説明

バグフィルター用芯鞘型複合繊維

【課題】バグフィルター用フェルトに用いるポリフェニレンサルファイド繊維において、フィルター作成時の工程通過性に優れ、施工時に発生するフィルターの破損などが起こりにくいフィルターを得るための機械特性に優れたポリフェニレンサルファイド繊維を提供する。
【解決手段】芯鞘構造であって、鞘がポリフェニレンサルファイドであるバグフィルター用芯鞘型複合繊維。芯部が極限粘度0.7以上のポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バグフィルター用フェルトに用いるポリフェニレンサルファイド繊維に関するものであり、フィルター作成時の工程通過性に優れ、施工時に発生するフィルターの破損などが起こりにくいフィルターを得るための機械特性に優れた繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭焚きボイラー、都市ゴミ焼却炉、産業廃棄物焼却炉等から排出される排ガス中には煤塵のみならずダイオキシン等の有害物質も含まれており、大気汚染防止として各種排ガス集塵は非常に重要である。また、ダイオキシン生成抑制及び排出抑制の観点からも、バグフィルターによる排ガスろ過が大きく期待されている。また、大きなろ過速度で目詰まりなしの低圧損運転できれば、ろ過面積やバグフィルター設置面積も小さくでき、コストダウンにもつながる。また、ダイオキシン類や重金属などの有害物質対策として、ガス化溶融炉や灰溶融炉が使用されるようになり、ダストはより小さくなる傾向にある。
【0003】
ダスト吹き漏れ量が小さく長期安定して排ガスろ過を行う方法として、様々な方法が検討されている。
例えば、既に製品として存在する不織布あるいは織物のろ過面にポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という)からなり細孔径が約2〜3μm程度のメンブレンを接着させ払い落とし性を向上させたものがある。
また、不織布あるいは織物のろ過面にフィルムの延伸方向にスリットを入れた一軸延伸フィルムを貼り合わせ、μm径オーダーの微少な粒子を捕捉可能としたろ過布(例えば、特許文献1)が提案されている。
ポリフェニレンサルファイド(以下、「PPS」という)繊維よりなるフェルトに限っては、ろ過面層に細繊度繊維を用い、更には太さ勾配をつけたもの(例えば、特許文献2)、異形繊度繊維を使用することにより、繊維表面積を大きくしたしたもの(例えば、特許文献3)が知られている。
【0004】
上記のPTFEメンブレンをろ布に接着させたものは、パルスジェット方式や逆洗方式によるダスト払い落とし性は優れるが、初期より圧損が大きく、さらに、他素材との接着性に劣るPTFEは長期にわたるダスト払い落とし操作によりPTFEメンブレン自体がろ過面から剥がれたり、ダスト払落し屈曲疲労によってシワができ、破損に至るという問題がある。また、バグフィルター用フェルトは、ろ過と同時に塩化水素などの酸性ガスをろ過面のケーキ層で消石灰などにより反応除去するという機能も有している。しかし、メンブレンを使用するとケーキ層まで払落ししてしまうため、酸性ガスの除去率が低下するといった問題があった。さらに、メンブレン加工のコストが非常に高く、現在あるバグフィルター用ろ布としては最も高いものとなっている。
【0005】
特許文献1のものは、ろ過層内部のフィルムによりろ布を通過しようとしたダストを補足することができるが、繊維からなるろ過層自体の空隙率が大きいため、目詰まりを起こし長期安定して排ガスろ過を行えないという問題がある。
【0006】
特許文献2のものは、繊度が2.0dtex以下であるPPS短繊維を表層に配している。これは、ろ過性能は向上するものである。しかし、フェルト作成時の生産性が低くなる問題がある。
【0007】
また、特許文献3では、繊度が5.6dtex以下で、Y型の異形断面PPS繊維を使用して性能向上するものである。しかし、これらの技術で表層のろ過性能を向上することはできても、断面の形状から強力の低下が大きくなる問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平2−253814号公報
【特許文献2】特開平10−165729号公報
【特許文献3】特開2000−117027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術のPPS繊維よりなるバグフィルター用フェルトの持つ問題点に対し、強力の高いPPS繊維を提供することで改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、以下の通りである。
1.芯鞘構造であって、鞘がポリフェニレンサルファイドであることを特徴とするバグフィルター用芯鞘型複合繊維。
2.芯部が極限粘度0.7以上であるポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載のバグフィルター用芯鞘型複合繊維。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、フィルター作成時の工程通過性に優れ、施工時に発生するフィルターの破損などが起こりにくいフィルター用フェルトを提供する事を可能とした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる繊維は芯鞘構造を有する繊維であり、鞘にはPPS樹脂が用いられる。芯部にはポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂など熱可塑性樹脂を用いることができるが、汎用性、機械特性を得るために、ポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0013】
芯鞘比は芯/鞘=30/70〜70/30が好ましい。芯部が30%より少なくなると望ましい強力を得ることとができず、70%より多くなると耐熱性が悪くなり、フィルターとしての機能を果たさなくなる。
【0014】
次にこのPPS短繊維を得るために用いる樹脂について説明する。用いるPPS樹脂は線状PPSポリマーが好ましく、ASTM D‐1238‐82法で荷重49N、温度315.6℃の条件で測定したPPSのメルトフローレートが50〜160g/10minがより好ましい。バグフィルター用フェルトのように厳しい環境で使用される各種用途には単なる耐熱性や耐薬品性のみならず、例えばフィルター形体に必要な強度なども併せ持つ必要がある。そのため、例えば繊維としての高い強力を得るために、重合段階でトリクロロベンゼンなどを用いて未反応の塩素基を残しておき、紡糸前のポリマーの段階で酸素雰囲気あるいは窒素雰囲気での高温処理によって未反応塩素基により架橋反応を起こさせ重合度を増し、繊維として必要な初期強度を得る方法がある。また、比較的メルトフローレート(低分子量)の低いポリマーでも、紡糸前に、酸素雰囲気で一時的に架橋させて分子量を大きくすることによっても繊維自体は強力など必要物性を満足させることができる。しかし、この様な方法では比較的低分子量ポリマーを一次的な架橋反応によって得られたポリマーよりなる繊維であり、ESCAなどでイオウ原子を中心とする結合を測定すると既に−SO−や−SO−の結合が含まれ、一次的に架橋や酸化により重合度を高くしたこの様な方法では長期に渡る耐熱性を得る事はできない。本発明のPPSは、ASTM D‐1238‐82法で荷重49N、温度315.6℃の条件で測定したPPSのメルトフローレートが50〜160g/10minからなる線状ポリマーを紡糸してなることであり、例えば、ESCAでイオウ原子を中心とする結合状態を測定しても、その95アトミック%以上がスルフィド結合であり、さらに好ましくは98アトミック%以上であり、さらに好ましくは100アトミック%がスルフィド結合である事が好ましい。
【0015】
本発明でいうPPSに代表されるポリアリーレンスルフィドは、−Ar−S−(Arはアリーレン基)で表されるアリーレンスルフィドを繰返し単位とする芳香族ポリマーである。アリーレン基としては、p−フェニレンの他に、例えばm−フェニレン、ナフチレン基などさまざまなものが知られているが、その耐熱性、加工性、経済的観点から言ってもp−フェニレンスルフィドの繰返し単位が最も優れる。
【0016】
本発明でいうPPSのASTM D‐1238‐82法で荷重49N、温度315.6℃の条件で測定したメルトフローレートは50〜160g/10minである。十分な長期耐熱性や強度を得るためには線状ポリマーでなおかつ重合度がより高いほうが好ましい。しかし、メルトフローレートが50g/10min以下では高温でもあまりにも粘性が高く、紡糸時の圧損上昇などから生産性と言う面では好ましくない。また、またメルトフローレートが160g/10min以上になる、即ち分子量が小さくなると紡糸時の圧損上昇などは抑える事ができるが、分子量分布が大きくなり、低圧損状態でより高分子量ポリマーが含まれると、高分子量ポリマーの溶融状態が悪く紡糸時の糸切れなどに影響を及ぼす可能性がある。また、長期耐熱性の観点からも低分子量化は望ましくない。この様な観点からPPSのメルトフローレートは50〜160g/10min、さらに好ましくは80〜140g/10minの範囲である。また、線状ポリマーのPPSは、架橋型や半架橋型のPPSに比べると、長期耐熱性に優れるばかりでなく溶融時の熱安定性も優れるため加工性にも優れる。
【0017】
本発明で使用するPPSは、極性有機溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物を重合反応させる方法により得る事ができる。アルカリ金属硫化物は、例えば、硫化ナトリウム、硫化リチウム、硫化カリウム等、あるいはこれらの混合物などが使用する事ができる。これらの中でも硫化ナトリウムが最も経済的に優れる事から一般的に用いられる。
【0018】
また、ジハロ化合物としては、例えば、p−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼンなどのジハロベンゼン、1,4−ジクロロナフタレン等のジハロナフタレン、その他、ジハロ安息香酸、ジハロベンゾフェノン、ジハロフェニルエーテルなどを上げる事ができるが、物性および経済的観点よりp−ジクロロベンゼンが最も好ましく使用される。その他、一般的には、多少の分岐構造を得るために1分子当り2個ではなく3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を少量併用することも知られており、トリクロロベンゼンなどが上げられるが、本発明でいう線状ポリマーとはこの様な半架橋構造を実質的に有さないものである。
【0019】
次にポリエチレンテレフタレート樹脂について説明する。溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40)を使用して60℃で1時間浸透させて粘度測定器にて測定される極限粘度が0.7以上である、好ましくは0.8以上1.2以下であることが好ましい。極限粘度が0.7より低いと分子量が低く、十分な強力が得られず、1.2より大きくなると溶融粘度が高くなり、紡糸することが困難となる。
【0020】
本発明の芯鞘構造を有するPPS繊維は、前記した樹脂を用い、常法の複合溶融紡糸法により得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
なお、測定方法は以下の通りである。
【0022】
繊度:JIS L−1015(1999)−8.5の方法に準じて測定した。
【0023】
強力:JIS L−1015(1999)−8.5の方法に準じて測定した。
【0024】
不織布強力:L−1096(1999)−8.12.1Aの方法に準じて測定した。クロスウエブによるフェルトは、短繊維強力はフェルトのヨコ方向に大きく影響するため、巾5cmでヨコ方向のフェルト強力で評価した。
フェルトはPPS長繊維織布を短繊維よりなるウエブにて両サイドをサンドイッチしてフェルトを構成した。基布は、500dtexの長繊維PPSからなり、目付は104g/mを使用した。ウエブは、クロスレイにて片面200g/mに積層したカードウェッブをペネ数500/cmにてニードルパンチ処理をしたものを用いた。その後、210℃熱カレンダーにて熱プレス、及び、熱セットを行い、高温フィルター用フェルトを得た。
【0025】
<実施例1>
鞘成分にメルトフローレートが110g/10minであるPPS樹脂を、芯成分に極限粘度0.9のポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、ポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=1.0g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率1.9、延伸温度160℃にて延伸し、乾燥後60mmにカットし、繊度=4.4dtex、強力=5.8cN/dtexの芯鞘型ポリフェニレンサルファイド/ポリエチレンテレフタレート複合繊維を得た。
【0026】
<実施例2>
鞘成分にメルトフローレートが110g/10minであるPPS樹脂を、芯成分に極限粘度0.9のポリエチレンテレフタレート樹脂を用い、ポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=0.8g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率2.9、延伸温度160℃にて延伸し、乾燥後60mmにカットし、繊度=2.2dtex、強力=5.5cN/dtexの芯鞘型ポリフェニレンサルファイド/ポリエチレンテレフタレート複合繊維を得た。
【0027】
<比較例1>
メルトフローレートが110g/10minであるPPS樹脂を用い、ポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=0.6g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率2.3、延伸温度160℃にて延伸し、乾燥後60mmにカットし、繊度=2.2dtex、強力=3.8cN/dtexのポリフェニレンサルファイド繊維を得た。
【0028】
<比較例2>
メルトフローレートが110g/10minであるPPS樹脂を用い、ポリマー温度を300℃とし、単孔吐出量=1.4g/minにて押し出し、1200m/minにて紡糸した。その後トータル繊度が1,000,000dtexとし、延伸倍率2.6、延伸温度160℃にて延伸し、乾燥後60mmにカットし、繊度=4.4dtex、強力=3.5cN/dtexのポリフェニレンサルファイド繊維を得た。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明では、上記従来技術のPPS繊維よりなるバグフィルター用フェルトの持つ問題点に対し、芯鞘構造とし芯部に極限粘度が0.7以上のポリエチレンテレフタレートを使用することで強力の高いPPS繊維を提供する事を可能とした。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘構造であって、鞘がポリフェニレンサルファイドであることを特徴とするバグフィルター用芯鞘型複合繊維。
【請求項2】
芯部が極限粘度0.7以上であるポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1に記載のバグフィルター用芯鞘型複合繊維。


【公開番号】特開2008−163513(P2008−163513A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354161(P2006−354161)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】