクセプター、または「アクリル化された」化合物と記載されているアクセプターは、この化合物をアクリル酸と反応させることにより形成され得る構造を有していることを理解すべきである。多くの場合、このように記載されているアクセプターは、実際、かかる反応を実施することにより生成されるが、このように記載されているアクセプターは、実際には、他の方法により生成することもできる。幾つかの好適なアクセプターは、ヒドロキシル基、アミン基、エポキシド基、カルボキシル基と反応することが考えられる他の基、またはこれらの基の組合せを有する「アクリル化された」化合物もしくはこのような化合物「のアクリレート」(またはこのような化合物「のジアクリレート」もしくは「のトリアクリレート」など)と記載されることが意図されている。例えば、下記のアクセプターは、アクリル化されたブタンジオールと記載され、また、ブタンジオールのジアクリレートとも記載される。
【0061】
【化6】

【0062】
このアクセプターは、ブタンジオールをアクリル酸と反応させることにより生成することができるが、同じ構造を任意の方法により生成し得ることが意図されている。別の例として、ある既知のジグリシジルエーテル化合物が構造(III)を有している場合:
【0063】
【化7】

【0064】
かかる場合に「IIIのジアクリレート」と説明されるMFAは、以下の構造を有する。
【0065】
【化8】

【0066】
MFAである好適な多官能性マイケルアクセプターの例としては、これらに限定するものではないが、以下のもののうちの1以上のジアクリレートが挙げられる:アルキルジオール、グリコール、エーテル含有ジオール(例えばグリコールのダイマー、グリコールのトリマー、およびポリアルキレンジオールなど)、アルコキシル化アルキルジオール、ポリエステルオリゴマージオール、ビスフェノールA、エトキシル化ビスフェノールA、および少なくとも2個のヒドロキシル基を有するポリマー。また、例えばアルキルトリオールおよびアルコキシル化アルキルトリオールを含む同様のトリオールのトリアクリレートも好適である。さらに、同様な多水酸基化合物のテトラ−、ペンタ−、およびより高次のアクリレートもまた好適である。バイオベースのマイケルアクセプターは、これらに限定するものではないが、エポキシ化ダイズ、糖類、ヒマシ油、グリセロール、1,3−プロパンジオール、プロポキシル化グリセロール、レスカレラ油(Lesquerella oil)、イソソルビド、ソルビトールおよびマンニトールから誘導されたアクセプターを包含する。
【0067】
好適なMFAの更なる例としては、ヒドロキシル基以外の、アクリル酸とエステル結合を形成することができる2つ以上の官能基を有する化合物のジ−、トリ−、テトラ−、およびより高次のアクリレートが挙げられる。かかるMFAとしては、例えば2個のエポキシド基を有する化合物のジアクリレート、例えばエポキシ樹脂、ジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エトキシル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0068】
また、中でもとりわけ好適な多官能性マイケルアクセプターは、それぞれの官能基が構造(II)を含む2つ以上の官能基を有し、構造(II)を含む官能基のうちの1以上が(メタ)アクリルアミドの残基である化合物である。他の好適な多官能性マイケルアクセプターにおいては、構造(II)を含む少なくとも1つの官能基は(メタ)アクリルアミドの残基であり、構造(II)を含む少なくとも1つの官能基は、(メタ)アクリルアミドの残基以外の官能基である。
【0069】
本発明の実施は、少なくとも1つの多官能性マイケルドナーの使用を包含する。本発明の幾つかの実施態様においては、多官能性マイケルドナーの骨格は、例えば本明細書において上記されているものをはじめとする多価アルコールの残基である。幾つかの実施態様においては、多官能性マイケルドナーの骨格は、例えばポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリエチレン酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリジエン、水素化ポリジエン、アルキド、アルキドポリエステル、ポリオレフィン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリエステル、ハロゲン化ポリエステル、(メタ)アクリレートポリマー、これらのポリマーのコポリマー、またはこれらのポリマーの混合物をはじめとするポリマーであってよい。バイオベースのマイケルドナーは、これらに限定するものではないが、エポキシ化ダイズ、糖類、ヒマシ油、グリセロール、1,3−プロパンジオール、プロポキシル化グリセロール、レスカレラ油、イソソルビド、ソルビトールおよびマンニトールから誘導されたドナーを含む。
【0070】
多官能性マイケルドナーの骨格がポリマーである実施態様においては、マイケルドナー官能基はポリマー鎖からのペンダントであってよく、もしくはポリマー鎖に組み込まれていてよく、またはこれらの組合せであってよい。
【0071】
好適な多官能性マイケルドナーにおいては、マイケル活性水素を有する官能基は、広範囲の様々な配置のうちのいずれかで骨格に結合されていてよい。幾つかの実施態様においては、多官能性マイケルドナーは、次の構造を有している。
【0072】
【化9】

【0073】
式中、nは2またはそれ以上であり、Rは下記のいずれかであり、
【0074】
【化10】

【0075】
は下記のいずれかであり、
【0076】
【化11】

【0077】
、R、R、R10およびR11は、独立して、H、アルキル(直鎖状、環状または分枝状)、アリール、アリールキル、アルカリール、またはこれらの基の置換体であり;Rは、多官能性マイケルドナーの骨格として好適であると本明細書において上記されている多価アルコールまたは多水酸基ポリマーのいずれかの残基である)。幾つかの実施態様においては、Rはマイケルアクセプターの残基である。幾つかの実施態様においては、R、R、R、R10およびR11のうちの1つ以上は、マイケル活性水素を伴う更なる官能基に結合されている。
【0078】
幾つかの実施態様においては、nは3以上である。幾つかの実施態様においては、本組成物は1より多くの多官能性マイケルドナーを包含している。かかる実施態様では、多官能性マイケルドナーの混合物はnの数平均値により表すことができる。幾つかの実施態様においては、本組成物における多官能性マイケルドナーの混合物は、4以下、または3以下のnの数平均値を有している。
【0079】
幾つかの好適な多官能性マイケルドナーとしては、例えばアセトアセトキシ置換アルキル(メタ)アクリレート;マロン酸のアミド、アセト酢酸のアミド、マロン酸のアルキルエステル、およびアセト酢酸のアルキルエステルが挙げられ、ここで、これらのアルキル基は直鎖状、分枝状、環状、またはこれらの組合せであってよい。
【0080】
幾つかの好適な多官能性マイケルドナーは、例えば、2個以上のアセトアセテート基を有するアルキル化合物である。かかる多官能性マイケルドナーとしては、例えばアルキルジオールジアセトアセテート(アルキルジオールビスアセトアセテートとしても知られている)、例えばブタンジオールジアセトアセテート、1,6−ヘキサンジオールジアセトアセテート、ネオペンチルグリコールジアセトアセテート、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンのジアセトアセテート、2−メチル−1,3−プロパンジオールジアセトアセテート、エチレングリコールジアセトアセテート、プロピレングリコールジアセトアセテート;シクロヘキサンジメタノールジアセトアセテート;他のジオールジアセトアセテート;アルキルトリオールトリアセトアセテート(アルキルトリオールトリスアセトアセテートとしても知られている)、例えばトリメチロールプロパントリアセトアセテート、ペンタエリトリトールトリアセトアセテート、グリセロールトリスアセトアセテート、またはトリメチロールエタントリアセトアセテート;などが挙げられる。好適な多官能性マイケルドナーの幾つかの更なる例は、例えばペンタエリトリトールテトラアセトアセテート、ジペンタエリトリトールペンタアセトアセテート、およびジペンタエリトリトールヘキサアセトアセテートをはじめとする、多価アルコールのテトラ−、ペンタ−、およびより高次のアセトアセテート(即ち、エステル結合を通じて4個、5個、またはもっと多くのヒドロキシル基がアセトアセテート基に結合されている多価アルコール)を含む。
【0081】
好適な多官能性マイケルドナーの幾つかの更なる例は、例えばジエチレングリコールジアセトアセテート、ジプロピレングリコールジアセトアセテート、ポリエチレングリコールジアセトアセテート、およびポリプロピレングリコールジアセトアセテートをはじめとするグリコールエーテルジアセトアセテート(グリコールエーテルビスアセトアセテートとしても知られている)である。
【0082】
幾つかの他の好適な多官能性マイケルドナーは、1つの分子当たり単一のマイケルドナー官能基を有するものであり、ここで、このマイケルドナー官能基は2つのマイケル活性水素原子を有している。かかる多官能性マイケルドナーとしては、例えばアルキルモノアセトアセテート(即ち、構造がたった一つの結合されたアセトアセテート基を有するアルキル基である化合物)が挙げられる。
【0083】
好適な多官能性マイケルドナーの更なる例としては、1以上の以下の官能基を有する化合物が挙げられる:アセトアセテート、アセトアセトアミド、シアノアセテート、およびシアノアセトアミド;ここで、これらの官能基は1以上の以下の骨格に結合されていてよい:ポリエステル、ポリエーテル、(メタ)アクリルポリマー、およびポリジエン。
【0084】
あるいは、マイケルドナーは、アクセプターと、過剰なドナーとの反応生成物である。例えば、多官能性アクセプターと過剰なアセトアセトネートの反応生成物である。
【0085】
幾つかの好適な多官能性マイケルドナーとしては、例えば、アセトアセトキシエチルメタクリレート(AAEM)を含むモノマーと1以上の以下のものから生成されるオリゴマーおよびポリマーが挙げられる:(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、(メタ)アクリル酸のアミド、前述のものの置換体、および前述のものの混合物。幾つかの実施態様においては、オリゴマーまたはポリマーを生成するために使用されるすべてのモノマーの重量に基づき、10重量%以上のAAEMを含むモノマーから生成される少なくとも1つのこのようなオリゴマーまたはポリマーが使用されることが意図されている。
【0086】
幾つかの好適な多官能性マイケルドナーは、多官能性のアセトアセテート官能性ポリエステルポリマーおよびアセトアセテート官能性ポリエステルアミドである。
【0087】
好適な多官能性マイケルドナーの混合物もまた好適である。
【0088】
多官能性マイケルドナーの一つのカテゴリーはマロネートとして知られている。マロネートは、下記のR、および下記のR、を有している。
【0089】
【化12】

【0090】
【化13】

【0091】
(式中のR、RおよびRについては本明細書において上記において定義されている)。マロネートは使用されても、使用されなくてもよく、即ち、かかる実施態様では、非マロネート多官能性マイケルドナーが使用される。
【0092】
一つの実施態様によれば、少なくとも1つの可溶性の弱塩基性触媒が使用される。触媒は、以下の溶解度判定基準を満たす場合、本明細書では「可溶性」であると定義される。好適な試験混合物が選択される。この試験混合物は、単一の多官能性マイケルアクセプター、2つ以上の多官能性マイケルアクセプターの混合物、単一の多官能性マイケルドナー、または2つ以上の多官能性マイケルドナーの混合物であり得る。試験混合物は、弱塩基性触媒が使用される官能性混合物の一部またはすべてである。官能性混合物におけるすべての多官能性マイケルアクセプターおよびすべての多官能性マイケルドナーの重量の総和に対する官能性混合物において使用されるべきこのような触媒の重量の比は、本明細書ではX1と呼ばれる。官能性混合物におけるすべての多官能性マイケルアクセプターおよびすべての多官能性マイケルドナーの重量の総和に対する試験混合物の成分の重量の総和の比は、本明細書ではX2と呼ばれる。従って、溶解度試験を遂行するため、少なくとも試験混合物の重量に対する触媒の重量の比がY以上になるのに充分な量の触媒が試験混合物に加えられ、ここで、Y=X1/X2である。触媒と試験混合物との混合物が本明細書において以下で説明されている溶解手順に付され、これにより、試験混合物中に実際に溶解した触媒の量が決定される。試験混合物の重量に対する、実際に溶解した触媒の重量の比がY以上である場合には、この触媒は可溶性であるとみなされる。
【0093】
上述の溶解度試験を実施する一つの有用な方法は、1以上のマイケルドナーを含んでいるが、いかなるマイケルアクセプターをも含んでいない試験混合物を選ぶことである。上述の溶解度試験を実施する別の有用な方法は、1以上のマイケルアクセプターを含んでいるが、いかなるマイケルドナーをも含んでいない試験混合物を選ぶことである。
【0094】
溶解度を決定するために使用される溶解手順は以下の如く本明細書において定められている。触媒と試験混合物との混合物が75℃に2時間加熱される。結果として得られた混合物が透明な場合(即ち、混合物が肉眼で視覚可能な曇りまたは沈降物を何ら示さない場合)、この触媒は可溶性であるとみなされる。結果として得られた混合物が、75℃より低い温度に加熱後に透明であるとき、もしくは結果として得られた混合物が75℃より低い任意の温度で混合した場合に透明であるとき、または結果として得られた混合物が、試験混合物に触媒を加えてから2時間より短い時間で透明になったとき、この触媒は可溶性であるとみなされる。75℃で2時間加熱後、結果として得られた混合物が透明でない場合には、45〜60μmのフリットガラスを通じて濾過される。そして、濾液が希HClで滴定され、試験混合物中に実際に溶解した触媒の量が決定される。
【0095】
濾液を希HClで滴定する場合、一つの許容可能な手順は以下の通りである。0.1ミリ当量から0.2ミリ当量(meq)までの間の触媒を含むべく見積もられた量の濾液を30mlの変性アルコール中に溶解する。次いで、この濾液の溶液をはっきりした終点まで0.1モル濃度のHCl水溶液で滴定する。滴定は、当技術分野において既知の広範囲にわたる様々な方法及び/又は装置のいずれかを用いて行われ得る。例えば、Radiometer Analytical SASにより製造されたRTS822記録滴定システムを用いることができる。滴定の進捗度および終点は、当技術分野において既知の広範囲にわたる様々な方法及び/又は装置のいずれかにより測定することができ、例えば、Radiometer Analytical SASから入手可能なpHG201およびREF201電極をはじめとするガラス電極および参照電極などの電極を用いて測定することができる。終点が決定された後、標準的な方法により以下の量が算出される。すなわち、濾液の溶液中に存在する触媒のモル、および試験混合物中に実際に溶解した触媒の量(重量%)である。
【0096】
一般的に、本発明の実施においては、官能性混合物が形成されるときに、硬化が起こるのに充分な量の触媒を官能性混合物中に提供すべく充分な量の触媒が試験混合物中に溶解する場合、触媒は可溶性である。幾つかの実施態様においては、触媒は、100グラムの試験混合物当たり、0.1グラム以上の触媒の量;または100グラムの試験混合物当たり、0.2グラム以上の触媒の量;または100グラムの試験混合物当たり、0.5グラム以上の触媒の量;または100グラムの試験混合物当たり、1グラム以上の触媒の量で試験混合物中に溶解する。触媒と試験混合物との混合物が75℃より低い温度で、もしくは2時間より短い時間で、またはこれら両方の条件で混合され、充分な重量の触媒が試験混合物中に実際に溶解される場合には、この触媒は可溶性であるとみなされる。
【0097】
本発明の幾つかの実施態様においては、少なくとも1つの可溶性の弱塩基性触媒が純粋な材料の形態で使用される。本明細書において「純粋な材料」とは、商業的な製造業者から容易に入手可能なレベルの純度を有する材料、またはより高いレベルの純度を有する材料を意味する。
【0098】
本発明の他の実施態様では、官能性混合物は、可溶性の弱塩基性触媒の溶液を他の成分に加えることにより形成される。本明細書において「可溶性の弱塩基性触媒の溶液」とは、(本明細書において上記において定義されている通りの非官能性成分である)溶媒と(本明細書において上記において定義されている通りの)可溶性の弱塩基性触媒との均質な混合物を意味する。このような実施態様における溶媒は、水、または有機溶媒、例えば炭化水素、アルコールおよびケトンであってよい。水は好適であることが知られている。例えば、幾つかの実施態様においては、可溶性の弱塩基性触媒の溶液が1以上の多官能性マイケルアクセプターに加えられる。可溶性の弱塩基性触媒の幾つかの好適な溶液は、この溶液の重量に基づき、50重量%以上、または65重量%以上の濃度の可溶性の弱塩基性触媒を有している。可溶性の弱塩基性触媒の溶液の添加を要件とする幾つかの実施態様においては、可溶性の弱塩基性触媒を含有したパックまたは官能性混合物は、溶媒のうちの幾分かまたはすべてを除去するため、高温もしくは低圧、またはこれら両方に付される。官能性混合物が溶媒を除去すべく高温に掛けられる幾つかの実施態様においては、溶媒のかかる除去は、官能性混合物の基体への適用及び/又は官能性混合物の硬化を妨害しないような仕方で実施されることが意図されている。例えば、溶媒の除去は、官能性混合物を基体へ適用した後に実施されてよく、この場合では、溶媒の除去と硬化は、相互に同時に完全にまたは部分的に起こり得ることが意図されている。可溶性の弱塩基性触媒の溶液の添加を要件とする他の実施態様では、溶媒はそのまま放置される。即ち、溶媒を除去するための工程は何ら講じられない。一つの実施態様によれば、本組成物をコーティングする前にすべての溶媒が除去される。
【0099】
可溶性の弱塩基性触媒の溶液がパックに、または官能性混合物に加えられる本発明の幾つかの実施態様の実施においては、可溶性の弱塩基性触媒の溶液が加えられるパック、または官能性混合物は均質性を呈する。
【0100】
可溶性の弱塩基性触媒の溶液がパックに、または官能性混合物に加えられる本発明の幾つかの実施態様においては、結果として生じる混合物は曇りを呈する。かかる実施態様では、本発明をいかなるモデルまたは理論にも限定するものではないが、可溶性の弱塩基性触媒の溶液に使用される溶媒が他の成分と適合しないため、または他の成分に溶解しないため、曇りが生じ;溶媒は分離した相として残存し;さらに溶媒はパックの体積全体にわたって分散した液滴として存在することが意図されている。更に、かかる溶媒液滴の分散が生じる場合には、可溶性の弱塩基性触媒は溶媒液滴内に残存してもよく、もしくは可溶性の弱塩基性触媒は溶媒中から移動し、他の成分に溶解された状態になってよく、または可溶性の弱塩基性触媒は、ある割合で、溶媒液滴と他の成分との間で分配されてもよい。これらの実施態様では、可溶性の弱塩基性触媒の配置の如何にかかわらず、可溶性の弱塩基性触媒が本明細書の上記において定められている溶解度判定基準を満たすことができる限り、このような溶媒液滴の分散を含むパックまたは官能性混合物は、本発明を実施するのに好適であるとみなされる。
【0101】
一つの例として、幾つかの実施態様においては、可溶性の弱塩基性触媒は、水溶液を形成すべく、水に溶解され、次いで、この水溶液が1以上の多官能性マイケルアクセプターと混合される。
【0102】
本発明の可溶性の弱塩基性触媒は以下のものから選択される。すなわち、カルボン酸のナトリウム塩、カルボン酸のマグネシウム塩、カルボン酸のアルミニウム塩、1個から22個の炭素原子を有する(6個以下の炭素原子を有する場合を含む)アルキルカルボン酸のクロム塩、芳香族カルボン酸のクロム塩、1個から22個の炭素原子を有する(6個以下の炭素原子を有する場合を含む)アルキルモノカルボン酸のカリウム塩、多カルボン酸のカリウム塩、およびこれらの混合物から選択される。本明細書において「モノカルボン酸」とは、一つの分子当たり1個のカルボキシル基を有するカルボン酸を意味する。本明細書において「多カルボン酸」とは、一つの分子当たり1個より多くのカルボキシル基を有するカルボン酸を意味する。カルボン酸のナトリウム塩、マグネシウム塩およびアルミニウム塩の中には、例えば、以下のタイプのカルボン酸のナトリウム塩、マグネシウム塩およびアルミニウム塩がある。すなわち芳香族カルボン酸、7個から22個の炭素原子を有するアルキルカルボン酸、6個以下のカルボン酸を伴うアルキルカルボン酸、およびこれらの混合物である。
【0103】
幾つかの実施態様においては、本発明の可溶性の弱塩基性触媒は以下のものから選択される。すなわち7個から22個の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のナトリウム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のナトリウム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のカリウム塩、およびこれらの混合物である。
【0104】
可溶性触媒は、この触媒の共役酸のpKaが3に等しいかそれより上であり、また、9に等しいかそれ未満であるという特性を有する塩基性化合物である場合、本明細書で定義されるところの「弱塩基性」である。幾つかの実施態様においては、可溶性の弱塩基性触媒の共役酸のpKaは3.5以上;または4以上である。幾つかの実施態様においては、可溶性の弱塩基性触媒の共役酸のpKaは7.5以下;または5.5以下;または4.9以下である。塩基の共役酸のpKaは広く知られた特性であり、多くの塩基の共役酸に対するpKaの値が公開されており、例えば「Handbook of Chemistry and Physics、第82版」、CRC press、2001年において公開されている。時としてpKaは希釈水溶液において測定されるが、化合物が実際には水溶液中で使用されるか否かにかかわらず、pKa自体は化合物の特性である。
【0105】
可溶性触媒の共役酸が多カルボキシルカルボン酸である場合、第一pKa(即ち、第一水素イオンの解離定数を表すpKa)が3に等しいかそれより上であり、また、10.5に等しいかそれ未満である場合、この可溶性触媒は弱塩基性であるとみなされる。それ以降の解離定数はどんな値をとってもよい。別な実施態様によれば、炭酸カリウムおよび重炭酸カリウムの場合のように、最大9.0までのpKaが許容可能である。これは、リン酸塩、リン酸水素塩およびリン酸エステルにも当てはまる。
【0106】
幾つかの好適な可溶性の弱塩基性触媒は、例えば酢酸カリウム、オクタン酸ナトリウム、カプリル酸カリウムおよび酢酸クロムである。好適な可溶性の弱塩基性触媒の混合物もまた好適である。
【0107】
幾つかのケースにおいては、製造業者により供給されるような多官能性マイケルアクセプター化合物は、若干(通常は比較的少量)のカルボン酸の塩を含んでいる。本発明は、かかる塩を含む多官能性マイケルアクセプター、このような塩を含まない多官能性マイケルアクセプター、またはこれらの混合物を用いて実施され得ることが意図されている。しばしば、アクセプターは酸を含み得る。一つの実施態様によれば、この酸は、反応を阻害しないようにすることを目的として、使用前または使用中に塩基で中和される。別の実施態様によれば、触媒がその場で発生される。
【0108】
幾つかの実施態様においては、製造業者により供給されるような好適な多官能性マイケルアクセプターは、可溶性の弱塩基性触媒として好適である少なくとも1つの塩を含んでいる。かかる多官能性マイケルアクセプターは、本発明の実施において使用されることが意図されている。幾つかの場合においては、製造業者により供給されるような多官能性マイケルアクセプター中に存在する塩の量は、本発明の実施において、さらなる量の可溶性の弱塩基性触媒を使用することが望まれる程に充分に少量であり、この付加的な可溶性の弱塩基性触媒は、多官能性マイケルアクセプター中に既に存在するものと同じであってもよいし、または異なるものであってもよい。
【0109】
幾つかの実施態様においては、本発明の実施は、1以上の他の触媒(即ち、マイケル付加反応のための触媒として有効であり、可溶性の弱塩基性触媒ではない化合物)の使用を包含する。かかる他の触媒は、例えば強塩基、例えば共役酸が9より大きいpKaを有する塩基性化合物を含むことが知られている。強塩基は、例えば強塩基である、アルコキシド、炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、アセトアセトネート、アミジン、グアニジン、ジアザ化合物、アルキルアミン、テトラアルキルアンモニウム塩、これらの誘導体、およびこれらの混合物を含む。アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および他の金属塩を含む、塩基の任意の金属塩が有効に使用される。他の触媒として機能することが知られている更なる化合物はブロック化触媒であり、ブロック化触媒は、硬化条件下において蒸発するか脱炭酸するかのいずれかであるカルボン酸と組み合わせて使用されるアミンまたはアンモニウム化合物である。ブロック化触媒は、例えば米国特許第5,219,958号に記載されている。幾つかのブロック化触媒は、硬化条件下において蒸発するか脱炭酸するかのいずれかであるカルボン酸と組み合わせたアミジン化合物、第四級アンモニウム化合物、またはこれらの混合物を使用する。
【0110】
本発明の幾つかの実施態様においては、官能性混合物はブロック化触媒を含まない。独立して、幾つかの実施態様においては、本発明の官能性混合物は強塩基を含まない。独立して、幾つかの実施態様においては、本発明の官能性混合物は、可溶性の弱塩基性触媒ではない触媒を含まない。
【0111】
本発明の幾つかの実施態様においては、硬化プロセスを開始する前の官能性混合物は、マイケルドナー化合物からマイケル活性水素原子を除去することにより創出され得るいかなるアニオン(本明細書において「ドナー誘導アニオン」と呼ばれる)も含んでいない。ドナー誘導アニオンの一例は、アセトアセテート基からマイケル活性水素原子を除去することにより創出され得るアセトアセトネートアニオンである。本明細書において上記されているマイケルドナー官能基のうちのいずれか1つからマイケル活性水素原子を除去することにより、同様なドナー誘導アニオンを創出することができる。本発明をいかなる特定の理論にも限定することはないが、幾つかの実施態様においては、官能性混合物が形成された後、一旦硬化プロセスが始まると、1以上のドナー誘導アニオンを含む幾つかの化合物がマイケル付加反応中の中間体として形成され得ることが意図されている。
【0112】
本発明の幾つかの実施態様においては、官能性混合物は、連鎖停止をもたらすことが知られているいかなる単官能性マイケルアクセプターまたはドナーをも含んでいない。他の実施態様では、官能性混合物は少なくとも1つの単官能性マイケルアクセプターを含んでいる。本明細書で使用する場合、「単官能性マイケルアクセプター」は、各分子に正確に一つの構造(II)を有する(本明細書における上記の定義通りの)マイケルアクセプターである。幾つかの単官能性マイケルアクセプターは、例えば、一つの分子当たり1つの構造(II)を有する(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸のエステルを含み、例えばアルキル(メタ)アクリレートを含む。
【0113】
本発明の幾つかの実施態様においては、官能性混合物はいかなる単官能性マイケルドナーをも含んでいない。他の実施態様においては、官能性混合物は、少なくとも1つの多官能性マイケルドナーに加え、少なくとも1つの単官能性マイケルドナーを含んでいる。本明細書で使用する場合、「単官能性マイケルドナー」は、各分子に正確に1個のマイケル活性水素を有する(本明細書における上記の定義通りの)マイケルドナーである。
【0114】
本発明の官能性混合物の成分は、本発明を実施する条件下においてマイケル付加が起こるように選択されることが意図されている。例えば、ある特定の多官能性マイケルアクセプターは、ある多官能性マイケルドナーとの場合の方が、他の多官能性マイケルドナーとの場合よりもマイケル付加反応を受けにくいことがあり得る。例えば、メタクリレート基は、通常、アセトアセテート基との場合よりもシアノアセテート基との場合の方が一層容易に反応する。更に、幾つかの可溶性の弱塩基性触媒は、他の触媒よりも強力にマイケル付加反応を促進する。しかし、特定の多官能性マイケルドナーと特定の多官能性マイケルアクセプターとの間の反応が遅かったり、または効果的でない場合であっても、幾つかのケースでは、より塩基性の強い触媒を用いることにより、より多量の塩基性触媒を使用することにより、混合物を加熱することにより、またはこれらの手段の組合せを用いることにより、反応を加速し、または反応を効果的に行うことができるであろう。本発明の実施者は、本発明の実施における硬化の望ましい速度を達成すべく、効果的な成分の組合せを容易に選択することができる。
【0115】
本発明の実施において、官能性混合物はこれらの成分を混ぜ合わせることにより形成され;この混合は任意の手段により遂行され得る。幾つかの実施態様においては、これらの成分はすべて液体であり、これらの成分を容器に入れ、攪拌することにより、簡単に混合することができる。いずれかの成分が固体である場合には、この固体を官能性混合物に溶解または懸濁させるべく、充分な攪拌が行われることが意図されている。幾つかの実施態様においては、例えば基体の同じ領域に様々な成分の層を交互に適用することにより、または様々な成分の別々の流れを噴霧することにより、様々な成分を基体上で混ぜ合わせることができる。
【0116】
本発明の官能性混合物は、新たに混合されたばかりの場合、23℃において有用な粘度を有しているべきである。粘度を測定する一つの有用な手段は、ブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用い、粘度計の製造業者の指示により、測定されるべき材料に対して適切であるとして選択されたスピンドルの種類および回転速度で測定する方法である。一般的に、ブルックフィールド粘度計を適切に使用するための条件は、例えば、本機器の目盛りでフルスケールの10%〜90%を示すスピンドルおよび回転速度を選択することを要件とする。幾つかの実施態様に対しては、#4のスピンドルが適切である。幾つかの実施態様においては、新たに混合されたばかりの官能性混合物は、0.01Pa*s(10cps)以上の粘度を有する液体である。また、新たに混合されたばかりの官能性混合物は、10,000Pa*s(10,000,000cps)以下の粘度を有する液体である。望ましい粘度はこれらの成分を混合するために使用される手段、および官能性混合物を成形するために使用される手段または官能性混合物を基体に適用するために使用される手段によって決決められる。官能性混合物を基体へ適用することを要件とする幾つかの実施態様においては、官能性混合物の粘度は0.1Pa*s(100cps)以上;または0.2Pa*s(200cps)以上;または0.4Pa*s(400cps)以上である。独立して、官能性混合物を基体へ適用することを要件とする幾つかの実施態様においては、粘度は2,000Pa*s(2,000,000cps)以下;または1,000Pa*s(1,000,000cps)以下;または500Pa*s(500,000cps)以下である。硬化された官能性混合物をエラストマーとして及び/又は高分子発泡体として使用することを要件とする実施態様では、好適な粘度は、通常、官能性混合物が基体へ適用される場合の好適な粘度よりも高い。
【0117】
本発明の官能性混合物は、23℃において7日間またはそれより短い期間で硬化することができる。硬化が起こっているという事実は、23℃における官能性混合物のポットライフ(即ち、官能性混合物が形成されてから、官能性混合物をもはや成形することができない、または基体へ適用することができない程の高い粘度にまでこの混合物の粘度が上昇するまでの時間)を測定することにより確認することができる。新たに混合されたばかりの官能性混合物の粘度は、23℃において任意の標準的な方法により測定することができる。一つの有用な粘度測定方法は、本明細書において上で述べられているように、ブルックフィールド粘度計を使用する方法である。
【0118】
ポットライフの一つの有用な測度は、官能性混合物の粘度が新たに混合されたばかりの官能性混合物の粘度の5倍に相当する値に達するまでに要する時間(本明細書では「粘度五倍時間」と呼ぶ)である。ポットライフの有用な代替的測度は、官能性混合物の粘度が新たに混合されたばかりの官能性混合物の粘度の2倍に相当する値に達するまでに要する時間(本明細書では「粘度二倍時間」と呼ぶ)である。2種類の混合物を比較する場合、より長い粘度五倍時間を有する混合物は、粘度二倍時間もより長いと考えられる。ポットライフの別の有用な代替的測度は、官能性混合物の粘度が新たに混合されたばかりの官能性混合物の粘度の10倍に相当する値に達するまでに要する時間である。ポットライフの更なる別の有用な代替的測度は、官能性混合物の粘度が新たに混合されたばかりの官能性混合物の粘度の100倍に相当する値に達するまでに要する時間である。
【0119】
さらに別の有用な測度は硬化反応の半減期である。一般的に、2種類の混合物を比較する場合、より長い半減期を有する混合物は、粘度五倍時間もより長いと考えられる。硬化反応の半減期は以下の如くにして決定される。硬化反応が始まる前に存在する構造(II)を含む官能基(かかる官能基を、本明細書においては「構造II−基」と呼ぶ)の濃度を測定し、且つ、この硬化反応において反応した構造II−基の濃度を(官能性混合物が形成された時点から測定された)時間の関数として測定するための任意の既知の分析方法を用いて官能性混合物が調べられる。硬化反応が始まる前に存在していた構造II−基の濃度に対する、硬化反応において反応した構造II−基の濃度の比を、本明細書では「転化率」と呼ぶ。硬化反応の半減期は、転化率が0.50に達するまでに要する時間である。この半減期はあらゆる広範囲の様々な方法により評価することができる。
【0120】
硬化反応の半減期を評価する一つの方法は直線適合化法であり、この直線適合化法は以下の如くにして実施される。各時点において、転化率が測定され、本明細書において(転化率)/(1−転化率)として定義される「反応進行率」を算出するために使用される。時間の関数としての反応進行率の値が標準的な線型最小二乗法を用いて直線に当てはめられる。このとき、硬化反応の半減期は、このようにして決定された直線の傾きの逆数である。半減期を評価する直線適合化法は、反応進行率対時間の依存性が線型であると当業者が考える場合に適している。反応進行率対時間の依存性が非線型であると当業者が考える場合には、反応の半減期を評価する他の何らかの方法が使用されよう。
【0121】
幾つかの実施態様においては、官能性混合物のポットライフは5分以上;または10分以上;または25分以上である。独立して、幾つかの実施態様においては、ポットライフは7日以下;または1日以下;または8時間以下;または2時間以下;または30分以下である。
【0122】
他の実施態様では、官能性混合物のポットライフは、より短いことが望ましい。幾つかのより短いポットライフの実施態様では、官能性混合物のポットライフは30秒以上;または1分以上;または2分以上である。独立して、幾つかのより短いポットライフの実施態様では、ポットライフは20分以下;または10分以下;または5分以下である。例えば、硬化された官能性混合物が発泡体またはエラストマーとして使用される幾つかの実施態様は、より短いポットライフの実施態様であることが望ましい。
【0123】
本発明の幾つかの実施態様においては、官能性混合物は少なくとも1つの酸捕捉剤を含んでいる。本明細書において定められた酸捕捉剤は、本発明の可溶性の弱塩基性触媒ではない化合物であり、カルボン酸または別の酸のいずれかの酸と反応することができる化合物である。「酸と反応する」とは、本明細書においては、酸捕捉剤が(例えば共有結合、イオン結合または錯体を形成することにより)酸と相互作用して一時的または恒久的な生成物を形成することができ、この酸捕捉剤と酸との間の相互作用が、酸捕捉剤以外の化合物との相互作用に前述の酸が関与する傾向を排除または低減することを意味する。酸捕捉剤の幾つかの例は、第三級アミン(例えばトリエタノールアミン)、アジリジン(例えばエチレンイミン)、カルボジイミド、有機チタン化合物、有機ジルコニウム酸塩、弱塩基性イオン交換樹脂、窒素含有樹脂(例えばポリ−2−エチル−2−オキサゾリンおよびポリビニルピロリドン)、アルカリ金属炭酸塩および重炭酸塩(例えば炭酸カリウム)、ならびにこれらの混合物である。酸捕捉剤として効果的であることが知られている幾つかの有機チタン化合物は、例えば、DuPont Co.からそれぞれTyzor(商標)TnBT、Tyzor(商標)TPTおよびTyzor(商標)AAとして販売されているチタン酸テトラブチル、チタン酸テトライソプロピルおよびアセチル酢酸チタンである。
【0124】
1以上の酸捕捉剤が使用される幾つかの実施態様においては、酸捕捉剤は1以上のカルボジイミド(CDI)を含んでいる。カルボジイミドは、次の化学構造式を有している。 R21−N=C=N−R12
式中のR21およびR12は、互いに独立して、炭化水素構造、または炭素および水素のほかに例えば酸素、窒素、イオウまたはリンをはじめとする少なくとも1つのヘテロ原子(即ち、水素または炭素以外の原子)を含む構造である。例えば、R21およびR12はアルキル、アリール、アルキル置換アリール、アリール置換アルキルおよびこれらの混合物から選択され得る。幾つかの実施態様においては、R21およびR12のうちの少なくとも一方は、少なくとも1つのエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合またはアミド結合を含んでいる。また、R21およびR12のうちの一方または両方がポリマーであるカルボジイミドも意図されている。
【0125】
幾つかの実施態様においては、本発明の酸捕捉剤は、ポリカルボジイミド(pCDI)として知られた次の構造式を有する1以上のカルボジイミドを含んでいる。
【化14】

式中、nは2以上であり、R13、R14およびR15は、それぞれ独立して、R21およびR12に適していると本明細書において上で述べられている基から選択される。R14基はすべてが同じであってよく、または(n個までの)任意の数の異なる基であってもよい。幾つかの実施態様においては、R13およびR15のうちの少なくとも一方は、少なくとも1つのエーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、ウレタン結合またはアミド結合を含んでいる。幾つかの実施態様においては、R13およびR15のうちの少なくとも一方は200以上の分子量を有している。幾つかの実施態様においては、R14基はアルキル、アリール、アルキル置換アリールおよびこれらの組み合わせから選択される。すべてのR14基がアリール、アルキル置換アリールおよびこれらの混合物から選択されるpCDIは、本明細書においては「芳香族pCDIs」として理解される。幾つかの実施態様においては、少なくとも1つのpCDIが使用される。幾つかの実施態様においては、R14基がすべて同じである少なくとも1つのpCDIが使用される。
【0126】
本発明の幾つかの実施態様は、官能性混合物の層を基体へ適用することを要件とする。この層は連続的または不連続的なフィルムであってよい。適用方法は当業者に知られた数多くの方法のうちのいずれかによるものであってよく、例えば刷毛塗り、吹き付け、ローラーコーティング、輪転グラビアコーティング、フレキソ印刷コーティング、流し塗り、カーテンコーティング、浸漬、ホットメルトコーティング、押出し、共押出し、これらと同様な方法、およびこれらの方法の組合せなどにより適用することができる。幾つかの実施態様においては、官能性混合物の層の基体への適用は環境温度で実施される。他の実施態様では、この適用は、例えば官能性混合物の粘度を調整すべく、高められた温度で実施され得る。
【0127】
他の実施態様、特に硬化された官能性混合物が発泡体またはエラストマーとして使用される実施態様では、官能性混合物は、型または他の好適な容器内においてこれらの成分を混合し、硬化反応の間、そこに保持することにより形成されてよい。代替的に、これらの成分を混合した後、この官能性混合物を型または他の好適な容器に入れ、硬化反応の間、そこに保持してもよい。
【0128】
幾つかの実施態様においては、官能性混合物は乾燥されてよい。即ち、第一のパックと第二のパックを共に混合した後であるが、官能性混合物を使用に供する前に、例えば、任意の揮発性化合物が存在する場合、溶媒をはじめとする任意の揮発性化合物を揮発させることを可能にするための期間を費やしてよい。この期間の間、幾つかの実施態様においては、官能性混合物は、低減された圧力または移動する雰囲気に晒されてもよい。乾燥は、硬化反応が起こる前、硬化反応が起こっている間、または硬化反応が起こった後に実行され得る。独立して、官能性混合物を基体へ適用することを要件とする実施態様、または官能性混合物を型に入れることを要件とする実施態様では、乾燥は、官能性混合物を基体へ適用する前、適用している間、もしくは適用後、または官能性混合物を型に入れる前、型に入れている間、もしくは型に入れた後に実行され得る。
【0129】
幾つかの実施態様においては、揮発性化合物は硬化プロセス中に殆どまたは全く放出されない。例えば、幾つかの実施態様においては、官能性混合物の重量は、硬化プロセスの間に、官能性混合物の初期重量(即ち、新たに混合されたばかりの官能性混合物の重量)に基づき、10%以下だけ低減する。幾つかの実施態様においては、官能性混合物の重量は、硬化プロセスの間に、官能性混合物の初期重量に基づき、5%以下、または2%以下、または1%以下だけ低減する。
【0130】
官能性混合物の層を基体へ適用することを要件とする幾つかの実施態様においては、1以上の基体は、官能性混合物と接触する前に、例えばコロナ放電または化学的プライマーでのコーティングなどの1以上の処理手段を用いて処理されてよい。他の実施態様では、基体は、事前の処理を伴うことなく、本発明の官能性混合物と接触させられる。官能性混合物は、例えば0.2g/m〜5.8g/m(0.12lb/リーム〜3.56lb/リーム)のレベルで適用されてよい。
【0131】
官能性混合物が基体を相互に結合するために使用される実施態様では、官能性混合物の層を第一の基体に適用した後、複合体を形成すべく、この層を別の基体と接触させることができる。このようにして形成された複合体は、これらの基体と本組成物との増強された接触を果たすべく、この複合体をローラーの間に通す方法などにより、任意に圧力が加えられる。かかる圧力は、硬化反応が実質的に完了する前に加えられることが多い。本発明の別の実施態様では、官能性混合物の層を第一の基体の両面に同時的または逐次的に適用し、この後、これらの層を2つの更なる基体と同時的または逐次的に接触させることができ、ここで、かかる2つの更なる基体は同じものであってよく、または異なるものであってもよい。更に、この複合体の構築は、ここで説明されているプロセスの前または後に、本発明の官能性混合物または別の異なる組成物を用いて他の1つまたは複数の基体に逐次的に結合され得ることも意図されている。本発明の方法において結合される第一および第二の基体は同じものまたは異なるものであってよく、例えばプラスチック、金属化されたプラスチック、金属および紙を含み、これらの基体は滑らかな表面または構造化された表面を有していてよい。
【0132】
官能性混合物が基体を相互に結合するために使用される実施態様の中で、幾つかのこれらの実施態様においては、複合体は23℃より高く加熱される。本発明の官能性混合物は23℃で硬化することができるが、幾つかの実施態様においては、複合体を23℃より高い温度に加熱することにより、硬化プロセスを急速化または別な仕方での改善を果たすことが望ましい。かかる加熱が実施される場合、複合体は35℃より高く、もしくは50℃より高く、または100℃より高い温度に加熱されてよい。また、硬化プロセスの間、複合体が35℃より下の温度に維持される実施態様も意図されている。
【0133】
官能性混合物が基体を相互に結合するために使用される実施態様の中で、幾つかのこれらの実施態様においては、殆どまたはすべてのマイケル付加反応は、官能性混合物を任意の基体と接触させる前に、または官能性混合物を1つの基体のみと接触させながら達成される。
【0134】
官能性混合物が基体を相互に結合するために使用される他の実施態様では、マイケル付加反応の実質的な部分は、官能性混合物が少なくとも2つの基体と接触しているときに起こる。幾つかのかかる実施態様においては、起こるマイケル付加反応のうちの少なくとも25モル%は、官能性混合物が少なくとも2つの基体と接触しているときに起こり、他のかかる実施態様では、起こるマイケル付加反応のうちの少なくとも50モル%、もしくは少なくとも75モル%、または少なくとも90モル%は、官能性混合物が少なくとも2つの基体と接触しているときに起こる。
【0135】
別の実施態様によれば、官能性混合物は有用な感圧性接着剤組成物である。別の実施態様によれば、官能性混合物は、剥離塗膜を含む少なくとも1つの基体と接触した状態で硬化される。別の実施態様によれば、硬化された官能性混合物は、30℃未満および25℃未満を含め、50℃未満のTgを有しており、溶媒の使用を伴い、または溶媒の使用を伴わずに、ポリマーフィルムに適用される。本発明のポリマー組成物および官能性混合物を用いて広範囲のラミネートが有用に調製される。本発明の幾つかの実施態様においては、基体は比較的薄く、平坦であり、結果として得られる複合体はラミネートと呼ばれる。ラミネート用の基体の幾つかの例は、ポリエチレンおよびポリプロピレンをはじめとするポリアルキレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、エチルセルロース、酢酸セルロース、金属化ポリプロピレン、紙、アルミニウムホイル、他の金属、セラミックシート材料などであり、これらの基体はロール、シート、フィルム、ホイルなどの形態で提供されてよい。ラミネート用の基体の更なる例は織物または不織布であり、これらの基体は、例えばコットン、ウール、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリアルキレン、ガラスまたはセラミックスをはじめとする材料でできた1以上の天然または合成の繊維を用いて、繊維から構成することができる。
【0136】
ラミネートを形成すべく基体を共に結合させるのに適した接着剤は、本明細書では「ラミネート接着剤」として知られている。
【0137】
本発明の実施において、ラミネートを形成すべく本発明の官能性混合物により相互に結合され得る基体は、互いに同じものであってよく、または互いに異なるものであってもよい。
【0138】
硬化された官能性混合物は、広範囲にわたる様々な目的のいずれかに使用することができる。例えば、硬化された官能性混合物は、基体に結合された状態のエラストマーまたはエラストマー物品のいずれかとして使用することができる。別の例では、硬化された官能性混合物は、発泡体をもたらす条件下において形成され、硬化されてよい。更なる例では、官能性混合物の層を基体へ適用し、この後、コーティングを形成すべく、空気に晒したまま放置することができる。かかるコーティングは連続的または不連続的であってよく、保護用もしくは装飾用、または保護と装飾の両方を目的としたものであってよく、例えばペイントとして、別なタイプのコーティングとして、またはインクとして機能することができる。硬化された官能性混合物での使用は、例えば、ガスケット、シーラント、屋根用膜、またはフィルムのうちの1以上としてであってよい。
【0139】
硬化された官能性混合物はそのガラス転移温度(Tg)を測定することにより特徴付けることができる。ガラス転移温度は、1ヘルツ(1サイクル/秒)におけるフレクスラルモードでの動的機械分析(DMA)により測定することができる。Tgは(損失正接)対(温度)の曲線におけるピークとして確認される。DMA試験は硬化された官能性混合物自体で実施されてよく、またはDMA試験は、硬化された官能性混合物が他の材料と接触しているときに実施されてもよい。例えば、硬化された官能性混合物が複合体の基体間における層の状態である場合、この複合体全体をDMA試験で試験することができる。当業者であれば、基体または硬化された官能性混合物以外の材料による(損失正接)対(温度)の曲線におけるいずれかのピークを如何にして無視するかを容易に知り得る。幾つかの実施態様(本明細書では「マルチ−Tg」実施態様と呼ぶ)においては、硬化された官能性混合物は、(損失正接)対(温度)の曲線において1より多くのピークを有するであろう。
【0140】
硬化された官能性混合物が特定の値「のTgを有している」という記述は、本明細書では、硬化された官能性混合物が特定の値の唯一のTgを有しているか、または硬化された官能性混合物が(損失正接)対(温度)の曲線において多数のピークを有しており、これらのピークのうちの1つが上述の特定の値のピークを有しているかの、いずれかを意味するものと理解すべきである。
【0141】
本発明の硬化された官能性混合物は、広範囲にわたるTgのいずれを有していてもよい。幾つかの実施態様においては、硬化された官能性混合物は−80℃以上のTgを有する。独立して、幾つかの実施態様においては、硬化された官能性混合物は120℃以下のTgを有する。このTgまたは複数のTgは、硬化された官能性混合物の意図された用途にとって望ましい最良の特性を与えるべく選択される。
【0142】
例えば、硬化された官能性混合物が構造用接着剤として使用されることが意図されている場合、官能性混合物は、通常、硬化された官能性混合物が50℃以上のTgを有するように選ばれる。別の例として、硬化された官能性混合物が感圧性接着剤として使用されることが意図されている場合、官能性混合物は、通常、硬化された官能性混合物が15℃以下のTg;または0℃以下のTg;または−25℃以下のTg;または−50℃以下のTgを有するように選ばれる。更に別の例として、硬化された官能性混合物がラミネート接着剤として使用されることが意図されている場合、官能性混合物は、通常、硬化された官能性混合物が−30℃以上のTg;または−15℃以上のTg;または−5℃以上のTg;または15℃以上のTg;または30℃以上のTgを有するように選ばれるであろう。
【0143】
本明細書および特許請求の範囲の目的上、本明細書において列挙されている範囲および比の境界は組み合わせられ得るものと理解すべきである。例えば、特定のパラメーターに対して60〜120、および80〜110の範囲が列挙されている場合、60〜110の範囲および80〜120の範囲も意図されていることを理解すべきである。更に、1および2の最小範囲値が列挙されている場合であって、3、4および5の最大範囲値が列挙されている場合には、以下の範囲がすべて想定されている。すなわち、1〜3、1〜4、1〜5、2〜3、2〜4、および2〜5である。
【実施例】
【0144】
材料および省略記号
SR−259=ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、Sartomer Co.から入手
Morcure(商標)2000=ジグリシジルエーテルビスフェノール−Aのジアクリレート、Rohm and Haas Co.から入手
SR−610=ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、Sartomer Co.から入手
EB−860=エポキシ化ダイズアクリレート、UCB Surface Specialties,Inc.から入手
RX−03749=低酸度のエポキシ化ダイズアクリレート、UCB Surface Specialties,Inc.から入手
EB−8402=ウレタンアクリレートオリゴマー、UCB Surface Specialties,Inc.から入手
NPGビスAcAc=ネオペンチルグリコールビスアセトアセテート
TMPトリスAcAc=トリメチロールプロパントリスアセトアセテート
PNEテトラAcAc=ペンタエリトリトールテトラアセトアセテート
V−O2−L2=脂肪族ポリカルボジイミドの溶液、当量385g/mol、水中において40%の濃度、Nisshinboにより製造
XL−1422=芳香族ポリカルボジイミド、溶媒中における50%の濃度の溶液として供給、ここで使用する前に溶媒除去、Rohm and Haas Companyにより製造
GF−10=直鎖状の低密度ポリエチレンフィルム、厚さ0.025mm(1mil)
GF−19=高滑度の直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、厚さ0.025mm(1mil)
48gPET=コロナ処理されたポリエチレンテレフタレート、厚さ0.012mm(0.48mil)
OPP=コロナ処理された延伸ポリプロピレン、厚さ0.044mm(1.75mil)
75LBW=延伸ポリプロピレン、厚さ0.019mm(0.75mil)
70SPW=延伸ポリプロピレン、厚さ0.018mm(0.70mil)
Emblem(商標)1500=Honeywellから得たナイロン、厚さ0.015mm(0.60mil)
48LBT=ポリエステルフィルム、厚さ0.012mm(48ゲージ)
92LBT=ポリエステルフィルム、厚さ0.023mm(92ゲージ)
【0145】
T−剥離試験手順:
T−剥離試験では、官能性混合物の層が第一のフィルムに適用される。官能性混合物中に存在する任意の溶媒または他の揮発性化合物は、この層の適用前、適用中、または適用後に実質的に取り除かれる。次いで、(第一のフィルムと同じ材料または第一のフィルムと異なる材料の)第二のフィルムがこの官能性混合物の層と接触させられ、このようにして形成されたラミネートがニップローラー間でプレスされる。この官能性混合物を硬化させ、または硬化するのを許容する。
【0146】
ラミネートは、試験する前に、様々な期間、環境条件(20〜25℃)下において保管される。
【0147】
幅25mm(1インチ)のラミネートの細長い一片を切り取り、この細長い一片を引張り試験機において4.2mm/秒(10in/分)の速度で引き剥がす。T−剥離試験の結果は、細長い一片を引き剥がすのに必要な最大荷重(グラム単位の荷重)として記録される。また、剥離試験中に生じた破壊の場所も記録される。本接着剤と少なくとも1つの基体との間の結合部において接着剤が破壊した場合には「A」、第一のフィルムが破壊した場合には「S1」、および第二のフィルムが破壊した場合には「S2」とした。試験前の各保管期間に対するT−剥離試験の結果および破壊モードが報告される。
【0148】
実施例1:MFA1およびMFA2の調製:
固体の酢酸カリウムを残りの成分と混合することにより、以下のそれぞれの混合物(MFA1およびMFA2)を調製した:
MFA1=5.6gのMorcure(商標)2000、2.4gのSR−259、0.1gの酢酸カリウム
MFA2=7.38gのMorcure(商標)2000、3.16gのSR−610、0.1gの酢酸カリウム
【0149】
実施例2:官能性混合物FM1およびFM2:
記載されている成分を共に攪拌することにより、以下の官能性混合物が形成された:
FM1=8.1gのMFA1、5gのTMPトリスAcAc
FM2=10.64gのMFA2、5gのTMPトリスAcAc
【0150】
実施例3:FM1およびFM2での試験結果:
上記の定義通りのT−剥離試験が、以下の基体および被膜重量(CW)を用いて実施され、結果は以下の通りであった:
【0151】
【表1】

【0152】
実施例4:ポットライフ測定
先ず、SR−259およびMorcure(商標)2000を重量で15:85のSR−259対Morcure(商標)2000の比で混合することにより、アクリレート混合物(AM1)を作成した。
【0153】
次いで、ある量(「X」グラム)の酢酸カリウム(KOAc)水溶液をAM1に加えることにより混合物を形成した。酢酸カリウム水溶液の濃度は、この水溶液の重量に基づき、70%酢酸カリウムであった。室温で形成されたとき、各混合物は曇りを帯びていた。各混合物は14.78gのAM1を含んでいた。
【0154】
この後、各混合物を9.00gのネオペンチルグリコールビス(アセトアセテート)と混ぜ合わせた。各混合物の初期粘度および時間の関数としての粘度を、25℃において、ブルックフィールド粘度計、#4スピンドル、60rpmで測定した。粘度の自然対数対時間のプロットを作成し、この線の傾きを線型最小二乗適合化法により決定した。粘度が二倍になるのに要する時間(「二倍時間」)は、2をこの線の傾きで割った値の自然対数である。ポットライフ試験混合物(PLTM)での結果は以下の通りであった:
【0155】
【表2】

【0156】
粘度が初期粘度の少なくとも5倍の値に達するまで実験が実施される場合には、データは、同じ線型最小二乗適合化法により適合化されることが期待される。このようなケースでは、粘度五倍時間は、粘度二倍時間に5の自然対数の2の自然対数に対する比を掛け算することにより求められる。従って、PLTM1の粘度五倍時間は約76分であることが期待され、PLTM2の粘度五倍時間は約33分であることが期待される。もしこれらの測定が23℃で行われた場合には、PLTM1およびPLTM2の粘度五倍時間は8時間未満であることが期待される。
【0157】
実施例5:オクタン酸ナトリウムの調製
3gの水の中で3.60gのオクタン酸を攪拌し、2.00gの水酸化ナトリウム水溶液(50%)で中和することによりオクタン酸ナトリウムを調製した。5gの水を用いて希釈および洗浄した。ワックス様の固体が形成され、約10mlのエタノールを加えることにより、この固体を溶解した。pH紙は約8のpHを示した。窒素の流れ下における蒸気浴上の時計皿上で全溶液を蒸発させることにより、4.04gの白色の固体が得られた。この固体をエタノール中においてHCl水溶液で滴定した。滴定量は5.88mmol/gであった。見積もられた純度は97.6%であった。
【0158】
実施例6:MFA中における酢酸カリウムの溶液
MFAは70重量%のMorcure(商標)2000と30重量%のSartomer SR−610の混合物であった。機械式スターラー、乾燥空気スパージャーおよび熱電対を備えた2リットルの四つ口丸底フラスコ内においてこのMFA混合物(956g)および24.5gの無水酢酸カリウムを混合し、加熱マントル上で加熱した。マントルの加熱は、熱電対に接続されたコントローラーを通じて制御された。乾燥空気のゆっくりとした流れを維持しながら、この混合物を攪拌し、徐々に75℃まで加熱し、75℃で1時間保持した。殆どの塩が溶解したようであった。この混合物を約60℃に冷却し、含まれる空気の除去を助けるべく、フラスコに真空を適用した。この混合物を熱いうちにWhatman GF/Aガラスマイクロファイバーフィルター上で真空濾過することにより、透明な粘性の樹脂が得られた(粘度(ブルックフィールド、スピンドル#4、3rpm、25℃)137Pa*s(137,000cP))。滴定は、酢酸カリウムの濃度が、MFAプラス酢酸カリウムの合計重量に基づき、2.41重量%であることを示した(理論値=2.50wt%)。
【0159】
実施例7〜8:MFA中におけるカルボン酸塩の他の溶液
機械式スターラーおよび熱電対を備えた100ml用の三つ口丸底フラスコ内において実施例6の多官能性アクリレート混合物と様々なカルボン酸塩を組み合わせ、加熱マントル上で加熱した。マントルの加熱は、熱電対に接続されたコントローラーを通じて制御された。この混合物を攪拌し、徐々に75℃まで加熱し、以下で「T75」として示されている時間の間、75℃に維持した。すべての塩が溶解していないようであった場合には、この混合物を熱いうちに焼結ガラス漏斗上で真空濾過することにより、透明な粘性の樹脂が得られた。次いで、実際に溶解したカルボン酸塩の量を決定すべくこの混合物を滴定し、MFAプラスカルボン酸塩の合計重量に基づく塩の重量パーセントを「溶解率%」として示している。これらの結果が以下に示されている:
【0160】
【表3】

【0161】
実施例9:トリメチロールプロパントリス(アセトアセテート)の調製
機械式スターラー、均圧添加漏斗(pressure equalizing addition funnel)(窒素注入口)、加熱のためのコントローラーおよびマントルに接続された熱電対、フィンガータイプの凝縮器を伴う5−プレート式オルダーショウ(Oldershaw)カラムおよび真空型蒸留ヘッド、ならびに還流比を調節するためのストップコックを備えた1リットルの四つ口丸底フラスコに、201g(1.50mol)のトリメチロールプロパン、100g(0.63mol)のtert−ブチルアセトアセテートおよび282gのトルエンを充填した。添加漏斗に追加の626.5g(3.96mol)のtert−ブチルアセトアセテートを充填した。添加漏斗と反応器を通じるゆっくりとした窒素の流れを維持し、混合物を約111℃に加熱した。フラスコの内容物が約111℃に達したときに還流が始まり、上述のヘッドの温度を82〜84℃の間に保つべく、還流比/除去を調節した。上述の追加のtert−ブチルアセトアセテートを約4時間にわたって徐々に加え、442mlの留出物を収集した。添加している間、ポット温度は徐々に117℃に上昇した。蒸留を続け、ポット温度は徐々に132℃に上昇し、ヘッド温度は更に2.3時間にわたって109℃に上昇した。収集された全留出物は472gであり、70.59%のtert−ブタノール、または理論値の100.1%であると決定された。
【0162】
この生成物を薄膜蒸留装置(wiped−film evaporator)に通すことにより単離した。1回目の通過は100℃において100mmの圧力で行われ、2回目の通過は120℃において5mmより大きい圧力(機械式真空ポンプ、フルバキューム)で行われた。単離された収率は98%であった。
【0163】
実施例10:マイケル反応半減期
実験は、サーモスタットで25℃に温度調節された水浴中において平衡化された1オンス用のキャップ付きバイアル中で実施された。各反応に対し、4.2gの触媒/多官能性アクリレート化合物(実施例8〜11から得られた)を計量し、この水浴中で少なくとも1時間平衡化した。これとは別に、トリメチロールプロパントリス(アセトアセテート)を25℃で平衡化した。「0」時点において、2.00gのトリメチロールプロパントリス(アセトアセテート)を計量して反応バイアル中に入れ、金属性スパチュラでよく混ぜ、栓をし、水浴中に移した。このバイアルをさっと攪拌して約30分、60分および120分時点(より高い触媒濃度の場合には20分、40分および60分時点)で試料を回収し、NMR分析により評価した。H NMRスペクトルをBruker Avance(商標)500装置で記録し、WIN−NMRソフトウェアを用いて分析および積分した。
【0164】
反応混合物のNMR試料はCDCl溶媒中において作成され、この溶媒は、マイケル反応をクエンチングするための酢酸(20mlの酢酸/20mlのCDCl)を含んでいた。一般に、試料を調製したときに形成された触媒塩であると思われる幾分かの沈殿物が存在したが、この沈殿物はスペクトルの取得を妨害しないようであった。Morcure(商標)2000を含む多官能性アクリレートは、Morcure(商標)構造の芳香族性プロトンに帰するδ7.12ppmおよび6.81ppmを中心とした2つの吸収性を示す。これらの吸収性はマイケル反応中に変化せず、内部標準として使用される。これら2つの吸収性の積分値の総和が共に加えられ、この総和が積分値Bである。アクリレート結合に存在する3つのプロトンはδ6.5〜5.8ppmの領域における3つのグループとして現れ、これらが共に積分され、この総和が積分値Aである。
【0165】
従って、アクリレートの規格化濃度(ここでは「[アクリレート]」と呼ぶ)は、下記である。
[アクリレート]=(積分値A)/(積分値B)
反応が起こると、アクリレートは反応のモル数に比例して消耗され、転化率は、0時点における規格化されたアクリレート積分値に対して相対的に算出することができ、この0時点における規格化されたアクリレート積分値は、多官能性アクリレート混合物自体についての[アクリレート]と同じである。従って、サンプリング時間(「t」)の関数としてのアクリレートの転化率は簡単に算出される:
AN0=0時点における[アクリレート]
ANT=t時点における[アクリレート]
転化率=(AN0−ANT)/AN0
【0166】
半減期は上記ようにして決定され、結果は以下の通りであった。
【0167】
【表4】

【0168】
この表は、反応速度と触媒濃度との用量関係を示している。
【0169】
実施例11〜12:MFA混合物中における更なる塩の溶液
実施例8の方法を用いて、以下の塩をMFA混合物中に溶解した。
【0170】
【表5】

【0171】
実施例13〜15:更なるマイケル反応半減期
実施例10の方法を用いて、様々なMFA/塩混合物をトリメチロールプロパントリス(アセトアセテート)と組み合わせ、半減期を測定したところ、結果は以下の通りであった。
【0172】
【表6】

【0173】
この表は、酢酸ナトリウムおよびオクタン酸ナトリウム触媒の反応性が、ゼロではないが、より小さなことを示している。
【0174】
実施例16:ラミネート接着剤
以下の混合物を作成した。
パックF=7.55gのMorcure(商標)2000、1.33gのSR−259および0.25gの酢酸カリウム。
パックG=2.5gのNPGビスAcAcおよび2.5gのPNEテトラAcAc。
官能性混合物を形成すべくパックFおよびパックGを組み合わせ、この官能性混合物を1.8g/m(1.1 lb/リーム)の被膜重量を有する92LBTの第一フィルムおよび厚さ0.025mm(1mil)のアルミニウムホイルからなる第二フィルムを用いて本明細書の上記で定められている通りのT−剥離試験にかけた。1日後、T−剥離荷重は182gであり、破壊モードはAであった;7日後、T−剥離荷重は120gであり、破壊モードはAであった。
【0175】
実施例17〜20:酸捕捉剤を有するラミネート接着剤
以下の混合物を作成した。
M28=7.37gのMorcure(商標)2000、および3.16gのSR−610。
パックH1=10.53gのM28、0.11gの酢酸カリウム、および0.8gのV−O2−L2。
パックH2=10.53gのM28、0.103gの酢酸カリウム、および0.34gのXL−1422。
パックJ=5gのTMPトリスAcAc。
FM17=11.44gのパックH1に5gのパックJを加えた。
FM19=10.98gのパックH2に5gのパックJを加えた。
【0176】
以下の如く、FM17およびFM19をT−剥離試験にかけた:
【0177】
【表7】

【0178】
実施例21
第一のパックを以下のようにして作成した。6.74グラムのMorcure(商標)2000を2.89グラムのSR−259と60℃において混合した後、環境温度にまで冷却させた。この混合物に0.36グラムの酢酸カリウム溶液(この酢酸カリウム溶液の重量に基づき、水中に70重量%の濃度)を攪拌しながら加えた。このパックは透明性を呈した。次いで、このパックに0.85グラムのV−O2−L2(このV−O2−L2溶液の重量に基づき、水中に40重量%の濃度)を加え、充分に攪拌した。このパックは曇りを呈した。
【0179】
第二のパックは6グラムのTMPトリスAcAcを含んでいた。
【0180】
これら2つのパックの混合物のポットライフを以下のようにして測定した。10.84グラムの第一パックを予め計量して30ml用のバイアルに入れ、水浴中において1時間の間、35℃に温度調節した。別のバイアルで、TMPトリスAcAcを、1時間の間、35℃に温度調節した。次いで、予め計量された第一パックに6グラムのTMPトリスAcAcを加え、充分に混合した。粘度測定は、この混合物が水浴(35℃)中に入っている状態で、LV25スピンドルを用いるブルックフィールド粘度計により行われた。初期粘度は436mPa*s(436cps)であり、この粘度が34分で2倍になった。従って、35℃におけるポットライフは34分であった。
【0181】
ポットライフを25℃で測定していた場合には、ポットライフが8時間未満になったであろうことが予想される。
【0182】
これら2つのパックの混合物をT−剥離試験により試験した。この混合物を35℃において第一基体上にコーティングした。結果は以下の通りであった。
【0183】
【表8】

【0184】
実施例22〜27:追加の官能性混合物
記載されている成分を混合することにより以下の官能性混合物を調製した。「PAW」は水中における酢酸カリウムの溶液であり、この溶液の重量に基づき、酢酸カリウムの濃度は70重量%である。各官能性混合物は、1:1のアセトアセテート基のモル数対アクリレート基のモル数の比を有した。「バッチサイズ」は、PAWの重量を除き、すべてのアクリレート化合物およびアセトアセテート化合物の重量の総和である。各アセトアセテート化合物の量は、以下の表において、この化合物によってもたらされるアセトアセテート基のモル百分率により特徴付けられている。同様に、各アクリレート化合物の量は、以下の表においては、この化合物によってもたらされるアクリレート基のモル百分率により特徴付けられている。例えば、FM4では、アセトアセテート基のうちの半分はNPEビスAcAcにあり、半分はTMPトリスAcAcにある。また、アクリレート基のうちの4分の3はMorcure(商標)2000にあり、一方、アクリレート基のうちの4分の1はEB−860にある。
【0185】
【表9】

【0186】
実施例27:実施例22〜26の官能性混合物の試験結果
基体としてLBTおよびAlホイル(厚さ0.254mm(1mil))を用い、上記の定義通りの剥離試験を実施した。被膜重量および剥離試験の結果は以下の通りであった。
【0187】
【表10】

【0188】
実施例28:23℃におけるポットライフ測定
70重量部のMorcure(商標)2000を30重量部のSR−259と混ぜ合わせることにより、混合物MFA28を作成した。次いで、6グラムのTMAトリスAcAc、9.63グラムのMFA33および0.34グラムのPAW(本明細書において上で定義通り)を混合することにより、FM28を作成した。時間の関数として、FM28の粘度を、23℃において、LV25スピンドルを有するブルックフィールド粘度計で測定した。回転速度(rpm)は、それぞれの読み取りが(本明細書の上記で検討されている如く)適切になるように選択された。結果は以下の通りであった。
【0189】
【表11】

【0190】
粘度二倍時間は11分から12分までの間であった。粘度五倍時間は15分から16分までの間であった。粘度は、18分から19分までの間で元の値の10倍に達し、31分から32分までの間で元の値の100倍に達した。
【0191】
実施例29:反応物の酸レベルが硬化速度に及ぼす影響:
5重量部のネオペンチルグリコールNPビスAcAc、14.8重量部の高酸度のエポキシ化ダイズアクリレートであるEB−860(商標)、および0.33重量部の炭酸カリウムを混ぜ合わせることにより、混合物1を作成した。硬化時間は19時間より長かった。同量のNPGビスAcAcおよび炭酸カリウムを14.8重量部の低酸度のエポキシ化ダイズアクリレート(酸#<0.5)であるRX−04852(登録商標)と共に用いて比較したところ、11.5分の硬化時間が観測された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造単位RおよびR(任意に下記構造単位R及び/又はRと組み合わせた)を含むポリマー組成物
【化1】

(式中、mおよびnは1より大きい、または1に等しい整数値であり、(m+R):(n+R)のモル比は2:1未満、または2:1に等しく;R、R、RおよびRは有機基であり;RはHおよびCHから選択される有機基であり;R10はH、RおよびRから選択される有機基であり;該ポリマー組成物の合計重量に基づき、少なくとも25重量%の、R、R、RおよびRの合計はバイオベースの原料から誘導されたものである)。
【請求項2】
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの可溶性弱塩基性触媒;
を含む官能性混合物であり、ここで、少なくとも1つのマイケルアクセプターが、官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、当該アクセプターの化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであり、触媒がカルボン酸のナトリウム塩、カルボン酸のマグネシウム塩、カルボン酸のアルミニウム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルカルボン酸のクロム塩、芳香族カルボン酸のクロム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のカリウム塩、多カルボン酸のカリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸エステルのカリウム塩およびこれらの混合物からなる群から選択される、官能性混合物。
【請求項3】
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの塩基性触媒;
を含む官能性混合物であり、ここで、少なくとも1つのマイケルアクセプターが、官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、当該アクセプターの化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであり、塩基性触媒が第三級アミン触媒、テトラメチルグアニジン(TMG)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、水酸化物、エトキシド、炭酸塩、炭酸カリウム、重炭酸塩、重炭酸カリウム、リン酸塩、リン酸水素塩、またはマイケルドナーのアニオンからなる群から選択される、官能性混合物。
【請求項4】
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの可溶性弱塩基性触媒;
を含む官能性混合物であり、ここで、少なくとも1つのマイケルドナーが、官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、当該ドナーの化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであり、触媒がカルボン酸のナトリウム塩、カルボン酸のマグネシウム塩、カルボン酸のアルミニウム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルカルボン酸のクロム塩、芳香族カルボン酸のクロム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のカリウム塩、多カルボン酸のカリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸エステルのカリウム塩およびこれらの混合物からなる群から選択される、官能性混合物。
【請求項5】
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの塩基性触媒;
を含む官能性混合物であり、ここで、少なくとも1つのマイケルドナーが、官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い量で存在し、当該ドナーの化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであり、上記塩基性触媒が第三級アミン触媒、テトラメチルグアニジン(TMG)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、水酸化物、エトキシド、炭酸塩、炭酸カリウム、重炭酸塩、重炭酸カリウム、リン酸塩、リン酸水素塩、またはマイケルドナーのアニオンからなる群から選択される、官能性混合物。
【請求項6】
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの可溶性弱塩基性触媒;
を含む官能性混合物であり、ここで、化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであるドナーおよびアクセプターの重量の総和が、官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多く、触媒がカルボン酸のナトリウム塩、カルボン酸のマグネシウム塩、カルボン酸のアルミニウム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルカルボン酸のクロム塩、芳香族カルボン酸のクロム塩、6個以下の炭素原子を有するアルキルモノカルボン酸のカリウム塩、多カルボン酸のカリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸エステルのカリウム塩およびこれらの混合物からなる群から選択される、官能性混合物。
【請求項7】
(i)少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプター;
(ii)少なくとも1つの多官能性マイケルドナー;および
(iii)少なくとも1つの塩基性触媒;
を含む官能性混合物であり、ここで、化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであるドナーおよびアクセプターの重量の総和が、官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多く、塩基性触媒が第三級アミン触媒、テトラメチルグアニジン(TMG)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)、水酸化物、エトキシド、炭酸塩、炭酸カリウム、重炭酸塩、重炭酸カリウム、リン酸塩、リン酸水素塩、またはマイケルドナーのアニオンからなる群から選択される、官能性混合物。
【請求項8】
請求項1記載の組成物を形成する工程を含む方法により形成される物品であって、前記物品が接着剤、シーラント、エラストマー、発泡体、フィルム、コーティング剤、またはこれらの組合せである物品。
【請求項9】
光開始剤の添加を必要としない、請求項1記載の光硬化性ポリマー組成物。
【請求項10】
ポリマー組成物に基づき、1重量パーセント未満の光開始剤の添加を必要とする、請求項1記載の光硬化性ポリマー組成物。
【請求項11】
弱塩基性触媒、塩基性触媒および他の触媒からなる群から選択される1以上の触媒を、少なくとも1つの多官能性マイケルドナーおよび少なくとも1つの多官能性マイケルアクセプターを含む官能性混合物の部分(全てまで、及び全てを含む)に添加する工程を含む、官能性混合物を調製するための方法であって;化学的骨格がバイオベースの原料から誘導されたものであるドナーおよびアクセプターの重量の総和が、官能性混合物の合計重量に基づき、25重量%より多い、官能性混合物の調製方法。
【請求項12】
請求項1記載の生分解性または堆肥化可能なポリマー組成物。

【公開番号】特開2006−89743(P2006−89743A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−274962(P2005−274962)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(590002035)ローム アンド ハース カンパニー (524)
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
【Fターム(参考)】