説明

バッテリ冷却装置

【課題】経時変化に対応してきめ細かく冷却能力を調整することのできるバッテリ冷却装置を提供する。
【解決手段】冷却装置100は、バッテリ3を冷却するためのファン2と、バッテリ温度を計測する温度センサ8と、温度センサ8による検出温度に基づいてファン2を制御するコントローラ12を備える。コントローラ12は、既定の算術式によってファン2の冷却能力とバッテリ発熱量を算出し、さらにそれらの算出値からバッテリ3の推定温度を算出する。コントローラ12はさらに、推定温度を検出温度に一致させるための補正係数であって冷却能力を算出する式における補正係数を求める。そしてコントローラ12は、求めた補正係数に応じてファン2の目標回転数を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
出力電流の大きなバッテリ、例えば電気自動車の車輪駆動用モータに電力を供給するためのバッテリは、発熱量が大きい。そこで、バッテリを冷却するための冷却装置が必要とされる。冷却装置が適正に動作しないと、バッテリの温度が過度に上昇し、バッテリの性能を損ねる虞がある。特許文献1には、冷却装置の異常を検知する技術が提案されており、特許文献2には、冷却装置の異常を検知するとともにバッテリを適正な温度範囲に維持する技術が提案されている。いずれの技術も、既定の数式によって冷却装置の冷却能力とバッテリの発熱量を求め、さらに冷却能力と発熱量からバッテリの推定温度を求め、推定温度と、センサによって計測したバッテリの実温度(検出温度)の差から冷却装置の異常を判定する。予定通りの冷却能力が実現されていれば推定温度と検出温度はほぼ一致するが、冷却能力が予定を下回っていると(即ち異常が生じていると)、検出温度が推定温度を上回る(即ち、バッテリが予定通りに冷却されない)。そこで、推定温度が検出温度を大きく上回っている場合に異常が発生していると判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−86601号公報
【特許文献2】特開2001−313092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2の技術は、異常発生と判定したときに、冷却効果が大きくなる方向に冷却装置を制御する。異常が発生した場合にはそのような対策が有効である。しかし、冷却装置を長期間使っていると、経時変化により冷却能力が少しずつ低下していく。特許文献2の技術のように異常事態に対応する技術とは別に、経時変化に対応してきめ細かく冷却能力を調整する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する冷却装置も、特許文献1や特許文献2と同様に、予め定められた数式によってバッテリ発熱量と冷却装置の冷却能力を算出するとともに、それらの算出値からバッテリの推定温度を算出する。そして、推定温度と検出温度の差に基づいて、冷却能力を調整する。本明細書が開示する技術は、経時的な冷却装置の緩やかな変化に対応できるように、冷却能力を算出する式に補正係数というパラメータを導入する。補正係数は冷却装置の経時変化を表すので、その補正係数に応じてファンの目標回転数を決定することによって、経時変化を考慮した冷却性能が実現される。
【0006】
本明細書が開示する冷却装置の一実施形態は、バッテリを冷却するためのファンと、バッテリ温度を計測する温度センサと、温度センサによる検出温度に基づいてファンを制御するコントローラを備える。コントローラは、既定の算術式によってファンの冷却能力とバッテリ発熱量を算出し、さらにそれらの算出値からバッテリの推定温度を算出する。コントローラはさらに、推定温度を検出温度に一致させるための補正係数であって冷却能力を算出する式における補正係数を求める。そしてコントローラは、求めた補正係数に応じてファンの目標回転数を決定する。コントローラは、上記の処理を所定の制御周期毎に実行する。即ち、コントローラは、所定の制御周期毎に補正係数を更新する。
【0007】
補正係数は、冷却能力算出式によって理論上求められる冷却能力が実際の冷却能力を正確に表すようにするために導入される。従って補正係数の初期値は1.0に設定される。経時変化によって実際の冷却能力が低下すると、バッテリの実際の温度(検出温度)が推定温度よりも高くなる。コントローラは、そのような場合、即ち、推定温度が検出温度よりも低い場合には既定の補正量だけ補正係数を小さくする。これによって、理論上の冷却能力が小さくなり、実際の冷却能力を正確に表すようになる。逆に、推定温度が検出温度よりも高い場合には、コントローラは、既定の補正量だけ補正係数を大きくする。なお、補正係数の上限は1.0である。
【0008】
上述のとおり、補正係数が1.0より小さいことは、実際の冷却能力が低下したことを示すから、コントローラは、補正係数が小さくなるほど、ファンの目標回転数を増加させ、実際の冷却能力を高め、バッテリの温度上昇を抑制する。
【0009】
冷却能力等の算術方法の一例は次の通りである。コントローラは、バッテリ出力電流とバッテリ内部抵抗の値からバッテリ発熱量を算出し、ファンの回転数とファンの吸気温度(ファンを通過する空気の温度)から理論上の(即ち予想される)冷却能力を算出する。さらに具体的には、コントローラは、検出温度と吸気温度の差にファン回転数と既定の定数と補正係数を乗じて冷却能力を算出する。即ち、冷却能力を算出する式の一例は、検出温度と吸気温度の差にファン回転数と既定の定数と補正係数を乗じる、というものである。ここで、既定の定数は、ファンの回転数と冷却能力との関係を表す比例定数であり、冷却装置の構造によって定まる。
【0010】
また、バッテリの推定温度の算出方法の一例は、バッテリ発熱量と冷却能力(上記算術式によって得られる冷却能力)との差にバッテリ熱容量の逆数を乗じ、さらに制御周期(温度推定の周期)を乗じた値に、前回周期における推定温度を加えて求める。
【0011】
上記のアルゴリズムを採用すると、冷却装置の異常検知も行える。例えば、コントローラは、補正係数が予め定められた補正係数許容範囲を外れた場合に、冷却装置の異常を示す信号を出力するとよい。異常を示す信号の出力先の一例は、ディスプレイや、メンテナンス時の診断用のメモリである。
【0012】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は、発明の実施の形態の欄において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】冷却装置のブロック図である。
【図2】補正係数算出処理のフローチャート図である。
【図3】検出温度と推定温度の変化の一例を示すグラフと、補正係数の変化の一例を示すグラフである。
【図4】ベース風量マップ(車速とファン目標風量の関係を定めるグラフ)の一例である。
【図5】ファン回転数マップ(ファン風量と目標回転数の関係を定めるグラフ)の一例である。
【図6】回転数補正係数Fのマップ(補正係数βと回転数補正係数Fの関係を定めるグラフ)の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して実施例の冷却装置100を説明する。図1に、冷却装置100のブロック図を示す。なお、図1に示したブロックのうち、バッテリ3に空気を送って冷却するファン2、ファン2の回転数を検出する回転数センサ7、ファン2の吸気温度(ファン2を通過する空気の温度)を検出する吸気温度センサ6、バッテリ3の温度を検出するバッテリ温度センサ8、バッテリ3の出力電流を検出する電流センサ9、及び、上記のセンサデータに基づいてファン2を制御するコントローラ12が、冷却装置100を構成する。
【0015】
冷却装置100は、電気自動車に搭載され、車輪駆動用のモータ5に供給する電力を蓄えるバッテリ3を冷却するための装置である。バッテリ3の出力(直流電力)は、インバータ4に送られる。インバータ4は、バッテリ3の直流電力を、モータ駆動に適した交流電力に変換してモータ5に出力する。インバータ4はまた、制動時の車両の運動エネルギを利用してモータが生成する回生電力(交流)をバッテリ3の充電に適した直流電力に変換する。バッテリ3は、モータの回生電力によって充電される。なお、図示を省略しているが、バッテリ3は、外部電源(例えば家庭用の商用交流100V電源)から充電を受けることもある。そのため、図示を省略しているが、電気自動車は交流100V電力をバッテリ充電に適した直流電力に変換するACDCコンバータも備えている。
【0016】
バッテリ3の出力電圧は、概ね300[V]であり、電力出力中、あるいは、充電中に発熱する。冷却装置100は、バッテリ3の発熱を抑制し、バッテリ3の性能を維持するのが目的である。図1では簡略化して描いているが、ファン2とバッテリ3の間には、ファン2が送風する空気をバッテリ3に導くダクトが備えられている。
【0017】
ここでいう冷却能力とは、冷却装置100の最大能力ではなく、主としてファン2の回転数と吸気温度に依存する、その時々の冷却能力を意味する。従って、ファン2の回転数を上げれば冷却能力が上がり、回転数を下げれば冷却能力が下がる。また、吸気温度が高ければ冷却能力は下がり、吸気温度が低ければ冷却能力は上がる。冷却能力については後に詳しく説明する。
【0018】
ファン2の回転数Nは、コントローラ12が制御する。コントローラ12は、いくつかのセンサデータに基づきファン2に指令値として目標回転数Ntを出力する。コントローラ12は、バッテリ3の出力電流I(電流センサ9が検出する)、バッテリ3の温度TB(バッテリ温度センサ8が検出する)、ファン回転数N(回転数センサ7が検出する)、及び、吸気温度TC(吸気温度センサ6が検出する)のセンサデータを受け取る。なお、以下では、バッテリ温度センサ8が検出するバッテリの温度を、コントローラ12が算出する推定温度(後述)と区別するために「検出温度」と称する。
【0019】
コントローラ12は、CPU13と、CPU13が実行するプログラムを格納したメモリ14を備える。プログラムは、複数のモジュールに分かれている。モジュールとは、実際にはプログラムであるが、本明細書では、そのプログラムを実行した結果CPU13が実現する機能を意味する。メモリ14に格納されたモジュールには、内部抵抗算出モジュール14a、発熱量算出モジュール14b、冷却能力算出モジュール14c、推定温度算出モジュール14d、補正係数算出モジュール14e、異常判定モジュール14f、及び、ファン制御モジュール14gがある。なお、図1における「MDL」の文字列は「モジュール」を意味する。
【0020】
コントローラ12が実行する処理の概略を説明する。コントローラ12は、上記したセンサデータに基づいて、バッテリ3の発熱量HW[W]、冷却装置100の冷却能力CW[W]、バッテリ3の推定温度TS[℃]を算出する。即ち、冷却能力CWは、厳密に表現すれば、冷却装置100の「推定冷却能力CW」である。ここで、冷却能力CWの算出式には補正係数βが含まれており、コントローラ12は、バッテリ3の推定温度TSと検出温度TB[℃]の大小関係に基づいて、補正係数βを修正する(新しい補正係数βを求める)。補正係数βは、冷却能力の低下を表す。なお、冷却能力の低下は、主として冷却装置の経時劣化に起因するものであり、時間の経過とともに徐々に進行する(冷却能力が徐々に低下する)。コントローラ12は、新たな補正係数βに基づいて、ファンの目標回転数Ntを決定し、その目標回転数Ntを指令値としてファン2に出力する。さらに、コントローラ12は、補正係数βの大きさが所定の範囲(補正係数許容範囲)を外れたら、異常発生と判定し、異常発生を示す信号を出力する。コントローラ12は、所定の制御周期dT毎に上記の処理を実行する。即ち、コントローラ12は、周期dT毎に補正係数βを更新する。
【0021】
コントローラ12が行う処理を詳細に説明する。まず、補正係数βの算出処理を説明する。図2に補正係数算出処理のフローチャートを示す。コントローラ12はまず、バッテリ3の検出温度TBに基づいて、バッテリ3の内部抵抗Rを求める(S2)。この処理は、内部抵抗算出モジュール14aが行う。具体的には、コントローラ12のメモリ14内に、様々なバッテリ温度(検出温度)に対する内部抵抗Rの値がマップとして予め格納されており、内部抵抗算出モジュール14aは、そのマップを参照し、現在の検出温度TBに対応する内部抵抗Rを求める。
【0022】
次にコントローラ12は、バッテリ3の発熱量HW[W]を算出する(S3)。この処理は、発熱量算出モジュール14bが行う。具体的には、発熱量算出モジュール14bは、次の(数1)式に基づいて発熱量HWを求める。
【0023】
発熱量HW=I×内部抵抗R (数1)
【0024】
(数1)式において、「I」は、電流センサ9によって検出されたバッテリ3の出力電流である。次にコントローラ12は、冷却装置100の冷却能力CW[W](正確には、推定冷却能力CW)を算出する(S4)。この処理は、冷却能力算出モジュール14cが行う。具体的には、冷却能力算出モジュール14cは、次の(数2)式に基づいて冷却能力CWを求める。
【0025】
冷却能力CW=(検出温度TB−吸気温度TC)×K×ファン風量 (数2)
【0026】
(数2)式において、Kは、既定の定数であり、予めメモリ14に格納されている。ファン風量[m/h]は、次の(数3)で求まる。
【0027】
ファン風量=α×ファン回転数N×β (数3)
【0028】
(数3)式において、αは、既定の係数であり、予めメモリ14に格納されている。ファン回転数Nは、回転数センサ7によって検出される。βは、補正係数であり、初期値は1.0である。補正係数βは、後に詳しく説明する。(数2)と(数3)から結局、冷却能力CWは、次の(数4)で求められる。
【0029】
冷却能力CW=(検出温度TB−吸気温度TC)×K×α×ファン回転数N×β
(数4)
【0030】
(数4)式に示したごとく、コントローラ12は、バッテリ3の検出温度TBと吸気温度TCの差に、既定の定数(K×α)とファン回転数Nと補正係数βを乗じて冷却能力CWを得る。
【0031】
次にコントローラ12は、バッテリ3の推定温度TSを算出する(S5)。この処理は、推定温度算出モジュール14dが行う。具体的には、推定温度算出モジュール14dは、次の(数5)式に基づいて、推定温度TSを求める。
【0032】
推定温度TS=前回の推定温度TS+γ×(発熱量HW−冷却能力CW)×dT
(数5)
【0033】
(数5)式において、「前回の推定温度TS」とは、1回前の制御周期において算出した推定温度である(ただし、後述するように、1回前の推定温度TSは、1回前の検出温度TBで置き換えられている)。また、γは、バッテリの熱容量の逆数である。dTは、制御周期(温度推定の周期)である。
【0034】
コントローラ12は、(数5)式で得られた推定温度TSと検出温度TB(バッテリ3の実際の温度)を比較し、それらの大小関係に応じて、補正係数βを修正する。推定温度TSが検出温度TBよりも大きい場合(S6:YES)、コントローラ12は、補正係数βを所定量(例えば0.1)だけ増加させる(S8)。逆に、推定温度TSが検出温度TB以下である場合(S6:NO)、コントローラ12は、補正係数βを所定量(例えば0.1)だけ減少させる(S7)。なお、コントローラ12は、補正係数βが1.0を超えた場合(S9:YES)、補正係数βを1.0に設定する(S10)。即ち、コントローラ12は、推定温度TSが検出温度TBよりも大きい場合、1.0を上限として補正係数βを所定数だけ増加させる。最後にコントローラ12は、推定温度TSに検出温度TBを代入して処理を終了する(S12)。上記したステップS6〜S12の処理は、補正係数算出モジュール14eが行う。
【0035】
上記した補正係数算出処理による、推定温度TSと補正係数βの変化の一例を図3に示す。図3の上のグラフは、検出温度TBと推定温度TSの変化を示し、下のグラフは補正係数βの変化を示す。第1回目の制御周期(時刻T1)において、検出温度TBは温度Q1であり、推定温度TSは温度P1(Q1>P1)である。即ち、推定温度TS(P1)は検出温度TB(Q1)よりも小さい。このことは、実際の冷却能力が、計算上の冷却能力CWよりも小さく、そのため、実際のバッテリ温度(検出温度TB)が計算上のバッテリ温度(推定温度TS)よりも大きくなっていることを表す。この場合、コントローラ12は、補正係数βを0.1だけ、小さくする(図2のS6:NO、S7)。図3の下のグラフが示すように、時刻T1において、補正係数βが0.1だけ小さくなる。さらにコントローラ12は、次回の推定温度算出のため、推定温度TSの値(P1)を検出温度TBの値(Q1)で置き換える。図3のP1からQ1へ向かう矢印が、値の置き換えを示している。
【0036】
さらに第2回目の制御周期(時刻T2)において、検出温度TBは温度Q2であり、推定温度TSは温度P2(Q2>P2)である。このときも、推定温度TS(P2)は検出温度TB(Q2)よりも小さい。従って、コントローラ12は、補正係数βをさらに0.1だけ、小さくする(図2のS6:NO、S7)。図3の下のグラフが示すように、時刻T2において、補正係数βがさらに0.1だけ小さくなる。さらにコントローラ12は、次回の推定温度算出のため、推定温度TSの値(P2)を検出温度TBの値(Q2)で置き換える。図3のP2からQ2へ向かう矢印が、値の置き換えを示している。
【0037】
さらに第3回目の制御周期(時刻T3)において、検出温度TBは温度Q3であり、推定温度TSは温度P3(Q3>P3)である。このときも、推定温度TS(P3)は検出温度TB(Q3)よりも小さい。従って、コントローラ12は、補正係数βをさらに0.1だけ、小さくする(図2のS6:NO、S7)。図3の下のグラフが示すように、時刻T3において、補正係数βがさらに0.1だけ小さくなる。さらにコントローラ12は、次回の推定温度算出のため、推定温度TSの値(P3)を検出温度TBの値(Q3)で置き換える。図3のP3からQ3へ向かう矢印が、値の置き換えを示している。以後同様に、コントローラ12は、制御周期dT毎に補正係数βの修正を行う。
【0038】
このようにコントローラ12は、制御周期毎に、バッテリ3の推定温度TSが実際の温度(検出温度TB)に一致するように、補正係数βを更新する。即ち、コントローラ12は、バッテリ3の推定温度TSが実際の温度(検出温度TB)に一致するように、補正係数βを学習する。
【0039】
次に、更新された補正係数βの値を用いたファン目標回転数Ntの決定処理を説明する。なお、この処理は、ファン制御モジュール14gが行う。概略すると、コントローラ12は(ファン制御モジュール14gは)、補正係数βが1.0より小さい場合、即ち、実際の冷却能力が低下している場合、ファンの目標回転数Ntを増加して冷却能力を増大させる。
【0040】
コントローラ12のメモリ14には、図4に示すベース風量のマップ(車速とファン目標風量の関係を定めるグラフ)と、図5に示すファン回転数マップ(ファン目標風量と目標回転数Ntとの関係を定めるグラフ)と、図6に示す回転数補正係数Fのマップ(補正係数βと回転数補正係数Fの関係を定めるグラフ)を格納している。図4に示すように、ベース風量マップには、バッテリが常温の場合とバッテリが高温の場合の2種類のグラフが規定されている。ここで、常温とは、例えば60[℃]以下の温度域であり、高温とは60[℃]を超える温度域である。コントローラ12は、まず、ベース風量マップを参照し、現在の車速に応じた風量(目標風量)を特定する。次にコントローラ12は、ファン回転数マップを参照し、目標風量に対応する目標回転数Ntを特定する。
【0041】
コントローラ12は、図4と図5を用いて求まった目標回転数Ntに回転数補正係数Fを乗じた値をファン2への指令(最終的な目標回転数Nt)として出力する。回転数補正係数Fについて説明する。図6は、回転数補正係数Fのマップ(回転数補正係数Fと補正係数βの関係を定めたグラフ)を示す。回転数補正係数Fのマップとは、前述した補正係数βの値に対応する回転数補正係数F(ファンの目標回転数を補正する係数)を定めたグラフである。図6のグラフは、縦軸が回転数補正係数Fであり、横軸が補正係数βの逆数である。従って、図6のグラフにおいて、1/βが1.0より大きい場合(即ちβが1.0より小さい場合)が、冷却能力が低下していることを示している。その場合は、ファンの目標回転数Ntを増大させるべく、回転数補正係数Fとして1/βを設定する(β<1.0であるからF>1.0となる)。ただし、不感帯を設けるため、1/βが1.0からDpまでの間では、回転数補正係数Fを1.0に固定する。また、前述したように、βの値は1.0が上限であるから、1/βの下限は1.0であり、回転数補正係数Fの下限値も1.0となる。このことは、実際の冷却能力が計算上の冷却能力CWを上回っており、バッテリ3の実際の温度(検出温度TB)が、推定温度TSよりも低い場合には、冷却能力を意図的に低くしないことを意味する。
【0042】
次に、コントローラ12が、補正係数βの値に基づいて異常を検知する処理について説明する。この処理は、異常判定モジュール14fが行う。コントローラ12は、補正係数βが既定の範囲(補正係数許容範囲)を外れたら何らかの異常が発生しているものと判定し、異常発生を示す信号を出力する。補正係数許容範囲は、例えば、補正係数β≧0.5の範囲に定められる。この場合、コントローラ12は、補正係数βが0.5を下回ったら、異常発生を示す信号を出力する。補正係数βが0.5を下回るとは、冷却能力が当初の半分以下になったことを示している。異常発生を示す信号の出力先は、例えば、車両のディスプレイ16や、メモリ18である(図1参照)。メモリ18は、車両の状態の履歴を保存するメモリであり、車両のメンテナンス時に読み出される。
【0043】
コントローラ12は、バッテリ3の検出温度TBが既定の温度閾値を上回っている場合にのみ、上記した補正係数算出処理や、回転数補正係数Fによる目標回転数決定処理を実行することも好適である。既定の温度閾値は、例えば、60[℃]に設定される。即ち、バッテリ3が高温の場合にのみ上記した補正係数算出処理や目標回転数決定処理を行うことも好適である。
【0044】
実施例に示した冷却装置100に関する留意点を述べる。冷却装置100の冷却対象であるバッテリは、例えばリチウムイオン電池であるがこれに限られるものではない。冷却対象のバッテリは、燃料電池であってもよい。また、バッテリは、複数のセルが直列に接続されたタイプのバッテリであってよい。バッテリが複数のセルから構成されている場合、コントローラは、バッテリの内部抵抗Rを、いくつかのセルがまとまったブロックごとに算出することも好適である。その場合、コントローラは、冷却装置100の冷却能力もブロックごとに算出するのがよい。さらには、(数2)式で導入された定数Kも、ブロック毎に定められているとよい。これは、ブロック毎にバッテリ特性がばらつくことがあり、そのばらつきに対応するためである。
【0045】
また、バッテリの内部抵抗Rは、バッテリの劣化とともに上昇する。そのため、劣化による内部抵抗Rの変化を示す劣化係数を導入することも好適である。具体的には、まず、バッテリの出力電圧と電流から最小二乗法によって内部抵抗の初期値を特定し、次いで、その初期値に劣化係数を乗じた値を、(数1)式における内部抵抗Rとして用いることも好適である。劣化係数はマップ化され予めコントローラに記憶される。
【0046】
実施例では、補正係数βの1回当たりの増減幅を0.1とした。1回当たりの増減幅は、例えば0.01などの小さい値であってもよい。さらには、車両のイグニッションがOFFされたときでも補正係数βが保持されるように、補正係数βを不揮発性メモリに記憶しておくことも好適である。不揮発性メモリに補正係数βを記憶しておくことによって、次回にイグニッションがONされたとき、前回の補正係数βを用いることができる。
【0047】
また、以下のいずれかの条件が成立した場合、バッテリの温度推定の精度が低下しているとして、補正係数βの更新を停止する(即ち、補正係数βの値を固定する)ことも好適である。
条件1:バッテリの充電残量(State Of Chage:SOC)の所定時間当たりの変動幅が所定の閾値を超えた場合。
条件2:バッテリ内にガスが発生した場合。
条件3:推定温度TSと検出温度TBの差が小さくなった場合。
【0048】
補正係数βの更新は、アクチュエータ等の制御と比べて高帯域の応答を要求されない。即ち、補正係数βを更新する周期は、ファンの回転数制御の制御周期(例えば10[msec])に比べて長いことが好ましい。補正係数βを更新する周期(制御周期dT)は、例えば、5秒程度でよい。
【0049】
また、冷却用のファンを駆動した直後の所定時間の間、即ち、冷却性能が安定するまでの間、補正係数βの更新を停止することも好適である。
【0050】
また、標高が高い場所では、空気の密度が低下し、上記の数式群による補正係数βの学習精度が低下する虞がある。そこで、気圧が所定の閾値よりも低い場合には補正係数βの更新を停止することも好適である。気圧は、例えば気圧センサで検出すればよい。
【0051】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0052】
2:ファン
3:バッテリ
4:インバータ
5:モータ
6:吸気温度センサ
7:回転数センサ
8:バッテリ温度センサ
9:電流センサ
12:コントローラ
13:CPU
14:メモリ
16:ディスプレイ
18:メモリ
100:冷却装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリを冷却するためのファンと、
バッテリ温度を計測する温度センサと、
温度センサによる検出温度に基づいてファンを制御するコントローラと、を備えており、コントローラは、
ファンの冷却能力とバッテリ発熱量からバッテリの推定温度を算出し、
推定温度を検出温度に一致させるための補正係数であって冷却能力を算出する式における補正係数を求め、
求めた補正係数に応じてファンの目標回転数を決定する、
ことを特徴とするバッテリ冷却装置。
【請求項2】
コントローラは、バッテリ出力電流とバッテリ内部抵抗の値からバッテリ発熱量を算出し、ファンの回転数とファンの吸気温度から冷却能力を算出することを特徴とする請求項1に記載のバッテリ冷却装置。
【請求項3】
コントローラは、検出温度と吸気温度の差にファン回転数と既定の定数と補正係数を乗じて冷却能力を算出することを特徴とする請求項2に記載のバッテリ冷却装置。
【請求項4】
コントローラは、推定温度が検出温度よりも低い場合には既定の補正量だけ補正係数を小さくし、推定温度が検出温度よりも高い場合には既定の補正量だけ補正係数を大きくすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のバッテリ冷却装置。
【請求項5】
コントローラは、補正係数が小さくなるほど、目標回転数を増加させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のバッテリ冷却装置。
【請求項6】
コントローラは、検出温度が既定の温度閾値を上回っている場合にのみ、補正係数に応じてファンの目標回転数を決定することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の冷却装置。
【請求項7】
コントローラは、補正係数が予め定められた補正係数許容範囲から外れた場合に、冷却装置の異常を示す信号を出力することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のバッテリ冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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