説明

バッテリ温度制御装置

【課題】電動車両の航続距離とバッテリ寿命のいずれか一方を大幅に低下させることなく、その双方を高いレベルで両立し得る電動車両用のバッテリ温度制御装置を提供する。
【解決手段】バッテリ使用に適した推奨温度域と、推奨温度域よりも広い温度域であってバッテリ使用可能な使用可能温度域と、を有していて、基本的にはバッテリ寿命を維持するためにバッテリ温度を推奨温度域に収束させるようにバッテリ温度を制御するものの、推奨温度域へ収束させるためにバッテリ温度の制御に要する消費電力が増加し、所望の走行距離を走行することが困難な状況下では、推奨温度域を使用可能温度域へ切り替えてバッテリ温度を使用可能温度域に収束させるように制御し、バッテリ温度の制御に要する消費電力を抑制して車両の航続距離を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリ温度制御装置に関し、特に電動車両に適用されるリチウムイオンバッテリのバッテリ温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ない車両として電気自動車が注目を浴びている。電気自動車に適用されるバッテリとしては、高いエネルギ密度と優れた充電受入性を備えたリチウムイオンバッテリが主流となりつつある。
【0003】
ところで、上記リチウムイオンバッテリは、充放電性能や寿命特性について温度依存性が極めて高く、前記充放電性能や寿命特性等のバッテリ性能を高めるためにはバッテリ温度を適正な温度域で維持する必要がある。
【0004】
特許文献1,2には、上記するようなバッテリ温度を調整するための従来装置が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示されているバッテリ温度調整装置は、車両キャビン内の空気をバッテリケースへ導入し、当該空気でバッテリケース内のバッテリを冷却又は暖機してバッテリ温度を調整する装置である。
【0006】
また、特許文献2に開示されているバッテリ温度調整装置は、車両キャビン内の空気をバッテリへ導入すると共に、バッテリ温度が所定の温度域に到達していない場合には、ペルチェ素子を用いてバッテリへ導入する空気を加熱または冷却してバッテリ温度を調整する装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−252467号公報
【特許文献2】特開2009−110829公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、一般にバッテリを使用し得る温度域としては、バッテリ性能や寿命特性の観点からいくつかの温度域があることが知られている。具体的には、例えば図10に示すように、バッテリの使用に適した推奨温度域や、バッテリ性能(例えば充電/放電容量)や寿命特性は僅かながら低下するもののバッテリを使用し得る使用可能温度域などがある。バッテリ性能を第一に考えた場合には、ヒータや冷媒等を用いてバッテリ温度を推奨温度域に収束するように制御することが望ましい。しかしながら、外気温が極めて低いあるいは極めて高い場合には、バッテリ温度の制御に要するエネルギ(電力)が膨大となり、電気自動車の航続距離が著しく低下するといった問題がある。
【0009】
図11は、異なる外気温における従来のバッテリ温度制御装置によるバッテリ温度制御時のバッテリ温度とバッテリ温度制御用電力供給量との関係を示したものであり、図11(a)は外気温が10℃、図11(b)は外気温が-10℃、図11(c)は外気温が-20℃の場合のバッテリ温度とバッテリ温度制御用電力供給量との関係を示したものである。
【0010】
バッテリ温度の制御に必要とされるバッテリに対する電力供給量(バッテリの消費電力に相当する)は、バッテリ温度を制御するための目標バッテリ温度と外気温との差分に依存することが知られている。
【0011】
すなわち、図11(a)〜(c)で示すような異なる環境下において、目標バッテリ温度を推奨温度域の略中心値(例えば20℃)に設定した際、外気温が常温付近(10℃)から低下するに従ってバッテリから外気へ放出される熱量は増加するため、バッテリ温度を目標バッテリ温度(20℃)に維持するためにヒータ等で使用される電力量も増加することとなる。その結果、外気温が低下するに従ってバッテリ電力がより多く消費されることとなり、電動車両のモータ駆動用の電力が相対的に目減りして電動車両の航続距離が著しく減少する。
【0012】
一方で、バッテリ温度を制御するための温度域を使用可能温度域まで拡張した場合、バッテリ温度の制御に要するエネルギ(電力)を抑制することができるものの、上記する推奨温度域から外れた温度域でもバッテリ温度を制御することとなり、バッテリが劣化し易いといった問題がある。
【0013】
特許文献1,2に開示されているバッテリ温度調整装置によれば、車両キャビン内の空気をバッテリへ導入することで、バッテリ温度を制御するための熱エネルギ利用効率を高めることができる。
【0014】
しかしながら、特許文献1,2に開示されているバッテリ温度調整装置においては、外気温やバッテリ残量等に関わらず常に一定の温度域にバッテリ温度を調整しようとするため、上記するような車両の航続距離とバッテリ劣化との両立を図ることが困難であるといった課題がある。
【0015】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、車両の航続距離とバッテリ寿命の双方を高いレベルで維持することのできるバッテリ温度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記する課題を解決するために、本発明に係るバッテリ温度制御装置は、バッテリ温度を所定の温度域に収束させるようにバッテリ温度を制御するバッテリ温度制御装置であって、前記バッテリ温度制御装置は、バッテリ使用に適した推奨温度域と、該推奨温度域よりも広い温度域であってバッテリ使用可能な使用可能温度域と、を有していて、外部環境、車両状態、ドライバ意図の少なくとも一つに応じて、前記所定の温度域を前記推奨温度域又は前記使用可能温度域に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のバッテリ温度制御装置によれば、例えばリチウムイオンバッテリを備えた電動車両のバッテリ温度制御において、基本的にはバッテリ温度を制御するための目標バッテリ温度を推奨温度域の中心近傍に設定することでバッテリ劣化を防止すると共に、バッテリ温度の制御に要するエネルギ(電力)が車両の航続距離に大きな影響を及ぼすと予想される場合には、バッテリ温度の制御に要する前記エネルギ(電力)を必要最低限に抑え、バッテリの消費電力を抑制して車両の航続距離を確保することができる。
【0018】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るバッテリ温度制御装置の第1の実施形態が適用された電動車両のシステム構成を概略的に示す全体構成図。
【図2】図1に示す統合ECUの内部構成を示す構成図。
【図3】図1に示すバッテリの内部構成を概略的に示す図。
【図4】バッテリ温度制御装置の第1の実施形態を模式的に示すブロック図。
【図5】図4で示す目標バッテリ温度演算部が有する目標バッテリ温度演算マップの例を示す図であり、(a)はバッテリ寿命重視用マップの一例、(b)はデフォルト用マップの一例、(c)は航続距離重視用マップの一例を示す図。
【図6】図4で示す目標バッテリ温度演算部の内部構成を示す図であり、図5で示す目標バッテリ温度マップの切替えを説明する図。
【図7】バッテリ温度制御装置の第2の実施形態を模式的に示すブロック図。
【図8】異なる外気温におけるバッテリ温度制御装置の第2の実施形態によるバッテリ温度制御時のバッテリ温度とバッテリ温度制御用電力供給量との関係を示す図であり、(a)は外気温が10℃、(b)は外気温が−10℃、(c)は外気温が−20℃の場合のバッテリ温度とバッテリ温度制御用電力供給量との関係を示す図。
【図9】図7で示すバッテリ温度制御用電力供給リミッタが有するバッテリ温度制御用の電力供給量リミッタマップの例を示す図であり、(a)はバッテリ寿命重視用マップの一例、(b)はデフォルト用マップの一例、(c)は航続距離重視用マップの一例を示す図。
【図10】リチウムイオンバッテリの温度特性を示す図。
【図11】異なる外気温における従来のバッテリ温度制御装置によるバッテリ温度制御時のバッテリ温度とバッテリ温度制御用電力供給量との関係を示す図であり、(a)は外気温が10℃、(b)は外気温が−10℃、(c)は外気温が−20℃の場合のバッテリ温度とバッテリ温度制御用電力供給量との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るバッテリ温度制御装置の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係るバッテリ温度制御装置の第1の実施形態が適用された電動車両100のシステム構成を概略的に示したものである。
【0022】
電動車両100は、バッテリ(リチウムイオンバッテリ)112と、該バッテリ112の電力変換を行うインバータ107と、該インバータ107の電力を用いて駆動するモータ108と、を備えていて、該モータ108の駆動によって生成されたモータ駆動力は、減速ギア109と車軸(ドライブシャフト)110を介して駆動輪(前輪)111に伝達されて所望の走行状態を達成できるようになっている。また、電動車両100の前輪111及び後輪114にはそれぞれブレーキディスク106,115が設けられていて、使用者の操作等に応じて前輪111及び後輪114の回転を制御することができる。さらに、電動車両100はエアコン113を備えていて、外部環境(例えば、外気温等)や車両状態(例えば、車両内温度やバッテリ残量等)、ドライバ意図に応じて適切な車両内温度を実現することができる。
【0023】
また、上記するブレーキディスク106,115、インバータ107、バッテリ112、エアコン113は、それぞれブレーキECU102、モータECU103、バッテリECU104、空調ECU105と接続されていると共に、これらのECU(下位のECU)はその上位のECUである統合ECU101と接続されている。
【0024】
これにより、アクセル開度信号やブレーキペダル踏力信号、ハンドル操舵角信号等の信号が入力された統合ECU101は、これらの信号に基づいてブレーキ制動指令値やモータ駆動指令値等を算出し、これらの指令値をそれぞれブレーキECU102やモータECU103へ送信する。そして、ブレーキECU102は、前記ブレーキ制動指令値に従ってブレーキディスク106,115のブレーキ油圧を制御し、所望のブレーキ制動力で前輪111及び後輪114の回転を制御する。また、モータECU103は、統合ECU101から送信されたモータ駆動指令値に基づいて必要なモータ供給電力値をインバータ107へ指令してモータ108の駆動を制御する。ここで、モータ108を駆動するための電力は、バッテリECU104からバッテリ112へ送信される指令に基づいて当該バッテリ112から供給される。したがって、統合ECU101は、バッテリECU104へもモータ駆動指令値等を送信し、バッテリECU104は、このモータ駆動指令値に基づいてインバータ107へ供給する電力を制御する。
【0025】
なお、ブレーキECU102やモータECU103は、必要なブレーキディスク106,115やインバータ107の情報を統合ECU101へ出力すると共に、バッテリECU104は、バッテリ112の充放電の管理や異常診断等を行い、必要なバッテリ情報を統合ECU101へ出力する。また、統合ECU101は、外部環境や車両状態、ドライバ意図に応じた的確な車両内温調指令値を空調ECU105へ送信し、空調ECU105は前記車両内温調指令値に基づいてエアコン113を制御すると共に、必要なエアコン113の情報を統合ECU101へ出力する。
【0026】
図2は、図1に示す統合ECUの内部構成を詳細に示したものである。
【0027】
統合ECU101は、統合制御部201と、目標ブレーキ制動力演算部205と、目標モータ制駆動力演算部206と、バッテリ温調指令部207と、車両内温調指令部208と、から少なくとも構成されている。なお、前記統合制御部201を上位制御モジュールといい、目標ブレーキ制動力演算部205と目標モータ制駆動力演算部206とバッテリ温調指令部207と車両内温調指令部208とを下位制御モジュールという。また、統合制御部201は、車両運動制御部202、エネルギ管理部203、フェール時対応部204等の制御モジュールを備えている。
【0028】
統合制御部201は、下位制御モジュールに対して演算指令を送信し、その演算指令を受信した下位制御モジュール(目標ブレーキ制動力演算部205、目標モータ制駆動力演算部206、バッテリ温調指令部207、車両内温調指令部208)は、それぞれの下位のECU(ブレーキECU102、モータECU103、バッテリECU104、空調ECU105)へ演算した指令値を送信する。
【0029】
より具体的には、前記統合制御部201は、アクセル開度信号やブレーキペダル踏力信号、ハンドル操舵角信号、モードSW信号等の信号や外気温等に基づいて、車両運動制御部202、エネルギ管理部203、フェール時対応部204等の制御モジュールの演算結果を総合的に判断し、目標ブレーキ制動力演算部205、目標モータ制駆動力演算部206、バッテリ温調指令部207、室内温調指令部208等の下位制御モジュールへ演算指令を送信する。そして、その演算指令を受信した下位制御モジュールは、統合制御部201の演算指令に基づいて、それぞれブレーキECU102、モータECU103、バッテリECU104、空調ECU105へ演算した指令値を送信する。
【0030】
図3は、図1に示すバッテリ112の内部構成を概略的に示したものである。
【0031】
バッテリ112は、バッテリモジュール401とバッテリ温度制御装置402とを備えている。バッテリモジュール401は、所望の電圧とバッテリ容量が得られるようにバッテリセル411が直並列に多段接続された構成となっていて、付属のセルコントローラ412によって各バッテリセル411の状態が管理されるようになっている。なお、セルコントローラ412の各バッテリセル411の状態等に関する情報は、通信線を介してバッテリECU104へ送信されるようになっている。
【0032】
ここで、上記するように、リチウムイオンバッテリは温度依存性が高く、所望のバッテリ性能を発揮するためにはバッテリの温度管理が必要となる。そこで、バッテリ112は、そのパッケージ内にバッテリ温度制御装置402を備えていて、このバッテリ温度制御装置402は、バッテリ暖房用のヒータ413とバッテリ冷却用のファン414を備えている。これらのヒータ413とファン414は、バッテリECU104のバッテリ温度制御部210から送信される駆動指令に従って駆動し、バッテリを暖機もしくは冷却してバッテリ温度が所定の温度域に収束するように制御する。
【0033】
図4は、本発明に係るバッテリ温度制御装置の第1の実施形態を模式的に示したものである。
【0034】
図示するバッテリ温度制御装置500は、主として統合ECU101のバッテリ温度指令部207と、バッテリECU104のバッテリ温度制御部210と、バッテリ112のバッテリ温度制御装置402とバッテリモジュール401と、から構成されており、PIDフィードバック制御を適用してバッテリ温度の制御を行うものである。
【0035】
具体的には、統合ECU101は、上記するようにバッテリ温調指令部207を備えていて、該バッテリ温調指令部207は、ドライバ意図(例えば、ドライバによるSW操作等)や車両状態(例えば、車両内温度やバッテリ残量、バッテリ寿命等)を総合的に考慮して目標バッテリ温度を演算する目標バッテリ温度演算部301を備えている。なお、目標バッテリ温度演算部301で演算した目標バッテリ温度の演算結果は、通信線を介してバッテリECU104へ送信される。
【0036】
バッテリECU104は、PIDフィードバック制御器302を有するバッテリ温度制御部210を備えている。このバッテリ温度制御部210は、統合ECU101から送信された目標バッテリ温度とバッテリ112から送信された実際のバッテリ温度(実バッテリ温度)との差分に基づいて、バッテリ温度の制御に必要なバッテリ温度制御装置402(例えば、ヒータ413やファン414)への供給電力量を演算し、その供給電力量の演算結果をバッテリ温度制御装置402へ送信する。
【0037】
バッテリ112のバッテリ温度制御装置402は、バッテリ温度制御部210から送信された供給電力量に基づいてそのヒータ413やファン414を駆動し、バッテリモジュール401の暖気若しくは冷却を行ってバッテリ温度の調整を行う。また、制御した後のバッテリの実バッテリ温度は、通信線を介してバッテリ温度制御部210へフィードバックする。
【0038】
ここで、上記するように、バッテリ温度は使用可能温度域(例えば-10℃〜40℃)の範囲内に制御される必要があり、さらにバッテリ寿命等を考慮すると、推奨温度域(例えば10℃〜30℃)の範囲内に制御されることが望ましい。しかしながら、バッテリが置かれる環境が極寒(-20℃よりも低い温度)または極暑(40℃よりも高い温度)の場合には、バッテリ温度の制御に要するエネルギが膨大となり、電動車両の航続距離が著しく減少する可能性がある。したがって、上記する目標バッテリ温度演算部301で演算される目標バッテリ温度は、バッテリ性能やバッテリ寿命と電動車両の航続可能距離とのバランスを考慮してフレキシブルに設定されることが望ましい。
【0039】
そこで、第1の実施形態のバッテリ温度制御装置500においては、図4に示すように、目標バッテリ温度演算部301での目標バッテリ温度の演算に際して、バッテリ電力残量(SOC)と外気温をパレメータとする目標バッテリ温度演算マップを使用する。
【0040】
具体的には、外気温が常温近傍(例えば10℃〜30℃)の場合、すなわち、バッテリの推奨温度域(例えば10℃〜30℃)を目標バッテリ温度としてバッテリ温度を制御してもバッテリ温度の制御に要する消費電力が少ない場合、あるいは、バッテリSOCが高い(例えば70%〜100%)場合、すなわち、バッテリ温度の制御に要する消費電力が増加しても車両走行中にバッテリ切れの可能性が低い場合には、「目標バッテリ温度=推奨温度域中心値(例えば20℃)」とする。
【0041】
また、外気温が低温(例えば10℃以下)あるいは高温(例えば30℃以上)の場合、すなわち、バッテリ温度の制御に要する消費電力が相対的に多い場合、且つ、バッテリSOCが低い(例えば70%以下)場合、すなわち、バッテリ切れの可能性が高い場合には、「目標バッテリ温度=使用可能温度域の温度のうち外気温に近い温度」とする。
【0042】
このように目標バッテリ温度を設定し、その結果をバッテリ温度の制御に使用することで、基本的には目標バッテリ温度を推奨温度域の中心値(例えば20℃)近傍としてバッテリ劣化を防止しながら、バッテリ温度の制御に要する消費電力が車両の航続距離に大きく影響を及ぼすと想定される場合には、目標バッテリ温度を使用可能温度域まで拡張してバッテリ温度の制御を必要最低限に抑え、バッテリの消費電力を抑制して車両の航続距離を確保することができる。
【0043】
なお、目標バッテリ温度の設定自由度を増やすために、目標バッテリ温度演算部301では前記目標バッテリ温度演算マップを複数用意しておき、様々な状況に応じて切り替えて使用してもよい。
【0044】
図5は、図4で示す目標バッテリ温度演算部301が有する目標バッテリ温度演算マップの例を示したものであり、図5(a)はバッテリ寿命重視用マップの一例、図5(b)はデフォルト用マップの一例、図5(c)は航続距離重視用マップの一例を示したものである。
【0045】
図5(b)に示すデフォルト用マップを基準とした場合、図5(a)に示すバッテリ寿命重視用マップは、マップ全域に亘って「目標バッテリ温度=推奨温度域中心値(例えば20℃)」の領域が増加しており、例えばドライバが車両の航続距離よりもバッテリ寿命を優先させたい場合や短距離での走行が多い場合等に適している。一方で、図5(c)に示す航続距離重視用マップは、「目標バッテリ温度=推奨温度域中心値」の領域が減少し、「目標バッテリ温度=使用可能温度域の温度のうち外気温に近い温度」の領域が増加しており、例えばドライバがバッテリ寿命よりも車両の航続距離を優先させたい場合や遠距離での走行が多い場合等に適している。
【0046】
図6は、図4で示す目標バッテリ温度演算部301の内部構成を具体的に示したものである。図6を参照して、目標バッテリ温度演算部301における図5(a)〜(c)で示す目標バッテリ温度演算マップの切替えについて説明する。
【0047】
目標バッテリ温度を演算する前記目標バッテリ温度演算部301は、種々の判定要素に基づいて最適な目標バッテリ温度演算マップを判定する目標バッテリ温度演算マップ切替え部310と、該目標バッテリ温度演算マップ切替え部310の判定結果に基づいて目標バッテリ温度演算部301に記憶されたバッテリ寿命重視用マップ311、デフォルト用マップ312、航続距離重視用マップ313から選択すべき目標バッテリ温度演算マップを切替える切替えスイッチ314と、を備えている。なお、切替えスイッチ314によって切替えられた目標バッテリ温度演算マップは、目標バッテリ温度の演算に使用される。
【0048】
さらに、目標バッテリ温度演算マップ切替え部310は、個々の要素を判定するドライバ選択SW判定部315、バッテリSOC判定部316、外気温判定部317、走行予定距離判定部318、下り坂走行予測判定部319等と、これら個々の判定部による判定結果を総合的に判定するマップ切替え総合判定部320と、を備えている。
【0049】
これにより、ドライバ選択SW判定部315、バッテリSOC判定部316、外気温判定部317、走行予定距離判定部318、下り坂走行予測判定部319等の個々の判定部は、例えばドライバの選択SW、バッテリ劣化、外気温、走行予定距離、車両走行ルートの下り坂走行予測等の種々の判定要素を判定し、その判定結果をマップ切替え総合判定部320へ出力する。マップ切替え総合判定部320は、個々の判定部315〜319から出力された判定結果を総合的に考慮して最適な目標バッテリ温度演算マップを判定し、その判定結果を切替えスイッチ314へ送信する。
【0050】
ここで、前記マップ切替え総合判定部320でバッテリ寿命重視用マップ311を選択する場合としては、例えばドライバがバッテリ寿命重視SWを選択している場合やバッテリが劣化している場合、走行予定距離が短い場合、長時間の下り坂走行が予測されバッテリの電力回生が見込まれる場合等が挙げられる。
【0051】
また、マップ切替え総合判定部320で航続距離重視用マップ313を選択する場合としては、例えばドライバが航続距離重視SWを選択している場合やバッテリが新品同等である場合、走行予定距離が長い場合等が挙げられる。
【0052】
また、マップ切替え総合判定部320でデフォルト用マップ312を選択する場合としては、例えばSWが初期設定状態である場合やバッテリが劣化している場合、上記以外の様々な車両状態の場合等が挙げられる。
【0053】
[第2の実施形態]
図7は、バッテリ温度制御装置の第2の実施形態を模式的に示したものである。なお、第1の実施形態のバッテリ温度制御装置500に対して、第2の実施形態のバッテリ温度制御装置600は、目標バッテリ温度演算部301における目標バッテリ温度を推奨温度域中心値(例えば20℃)に固定して目標バッテリ温度演算部301を簡素化した点、バッテリ温度制御部210のPIDフィードバック制御器302の後段にバッテリ温度制御用電力供給リミッタ303を設けた点が相違しており、その他の構成は第1の実施形態のバッテリ温度制御装置500と同様である。したがって、第1の実施形態のバッテリ温度制御装置500と同様の構成には同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0054】
図示するバッテリ温度制御装置600は、主として統合ECU101のバッテリ温調指令部207と、バッテリECU104のバッテリ温度制御部210と、バッテリ112のバッテリ温度制御装置402とバッテリモジュール401と、から構成されており、PIDフィードバック制御を適用してバッテリ温度の制御を行うものであるものの、バッテリ温調指令部207の目標バッテリ温度演算部301は、目標バッテリ温度として推奨温度域中心値(例えば20℃)をバッテリECU104へ送信する。また、バッテリECU104のバッテリ温度制御部210は、PIDフィードバック制御器302の後段にバッテリ温度制御用電力供給リミッタ303を備えている。
【0055】
前記バッテリ温度制御用電力供給リミッタ303は、バッテリ温度のフィードバック制御を行うに当たり、バッテリ温度と供給電力制限閾値をパラメータとする電力供給量リミッタマップに基づいて、バッテリモジュール401からフィードバック制御の操作量に相当するバッテリ温度制御装置402(例えばヒータ413やファン414)への供給電力量を制限閾値(上限値)内に制限するものである。
【0056】
前記電力供給量リミッタマップの制限閾値は、図示するようにバッテリ温度に応じた値、具体的には目標バッテリ温度と実バッテリ温度の差分に応じた値に設定されており、特に使用可能温度域の外部、温度推奨域と使用可能温度域との間、温度推奨域で異なる設定となっている。前記制限閾値は、目標バッテリ温度と実バッテリ温度の差分の絶対値が大きくなるに従って大きくなるように設定されており、具体的には、バッテリ温度が使用可能温度域の外部にある場合には、バッテリ温度の使用可能温度域への温度収束を容易にするために前記制限閾値を高く設定し、フィードバック制御への干渉を防止している。一方で、バッテリ温度が推奨温度域にある場合には、バッテリ温度の制御に要する消費電力を抑制するために前記制限閾値を低く設定し、フィードバック制御へ干渉してバッテリ温度の収束温度が変化することを許容している。
【0057】
このように、バッテリECU104のバッテリ温度制御部210は、統合ECU101から送信された目標バッテリ温度(例えば20℃で固定)とバッテリ112から送信された実バッテリ温度との差分に基づいて、バッテリ温度の制御に必要なバッテリ温度制御装置402(例えば、ヒータ413やファン414)への供給電力量を演算すると共に、バッテリ温度制御用電力供給リミッタ303は、PIDフィードバック制御器302から出力された供給電力量の演算結果とバッテリ温度に応じた制限閾値とに基づいて供給電力量を制限し、制限された供給電力量の結果をバッテリ温度制御装置402へ送信する。なお、PIDフィードバック制御器302から出力された供給電力量の演算結果が制限閾値以下である場合には、供給電力量を制限することなく演算結果をバッテリ温度制御装置402へ送信する。
【0058】
バッテリ112のバッテリ温度制御装置402は、バッテリ温度制御部210から送信された供給電力量に基づいてそのヒータ413やファン414を駆動し、バッテリモジュール401の暖気若しくは冷却を行ってバッテリ温度の調整を行う。また、制御した後のバッテリの実温度は、通信線を介してバッテリ温度制御部210へフィードバックする。
【0059】
図8は、異なる外気温におけるバッテリ温度制御装置の第2の実施形態によるバッテリ温度制御時のバッテリ温度とバッテリ温度制御用電力供給量との関係を具体的に示したものであり、図8(a)は外気温が10℃、図8(b)は外気温が-10℃、図8(c)は外気温が-20℃の場合のバッテリ温度とバッテリ温度制御用電力供給量との関係を示したものである。
【0060】
図10,11に基づき説明したように、外気温が常温付近から低温になるに従ってバッテリ112から放出される熱量は増加し、バッテリ温度の制御に必要な電力量(エネルギ)は増加する。すなわち、図8(a)に示す環境(外気温が10℃)から図8(c)に示す環境(外気温が-20℃)へ変化するに従って、バッテリ112から放出される熱量は増加する。
【0061】
第2の実施形態のバッテリ温度制御装置600においても、図8(a)に示すように、外気温が所定の範囲内にある場合には、制限閾値内の供給電力量をバッテリ温度制御装置402へ供給することで、バッテリ温度を推奨温度域に制御することができる。
【0062】
しかしながら、このバッテリ温度制御装置600においては、特にバッテリの推奨温度域近傍(例えば10〜30℃)でのバッテリ温度制御装置402への供給電力量が制限されているため、図8(b),(c)に示すように、外気温が所定の外気温よりも低くなると、本来バッテリ温度の制御に必要とされる電力量をバッテリ温度制御装置402へ供給することができない。したがって、仮にバッテリ温度が初期状態で約20℃であったとしても、外気温が低温になるに従ってバッテリ温度も低下し、バッテリ温度を目標バッテリ温度(例えば20℃)近傍に維持することができなくなり、さらにバッテリ温度は推奨温度域よりも低い温度まで下降していく。
【0063】
一方で、このバッテリ温度制御装置600においては、バッテリ温度が推奨温度域よりも低い温度へ下降するに従ってバッテリ温度制御装置402への供給電力量の制限閾値が増加する設定となっている。すなわち、バッテリ温度制御装置402への供給電力量の制限が緩和されてヒータ413で発生される熱量は増加することとなる。
【0064】
これにより、図8(b)に示す環境(外気温が-10℃)や図8(c)に示す環境(外気温が-20℃)においても、バッテリ112からの放熱量とヒータ413のよるバッテリ112への熱供給量がバランスするバッテリ温度(バランス温度)が使用可能温度域内に存在することとなり、バッテリ温度を使用可能温度域の範囲内で制御することができる。なお、図8(b)に示す環境から図8(c)に示す環境へ外気温が変化した場合、バッテリ112から放出される熱量が増加するため、前記バランス温度は外気温の低下に従って5℃付近から0℃付近まで低下する。
【0065】
なお、図示するように使用可能領域の外部の供給電力制限閾値を相対的に高く設定しておくことで、外気温の低下に従ってバッテリ温度が使用可能温度域よりも低温側へ移行した場合にも、前記バランス温度をバッテリの使用可能温度域内へ収束させることができる。
【0066】
上記のようにバッテリ温度の制御を行うことで、基本的にはバッテリ寿命に配慮し、バッテリの推奨温度域の所定の温度を目標バッテリ温度としてバッテリ温度の制御を行いながら、バッテリ温度を目標バッテリ温度に収束させようとしてバッテリ温度の制御に要する電力が膨大になる場合には、電力供給量リミッタを使用し、バッテリ温度の制御温度域をバッテリの使用可能温度域まで拡張してバッテリ温度の制御を行うことで、バッテリ温度の制御に要する電力消費を効果的に低減することができる。
【0067】
また、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、ユーザ等による設定自由度を増やすために、バッテリ温度制御用電力供給リミッタ303では前記電力供給量リミッタマップを複数用意しておき、ユーザ意図や車両状況等の様々な状況に応じて切り替えて使用してもよい。
【0068】
図9は、図7で示すバッテリ温度制御用電力供給リミッタ303が有するバッテリ温度制御用の電力供給量リミッタマップの例を示したものであり、図9(a)はバッテリ寿命重視用マップの一例、図9(b)はデフォルト用マップの一例、図9(c)は航続距離重視用マップの一例を示したものである。
【0069】
図9(b)に示すデフォルト用マップを基準とした場合、図9(a)に示すバッテリ寿命重視用マップは、バッテリ温度の全域に亘って供給電力制限閾値を相対的に高く設定しており、例えば外気温等に関わらず常にバッテリ温度を推奨温度域の中心値(例えば20℃)に制御することができる。また、図9(c)に示す航続距離重視用マップは、バッテリの使用可能温度域の外部を除いて、使用可能温度域のほぼ全域に亘って供給電力制限閾値を相対的に低く設定しており、バッテリ温度の使用可能温度域内への制御を確保しつつ、広い条件下でバッテリ温度の制御に要する電力消費を抑制することができる。
【0070】
このように、図9(a)から図9(c)に示す電力供給量リミッタマップを適切に切替えて使用することによって、バッテリ寿命と電動車両の航続距離とを更に高いレベルで両立することができる。
【0071】
以上より、本実施形態のバッテリ温度制御装置によれば、基本的にはバッテリ温度の制御で用いる目標バッテリ温度を推奨温度域の中心値に設定してバッテリ劣化を防止すると共に、バッテリ温度の制御に要する消費電力が航続距離に大きな影響を及ぼすと想定される際には、バッテリ温度の制御を必要最低限とし、バッテリ温度の制御に要する消費電力を抑制して車両の航続距離を確保することができる。
【0072】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形形態が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0073】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0074】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0075】
100 電動車両
101 統合ECU
102 ブレーキECU
103 モータECU
104 バッテリECU
105 空調ECU
106,115 ブレーキディスク
107 インバータ
108 モータ
109 減速ギア
110 車軸(ドライブシャフト)
111 駆動輪(前輪)
112 バッテリ
113 エアコン
114 後輪
201 統合制御部
202 車両運動制御部
203 エネルギ管理部
204 フェール時対応部
205 目標ブレーキ制動力演算部
206 目標モータ制駆動力演算部
207 バッテリ温調指令部
208 車両内温調指令部
210 バッテリ温度制御部
301 目標バッテリ温度演算部
302 PIDフィードバック制御器
303 バッテリ温度制御用電力供給リミッタ
310 目標バッテリ温度演算マップ切替え部
311 バッテリ寿命重視用マップ
312 デフォルト用マップ
313 航続距離重視用マップ
314 切替えスイッチ
320 マップ切替え総合判定部
401 バッテリモジュール
402 バッテリ温度制御装置
411 バッテリセル
412 セルコントローラ
413 バッテリヒータ
414 バッテリファン
500,600 バッテリ温度制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ温度を所定の温度域に収束させるように該バッテリ温度を制御するバッテリ温度制御装置であって、
前記バッテリ温度制御装置は、バッテリ使用に適した推奨温度域と、該推奨温度域よりも広い温度域であってバッテリ使用可能な使用可能温度域と、を有していて、
外部環境、車両状態、ドライバ意図の少なくとも一つに応じて、前記所定の温度域を前記推奨温度域又は前記使用可能温度域に設定することを特徴とするバッテリ温度制御装置。
【請求項2】
前記バッテリ温度制御装置は、前記所定の温度域にバッテリ温度を収束させるために用いるバッテリからのエネルギを制限する制限閾値を有すると共に、外部環境、車両状態、ドライバ意図の少なくとも一つに応じて前記制限閾値を設定することを特徴とする請求項1に記載のバッテリ温度制御装置。
【請求項3】
前記制限閾値は、前記所定の温度域内の目標バッテリ温度と実バッテリ温度との差分に基づいて設定されることを特徴とする請求項2に記載のバッテリ温度制御装置。
【請求項4】
前記制限閾値は、前記差分の絶対値が大きくなるに従って大きくなることを特徴とする請求項3に記載のバッテリ温度制御装置。
【請求項5】
前記制限閾値は、さらに車両走行予定距離及び/又は車両走行ルートに基づいて設定されることを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のバッテリ温度制御装置。
【請求項6】
前記エネルギは、バッテリの残留エネルギ及び/又はバッテリへの回生エネルギを含んでいることを特徴とする請求項2から6のいずれか一項に記載のバッテリ温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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