説明

バインダー樹脂用溶剤

【課題】本発明は、乾燥時に乾燥斑を生じず、かつ乾燥残渣を生じず、薄膜化に適する粘度を有するペースト用樹脂溶液などを容易に製造できるバインダー樹脂用溶剤を提供することを課題とする。
【解決手段】一般式(1):


[式中、RおよびR'は、互いに独立して水素原子又はC1〜C4アシル基である]
で表わされるイソプレン誘導体であることを特徴とするバインダー樹脂用溶剤により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー樹脂用溶剤およびその用途に関する。本発明で提供されるバインダー樹脂用溶剤は、多層セラミックやプラズマディスプレイ、太陽電池などの電子部品の製造などに主に使用される。
【0002】
本発明は、バインダー樹脂用溶剤及びその用途に関する。本発明で提供されるバインダー樹脂用溶剤は、多層セラミックやプラズマディスプレイ、太陽電池などの電子部品の製造などに主に使用される。
【背景技術】
【0003】
電子部品の製造分野では、機能性を発揮する金属やガラスをバインダー樹脂溶液と混合してペースト状とし、これを基板等に塗布し、乾燥・焼結することにより、電極、素子又は回路パターン等を製造している。近年の電子機器の小型化に伴い、部品や基板の小型化と集積度の向上を目的に、基板の多層化、薄膜化が求められている。
【0004】
具体的なセラミックの製造工程を次に示す。まずバインダー樹脂としてポリビニルブチラール樹脂などをバインダー樹脂用溶剤に溶解し、さらにセラミックなどの無機物を加えてペーストとする。これをシート状に形成して乾燥し、グリーンシートとする。
次にバインダー樹脂としてエチルセルロース樹脂などをバインダー樹脂用溶剤に溶解し、さらにニッケル、パラジウムなどの導電性金属材料を加えてペーストとする。このペーストを先ほどのグリーンシート上に塗布し、乾燥して配線パターンなどを形成し、さらに乾燥する。この操作を複数回繰り返して積層体とし、高温で焼成させることによって積層セラミックコンデンサーを製造している。
【0005】
このような製造工程において、基板の多層化、薄膜化に適する塗布用ペースト状バインダー樹脂溶液の製造には、使用するバインダー樹脂量を削減しつつ、適度な一定の粘度を維持し、グリーンシートに含まれている樹脂を溶解(シートアタック)せず、さらに層間剥離現象(デラミネーション)を抑制するなどの特徴を持つバインダー樹脂用溶剤が求められている。
しかしエチルセルロース樹脂などを溶解させたバインダー樹脂用溶剤が、ポリビニルブチラール樹脂なども溶解できると、シートアタックが起きて積層される層の形成が不十分となり、満足する物性を持つ積層コンデンサを得ることができない。また乾燥、焼成工程においても、バインダー樹脂用溶剤が均一に揮発・発散しないと乾燥むらなどが起こり、満足する物性を持つ積層コンデンサーを得ることができない。
このようにバインダー樹脂用溶剤には、その揮発性に加え、用いる樹脂の溶解性および粘度において、様々な物性が要求される。
【0006】
従来技術において、エチルセルロース樹脂などを溶解するバインダー樹脂用溶剤として様々な例が知られている。たとえば、テルピネオール、ブチルカルビトール、ケロシンを用いること(特許文献1);水添テルピネオールを用いること(特許文献2);水素添加テルピネオールアセテートを用いること(特許文献3);p−メンタン1,8−ジオールのモノまたはアシレート体を用いること(特許文献4);イソボニルアセテートおよび/またはノイルアセテートを用いること(特許文献5);ターピニルアセテートを用いること(特許文献6);イソプレン(メタ)アクリレート系ディールスアルダー化合物を用いること(特許文献7);芳香環含有エステル化合物または芳香環含有エーテル化合物を用いること(特許文献8)などを例として挙げることができる。
【0007】
これらの特許文献に用いられているバインダー樹脂用溶剤はシートアタック性を回避するために、ポリビニルブチラール樹脂などを溶解したバインダー樹脂用溶剤と異なる溶剤が一般的に用いられている。しかし異なる溶剤を用いると、グリーンシート形成工程と誘電体層形成工程においてそれぞれの溶剤の揮発性に適した乾燥条件で行わないと、乾燥斑の原因となる。
【0008】
さらにこれらの特許文献に用いられているバインダー樹脂用溶剤は一般的に非水溶性の有機化合物であり、引火性物質である。一般に製造工程では引火の危険を低減させるために水を含んだ溶剤を用いることがあるが、これら特許文献記載に用いられているバインダー樹脂用溶剤は水への溶解性が低いため、含水の状態で使用することは難しい。
【0009】
また特許文献1〜7で用いられているバインダー樹脂用溶剤は主に環状テルペン系化合物である。これら環状テルペン系化合物は松脂などの天然物を原料源として製造されるが、天然物は天候などの自然環境で入手性が左右される場合がある。さらに産地ごとで多少の成分差異があり、品質のばらつき原因となる場合がある。また特許文献4、5、7および8で使用されているバインダー樹脂用溶剤は、多段階の反応を経て製造する必要がある。
【0010】
一方、バインダー樹脂として水溶性樹脂であるポリビニルアルコール樹脂やヒドロキシアルキルセルロース樹脂を用いる際には、一般に、水が主溶剤として用いられるが、用いるバインダー樹脂の種類や、バインダー樹脂溶液の物性をコントロールするため、様々な水溶性有機化合物が併用される場合が多い。例えば、ポリビニルアルコール樹脂などと共に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを用いること(特許文献9);ヒドロキシプロピルメチルセルロース樹脂などと共にグリセリンを用いること(特許文献10);水溶性フェノール樹脂などと共にプロピレングリコールなどを用いること(特許文献11);2−ヒドロキシエチルセルロースまたは2−ヒドロキシプロピルセルロース樹脂などと共にプロピレングリコールを用いること(特許文献12および13);メチルセルロース樹脂またはヒドロキシアルキルセルロース樹脂などと共にプロピレングリコールを用いること(特許文献14)などを例として挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平02−5591公報
【特許文献2】特開平07−21832公報
【特許文献3】特開平07−21833公報
【特許文献4】特開平09−328570公報
【特許文献5】特開2002−270456公報
【特許文献6】特開2006−12690公報
【特許文献7】特開2006−278162公報
【特許文献8】特開2007−158073公報
【特許文献9】特開平05−190015公報
【特許文献10】特開平07−142833公報
【特許文献11】特開平09−282937公報
【特許文献12】特開平09−286924公報
【特許文献13】特開2001−11388公報
【特許文献14】特開2009−170242公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の水溶性有機化合物を用いる場合においても、該化合物が毒性を有していたりする問題、また用いる水溶性有機化合物の揮発性が水と大きく異なる場合には、乾燥時に乾燥斑の原因となり易いなどの問題が見られる。
このように従来、電子製部品を製造するために、様々な有機溶剤がバインダー樹脂用溶剤として用いられているが、膜形成後のバインダー樹脂を溶解せずに、バインダー樹脂粉末原料を溶解し、目的とする電子部品を容易に製造できるバインダー樹脂用溶剤は見出されていない。
そこで、本発明は、乾燥時に乾燥斑を生じず、かつ乾燥残渣を生じず、薄膜化に適する粘度を有するペースト用バインダー樹脂溶液などを容易に製造できるバインダー樹脂用溶剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、鋭意研究努力を重ねた結果、バインダー樹脂用溶剤としてイソプレン誘導体を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
かくして、本発明によれば、一般式(1):
【化1】

[式中、RおよびR'は、互いに独立して水素原子又はC1〜C4アシル基である]
で表わされるイソプレン誘導体であることを特徴とするバインダー樹脂用溶剤が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、前記C1〜C4アシル基が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリルおよびイソブチリル基からなる群から選択される前記バインダー樹脂用溶剤が提供される。
【0016】
また、本発明によれば、前記一般式(1)におけるRおよびR'が、互いに独立して、水素原子またはアセチルもしくはプロピオニル基であり、前記イソプレン誘導体が、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチル アセテート、3−ヒドロキシ−3−メチルブチル プロピオネート、3−アセトキシ−3−メチルブチル アセテートおよび3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチル プロピオネートからなる群から選択される1種または2種以上の混合物である前記バインダー樹脂用溶剤が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、前記バインダー樹脂用溶剤が、バインダー樹脂材料可溶性溶剤であり、乾燥形成した樹脂層表面を溶解しないバインダー樹脂用溶剤が提供される。
【0018】
さらに、本発明によれば、前記バインダー樹脂が、エチルセルロース、ポリビニルブチラールまたはヒドロキシプロピルセルロース樹脂である前記バインダー樹脂用溶剤が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるバインダー樹脂用溶剤は、前記一般式(1)で表されるイソプレン誘導体の1種または2種以上の混合物を使用することにより、エチルセルロース、ポリビニルブチラールまたはヒドロキシプロピルセルロース樹脂の選択的可溶化剤としてバインダー樹脂用溶剤に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートおよび3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートのTG(ThermoGravimetry)測定結果を示す図である。
【図2】3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルプロピオネートおよび3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチルプロピオネートのTG測定結果を示す図である。
【図3】3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートならびに3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートにエチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂またはヒドロキシプロピルセルロース樹脂をそれぞれ溶解した樹脂溶液のTG測定結果を示す図である。
【図4】横軸にバインダー樹脂用溶剤として3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール(100〜0重量%)と3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート(0〜100重量%)との混合物の割合を示し、左端の縦軸に、前記混合物におけるポリビニルブチラール樹脂およびヒドロキシプロピルセルロース樹脂を溶解した樹脂溶液の粘度を示し、右端の縦軸に、エチルセルロース樹脂を可溶化した樹脂溶液の粘度を示す図である。
【図5】バインダー樹脂用溶剤として水、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートおよび20%含水3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートを用いてヒドロキシプロピルセルロース樹脂を溶解した樹脂溶液のTG測定結果を示す図である。
【図6】現在一般的に用いられているバインダー樹脂用溶剤の例としての水素添加テルピネオールアセテートおよび水素添加テルピネオールのTG測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明で用いられる用語「バインダー樹脂用溶剤」とは、塗膜となるバインダー樹脂成分を溶解するための溶剤を意味し、該溶剤に溶解した樹脂溶液に金属粉末などの無機物やガラス粉末を添加し、有機EL、プラズマディスプレイまたは積層セラミックコンデンサーの製造に用いられる膜形成用塗布液の製造に好適に用いられ得る。
【0022】
本発明で用いられる用語「バインダー樹脂」としては、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール樹脂などのポリエーテル樹脂類;メチルセルロース、エチルセルロースおよびニトロセルロース樹脂などのセルロース樹脂類;ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース樹脂などヒドロキシアルキルセルロース樹脂類;ポリビニルホルマールおよびポリビニルブチラール樹脂などのポリアセタール樹脂;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステルおよびアクリル−スチレン樹脂などのアクリル樹脂類;ロジン;アルキッド樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;エポキシ樹脂などの様々な樹脂が挙げられる。
【0023】
本発明によるバインダー樹脂用溶剤は、バインダー樹脂を含むバインダー樹脂用溶剤が、一般式(1):
【0024】
【化2】

[式中、RおよびR'は、互いに独立して水素原子又はC1〜C4アシル基である]
で表わされるイソプレン誘導体が単独で用いられるかまたは2種以上の混合物として用いられることを特徴とする。
前記C1〜C4アシル基は、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリルまたはイソブチリル基を意味する。
【0025】
また、本発明による前記一般式(1)におけるRおよびR'が、互いに独立して、水素原子またはアセチルもしくはプロピオニル基である場合、前記イソプレン誘導体は、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチル アセテート、3−ヒドロキシ−3−メチルブチル プロピオネート、3−アセトキシ−3−メチルブチル アセテートまたは3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチル プロピオネートである。
【0026】
上記の3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールは、イソブテンとホルムアルデヒドとの反応により得られる4,4−ジメチル−1,3−ジオキサンを加水分解して製造されており、工業的に入手可能である。
さらに上記の3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールを原料とし誘導化することにより、前記の一般式(1)で表される様々なイソプレン誘導体を製造できる。
【0027】
具体的には、上記の3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチル アセテート、3−ヒドロキシ−3−メチルブチル プロピオネート、3−アセトキシ−3−メチルブチル アセテートおよび3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチル プロピオネートは、上記の3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールを、溶媒中、アシル化剤を用いるアシル化反応に付すことにより、それぞれ製造できる。
【0028】
すなわち、前記の一般式(1)においてRおよび/またはR'がC1〜C4アシル基である化合物は、それぞれ対応するC1〜C4カルボン酸、C1〜C4カルボン酸無水物またはC1〜C4カルボン酸ハライドを3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールに反応させることにより製造できる。
【0029】
上記のアシル化剤としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸およびイソ酪酸などのC1〜C4カルボン酸;ギ酸無水物、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、酪酸無水物およびイソ酪酸無水物などのC1〜C4カルボン酸無水物;フッ化ギ酸、塩化酢酸、塩化プロピオン酸、塩化酪酸および塩化イソ酪酸などのC1〜C4カルボン酸ハライド;またはギ酸イミダゾール、酢酸イミダゾール、プロピオン酸イミダゾール、酪酸イミダゾールおよびイソ酪酸イミダゾールなどのC1〜C4カルボン酸イミダゾール化合物などの当業者に周知のアシル化剤が挙げられる。
【0030】
上記のアシル化剤を用いるアシル化反応は、通常、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサン、ベンゼンまたはトルエンなどの不活性溶媒中、冷却下または室温〜溶媒の沸点の間の温度で行うことができる。
【0031】
例えば、上記のC1〜C4カルボン酸を用いる上記の3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールのアシル化反応は、通常、ベンゼンまたはトルエン中、触媒量の硫酸またはp−トルエンスルホン酸などの酸触媒の存在下または非存在下に、加熱還流し、ディーンスタークにより脱水縮合により生成した水を留去しながら反応を行うか、過剰のカルボン酸を用い反応を行うことにより3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールをアシル化することができる。
【0032】
あるいは、上記の反応において、ディーンスタークを用いる代わりに、十分な量の乾燥し活性化したモレキュラーシーブに脱水縮合により生成した水を吸着させて反応を行うか、N,N'−ジシクロへキシルカルボジイミドなどの縮合剤の存在下に反応を行うことにより、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールをアシル化することができる。
【0033】
また、上記のC1〜C4カルボン酸無水物を用いるアシル化反応は前記の溶媒の存在下または非存在下に、上記のC1〜C4カルボン酸イミダゾール化合物を用いるアシル化反応は前記の溶媒の存在下に、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールと反応を行うことにより、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールをアシル化することができる。
また、上記のC1〜C4カルボン酸ハライドを用いるアシル化反応は、前記の溶媒中、トリエチルアミン、ピリジンもしくは4−ジメチルアミノピリジンなどのルイス塩基の存在下に反応を行うことにより、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールをアシル化することができる。
【0034】
具体的には、前記の一般式(1)において、Rが水素原子で、R'がアセトキシ基である3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートや、RおよびR'が共にアセトキシ基である3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートは、上記の3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールに、酢酸、無水酢酸または酢酸クロリドを反応させることにより製造できる。
【0035】
さらに、前記の一般式(1)においてRが水素原子で、R'がプロピオニル基である3−ヒドロキシ−3−メチルブチルプロピオネートや、RおよびR'が共にプロピオニル基である3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチルプロピオネートは、上記の3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールに、プロピオン酸、無水プロピオン酸またはプロピオン酸クロリドを反応させることにより製造できる。
【0036】
なお、一般的に、アルコール反応性としては、一級アルコールよりも二級および三級アルコールが反応性が高いが、エステル形成時に立体障害が影響する場合、三級アルコールよりも一級アルコールのほうがエステル結合を形成し易いことが知られている。
したがって、前記の一般式(1)においてRが水酸基で、R'がC1〜C4アシル基の化合物を製造する場合は、以下の実施例に示すように、使用する反応試剤の種類および使用量や反応時間を調整することにより選択的に所望の位置のアシル化化合物を製造できる。
【0037】
これら例示した製造方法は用いる原料、アシル化剤および縮合反応により反応条件は異なるが、通常、常圧あるいは減圧下、0℃〜200℃の範囲、好ましくは室温〜溶媒の沸点の間の温度で実施される。さらに製造した一般式(1)で表されるバインダー樹脂用溶剤は、常圧、あるいは減圧条件下で、蒸留、シリカゲルもしくはアルミナカラムクロマトグラフィーまたはHPLCなどの公知の方法により精製することも可能であるが、場合によっては反応後得られた化合物を未精製の状態で使用することもできる。
【0038】
前記の一般式(1)で表わされるバインダー樹脂用溶剤は、イソプレン骨格を共通の炭素骨格として有しているため、以下の実施例に示すように、本発明によるバインダー樹脂用溶剤は、ほぼ同じの揮発性を示すという特徴がある。
しかしながら、本発明によるバインダー樹脂用溶剤は、分子内の官能基の違い、すなわちヒドロキシ基が未反応であるか、またはエステル結合を形成しているかの違いを選択することにより、バインダー樹脂用溶剤の水溶性、バインダー樹脂の溶解度およびバインダー樹脂を溶解して製造した樹脂溶液の粘度などの物性を自由にコントロールできることを特徴とする。
【0039】
より具体的には、前記一般式(1)において、RおよびR'が共に水素原子である3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノールは、粘性が高く水に任意に混合できるという特徴を有する。
また、前記一般式(1)においてRおよびR'共にアセチル基である3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートは、粘性が低く非水溶性で有機溶剤に混合できるという特徴を有する。
さらに前記一般式(1)において、Rが水素原子でありR'がアセチル基である3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートは、前記の2つの溶剤の中間の物性を持つという特徴を有する。
【0040】
したがって、上記の溶剤を単独で、または任意に混合して使い分けることにより、目的とする物性を持つ樹脂溶液を製造することができる。
さらに上記の本発明による複数のバインダー樹脂用溶剤を混合して製造した樹脂溶液を用いて成型し乾燥しても、該樹脂溶液に用いられた複数のバインダー樹脂用溶剤の揮発性は殆ど同じであるため、乾燥工程において乾燥斑の発生がない目的物を得ることができる。
【0041】
具体的には、前記一般式(1)においてRおよびR'が共に水素原子である3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノールは、極性が低いエチルセルロース樹脂などは溶解しないが、極性が高いポリビニルブチラール樹脂は溶解する。
また、前記一般式(1)においてRおよびR'共にアセチル基である3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートは、エチルセルロース樹脂などは溶解するが、ポリビニルブチラール樹脂などは溶解しない。
【0042】
さらにこれら2つの溶剤を混合して用いると、バインダー樹脂の溶解性や得られる樹脂溶液の粘度を調整することができる。
たとえば、3000cps以上のポリビニルブチラール樹脂を含む樹脂溶液を製造したい場合には、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブタノールと3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートの混合溶剤100に対して、3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート10〜50重量%、好ましくは15〜40重量%含むバインダー樹脂用溶剤を用いればよい。
【0043】
また、3000cps以下のポリビニルブチラール樹脂を含む樹脂溶液を製造したい場合には、上記の混合溶剤100に対して、3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート0〜15重量%、好ましくは0〜10重量%を含むバインダー樹脂用溶剤、あるいは3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート40〜80重量%、好ましくは45〜80重量%含むバインダー樹脂用溶剤を用いればよい。
【0044】
また、3000cps以上のヒドロキシプロピルセルロース樹脂を含む樹脂溶液を製造したい場合、上記の混合溶剤100に対して、3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート0〜30重量%、好ましくは0〜20重量%含むバインダー樹脂用溶剤を用いればよい。
【0045】
また3000cps以下のヒドロキシプロピルセルロース樹脂を含む樹脂溶液を製造したい場合、上記の混合溶剤100に対して、3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート20〜80重量%含む混合バインダー樹脂用溶剤を用いればよい。
さらに100cps以上のエチルセルロース樹脂を含む樹脂溶液を製造したい場合、上記の混合溶剤100に対して、3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%含むバインダー樹脂用溶剤を用いればよい。
【0046】
また、100cps以下のヒドロキシプロピルセルロース樹脂を含む樹脂溶液を製造したい場合、上記の混合溶剤100に対して、3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート60〜100重量%含むバインダー樹脂用溶剤を用いればよい。
本発明によるバインダー樹脂用溶剤は、上記のように樹脂溶液の粘度調製を容易にでき、従来のバインダー樹脂用溶剤を用いた樹脂溶液より薄層化およびバインダー樹脂量の低減化ができるという特徴を有する。
【0047】
また本発明のバインダー樹脂用溶剤である前記一般式(1)においてRが水素原子でありR'が水素原子もしくは低級アシル基である化合物は、含水した状態でも様々な樹脂を溶解することができ、エチルセルロースなどの非水溶性樹脂を始めとして、ポリビニルブチラール樹脂、ヒドロキシアルキルセルロース樹脂などの水溶性樹脂も溶解することができる。
【0048】
本発明のバインダー樹脂用溶剤は、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ヒドロキシアルキルセルロース樹脂などに限らず、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル類、メチルセルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどセルロース類、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、アクリル−スチレン共重合体等のアクリル樹脂、ロジン、アルキッド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂など、水溶性、非水溶性に関らず様々なバインダー樹脂を用いて樹脂溶液を製造できる。この場合、本発明のバインダー樹脂用溶剤は通常バインダー樹脂に対して0.5倍重量〜500倍重量、好ましくは3倍重量〜100倍重量用いられる。
【0049】
電子材料分野で本発明のバインダー樹脂用溶剤は、金属微粒子、有機金属化合物微粒子またはガラス微粒子などを含むペースト状の塗布液は、半導体、多層セラミックコンデンサーまたは多層セラミック基板製造に好適に使用される。
用いられる金属粒子は、特に限定されないが、例えば、Pd、Ag、Au、Pt、Ni、Cu等の金属の単体、これら金属の混合物又は合金の微粒子が挙げられる。
一方、有機金属化合物は、特に限定されないが、例えば前記金属のアセチルアシレート錯塩、カルボン酸塩、硫化物等が挙げられる。
【0050】
これら金属粒子又は有機金属化合物と樹脂溶液との配合割合(重量比)は、1:0.2〜0.6、特に1:0.3〜0.5が好ましい。樹脂溶液の配合割合が、0.6より多い場合、焼成後の金属膜が厚くなりすぎ、剥離や割れの原因となるので好ましくなく、0.2より少ない場合、焼成後の金属膜が薄くなりすぎて、電極としての性能が不安定になるので好ましくない。
【0051】
一方、ガラス微粒子を使用する場合、樹脂溶液との配合割合(重量比)は、例えば1:0.1〜0.3が好ましい。本発明のバインダー樹脂用溶剤を用いたペースト状塗布液は、各成分を混練することにより得られる。
本発明のバインダー樹脂用溶剤を用いたペースト状塗布液の塗布方法としては、スクリーン印刷、パッド印刷、スプレー法、ディッピング法、スピンコート法、筆塗り法が挙げられる。
【0052】
塗布液の室温または加熱による乾燥後、約600〜1200℃で焼成することにより金属成分又はガラス成分のみが残り薄膜回路又はガラス層を形成することができる。また、焼成前に、本発明のペーストが塗布されたグリーンシートを積層し、次いでこのシートを圧着し、更に焼成することで積層セラミックコンデンサー、多層セラミック基板等の積層体を作成することも可能である。
【実施例】
【0053】
以下に具体的な合成例、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの製造例および実施例によりなんら制限されるものではない。
【0054】
製造例1
3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートの製造
3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール(商品名:イソプレングリコール、株式会社クラレ製)1283g(12.3モル)に酢酸1618g(27モル)を混ぜて加熱し、留出温度が100℃〜102℃になるように反応液の温度を128℃〜130℃に維持した。9時間後、304.8gの水および酢酸が留出したところで、冷却した。反応液温度112℃になった時点で、アスピレーターにより減圧を行い、減圧度17.6kPa、留出温度70℃で未反応の酢酸を回収した。その後、減圧度6.7kPa、留出温度130℃で本留分として1416.5gを得た。この生成物を1H−もしくは13C−NMRおよびガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートが90.1%、原料の3−ヒドロキシ−3−メチルブチタノール5.6%、さらに3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート4.3%含まれていることがわかった。
ガスクロマトグラフィー分析条件:OV−17パックド 2mカラム、窒素キャリヤーガス、インジェクション温度240℃、検出器温度240℃、カラムオーブン温度80℃から200℃、15℃/分昇温
【0055】
製造例2
3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートの製造
3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール834g(8モル)に酢酸962g(16モル)を混ぜて加熱し、留出温度が100℃〜102℃になるように反応液の温度を128℃〜134℃に維持した。14.5時間後、396gの水および酢酸が留出したところで、冷却した。反応液温度106℃になった時点で、無水酢酸714g(7モル)入れて反応温度100〜110℃で攪拌した。さらに10時間後無水酢酸380g(3.7モル)を入れて温度100〜110℃で攪拌した。ガスクロマトグラフィー(分析条件は前記記載の方法)で原料3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールおよび中間体3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートがほぼ消失したことを確認後、アスピレーターにより減圧を行い、減圧度37.3kPa、留出温度73〜88℃で未反応の酢酸および無水酢酸を回収した。その後、減圧度5.0kPa、留出温度127℃で本留分として911gを得た。この生成物を1H−もしくは13C−NMRおよびガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート99.3%含まれていることがわかった。
【0056】
製造例3
3−ヒドロキシ−3−メチルブチルプロピオネートの製造
3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール313g(3モル)にプロピオン酸500g(6.75モル)、トルエン100gを混ぜて加熱し、留出温度が87〜112℃になるように反応液の温度を122〜141℃に維持した。7.5時間後、留出留分から分離した水の量が51.5mlとなったところで冷却した。アスピレーターにより減圧を行い、減圧度3.0kPa、留出温度53.7℃でシクロヘキサンと未反応のプロピオン酸を回収した。その後、減圧度1.5kPa、留出温度70.3℃で本留分として300gを得た。この生成物を1H−もしくは13C−NMRおよびガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−ヒドロキシ−3−メチルブチルプロピオネートが99.2%、原料の3−ヒドロキシ−3−メチルブチタノール0.3%、さらに3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート0.3%含まれていることがわかった。
【0057】
製造例4
3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチルプロピオネートの製造
3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール313g(3モル)にプロピオン酸500g(6.7モル)を混ぜて加熱し、減圧度44pKaで留出温度が121℃〜124℃になるように反応液の温度を130℃に維持した。14時間後180.8gの水およびプロピオン酸が留出したところで常圧に戻し、冷却した。反応液温度120℃になった時点で、無水プロピオン酸650g(5モル)入れて反応温度120℃で攪拌した。34時間後、ガスクロマトグラフィーで、原料3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールおよび中間体3−ヒドロキシ−3−メチルブチルプロピオネートがほぼ消失したことを確認後、アスピレーターにより減圧を行い、減圧度7.1〜5.0kPa、留出温度62〜75℃で未反応のプロピオン酸および無水プロピオン酸を回収した。その後、減圧度6.1kPa、留出温度144℃で本留分として569.7gを得た。この生成物を1H−もしくは13C−NMRおよびガスクロマトグラフィーで分析したところ、目的とする3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチルプロピオネート99.5%含まれていることがわかった。
【0058】
実施例1
前記式(1)で表されるバインダー樹脂用溶剤の揮発性
図1に3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール(□)、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテート(○)、3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート(▲)のTG(ThermoGravimetry)測定結果を示す。このようにこれらのバインダー樹脂用溶剤はほぼ同じ揮発性を示すことがわかる。
TG分析装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 TG/DTA6300
TG測定条件:30℃〜600℃、10℃/分昇温、空気流量100ml/分
【0059】
実施例2
前記式(1)で表されるバインダー樹脂用溶剤の揮発性
図2に3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール(□)、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルプロピオネート(■)、3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチルプロピオネート(△)のTG測定結果を示す。このようにこれらのバインダー樹脂用溶剤はほぼ同じ揮発性を示すことがわかる。
TG分析装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 TG/DTA6300
TG測定条件:30℃〜600℃、10℃/分昇温、空気流量100ml/分
【0060】
実施例3
エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ヒドロキシプロピルセルロース樹脂に対する前記式(1)で表されるバインダー樹脂用溶剤の溶解性
表1に示した本発明のバインダー樹脂用溶剤20gを50ml共栓付三角フラスコにいれ、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂またはヒドロキシプロピルセルロース樹脂1gをそれぞれ入れて60℃で攪拌して分散させた。その後20℃に冷却し、樹脂の溶解状態を目視で確認した。その溶解状態と、溶解した溶液の粘性(B型粘度計(BROOKFIELD社製DV-II Pro VISCOMETER)で測定:測定温度20℃)を結果を表1に示す。なお表中の数値(cps)はその溶液の粘度を示し、「―」はバインダー樹脂が未溶解であったことを示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示されているように、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールは、ブチラール樹脂を良好に溶解するがエトキシセルロース樹脂は溶解しない。
また3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートは、ブチラール樹脂を溶解しないがエトキシセルロール樹脂は溶解できることが明らかになった。
また3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートは、ブチラール樹脂、エトキシセルロース樹脂およびヒドロキシプロピルセルロース樹脂のいずれをも良好に溶解できることが明らかになった。
【0063】
実施例4
各種樹脂溶液のTG測定
図3には、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテート(▲)、さらに3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートにバインダー樹脂として、エチルセルロース樹脂(□)、ポリビニルブチラール樹脂(■)、ヒドロキシプロピルセルロース樹脂(○)をそれぞれ溶解した樹脂溶液のTG測定結果を示す。このように3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートに対して異なる樹脂を溶解してもバインダー樹脂用溶剤の揮発性は同じであることがわかる。
【0064】
実施例5
エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびヒドロキシプロピルセルロース樹脂に対する3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールおよび3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートの混合物の溶解度
本発明のバインダー樹脂用溶剤の3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールと3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートを表2に示した割合で混合した溶剤20gを50ml共栓付三角フラスコに入れ、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂またはヒドロキシプロピルセルロース樹脂1gをそれぞれ入れて60℃で攪拌して分散させた。
その後20℃に冷却し、樹脂の溶解状態を目視で確認した。その溶解状態と、溶解した溶液の粘性(B型粘度計で測定:測定温度20℃)を結果を以下の表2に示す。なお表中の数値(cps)は各溶液の粘度を示し、「―」は樹脂が溶解しなかったことを示す。
【0065】
【表2】

【0066】
また図4は、表2の結果を基に、横軸に樹脂溶液中の3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール(100〜0重量%)と3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテート(0〜100重量%)との混合物の割合を示し、左端の縦軸に、前記混合物におけるポリビニルブチラール樹脂(■)およびヒドロキシプロピルセルロース樹脂(○)を溶解した樹脂溶液の粘度を示し、右端の縦軸に、エチルセルロース樹脂(×)を可溶化した樹脂溶液の粘度を示し、樹脂が溶解しなかった場合を粘度0(cps)とした。
【0067】
上記の表2に示された結果から、本発明のバインダー樹脂用溶剤の混合比を変えることにより、樹脂に対する溶解性や粘度を調整できることが判った。
【0068】
すなわち、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノールと3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートとの混合バインダー樹脂用溶剤を100とするバインダー樹脂用溶剤を用いて、3500cps以上の粘性を持つポリビニルブチラール樹脂含有の樹脂溶液を得たい場合は、3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートの割合が15〜40%である混合溶剤を用いれば良いことが判る。
同様に様々な粘性を持つ樹脂溶液を得るために用いられる上記のバインダー樹脂溶剤における3−アセトキシ−3−メチルブチルアセテートの含有割合を、以下の表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
実施例6
エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびヒドロキシプロピルセルロース樹脂に対する含水バインダー樹脂用溶剤の溶解度
水を20%含有した本発明のバインダー樹脂用溶剤20gを50ml共栓付三角フラスコにいれ、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール樹脂またはヒドロキシプロピルセルロース樹脂1gをそれぞれ入れて60℃で攪拌して分散させた。その後20℃に冷却し、各樹脂の溶解状態を目視で確認した。その溶解状態と、溶解した溶液の粘性(B型粘度計で測定:測定温度20℃)を結果を以下の表3に示す。なお表中の数値(cps)は各溶液の粘度を示し、「―」は樹脂が溶解しなかったことを示す。
【0071】
【表4】

表4に示されたように、本発明のバインダー樹脂用溶剤である3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートは、含水した樹脂も良好に溶解することが明らかとなった。
【0072】
また図5には、ヒドロキシプロピルセルロース樹脂を、水(■)、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテート(□)、さらに20%含水した3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテート(▲)で溶解した樹脂溶液のTG測定結果を示す。このようにヒドロキシプロピルセルロース樹脂を水にだけ溶かした場合に比べ、含水した3−ヒドロキシ−3−メチルブチルアセテートに樹脂を溶解させた樹脂溶液はスムーズにバインダー樹脂用溶剤が揮発することがわかる。
【0073】
参考例1
現在市販されているバインダー樹脂用溶剤の揮発性
図6には、現在バインダー樹脂用溶剤として市販されている水素添加テルピネオールアセテート(商品名:ジヒドロターピニアセテート、日本テルペン化学株式会社製)(□)および水素添加テルピネオール(商品名:ジヒドロターピネオール、日本テルペン化学株式会社製)(◆)について、前記実施例1および2と同様にして測定したTG測定結果を示す。
図1および2と6との比較からも明白なように、本発明による式(1)で表されるバインダー樹脂用溶剤は、現在市販されている上記のバインダー樹脂用溶剤の揮発性とほぼ同様の揮発性を示それぞれすことが判った。
TG分析装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 TG/DTA6300
TG測定条件:30℃〜600℃、10℃/分昇温、空気流量100ml/分
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によるバインダー樹脂用溶剤は、乾燥時に乾燥斑を生じず、かつ乾燥残渣を生じず、薄膜化に適する粘度を有するペースト用樹脂溶液などを容易に製造できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

[式中、RおよびR'は、互いに独立して水素原子又はC1〜C4アシル基である]
で表わされるイソプレン誘導体であることを特徴とするバインダー樹脂用溶剤。
【請求項2】
前記イソプレン誘導体が、単独で用いられるかまたは2種以上の混合物として用いられる請求項1に記載の溶剤。
【請求項3】
前記C1〜C4アシル基が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリルおよびイソブチリル基からなる群から選択される請求項1または2に記載の溶剤。
【請求項4】
前記RおよびR'が、互いに独立して、水素原子またはアセチルもしくはプロピオニル基である請求項1〜3のいずれか1つに記載の溶剤。
【請求項5】
前記イソプレン誘導体が、3−ヒドロキシ−3−メチルブタノール、3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチル アセテート、3−ヒドロキシ−3−メチルブチル プロピオネート、3−アセトキシ−3−メチルブチル アセテートおよび3−プロピオニルオキシ−3−メチルブチル プロピオネートからなる群から選択される1種または2種以上の混合物である請求項1〜4のいずれか1つに記載の溶剤。
【請求項6】
前記バインダー樹脂用溶剤が、バインダー樹脂材料可溶性溶剤である請求項1〜5のいずれか1つに記載の溶剤。
【請求項7】
前記バインダー樹脂用溶剤が、乾燥形成した樹脂層表面を溶解しない請求項1〜6のいずれか1つに記載の溶剤。
【請求項8】
前記バインダー樹脂が、エチルセルロース、ポリビニルブチラールまたはヒドロキシプロピルセルロース樹脂である請求項1〜7のいずれか1つに記載の溶剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−241084(P2012−241084A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111316(P2011−111316)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000229254)日本テルペン化学株式会社 (5)
【Fターム(参考)】