説明

バリア性に優れた熱可塑性樹脂組成物

【課題】バリア性及び強度、耐衝撃性や伸び等の機械的特性に優れ、更に耐熱性にも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ジアミン構成単位の70モル%以上がメタキシリレンジアミン構成単位であり、ジカルボン酸構成単位の70モル%以上が炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸構成単位であるポリアミド樹脂(a−1)と、ナイロン11(a−2)からなり、(a−1)成分が5〜95質量%、(a−2)成分が95〜5質量%であるポリアミド樹脂組成物(A)100質量部と、2個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物(B)0.1〜10質量部、並びにタルク、炭酸カルシウム、マイカ、カオリン及びセラミックスから選択される1種以上の無機粒子(C)0.01〜5質量部からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性及び強度、耐衝撃性や伸び等の機械的特性、更に耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。詳しくは、特にアルコール含有燃料用の容器やチューブ、部品用材料として優れたバリア性及び耐熱性を有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料保存用容器やチューブには、軽量化、防錆処理不要化、形状の自由度向上、加工工数の削減や製造の全自動化などの面から、各種の樹脂素材が使用されている。特に、チューブやホース、燃料部品等の各種自動車部品には、ナイロン11やナイロン12等からなるポリアミドが使用されている。このポリアミドは、軽量で錆びの発生がなく、通常のガソリンに対する燃料バリア性も良好であり、これら用途に要求される優れた特性を兼ね備えていることから、広く用いられている。
しかし、近年、ガソリン資源の枯渇や環境保全の面から、ガソリンにエタノール等のアルコール類を添加した混合燃料を利用する検討が進められているが、ポリアミドはアルコール類に対するバリア性が著しく低いため、混合ガソリンの透過量は、通常のガソリンの透過量に比較して、50〜60倍に達する。そのため、今後ますます強化される規制に十分に応えてくことが困難であり、よりバリア性能を高めた材料が望まれている。
一方、熱可塑性樹脂にポリカルボジイミドを添加することで、耐熱性が向上することが知られている(特許文献1参照)。また、ポリアミドに脂肪族カルボジイミド化合物を配合することで、耐加水分解性、耐油性及び耐ハロゲン化金属塩性を改良されることが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、これらの文献には、燃料バリア性や、強度、耐衝撃性、伸び等の機械的特性の改良については記述されていない。さらにメタキシリレンジアミンを主成分とするジアミンとα,ω-直鎖状脂肪族ジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸からなるポリアミド樹脂(a-1)と、ナイロン11及び/又はナイロン12(a-2)からなるポリアミド樹脂組成物に2個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物を含有させた熱可塑性樹脂組成物が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02−175757号公報
【特許文献2】特開平11−343408号公報
【特許文献3】特開平2008−133455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献3における組成物は燃料透過性や室温下での機械強度に優れるものの、この組成物からなる成形品は高温下に曝される場合があり、場合によってはその機械強度が低下し、実用的ではないことがあった。
本発明の目的は、以上のような状況から、バリア性及び強度、耐衝撃性や伸び等の機械的特性、更に耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物、特にアルコール含有燃料用容器やチューブ、部品用材料として優れたバリア性及び耐熱性を有する熱可塑性樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、メタキシリレン骨格を有するバリア性ポリアミドとナイロン11、及びガラス転移点が110℃以上のポリアミドからなる特定のポリアミド樹脂組成物に、カルボジイミド化合物を含有させることにより、上記目的に適う熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0006】
すなわち本発明は、ジアミン構成単位の70モル%以上がメタキシリレンジアミン構成単位であり、ジカルボン酸構成単位の70モル%以上が炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸構成単位であるポリアミド樹脂(a−1)と、ナイロン11(a−2)からなり、(a−1)成分が5〜95質量%、(a−2)成分が95〜5質量%であるポリアミド樹脂組成物(A)100質量部と、2個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物(B)0.1〜10質量部、並びにタルク、炭酸カルシウム、マイカ、カオリン及びセラミックスから選択される1種以上の無機粒子(C)0.01〜5質量部からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に関する。また本発明は、該熱可塑性樹脂組成物を用いてなる成形体に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、メタキシリレン骨格を有するバリア性ポリアミドおよびナイロン11からなるポリアミドに対して、カルボジイミド化合物、無機結晶核剤を添加し溶融混練させることで、カルボジイミド化合物を介して該ポリアミドと、該カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物とが結合され、もしくは、該ポリアミドと、カルボジイミド基と反応する官能基を有する化合物のそれぞれがカルボジイミド化合物と反応することで、カルボジイミド成分を介して互いの親和性が向上することによって、従来困難であったメタキシリレン骨格を有するバリア性ポリアミドと柔軟性で優れた衝撃強度を有するナイロン11との溶融混合が可能となり、優れたバリア性、強度及び耐衝撃性、更に耐熱性を有する熱可塑性樹脂組成物が得られる。
従って、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、バリア性、強度及び耐衝撃性、耐熱性、特にアルコール含有燃料のバリア性に優れており、燃料用容器、チューブ、部品等、種々の成形体に好適に使用される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるポリアミド樹脂組成物(A)には、ジアミン構成単位(ジアミンに由来する構成単位)とジカルボン酸構成単位(ジカルボン酸に由来する構成単位)からなるポリアミド樹脂であって、ジアミン構成単位の70モル%以上、好ましくは80モル%以上がメタキシリレンジアミン構成単位であり、ジカルボン酸構成単位の70モル%以上、好ましくは80モル%以上が炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸構成単位であるポリアミド樹脂(a−1)が使用される。
ポリアミド樹脂(a−1)は、メタキシリレンジアミンを70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むジカルボン酸成分を重縮合させることにより得られる。
【0009】
ポリアミド樹脂(a−1)の原料(ジアミン成分)として用いるメタキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン(構造異性体を含む。)、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン(構造異性体を含む。)等の脂環族ジアミン;ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン(構造異性体を含む。)等の芳香環を有するジアミン類等を例示することができ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0010】
本発明において、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種又は2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもアジピン酸が好ましい。
【0011】
本発明において、ジカルボン酸構成単位の30モル%以下(0モル%を含まない)の範囲がイソフタル酸構成単位であることがより好ましく、さらに好ましくは25モル%以下(0モル%を含まない)、特に好ましくは5〜20モル%の範囲である。
イソフタル酸を含むと、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸のみの場合に比べ、得られるポリアミド樹脂の融点が低下し、より低温で成形でき、製造エネルギーの低減や成形サイクルの短縮化が図られるばかりでなく、溶融粘度が高くなり、該樹脂のドローダウン等に対する成形加工性が向上するが、熱可塑性樹脂組成物のバリア性が低下する。
【0012】
上記炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸とイソフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸、安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸;無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等のカルボン酸無水物等を挙げることができる。
【0013】
ポリアミド樹脂(a−1)は、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミン成分と、炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸を70モル%以上含むジカルボン酸成分とを重縮合して得られたものであるが、その製造方法は特に限定されるものではなく、常圧溶融重合法、加圧溶融重合法などの従来公知の方法、重合条件により製造される。例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸、あるいは、メタキシリレンジアミン、アジピン酸およびイソフタル酸からなるナイロン塩を水の存在下に、加圧下で昇温し、加えた水よび縮合水を取り除きながら溶融状態で重合させる方法により製造される。また、メタキシリレンジアミンを溶融状態のアジピン酸、又はアジピン酸とイソフタル酸混合物に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系を固化させることの無いように、メタキシリレンジアミンを連続的に加えて、その間の反応温度が生成するオリゴアミドおよびポリアミドの融点以上となるように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0014】
重縮合によりポリアミド樹脂(a−1)を得る際には、重縮合反応系に、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ω−エナントラクタムなどのラクタム類、6−アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、9−アミノノナン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸などを、性能を損なわない範囲で加えても良い。
【0015】
ポリアミド樹脂(a−1)は、さらに加熱処理し、溶融粘度を増大させたものを用いることもできる。加熱処理する方法として、例えば、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中もしくは減圧下において、水の存在下で緩やかに加熱し、融着を回避しつつ結晶化させた後、更に加熱処理を行う方法;溝型攪拌加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中で加熱し、結晶化させた後、ホッパー形状の加熱装置を用いて、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する方法;溝型攪拌加熱装置を用いて結晶化させた後、回転ドラム等の回分式加熱装置を用いて加熱処理を行う方法などが挙げられる。中でも、回分式加熱装置を用いて、結晶化ならびに加熱処理を行う方法が好ましい。加熱処理の条件としては、溶融重合で得られたポリアミド樹脂に対して1〜30質量%の水の存在下、かつ、0.5〜4時間かけて70から120℃まで昇温することにより結晶化し、次いで、不活性ガス雰囲気中または減圧下で、〔溶融重合で得られたポリアミド樹脂の融点−50℃〕〜〔溶融重合で得られたポリアミド樹脂の融点−10℃〕の温度で1〜12時間加熱処理する条件が好ましい。
【0016】
ポリアミド樹脂(a−1)の融点は160℃〜240℃の範囲に制御することが好ましく、より好ましくは170〜235℃、さらに好ましくは180〜230℃である。
【0017】
ポリアミド樹脂(a−1)のガラス転移点は80〜130℃の範囲であることが好ましい。ポリアミドのガラス転移点を80℃以上とすることで高温下でのバリア性に優れたものが得られる。
【0018】
ポリアミド樹脂(a−1)は、末端アミノ基濃度40μ当量/g未満、好ましくは10〜30μ当量/g、末端カルボキシル基濃度40〜100μ当量/gのものが好適に用いられる。末端アミノ基濃度および末端カルボキシル基濃度を上記範囲とすることにより、得られるバリア層が黄色に着色することがない。
【0019】
ポリアミド樹脂(a−1)には、溶融成形時の加工安定性を高めるため、或いはポリアミド樹脂の着色を防止するためにリン化合物が含まれていても良い。リン化合物としてはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含むリン化合物が好適に使用され、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等のリン酸塩、次亜リン酸塩、亜リン酸塩が挙げられ、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の次亜リン酸塩を使用したものがポリアミドの着色防止効果に特に優れるため好ましく用いられる。ポリアミド(A)中のリン化合物の濃度は、リン原子として200ppm以下、好ましくは160ppm以下、更に好ましくは100ppm以下であることが望ましい。
なお、ポリアミド樹脂(a−1)には、上記のリン化合物の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、滑剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤等の添加剤等を加えることもできるが、以上に示したものに限定されることなく、種々の材料を混合しても良い。
【0020】
ナイロン11(a−2)として、11−アミノウンデカン酸またはウンデカンラクタム、が選ばれ、溶融成形に優れたものが好ましい。98%濃硫酸溶液で25℃で測定した相対粘度ポリアミドの粘度としては、1.5〜7の範囲、好ましくは1.8〜5の範囲、更に好ましくは2〜4の範囲のものが用いられる。
【0021】
ポリアミド樹脂(a−1)およびナイロン11からなるポリアミドに対して、カルボジイミド化合物(B)を添加し溶融混練させることで、ポリアミド樹脂(a−1)とナイロン11との親和性が向上する。
【0022】
本発明に用いられるポリアミド樹脂組成物(A)は、ポリアミド樹脂(a−1)とナイロン11(a−2)からなり、(a−1)成分が5〜95質量%、(a−2)成分が95〜5質量%であるポリアミド樹脂組成物(A)100質量部に対して、分子中に2個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物(B)0.1〜10質量部、無機粒子(C)0.01〜5質量部からなるものであり、好ましくは(a−1)成分10〜90質量%と(a−2)成分90〜10質量%、さらに好ましくは(a−1)成分20〜80質量%と(a−2)成分80〜20質量%からなるものである。(a−1)成分のポリアミド樹脂を5質量%以上とすることにより、十分なバリア性が得られ、95質量%以下とすることにより、強度や耐衝撃性が優れたものとなる。(a−2)成分のナイロン11は、5質量%以上とすることで機械的強度に優れ、95質量%以下にすることでバリア性に優れたものとなる。
【0023】
用いるポリアミド(a−1)、(a−2)の水分は0.3質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下であり、必要に応じて乾燥してこの範囲とすることが望ましい。水分を0.3質量%以下とすることにより、カルボジイミド基と水分の反応が進行することが無いので、押出性不良が生じたりせずに、優れた特性を有する熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。ポリアミド樹脂組成物(A)を乾燥する場合は、公知の方法により行うことができる。例えば、ポリアミド樹脂組成物(A)を真空ポンプ付きの加熱可能なタンブラー(回転式真空槽)中や減圧乾燥機中に仕込み、減圧下でポリマーの融点以下、好ましくは160℃以下の温度で加熱して乾燥する方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。なお、水分はカールフィッシャー式水分測定装置を使用し、窒素気流下、ポリアミドの融点より5℃低い温度にて30分間に揮発する水分量を測定することにより求められる。
【0024】
本発明において、ポリアミド樹脂組成物(A)に添加される2個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物(B)としては、種々の方法で製造した芳香族、脂肪族又は脂環族のポリカルボジイミド化合物が挙げられる。これらの中で、押出時の溶融混練性の面から脂肪族又は脂環族ポリカルボジイミド化合物が好ましく用いられ、より好ましくは脂肪族ポリカルボジイミド化合物が用いられる。
これらのカルボジイミド化合物(B)は、有機ポリイソシアネートを脱炭酸縮合反応することで製造することができる。例えば、カルボジイミド化触媒の存在下、各種有機ポリイソシアネートを約70℃以上の温度で不活性溶媒中、もしくは溶媒を使用することなく、脱炭酸縮合反応させることによって合成する方法等を挙げることができる。
【0025】
カルボジイミド化合物(B)の合成原料である有機ポリイソシアネートとしては、例えば芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等の各種有機ジイソシアネートやこれらの混合物を使用することができる。有機ジイソシアネートとしては、具体的には、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン−2,4−ジイソシアネート等を例示することができる。
【0026】
カルボジイミド化合物(B)の末端を封止してその重合度を制御するためにモノイソシアネート等の末端封止剤を使用することができる。モノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
なお、末端封止剤としては、上記のモノイソシアネートに限定されることはなく、イソシアネートと反応し得る活性水素化合物であればよい。このような活性水素化合物としては、脂肪族、芳香族、脂環族の化合物の中で、−OH基を持つメタノール、エタノール、フェノール、シクロヘキサノール、N−メチルエタノールアミン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン、コハク酸、安息香酸、ジクロヘキサンカルボン酸等のカルボン酸、エチルメルカプタン、アリルメルカプタン、チオフェノール等のチオール類やエポキシ基を有する化合物等を例示することができる。
【0028】
カルボジイミド化触媒としては、例えば、1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド、1−エチル−2−ホスホレン−1−オキシド、3−メチル−2−ホスホレン−1−オキシド及びこれらの3−ホスホレン異性体等のホスホレンオキシド等、チタン酸テトラブチル等の金属触媒等を使用することができ、これらの内では、反応性の面から3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシドが好適である。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、カルボジイミド化合物(B)は、ポリアミド樹脂組成物(A)もしくはポリアミド樹脂(a−1)と反応していてもよい。ポリアミド樹脂(a−1)とナイロン11(a−2)、ならびにカルボジイミド化合物(B)を溶融混練させることで、(I)カルボジイミド化合物(B)を介してポリアミド樹脂(a−1)とナイロン11(a−2)とが結合されることにより、もしくは、(II)ポリアミド樹脂(a−1)とナイロン11(a−2)のそれぞれがカルボジイミド化合物(B)と反応することで、カルボジイミド化合物(B)を介してポリアミド樹脂(a−1)とナイロン11(a−2)の親和性が向上することによって、例えば、従来困難であった、メタキシリレン骨格を有するバリア性ポリアミドと、柔軟性があり優れた衝撃強度を有するナイロン11の溶融混合が可能となり、バリア性、強度及び耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂組成物(A)100質量部に対し、カルボジイミド化合物(B)0.1〜10質量部、無機粒子(C)0.01〜5質量部からなるものであり、カルボジイミド化合物として、好ましくは、0.2〜8質量部、さらに好ましくは、0.3〜5質量部を混合したものである。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の相対粘度は、1.7〜4.0であることが好ましく、1.9〜3.8であることが更に好ましい。なお、該相対粘度は後述の方法により測定されるものである。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を溶融混練した後、押出成形や射出成形等をすることで種々の成形体を得ることができる。カルボジイミド化合物(B)の添加量が0.1質量部以上とすることにより、混練性が十分となり、押出時の吐出ムラ等の不具合を生じることがない。添加量を10質量部以下とすることにより、著しい増粘が生じて押出が困難となることがない。
【0033】
本発明で使用する無機粒子(C)は、ポリアミド樹脂組成物とカルボジイミド化合物からなる樹脂組成物の耐熱性を改善するために使用されるものである。無機粒子(C)はその種類、平均粒径、配合量を特定の範囲とすることで、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性を効率的に改善することができる。無機粒子(C)はポリアミド樹脂組成物との親和性が良好なものが選択され、その種類としては、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、カオリン、セラミックス等が挙げられる。セラミックスには、ファインセラミックスあるいはニューセラミックスと呼ばれるものも含まれ、具体的には、窒化珪素、窒化ホウ素、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属珪素化物等が例示でき、この中で金属として、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、マグネシウム、鉄等が例示できる。特に好ましいのはタルク粉末、窒化珪素粉末及び窒化ホウ素である。親和性の高い種類の無機粒子を選択することで、樹脂中における無機粒子の分散が良好になり、効果が発揮されやすくなるので好ましい。なお、無機粒子にはポリアミド樹脂との親和性をより改善するため、表面処理されたものを利用しても良い。
無機粒子の平均粒径は、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。この範囲の平均粒径を有する無機粒子を利用することで、無機粒子を中心とした結晶構造が成長しやすくなり、効果的に耐熱性を高めることができ、さらに無機粒子とポリアミド樹脂組成物の界面からのクラックが生じにくいので機械物性に優れたものとすることができる。
無機粒子の配合量は、ポリアミド樹脂組成物(A)100質量部に対して0.01〜5質量部であり、好ましくは0.02〜4質量部、さらに好ましくは0.05〜3質量部である。この範囲とすることで、耐熱性を効果的に改善できかつポリアミド樹脂組成物が有する衝撃強度等の機械物性を損なうことがない。
【0034】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない限り、ガラス繊維などの強化用繊維、滑剤、離型剤、酸化防止剤、加工安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、層状珪酸塩、Co、Mn、Znなどの無機または有機金属塩、錯体等を加えることが出来る。
【0035】
ポリアミド樹脂組成物(A)とカルボジイミド化合物(B)を溶融混練する方法については、単軸もしくは二軸押出機等の通常用いられる種々の押出機を用いて溶融混練する方法等が挙げられるが、これらのなかでも、生産性、汎用性等の点から二軸押出機を用いる方法が好ましい。
【0036】
その際、溶融混練温度は200〜300℃、滞留時間は10分以下に調整することが好ましく、スクリューには少なくとも一カ所以上の逆目スクリューエレメント及び/またはニーディングディスクを有し、該部分において一部滞留させながら行うことが好ましい。
溶融混練温度が上記範囲とすることにより、押出混練性の不良や分解が生じることがない。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を利用して、従来公知の成形方法によりチューブやホース、部品等の各種形態に成形することが出来る。例えば、押出機による成形、射出成形、プレス成形、ダイレクトブロー成形、回転成形、サンドイッチ成形および二色成形等の成形法を例示することができる。
【0038】
本発明の成形体は前記熱可塑性樹脂組成物を用いてなるものであり、バリア性、強度及び耐衝撃性に優れた層を有する。本発明の成形体は単層でも多層でもよいが、特に成形体の強度の観点からは、該熱可塑性樹脂組成物層を少なくとも1層含み、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリカーボネートあるいはポリアミド、フッ素系樹脂等からなる補強層を少なくとも一層積層した多層成形体であることが好ましい。
該補強層に使用するポリオレフィンとしては、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、あるいはエチレン、プロピレン、ブテン等から選ばれる2種類以上のオレフィンの共重合体、およびそれらの混合体、変性フッ素系樹脂、ポリアミドが例示できる。また、上記補強層において例示したポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド及びフッ素系樹脂は、互いに混合したり、エラストマー等の他の樹脂との混合や、例えばカーボンブラックや難燃剤等の他の添加剤と混合して使用することも可能である。
【0039】
本発明の成形体において、熱可塑性樹脂組成物層と補強層等、多層成形体を構成する各層の間に接着性樹脂層(接着層)を設けることができる。該接着層を構成する接着性の樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂組成物層とポリオレフィン類からなる補強層と接着する場合には、変性したポリエチレンやポリプロピレンあるいはエチレン、プロピレン、ブテン類のオレフィン類の共重合体等が使用可能である。また、熱可塑性樹脂組成物層とポリエステルあるいはポリカーボネートからなる補強層と接着する場合には、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、エチレン−アクリル酸系共重合体のアルカリまたはアルカリ土類金属架橋体およびエチレン−アクリル酸エステル系共重合体等が例示できるが、特に限定されるものではない。
【0040】
多層成形体における各層の厚さは多層成形体の形状に応じて選択されるが、熱可塑性樹脂組成物層は平均で0.005〜5mm、補強層は平均で0.005〜10mm、接着層は平均で0.005〜5mmであるのが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
なお、以下の実施例および比較例において、ポリアミド樹脂組成物(A)、熱可塑性樹脂組成物及びフィルム成形体の評価方法は、下記の方法により行った。
(1)引張物性
23℃、50%RHの環境下において、フィルムから幅10mm、長さ120mmの短冊状の試験片を作製し、ストログラフV1−C〔(株)東洋精機製作所製〕を用いて、チャック間距離50mm、引張速度50mm/minの条件にて、ASTM−D882に準拠して破壊強度(MPa)、破壊伸び(%)および弾性率(GPa)の測定を行った。
(2)衝撃穴あけ強度
23℃、50%RHの環境下において、フィルムインパクト試験機〔東測精密工業(株)製、ITF−60〕を用いて、先端1/2インチ(1.25mm)球形の条件にて衝撃穴あけ強度を測定した。
【0042】
(3)酸素バリア性(酸素透過率)
23℃、フィルム内部の相対湿度60%、外部の相対湿度50%の雰囲気下にてASTM D3985に準じてフィルムの酸素透過率を測定した。測定は、モダンコントロールズ社製、OX-TRAN 10/50Aを使用した。
(4)耐熱試験
得られたフィルムを、ギアオーブン(GPHH−200、タバイ(株)製)に、130℃で72時間放置した後、引張物性の測定を行った。
(5)水分
水分測定装置(平沼産業(株)製、AQUACOUNTER AQ−2000)を用いて、窒素気流下、ポリアミドの融点より5℃低い温度にて30分間に揮発した水分量から算出した。
【0043】
<実施例1>
ポリメタキシリレンアジパミド(三菱ガス化学(株)製「MXナイロン S6001」、メタキシリレンジアミンとアジピン酸からなるポリアミド樹脂、相対粘度=2.1、水分0.03質量%、末端アミノ基濃度30μ当量/g、末端カルボキシル基濃度75μ当量/g、以下「MXD6」と称す場合がある)40質量%、ナイロン11(アトフィナ製、Rilsan BESN、以下「N11」と称す場合がある)60質量%からなる混合組成物100質量部と、脂肪族ポリカルボジイミド化合物(日清紡績(株)製「カルボジライトLA−1」、以下「カルボジライト」と称す場合がある)1質量部と、窒化ホウ素(電気化学工業(株)製、SP−2(平均粒径1μm)0.1質量部とをドライブレンドした後、得られた熱可塑性樹脂組成物を秤量フィーダーにて6kg/hrの速度で、シリンダー径37mm、逆目エレメントによる滞留部を有する強練りタイプのスクリューをセットした二軸押出機に供給した。シリンダー温度270℃、スクリュー回転数100rpmの条件で溶融混練を行い、溶融ストランドを冷却エアーにて冷却、固化した後、ペレタイズして熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。
上記で得られたペレットを秤量フィーダーにて1.2kg/hrの速度でシリンダー径20mmのTダイ付き二軸押出機に供給した。シリンダー温度260℃、スクリュー回転数80rpmの条件で溶融混練を行った後、Tダイを通じてフィルム状物を押出し、2.7m/minの速度で引き取りながら70℃の冷却ロール上で固化し、厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0044】
<比較例1>
ポリメタキシリレンアジパミドが40質量%、ナイロン11が60質量%からなる混合組成物100質量部と、脂肪族ポリカルボジイミド化合物1質量部とをドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムの作製を行った。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0045】
<比較例2>
ポリメタキシリレンアジパミドが30質量%、ナイロン11が70質量%からなる混合組成物100質量部と、脂肪族ポリカルボジイミド化合物1質量部とをドライブレンドした熱可塑性樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムの作製を行った。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0046】
<比較例3>
熱可塑性樹脂組成物としてナイロン11のみを用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムの作製を行った。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0047】
<比較例4>
熱可塑性樹脂組成物としてポリメタキシリレンアジパミドのみを用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムの作製を行った。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
上記表1から明らかなように、ポリメタキシリレンアジパミド、ナイロン11、ポリカルボジイミド化合物、無機結晶核剤を使用した実施例1では、ポリメタキシリレンアジパミドとナイロン11の混合体や、ナイロン11、ポリメタキシリレンアジパミドそのものを使用した比較例1〜4に比べ、バリア性及び機械的特性及びに耐熱性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、バリア性、強度、耐衝撃性、及び耐熱性に優れており、燃料用容器、チューブ、部品等、種々の成形体に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン構成単位の70モル%以上がメタキシリレンジアミン構成単位であり、ジカルボン酸構成単位の70モル%以上が炭素数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸構成単位であるポリアミド樹脂(a−1)と、ナイロン11(a−2)からなり、(a−1)成分が5〜95質量%、(a−2)成分が95〜5質量%であるポリアミド樹脂組成物(A)100質量部と、2個以上のカルボジイミド基を有するカルボジイミド化合物(B)0.1〜10質量部、並びにタルク、炭酸カルシウム、マイカ、カオリン及びセラミックスから選択される1種以上の無機粒子(C)0.01〜5質量部からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂(a−1)のジカルボン酸構成単位の30モル%以下がイソフタル酸構成単位である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂組成物(A)の水分が0.3質量%以下である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
カルボジイミド化合物(B)が脂肪族または脂環式ポリカルボジイミド化合物である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を用いてなる成形体。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂組成物からなる層を少なくとも一層有する多層成形体である請求項5に記載の成形体。

【公開番号】特開2010−248418(P2010−248418A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100996(P2009−100996)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】