説明

バクテリオファージ組成物の製造方法およびファージ治療分野における方法

本発明は、感染病治療のためのバクテリオファージの使用に関し、より詳細には、バクテリオファージ組成物の製造方法に関し、前記方法は、生産量を低減するとともに生産収率を高め、バクテリオファージの大量生産をより安価で行えるようにする。本発明は、細菌感染の治療方法にも関する。本発明はさらに細菌感染の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染病治療のためのバクテリオファージの使用に関し、より詳細には、バクテリオファージ組成物の製造方法に関し、前記方法は、生産量を低減しながらも生産収率を高め、バクテリオファージの大量生産をより安価で行えるようにする。本発明は、細菌感染の治療方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
バクテリオファージ(ファージ)は、動物および植物ウィルスから区別されるように、細菌に感染するウィルスである。ファージは、「溶菌」または「溶原」のいずれかのライフサイクルをとりうる。
【0003】
溶菌サイクルで増殖するファージは、それらのライフサイクルの最後において宿主細菌細胞の溶解を引き起こす。溶原性ファージは、自身のゲノムDNAを宿主細菌の染色体中に組み込んで、この「プロファージ」が細菌の染色体の複製装置によって受動的に増殖されるようにする、代替のライフサイクルをとることもある。プロファージは非常に不活性で感染力が弱いものの、状況によっては、宿主ゲノムからの摘出を行い(excise)、溶菌モードで複製し、多数の子孫を産生し、最終的に宿主細菌の溶菌を引き起こす。
【0004】
感染に続いて細菌を効率的に殺傷するというファージのもつ天然の能力は、ファージ細菌感染の非常に大きな特異性とともに、ファージ治療の発見の基となった生物学的な現象である。代替の溶原性ライフサイクルに入る能力を欠くビルレントファージと呼ばれるファージは、治療に利用するために最適な型のファージである。
【0005】
ファージ治療は、デレル(D’HERELLE)(バクテリオファージ:免疫におけるその役割;ウィリアムス・アンド・ウィルキンス社;ウェーバリー・プレス、米国ボルティモア,1922年)によって最初に提案された。細菌感染によって引き起こされる疾病を治療するための効果的な手段として当初は多くの見込みを与えたが、その治療価値はいまだに議論の的となっている。ひとたび1940年代に抗生物質治療が細菌感染に対する治療の選択肢となってからは、ファージ治療に対してはそれ以上の注意がほとんど払われなくなった。ファージ治療に対するこの著しい熱意の欠如の最大の理由は、有効なバクテリオファージ組成物の簡単かつ信頼性のある処方、すなわち、十分に感染性で、非毒性で、宿主特異性がありながらも、実用のために十分に広い宿主範囲を有するものが出現しなかったことにある。その結果、ファージの治療的用途に対する研究は、長年のあいだ沈滞していた。
【0006】
抗生物質が広く用いられるようになって、利用可能な抗生物質の殆どまたは全部に耐性をもつ細菌株の数が増加し、重大な医療上の問題が増えるにつれ、治療不可能な細菌感染および伝染病が、抗生物質以前の時代に戻るのではないかという懸念も広がってきている。
【0007】
微生物のゲノム全体の配列決定を簡単に行い、それらの病原性の分子的根拠を判定できることは、感染性疾病の治療に対する新規の革新的なアプローチを約束するものではあるが、「伝統的な」アプローチもまたより重視されて再探索されている。そのようなアプローチの1つがバクテリオファージ治療であり、薬物耐性微生物および難治性感染に対する潜在的な武器として新たな関心を集めている(ストーン;サイエンス;第298巻、728〜731頁、2002年)。
【0008】
ファージは、基礎研究用のモデル系として簡単かつ非常に有用であることが証明されているために、分子生物学の発展とともに多くの関心を集めてきた。今日、ファージは多数の分子生物学技術において広く用いられており(たとえば、細菌株の同定)、純度の高いファージ組成物を単離するための良好な検査法も利用することができる。
【0009】
分子生物学の技術は、いまやファージ治療の分野にも適用することができる。たとえば、国際特許出願第WO00/69269号は、バンコマイシン感受性かつ耐性のエンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)株によって引き起こされる感染を治療するために特定のファージ株を使用することを開示しており、国際特許出願第WO01/93904号は、クロストリジウム属の細菌種に関連する消化管疾患の防止または治療のために、バクテリオファージを単独または他の抗生物質とともに使用することを開示している。
【0010】
米国特許出願第2001/0026795号は、宿主免疫系による不活性化を遅らせて、ファージが細菌を殺傷するために活性である時間を増大させるように改変したバクテリオファージの生産方法を記載している。
【0011】
米国特許出願第2002/0001590号は、複数薬物耐性の細菌、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に対するファージ治療の使用を開示しており、国際特許出願第WO02/07742号は、格別に広い宿主範囲を有するバクテリオファージの開発を開示している。
【0012】
特定の細菌感染性疾患の治療に対するファージ治療の使用は、たとえば、米国特許出願第2002/0044922号、同第2002/0058027号、および国際特許出願第WO01/93904号に開示されている。
【0013】
しかしながら、バクテリオファージ組成物の特に治療用途のための工業規模での生産が、いまだ制限要因となっている。現行の技術において、ファージ組成物の力価は低く、通常は実験室スケールにおいて10〜1011pfu/mLの範囲であり、工業スケールにおいては10〜10であり、一方でファージ治療に典型的に必要とされる力価は1012pfu/mLを超える。
【0014】
加えて、所望のレベルのファージ力価に達するためには、非常に大量の液体ファージ感染細菌培養物が必要となる。
後述するように、ファージ治療に対する用量は、10〜1013pfu/Kg体重/日の範囲であり、1012pfu/Kg体重/日が好ましい用量として提案されている。ファージ生産のための一般的な液体培養方法によれば、1人あたりのバクテリオファージの日用量に相当するファージ収率を得るには、5〜10リットルの量を生産することが必要になる。したがって、1つの特定のファージ型のファージストック組成物の工業的生産には、何千リットルもの量の培地での培養を行うことになり、それには大容量の発酵槽を複数個稼働させる必要がある。
【0015】
このような大量の液体には、運転および維持にコストのかかる大容量かつ非常に高額な発酵槽が必要となる。さらに、続くファージ精製の工程を、少なくとも部分的に、大量の液体を用いて行う必要があり、医薬組成物の生産に要求される良好な適正製造基準(good manufacturing practice(GMP))の下で作業を行うことは技術的にも経済的にも非常に難しい。
【0016】
実際のところ、ファージ治療における臨床検査のコストの正当な評価は非常に高いが、その一つの理由としては、効果的な治療のために異なるファージの「カクテル」を用いるという利益のために、各ファージを、FDA認可を必要とする特別なGMP施設において個別に調製する必要があることが挙げられる。このことが、ファージ治療が比較的高額になる最初の理由である。
【非特許文献1】バクテリオファージ:免疫におけるその役割;ウィリアムス・アンド・ウィルキンス社;ウェーバリー・プレス、米国ボルティモア、1922年
【非特許文献2】サイエンス、第298巻、728〜731頁、2002年
【特許文献1】国際特許出願第WO00/69269号
【特許文献2】国際特許出願第WO01/93904号
【特許文献3】米国特許出願第2001/0026795号
【特許文献4】米国特許出願第2002/0001590号
【特許文献5】国際特許出願第WO02/07742号
【特許文献6】米国特許出願第2002/0044922号
【特許文献7】米国特許出願第2002/0058027号
【特許文献8】国際特許出願第WO01/93904号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、得られるファージ抽出物に、実証されている経済的な少量精製工程を適用することができるように、ファージ収率を高め、生産量を減らしたファージ組成物の量産のための方法の必要性と、その大きな有益性が認識されている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、(a)少なくとも1つの細菌株と、前記細菌株に感染する少なくとも1つのバクテリオファージ株と、少なくとも1つの抗生物質とを含む培地をインキュベートする工程であって、培地中の前記抗生物質の濃度は、前記バクテリオファージ株の非存在下における前記細菌株の増殖を約0.1%〜約99.9%阻害する範囲であることと、(b)細菌の溶解が起こるまで培地のインキュベーションを続け、これによりバクテリオファージ溶解物を得る工程と、(c)培地から粗バクテリオファージ抽出物を調製する工程とを備えたバクテリオファージストック組成物の製造方法に関する。
【0019】
本発明はさらに、細菌感染を患った哺乳類の治療方法に関し、該方法は、前記哺乳類に、有効量の少なくとも1つのバクテリオファージ株を含んだ組成物を、少なくとも有効量の抗生物質を含んだ組成物と組み合わせて同時または別個に投与する工程を備え、(a)前記有効量の前記抗生物質は、前記バクテリオファージ株の非存在下における前記細菌株の増殖を約0.1%〜約99.9%阻害、好ましくは前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株のインビトロ増殖を約0.1%〜約99.9%阻害する範囲である抗生物質濃度を得ることを可能にし、(b)前記バクテリオファージ株は、前記細菌感染に関与する細菌株の少なくとも1つに対して感染性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、ファージ(バクテリオファージ)の分野に関し、とりわけファージ治療の分野に関する。20世紀のなかばには東欧における医療研究と臨床試験の活発な分野であったファージ治療が、ここ十数年来、西洋において再度注目を集めている。
【0021】
人間または動物用途に対して、バクテリオファージ治療の概念が実用にうまく還元されてこなかったのには、次のようないくつかの基本的な理由がある。(i)ファージ治療の有効性が、ごくわずかで取るに足らないものであるとされていたこと、(ii)主として、典型的に毒素を含む細菌デブリが混入したバクテリオファージ組成物の使用によって、許容されない毒性副作用が観察されていたこと、(iii)従来の化学的抗生物質などの、より良好な代替物が開発されたこと、(iv)ファージ感染への耐性を与える表面上のファージ受容体が変化した細菌変異株の選択により、ファージ耐性細菌株が出現したこと、および(vi)組成物がいったん注入または接種されてから、ファージがその標的となる病原性細菌を獲得できるようになる前に、バクテリオファージが体から迅速に除去されること。ファージ分子生物学分野における広範な研究によって、細菌とファージ間の相互作用に関する知識が進歩し、以前にはファージ治療の信頼性ある有効な治療ツールとしての開発を妨げていた上述の問題の少なくともいくつかを克服するのに用いることができる新しい技術が明らかにされてきた。
【0022】
本文中において、本発明は、バクテリオファージの大量生産のための方法を提供し、該方法において、各工程は容易に遂行でき、大容量を必要とせず、したがって、厳密な検証手順を要する工程に対してより適している。
【0023】
ファージ治療において使用するファージを含む医薬組成物の生産の場合、この製法は、(i)病原性細菌の感受性を確立するためのファージ分類;(ii)正しいファージまたはファージパネルの選択;(iii)各ファージタイプに対して単一のプラークを取り上げて、均一な調製を保証すること;(iv)高いファージ力価を得ること;(v)ファージを回収すること;(vi)ファージ粗抽出物から宿主細菌を除去すること;(vii)バクテリオファージ粗抽出物をエンドトキシンおよび他の細菌デブリから精製することに対応する基本的ないくつかの工程を含む。
【0024】
ファージ治療の開発に対する大きな障害は、生物学的に十分には活性でないエンドトキシンが混入した医薬組成物をもたらしてしまうという、ファージ調製において使用される技術の限界であった。本発明の方法を用いて達成される生産量の低減は、これまでにバクテリオファージストック組成物を得るために用いられていた技術が直面していた問題を克服するものである。
【0025】
バクテリオファージストック組成物を得るためにバクテリオファージを調製するための本発明によって提供される方法は、(a)少なくとも1つの細菌株と、前記細菌株に感染する少なくとも1つのバクテリオファージ株と、少なくとも1つの抗生物質とを含む培地をインキュベートする工程であって、培地中の前記抗生物質の濃度は、前記バクテリオファージ株の非存在下における前記細菌株の増殖を約0.1%〜約99.9%阻害する範囲であることと、(b)細菌の溶解が起こるまで培地のインキュベーションを続け、これによりバクテリオファージ溶解物を得る工程と、(c)培地から粗バクテリオファージ抽出物を調製する工程とを備える。
【0026】
好ましくは、前記抗生物質の濃度は、細胞分裂を厳密に阻害するが、細胞伸長は通常通り継続して非常に長い線維状細胞が形成される。この濃度においては、細胞数はほとんど増加しないが、細胞の生存率に大きな損失はない。
【0027】
好ましい実施形態によれば、培地中の前記抗生物質の濃度は、前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株の増殖を約1%〜99%阻害、好ましくは約10%〜約90%阻害、一例としては約20%〜約80%阻害または約40%〜約60%阻害、最も好ましくは前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株の増殖を約50%(IC50)阻害する範囲からなる。
【0028】
抗生物質の最適に有効な濃度を決定するための方法は、当業者に周知である。一例として、前記方法は、大きな濃度範囲を有する規定の抗生物質の共存または非共存下で、様々な増殖液体培地(たとえば、LB)中で規定の細胞株をインキュベーションすることを含む。種々の濃度の前記抗生物質を有する液体培地中での前記細菌株の増殖速度論の解析により(たとえば、600nmにおけるODの決定、様々なインキュベーション時間における培養のCFU/mL)前記抗生物質の所与の濃度と、培地中の前記濃度による細胞株増殖阻害の百分率との関係を確立することができる。
【0029】
バクテリオファージの生産方法は、当業者に知られており、液体培地または半固形培地中での培養に相当する2つの代替技術を含む。
液体および半固形培地については当業者の知るところである。
【0030】
好ましくは、本発明の方法は、液体培地中で、バクテリオファージ株に感染した細菌株を培養することを含む。そのような液体培地は当業者の知るところであり、たとえば、Mark H.ADAMS(バクテリオファージ、インターサイエンス・パブリッシャーズ、ニューヨーク、1959年)に記載されている。
【0031】
あるいは、インキュベーションのための種培地を固体寒天平板上の半固形寒天中で培養する。
好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、バクテリオファージストック組成物の品質を高めるため、または製造手順を易化するための他の工程をさらに含んでもよく、そのような工程としては、特に限定されないが、周期的な滴定(tittering)、精製、自動化、調合などが含まれる。
【0032】
バクテリオファージの精製は、当業者に周知の方法によって行うことができる。一例として、標的となる混入物すなわち細菌を保持しつつ、より小さいバクテリオファージを通過させるために、培地を非常に小さい孔径のフィルターを通して濾過する。典型的には、約0.01〜約1μmの範囲、好ましくは約0.1〜約0.5μm、より好ましくは約0.2〜約0.4μmの孔径を有するフィルタを用いることができる。培地は、バクテリオファージを保持する最大孔径膜を用いた透析によって、細菌デブリおよびエンドトキシンから精製することができ、この場合、膜は、約10〜約10ダルトン、好ましくは約10〜約10ダルトンの範囲内の分子のカットオフを有することが好ましい。とりわけ、例えば、米国特許出願第2001/0026795号、同第2002/0001590号、米国特許第6,121,036号、第6,399,097号、第6,406,692号、第6,423,299号、国際特許出願第WO02/07742号に記載されるような多くの他の適切な方法を行うことができる。
【0033】
さらなる好ましい実施形態によれば、前記抗生物質は、キノロン類およびβ−ラクタム類、好ましくはβ−ラクタム類からなる群において選択される。
キノロン類およびその誘導体は、当業者に周知である。そのような化合物の一例としては、シノキサシン、シプロフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、フロセキナン、フルメキン、ポメフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オキソリン酸、ペフロキサシン、ピペミド酸、ピロミド酸、ロソキサシン、およびスパルフロキサシンを挙げることができる。
【0034】
β−ラクタム類も当業者に周知であり、そのような化合物としては、たとえば、アミジノシリン、アモキシシリン、アンピシリン、アパルシリン、アスポキシリン、アジドシリン、アズロシリン、アズトレナム、バカムピシリン、ベンジルペニシリン酸、カルベニシリン、カルフェシリン、カリンダシリン、カルモナム、セファクロル、セファドロキシル、セファマンドール、セファトリジン、セファゼドン、セファゾリン、セフブペラゾン、セフィキシム、セフメノキシム、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフメタゾール、セフミノクス、セフォジジム、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォラニド、セフォテタン、セフォチアム、セフォキシチン、セフピミゾール、セフピラミド、セフポドキシムプロキセチル、セフロキサジン、セフスロジン、セフタジジム、セフテラム、セフテゾール、セフチブテン、セフチオフル、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフロキシム、セフゾナム、セファセトリル、セファレキシン、セファログリシン、セファロリジン、セファロスポリンC、セファロチン、セファピリン、セファランチン、セフラジン、クロメトシリン、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、ジフェネニシリン、エピシリン、フェンベニシリン、フロモキセフ、フロキサシリン、ヘタシリン、イミペネム、レナンピシリン、メタンピシリン、メチシリン、メズロシリン、モキソラクタム、ナフシリン、オキサシリン、ペナメシリン、ペネタメートハイドリオダイド、ペニシリン、ペニメピサイクリン、フェネチシリン、ピペラシリン、ピバンピシリン、ピブセファレキシン、プロピシリン、キナシリン、スルベニシリン、スルファゼシン、タラムピシリン、テモシリン、チカルシリンおよびチゲモナムが挙げられる。
【0035】
一実施形態によれば、細菌株は、ブドウ球菌、エルシニア、好血菌(hemophili)、ヘリコバクター、ミコバクテリウム、連鎖球菌、ナイセリア、クレブシエラ、エンテロバクター、プロテウス、バクテロイド、シュードモナス、ボレリア、シトロバクター、エシェリキア、サルモネラ、プロピオニバクテリウム、トレポネーマ、シゲラ、腸球菌、およびレプトスピレックスからなる群において選択される。
【0036】
このような細菌株は、当業者に周知であり、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、ピロリ菌(Helicobacter pylori)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス・パラサンギス(Streptococcus parasanguis)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ビリダンス(Streptococcus viridans)、A群連鎖球菌および嫌気性連鎖球菌、インフルエンザ菌(Hemophilus influenzae)、赤痢菌(Shigella dysenteriae)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、らい菌(Mycobacterium leprae)、マイコバクテリウム・アシアチカム(Mycobacterium asiaticum)、マイコバクテリウム・イントラセルラ(Mycobacterium intracellular)、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)、マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、アクネ菌(Propionibacterium acnes)、トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)、トレポネーマ・ペルタヌエ(Treponema pertanue)、トレポネーマ・カラテウム(Treponema carateum)、大腸菌(Escherichia coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、ペスト菌(Yersinia pestis)、レプトスピラ・イクテオヘモラジエ(Leptospirea icteohaemorrhagiae)などのレプトスピラ、シトロバクター・フレウンディ(Citrobacter freundii)を含む。
【0037】
一実施形態によれば、本発明は、任意のバクテリオファージ、好ましくは本発明の方法において用いられる細菌株に感染性のあるバクテリオファージの使用も意図する。一例として、バクテリオファージ抽出物は、当該分野において既知の方法を用いて微生物から抽出することができる(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、細菌およびバクテリオファージのカタログ、第18版、402〜411頁、1992年を参照のこと)。このような試料は、一例として、細菌感染を患った個人から回収することができる。様々な試料は、のどを含む身体の様々な場所、血液、尿、糞、髄液、鼻粘膜、皮膚、咽頭および気管からの洗浄物などから採取することができる。
【0038】
試料の部位は、標的の生物によって選択することができる。たとえば、咽頭スワブは、所与のストレプトコッカス株の試料を回収するために使用されることが多く、皮膚培養物は、ブドウ球菌の所与の株の試料を回収するために使用されることが多く、髄液または血液試料は、髄膜炎菌の試料を回収するために使用されることが多く、尿は大腸菌の試料を回収するために使用することができるなどである。
【0039】
当業者は、標的生物を鑑みて、それぞれの場所から適切な試料を得ることができる。あるいは、細菌株は、国立衛生研究所(NIH)、ATCCなどから入手可能なものを含めて、様々な研究室から得ることができる。
【0040】
個々の細菌とバクテリオファージの組み合わせは、意図する用途に従って選択することができる。たとえば、所望の用途が、ブドウ球菌感染に対する予防または治療を提供することである場合には、ブドウ球菌の1つまたはそれ以上の株が細菌宿主生物として使用される。その同じ例において、ブドウ球菌に対して特異的な、あるいは少なくともブドウ球菌において増殖感染することのできる1つまたはそれ以上のバクテリオファージを用いて、治療用ブドウ球菌溶解物を作製する。
【0041】
好ましい実施形態によれば、バクテリオファージ株は、シストウィルス科、レビウィルス科、マイオウィルス科、ポドウィルス科、サイフォウィルス科、コルチコウィルス科、イノウィルス科、ミクロウィルス科、およびテクチウィルス科からなる群において選択され、好ましくは、マイオウィルス科、ポドウィルス科およびサイフォウィルス科からなる群において、最も好ましくはマイオウィルス科において選択される。
【0042】
シストウィルス科は、RNAファージに相当し、バクテリオファージφ6を含む1つの属(シストウィルス)を含む。
レビウィルス科もまた、線形のプラス鎖一本鎖RNAゲノムを有するRNAバクテリオファージに相当し、エンテロバクター、カウロバクターおよびシュードモナスに感染する。この科には、細胞溶解に対して別個の遺伝子を有しないアロレビウィルスと、細胞溶解に対する別個の遺伝子を有するレビウィルスが含まれる。
【0043】
3つのマイオウィルス科、ポドウィルス科、およびサイフォウィルス科は、Caudovirales目に相当する。
マイオウィルス科は、複合収縮性の尾部を特徴とするバクテリオファージからなり、その例としては、バクテリオファージμ,Pl,P2、およびT4が挙げられる。最も好ましくは、マイオウィルス科は、「T4様」属のバクテリオファージを含む。
【0044】
ポドウィルス科は、短い非収縮性の尾部を特徴とするバクテリオファージからなり、その例としては、バクテリオファージN4,P22,T3,およびT7が挙げられる。
サイフォウィルス科は、長い非収縮性の尾部を特徴とするバクテリオファージからなり、その例としては、バクテリオファージhk022、λ、T5、BF23が挙げられる。
【0045】
コルチコウィルス科は、20面体の脂肪を含有する、エンベロープを持たないバクテリオファージからなり、バクテリオファージPM2を含む1つの属(コルチコウィルス)を含む。
【0046】
イノウィルス科は、一本鎖DNAからなる桿状または線維状バクテリオファージからなる。この科は、イノウィルスおよびプレクトロウィルスの2つの属を有する。イノウィルス属は、腸内細菌、シュードモナス、ビブリオ、およびキサントモナスに感染するバクテリオファージからなり、その例としては、バクテリオファージIke,m13およびpf1が挙げられる。プレクトロウィルス属は、アコレプラズマおよびスピロプラズマに感染するバクテリオファージからなる。
【0047】
ミクロウィルス科は、腸内細菌、スピロプラズマ、ブデロビブリオおよびクラミジアに感染する溶菌バクテリオファージからなる。これには、4つの属、すなわち、ミクロウィルス、スピロミクロウィルス、ブデロミクロウィルス、およびクラミジアミクロウィルスが含まれる。ミクロウィルス属は、等長の一本鎖DNAバクテリオファージからなり、その例としては、バクテリオファージG4およびφx174が挙げられる。
【0048】
テクチウィルス科は、グラム陰性およびグラム陽性細菌のいずれにも感染する、二重キャプシドを有する脂肪含有バクテリオファージからなる。この科は、1つの属を有し、その例としては、バクテリオファージprd1が挙げられる。
【0049】
本発明はさらに、哺乳類、好ましくは細菌感染を患ったヒトの治療方法を提供し、該方法は、前記哺乳類に、有効量の少なくとも1つのバクテリオファージ株を含む組成物を、少なくとも有効量の抗生物質を含む組成物と組み合わせて同時または別個に投与する工程を含み、(a)前記有効量の前記抗生物質は、前記バクテリオファージ株の非存在下における前記細菌株の増殖を約0.1%〜約99.9%阻害、好ましくは前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株のインビトロ増殖を約0.1%〜約99.9%阻害する範囲である抗生物質濃度を得ることを可能にし、(b)前記バクテリオファージ株は、前記細菌感染に関与する細菌株の少なくとも1つに対して感染性がある。
【0050】
好ましい実施形態によれば、前記抗生物質の有効量は、前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株の増殖を約1%〜99%阻害、好ましくは約10%〜約90%阻害、一例としては約20%〜約80%阻害または約40%〜約60%阻害、最も好ましくは前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株の増殖を約50%(IC50)阻害する範囲である濃度が得られるようにするものである。
【0051】
さらなる好ましい実施形態によれば、前記抗生物質は、キノロンおよびβ−ラクタム類からなる群、好ましくはβ−ラクタム類において選択される。
別の実施形態によれば、本発明は、バクテリオファージ、好ましくは、前記細菌感染に関与する細菌株の少なくとも1つに対して感染性のあるバクテリオファージの使用をも意図する。このようなバクテリオファージは、前述したものから選択することができる。
【0052】
本発明にしたがって投与されるバクテリオファージの有効量を決定するのには標準評価が必要となる。これに関する評価では、微生物のレベル、マーカーおよび培養に加えて、ファージのバイオアベイラビリティ、吸収、分解、血清および組織のレベルおよび排出に関するデータも得られる。治療の適切な用量および持続時間は、当業者であれば既知の技術を用いて確認することができる。一例として、バクテリオファージの有効量は、10〜1013pfu/Kg体重/日の範囲である。
【0053】
バクテリオファージおよび抗生物質組成物は、細菌感染を有効に治療するために必要な期間にわたり、静脈内、鼻腔内、経口、または他の既知の薬剤投与経路で投与することができる。本明細書を通して用いる「細菌感染を治療する」という表現は、十分な細菌を殺傷または破滅させて、これらの微生物が宿主生物の感染を引き起こすのに有効でなくならすことを示す。
【0054】
したがって、前記組成物は、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。一例としては、注射用バクテリオファージ組成物は、約10mgのヒトウシ血清アルブミンと、NaClを含むリン酸バッファ1ミリリットルあたりに、約20〜200μgのバクテリオファージを含む。他の薬学的に許容される担体としては、Remington’s Pharmaceutical Sciences(第15版、Easton:Mack Publishing Co,1405〜1412頁および1461〜1487頁、1975年)に記載されるような、塩、保存剤、バッファなどを含む水性溶液、非毒性賦形剤が挙げられる。
【0055】
特定の実施形態によれば、バクテリオファージの組成物および抗生物質の組成物は同時に投与され、投与される組成物は、少なくとも1つのバクテリオファージと少なくとも1つの抗生物質を有効量で同時に含んでいることが好ましい。
【0056】
別の仕様の実施形態によれば、少なくともバクテリオファージを含む組成物を、少なくとも1つの抗生物質を含む組成物の投与の前または後の約1日以内、好ましくは前または後の約12時間以内、たとえば前または後の約6時間以内、より好ましくは少なくとも1つの抗生物質を含む組成物の投与の前または後の1時間以内の期間内に哺乳類に投与する。
【0057】
本発明は、事実上限定するものではない出願人によって行われた研究内容において行われた実験的研究の記述を読むことによって、より明確に理解されるであろう。
実施例
1)抗生物質の存在下で増殖するファージによって生産される異常な細菌溶解プラークの同定
重篤な尿路感染症で入院している小児から単離した細菌の抗生物質感受性を調べるために、また時間を節約するために、小児の尿の希釈物を栄養ペトリ皿に直接接種し、一連の抗生物質感受性試験ディスクを寒天の表面上に置いた。
【0058】
予想通り、結果は、尿に尿路病原性大腸菌株が混入していることを示すものであった。にもかかわらず、そして予期せぬことに、結果は、抗生物質感受性ディスクの回りにファージプラークが現れていること、したがって、前記株がバクテリオファージに感染していることを示すものでもあった。注目すべきことは、これらのファージプラークの大きさは、β−ラクタム抗生物質ディスク(たとえば、ATM(アズトレオナム)およびCFM(セフィキシム))を取り囲む抗生物質の非致死濃度のゾーンにおいてはるかに大きかったが、他の薬物(テトラサイクリン、トリメトプリムおよびゲンタマイシン)ではそうではなかった。
【0059】
このように、低用量のβ−ラクタムが、この宿主ファージ系におけるファージ増殖をいくらか刺激しているようである。
2)MFP細菌株上で増殖させた場合のβ−ラクタム抗生物質(ATMおよびCFM)と、φmFバクテリオファージの相乗作用
この大きめのファージプラークの出現を確認するために、非感染尿路感染性大腸菌(MFP)の単一コロニーと、混入したファージ(φmF)のプラークを、Mark H.ADAMS(バクテリオファージ,1959年、インターサイエンス・パブリッシャーズ、ニューヨーク)に記載されるように、元の尿試料から単離した。
【0060】
φmFの電子顕微鏡観察では、典型的なサイフォウィルス形態である、長く可撓性の非収縮性尾部構造と、約60nmの等長20面体の頭部が見られた。φmFゲノムの25のランダムな断片のDNAシーケンシングにより、このバクテリオファージがネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)バクテリオファージMB78に関係することが分かった。φmFバクテリオファージの増殖は、大腸菌属(AS19,CR63,P400,B897,834a,B40,S/6,BE)からの様々な実験室細菌株に対して試験した。これらの試験では、上記細菌株のいずれに対しても、φmFバクテリオファージの増殖はみられなかった。
【0061】
非感染MFP株の培養物をLB液体培地中で一晩増殖させ、前記培養物を単独またはφmFファージと混合したものの希釈物を、表面に種々の抗生物質感受性試験ディスクを置いた一連の栄養ペトリ皿上に接種した。
【0062】
結果は、MFP細菌株が、アモキシシリン、β−ラクタム抗生物質を含むいくつかの抗生物質に耐性があることを示すものであった。これらの株において、前記抗生物質からなるディスクの回りで増殖する細菌においては、増殖阻害のゾーンは観察されなかった(図1を参照、非感染大腸菌MFP)。より重要なことに、結果は、β−ラクタムATMおよびCFM、ならびに非β−ラクタムテトラサイクリンを含む抗生物質に対して、前記MFP株が感受性を示すことを実証するものであった。
【0063】
さらに、結果は相乗的な抗生物質の効果を裏付けるものである。ペトリ皿の全面に、MFP細菌宿主と、それに感染することのできるファージφmFの両者の混合物を接種した(図1を参照、φmF感染大腸菌MFP)。先に観察されたのと同様に、φmFプラークは、MFP細菌株が感受性をもつ、β−ラクタムATMおよびCFMディスクの周りの非致死抗生物質濃度のゾーンにおいてのみ、有意に大きい大きさを有している(図1を参照、十字が入ったディスク)。
【0064】
結論として、上記結果は、前記抗生物質の濃度が、細菌株MFPの増殖に対して完全に阻害的でないゾーンにおいて、β−ラクタム抗生物質とφmFバクテリオファージ複製の間に相乗作用が起こることを示すものである。
【0065】
3)β−ラクタム抗生物質(ATMおよびCTX)とMFP細菌株上でのバクテリオファージ増殖の間の相乗作用の普遍性
抗生物質とファージ増殖の間の相乗作用を種々のバクテリオファージ株を用いて調べるために、MFP細菌株のこの効果について、系統的に多様なT4型ファージの多数の組を用いて調べた。
【0066】
MFP細菌株上で調べた80を超えるT4型バクテリオファージ株のうちの9つが、スポットテストにおいて、MFP株を感染させて溶解することができるとして、同定された。これらのバクテリオファージは以下のとおりである。RB6,RB8,RB9,RB15,AC3,RB32,RB33,およびT6。
【0067】
MFP細菌株の培養物を、LB液体培地中で一晩増殖させ、平板培養を調製した。この平板培養を、柔らかい寒天中で、ファージφmFまたは上に列挙したような9種類のT4型バクテリオファージのいずれかの適当な希釈物と混合し、栄養ペトリ皿の表面上に注ぎ込んだ。続いて、CTXまたはATMのいずれかを含む抗生物質ディスクを栄養ペトリ皿の上層上に載せた。
【0068】
結果を下記の表にまとめる。
【0069】
【表1】

上記の結果は、前記抗生物質がMFP細菌宿主の部分的な増殖阻害を媒介するようなゾーンにおける、上記β−ラクタム抗生物質とファージ複製の間の相乗作用を明かにするものである。この相乗効果は、φmFファージ株だけに限られたことではなく、φmFバクテリオファージに全体的には関係のない他のバクテリオファージ株によっても明らかになっている。
【0070】
4)最初に相乗効果を観察したMFPの原株以外の宿主細菌におけるバクテリオファージとβ−ラクタム抗生物質の間の相乗作用
他の細菌株との相乗作用を調べるために、ATMまたはCTXのいずれかの存在下で同一のバクテリオファージT4で感染させた様々な細菌宿主株において、ファージプラークの大きさを調べた。
【0071】
大腸菌細菌株AS19,P400,S/6,BE,C600およびMC1061の一晩培養物を、対数期まで増殖させたLB液体培地に接種し、平板培養を調製した。各細菌の標識株を柔らかい寒天中でT4の希釈物と混合し、栄養ペトリ皿上に注ぎ込み、続いてCTX抗生物質試験ディスクを平板の表面上に載せた。
【0072】
結果を下記の表にまとめる。
【0073】
【表2】

結果は、β−ラクタム抗生物質増殖阻害とT4ファージ複製の間の相乗作用が、非阻害性濃度の前記抗生物質が存在するゾーン内で起こっていることを示す。この効果は、MFP大腸菌だけに限られるものではなく、調べた大腸菌のいくつかの標準実験室株の場合も起こる。関連実験において、いくつかのT4型エルシニアファージ(PST,RB6,RB32,RB33,MI)の増殖が、細菌宿主である仮性結核菌(Yersinia pseudotuberculosis)上でCTXと同様の増殖相互作用を明白に示すことが示された。したがって、この抗生物質との相乗効果は、大腸菌宿主細菌上で繁殖するファージに限られたものではない。
【0074】
5)種々のT4型ファージに感染した大腸菌AS19におけるバクテリオファージとβ−ラクタム抗生物質の間の相乗作用
バクテリオファージとβ−ラクタム抗生物質の間の相互作用の程度と普遍性をさらに調べるために、一連の種々のT4型ファージ株を用いて、それらにおける本効果の発現について調べた。この実験および以後の研究の大半のために選んだ細菌宿主は、抗生物質透過性変異体である大腸菌AS19である。この株は一般に、広範なT4型ファージとの間に最も実質的な相乗効果を与える。
【0075】
AS19細菌株の一晩培養物をLB液体培地中に接種し、対数期まで増殖させて、平板培養を調製した。標識株を柔らかい寒天中で、様々なT4型ファージの希釈物と混合し、栄養ペトリ皿上に注ぎ、続いてCTX抗生物質試験ディスクを表面上に置いた。次のようなT4型バクテリオファージ株、すなわち、RB9,RB32,RB33,RB42,RB49,RB69,C16,SV76,T6,およびφ−1について調べた。
【0076】
これらの結果について下記の表にまとめる。
【0077】
【表3】

結果は、このβ−ラクタム抗生物質が、大腸菌AS19細菌の増殖を部分的にしか阻害しない抗生物質濃度においても、種々のT4型ファージの生産に対して相乗効果を与えることを示すものである。したがって、ファージ増殖に対する相乗的な抗生物質の効果は、それが最初に観察された元のMFP細菌宿主とφmFPファージの系をはるかに超えて広がる。
【0078】
6)低用量の抗生物質存在下におけるバクテリオファージ生産と細菌宿主増殖の間の相乗作用は、β−ラクタム抗生物質だけに限定されるものではない。
この相乗作用が他の抗生物質によっても媒介されるかどうかを調べるために、AS19細菌株を系統的に多様な一連のT型ファージ、および種々のクラスの抗生物質の多様な組を用いて調べた。
【0079】
この場合も、AS19細菌株の一晩培養物をLB液体培地に接種して、対数期まで増殖させ、平板培養を調製した。標識株を柔らかい寒天中で、様々なT4型ファージの希釈物と混合し、栄養ペトリ皿上に注ぎ、続いて一連の様々な抗生物質試験ディスクを表面上に置いた。次のような12種類のT4型バクテリオファージ株、すなわち、T4,T2,T6,OX2,K3,RB33,RB5,RB14,RB49,PH1,697および699について調べた。
【0080】
結果は、β−ラクタムに加えて、少なくとも1つの追加のクラスの抗生物質が、バクテリオファージT4による子孫の生産を刺激することを実証するものである(図2)。この効果は、抗生物質ディスクの周りの狭い濃度範囲においてだけ起こり、該範囲は、このゾーンにおいてはある程度の細菌増殖阻害が起こっていることから、AS19細菌にとってはおそらく致死下である。種々のβ−ラクタムに加えて、少なくとも1つのキノロン(ナリジクス酸)が、ファージT4増殖に相乗効果をもたらす。相乗作用的に有効なすべての抗生物質の共通の特徴は、それらが、我々が採用した低い用量範囲において、直接または間接的に、細菌細胞の分裂の阻害を媒介することである。
【0081】
さらに、T4様ファージは、前述したもの以外の多数の他のクラスの抗生物質を用いても調べたところ、T4ファージ生産を刺激しなかった。これらの他の抗生物質は、アミノグリコシド類(ゲンタマイシンおよびアミカシン)、アムフェニコール類(クロラムフェニコール)、テトラサイクリン類(テトラサイクリン)、2,4−ジアミノピリミジン類(トリメトプリム)、スルホンアミド類(トリメトプリムと組み合わせたスルファメトキサゾール)、ニトロフラン類(ニトロフラントイン)、アンサマイシン類(リファンピシン)、ホスホン酸(ホスホマイシン)、およびポリペプチド類(コリスチン)であった。
【0082】
7)抗生物質相乗作用に付随したファージ複製の増加
抗生物質の存在下または非存在下における感染細菌株におけるファージ複製の増大を定量的に判定するために、3種のT型バクテリオファージ株、すなわちT4,RB33およびRB49で感染させたAS19細菌株の種々の培養物を、CTX(0.003または0.03μg/mL)存在下または非存在下のいずれかのLB液体培地中で90分間インキュベートし、感染した培養物をクロロホルムで溶解し、ファージ力価をADAMS(バクテリオファージ、インターサイエンス・パブシッシャーズ、ニューヨーク、1959年)に記載のようにして決定した。
【0083】
結果を以下の表にまとめる。
【0084】
【表4】

結果は、非常に低用量の抗生物質、より正確にはβ−ラクタム抗生物質(CTX)であっても、T4およびRB33に対して10倍以上、RB49に対しては約5倍のT4型ファージ生産の著しい増加を媒介することを示す。
【0085】
8)観察された相乗作用に関連するメカニズム
AS19細菌株の培養に対する低用量のβ−ラクタム抗生物質CTXの効果を調べるために、この細菌株を、T4ファージに感染した場合に実質的な相乗効果を与えるような用量レベル(0.003μg/mL)のCTXとともにLB液体培地中で増殖させた。CTX処理を行わない対照培養と比較した場合、この低い薬物量においてさえ、コロニー形成ユニットによってアッセイした細胞生存率はほとんど影響されないものの、細胞分裂は阻害されている(図3Aおよび3B)。薬物で処理した培養の光学密度が、薬物の添加後少なくとも2時間のあいだは増加し続けることから、薬物の非存在下で通常起こるような分裂ではなく、非分裂細胞が体積的に成長し続けて長い線維状細胞を生産しているようである。
【0086】
β−ラクタム抗生物質とT4ファージ生産の増大の間の相乗作用に対するもっともらしいメカニズムが、細胞分裂における薬物媒介性の遮断を含んでいるということを検証するために、AS19細菌株の培養物をLB液体培地中で増殖させ、CTX(0.003μg/mL)の存在下または非存在下のいずれかでT4ファージで感染させた。培養中の細菌の形態を、感染から様々な時間後に、光学顕微鏡によって観察した。
【0087】
結果は、CTXを含まない培地中での感染の間に細菌の形態に変化は見られないが(図4,Nを参照のこと)、CTXを含む液体培地においては、T4感染細菌の細胞の大きさが体積的に相当に増大し、感染から数時間後までに長く太いフィラメントを生産する(図4,A3を参照のこと)ことを示す。
【0088】
結論として、ファージ生産の増加と、抗生物質、特にβ−ラクタムおよびキノロン抗生物質の低い濃度との間の相乗作用は、薬物で処理した細胞のファージ生産能力の増大の直接的な結果と考えられる。現在、我々は大腸菌以外の細菌、すなわちエルシニア、およびマイオウィルス科以外のバクテリオファージ、サイフォウィルス科を用いた場合に同様の相乗作用が見られることを立証している。宿主細胞の分裂プログラム中の薬物媒介性妨害がどのように、ファージ感染細胞の子孫ファージを生産する能力の有意な増大をもたらすかについての正確な詳細を理解するためには、さらなる研究が必要である。我々は、それ以上の分裂を行うことができない宿主細胞をより効率的に餌食とし、これによりその現在の環境において繁殖することのできるファージに対して、進化的な選択があったものとの仮説をたてる。もしこれが正しければ、場合によっては、ファージ複製に対する最適な条件が広く信じられているような指数関数的な細胞増殖ではなく、いずれは死に至るストレスを受けた細胞集団におけるファージ生産の最後の爆発であるのかもしれない。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】ファージ増殖および細菌増殖に対する様々な種類の抗生物質の影響を示す図。「+」で印をした抗生物質ディスク(ATMおよびCFM)のみが、ファージφMFP増殖の良好な刺激を与える。
【図2】マイオウィルス科バクテリオファージ、すなわち「T4様」バクテリオファージ属の生産と、低用量のキノロン、β−ラクタムおよびマクロライドタイプの抗生物質の存在下における大腸菌AS19の増殖との間の相乗作用を示す図。TIC:チカルシリン、CRO:セフトリアキソン、CTX:セフォタキシム、CFM:セフィキシム、AM:アンピシリン、PIP:ピペラシリン、ATM:アズトレオナム、E:エリスロシン、NA:ナリジクス酸。(−):相乗作用なし、(+/−):辛うじて検出できる相乗作用、(+)わずかな相乗作用、(++)良好な相乗作用、(+++)強い相乗作用。
【図3】0.003μgのセフォタキシムの共存下(0.003CTX)または非共存下(−CTX)での大腸菌AS19株の増殖を示す図。増殖は、OD600(A)またはCFU/mL(B)のいずれかによって測定した。時間(T)は、CTXを増殖培地に添加した後の分数で示す。
【図4】0.003μgのセフォタキシム(CTX)の非共存下(N)または共存下(A3)で増殖させた非感染大腸菌AS19細胞の大きさを示す図。時間(T)は、CTXを増殖培地に添加した後の分数で示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージストック組成物の製造方法であって、
(a)少なくとも1つの細菌株と、前記細菌株に感染する少なくとも1つのバクテリオファージ株と、少なくとも1つの抗生物質とを含む培地をインキュベートする工程であって、培地中の前記抗生物質の濃度は、前記バクテリオファージ株の非存在下における前記細菌株の増殖を約0.1%〜約99.9%阻害する範囲であること、
(b)細菌の溶解が起こるまで培地のインキュベーションを続け、これによりバクテリオファージ溶解物を得る工程と、
(c)培地から粗バクテリオファージ抽出物を調製する工程と
を備える方法。
【請求項2】
培地中の前記抗生物質の濃度は、前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株の増殖を約1%〜約99%阻害する範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培地中の前記抗生物質の濃度は、前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株の増殖を約10%〜約90%阻害する範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
培地中の前記抗生物質の濃度は、前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株の増殖を約20%〜約80%阻害する範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
培地中の前記抗生物質の濃度は、前記バクテリオファージの非存在下における前記細菌株の増殖を約40%〜約60%阻害する範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
培地は液体培地である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抗生物質は、キノロンおよびβ―ラクタム類からなる群において選択される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗生物質は、シノキサシン、シプロフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、フロセキナン、フルメキン、ロメフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、オキソリン酸、ペフロキサシン、ピペミド酸、ピロミド酸、ロソキサシン、スパルフロキサシン、アミジノシリン、アモキシシリン、アンピシリン、アパルシリン、アスポキシリン、アジドシリン、アズロシリン、アズトレナム、バカムピシリン、ベンジルペニシリン酸、カルベニシリン、カルフェシリン、カリンダシリン、カルモナム、セファクロル、セファドロキシル、セファマンドール、セファトリジン、セファゼドン、セファゾリン、セフブペラゾン、セフィキシム、セフメノキシム、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフメタゾール、セフミノクス、セフォジジム、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォラニド、セフォテタン、セフォチアム、セフォキシチン、セフピミゾール、セフピラミド、セフポドキシムプロキセチル、セフロキサジン、セフスロジン、セフタジジム、セフテラム、セフテゾール、セフチブテン、セフチオフル、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフロキシム、セフゾナム、セファセトリル、セファレキシン、セファログリシン、セファロリジン、セファロスポリンC、セファロチン、セファピリン、セファランチン、セフラジン、クロメトシリン、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、ジフェネニシリン、エピシリン、フェンベニシリン、フロモキセフ、フロキサシリン、ヘタシリン、イミペネム、レナンピシリン、メタンピシリン、メチシリン、メズロシリン、モキソラクタム、ナフシリン、オキサシリン、ペナメシリン、ペネタメートハイドリオダイド、ペニシリン、ペニメピサイクリン、フェネチシリン、ピペラシリン、ピバンピシリン、ピブセファレキシン、プロピシリン、キナシリン、スルベニシリン、スルファゼシン、タラムピシリン、テモシリン、チカルシリンおよびチゲモナムからなる群において選択される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗生物質は、β−ラクタム類からなる群において選択される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記抗生物質は、アミジノシリン、アモキシシリン、アンピシリン、アパルシリン、アスポキシリン、アジドシリン、アズロシリン、アズトレナム、バカムピシリン、ベンジルペニシリン酸、カルベニシリン、カルフェシリン、カリンダシリン、カルモナム、セファクロル、セファドロキシル、セファマンドール、セファトリジン、セファゼドン、セファゾリン、セフブペラゾン、セフィキシム、セフメノキシム、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフメタゾール、セフミノクス、セフォジジム、セフォニシド、セフォペラゾン、セフォラニド、セフォテタン、セフォチアム、セフォキシチン、セフピミゾール、セフピラミド、セフポドキシムプロキセチル、セフロキサジン、セフスロジン、セフタジジム、セフテラム、セフテゾール、セフチブテン、セフチオフル、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフロキシム、セフゾナム、セファセトリル、セファレキシン、セファログリシン、セファロリジン、セファロスポリンC、セファロチン、セファピリン、セファランチン、セフラジン、クロメトシリン、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、ジフェネニシリン、エピシリン、フェンベニシリン、フロモキセフ、フロキサシリン、ヘタシリン、イミペネム、レナンピシリン、メタンピシリン、メチシリン、メズロシリン、モキソラクタム、ナフシリン、オキサシリン、ペナメシリン、ペネタメートハイドリオダイド、ペニシリン、ペニメピサイクリン、フェネチシリン、ピペラシリン、ピバンピシリン、ピブセファレキシン、プロピシリン、キナシリン、スルベニシリン、スルファゼシン、タラムピシリン、テモシリン、チカルシリンおよびチゲモナムからなる群において選択される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記細菌株は、ブドウ球菌、好血菌、ヘリコバクター、ミコバクテリウム、連鎖球菌、ナイセリア、クレブシエラ、エンテロバクター、プロテウス、バクテロイド、シュードモナス、ボレリア、シトロバクター、エシェリキア、エルシニア、サルモネラ、プロピオニバクテリウム、トレポネーマ、シゲラ、腸球菌およびレプトスピレックスからなる群において選択される請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記バクテリオファージは、細菌感染を患った個人から回収される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記バクテリオファージ株は、シストウィルス科、レビウィルス科、マイオウィルス科、ポドウィルス科、サイフォウィルス科、コルチコウィルス科、イノウィルス科、ミクロウィルス科、およびテクチウィルス科からなる群において選択される請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記バクテリオファージ株は、マイオウィルス科、ポドウィルス科およびサイフォウィルス科からなる群において選択される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記バクテリオファージ株は、マイオウィルス科において選択される請求項1に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公表番号】特表2009−532055(P2009−532055A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503678(P2009−503678)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000880
【国際公開番号】WO2007/113657
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(505045610)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス) (41)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
【出願人】(508298570)ユニヴェルシテ ポール サバティエ ドゥ トゥールーズ トロワ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PAUL SABATIER DE TOULOUSE 3
【Fターム(参考)】