説明

バナジン酸塩の合成法

【課題】量産性の高い新規のバナジン酸塩の合成法を提供する。
【解決手段】室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末とを接触させることのみによりRbCOとVとを固相反応させて結晶性のRbVOを得た。室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末とを接触させることのみによりCsCOとVとを固相反応させて結晶性のCsVOを得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バナジン酸塩の合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
バナジン酸塩であるCsVOとRbVOは、母体発光を示す高効率な蛍光体材料であることが知られている(非特許文献1)。そして、最近、この蛍光体材料が希土類を含まない蛍光材料としては異常に高い蛍光量子効率(CsVO:87%、RbVO:79%)を示すことと、連続的な真空紫外線照射を行うことによりこの材料を有機基板上で室温製膜できることが明らかになった(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Zeitscrift fuer Physik, 147, 350-360 (1957)
【非特許文献2】Direct Fabrication of Metavanadate Phosphor Films on Organic Substrates for White Light Emitting Devices, T. Nakajima, M. Isobe, T. Tsuchiya, Y. Ueda and T. Kumagai; Nature Materials 7 (2008) 735
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、真空紫外線照射装置は、特殊かつ高価な装置であり量産性は全くない。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、量産性の高い新規のバナジン酸塩の合成法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するため種々検討した結果、室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末とを接触させるだけで固相反応が進行し、結晶性のバナジン酸塩が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明のバナジン酸塩の合成法は、室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末とを接触させることのみによりRbCOとVとを固相反応させて結晶性のRbVOを得ることを特徴とする。
【0008】
また、室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末とを接触させることのみによりCsCOとVとを固相反応させて結晶性のCsVOを得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、量産性の高い新規のバナジン酸塩の合成法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】RbCO粉末とV粉末を接触させたときの写真である。
【図2】室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を接触させてから5分、15分、45分、60分、6時間経過したときに波長365nmの紫外線を照射して撮影した写真である。
【図3】室温、アルゴン雰囲気下でRbCO粉末とV粉末を接触させてから5分、15分、45分、60分経過したときに波長365nmの紫外線を照射して撮影した写真である。
【図4】室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を混合した後のX線回析パターンである。
【図5】室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を混合した後のSEM画像である。
【図6】室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を混合することにより得られたRbVOの励起スペクトルと発光スペクトルである。
【図7】室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を混合することにより得られたRbVOの蛍光発光の色度図である。
【図8】RbCO粉末とV粉末を水で混合して作成したスラリーをプラスチック基板に塗布し、室温、空気中で乾燥させることによって得られたRbVOの薄膜の写真である。
【図9】室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末を混合した後のX線回析パターンである。
【図10】室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末を混合することにより得られたCsVOの励起スペクトルと発光スペクトルであり、図6のRbVOの励起スペクトルと発光スペクトルに重ねて示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のバナジン酸塩の合成法は、室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末とを接触させることのみによりRbCOとVとを固相反応させて結晶性のRbVOを得るものである。
【0012】
また、室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末とを接触させることのみによりCsCOとVとを固相反応させて結晶性のCsVOを得るものである。
【0013】
この固相反応は、室温、空気中において、RbCO粉末とV粉末、或いはCsCO粉末とV粉末を接触させることのみにより開始、進行し、その他の操作を必要としない。
【0014】
なお、RbCO粉末とV粉末とを接触させるときに、或いは、CsCO粉末とV粉末とを接触させるときに、若干量の水を添加することにより、RbCOとVとの固相反応、或いは、CsCOとVとの固相反応を促進させることができる。
【0015】
このように、本発明によれば、従来の合成法とは異なり焼成を要せず、容易にバナジン酸塩を合成することができる。本発明は、蛍光体材料のほか、例えば、触媒、顔料、電極材料など、ほかの材料分野への展開も期待される。
【0016】
また、RbCO粉末とV粉末、或いは、CsCO粉末とV粉末を水で混合して作成したスラリーを基板に塗布し、室温で乾燥させることで、結晶性のRbVO、或いは、結晶性のCsVOの薄膜を得ることができる。すなわち、真空紫外線照射装置などの真空系装置を用いなくとも、通常の塗布法により蛍光体材料の薄膜を得ることができる。このようにして得られた薄膜は、フレキシブル照明、太陽電池用波長変換膜などへの応用が可能であると考えられる。
【0017】
一般的に、無機蛍光体の合成には、通常のセラミックス材料と同様に熱処理が必要であり、室温において結晶性の蛍光体材料を特別なプロセスなしに結晶化させた例は知られていない。
【0018】
以下、具体的な実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0019】
図1に示すように、室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末とを接触させた。波長365nmの紫外線を照射しながら観察したところ、図2に示すように、RbCO粉末とV粉末の接触界面から蛍光が観察され、RbCOとVとの固相反応が進行していることが確認された。なお、室温、アルゴン雰囲気下でRbCO粉末とV粉末とを接触させた場合には、図3に示すように、RbCO粉末とV粉末の接触界面から蛍光は観察されなかった。
【0020】
室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を混合した後のX線回析パターンを図4に示す。シミュレーションしたパターンと比較すると、それぞれのピークが合致しており、結晶性のRbVOが単一相で生成したことが確認された。
【0021】
室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を混合した後のSEM画像を図5に示す。平均粒径1μm以下の微粒子が得られたことが確認された。
【0022】
室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を混合することにより得られたRbVOの励起スペクトルと発光スペクトルを図6に示す。近紫外線により励起されて視感度の高い緑色領域に中心を持つブロードな発光波長の白色発光を示した。
【0023】
室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末を混合することにより得られたRbVOの蛍光発光の色度図を図7に示す。やや黄緑色領域であるが、白色領域に値を示した。
【実施例2】
【0024】
RbCO粉末とV粉末を水で混合して作成したスラリーをプラスチック基板に塗布し、室温、空気中で乾燥させた。
【0025】
得られたRbVOの薄膜の写真を図8に示す。基板を折り曲げても薄膜が剥離することがなかった。
【実施例3】
【0026】
室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末とを接触させた。実施例1と同様に、結晶性のCsVOが得られた。
【0027】
室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末を混合した後のX線回析パターンを図9に示す。RbVOの場合と比較して反応がやや遅く原料が少し残っているため原料のピークも観察されたが、シミュレーションしたパターンと比較したところ、結晶性のCsVOが主相で生成したことが確認された。
【0028】
室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末を混合することにより得られたCsVOの励起スペクトルと発光スペクトルを図10に示す。近紫外線により励起されて視感度の高い緑色領域に中心を持つブロードな発光波長の白色発光を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温、空気中においてRbCO粉末とV粉末とを接触させることのみによりRbCOとVとを固相反応させて結晶性のRbVOを得ることを特徴とするバナジン酸塩の合成法。
【請求項2】
室温、空気中においてCsCO粉末とV粉末とを接触させることのみによりCsCOとVとを固相反応させて結晶性のCsVOを得ることを特徴とするバナジン酸塩の合成法。

【図4】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−16670(P2011−16670A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160521(P2009−160521)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年年会講演予稿集 平成21年3月16日 社団法人日本セラミックス協会発行
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】