説明

バックアップ機能を有する計測器

【課題】 電源オフ時には1つの積算値のみの記憶だけで済ませることにより、電源オフ時のバックアップのための処理時間を短くして、誤りの無いバックアップを可能にする。
【解決手段】 本発明は、電源電圧の低下を検出するとき、複数種類の積算値の内の基準となる1つのみの積算値を、不揮発性メモリに記憶する基準積算値のバックアップ制御部と、基準積算値以外の前記積算値を演算により算出するために必要となる1つ或いは複数のパラメータ値の変更が生じると、変更が生じたときに該パラメータ値を不揮発性メモリに記憶更新するパラメータ値の更新制御部と、供給電圧の回復を検出するとき、不揮発性メモリに記憶されている基準積算値及び1つ或いは複数のパラメータ値の全てを読み込んで、基準積算値以外の積算値を演算により算出する復元部とを備え、この復元された複数種類の積算値を初期値として、それぞれの積算を継続可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサからの検出信号に基づき、相互の間に所定の関係を有する複数種類の積算値を演算して表示すると共に、電源オフ時の積算データのバックアップ機能を有する計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
積算流量などの積算測定値の表示・演算においては、データメモリを用いて、そこに記憶されたデータを積算し更新していくことになる。機械式のメータであれば、電源オフとなってもデータが消失することはないが、電気式のメータは電源のオフと同時に、メモリに記憶されたデータは消失することになる。このため、データメモリに記憶されているデータが消失しないようにバックアップ構成が採用されている。バックアップ専用のバッテリとか、大容量のコンデンサを備えることでバックアップすることが可能となるが、このような構成は、明らかに高コストとなる。
【0003】
従来公知の技術は、電源電圧の低下を検出して、データのバックアップを行う(特許文献1参照)。図3に示すような流量計は、計測値としての流量を、検出器であるセンサにより検出して、この検出値から、マイコンによって構成可能の流量計測部で、瞬時流量値及び積算流量値を演算して、これら値を表示器に表示する。また、これら演算された計測値は、データ送信部から有線或いは無線によりホストコンピュータなどの他の装置と結合するために出力される場合もある。
【0004】
この演算の際にデータメモリに記憶されているデータが用いられると共に、新たに積算されたデータはこのデータメモリに更新される。例示の構成は、このデータメモリとは別に不揮発性のバックアップメモリEEPROMを設けている。CPUが動作不能となる電圧値に低下する前の電圧値を電圧監視回路が検出した時に、マイコンのソフトウエアによって構成可能のバックアップ制御部は、データメモリのデータをバックアップメモリEEPROMに記憶する。バックアップメモリEEPROMからのデータの読み出しは、供給電圧の回復を検出した時に行われる。これによって、積算データが消滅するということは防止される。
【0005】
このようなバックアップすべき積算データとしては、所定時からの累積積算値に加えて、リセット可能積算値、例えば円に換算する円換算累積積算値、円換算リセット可能積算値等がある。ここで、リセット可能積算値とは、任意にリセットした時からの積算値であり、円換算累積積算値は、1気圧0℃の温度に換算した流体容積を円(金額)に換算した値であり、この換算値を、任意にリセットした時からの値が、円換算リセット可能積算値である。
【0006】
図4は、上述した従来技術によるバックアップ動作をさらに詳細に説明するフロー図である。図中、Qt:流れた流量のこれまでの積算値(累積積算値)、Qc:流量の積算値であるが、任意に“0”とすることが可能な積算値(リセット可能積算値)、Qk:流れた流量に換算係数(K:その値は任意に変更可能)を乗算して積算した値(例えば円(金額)に換算した換算累積積算値)を表している。
【0007】
電源が投入されると、ステップS21において、EEPROMより、換算係数(K)、累積積算値(Qt)、リセット可能積算値(Qc)、換算累積積算値(Qk)等を読み込む。ステップS22において、検出した流量信号(V)より単位時間当たりの累積積算値を算出する(ΔQt=f(V))。
【0008】
ステップS23において、各積算値を算出し、表示する。
Qt=Qt+ΔQt
Qc=Qc+ΔQt
Qk=Qk+ΔQt×K
ステップS24において、リセット可能積算値Qcの値のリセットがあったか否かを検出する。リセットが無かった場合は、そのまま、あった場合は、Qc=0にセットした(ステップS25)後、ステップ26に進む。ここでは、換算係数Kの変更があったか否かを検出する。変更が無かった場合は、そのまま、変更があった場合は、変更後の新たな換算係数K’をKとしてEEPROMに書き込んだ(ステップS27)後、ステップS28に進む。
【0009】
ステップS28で、電源オフがあったか否かを検出する。電源オフの無い場合、ステップS22に戻って、このループを繰り返す。電源オフを検出した場合、各積算値(Qt、Qc、Qk)をバックアップのためにEEPROMに書き込んだ(ステップS29)後に、このフローを終了する。そして、電源が回復したとき、ステップS21よりの上述した動作を繰り返すことになる。
【0010】
このように、従来、積算データの2つ以上、例えば、累積積算値Qt、リセット可能積算値Qc、及び換算累積積算値Qkを電源オフ時に記憶していたが、これら2つ以上のデータを記憶するために、マイコン動作電圧を長く保つことが必要となり、回路が複雑となっていた。
【0011】
また、商用電源を用いた際の瞬間的な停電に対応して、電圧低下時の不安定な状態で、1つのみの積算データであればバックアップ可能であるとしても、複数のデータをバックアップメモリに記憶することは事実上困難である。
【特許文献1】特開平2−190715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、係る問題点を解決して、相互に所定の関係を有する複数種類の積算値の関係を示すパラメータ値を予め記憶しておき、電源オフ時には1つの積算値のみの記憶だけで済ませることにより、電源オフ時のバックアップのための処理時間を短くして、誤りの無いバックアップを可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のバックアップ機能を有する計測器は、センサからの検出信号に基づき、相互の間に所定の関係を有する複数種類の積算値を演算して表示する。電源電圧の低下を検出するとき、複数種類の積算値の内の基準となる1つのみの積算値を、不揮発性メモリに記憶する基準積算値のバックアップ制御部と、基準積算値以外の前記積算値を演算により算出するために必要となる1つ或いは複数のパラメータ値の変更が生じると、変更が生じたときに該パラメータ値を不揮発性メモリに記憶更新するパラメータ値の更新制御部と、供給電圧の回復を検出するとき、不揮発性メモリに記憶されている基準積算値及び1つ或いは複数のパラメータ値の全てを読み込んで、基準積算値以外の積算値を演算により算出する復元部とを備え、この復元された複数種類の積算値を初期値として、それぞれの積算を継続可能にしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の積算流量値の相互の関係を示すパラメータ値をリセット時等に予め記憶させておくことで、電源オフ時には1つのみのデータの記憶で処理できるようにし、電源オフ時の不安定な処理(時間)を少なくして記憶のミスを少なくし、なおかつ回路を簡単にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の計測器として、流量計を例にして説明する。図1は、本発明を具体化する流量計の全体構成を例示する図である。例示の流量計は、検出器としてセンサを有する。このセンサは、その用途、測定対象等に応じて、種々のタイプのものが用いられ、流量計測を例にとっても、コリオリ流量計、渦流量計、容積流量計等の多数のタイプのものに対してそれぞれ特有のセンサが用いられ、また、流量計測と関連して温度、圧力などをそれぞれ検出する温度センサ、圧力センサなども用いられる。
【0016】
マイコン(マイクロコンピュータ:CPU)のソフトウエアによって構成される流量計測部は、流量センサから検出した電流或いは電圧信号に基づき、瞬時流量値に加えて、所定時からの累積積算値、リセット可能積算値、円換算累積積算値、円換算リセット可能積算値等を演算して、これら複数の計測値は、表示器に同時に或いは切替可能に表示する。これら計測値の演算の際には、データメモリRAMに記憶されているデータを利用すると共に、各演算終了毎にその記憶されているデータを更新する。また、これら演算された計測値は、データ送信部から有線或いは無線によりホストコンピュータなどの他の装置と結合することもできる。
【0017】
この流量計には、電源電圧の低下を検出して、データのバックアップを行うバックアップ制御部が、またマイコンのソフトウエアによって構成されて、備えられている。また、上記のデータ更新用のデータメモリとは別に、不揮発性のバックアップメモリEEPROMを設けている。電圧監視回路が、CPUが動作不能となる電圧値に低下する前の電圧値を検出した時に、データメモリのデータをバックアップメモリEEPROMに記憶するが、本発明においては、バックアップするデータは基準となる積算値のみである。本来、バックアップを必要とする積算データとしては、所定時からの累積積算値に加えて、リセット可能積算値、円換算累積積算値、円換算リセット可能積算値等があるが、基準積算値のバックアップ制御部は、電源オフを検出したときに、例えば累積積算値の1つのみを、バックアップメモリEEPROMに記憶する。
【0018】
各パラメータ値の更新制御部は、累積積算値以外の積算値を演算により算出するために必要となる各パラメータ値を、記憶更新する。但し、この各パラメータ値の記憶更新は、電源オフを検出したときに行う必要はなく、リセット可能積算値のリセットが行われたとき、或いは換算累積積算値のための換算係数が更新されたときに行われる。これら各パラメータ値の記憶更新は、不揮発性メモリEEPROMに対して行われるが、上記のバックアップメモリEEPROMを共有することが好ましい。
【0019】
バックアップメモリEEPROMからのデータの読み出しは、供給電圧の回復を検出した時に行われる。電源回復時には、1つのみの累積積算値と、各パラメータをEEPROMから読み込む。残りのリセット可能積算値、円換算累積積算値、円換算リセット可能積算値等については、EEPROMより読み込んだ累積積算値と各パラメータ値から演算により算出し、この算出した各積算値を初期値として、以後は各積算値それぞれについて、センサからの検出信号に基づいて通常に積算を行う。
【0020】
図2は、本発明によるバックアップ動作を、さらに詳細に説明するためのフロー図である。図中、Qt:流れた流量のこれまでの積算値(累積積算値)、Qc:流量の積算値であるが、リセットすることが可能な積算値(リセット可能積算値)、K:換算計数、Qk:流れた流量に換算係数(K:その値は任意に変更可能)を乗算して積算した値(円換算累積積算値)は、上述の従来技術の説明で用いたものと同一である。これら値に加えて、基準積算値(累積積算値Qt)との間の差に相当するオフセット値である、Qco:リセット積算オフセット値、Qko:換算累積積算オフセット値、Qto:累積積算オフセット値を表している。なお、積算値のリセットは、通常”0”にリセットされるが、”0”以外の任意の値にリセット可能である。
【0021】
電源が投入されると、ステップS1において、EEPROMより、換算係数(K)、累積積算値(Qt)以外に、累積積算値Qtを基準としたオフセット値として、リセット積算オフセット値(Qco)、換算累積積算オフセット値(Qko)、累積積算オフセット値Qtoを読み込む。そして、ステップS2においては、読み込んだ基準となる1つの累積積算値(Qt)と、各オフセット値に基づき、その他の積算値であるリセット可能積算値Qc、換算累積積算値Qkを、以下のような式に基づき、演算により算出する。通常、この演算は、電源投入後の初期に1回のみ行われるが、基準となる累積積算値Qtと、他の積算値Qc、Qk等との間に以下の式に示される所定の関係があることを利用している。後述のことから明らかなように、これら各値の内、電源オフ時に記憶されたのは、累積積算値Qtのみであり、その他のパラメータは、その変更時に記憶更新されたものである。
【0022】
Qt=Qt
Qc=Qt−Qco
Qk=(Qt−Qto)×K+Qko
ステップS3において、流量信号(V)より単位時間当たりの累積積算値を算出する(ΔQt=f(V))。
【0023】
ステップS4においては、ステップS2で読み込まれて演算されたQt、Qc、Qkの値を初期値として、以下の式に基づき通常に、各積算値を算出し、表示する。
Qt=Qt+ΔQt
Qc=Qc+ΔQt
Qk=Qk+ΔQt×K
ステップS5において、リセット可能積算値Qcの値のリセットがあったか否かを検出する。リセットが無かった場合は、そのまま、次のステップS7に進む。リセットがあった場合は、Qc=0にセットすると共に、リセット積算オフセット値Qcoの値に累積積算値Qtの値を代入して、このQcoの値を1つのパラメータとしてEEPROMに書き込む(ステップS6)。即ち、リセット可能積算値Qcは、リセット時に0になるものの、その後は、累積積算値Qtとの間に所定の差を維持して同じ割合で積算されることを利用している。
【0024】
ステップ7では、換算係数Kの変更があったか否かを検出する。変更が無かった場合は、そのまま、次のステップS9に進む。変更があった場合は、変更後の新たな換算係数K’をK(パラメータ)としてEEPROMに書き込むと共に、そのときの累積積算値Qt及び換算累積積算値Qkの値を、それぞれ初期値(パラメータQto、Qko)として、EEPROMに書き込んだ(ステップS8)後、ステップS9に進む。
【0025】
ステップS9で、電源オフがあったか否かを検出する。電源オフの無い場合、ステップS3に戻って、このループを繰り返す。電源オフを検出した場合、基準となる積算値である累積積算値QtのみをバックアップのためにEEPROMに書き込んだ後に、このフローを終了する。そして、電源が回復したとき、ステップS1よりの上述した動作を繰り返すことになる。
【0026】
このように、電源オフ時には、累積積算値Qtのみをバックアップのために記憶する一方、電源回復後には、この累積積算値Qtに加えて、リセット時及び換算計数変更時に記憶されたパラメータの全てをEEPROMから読み込み、これら累積積算値Qtと各パラメータ値から、リセット可能積算値Qc、及び換算累積積算値Qkを、演算により復元する。
【0027】
これによって、本発明は、商用電源を用いた際の瞬間的な停電等において、1つのみの積算データのバックアップで済むので、電圧低下時の不安定な状態でも十分に安定したバックアップが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を具体化する流量計の全体構成を例示する図である。
【図2】本発明によるバックアップ動作を詳細に説明するためのフロー図である。
【図3】電源電圧の低下を検出して、データのバックアップを行う従来技術による流量計の構成を示す図である。
【図4】従来技術によるバックアップ動作を詳細に説明するフロー図である

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサからの検出信号に基づき、相互の間に所定の関係を有する複数種類の積算値を演算して表示する計測器において、
電源電圧の低下を検出するとき、前記複数種類の積算値の内の基準となる1つのみの積算値を、不揮発性メモリに記憶する基準積算値のバックアップ制御部と、
基準積算値以外の前記積算値を演算により算出するために必要となる1つ或いは複数のパラメータ値の変更が生じると、変更が生じたときに該パラメータ値を不揮発性メモリに記憶更新するパラメータ値の更新制御部と、
供給電圧の回復を検出するとき、前記不揮発性メモリに記憶されている基準積算値及び1つ或いは複数のパラメータ値の全てを読み込んで、基準積算値以外の積算値を演算により算出する復元部とを備え、
この復元された複数種類の積算値を初期値として、それぞれの積算を継続可能にしたバックアップ機能を有する計測器。
【請求項2】
前記基準積算値が所定時からの累積積算値であり、前記基準積算値以外の積算値が、リセットすることが可能なリセット可能積算値と、検出した測定値に換算係数を乗算して積算した換算累積積算値と、該換算累積積算値をリセットすることが可能な換算リセット可能積算値との内の少なくとも1つ以上を含む請求項1に記載のバックアップ機能を有する計測器。
【請求項3】
リセット可能積算値或いは換算リセット可能積算値のリセットがあったことを検出して、或いは、換算係数の変更があったことを検出して、該当するパラメータ値を変更更新する請求項2に記載のバックアップ機能を有する計測器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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