説明

バチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離する方法

【課題】納豆菌などのバチルス属細菌の培養物から、効率よくビタミンK2分離する。
【解決手段】2価以上の金属イオンを用いることによって、バチルス属細菌の培養物中のビタミンK2を不溶化し、該ビタミンK2不溶化物を溶液から分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、納豆菌などのバチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離する方法、ならびに、該方法を利用したビタミンK2濃縮物の製造方法及びビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
納豆は古くから日本で食されてきた伝統的な醗酵食品であり、栄養価が高く、近年健康食品としてもその価値が見直されてきている。中でも特に注目されている成分が、1987年に須見らによって血栓溶解酵素として納豆より発見されたナットウキナーゼである(非特許文献1)。ナットウキナーゼは、それ自身が線溶酵素として血栓に作用し、溶解することから、脳血栓、脳梗塞などの予防薬、更にはロングフライト症候群の予防薬として、効果が期待されている。ナットウキナーゼは菌体外に分泌される酵素であり、納豆菌などの液体培養により、溶液中に得ることができる。また、納豆そのものにも含まれており、これらを濃縮した納豆菌培養エキスが、現在健康食品としてカプセル、錠剤等の形で市販されている。
【0003】
ところで、納豆などの発酵食品にはビタミンK2(メナキノン)が含まれていることが知られている。ビタミンK2は、細菌においては化学エネルギーの産生、電解質輸送、細胞内電子伝達系などに利用されていると言われており、通常菌体外に分泌されない。しかしながら、納豆菌は容易に溶菌するため、納豆菌の醗酵に於いては、ビタミンK2は膜脂質と結合した水溶性ミセルの形で溶液中に得られることが知られている。ビタミンK2は過剰摂取による毒性は認められていないものの、血栓治療薬ワーファリンと拮抗するため、ワーファリンの投与を受けている患者に対してはビタミンK2は処方上禁忌とされている。このため、ビタミンK2を極力含まない納豆菌培養エキスが望まれている。
【0004】
その一方で、ビタミンK2自身についても、その有用性が注目されている。例えば、最近、ビタミンK2が骨に存在する蛋白質オステオカルシンを活性化して骨の形成を促進することが明らかとなり、ビタミンK2が骨粗鬆症の予防薬として注目されている。しかしながら、骨粗鬆症の予防用としてのビタミンK2の必要量は45mg/日と多く、納豆に換算すると10kg/日以上となるため、骨粗鬆症予防に必要な量のビタミンK2を納豆を通じて摂取することは事実上不可能であった。また、納豆は独特の臭い、風味、食感を有し、抵抗感を持つ消費者も多いという問題もあった。そこで、これまでに、納豆そのものや納豆菌の菌体、さらには納豆菌を液体培養した培養液からのビタミンK2の濃縮などが試みられてきた。
【0005】
納豆菌培養エキス内のビタミンK2を減少させる方法として、または、ビタミンK2を濃縮する方法として、これまでに、納豆菌培養物からビタミンK2を有機溶媒を用いて抽出する方法や、活性炭やシリカゲルに吸着させた後に有機溶媒により溶出する吸着分別の方法(特許文献1または2)、有機溶媒や塩析により不溶化する方法(特許文献3)、キトサンを用いてビタミンK2を分離する方法(特許文献4)、ビタミンK2高生産変異株を用いた培養により高濃度のビタミンKを得る方法(特許文献5)などが提案されている。しかしながら、従来の方法では、多量の有機溶媒・塩を使用するなど、環境への負荷が大きく、残留する有機溶媒を完全に除去する必要があるため製造方法も煩雑となり、製造に掛かるコストが高くなるという問題があった。また、一つの納豆菌培養物から、ビタミンK2と、ビタミンK2以外の成分、例えばナットウキナーゼなどを回収して得ることが困難であった。そこで、有機溶媒などを使用せず、効率よく、安価にビタミンK2を含む試料からビタミンK2を分離し、それぞれの醗酵物を得る方法の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2001−346546号公報
【特許文献2】特開平8−73396号公報
【特許文献3】特開平11−92414号公報
【特許文献4】特開2001−299277号公報
【特許文献5】特開2000−83653号公報
【非特許文献1】Experientia,43,1110−1111,1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はバチルス属細菌の培養物からビタミンK2を効率よく分離して、ビタミンK2濃縮物及びビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキスを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来のビタミンK2分離法に比べて取り扱いが簡単で環境への負荷が少なく、安価な方法を開発すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、納豆菌の培養物中に存在するビタミンK2を2価以上の金属イオンを用いることによって不溶化し、これを分離することにより、バチルス属細菌培養物からビタミンK2を効率よく分離できることを見出した。また、この不溶化した成分に、不溶化に用いた2価の金属イオンと難溶性の塩を生成する陰イオンを添加することによって、ビタミンK2を再び可溶化させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)バチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離する方法であって、前記培養物中のビタミンK2を2価以上の金属イオンを用いて不溶化し、不溶化されたビタミンK2を溶液から分離することを特徴とする方法。
(2)バチルス属細菌が納豆菌である、(1)の方法。
(3)2価以上の金属イオンが、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄イオン、アルミニウムイオンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属イオンである、(1)または(2)の方法。
(4)2価以上の金属イオンが、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンである、(1)または(2)の方法。
(5)2価以上の金属イオンを、培養物に対して0.07〜3重量%添加することによってビタミンK2を不溶化する、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(6)2価以上の金属イオンを、培養物に対して0.14〜1.4重量%添加することによってビタミンK2を不溶化する、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(7)2価以上の金属イオンを、培養物に対して0.14〜0.28重量%添加することによってビタミンK2を不溶化する、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(8)pH7〜9の条件下でビタミンK2を不溶化する、(1)〜(7)のいずれかの方法。
(9)ビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキスの製造方法であって、(1)〜(8)のいずれかの方法を用いてバチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離することによりバチルス属細菌の培養物からビタミンK2を除去し、ビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキスを回収することを特徴とする方法。
(10)(1)〜(8)のいずれかの方法を用いてバチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離することにより、バチルス属細菌の培養物からビタミンK2を除去して得られるビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキス。
(11)ビタミンK2濃縮物の製造方法であって、(1)〜(8)のいずれかの方法により分離されたビタミンK2不溶化物を再可溶化し、さらに脱塩および濃縮することによ
りビタミンK2濃縮物を得ることを特徴とする方法。
(12)ビタミンK2不溶化物に含まれる2価以上の金属イオンと難溶性の塩を形成してビタミンK2不溶化物からビタミンK2を遊離させることのできる陰イオンを用いることにより、ビタミンK2不溶化物を再可溶化する、(11)の方法。
(13)前記陰イオンが、炭酸イオン又はリン酸イオンであることを特徴とする、(12)の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分離方法を用いることにより、バチルス属細菌の培養物からビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキス及びビタミンK2濃縮物を効率よく得ることができる。また、本発明の方法によれば、従来の有機溶媒を用いる方法と比較して、安全性の高いビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキス及びビタミンK2濃縮物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の分離方法は、バチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離する方法であって、前記培養物中のビタミンK2を2価以上の金属イオンを用いて不溶化し、該ビタミンK2不溶化物を溶液から分離することを特徴とする方法である。
【0011】
本発明において用いられる菌は、ビタミンK2を生産するバチルス属細菌であれば何れの種類のものでもよい。その中では、食用に供する場合などには特に、納豆菌(Bacillus subtilis nattoとも呼ばれる)など食品の製造に用いられている菌が好ましい。納豆菌などのバチルス属細菌は市販されているものを使用することができる。また、公共の微生物分譲機関から分譲可能な菌を使用することもできる。例えば、独立行政法人製品評価技術基盤機構 生物遺伝資源部門から入手できるBacillus
subtilisNBRC16449株、Bacillus subtilisNBRC3335株などを使用することもできる。
【0012】
培養物は固体でも液体でも良く、バチルス属細菌を液体培養した培養液も本発明に用いることができる。バチルス属細菌を培養する培地や培養方法に特に制限はなく、窒素源としては大豆粉、酵母エキス、ペプトンなどを用いることができるが、水への溶解性など取り扱いの簡便さから、ペプトン、オリゴペプチド、ポリペプチドなど低分子の形態が好ましい。炭素源としては蔗糖、澱粉、グルコース、グリセリンなど、その他ミネラル、ビタミンなどを含む、一般的に醗酵工業で使用されている培地を用いることができる。ただし、食用に供することもあるため、培地に使用される成分は食品もしくは食品添加物であることが望ましい。
【0013】
培養物が納豆のような固体である場合は、前処理として、水を添加して磨砕するなどして水溶液への懸濁を行うことが好ましい。例えば、納豆に水を添加し、磨砕し、よく攪拌することで、ナットウキナーゼなどの発酵物中の有用成分やビタミンK2はともに水溶液中に抽出される。
【0014】
上記のようなビタミンK2を含む培養液やビタミンK2を含む水溶液に対し、2価以上の金属イオンを加えることによってビタミンK2を不溶化することができる。この際、前記培養液や水溶液は固形分を除去したものでも固形分を含むものでも良く、バチルス属細菌を含む状態でも良い。不溶化の際のpHに特に制限はないが、pH3〜pH11が好ましく、pH6〜pH10がさらに好ましく、pH7〜pH9が最も好ましい。なお、2価以上の金属イオンを用いたビタミンK2の不溶化は、必ずしも金属イオンを添加することによって行う必要はなく、金属イオンを担持するカラム(担体)などを用いて行ってもよい。
【0015】
2価以上の金属イオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄イオン、アルミニウムイオンなどが挙げられ、これらを単独あるいは組み合わせて使用できるが、食用に供することから、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンが好ましい。カルシウムイオン、あるいはマグネシウムイオンは、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの金属塩(水和物も含む)の形態で使用することができる。2価以上の金属イオンは、培養物に対して0.07〜3重量%加えることが好ましく、0.14〜1.4重量%加えることがより好ましく、0.14〜0.28重量%加えることが特に好ましい。
なお、アルギン酸などに代表されるアニオン性の凝集促進剤を併用することにより凝集性が良くなり、不溶物を除去しやすくなるため、不溶化の際にアルギン酸などのアニオン性の凝集促進剤を併用してもよい。この場合、アルギン酸を加えて攪拌し、溶解した後に、上記金属イオン(金属塩)を加えることが好ましい。
【0016】
生成した不溶化物を溶液から分離することにより、バチルス属細菌培養物からビタミンK2を分離することができる。ビタミンK2不溶化物を溶液から分離する方法としては、遠心分離、膜分離、デカンテーションなどの方法がある。分離回収した不溶分は、不溶化したビタミンK2を遊離しないような水溶液、例えば水や生理的食塩水などで洗浄してもよい。
このようにしてビタミンK2不溶化物を溶液から分離して除去することにより、バチルス属細菌培養物中のビタミンK2を95%以上、場合によっては99%以上除去できる。
ビタミンK2低含量エキスを得るためには、前記不溶化物を除去して得られる上澄み液または ろ液を、限外ろ過、ゲルろ過、透析などの一般的な方法を用いて脱塩することで、溶液中に残 存する塩類を除去することが好ましい。この様にして得られた溶液を、逆浸透膜濃縮、減圧濃 縮などの方法によって濃縮することにより、ビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキスを 得ることができる。バチルス属細菌培養エキスは、液状、ペースト状、あるいは粉末状でもあ り得る。本発明において「ビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキス」とは、通常のバチ ルス属細菌培養エキスと比較してビタミンK2の含量が低いバチルス属細菌培養エキスを言う が、例えば、ビタミンK2の含量が1mg/kg以下、好ましくは0.2mg/kg以下であ るバチルス属細菌培養エキスをいう。
【0017】
本発明により得られた納豆菌エキスは、原料が伝統的に食された発酵物に由来するものであることから、飲料、食料、特に健康食品として用いることができる。
【0018】
一方、溶液から分離されたビタミンK2不溶化物からビタミンK2濃縮物を得ることもできる。すなわち、ビタミンK2不溶化物を再可溶化し、さらに脱塩および濃縮することによりビタミンK2濃縮物を得ることができる。
具体的には、例えば、以下のようにしてビタミンK2濃縮物を得ることができる。まず、上記不溶分を水や生理食塩水などの水溶液へ再懸濁する。この懸濁液に、陰イオンを添加することによって、不溶化されたビタミンK2を再度、可溶化させる。該陰イオンは、ビタミンK2不溶化物からビタミンK2を遊離させることのできる陰イオンであれば特に制限されないが、ビタミンK2を効率よく分離するためには、ビタミンK2不溶化物に含まれる2価以上の金属イオンと難溶性の塩を形成する陰イオンが好ましい。上記陰イオンとしては、炭酸イオン、リン酸イオンなどが挙げられ、これらを単独あるいは組み合わせて使用できる。上記陰イオンは、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの塩の形態で使用することもできる。添加量は、不溶化したビタミンK2が可溶化される量を用いれば良く、特に制限はない。例えば、上記懸濁液に対し炭酸イオンとして0.2重量%〜5重量%を用いることができる。なお、再可溶化はビタミンK2不溶化物を上記陰イオンを含む水溶液に直接懸濁することにより行ってもよい。
【0019】
次に、再可溶化したビタミンK2を回収する。この工程は、例えば、上記陰イオンの添加により生じる難溶性の塩を除去することによって行うことができる。難溶性の塩を含む不溶分の除去の方法としては、遠心分離、膜分離などの方法がある。該処理で得られたビタミンK2を含む上澄み液またはろ液については、限外ろ過、ゲルろ過、透析、イオン交換クロマトグラフィーなどの一般的な方法を用いて脱塩することで、溶液中に残存する塩類を除去することが好ましい。
【0020】
この様にして得られたビタミンK2を含有する溶液は、逆浸透膜濃縮、減圧濃縮などの方法によって濃縮され、ビタミンK2濃縮物を得ることができる。本発明の方法により、例えば、バチルス属細菌の培養液から、ビタミンK2を40%以上の回収率で、500mg/kg〜2000mg/kg含有する濃縮物を得ることができる。
【0021】
本発明により得られたビタミンK2濃縮物は、原料が伝統的に食された発酵物に由来するものであることから、飲料、食料、特に健康食品として用いることができ、骨粗鬆症に代表されるビタミンK2の関与する疾患の予防等に使用できる。
【実施例】
【0022】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの例により何ら制限されるものではない。
【0023】
ビタミンK2の測定方法
液体試料は、試料0.2mLにメタノール0.8mLを加え、激しく攪拌した。これを、6,000×g、10分間遠心し、この上清中に含まれるビタミンK2量を測定した。乾燥試料は、精秤した試料を乳鉢に移し取り、メタノールを加えて乳棒でよく磨砕した後、ろ紙(アドバンテック東洋社製、定量濾紙No.5A)にて濾過を行い、ろ液を減圧濃縮した後、メタノールにて一定量に定量し、これに含まれるビタミンK2量を測定した。測定は、高速液体クロマトグラフィー(アジレント社製、HP1100)にて、カラム:Wakosil−II5C18 AR(和光純薬株式会社製)、移動相:メタノール、温度:40℃、流速:1mL/min.検出:248nm、の条件で行った。標準品としてメナキノン−7標準品(含量99.5%、ホーネンコーポレーション社製)を用い、得られた標準曲線に基づいて求めた。
【0024】
実施例1
納豆菌培養物からビタミンK2を分離する際の各種金属塩の効果
市販の納豆菌(宮城野菌:宮城野納豆菌製造所製)を、500mLの坂口フラスコを用いて、大豆ペプトン2%、酵母エキス0.3%、グリセロール3%からなる培養液(pH7.2)で37℃、24時間の振盪により前培養した。次に、50Lのジャーを用いて、大豆ペプトン1%、酵母エキス0.5%、グリセロール6%からなる培養液(pH7.2)に前培養液を1%接種し、37℃、20時間、通気攪拌培養した。培養後の培養液を、孔径1μmの精密ろ過膜を用いて菌体分離したところ、透過液中のビタミンK2は4.5mg/Lであった。この透過液をpH8.0に調製し、これを5mLずつ6本のフラスコに用意し、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マンガン・七水和物、硫酸亜鉛・七水和物、または塩化カルシウム・二水和物をそれぞれ1重量%となるよう添加し、一時間攪拌した。その後、6,000×g、10分間遠心分離を行い、沈殿物と上澄み液に分け、各上澄み液(上清1)のビタミンK2を分析した。一方、各沈殿物については、それぞれ、1%の炭酸ナトリウム溶液を加え、一時間以上攪拌した後、再び遠心分離を行い、得られた上清(上清2)のビタミンK2を分析した。結果を表1に示す。なお、表1中のN.D.は沈殿が生じず測定不可能であったことを示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すとおり、培養液上清に2価の金属塩である硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化カルシウムを添加することにより、ビタミンK2は不溶化して遠心分離の沈殿に移行し、上清1にはほとんど存在しないことがわかった。そして沈殿物に炭酸ナトリウムを加えることによって再び可溶化して遠心分離の上清2に回収できることがわかった。
一方、一般的には塩析に用いられる硫酸アンモニウム、また、一価の金属塩である塩化カリウム、塩化ナトリウムの添加によってはビタミンK2は不溶化されず、上清1に残ったままで、沈殿も回収されなかった。
【0027】
実施例2
納豆菌培養物からビタミンK2を分離する際のカルシウム塩の効果
市販の納豆菌(宮城野菌:宮城野納豆菌製造所製)を、500mLの坂口フラスコを用いて、大豆ペプトン2%、酵母エキス0.3%、グリセロール3%からなる培養液(pH7.2)で37℃、24時間の振盪により前培養した。次に、50Lのジャーを用いて、大豆ペプトン1%、酵母エキス0.5%、グリセロール6%からなる培養液(pH7.2)に前培養液を1%接種し、37℃、20時間、通気攪拌培養した。培養後の培養液20Lにアルギン酸ナトリウム5g(100〜150cp)を加え、1時間攪拌した後に、塩化カルシウム・二水和物500gを加え、1時間攪拌し、孔径1μmの精密濾過膜を用いて菌体分離したところ、透過液中のビタミンK2は0.075mg/L以下であった。これを分画分子量6,000〜8,000の透析膜(Spectra/Pro(登録商標) Membrane、スペクトラム ラボ社製)で純水に対して4時間透析して脱塩した後、活性炭を0.5重量%加えて攪拌して脱色を行い、凍結乾燥を行ったところ、淡黄色で僅かに匂いを有する粉末が5.7g/L得られ、ここに含まれるビタミンK2は0.05mg/kg以下であった。
以上より、納豆菌の培養物にアルギン酸ナトリウムおよび塩化カルシウムを加えてビタミンK2を不溶化して除去することにより、納豆菌の培養液からビタミンK2低含量納豆菌エキスを製造することができた。
【0028】
実施例2の比較例
一方、同培養液を、直接、孔径1μmの精密ろ過膜を用いて菌体分離したところ、透過液中のビタミンK2は4.6mg/Lであった。これを同様に透析、活性炭処理を行い、凍結乾燥を行ったところ、淡黄色で僅かに匂いを有する粉末が5.6g/L(培養液1Lあたり5.6g)得られ、ここに含まれるビタミンK2は1.9mg/kgであった。
【0029】
実施例3 ビタミンK2低含量納豆菌エキス及びビタミンK2濃縮物の製造例
市販の納豆菌(高橋菌:高橋祐蔵研究所製)を、500mLの坂口フラスコを用いて、大豆ペプトン2%、酵母エキス0.3%、グリセロール3%からなる培養液(pH7.2)で37℃、24時間の振盪により前培養した。次に、50Lのジャーを用いて、大豆ペプトン1%、酵母エキス0.5%、グリセロール4%からなる培養液(pH7.2)に前培養液を1%接種し、37℃、20時間、通気攪拌培養した。培養後の培養液を6000×g、10分間遠心分離した上清中にはビタミンK2が4.0mg/L含まれていた。この培養液上清180mLに塩化カルシウム・二水和物0.9gを加え、1時間攪拌し、6000×g、10分間遠心分離し、上清と沈殿とに分離した。この沈殿を純水に再懸濁し、炭酸ナトリウムを0.9g添加し、1時間攪拌した後、6000×g、10分間遠心分離した。この上澄み液を全量分画分子量6,000〜8,000の透析膜(Spectra/Pro(登録商標) Membrane、スペクトラム ラボ社製)で純水に対して4時間透析した。これを凍結乾燥したところ、150mgの粉末が得られた。この粉末に含まれるビタミンK2は1800mg/kgであった。以上の処理によってビタミンK2濃縮物が得られた。
【0030】
実施例4
ビタミンK2低含量納豆菌エキス及びビタミンK2濃縮物の製造例
Bacillus subtilis(NBRC16449)を、スラントより一白金耳掻き取り、500mLの坂口フラスコを用いて、大豆ペプトン1%、酵母エキス0.5%、グリセロール4%からなる培養液(pH7.2)で37℃、32時間振盪培養した。培養後の培養液を6000×g、10分間遠心分離した上清中にはビタミンK2が2.1mg/L含まれていた。この遠心上清80mLを、pH9.0に調製し、塩化カルシウム・二水和物を0.8g添加し、1時間攪拌した。これを6000×g、10分間遠心分離し、上清と沈殿とに分離した。この上清を孔径0.45μmのセルロースアセテート製フィルター(アドバンテック東洋社製)にて濾過した後、分画分子量6,000〜8,000の透析膜(Spectra/Pro(登録商標) Membrane、スペクトラム ラボ社製)で純水に対して6時間透析した。これを凍結乾燥したところ、0.2gの粉末が得られた。この粉末に含まれるビタミンK2は1mg/kg以下であった。以上の処理によってビタミンK2低含量納豆菌エキスが得られた。
【0031】
一方、上記の遠心分離により得られた沈殿を純水に再懸濁した。ここに、炭酸ナトリウムを1.6g添加し、1時間攪拌した後、6000×g、10分間遠心分離した。この上澄み液を全量分画分子量6,000〜8,000の透析膜(Spectra/Pro(登録商標) Membrane、スペクトラム ラボ社製)で純水に対して6時間透析した。これを凍結乾燥したところ、60mgの粉末が得られた。この粉末に含まれるビタミンK2は1600mg/kgであった。以上の処理によってビタミンK2濃縮物が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離する方法であって、前記培養物中のビタミンK2を2価以上の金属イオンを用いて不溶化し、不溶化されたビタミンK2を溶液から分離することを特徴とする方法。
【請求項2】
バチルス属細菌が納豆菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2価以上の金属イオンが、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉄イオン、アルミニウムイオンからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属イオンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
2価以上の金属イオンが、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
2価以上の金属イオンを、培養物に対して0.07〜3重量%添加することによってビタミンK2を不溶化する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
2価以上の金属イオンを、培養物に対して0.14〜1.4重量%添加することによってビタミンK2を不溶化する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
2価以上の金属イオンを、培養物に対して0.14〜0.28重量%添加することによってビタミンK2を不溶化する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
pH7〜9の条件下でビタミンK2を不溶化する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキスの製造方法であって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を用いてバチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離することによりバチルス属細菌の培養物からビタミンK2を除去し、ビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキスを回収することを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法を用いてバチルス属細菌の培養物からビタミンK2を分離することにより、バチルス属細菌の培養物からビタミンK2を除去して得られるビタミンK2低含量バチルス属細菌培養エキス。
【請求項11】
ビタミンK2濃縮物の製造方法であって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法により分離されたビタミンK2不溶化物を再可溶化し、さらに脱塩および濃縮することによりビタミンK2濃縮物を得ることを特徴とする方法。
【請求項12】
ビタミンK2不溶化物に含まれる2価以上の金属イオンと難溶性の塩を形成してビタミンK2不溶化物からビタミンK2を遊離させることのできる陰イオンを用いることにより、ビタミンK2不溶化物を再可溶化する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記陰イオンが、炭酸イオン又はリン酸イオンであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。

【公開番号】特開2006−61114(P2006−61114A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249825(P2004−249825)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】