説明

バターの製造方法及びバター

【課題】比較的容易に製造でき、しかも風味が豊かで保存性のよい新規のバターを得ることができる方法及びそのようなバターを提供する。
【解決手段】バター原料のクリームに食酢及び/又は調味酢を加えてチャーニングした後、水洗いし、ワーキングした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバターの製造方法及びバターに関する。バターは一般に、原料のクリームを乳酸発酵させるか否かによって発酵バターと非発酵バターに分けられ、また製造中に食塩を加えるか否かによって有塩バター(加塩バター)と食塩不使用バターに分けられる。本発明は、非発酵で食塩不使用に分けられるけれども、そのような従来のバターよりも風味が豊かで保存性のよい新規のバターの製造方法及びバターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バターの製造方法として、非発酵で食塩不使用のバターの製造方法(例えば、特許文献1〜3参照)の他に、発酵バターの製造方法(例えば、特許文献4参照)や有塩バターの製造方法(例えば、特許文献5参照)等、各種が知られている。しかし、非発酵で食塩不使用のバターには、風味が乏しく、保存性が悪いという問題があり、また発酵バターには、その製造が面倒で、保存性が悪く、風味が劣化し易いという問題があって、更に有塩バターには、用途が制限されるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−264979号公報
【特許文献2】特開2007−020429号公報
【特許文献3】特開2010−081835号公報
【特許文献4】特開2005−110647号公報
【特許文献5】特開2001−204285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、比較的容易に製造でき、しかも風味が豊かで保存性のよい新規のバターを得ることができる方法及びそのようなバターを提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決する本発明は、バター原料のクリームに食酢及び/又は調味酢(以下、単に酢という)を加えてチャーニングした後、水洗いし、ワーキングすることを特徴とするバターの製造方法に係る。また本発明は、かかる製造方法によって得られるバターに係る。
【0006】
本発明に係るバターの製造方法(以下、単に本発明の製造方法という)でも、バター原料のクリームをチャーニングした後、水洗いし、ワーキングする。バター原料のクリームは、市販品を用いることもできる。かかるクリームは一般に、乳から遠心分離等で乳脂肪を通常は30〜40%程度に濃縮してクリームとし、このクリームを加熱して脂肪分解酵素を失活させ、冷却したものであるが、更に一定時間エージングして脂肪球を安定な結晶に調整したものが好ましい。またチャーニングは、バター原料のクリームをチャーン容器で撹拌して脂肪球を凝集させ、バター粒にする操作であり、水洗いは、チャーニングで分離した水溶性成分(バターミルク)を水洗して取除く操作であって、ワーキングは、バター粒を練り上げてなめらかなバターにする操作である。バター原料のクリーム、チャーニング、水洗い及びワーキングは、従来からバターの製造において一般に使用され、また行なわれていることであり、したがってこの限りでは、本発明の製造方法も、従来のバター、なかでも非発酵で食塩不使用のバターの製造方法と異なるところはない。
【0007】
本発明の製造方法では、バター原料のクリームに酢を加えてチャーニングする。チャーニングの前に酢を加えることが肝要であり、例えばチャーニングの後やワーキングの前又は後で酢を加えても、所期のバターを得ることはできない。バター原料のクリームに加える酢は、食用の酢であれば、特に制限されないが、醸造酢が好ましい。
【0008】
バター原料のクリームに加える酢の量は、特に制限されないが、バター原料のクリーム100g当たり、酢酸濃度2.5容量%の酢換算で、10〜80mlとなるように加えるのが好ましく、15〜40mlとなるように加えるのがより好ましい。酢の加える量が、余りにも少ないと、効果の発現が不充分になり、逆に余りにも多いと、得られるバターの酸味が気になるようになる。酢の加える量は、前記の範囲内で、より風味が豊かで保存性のよいバターを得ることができる。
【0009】
前記したように、チャーニング、水洗い及びワーキングそれ自体は、従来のバターの製造と同様に行なうことができる。これらの操作全体を通じて、温度(雰囲気温度及び品温)は13℃以下で行なうのが好ましく、10℃以下で行なうのがより好ましい。水洗により、チャーニングの前に加えた酢由来の酢酸は、その殆どが、水溶性成分(バターミルク)と共に取除かれる。
【0010】
本発明に係るバターは、以上説明した本発明の製造方法によって得られるものである。かかるバターは、比較的容易に製造でき、しかも風味が豊かで保存性がよいため、従来のバターと同様に使用できるだけでなく、その利用範囲も広い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、比較的容易に製造でき、しかも風味が豊かで保存性のよい新規のバターを得ることができる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の構成及び効果をより明らかにするため、実施例及び比較例を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。
【0013】
試験区分1(バターの製造)
・実施例1
バター原料のクリーム(市販品)100g当たり、酢(内堀醸造社製の商品名飲むふじりんごの酢)を、酸度2.5容量%の酢換算で15mlの割合となるよう加え、チャーン容器で25分間撹拌した(チャーニング)。この間、分離したバターミルクは適宜排出した。生成したバター粒に10℃以下に冷却した水を、元の生クリーム100g当たり200mlの割合となるよう加え、5分間撹拌して、水を排出した。かくしてチャーニングし、水洗いしたバター粒を15分間練り上げて(ワーキング)、実施例1のバターを製造した。製造中、雰囲気温度及び品温等は13℃以下に保持した。
【0014】
・実施例2
クリーム100g当たり、酢を、酸度2.5容量%の酢換算で40mlの割合となるよう加えたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のバターを製造した。
【0015】
・実施例3
クリーム100g当たり、酢を、酸度2.5容量%の酢換算で80mlの割合となるよう加えたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のバターを製造した。
【0016】
・比較例1
酢を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のバター(非発酵で食塩不使用のバター)を製造した。
【0017】
・比較例2
酢を加えず、また水洗い後でワーキング前に、食塩を1.5質量%となるよう加えたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のバター(有塩バター)を製造した。
【0018】
・比較例3
市販の発酵バターをそのまま比較例3のバター(発酵バター)とした。
【0019】
・比較例4
酢を、チャーニングの後で水洗いの前に加えたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4のバターを製造した。
【0020】
・比較例5
酢を、水洗いの後でワーキングの前に加えたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5のバターを製造した。
【0021】
・比較例6
酢を、ワーキングの後に加えて更に5分間練り上げたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6のバターを製造した。
【0022】
試験区分2(官能評価)
男性10名及び女性10名の合計20名の評価員により、試験区分1で製造した比較例1のバターと他の各例のバターとを2点比較し、どちらの酸味を強く感じるか、またどちらの風味が豊かであるか、更にどちらがバターとして好ましいかを選択させ、他の各例のバターを選択した人数を表1にまとめて示した。表1の結果からも明らかなように、実施例1〜3の本発明に係るバターは、酸味を強く感じることのない全体として調和のとれた、風味が豊かで好ましいものと評価された。
【0023】
【表1】

【0024】
表1において、
*:1%の危険率で有意であることを示す。
**:0.1%の危険率で有意であることを示す。
比較例4〜6の風味:酸味を強く感じ、全体の調和がとれていないので、評価しなかった。
【0025】
試験区分3(香気成分の測定)
試験区分1で製造した各例のバターについて、ヘッドスペース法によるガスクロマトグラフィー(Agilent Technologies 7890A GC System)により、香気成分のピークの総面積を求め、比較例1の総面積に対する面積比を求めて、結果を表2にまとめて示した。但し、比較例4〜6のバターについては、前記したように、酸味を強く感じ、全体の調和がとれていないので、測定しなかった。表2の結果からも明らかなように、実施例1〜3の本発明に係るバターは、香気成分が比較例1のバター(非発酵で食塩不使用のバター)の10倍以上あり、比較例3のバター(発酵バター)に匹敵するものであった。
【0026】
【表2】

【0027】
試験区分4(保存性の評価その1)
試験区分1で製造した各例のバターについて、冷蔵庫(5〜10℃)に保存したときの一般生菌数(1g当たりのコロニー数)の変化を求め、結果を表3にまとめて示した。但し、比較例3〜6のバターについては、前記したように、酸味を感じ、全体の調和がとれていないので、測定しなかった。表3の結果からも明らかなように、実施例1〜3の本発明に係るバターは、保存性が比較例1のバター(非発酵で食塩不使用のバター)よりもはるかに優れ、比較例2のバター(有塩バター)よりも優れている。
【0028】
【表3】

【0029】
試験区分5(保存性の評価その2)
試験区分1で製造した各例のバターを生地に使用して作ったスコーンを、室温下に放置したときのカビの発生状況を観察した。実施例1〜3の本発明に係るバターは3週間経過するまでカビの発生はなく、4週間経過後でもカビはスコーンのごく一部にしか観察されなかったが、比較例1〜3のバターは数日経過でカビが発生し、スコーン全体に著しく増殖した。このことからも明らかなように、実施例1〜3の本発明に係るバターは保存性、なかでも静菌性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バター原料のクリームに食酢及び/又は調味酢を加えてチャーニングした後、水洗いし、ワーキングすることを特徴とするバターの製造方法。
【請求項2】
クリーム100g当たり、食酢及び/又は調味酢を酸度2.5容量%の食酢換算及び/又は調味酢換算で10〜80mlとなるよう加える請求項1記載のバターの製造方法。
【請求項3】
クリーム100g当たり、食酢及び/又は調味酢を酸度2.5容量%の食酢換算及び/又は調味酢換算で15〜40mlとなるよう加える請求項1記載のバターの製造方法。
【請求項4】
チャーニング、水洗い及びワーキングを10℃以下で行なう請求項1〜3のいずれか一つの項記載のバターの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの項記載のバターの製造方法によって得られるバター。

【公開番号】特開2012−135242(P2012−135242A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289199(P2010−289199)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(502143467)内堀醸造株式会社 (3)
【Fターム(参考)】