説明

バルーンカテーテル用バルーンおよびその製造方法

【課題】 肉薄かつ高強度なバルーンを有する、PTCA用途に好適なバルーンカテーテルを提供すること。
【解決手段】 少なくとも一つのバルーン拡張用ルーメンが長手方向に沿って形成してある外チューブと、前記外チューブの遠位端部にバルーン部の近位端部が接合され、前記バルーン拡張用ルーメンと内部が連通するバルーン部と、前記バルーン部の内部に密閉された拡張用空間を形成するように、バルーン部の遠位端部が内チューブの遠位端部に接合され、前記バルーン部の内部と前記外チューブのバルーン拡張用ルーメンの内部とに軸方向に延在する内チューブとを有し、前記バルーンが、結晶性ポリオレフイン系樹脂からなる架橋チューブを用いてブロー成形されたものであり、前記バルーンの膜厚が10〜40μmであり、前記バルーンの破断強度が800〜2000kgf/cmであることを特徴とするバルーンカテーテル。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、肉薄かつ高強度なバルーンを有するバルーンカテーテルに関し、詳しくは、経皮的血管内冠状動脈形成術(Percutaneoμs Transluminal Coronary Angioplasty、以下、「PTCA」と記す。)用途に好適なバルーンカテーテルに関する。
【0002】
【従来の技術】血管の狭窄に由来する疾病には、バルーンカテーテルによって、簡便に処置、回復させるいわゆるPTCAカテーテルが頻繁に用いられている。
【0003】PTCAカテーテルは、例えば、心臓の冠状動脈の処置では、まず冠状動脈入り口までガイディングカテーテルが挿入され、次に、ガイドワイヤーが狭窄部を超えて挿入され、そして、バルーンカテーテルが狭窄部まで押し込まれ、バルーンを拡張することにより狭窄部を拡張するものである。
【0004】PTCAカテーテルは、その利点を生かして、適用範囲の拡大が図られているが、それにつれて要求特性も高度化している。例えば、末梢の冠動脈狭窄の処置ができること、屈曲血管への挿入が容易であること、強い拡張圧力を有すること、安全に血管拡張ができることなどが要求されている。より具体的には、PTCAカテーテルを用いて、従来よりも末梢の冠動脈狭窄の処置ができることが求められている。そのためには、従来以上に肉薄でかつ高強度のバルーンが求められている。
【0005】しかし、従来より、PTCAカテーテルのバルーン用材料として、主として用いられているポリエチレン系樹脂(例えば、特開平8−196620号公報等)の場合は、一般に電子線を照射して、そのゲル分率が0.9%程度になるまで架橋させることによって、バルーン材料としての延伸特性の向上・破裂圧の向上などを図る手法が採用されている。
【0006】この場合は、架橋されたポリエチレン系樹脂には0.9%程度のゲルが生成していることから、バルーンの膨張は300%程度に留まり、また、その厚さが薄くなるほどバルーンの強度は低下し、破裂に至る圧力も低下するために、肉薄で高強度のバルーンを得るには限界があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、肉薄かつ高強度な、PTCA用途に好適なバルーンカテーテル用バルーンを提供することを目的とする。また、本発明の目的は、前記肉薄かつ高強度なポリオレフイン系樹脂製バルーンの製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明の目的は、前記肉薄かつ高強度なポリオレフイン系樹脂製バルーンを有するバルーンカテーテルを提供することを目的とする。
【0008】そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、ポリエチレン樹脂製チューブに、ゲル分率が0.7%程度のゲルが生成するように電子線照射を施して架橋し、続いて該架橋チューブを、前記ポリエチレン系樹脂の融点よりもかなり低温である80℃の条件でブロー成形したところ、延伸倍率が600%かつ破壊強度が1100kgf/cmであるバルーンが得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
【課題を解決するための手段】かくして本発明によれば、下記(1)、(2)及び(3)が提供される。
(1)ポリオレフイン系樹脂からなる架橋チューブを用いてブロー成形により成形されたバルーンであって、前記バルーンの膜厚が10〜40μmであり、前記バルーンの破断強度が800〜2000kgf/cmであることを特徴とするバルーンカテーテル用バルーン。
【0010】(2)ポリオレフイン系樹脂からなるチューブを電子線架橋して、ゲル含量が0.2〜0.8%である架橋チューブを調製する工程と、前記結晶性ポリオレフイン系樹脂の融点よりも10℃以上低い温度で、前記架橋チューブに1次ブロー圧を負荷し、次いで、前記架橋チューブに前記1次ブロー圧よりも低い圧力である2次ブロー圧を負荷することにより該架橋チューブからバルーンに至る有効延伸倍率が500〜1000%となるように、ブロー成形してバルーン部を調製する工程とを有する、前記(1)に記載したバルーンカテーテル用バルーンの製造方法。
【0011】(3)少なくとも一つのバルーン拡張用ルーメンが長手方向に沿って形成してある外チューブと、前記外チューブの遠位端部にバルーン部の近位端部が接合され、前記バルーン拡張用ルーメンと内部が連通するバルーン部と、前記バルーン部の内部に密閉された拡張用空間を形成するように、バルーン部の遠位端部が内チューブの遠位端部に接合され、前記バルーン部の内部と前記外チューブのバルーン拡張用ルーメンの内部とに軸方向に延在する内チューブとを有し、前記バルーン部が、ポリオレフイン系樹脂からなる架橋チューブを用いてブロー成形により成形されたバルーンであって、前記バルーンの膜厚が10〜40μmであり、前記バルーンの破断強度が800〜2000kgf/cmであることを特徴とするバルーンカテーテル。
【0012】本発明のバルーンカテーテル用バルーンの製造方法において、ポリオレフイン系樹脂からなるチューブに5〜40Mrad、好ましくは10〜20Mradの電子線を照射して、前記チューブを電子線架橋して、ゲル含量が0.2〜0.7%である架橋チューブとすることが好ましい。さらに、当該架橋チューブを、少なくとも90℃で熱処理することが好ましい。
【0013】前記バルーンの製造方法において、前記架橋チューブをブロー成形する場合は、金型に1次ブロー圧を15〜25kgf/cm負荷し、かつ、金型を開く少なくとも1秒前に、5〜8kgf/cmの2次ブロー圧を負荷してバルーンを作成することが好ましい。
【0014】本発明において、ポリオレフイン系樹脂からなるバルーンカテーテル用バルーンの膜厚は、25〜35μmであることが好ましい。
【0015】本発明において、ポリオレフイン系樹脂からなるバルーンカテーテル用バルーンは、前記架橋チューブからバルーンに至る有効延伸倍率が、500〜700%であることが好ましい。さらに、前記バルーンの破断強度が、1000〜2000kgf/cmであることが好ましい。
【0016】
【作用】本発明のバルーンカテーテル用バルーンは、通常、ポリエチレン樹脂をブロー成形して得られるバルーンと比較して、バルーンの破壊強度が極めて高いことから、バルーン拡張のための高圧力に耐えることができ、例えばPTCAバルーンカテーテルとして使用した場合は、血管狭窄部分を拡張する際の安全性が極めて優れている。
【0017】また、本発明のバルーンカテーテル用バルーンは、その膜厚を非常に薄くすることができるので、例えば、PTCAカテーテルのバルーンとして使用する場合は、PTCAカテーテルを細径化することができ、従来よりも末梢の冠動脈狭窄の処置が可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】本発明のバルーンカテーテル用バルーンは、ポリオレフィン系樹脂を用いて調製されたものである。前記ポリオレフイン系樹脂は、炭素数2〜40のオレフインをモノマーとして使用して、重合反応により製造したものであって、その密度(JIS K−7112)は、通常0.950g/cm3以下であり、好ましくは0.850〜0.940g/cm3、より好ましくは0.880〜0.930g/cm3である。密度が小さすぎるとバルーン表面のベタつきによるブロッキングなどの不都合を生じやすくなり、大きすぎると透明性が低下するので好ましくない。
【0019】重合反応によりポリオレフィン系樹脂を得るためのオレフインのモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン等が挙げられる。これらのモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】ポリオレフィン系樹脂としては、バルーンとしての諸特性の観点から、ポリエチレン及びエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましく、エチレン・α−オレフィン共重合体が特に好ましい。エチレン・α−オレフィン共重合体は、メタロセン触媒を用いてエチレンとα−オレフィンとを共重合することにより得ることができる。コモノマーとしては、炭素原子数4〜40のα−オレフィンを使用することが好ましい。
【0021】前記α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテンなどが挙げられる。これらの中でも、炭素原子数が4〜12のα−オレフィンが好ましく、炭素原子数が4〜10のα−オレフィンがより好ましい。α−オレフィンの共重合割合は、通常2〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
【0022】前記ポリオレフイン系樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合樹脂、エチレンと他のα−オレフィンとの共重合樹脂等が挙げられる。なかでもポリエチレン樹脂が好ましく、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等を用いることが好ましい。
【0023】前記ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR;JIS K−7210)は、通常0.1〜30.0g/10分、好ましくは1.0〜20.0g/10分、より好ましくは1.0〜15.0g/10分、最も好ましくは1.5〜15.0g/10分である。MFRが小さすぎると充分な強度を得ることが困難であり、大きすぎると成型性が低下する。
【0024】本発明では、ポリオレフィン系樹脂に、本発明の目的を損なわない範囲内において、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、金属不活性化剤、顔料、染料、結晶核剤等を必要に応じて数種類添加することができる。この場合、要求する性質によるが、添加量は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、通常20重量部以下、好ましくは5重量部以下である。
【0025】本発明のバルーンカテーテル用バルーンの製造方法について説明する。まず、結晶性ポリオレフイン系樹脂を用いて、予め設計された寸法のブロー成形用元チューブを成形する。成形は、例えば押し出し成形法で行うことができ、押し出し時のダイ温度は、例えば200〜300℃である。ダイから吐出直後の押し出しチューブは、例えば水槽(20〜30℃)中を通過させて冷却される。
【0026】次に、前記押し出しチューブに電子線を照射し、ポリオレフイン系樹脂製架橋チューブ(以下、「パリソン」と記す。)を形成する。電子線の照射量は、例えば5〜40Mrad、好ましくは10〜20Mradである。その後、前記架橋チューブは、例えば90〜110℃程度で、30分〜数時間、熱処理が行われる。この熱処理工程により、押し出し成形による成形ひずみが解消される。
【0027】前記電子線照射により、架橋されたチューブのゲル分率は、0.8%以下、好ましくは、0.2〜0.7%程度とすることが好ましい。ゲル分率は、架橋サンプルの加熱したキシレン中での不溶解分として測定することができる。具体的には、0.1gの架橋サンプルを120℃に加熱したキシレン100ml中で6時間加熱した後、可溶分を濾別し、残された架橋サンプルの乾燥重量を測定し、処理前の架橋サンプルに対する割合を算出する。
【0028】上記の工程を経て調製されたパリソンは、例えば、下記の工程を経て、ブロー成形によりバルーン状に賦形される。まず、図3(A)のように、パリソンの上下を固定する。上部チャックでは完全に圧力が漏れないように封止し、下部チャックはブロー圧が加えられるようにルーメンはつぶさないようにする。
【0029】次に、前記パリソンは、パリソン材料の結晶性ポリオレフイン系樹脂の融点より低い温度でブロー成形される。前記温度は、例えば、結晶性ポリオレフイン形樹脂の融点よりも、少なくとも10℃以上、好ましくは、30℃以上低温側の温度であり、さらに好ましくは30〜60℃程度低温側の範囲である。前記温度が過度に高温の場合、ブロー成形は容易になるが、バルーンの破壊強度は低下する。一方過度に低温では、バルーンを賦形するためには、非常に高圧なブロー圧が必要となり好ましくない。また、低温側でブロー成形したバルーンは、極端に収縮が起きるので好ましくない。
【0030】ブロー成形は、具体的には、次の工程による。上下を固定されたパリソンは、本実施形態では、例えば、予め50〜90℃前後で、好ましくは75〜85℃の範囲で、30180分間、好ましくは100〜150分間加熱された後、上下方向に150〜200%程度延伸される。次に、パリソンが延伸されたのと同時に、両側から2つ割りにされた金型(パリソンと同程度に加熱してある)がパリソンを挟むように閉まり、続いて、第1ブロー圧力が負荷され、10〜60秒間、好ましくは20〜40秒間程度保持される。次に、第1ブロー圧力の少なくとも2分の1以下好ましくは3分の1以下のブロー圧力(以下、「第2ブロー圧力」と記す。)で0.5〜3秒間保持され、その後、金型が開けられる。
【0031】パリソン中に導入される気体は、とくに限定されないが、例えば、窒素ガス等を使用することができる。パリソンを膨張させるための第1ブロー圧力は、例えば10〜30kgf/cm、好ましくは15〜25kgf/cmである。第2ブロー圧力は、例えば、3〜10kgf/cm、好ましくは5〜8kgf/cmである。
【0032】上述したブロー成形により、バルーンは、例えば図3(B)に示すように、バルーン本体部分7eとバルーンカテーテルと接合するための部分7fを有する形状に成形される。
【0033】ブロー成形により成形されたバルーンの外径は、レーザー外径測定器によって、1atmまたは6atmの圧力を加えたときの外径を測定する。バルーンの膜厚は、マイクロゲージにより測定する。
【0034】ブロー成形により成形されたバルーンの、架橋チューブからバルーンに至る有効延伸倍率(架橋チューブ断面積/バルーン断面積)は、400〜1500%、好ましくは、500〜1000%であることが必要である。有効延伸倍率が過度に大きい場合は、バルーンの破壊強度が極端に低下するので好ましくない。本発明においては、前記押し出しチューブを、5〜40Mradの条件で電子線を照射し、ポリエチレン製架橋チューブを形成することにより、前記有効延伸倍率を400〜1500%で、かつ、前記バルーンの破断強度が800〜2000kgf/cm、好ましくは、1000〜1800kgf/cmであることが達成される。
【0035】本発明においては、前記ブロー成形により成形されたバルーンの膜厚は、5〜40μm、好ましくは、25〜35μmである。
【0036】バルーンの破断強度は、37℃の水中において、バルーンに15psi加圧して15秒間保持し、続いて、更に15psiを追加圧して15秒間保持し、このステップを、バルーンが破裂するまで繰り返し、破裂したときの圧力を、破断強度として測定する。
【0037】上述した方法でブロー成形したバルーンの破壊強度を表1に示す。なお、電子線の照射量を、40Mrad、及び60Mradで調製し、ゲル含量を従来の架橋チューブと同じ程度に有するものを用いてブロー成形したバルーンの破壊強度を、比較例として表1に示した。表1の結果から、本発明のバルーンカテーテル用バルーンは、有効延伸倍率が500%以上において、バルーンの膜厚が薄く、かつ破壊強度が大幅に増大していることがわかる。
【0038】
【表1】


【0039】次に、本発明のバルーンカテーテル用バルーンを使用したバルーンカテーテルの実施形態を、図面に基づき説明する。図1(A)は本発明の1実施形態に係るバルーンカテーテルの全体構成図、図1(B)は図1R>1(A)に示すIB−IB線に沿う断面図、図1(C)は図1(A)に示すIC−IC線に沿う断面図、図1(D)は図1(A)に示すID−ID線に沿う断面図、図1(E)は図1(A)に示すIE−IE線に沿う断面図を示す。図2は図1(A)に示すバルーンカテーテルの要部縦断面図を示す。
【0040】図1に示す本実施形態に係るバルーンカテーテル2は、例えば経皮的冠動脈形成術(PTCA)、四肢等の血管の拡張術、上部尿管の拡張術、腎血管拡張術などの方法に用いられ、血管あるいはその他の体腔に形成された狭窄部を拡張するために用いられる。以下の説明では、本実施形態のバルーンカテーテル2をPTCAに用いる場合を例として説明する。
【0041】本実施形態の拡張用バルーンカテーテル2は、いわゆるモノレール方式のバルーンカテーテルであり、バルーン部4と、カテーテルチューブとしての外チューブ6と、コネクタ8とを有する。外チューブ6は、比較的柔軟性のある第1外チューブ部材6aと、当該第1外チューブ部材6aに接合部9にて接合される比較的剛性が高い第2外チューブ部材6bとで構成してある。
【0042】本実施形態は、内チューブの近位端開口部が、第1外チューブ部材6aの長手方向の途中に位置するチューブ壁を貫通して外部に開口し、内チューブの近位端開口部と、第1外チューブ部材6aのチューブ壁とが気密に熱融着してある構造を採用することにより、バルーンカテーテルの遠位端部のみが、いわゆる同軸構造のカテーテルチューブ構造となるものである。
【0043】本実施形態では、図1(C)に示すように、第2外チューブ部材6bの横断面外形形状は、Y軸方向に細長い楕円形状を有し、外チューブ部材6の断面で、Y軸と垂直なX軸方向のカテーテルチューブの最大断面幅xmと、Y軸方向の最大断面幅ymとの比(xm/ym)が、0.8〜0.1の範囲にあり、断面半円形の第3ルーメン24および断面円形の第4ルーメン26が、前記Y軸方向に沿って分離して形成してある。
【0044】第3ルーメン24の半円形の横断面積は、バルーン拡張用圧力流体が流通するために十分な横断面積であれば良く、特に限定されないが、好ましくは0.08〜0.20mmである。また、第4ルーメン26の円形の横断面積は、内部に補強ロッド28が挿入されるために十分な面積であれば良く、特に限定されないが、好ましくは0.05〜0.5mm、さらに好ましくは0.1〜0.2mmである。
【0045】本実施形態では、第2外チューブ部材6bの断面において、Y軸方向の最大断面幅ymは、0.6〜1.2mm程度が好ましい。第2外チューブ部材6bの遠位端は、断面円形の第1外チューブ部材6aの近位端に対して接合されるため、その接合部9付近の横断面形状は、第1外チューブ部材6aとの円形断面形状と一致させるために、接合部9に向けて、異形断面から円形断面に徐々に変化するような断面形状とする。
【0046】この第2外チューブ部材6bの長手方向に沿って形成された第3ルーメン24は、第1外チューブ部材6aの第1ルーメン10と連通し、これらを通して、バルーン部4の拡張用空間に流体の出し入れを行う。第2外チューブ6bの第4ルーメン26は、補強ロッド28を挿入するためのルーメンであり、第1外チューブ部材6aの第1ルーメン10とも連通するが、このルーメン26の近位端は、コネクタ8の部分で閉じられており、流体の出入りは行わない。コネクタ8には、第2外チューブ部材6cの近位端部が連結され、第2外チューブ6bの第3ルーメン24に対して連通するポートが形成してある。ポートは、圧力流体の出入りを行う部分であり、第4ルーメン26には連通しないようになっている。
【0047】図1(B)、(C)および(F)に示す補強ロッド28は、第2外チューブ部材6bの第4ルーメン26の内部に、全長に亘り挿入され、その遠位端部は、第1外チューブ部材6aとの接合部9を乗り越えて、第1外チューブ部材6aの第1ルーメン10内に飛び出している。補強ロッド28の近位端部は、断面円形であり、途中から遠位端側に向けてテーパ状に細くなり、さらに遠位端部では、断面平板形状に成るように、その断面形状が徐々に変化している。断面平板状の補強ロッド28の遠位端部は、図1(D)および図2に示すように、内チューブ12の近位端開口部22をも僅かに(好ましくは1〜10cm程度)乗り越えた位置で、第1外チューブ部材6aの内壁に対して熱融着または接着などの手段で接合してある。
【0048】なお、補強ロッド28の最大外径は、第2外チューブ部材6bの第4ルーメン26の内部に挿入可能に決定され、特に限定されないが、好ましくは0.3〜0.6mmである。
【0049】図1および図2に示すバルーン部4は、両端部が縮径された筒状の膜体で構成され、その膜厚は、10〜40μm、好ましくは15〜35μmである。バルーン部4は、筒状であれば、特に限定されず、円筒または多角筒形状でも良い。また、拡張時のバルーン部4の外径は、通常1.5〜10.0mm程度、好ましくは、3〜7mmである。バルーン部4の軸方向長さは、特に限定されないが、15〜50mm、好ましくは20〜40mmである。拡張する前のバルーン部4は、内チューブ12の周囲に折り畳まれて巻き付けられ、可能な限り外径が小さくなっている。
【0050】図2に示すように、第1外チューブ部材6aの遠位端部外周には、バルーン部4の近位端部5が熱融着または接着などの手段で接合してあり、第1外チューブ部材6aの第1ルーメン10がバルーン部4の内部拡張用空間と連通するようになっている。バルーン部4の遠位端部7は、内チューブ14の遠位端部外周に対して熱融着または接着などの手段で接合してあり、バルーン部4の内部拡張用空間は、第1ルーメン10以外では、外部に対して密封してある。第1外チューブ部材6aの第1ルーメン10は、バルーン部4の内部拡張空間に流体を送り込み、バルーン部4を拡張させたり、流体をバルーン部4の拡張空間から抜き取りバルーン部4を収縮させたりするための通路である。
【0051】図2に示すように、内チューブ12は、バルーン部4の拡張空間および第1外チューブ部材6aの遠位端側第1ルーメン10の内部を同軸状に軸方向に伸び、いわゆる同軸構造のカテーテルチューブ構造となっている。バルーン部4の内部に位置する内チューブ12の外周には、造影リング15が装着してあり、バルーンカテーテル2を生体内に挿入する際に、生体の外部からX線などで造影リング15の位置を造影が可能になっている。造影リング15の材料としては、金、白金、タングステンなどの金属が例示される。
【0052】内チューブ12の内部には、第2ルーメン14が形成してあり、その遠位端開口部20は、バルーン部4の遠位端部7で開口している。内チューブ12の近位端開口部22は、第1外チューブ部材6aの長手方向の途中に位置するチューブ壁の貫通孔21を貫通して外部に開口している。内チューブ12の近位端開口部22の周縁と、第1外チューブ部材6aのチューブ壁の貫通孔21の周縁とは、後述する熱融着方法により気密に接合してある。内チューブ12の近位端開口部22の形状は、特に限定されず、円形、楕円形など種々の形状を採り得るが、本実施形態では、図5に示すように、内チューブ12の開口端部を斜めに切断した楕円形状である。内チューブ12の第2ルーメン14は、バルーンカテーテル2を体腔内に案内するための図2に示すガイドワイヤ42が挿通するガイドワイヤ挿入用ルーメンとなる。
【0053】内チューブ12は、第1外チューブ部材6aと同様な材料の軟質合成樹脂で構成することができるが、第1外チューブ部材6aよりも硬質の合成樹脂で構成しても良い。内チューブ12の近位端開口部22が第1外チューブ部材6aの外側に開口する位置は、第1外チューブ部材6aの遠位端から長さL1の位置であることが好ましく、長さL1は、好ましくは150〜350mm、さらに好ましくは200〜300mmである。
【0054】第1外チューブ部材6aの外径は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜5mm、さらに好ましくは0.5〜1mmである。第1外チューブ部材6aの肉厚は、特に限定されないが、好ましくは0.05〜0.5mm、さらに好ましくは0.1〜0.2mmである。
【0055】内チューブ12の外径は、第1外チューブ部材6aとの間に隙間が形成されるように決定され、特に限定されないが、好ましくは0.3〜3mm、さらに好ましくは0.3〜0.8mmである。内チューブ12の内径は、ガイドワイヤ42を挿通できる径であれば特に限定されず、例えば0.15〜1.0mm、好ましくは0.25〜0.6mmである。
【0056】本実施形態では、開口部22付近から近位端側の第1外チューブ部材6aの強度を補強するために、図2に示すように、補強ロッド28を、開口部22付近から近位端側の第1外チューブ部材6aの内部に配置しても良い。この補強ロッド28の近位端部は、断面円形であり、途中から遠位端側に向けてテーパ状に細くなり、さらに遠位端部では、断面平板形状に成るように、その断面形状が徐々に変化している。断面平板状の補強ロッド28の遠位端部は、図2に示すように、内チューブ12の近位端開口部22を僅かに(好ましくは1〜10cm程度)乗り越えた位置で、第1外チューブ部材6aの内壁に対して熱融着または接着などの手段で接合してある。
【0057】なお、補強ロッド28は、ステンレス鋼、銅、銅合金、チタン、チタン合金などの金属材料、あるいはポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂で構成してある。補強ロッド28の最大外径は、第1外チューブ部材6aのルーメン10を塞がないように決定され、特に限定されないが、好ましくは0.3〜0.6mmである。
【0058】第1外チューブ部材6aは、例えばバルーン部4と同様な材料で構成されて良いが、可撓性を有する材料で構成されることが好ましい。例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル(PVC)、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリイミド、ポリイミドエラストマー、ポリ四フツ化エチレン樹脂、四フツ化エチレン−六フツ化プロピレン共重合樹脂、四フツ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、三フツ化塩化エチレン樹脂、四フツ化エチレン−エチレン共重合樹脂、ポリフツ化ビニリデン樹脂、ポリフツ化ビニル樹脂、シリコーンゴム、天然ゴム等が挙げられる。なかでも、ポリエチレン、ポリアミド、ポリイミドが好ましい。また、当該第1外チューブ部材6aの硬さは、JIS硬度が50A〜90A程度のものを用いることができる。
【0059】第2外チューブ部材6bは、前記第1外チューブ部材と同様な材料で構成される。当該第2外チューブ部材6bの硬さは、JIS硬度が50D〜75D程度のものを用いることができる。
【0060】なお、本実施形態では、第1外チューブ部材6a及びフツ素樹脂製第2外チューブ部材とから成る外チューブ6の外周には、湿潤状態で潤滑性を持つ親水性高分子物質から成る被覆材が被覆してあることが好ましい。
【0061】
【発明の効果】かくして本発明によれば、バルーンの膜厚が薄く、かつ、その破壊強度が大幅に向上したバルーンカテーテル用バルーンが提供される。本発明のバルーンカテーテル用バルーンは、通常、結晶性ポリエチレン樹脂の融点近傍(110℃)でブロー成形して得られるバルーンと比較して、バルーンの膜厚が薄く、その破壊強度が高いことから、バルーンカテーテルを細径化し、さらに、バルーン拡張のための高圧力に耐えることができ、例えばPTCAバルーンカテーテルとして使用した場合は、血管狭窄部分を拡張する際の安全性が極めて優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1(A)は、本発明の実施形態に係るバルーンカテーテルの全体構成図、図1(B)は図1(A)に示すIB−IB線に沿う断面図、図1(C)は図1(A)に示すIC−IC線に沿う断面図、図1(D)は図1(A)に示すID−ID線に沿う断面図、図1(E)は図1(A)に示すIE−IE線に沿う断面図、図1(F)はバルーンカテーテルのカテーテルチューブ内に挿入される補強ロッドの側面図である。
【図2】 図2は図1(A)に示すバルーンカテーテルの要部縦断面図である。
【図3】 図3(A)は、ブロー成形機にパリソンを固定したときの要部断面図、図3(b)は、ブロー成形により得られたバルーンの斜視図である。
【符号の説明】
2… バルーンカテーテル
4… バルーン部
6… 外チューブ
6a… 第1外チューブ部材
6b… 第2外チューブ部材
8… コネクタ
10… 第1ルーメン
12… 内チューブ
14… 第2ルーメン
20… 遠位端開口部
21… 貫通孔
22… 近位端開口部
24… 第3ルーメン
26… 第4ルーメン
28… 補強ロッド
28a… 補強部材
54,56,60… マンドレル
7a… パリソン
7b…上部チャック
7c…下部チャック
7d…加熱ヒーター
7e…バルーン本体
7f…バルーンカテーテル本体との接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリオレフイン系樹脂からなる架橋チューブを用いてブロー成形により成形されたバルーンであって、前記バルーンの膜厚が10〜40μmであり、前記バルーンの破断強度が800〜2000kgf/cmであることを特徴とするバルーンカテーテル用バルーン。
【請求項2】 ポリオレフイン系樹脂からなるチューブを電子線架橋して、ゲル含量が0.2〜0.8%である架橋チューブを調製する工程と、前記ポリオレフイン系樹脂の融点よりも10℃以上低い温度で、前記架橋チューブに1次ブロー圧を負荷し、次いで、前記架橋チューブに前記1次ブロー圧よりも低い圧力である2次ブロー圧を負荷することにより該架橋チューブからバルーンに至る有効延伸倍率が500〜1000%となるように、ブロー成形してバルーン部を調製する工程とを有する、請求項1に記載したバルーンカテーテル用バルーンの製造方法。
【請求項3】 少なくとも一つのバルーン拡張用ルーメンが長手方向に沿って形成してある外チューブと、前記外チューブの遠位端部にバルーン部の近位端部が接合され、前記バルーン拡張用ルーメンと内部が連通するバルーン部と、前記バルーン部の内部に密閉された拡張用空間を形成するように、バルーン部の遠位端部が内チューブの遠位端部に接合され、前記バルーン部の内部と前記外チューブのバルーン拡張用ルーメンの内部とに軸方向に延在する内チューブとを有し、前記バルーン部が、ポリオレフイン系樹脂からなる架橋チューブを用いてブロー成形により成形されたバルーンであって、前記バルーンの膜厚が10〜40μmであり、前記バルーンの破断強度が800〜2000kgf/cmであることを特徴とするバルーンカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−29449(P2001−29449A)
【公開日】平成13年2月6日(2001.2.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−205064
【出願日】平成11年7月19日(1999.7.19)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】