説明

バットコンタクト式コネクタ

【課題】接点と固定側端子とを導電可能に接続する手段として、可撓軟銅線よりも耐久性・取り付け性に優れた手段を適用したバットコンタクト式コネクタを提供する。
【解決手段】メス側電極10は、メス側接点11を先端部に保持し、インシュレータ30の孔内を軸方向に進退するスリーブ13と、スリーブ13を先端方向に付勢するバネ19と、スリーブ13の内孔に先端部が挿入されて、後端部において電路36と接続されている芯金17とを有する。芯金17の外面には、スリーブ13の内孔に押し当てられるように接触する、径方向の弾性を有する弾性導電部材20が装着されている。コネクタのオンオフの繰り返しにおけるスリーブ13の軸方向の進退時には、弾性導電部材20がスリーブ13の内面に接触しながら摺動する。弾性導電部材20はスリーブ13の内面に弾性を持って接触しているので、両者間に安定な導通が得られ、耐久性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バットコンタクト式(接点同士を対向させて突き当てる方式)のコネクタに関する。特には、耐久性を向上させた大電流回路用のバットコンタクト式コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なバットコンタクト式のコネクタにおいては、プラグなどに設けられたオス側電極の接点と、レセプタクルなどに設けられたメス側電極の接点とが必要な接点圧で突き当てられて、電極同士が導通される。必要な接点圧を得るために、一般的には、メス側電極の接点はバネで弾性支持されて、オス側電極の接点に向かって付勢されている。このようなコネクタにおいては、プラグとレセプタクル間の電流回路を形成するため、メス側電極の接点とレセプタクル側電路とが可撓性の導電部材(軟銅線など)で接続されたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図9は、可撓性導電部材を使用したメス側電極の構造の一例を示す側断面図である。
メス側電極210は、インシュレータ230に形成された内孔に進退可能に配置されている。同電極210は、オス側電極の接点と接する接点211と、同接点211が取り付けられている可動接点台212と、レセプタクル側の電路に接続する固定端子部236と、を有する。可動接点台212はバネ217により、先端方向(オス側電極方向)に付勢されている。また、可動接点台212と固定端子部236とは可撓性導電部材220により導通可能に接続されている。大電流回路用の場合、可撓性導電部材220として可撓軟銅線を使用するのが一般的である。
【0004】
バットコンタクト式で、かつ、大電流回路用のコネクタに可撓軟銅線を使用した場合、以下の問題が生じる。
(1)コネクタのオン−オフ動作時には、接点211が取り付けられている可動接点台212がインシュレータ230の内孔をスライドし、これに伴って、図9に示すように、可撓軟銅線220が屈曲・伸長する。このオン−オフ動作を繰り返すと、可撓軟銅線220は繰り返し屈曲・伸長運動することとなり、可撓軟銅線220の一部が加工硬化を起こす。するとその反力により可動接点台212の戻り力を弱めたり、接点同士が正対せず温度上昇を引き起こすおそれがある。
(2)また、屈曲・伸長運動の繰り返しによる加工硬化により、可撓軟銅線220の一部断線や全面断線を起こしやすく、耐久寿命は1万回程度である。
(3)耐久寿命を延ばすには、可撓軟銅線220の径を大きくすることや長さを長くすることが必要になり、コネクタの小型化を図り難い。
(4)可撓軟銅線220を可動接点台212や固定端子部236に接続する方法として、カシメ方法やスポット溶接が挙げられるが、これらの作業は熟練度を要し、作業効率が悪くコストアップにつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭55−26594
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、接点と固定側端子とを導電可能に接続する手段として、可撓軟銅線よりも耐久性・取り付け性に優れた手段を適用したバットコンタクト式コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバットコンタクト式コネクタは、 インシュレータに形成された孔の中を進退するとともに、先端部に接点を有するメス側電極、及び、 該メス側電極の接点(メス側接点)に押し当てられる接点を有するオス側電極、を備えるバットコンタクト式コネクタであって、 前記メス側電極が、 前記メス側接点を先端部に保持し、前記インシュレータの孔の中を軸方向に進退する筒状のスリーブと、 該スリーブを先端方向に付勢するバネと、 前記スリーブの内孔に先端部が挿入されており、後端部において電路と接続されている芯金と、 該芯金の外面に装着された、前記スリーブの内孔に押し当てられるように接触する、径方向の弾性を有する弾性導電部材と、を具備することを特徴とする。
【0008】
本発明のバットコンタクト式コネクタにおいては、メス側接点及びスリーブが弾性導電部材を介して芯金と導通している。そして、コネクタのオンオフの繰り返し時には、スリーブが軸方向に進退するが、この際弾性導電部材がスリーブの内面に接触しながら摺動する。弾性導電部材はスリーブ内面に押し当てられるように弾性を持って接触しているので、両者間に安定な導通が得られ、従来方式のバットコンタクト式コネクタにおける可撓軟銅線を使用した場合に比べて、耐久性が向上する。また、弾性導電部材は芯金に嵌め込むことによって簡単に芯金に装着できる。
【0009】
なお、弾性導電部材をスリーブの内面に装着し、同部材の内面(径方向内側)で芯金と接触させることもできるが、弾性導電部材は、その外面(径方向外側)でスリーブの内面に接触する方が好ましい。というのは、弾性導電部材をスリーブの内面に装着し、同部材の内面(径方向内側)で芯金と接触させる場合、弾性導電部材をスリーブの内面で保持するので、スリーブの保持部分の最低肉厚を確保する必要がある。そして、スリーブの外側にバネを外嵌するので、外径が大きくなる傾向がある。さらに、弾性導電部材をスリーブ内に圧入するための専用治具が必要になり、作業に熟練度を要したり、作業効率が悪くなるなどの問題が生じる。
【0010】
本発明においては、 前記弾性導電部材が、所定の長さを有するCリング状のバンドであって、軸方向中央部に径方向外側に膨らんだ胴部を有することが好ましい。
この場合、弾性導電部材が中間胴部の弾性潰れによって、芯金の外面とスリーブの内孔との間に突っ張るように接触するので、両者間に安定な導通を与えることができる。
【0011】
または、 前記弾性導電部材を、中空断面を有するリング状のコイルバネとすることもできる。
この場合も、リング状コイルバネがリング断面の弾性潰れによって、芯金の外面とスリーブの内孔との間に突っ張るように接触するので、両者間に安定な導通を与えることができる。
【0012】
本発明においては、 前記スリーブを付勢するバネが高導電性材質で作製され、 該スリーブ付勢バネの先端が、前記スリーブ先端に当接するとともに、後端が電路に当接し、これにより、前記接点から前記スリーブ及びスリーブ付勢バネを通って前記電路に至る第2の導通回路が形成されている。
【0013】
本発明によれば、接点からスリーブ及びスリーブ付勢バネを通って電路に至る分流回路と、接点からスリーブ、弾性導電部材及び芯金を通って電路に至る分流回路とが形成される。これにより、全体回路を複数の部分回路に分けることができるので、各部分回路での温度上昇を防ぐことができる。
【0014】
本発明においては、 コネクタオン時において、 前記スリーブ内孔の先端面と前記芯金の先端面との間にギャップg1が存在し、 前記スリーブの後端と前記電路との間にギャップg2が存在することが好ましい。
【0015】
このようなギャップを設けることにより、スリーブや芯金に公差外の寸法誤差が生じても、オス側電極の正規のストローク寸法を確保できる。
【0016】
さらに、本発明においては、 コネクタオフ時において、 前記弾性導電部材と前記スリーブとの接触面と、前記スリーブの後端面との間に所定の距離Lが存在することが好ましい。
弾性導電部材とスリーブとの接触面と、スリーブの後端面との間に所定の距離が存在するとは、言い換えれば、コネクタオフ時にもスリーブと弾性導電部材とが接触していることである。これにより、主回路が不用意に遮断された場合、接点間には放電(スパーク)が発生するが、コンタクトバンドとスリーブとは導通したままであるので両者間にスパークが発生しない。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明及びその好ましい実施形態においては以下の効果を得られる。
(1)弾性導電部材はスリーブ内面方向に弾性を持って接触しているので、両者間に安定な導通が得られ、可撓軟銅線を使用した場合に比べて耐久性が向上する。一例として、10万回の摺動試験を満足する耐久性を得られる。
(2)弾性導電部材は芯金に嵌め込むことによって簡単に芯金に装着できる。
(3)全体回路を2個の分流回路に分けることができるので、各回路での温度上昇を防ぐことができる。
(4)可動接点台の後端面と芯金の先端面間、及び、スリーブの後端と固定端子部との間にギャップを持たせることにより、各部材間の接触抵抗を安定化できる。
(5)コネクタオフ時にも、スリーブとコンタクトバンドとを接触させて両者を常に同電位にすることにより、不用意な回路遮断があっても両電極の接点間にのみスパークが発生し、スリーブと芯金間にはスパークが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るバットコンタクト式コネクタのメス側電極の構造を示す側断面図であり、図1(A)はコネクタオン時、図1(B)はコネクタオフ時を示す。
【図2】図1のメス側電極の構造を示す分解斜視図である。
【図3】図1のメス側電極の芯金の構造を示す側面図である。
【図4】コンタクトバンドの構造を示す図であり、図4(A)は正面図、図4(B)は側面図、図4(C)は金属薄板の平面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るバットコンタクト式コネクタのメス側電極の構造を示す側断面図であり、図1(A)はコネクタオン時、図1(B)はコネクタオフ時を示す。
【図6】図5のメス側電極の構造を示す分解斜視図である。
【図7】図5のメス側電極の芯金の構造を示す分解斜視図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態に係るバットコンタクト式コネクタのレセプタクルの正面図である。
【図9】従来のレセプタクルのメス側電極の構造の一例を示す側断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1〜図4を参照して、本発明の第1の実施の形態に係るバットコンタクト式コネクタについて説明する。
コネクタは、レセプタクルとこのレセプタクルに差し込むプラグとからなり、メス側電極がレセプタクルに設けられており、オス側電極がプラグに設けられている。以降、レセプタクルに設けられたメス側電極について説明する。
【0020】
レセプタクル1は、図2に示すように、4本のメス側電極10と、これらの電極を支持するインシュレータ30と、電極10及びインシュレータ30を収容するケーシング(図示されず)を有する。プラグは、結合時に、レセプタクル1の各電極10と突き合わされて導電可能に接触する4本のオス側電極と、これらの電極を支持するインシュレータと、電極及びインシュレータを収容するとともに、レセプタクルのケーシングとバヨネット式に連結するケーシングを有する。なお、コネクタオン時に両電極の接点間に必要な接点圧を得るために、プラグのオス側電極はレセプタクルに対して所定のストロークだけ差し込まれる。言い換えれば、オス側電極が所定のストロークだけ差し込まれないと、レセプタクルとプラグとのバヨネット連結が不可能である。
【0021】
メス側電極10について説明する。
メス側電極10は、図1に示すように、先端側(オス側電極側)に接点11が取り付けられた可動接点台12と、先端側端部に可動接点台12が保持されたスリーブ13と、芯金17とを有する。スリーブ13は、バネ19により先端方向に付勢されている。また、芯金17の外面とスリーブ13の内面との間には、弾性導電部材20が介装されている。これらは、インシュレータ30に収容されている。
【0022】
インシュレータ30は、前側インシュレータ31と後側インシュレータ32とからなる。
前側インシュレータ31には、この例では、4個の平行な孔34が開けられている。各孔34は、先端側の小径孔34aと、同孔と同軸上の大径孔34bとを有する。小径孔34aと大径孔34bとの間には、段部34cが形成されている。この段部34cは、メス側電極10の抜け止めとなる。
後側インシュレータ32の、前側インシュレータ31の内孔34の奥側端面に当たる部分には、電路に接続する固定端子部36が設けられている。
【0023】
可動接点台12は、導電性材料(例えば、銅又は銅合金製)で作製された、短い円柱状の部材である。可動接端台12の先端面には、円盤状の接点11(例えば、銀製)が固定されている。
【0024】
スリーブ13は、導電性材料(例えば、銅又は銅合金製)で作製された筒状の部材である。図1に示すように、スリーブ13の先端面には、外側に張り出すフランジ14と、スリーブ内孔内に張り出す段部15が形成されている。この段部15が可動接端台12の側面に噛み合って、可動接点台12とスリーブ13とが固定されている。スリーブ13の内面は、段部14から後端に向かって真っすぐに延びており、後端部は拡径したテーパ面となっている。スリーブ13は、前側インシュレータ31の内孔34の大径孔部34b内に、接点11を先端側にして収容されている。
【0025】
芯金17は、導電性材料(例えば、銅又は銅合金製)で作製された棒状部材である。芯金17は、固定端子部36の端面に立設されており、先端方向へ突き出してスリーブ13の内孔に挿入されている。芯金17は、図3に示すように、固定端子部36側の基部17aと、先端側の先端部17bと、両部の間の中央部17cとを有する。中央部17cの径は、基部17aと先端部17bの径よりも小さい。この中央部17cには、弾性導電部材20が装着されている。
【0026】
弾性導電部材20は、図4(A)、(B)に示すように、帯状の金属薄板(例えば、ベリリウム銅の薄板を金メッキしたもの)で作製されたCリング状のバンド(コンタクトバンドという)からなる。コンタクトバンド20は、短い筒状の両端部21と、その中間の外方向に膨らんだ中間胴部22とを有する。中間胴部22は、図4(B)に示すように、長さ方向に延びる細長の金属片22a(ルーバー)と細長の孔22bとが交互に並んだもので、細長金属片22aが径方向に円弧状に湾曲するように塑性変形している。これにより、中間胴部22には弾性機能が付与される。図4(A)に示すように、コンタクトバンド20の両側縁間には空間23が開いている。
【0027】
このようなコンタクトバンド20は、一例として、図4(C)に示すように、帯状の金属薄板40の中間部に細長の孔41を打ち抜いて形成し、中間部に残された細長の金属片42を外方向(径方向)に湾曲するように塑性変形させた後、Cリング状に加工することにより作製される。
【0028】
コンタクトバンド20は、両側縁間の空間23(図4(A)参照)に芯金17の中央部17cを通して嵌め込むことによって、弾性によって芯金17の中央部17cに装着される。中央部17cの径は、その先端側及び後端側の先端部17bや基部17aの径よりも小さいので、コンタクトバンド20は前後方向に移動しないように保持される。図1に示すように、コンタクトバンド20の中間胴部22の外面は、スリーブ13の内孔に接している。この際、中間胴部22の細長金属薄板片22aは、弾性潰れによって、スリーブ13の内孔との間に突っ張るように接触している。
【0029】
なお、この例では、中間胴部22が外方向に膨らんだコンタクトバンド20を芯金17に装着し、中間胴部22の外面(径方向外側の面)をスリーブ13の内面に接触させた。一方で、中間胴部が内方向に膨らんだ形状のコンタクトバンドをスリーブの内孔に装着し、中間胴部の内面(径方向内側の面)を芯金の外面に接触することも可能である。しかしながら、本発明の実施形態のもの(芯金外面装着式)の方が、コネクタの小型化及び弾性導電部材20の取付容易性などの点で有利である。
【0030】
バネ19は、導電性材料(例えば、燐青銅製)で作製され、スリーブ13の周囲の、スリーブ13のフランジ14と固定端子部36との間に外嵌されている。そして、スリーブ13を先端方向に付勢している。図1(B)に示すコネクタオフ時には、スリーブ13はバネ19により先端方向に付勢されて、フランジ14が前側インシュレータ31の内孔34に形成された段部34cに当接する。この際、接点11は前側インシュレータ31の内孔34の小径孔部34a内に突き出している。
【0031】
図1(A)を参照して、コネクタオン時の状態を説明する。
プラグがレセプタクルに差し込まれると、両者のケーシングがバヨネットカップリングにより連結し、プラグのオス側電極110がレセプタクルの前側インシュレータ31の小径孔部34aから大径孔部34bに所定のストロークSだけ差し込まれる。すると、オス側電極110の先端の接点111とメス側電極10の先端の接点11が接触するとともに、メス側電極10の接点11(可動接点台12、スリーブ13)は大径孔部34b内を後端方向に押し込まれる。メス側電極10の接点11はバネ19で先端方向に付勢されているので、これにより、オス側電極110の接点111とメス側電極10の接点11との接点圧が確保される。また、芯金17に装着されているコンタクトバンド20の中間胴部22の外面は、スリーブ13の内孔の長さ方向のほぼ中央で接している。
【0032】
この状態では、図1(A)に示すように、2つの分流回路I、Iが形成される。一つの分流回路Iは、オス側電極の接点111から、メス側電極10の接点11、可動接点台12、スリーブ13及びバネ19を介して固定端子部36へ向かう回路である。もう一方の回路Iは、オス側電極の接点111から、メス側電極10の接点11、可動接点台12、スリーブ13、コンタクトバンド20及び芯金17を介して固定端子部36へ向かう回路である。つまり、主流回路電流I=分流回路I+分流回路Iとなる。
【0033】
このように主流回路を2個の分流回路に分けたことにより、1個の電流回路を小型化でき、温度上昇を抑えることができる。
【0034】
なお、各分流回路の比率としては、Iを10〜40%、Iを90〜60%、特には、I≒I/3、I≒2I/3とすることが好ましい。これは、以下の理由による。
分流回路Iの経路となるバネ19は、スリーブ13を付勢することが主目的であるので、バネ19の径及び反発力は抜き差しに適するように設定されており、通電性に重点をおいていない。そのため、必然的に、弾性導電部材を経由する分流回路Iが主となり、分流回路Iは副となり、分流回路Iの方が多く電流が流れる。
分流比は、例えば、バネ19の線径、中心径、巻き数から概略の抵抗値を推定し、電密度から電流値を決定することができる。
【0035】
さらに、コネクタオン時においては、図1(A)に示すように、芯金17の先端部の端面と可動接点台12の後端面(スリーブ13の内孔の先端面)との間にギャップgが存在し、スリーブ13の後端と固定端子部36との間にギャップgが存在する。これは、以下に説明するように、安定した接触抵抗を得るためのものである。
このようなギャップが存在しない場合、例えば、接点11から、可動接点台12及び芯金17を介して固定端子部36に向かう分流回路や、接点11から、可動接点台12及びスリーブ13を介して固定端子部36に向かう分流回路が形成される。このように、第3の分流回路が形成されると、回路の小型化の点では好ましいが以下の問題点を生じる。
【0036】
(1)スリーブ13の長手方向の寸法が公差外のプラスになった場合、ギャップgがなくなり、スリーブ13の後端面が固定端子部36に当接する。すると、メス側接点11を有するスリーブ13が後方へ移動できなくなる。つまり、オス側電極110が所定のストロークSだけ差し込まれなくなる場合があり、プラグとレセプタクルのバヨネット連結が不十分となる。
(2)芯金17の長手方向の寸法が公差外プラスになった場合、ギャップgがなくなり、可動接点台12の後端面と芯金17の先端面とが当接する。すると、(1)と同様に、スリーブ13が後方へ移動できなくなる場合があり、バヨネット連結が不十分となる。
(3)上記(1)、(2)のケースにおいては、各部材間に接触抵抗値が存在する。つまり、ギャップg、gが存在する場合と存在しない場合とでは、全体としての接触抵抗値が大きく変動し、接触抵抗の安定性に問題を生じる。また、経年的な安定性にも問題が生じる。
以上のような理由により、ギャップg、gを設けることが好ましい。
【0037】
次に、図1(B)を参照してオフ時の状態について説明する。
前述のように、コネクタオフ時には、スリーブ13はバネ19により先端方向に付勢されて、フランジ14が前側インシュレータ31の内孔34に形成された段部34cに当接している。このとき、接点11は前側インシュレータ31の内孔34の小径孔部34a内に突き出している。また、芯金17に装着したコンタクトバンド20の中間胴部22の外面は、スリーブ13の内孔部に当接している。
【0038】
この状態において、コンタクトバンド20の中間胴部22の長手方向中央部(最も外側に張り出した部分)と、スリーブ13の後端との間には、距離Lが存在する。つまり、コンタクトバンド20とスリーブ13とが導通状態(同電位)にある。これは以下の理由による。
プラグを不用意にレセプタクルから引き抜くと、両者の接点間に放電(スパーク)が発生するが、コンタクトバンド20とスリーブ13とは導通したままであるので両者間にスパークは発生しない。つまり、不用意な回路遮断が生じても、電極には影響を及ぼさない。なお、両接点はスパークに耐えられる構造を有しているため、このようなスパークが発生しても接点の耐久性などに問題は生じない。
【0039】
コネクタのオンオフ動作を繰り返すと、スリーブ13の内面と芯金17に装着されたコンタクトバンド20の中間胴部22の外面とは、摺動を繰り返す。この際、前述のように、中間胴部22はスリーブ13の内孔に対して突っ張るように接触しているため、常に安定な接触状態が保たれており、繰り返し摺動に対しても安定な接触状態を維持できる。
【0040】
コンタクトバンド20に潤滑材(シリコーングリス)を塗布して摺動させる耐久試験によれば、10万回の摺動に耐える耐久性が得られることがわかった。なお、10万回の実験後は、コンタクトバンド20の表面が黒色化していたが、アルコール洗浄後はコンタクトバンド20の摩耗や劣化は観察されなかった。
【0041】
以上説明したように、本発明においては以下の効果を得られる。
(1)コンタクトバンド20を使用することにより、繰り返し摺動に対して安定した耐久性を得られる。
(2)コンタクトバンド20は弾性により簡単に芯金に装着できる。
(3)全体回路を2個の分流回路に分けることができるので、各回路での温度上昇を防ぐことができる。
(4)可動接点台12の後端面と芯金17の先端面間、及び、スリーブ13の後端と固定端子部36との間にそれぞれギャップg、gを持たせることにより、各部材間の接触抵抗を安定化できる。
(5)コネクタオフ時にも、スリーブ13とコンタクトバンド20とを接触させて両者を常に同電位にすることにより、不用意な回路遮断時に両電極の接点間にのみスパークが発生し、スリーブ13と弾性導電部材20間にはスパークが発生しない。
【0042】
次に、図5〜図7を参照して、本発明の第2の実施の形態に係るバットコンタクト式コネクタを説明する。
この形態においては、コンタクトバンド20に変えて、中空断面を有するリング状コイルバネ70を使用する。これに伴って、第1の形態とは芯金67の構造が異なる。図5、図6に示すように、接点11、可動接点台12、スリーブ13、バネ19、インシュレータ30、固定端子部36の構造・作用は、図1のバットコンタクト式コネクタと同じである。
【0043】
この例のリング状コイルバネ70は、斜め巻きされたコイルバネである。通常のバネは荷重を巻き方向(長さ方向)から受けるが、このコイルバネ70は、荷重を巻きの径方向から受ける。そして、通常の使用範囲内の撓み率に対して、スプリング力がほとんど変化しない。つまり、安定した接点圧を得ることができる。
【0044】
芯金67は、第1の例と同様に、導電性材料(例えば、銅又は銅合金製)で作製された棒状部材であり、図5、図6に示すように、固定端子部36の端面に立設されており、先端方向へ突き出してスリーブ13の内孔に挿入されている。図7に示すように、芯金67は、固定端子部36側の基部67と、先端側の先端部67bとを有し、両部間には、軸方向に並んだ2列の凹部67cが形成されている。各凹部67cにコイルバネ70が嵌め込まれる。コイルバネ70間には、スペーサ71(例えば、アルミニウムまたは銅合金製)が介されている。
【0045】
この芯金17に装着されたコイルバネ70は、図5に示すように、リング断面の弾性潰れによって、芯金67の外面とスリーブ13の内面との間に突っ張るように接触している。なお、コイルバネ70は、芯金67の先端から嵌め込むことにより、簡単に装着できる。
【0046】
なお、第1の実施の形態と同様に、可動接点台12の後端面と芯金67の先端面間、及び、スリーブ13の後端と固定端子部36との間にはギャップが存在する。また、コネクタオフ時には、後側のコイルバネ70とスリーブ13後端面との間に距離が存在し、スリーブ13とコイルバネ70とを接触させて両者を常に同電位に保持している。
【0047】
この態様においても、第1の態様と同様の効果が得られる。さらに、コンタクトバンド20に変えてコイルバネ70を使用することにより、より耐久性を向上させることが可能である。ただし、コイルバネ70の方が高価であるため、コンタクトバンド式に比べてコストアップする問題がある。
【0048】
次に、図8を参照して本発明の第3の実施の形態に係るバットコンタクト式コネクタについて説明する。
上記第1、第2の実施の形態のコネクタは電力供給用に使用されるものであったが、電力供給と信号伝達とを行うコネクタに適用することもできる。つまり、図8に示すように、レセプタクル81のインシュレータ82に、メス側電極10(図1、図5参照)が収容されるとともに、オス・メス嵌合式のコネクタである信号伝達用の電極83を収容することもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 コネクタ
10 メス側電極 11 接点
12 可動接点台 13 スリーブ
14 フランジ 15 段部
17 芯金 17a 基部
17b 先端部 17c 中央部
19 バネ
20 弾性導電部材(コンタクトバンド) 21 端部
22 胴部 22a 金属片(ルーバー)
22b 細長の孔
30 インシュレータ 31 前側インシュレータ
32 後側インシュレータ 34a 小径孔
34b 大径孔 34c 段部
36 固定端子部
40 金属薄板 41 細長の孔
42 細長の金属片
67 芯金 70 コイルバネ(斜め巻きコイルスプリング)
71 スペーサ 81 レセプタクル
82 インシュレータ 83 信号伝達用電極
110 オス側電極 111 オス側接点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インシュレータに形成された孔の中を進退するとともに、先端部に接点を有するメス側電極、及び、
該メス側電極の接点(メス側接点)に押し当てられる接点を有するオス側電極、
を備えるバットコンタクト式コネクタであって、
前記メス側電極が、
前記メス側接点を先端部に保持し、前記インシュレータの孔の中を軸方向に進退する筒状のスリーブと、
該スリーブを先端方向に付勢するバネと、
前記スリーブの内孔に先端部が挿入されており、後端部において電路と接続されている芯金と、
該芯金の外面に装着された、前記スリーブの内孔に押し当てられるように接触する、径方向の弾性を有する弾性導電部材と、
を具備することを特徴とするバットコンタクト式コネクタ。
【請求項2】
前記弾性導電部材が、所定の長さを有するCリング状のバンドであって、軸方向中央部に径方向外側に膨らんだ胴部を有することを特徴とする請求項1に記載のバットコンタクト式コネクタ。
【請求項3】
前記弾性導電部材が、中空断面を有するリング状のコイルバネであることを特徴とする請求項1に記載のバットコンタクト用コネクタ。
【請求項4】
前記スリーブを付勢するバネが高導電性材質で作製され、
該スリーブ付勢バネの先端が、前記スリーブ先端に当接するとともに、後端が電路に当接し、これにより、前記接点から前記スリーブ及びスリーブ付勢バネを通って前記電路に至る第2の導通回路が形成され、
該第2の導通回路が、分流比が回路全体の10〜40%の分流回路を形成することを特徴とする請求項1、2又は3に記載のバットコンタクト式コネクタ。
【請求項5】
コネクタオン時において、
前記スリーブ内孔の先端面と前記芯金の先端面との間にギャップg1が存在し、
前記スリーブの後端と前記電路との間にギャップg2が存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のバットコンタクト用コネクタ。
【請求項6】
コネクタオフ時において、
前記弾性導電部材と前記スリーブとの接触面と、前記スリーブの後端面との間に所定の距離Lが存在することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のバットコンタクト用コネクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−23259(P2011−23259A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168484(P2009−168484)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000145183)株式会社七星科学研究所 (14)