説明

バリアフリー対応多段式駐車装置

【課題】車の収容台数を減らすことなく、かつ設置面積を広げることなく、車椅子を使用して入出庫するバリアフリーに対応することができるバリアフリー対応多段式駐車装置を提供する。
【解決手段】車が入出庫する入出庫段10と、入出庫段より上方に車を収容する上段20とからなる。上段20に車の幅方向に隣接して配置され、その上に車をそれぞれ載せ、入出庫段10まで独立して昇降可能な複数の上段パレット22(22A,22B,22C)と、入出庫段に位置する上段パレットの下方に設けられたスラットコンベヤ12とを備える。スラットコンベヤ12は、隣接する2台分以上の上段パレットの範囲内で、パレットなしで車を幅方向に水平移動可能であり、かつその上面高さが入出庫段10の床面11と同一に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部をバリアフリー対応駐車スペースとするバリアフリー対応多段式駐車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、地上2段の従来の多段式駐車装置の作動説明図である。この図において、この駐車装置の地上2段目には3台の車a,b,c、地上1段目(入出庫段)には2台の車d,eが収容される。各車はそれぞれパレットP上に載せられ、地上2段目のパレットPはそれぞれ独立して入出庫段まで昇降でき、入出庫段のパレットPは独立して水平に移動できるようになっている。
【0003】
図1において、入出庫段の車d,eの入出庫はパレットPを作動させることなくそのまま入出庫できる。
2段目の車cを出庫させる場合には、車cのパレットPが下降して、入出庫段でパレットPから出庫する。2段目の車a又はbを出庫させる場合には、1段目のパレットPが右に横行し、次いで車a又はbのパレットPが下降して、入出庫段でパレットPから出庫する。
入庫の際は、逆に作動し、地上1段目(入出庫段)にある空のパレット上に車が入庫する。
従って、図1の例で、入出庫段に1台分の空領域を設けることで、5台の車を収容することができる。
【0004】
一方、従来の機械式駐車装置において、例えば車椅子を使用してパレット上の車両への乗り降りを可能にした駐車装置(以下「バリアフリー対応駐車装置」と呼ぶ)が要望されている。
【0005】
上述した多段式駐車装置は、例えば特許文献1に記載されている。また、バリアフリー対応駐車装置は、例えば、特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−115674号公報、「二・多段式駐車装置の横行装置と横行ガイド装置」
【特許文献2】特開2008−8010号公報、「機械式駐車設備」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バリアフリー対応駐車装置では、入出庫口において、例えば車椅子を使用して車両へ容易に乗り降りできるように、以下の要件を満たす必要がある(国土交通省令第116号)。
(1)入出庫口が平面であること。
(2)入出庫口の駐車スペースの両側にバリアフリー対応スペース(1.4m以上のスペース)があること。
(3)入出庫口と地上との間に段差(20mm以上の)がないこと。
【0008】
上述した従来の多段式駐車装置において、要件(1)を満たすため、地上1段目(入出庫段)に上面を平面にしたパレット(以下「平面パレット」と呼ぶ)を適用することは可能である。
【0009】
しかし、地上1段目(入出庫段)の2台のパレットを「平面パレット」に置き換え、一方に車を載せ、他方を車椅子の乗り降りに用いても、入出庫口の駐車スペースの片側にしかバリアフリー対応スペースができず、要件(2)を満たすことができない。
そのため、要件(2)を満たすためには、地上1段目(入出庫段)のパレットを3台以上に設定し、そのうち3台の「平面パレット」の中央を駐車スペースにする必要が生じ、従来の多段式駐車装置に比較して収容台数が2台分少なくなる。
【0010】
また、仮に、地上1段目(入出庫段)の1台のパレットを「平面パレット」に置き換え、その平面パレットを2台分の駐車スペースの中央に停止させれば、その両側にバリアフリー対応スペース(1.4m以上のスペース)を設けることはできる。
しかし、その場合、パレットの厚さは、通常100mm以上であり、かつパレットを水平移動させるために、レールや車輪を必要とするため、パレットの上面と地上との間に少なくとも100mm以上の段差ができる。そのため、上記要件の(3)を満たすことができない。
【0011】
上述したように、従来の多段式駐車装置は、バリアフリーに対応することが困難であり、かつ仮にできたとしても、収容台数が少なくなる問題点があった。
また、逆に収容台数を維持したままバリアフリーに対応する場合には、地上1段目(入出庫段)の少なくとも1台のパレット幅を大幅に広げる必要が生じ、その分全体の設置面積が広くなり、土地の狭い所では対応できない問題点があった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、車の収容台数を減らすことなく、かつ設置面積を広げることなく、車椅子を使用して入出庫するバリアフリーに対応することができるバリアフリー対応多段式駐車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、車が入出庫する入出庫段と、該入出庫段より上方に車を収容する上段とからなり、
前記上段に車の幅方向に隣接して配置され、その上に車をそれぞれ載せ、前記入出庫段まで独立して昇降可能な複数の上段パレットと、
前記入出庫段に位置する上段パレットの下方に設けられたスラットコンベヤとを備え、
前記スラットコンベヤは、隣接する2台分以上の上段パレットの範囲内で、パレットなしで車を幅方向に水平移動可能であり、かつその上面高さが入出庫段の床面と同一に設定されている、ことを特徴とするバリアフリー対応多段式駐車装置が提供される。
【0014】
本発明の実施形態によれば、前記スラットコンベヤは、車の前輪用コンベヤと後輪用コンベヤとからなる。
【0015】
また、前記入出庫段に、前記スラットコンベヤに隣接して配置された下段パレットを備え、
前記下段パレットは、その上に車を載せ、前記スラットコンベヤの上方を幅方向に水平移動可能であり、その案内レールの上面高さが入出庫段の床面と同一に設定されている。
【0016】
また、本発明によれば、車が入出庫する入出庫段と、該入出庫段より上方に車を収容する上段とからなり、
前記上段に車の幅方向に隣接して配置され、その上に車をそれぞれ載せ、前記入出庫段まで独立して昇降可能な複数の上段パレットと、
前記入出庫段に位置する上段パレットの下方に設けられたスラットコンベヤとを備え、
前記スラットコンベヤは、隣接する2台分以上の上段パレットの範囲内で、パレットなしで車を幅方向に水平移動可能であり、かつその上面高さが入出庫段の床面と同一に設定されているバリアフリー対応多段式駐車装置の制御方法であって、
前記スラットコンベヤの上面中央に車を入出庫させて、スラットコンベヤ上の駐車スペースの両側にバリアフリー対応のスペースを確保し、
次いで、スラットコンベヤ上の車が隣接する上段パレットの真下に位置するように、スラットコンベヤを作動させる、ことを特徴とするバリアフリー対応多段式駐車装置の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の装置及び方法によれば、入出庫段に位置する上段パレットの下方に設けられたスラットコンベヤが、隣接する2台分以上の上段パレットの範囲内で、パレットなしで車を幅方向に水平移動可能であり、かつその上面高さが入出庫段の床面と同一に設定されているので、スラットコンベヤの上面中央に車を入出庫させることにより、スラットコンベヤ上の駐車スペースの両側にバリアフリー対応スペースを確保することができる。
また、スラットコンベヤの上面は、水平な平面であるので、バリアフリー対応の入出庫口を平面にできる。
さらに、スラットコンベヤの上面高さが入出庫段の床面と同一に設定されているので、バリアフリー対応の入出庫口と地上との段差を実質的に0にすることができる。
【0018】
従って、本発明によれば、車の収容台数を減らすことなく、かつ設置面積を広げることなく、車椅子を使用して入出庫するバリアフリーに対応することができる。

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の多段式駐車装置の作動説明図である。
【図2】本発明によるバリアフリー対応多段式駐車装置の全体構成図である。
【図3】本発明によるバリアフリー対応多段式駐車装置の作動説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0021】
図2は、本発明によるバリアフリー対応多段式駐車装置の全体構成図である。この図において、(A)は正面図、(B)は入出庫段の平面図である。
【0022】
この例において、本発明のバリアフリー対応多段式駐車装置は、車が入出庫する入出庫段10と、入出庫段10より上方に車を収容する上段20とからなる。上段20は、この例では1段のみであるが、2段以上であってもよい。
【0023】
上段20には、複数(この例で3基)の上段パレット22(22A,22B,22C)が、車の幅方向(図で左右)に隣接して配置されている。上段パレット22は、その上に車a,b,cをそれぞれ載せ、入出庫段10まで独立して昇降可能に構成されている。上段パレット22の昇降機構は、例えば、チェーン、スプロケット、駆動モータ等により構成される。
なお同一高さ(同一段)における上段パレット22の数は、2基であっても、4基以上であってもよい。
【0024】
入出庫段10には、スラットコンベヤ12が設けられている。
スラットコンベヤ12とは、細長い平板(スラット)がチェーンコンベヤに水平に取り付けられ、その上面12aが水平であるコンベヤ装置である。
【0025】
この例でスラットコンベヤ12は、入出庫段10に位置する上段パレット22(即ち下降位置の上段パレット)の下方に位置し、その上面12aの高さが入出庫段10の床面11と同一に設定されている。
またスラットコンベヤ12は、隣接する2台分以上の上段パレット22の範囲内で、上面12aに車e(バリアフリー対応車)を直接載せてパレットなし(パレットレス)で車eを幅方向に水平移動できるようになっている。
【0026】
図2において、スラットコンベヤ12は、車eの前輪用コンベヤ13aと後輪用コンベヤ13bとからなる。前輪用コンベヤ13aと後輪用コンベヤ13bは、それぞれ独立に制御可能であり、スラットコンベヤ12の上に位置する車の姿勢(位置)を微調整できるようになっている。
なお、この構成は必須ではなく、前輪用コンベヤ13aと後輪用コンベヤ13bを一体のコンベヤとしてもよい。
また、この例で車d,eは、前進で入庫し後進で出庫するようになっているが、本発明はこれに限定されず、その逆でもよい。また、入庫と出庫の両方を前進でできるように、装置の前後に入出庫口を設けてもよい。
【0027】
図2において、本発明のバリアフリー対応多段式駐車装置は、さらに、入出庫段10に、スラットコンベヤ12に隣接して配置された下段パレット14と、図で幅方向に延び下段パレット14を案内する案内レール16とを備える。案内レール16の上面高さは、入出庫段10の床面11と同一に設定されている。
【0028】
下段パレット14は、図示しない車輪を有し、その上に車dを載せ、案内レール16に沿って、スラットコンベヤ12の上方を幅方向に水平移動可能になっている。
この場合、下段パレット14の上面(車dの走行面)は、パレットの厚さ及び図示しない車輪の存在により、下段パレット14の上面と床面11との間に段差(例えば50mm以上)ができる。
そのため、下段パレット14の入出庫側端部(図2(B)の下側)には、下段パレット14の上面と床面11との間で車dが容易に入出庫できるように、スロープ15が設けられている。なお、スロープ15の図で下端は、床面11と接触しないように僅かな隙間(例えば10mm以下)を設けるのがよい。
【0029】
上述した構成により、スラットコンベヤ12の上面12aは、水平な平面であり、かつ床面11及び案内レール16の上面と同一の高さとなり、バリアフリー対応車eはスラットコンベヤ12の上面12aに容易に入出庫できる。
【0030】
図3は、本発明によるバリアフリー対応多段式駐車装置の作動説明図である。この図において、(A)はバリアフリー対応の車eの入出庫時、(B)はその入出庫後を示している。
【0031】
図3(A)において、入出庫段の車d,eの入出庫はスラットコンベヤ12及びパレット14を作動させることなくそのまま入出庫できる。
本発明の制御方法では、この図に示すように、スラットコンベヤ12の上面中央にバリアフリー対応の車eを入出庫させて、スラットコンベヤ12上の駐車スペースの両側にバリアフリー対応スペースS(1.4m以上のスペース)を確保する。
【0032】
次いで、スラットコンベヤ12上の車eが隣接する上段パレット22B(又は22C)の真下に位置するように、スラットコンベヤを作動させて、図3(B)の状態となる。
【0033】
図3(B)において、2段目の車cを出庫させる場合には、車cのパレット22Cが下降して、入出庫段10でパレット22Cから出庫する。
2段目の車bを出庫させる場合には、スラットコンベヤ12により1段目の車eを右に横行し、次いで車bのパレット22Bが下降して、入出庫段10でパレット22Bから出庫する。
2段目の車aを出庫させる場合には、さらに1段目のパレット14を右に横行し、次いで車aのパレット22Aが下降して、入出庫段10でパレット22Aから出庫する。
【0034】
入庫の際は、逆の動作により、入出庫段10にある空のパレット22A,22B,22C上に車a,b,cが入庫する。
従って、この例で、入出庫段に1台分の空領域を設けることで、5台の車を収容することができる。
【0035】
上述した本発明の装置及び方法によれば、入出庫段10に位置する上段パレット22B,22Cの下方に設けられたスラットコンベヤ12が、隣接する2台分以上の上段パレット22B,22Cの範囲内で、パレットなしで車eを幅方向に水平移動可能であり、かつその上面高さが入出庫段10の床面11と同一に設定されているので、スラットコンベヤ12の上面中央に車eを入出庫させることにより、スラットコンベヤ上の駐車スペースの両側にバリアフリー対応スペースS(1.4m以上のスペース)を確保することができる。
また、スラットコンベヤ12の上面12aは、水平な平面であるので、バリアフリー対応の入出庫口を平面にできる。
さらに、スラットコンベヤ12の上面高さが入出庫段10の床面11と同一に設定されているので、バリアフリー対応の入出庫口と地上との段差を実質的に0にすることができる。
【0036】
例えば、上述の例で、5台の車a〜eを収容するバリアフリー対応多段式駐車装置の場合、上段20は3台の上段パレット22A,22B,22Cからなり、入出庫段10は2パレット分のスペースに設置された1台のスラットコンベヤ12と、これに隣接する1台の下段パレット14からなる。
この場合、スラットコンベヤ12の中央に車eを入出庫させることにより、車eの両側にバリアフリー対応スペースS(1.4m以上のスペース)を確保することができる。
【0037】
また、スラットコンベヤ12を用いることにより、バリアフリー対応の車eの入出庫高さ及び通路を完全な平面にすることができる。
またバリアフリー対応の車eの入出庫後に、スラットコンベヤ上の車eを左右に移動させることができるので、上段パレット22B,22Cが下降するスペースも確保することができる。
従って、従来の設置面積を広くすることなく一部をバリアフリー対応駐車スペースSとすることができる。
【0038】
従って、本発明によれば、2パレット分をスラットコンベア方式として直接車を横行移動できるようにその上に載せることにより、従来の間口寸法を広げることなく1ユニットに1台をバリアフリー対応にすることができる。
【0039】
なお本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
10 入出庫段、
12 スラットコンベヤ、12a 上面、
13a 前輪用コンベヤ、13b 後輪用コンベヤ、
14 下段パレット、15 スロープ、
16 案内レール、20 上段、
22(22A,22B,22C) 上段パレット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車が入出庫する入出庫段と、該入出庫段より上方に車を収容する上段とからなり、
前記上段に車の幅方向に隣接して配置され、その上に車をそれぞれ載せ、前記入出庫段まで独立して昇降可能な複数の上段パレットと、
前記入出庫段に位置する上段パレットの下方に設けられたスラットコンベヤとを備え、
前記スラットコンベヤは、隣接する2台分以上の上段パレットの範囲内で、パレットなしで車を幅方向に水平移動可能であり、かつその上面高さが入出庫段の床面と同一に設定されている、ことを特徴とするバリアフリー対応多段式駐車装置。
【請求項2】
前記スラットコンベヤは、車の前輪用コンベヤと後輪用コンベヤとからなる、ことを特徴とする請求項1に記載のバリアフリー対応多段式駐車装置。
【請求項3】
前記入出庫段に、前記スラットコンベヤに隣接して配置された下段パレットを備え、
前記下段パレットは、その上に車を載せ、前記スラットコンベヤの上方を幅方向に水平移動可能であり、その案内レールの上面高さが入出庫段の床面と同一に設定されている、ことを特徴とする請求項1に記載のバリアフリー対応多段式駐車装置。
【請求項4】
車が入出庫する入出庫段と、該入出庫段より上方に車を収容する上段とからなり、
前記上段に車の幅方向に隣接して配置され、その上に車をそれぞれ載せ、前記入出庫段まで独立して昇降可能な複数の上段パレットと、
前記入出庫段に位置する上段パレットの下方に設けられたスラットコンベヤとを備え、
前記スラットコンベヤは、隣接する2台分以上の上段パレットの範囲内で、パレットなしで車を幅方向に水平移動可能であり、かつその上面高さが入出庫段の床面と同一に設定されているバリアフリー対応多段式駐車装置の制御方法であって、
前記スラットコンベヤの上面中央に車を入出庫させて、スラットコンベヤ上の駐車スペースの両側にバリアフリー対応のスペースを確保し、
次いで、スラットコンベヤ上の車が隣接する上段パレットの真下に位置するように、スラットコンベヤを作動させる、ことを特徴とするバリアフリー対応多段式駐車装置の制御方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190610(P2011−190610A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57650(P2010−57650)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000198363)IHI運搬機械株式会社 (292)