説明

バラスト水の処理装置

【課題】噴流とキャビテーションという効果的な機械的殺滅によりオゾン使用量を削減できるバラスト水の処理装置を提供すること。
【解決手段】バラスト水をバラストタンク2に供給する主処理ラインに、該バラスト水を噴流と為す水噴射ノズルと該噴流が当たってキャビテーションを生じさせる衝撃板とを有する噴流発生手段を備え、且つ該噴流発生手段の前方又は後方にオゾン供給部14を配設することを特徴とするバラスト水の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水の処理装置に関し、詳しくは、噴流とキャビテーションという効果的な機械的殺滅によりオゾン使用量を削減できるバラスト水の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油等を輸送する貨物用船舶には、航行時の船体の安定性を保つためにバラストタンクが設けられている。通常、原油等が積載されていないときには、バラストタンク内をバラスト水で満たし、原油等を積み込む際にバラスト水を排出することにより、船体の浮力を調整し、船体を安定化させている。
【0003】
このようにバラスト水は、船舶の安全な航行のために必要な水であり、通常、荷役を行う港湾の海水が利用される。その量は、世界的にみると年間100億トンを超えるといわれている。
【0004】
ところで、バラスト水中には、それを取水した港湾に生息する微生物や小型・大型生物の卵が混入しており、船舶の移動に伴い、これら微生物や小型・大型生物の卵が同時に異国に運ばれることになる。
【0005】
従って、もともとその海域には生息していなかった生物種が、既存生物種に取って代わるといった生態系の破壊が深刻化している。
【0006】
このような背景の中、国際海事機関(IMO)の外交会議において、バラスト水処理装置等に係る定期的検査の受検義務が採択され、2009年以降の建造船から適用される予定となっている。
【0007】
また、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための条約(以下、条約という)により、バラスト水の排出基準は、以下の表1のようになる予定である。
【0008】
【表1】

【0009】
このため、バラスト水の排出時に外洋に存在する微生物数の100分の1程度まで殺菌あるいは除菌することが必要となっている。
【0010】
以上のような背景から、上記のような問題を解決できるバラスト水の殺菌/除菌技術の開発が急務となっている。
【0011】
従来、プランクトンを含む水の殺菌・除菌技術としては、物理的手法として特許文献1に記載の技術が知られている。
【0012】
また、オゾンを用いた化学的手法として、特許文献2に記載の技術が知られている。
【特許文献1】特開2000−229285号公報
【特許文献2】特開2004−160437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1は、プランクトンを含む水を、噴流にして衝撃板に衝突させて、水中の微生物を破壊して殺減する技術である。
【0014】
しかし、特許文献1は、バラスト水の処理に関しては開示しておらず、また一部微生物や菌体を破壊して殺減することができない欠点がある。
【0015】
特許文献2の技術では、オゾン使用量が多くなる問題があり、オゾンの削減が求められる。
【0016】
そこで、本発明の課題は、噴流とキャビテーションという効果的な機械的殺滅によりオゾン使用量を削減できるバラスト水の処理装置を提供することにある。
【0017】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0019】
(請求項1)
バラスト水をバラストタンクに供給する主処理ラインに、該バラスト水を噴流と為す水噴射ノズルと該噴流が当たってキャビテーションを生じさせる衝撃板とを有する噴流発生手段を備え、且つ該噴流発生手段の前方又は後方にオゾン供給部を配設することを特徴とするバラスト水の処理装置。
【0020】
(請求項2)
前記オゾン供給部は、オゾン含有バラスト水製造手段に連結されており、該オゾン含有バラスト水製造手段は、バラスト水を導入した反応タンクと、該反応タンク内のバラスト水を加圧する加圧手段と、加圧された反応タンクにオゾンを供給するオゾン供給手段とからなり、該反応タンク内のオゾン溶解濃度は1〜200ppmの範囲に調整されることを特徴とする請求項1記載のバラスト水の処理装置。
【0021】
(請求項3)
前記オゾン含有バラスト水製造手段から供給されるオゾン含有バラスト水量と主処理ラインのバラスト水量の比が1:5〜1000の範囲であることを特徴とする請求項2記載のバラスト水の処理装置。
【0022】
(請求項4)
前記主処理ラインに、前記噴流発生装置の後方に、前記バラストタンクに供給されるバラスト水を滞留させて殺菌を行う殺菌タンクを有し、
前記反応タンク内のオゾン含有バラスト水を主処理ラインに供給する配管が、前記殺菌タンクに接続されることを特徴とする請求項2又は3記載のバラスト水の処理装置。
【0023】
(請求項5)
前記反応タンクが、0.1〜2MPa(1〜20kgf/cm)に加圧されることを特徴とする請求項2、3又は4記載のバラスト水の処理装置。
【発明の効果】
【0024】
請求項1、2記載の発明によれば、主処理ラインに設けた噴流発生装置の噴流とキャビテーション作用により微生物等の効果的な殺滅ができるので、オゾン消費量を減少できるバラスト水の処理装置を提供することができる。
【0025】
請求項3記載の発明によれば、前記オゾン含有バラスト水製造手段から供給されるオゾン含有バラスト水量と主処理ラインのバラスト水量の比が1:5〜1000の範囲であるため、主処理ラインへのオゾン量を大幅に低減できるバラスト水の処理装置を提供できる。
【0026】
請求項4記載の発明によれば、前記主処理ラインに殺菌タンクを有することにより、殺菌が充分に行えるバラスト水の処理装置を提供できる。
【0027】
請求項5記載の発明によれば、前記反応タンクが、0.1〜2MPa(1〜20kgf/cm)に加圧されることにより、オゾン溶解量が増大し、反応タンク内でのバラスト水の殺菌のみならず、残留オゾンが主処理ラインでも殺菌に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0029】
図1は、本発明に係るバラスト水の処理装置の概要を示す構成図である。
【0030】
図中、主処理ラインは、海水又は淡水からなるバラスト水(本実施の形態では海水について説明する。)を取水する取水配管1と、取水したバラスト水をバラストタンク2に移送するポンプ3を基本的に備えている。
【0031】
4は取水配管1の途中に設けられた噴流発生装置である。噴流発生装置4は、図2に示すように、水噴射ノズル41と衝撃板42によって構成されている。
【0032】
水噴射ノズル41の形状は、特に限定されないが、図示の例のように絞り部410と拡開部411を有する形態が好ましい。かかる絞り部410によって取水配管1を流れる水は一旦絞られ、次いで拡開部411によって水流は噴射するように流れる。即ち噴流が形成される。この形態では絞り部410が噴流の始点となる。
【0033】
衝撃板42は、支持基板420に接設され、該支持基板420に設けられた支持部材421によって挟持されている。該衝撃板42は着脱可能に固定されることが好ましい。なお、支持部材421は水の流れ方向の噴流の圧力があるので必ずしも設ける必要はない。
【0034】
衝撃板42の大きさは、配管1の内径より小さく形成され、外周あるいは上下(又は左右)から水を通過可能となるように形成されることが好ましい。支持基板420には衝撃板42の外周または上下(又は左右)から通過した水を図面上右側の配管1に流れるようにするための間隙422が形成されている。43はレジューサーである。
【0035】
衝撃板42は、図3に示すように方形状(例えば正方形)に形成し、外周の4方向に水の流れる部位423が形成されてもよいし、図4に示すように上下方向に水の流れる部位423が形成されてもよい。
【0036】
図3において、衝撃板42を固定する手段の他の例を説明する。水の流れ方向は図の前面から背面に向う方向である。正方形の衝撃板42の4角に位置決め金具424を設け、衝撃板42の背面に支持梁420を対角線に交差するように設ける。この例は図2の支持基板420に代えて支持梁420を設けた例である。
【0037】
水噴射ノズル41で形成される噴流の始点である絞り部410と衝撃板42の距離はキャビテーションと衝撃による殺滅が効果的に発生するように適宜設定される。
【0038】
上記の態様において、水噴射ノズル41により噴流を形成することにより、急激な圧力変化を与えると、キャビテーションを発生させることができるので、バラスト水中のプランクトン等の微生物を破壊し、殺減する。
【0039】
また、バラスト水がポンプ3の駆動によって取水配管1内から水噴射ノズル41に、例えば20〜30m/secで移送されると、衝撃板42にぶつかり、噴流による高い圧力と負圧と言った急激な圧力変化と衝撃板42への衝突による急激な衝撃力と摩擦力により、バラスト水に含まれるプランクトン等の微生物の気胞や細胞壁を破壊して殺減する。
【0040】
噴流発生装置4は、上述の態様に限定されず、ノズルを複数個対向させたり、角度を持たせたりして、キャビテーションの効果を増大させてもよく、また、衝撃板の表面形状を凹状又は凹凸状にすることにより、同様にキャビテーションの効果を増大させることが可能となり、キャビテーション効果の増大に伴って殺減効果を高めることができる。
【0041】
バラストタンク2には、このように取水配管1内を通って噴流発生装置4を通過することにより、バラスト水中の微生物が破壊され、殺減されたバラスト水が供給される。
【0042】
このように取水配管1を通ってバラストタンク2に供給されるバラスト水の供給ラインによって主処理ラインが構成される。
【0043】
一方、港湾等から取水されたバラスト水(海水又は淡水)は、上記主処理ラインとは別の取水配管5の途中にオゾン含有バラスト水製造手段を有しており、該オゾン含有バラスト水製造手段は、バラスト水を導入した反応タンク8と、該反応タンク8内のバラスト水を加圧する加圧手段(例えば、ポンプ6)と、加圧された反応タンク8にオゾンを供給するオゾン供給手段(図示せず)を少なくとも備えている。
【0044】
取水配管5の途中には静的混合器7(例えばラインミキサー、スタティックミキサー)が設けられており、この静的混合器7には、図示しないオゾン供給手段の一態様であるオゾン生成装置により生成されたオゾンが供給されることで、ポンプ6によって移送される取水配管5内のバラスト水中にオゾンを混入するようになっている。
【0045】
静的混合器7によってオゾンが混入されたバラスト水は反応タンク8に貯留され、該反応タンク8においてバラスト水中にオゾンを溶解させる。
【0046】
この反応タンク8内のバラスト水中のオゾン溶解濃度は1〜200ppmの高濃度の範囲に調整される。
【0047】
反応タンク8は、排オゾンを排出して除去するための排オゾン管9を有しており、弁10によって開閉されるようになっている。排オゾン管9を通って排出されたオゾンは、図示しないオゾン吸着装置等によってオゾンが除去されて排気される。
【0048】
反応タンク8内のオゾンが溶解したバラスト水は、弁12によって開閉される排出管11を通って排出され、主処理ラインのオゾン供給部14に供給されるように構成されている。
【0049】
反応タンク8には、各弁10、12が閉じた状態でポンプ6の圧力によって取水配管5を通ってバラスト水を圧送し、該バラスト水を加圧状態で貯留する。このように加圧すると、反応タンク8内におけるバラスト水中のオゾン溶解量を増大させることができるために好ましい。好ましい加圧条件は、0.1〜2MPa(1〜20kgf/cm)である。
【0050】
主処理ラインのオゾン供給部14の位置は、図1では、噴流発生装置4の前方(上流)に接続されている。排出管11を噴流発生装置4の前方に接続することで、噴流発生装置4を通過する前のバラスト水中の微生物をオゾンによって殺菌することができるため、噴流発生装置4の負荷を軽減することができる。
【0051】
ここで、排出管11によって主処理ラインの取水配管1に供給する反応タンク8内のオゾン含有バラスト水量と主処理ラインの取水配管1内を流れるバラスト水量の比が1:5〜1000の範囲となるように調整される。すなわち、ポンプ3の駆動によって取水配管1内を移送される主処理ライン中のバラスト水の水量に対し、反応タンク8から排出管11を通って移送されるオゾン含有バラスト水の水量が1/5〜1/1000となるように調整される。排出管11内のバラスト水の流量は、弁12を適宜調整することによって調整することができる。
【0052】
これにより、主処理ラインの取水配管1内をバラストタンク2に向けて流れるバラスト水中に、反応タンク8内のオゾン含有バラスト水の1/5〜1/1000の濃度のオゾンが供給されることになる。
【0053】
従って、取水配管1内を流れるバラスト水中において噴流発生装置4によって殺減されない大きさの微生物や菌体は、反応タンク8から排出管11を通って供給されるこのオゾン含有バラスト水によって殺菌される。
【0054】
主処理ラインの取水配管1内のバラスト水に対して、排出管11によって反応タンク8内の高濃度のオゾン含有バラスト水を供給すればよいため、噴流発生装置4を用いた破壊による主処理ラインに大きな改変を要することなくそのまま利用することができる。
【0055】
また、高濃度のオゾン溶解水を生成する反応タンク8は主処理ラインとは別ラインで設けられる態様では、主処理ラインに排オゾンを除去するための排気手段を設ける必要がなく、従って、本装置によれば、バラストタンク2に低コストでオゾン溶解水を供給することができるようになる。
【0056】
主処理ラインの取水配管1の途中には、図1に示すように、反応タンク8から排出管11を通って供給されるオゾン含有バラスト水による殺菌効果を促進させるため、殺菌タンク13を設け、バラストタンク2の手前で一旦滞留させることが好ましい。
【0057】
なお、反応タンク8から主処理ラインの取水配管1にオゾン含有バラスト水を供給する排出管11は、噴流発生装置4の後方(下流)に接続することもできる。主処理ラインに上記殺菌タンク13を設けている場合、この殺菌タンク13に接続する態様とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るバラスト水の処理装置の概要を示す構成図
【図2】本発明に用いられる噴流発生装置の一例を示す断面図
【図3】本発明に用いられる噴流発生装置の他の例を示す断面図
【図4】本発明に用いられる噴流発生装置の他の例を示す断面図
【符号の説明】
【0059】
1:取水配管
2:バラストタンク
3:ポンプ
4:噴流発生装置
41:水噴射ノズル
42:衝撃板
5:取水配管
6:ポンプ
7:静的混合器
8:反応タンク
9:排オゾン管
10:弁
11:排出管
12:弁
13:殺菌タンク
14:オゾン供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト水をバラストタンクに供給する主処理ラインに、該バラスト水を噴流と為す水噴射ノズルと該噴流が当たってキャビテーションを生じさせる衝撃板とを有する噴流発生手段を備え、且つ該噴流発生手段の前方又は後方にオゾン供給部を配設することを特徴とするバラスト水の処理装置。
【請求項2】
前記オゾン供給部は、オゾン含有バラスト水製造手段に連結されており、該オゾン含有バラスト水製造手段は、バラスト水を導入した反応タンクと、該反応タンク内のバラスト水を加圧する加圧手段と、加圧された反応タンクにオゾンを供給するオゾン供給手段とからなり、該反応タンク内のオゾン溶解濃度は1〜200ppmの範囲に調整されることを特徴とする請求項1記載のバラスト水の処理装置。
【請求項3】
前記オゾン含有バラスト水製造手段から供給されるオゾン含有バラスト水量と主処理ラインのバラスト水量の比が1:5〜1000の範囲であることを特徴とする請求項2記載のバラスト水の処理装置。
【請求項4】
前記主処理ラインに、前記噴流発生装置の後方に、前記バラストタンクに供給されるバラスト水を滞留させて殺菌を行う殺菌タンクを有し、
前記反応タンク内のオゾン含有バラスト水を主処理ラインに供給する配管が、前記殺菌タンクに接続されることを特徴とする請求項2又は3記載のバラスト水の処理装置。
【請求項5】
前記反応タンクが、0.1〜2MPa(1〜20kgf/cm)に加圧されることを特徴とする請求項2、3又は4記載のバラスト水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−218458(P2006−218458A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36844(P2005−36844)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】