説明

バレルめっき装置

【課題】バレルを回転させるための駆動機構や支持機構をめっき液外に配置し、バレルに対する取扱いが簡単なバレルめっき装置を提供する。
【解決手段】軸方向一端側に開口部を有するバレルを、その軸方向他端側を下方に向けて傾斜させた状態で回転させるバレルめっき装置であって、バレル20の開口部の周囲に形成されたフランジ部23を、装置フレーム1に水平面に対して所定角度傾斜した状態で回転自在に保持された環状の回転盤30に支持する。バレル20の下端側をめっき槽10のめっき液Pに浸漬する。めっき槽10外には、回転盤30を回転駆動させる駆動機構45が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバレルめっき装置、特に傾斜バレルを用いたバレルめっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チップ型電子部品のような小型の被めっき物にめっきを行う場合、低コストで大量に処理できるバレルめっき法が広く用いられている。バレルめっき法とは、バレルと呼ばれる容器の中に多数の被めっき物と攪拌補助材とを収容し、バレルをめっき液中に全没または半没させて回転させることにより、被めっき物を攪拌・混合しながら被めっき物の表面にめっきを行う方法である。バレルの回転方式には一般的に、水平式(バレル回転軸が水平)と傾斜式(バレル回転軸が傾斜)との2通りがある。
(1)
【0003】
めっきにおける攪拌補助材としては、一般的に下記の様な部材が使用されており、各々のめっき条件に合わせて適量化して添加している。
(1)無電解めっきにおける攪拌補助材
素子浮き抑制玉、くっつき抑制メディア、(犠牲金属メディア:接触めっき)
(2)電解めっきにおける攪拌補助材
素子浮き抑制玉、くっつき抑制メディア、導電性メディア
【0004】
特許文献1には、バレルを水平に支持してめっき処理を行うバレルめっき装置が開示されている。バレルの両側面が開口しており、被めっき物の出し入れを可能とすると共に、バレルを昇降させる機構、及びバレルを上昇させたところで傾斜させて被めっき物を取り出す機構を設けている。めっき処理は、バレルをめっき槽へ降下させ、バレルをめっき液に浸漬した後、バレルめっき装置の外部に設けた駆動装置から伝達機構を介してバレルを水平回転させることで行っている。この装置の長所はバレルを水平回転させることにより、傾斜回転式バレルより攪拌性能が良好な点である。一方、欠点はバレルの昇降、傾動などの機構が必要であり、大型の自動めっき装置が前提となる点である。
【0005】
特許文献2には、バレルを傾斜状態で支持してめっき処理を行うバレルめっき装置が開示されている。バレルの一側面に開口が設けられ、被めっき物の出し入れを可能とすると共に、開口とは反対側の側面にバレル回転用の駆動ギヤを設け、上部に設けた駆動モータによる回転をバレルの駆動ギヤに伝達して、バレルを回転させる伝達機構を設けている。めっき処理を行うには、バレル装置をめっき処理槽へ降下させ、バレルをめっき液に浸漬した後、バレルを傾斜状態で回転させることで行っている。この装置の長所は、片側にしかバレルを支持する機構がなく、バレルの脱着が容易な構造が採りやすい点である。一方、欠点はバレルが片持ちのために、耐荷重を確保するための構造体が大きくなる事、または傾斜角度を制限する必要があることである。
【0006】
一般的に、バレルめっき装置は、被めっき物のこぼれ防止のために、バレルに被めっき物の出し入れ用の蓋を設けた構造になっている。しかし、めっき作業の簡便化や自動化のために、先行技術に示すような開口式のバレルが考案されている。しかし、これらのバレルめっき装置を用いてめっき処理を行う場合、下記のような問題点がある。
【0007】
めっき処理の対象となる電子部品に関しては、小型化だけでなく、部品形状、電極形状や電極金属の多様化が進展しており、それに伴ってめっき方式も電解めっきでなく、無電解めっきが採用されることが増えている。一般的に、無電解めっきでは、電解めっきと比べてめっき液のライフが短い。また、液のライフを延ばすために、大規模な再生装置を設けるとか、高度な液管理を行う必要がある。何れの場合でも、電解めっきと比べて無電解めっきのコストを押し上げる要因となる。
【0008】
先行技術で示したバレルめっき装置では、バレル部をめっき液に浸漬してバレルの回転・攪拌を行う機構となっている。このため、めっき液に浸漬する必要がある構造物は、バレル本体の他、駆動部や同支持部などが含まれる。特に開口・傾斜式(特許文献2)では、バレルの保持が片側だけになるため、保持や同支持部の耐荷重を大きくする必要上、構造が大型になる問題がある。その結果、めっき槽の大型化に繋がり、バレルの浸漬のために必要以上のめっき液を使用することになる。
【0009】
上述の電極金属の多様化に関しては、多層の電極形成を行う部品が増えている。一般的にNi、Cu、Sn、Pd、Auなどが用いられ、これら金属を2,3種組み合わせた多層電極のめっきが行われている。特許文献1で示されたバレルめっき装置では、機械化された自動めっき装置でないと適用が難しいと考えられるが、このような自動化されためっき装置では、バレル本体への取扱い(例えば、被めっき物に合わせたバレル仕様の適用のためにバレル本体を交換する、めっき処理条件に合わせてバレル内に適量の攪拌補助材を追加添加するなど)の場所や時期が、めっき装置外にバレル本体が出ている時点に制約される。そのため、取扱が難しいという問題がある。
【0010】
特許文献2で示されたバレルめっき装置では、バレルを取り扱う際には、バレル本体だけでなく駆動モータ他を含めたバレルめっき装置全体を持ち上げる必要がある。このため、生産性を上げるために装置の大型化を行う場合、人手で簡単に扱える重量を超えてしまう可能性がある。また、バレルを回転させるための駆動機構がバレルの底部に位置しており、めっき液に浸漬されているため、めっき槽のサイズが大型になるという欠点がある。さらに、この事例でも特許文献1と同様に、バレルめっき装置全体をめっき槽から持ち上げた状態でないと、バレル本体への取扱いが出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭60−77995号公報
【特許文献2】特許第3650081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の目的は、バレルに対する取扱いが簡単なバレルめっき装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明は、胴部の軸方向一端側に開口部を有する筒形のバレルを備え、前記胴部の軸方向他端側を下方に向けて傾斜させた状態で、その軸線を中心軸として回転させ、前記バレルの中に投入された被めっき物をめっきするバレルめっき装置において、装置フレームと、前記バレルの開口部の周囲に形成されたフランジ部と、前記装置フレームに水平面に対して所定角度傾斜した状態で回転自在に保持され、前記バレルの胴部を挿通自在で、かつフランジ部の下面を支持する環状の回転盤と、前記バレルのフランジ部を前記回転盤に傾斜状態で支持した状態で、前記バレルの胴部の軸方向他端側を浸漬するためのめっき液を貯留しためっき槽と、前記めっき槽外に設けられ、前記回転盤を回転駆動させる回転駆動機構と、を備えたことを特徴とするバレルめっき装置を提供する。
【0014】
本発明のバレルめっき装置では、バレルの下部だけがめっき液に浸漬しており、バレルを回転駆動機構に取り付けている部分や、回転駆動機構自体はめっき槽外にある。従って、バレルの回転が停止さえしておれば(安全対策があれば回転中でも)、何時でも容易にバレル内へのめっき処理に用いる攪拌補助材などの供給が可能となる。また、バレルの脱着は、バレルを回転盤に対して挿脱するだけで、めっき槽の状態に関わらず簡単に実施できる。前記構造とすることで、バレルを浸漬するためのめっき槽の大きさは、バレルの大きさに合わせる事が出来る。従来方式の様に、バレルの回転駆動機構までめっき槽に浸漬する必要が無いので、めっき槽のサイズを小さくでき、めっき液量も削減できる。バレル自体に駆動用モータや駆動伝達部などがなく、バレルのみで構成されるので、バレルは軽量になり、バレルの脱着や搬送など、人手での取り扱いが容易になる。
【0015】
回転盤は、装置フレームに周方向複数箇所に設けられた支持ローラによって傾斜姿勢を保持したまま回転自在に支持されている構成が好ましい。回転板を複数の支持ローラによって支持することで、回転盤にバレルの重量がかかっても、安定した傾斜姿勢を維持しながら、円滑に回転できる。
【0016】
回転盤は、バレルのフランジ部の下面を支持する支持板部と、フランジ部近傍の胴部外周を支持するガイド部とを有するものが望ましい。回転盤がフランジ部の下面だけを支持する構造でもよいが、バレルには鉛直方向の荷重の他に水平軸を支点として下方への回転モーメントが作用するため、応力がフランジ部に集中する。そこで、バレルの胴部外周を支えるガイド部を回転盤に設け、このガイド部でバレルにかかる回転モーメントの一部を支えることで、フランジ部への応力集中を緩和できる。
【0017】
回転駆動機構は、回転盤の外周部に設けられた従動プーリと、駆動用モータと、当該モータに取り付けられた駆動プーリと、当該駆動プーリと従動プーリとの間に巻きかけられたベルトと、を備えた構成としてもよい。モータの回転を回転盤に伝達する伝達機構としてギヤ機構を用いてもよいが、ベルト伝動機構を用いた場合には、モータ配置の自由度が向上する。
【0018】
回転盤の外周面には2本のレール溝が周回状に形成され、支持ローラは、回転盤のレール溝に係合する一対の車輪部を備え、回転駆動機構は、回転盤の外周面のレール溝の間に設けられた従動プーリと、駆動用モータと、当該モータに取り付けられた駆動プーリと、当該駆動プーリと従動プーリとの間に巻きかけられたベルトと、を備え、ベルトは、支持ローラと接触することなく、一対の車輪部の間に挿通されている構成としてもよい。この場合には、回転盤の支持機構と回転伝達機構とを軸方向にオーバーラップして配置できるので、回転盤の軸長を短くでき、ひいてはバレルの軸長を短くできる。また、各支持ローラは2本のレール溝に係合する一対の車輪部を備えているので、回転盤に加わる回転モーメントをより安定して支持できる。
【0019】
めっき槽は、バレルの胴部の軸方向他端側の下側を覆うように、上向きに開いた形状であるのば望ましい。バレルを傾斜させて回転させると、内部に収容された被めっき物及び攪拌補助材はバレルの下側コーナー部に集まるため、めっき液はこのコーナ部に集まった被めっき物及び攪拌補助材を浸漬できる程度の量で足りる。そこで、めっき槽が、バレルの胴部のうちめっき液に浸漬される部分だけを覆うような形状とすることで、小型となり、めっき液も少量で済む。また、開放しためっき槽の上部から温度センサや液面センサなどの各種センサを挿入できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バレルの下部だけがめっき液に浸漬しており、バレルを回転駆動機構に取り付けている部分や、回転駆動機構自体はめっき槽外にあるため、バレル内へのめっき処理に用いる攪拌補助材の供給など、取扱いが容易になる。また、バレルの脱着もめっき槽の状態に関わらず可能である。バレルの回転駆動機構までめっき槽に浸漬する必要がないので、めっき槽のサイズを小さくでき、バレルの浸漬のために必要以上のめっき液を使用することがない。バレル自体に駆動用モータや駆動伝達部などがないので、バレルは軽量になり、バレルの脱着や搬送など、人手での取り扱いが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係るバレルめっき装置の側面図である。
【図2】図2に示すバレルめっき装置の一部の拡大断面図である。
【図3】図2に示すバレルめっき装置に使用される回転盤とバレルの斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るバレルめっき装置の側面図である。
【図5】図4に示すバレルめっき装置の正面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔実施形態1〕
本発明に係るバレルめっき装置の第1実施形態について、図1〜図3を参照しながら説明する。このバレルめっき装置は、装置フレーム1、温水加熱槽5、めっき槽10、バレル20、回転盤30、駆動用モータ40等を備えている。
【0023】
装置フレーム1内には温水加熱槽5が設置されている。温水加熱槽5には温水が貯留され、温水加熱ヒータ6で温水を所定の温度に調節できるようになっている。めっき槽10にはめっき液Pが所定量貯留されており、めっき槽10を温水加熱槽5内の温水に浸漬することにより、めっき液Pの間接加熱を行い、所定のめっき処理温度に調節している。めっき槽10は、後述するバレル20の下部を覆い、かつバレル20と干渉しないように、上向きに開いた載頭円錐台形状となっている。めっき槽10の底部には、めっき液Pを排出するための排水配管11が接続されている。
【0024】
装置フレーム1の天井部には、温水加熱槽5への給水配管7と、めっき槽10への給水配管12とが設置されている。さらに、装置フレーム1から温水加熱槽5に向かって、温水の温度を検出する温度センサ/液面センサ8が垂設され、装置フレーム1からめっき槽10内に、めっき液Pの温度を検出する温度センサ/液面センサ13が垂設されている。
【0025】
バレル20は、図3に示すように、六角筒状の胴部21を備えており、胴部21の軸方向一端側に開口部22と、開口部22の周囲に円板状のフランジ部23とが一体に形成されている。胴部21の軸方向他端側には、先端に向かって先細なテーパ部24と、その先端に平坦な底部25とが形成されている。胴部21の軸方向他端側には、胴部21の内外を連通させるメッシュなどからなる連通部26が設けられている。
【0026】
装置フレーム1の前面には、水平面に対して約45°傾斜した傾斜板2が固定されている。傾斜板2の表面側には、この傾斜板2に対して間隔をあけて平行にカバー部材3が固定されている。傾斜板2及びカバー部材3には、それぞれ穴2a,3aが形成され、この穴の周囲に複数の支持ローラ4が、傾斜板2とカバー部材3とによって両端支持された状態で回転自在に取り付けられている。この例では120°間隔で3個の支持ローラ4が配置されているが、支持ローラ4の個数は3個以上であれば任意である。これら支持ローラ4によって回転盤30が傾斜状態で回転自在に支持されている。この例では回転盤30は、水平面に対して約45°傾斜した状態で支持されているが、傾斜角度は例えば35°〜50°の範囲で任意に設定できる。図3に示すように、回転盤30には中央穴31が形成されており、中央穴31の上端部周囲にフランジ状の支持板部34が形成され、回転盤30の軸方向中間部には従動プーリ32が一体に形成されている。なお、別体の従動プーリ32を回転盤30に固定してもよい。回転盤30の下端部には、下方へ延びる円筒状のガイド部33が一体に形成されている。
【0027】
回転盤30の中央穴31には、バレル20の胴部21が挿入され、フランジ部23の下面を回転盤30の支持板部34の上面で支持することで、バレル20を傾斜状態で支持している。なお、バレル20のフランジ部23と回転盤30とをボルトやクランプ等の締結具によって締結することで、バレル20を回転盤30に対して着脱可能に固定できる。バレル20の胴部21の外周の一部は回転盤30(ガイド部33を含む)の中央穴31の内面によって支持され、バレル20に加わる回転モーメントを支えることができる。バレル20を回転盤30に支持した状態で、胴部21の軸方向他端側がめっき槽10内に挿入される。このとき、胴部21の軸線とめっき槽10の一斜面とが平行で、かつバレル20の底部25とめっき槽10の反対側斜面とが平行になるように、バレル20の傾斜角を設定することにより、バレル20とめっき槽10との隙間を狭くでき、めっき液Pの無駄を少なくできる。この例では、バレル20の底部側にテーパ部24が形成されており、このテーパ部24をめっき槽10の底面とほぼ平行にすることで、めっき液の無駄をさらに少なくできる。
【0028】
図2に示すように、従動プーリ32の外周面には、軸方向に間隔をあけて2本のレール溝32aが形成され、レール溝32aの中間にプーリ溝32bが形成されている。支持ローラ4は、レール溝32aに係合する一対の車輪部4aを備えており、これら車輪部4aによって従動プーリ32、ひいては回転盤30を傾斜状態で回転自在に支持している。プーリ溝32bには後述するベルト43が巻きかけられるが、ベルト43は支持ローラ4と接触しないように車輪部4aの間に挿通される。
【0029】
装置フレーム1の傾斜板2の下部には、駆動用モータ40が固定されており、モータ40の回転軸41には駆動プーリ42が固定されている。駆動プーリ42と、回転盤30に固定された従動プーリ32との間には、ベルト43が巻きかけられている。これらモータ40、駆動プーリ42、従動プーリ32及びベルト43によって、バレル20を回転駆動させる回転駆動機構45が構成されている。
【0030】
ここで、前記構成よりなるバレルめっき装置の作動について説明する。まず最初に、バレル20を回転盤30の中央穴31に挿入し、回転盤30に固定する。このとき、バレル20の下端部がめっき槽10内に貯留されためっき液Pに浸漬される。めっき液Pは、温水加熱槽5に貯留された温水の液温度を調節することによって、所望の温度に設定されている。次に、バレル20上部の開口部22よりワーク(被めっき物と攪拌補助材)を投入する。そして、駆動用モータ40を駆動し、回転盤30と一体にバレル20を回転させてめっき処理を行う。めっき処理終了後はめっき液Pを排水配管11を経て排水すると共に、給水配管12より水洗水を給水し、めっき槽10の洗浄を行った後、バレル20を回転盤30から取り出し、次の工程へ搬送する。なお、めっき処理に影響が無ければ、複数種のめっき処理を連続して行ってもよい。
【0031】
例えば、被めっき物に合わせたバレル仕様の適用のためにバレル20を交換したり、めっき処理条件に合わせてバレル20内に適量の攪拌補助材を追加添加するなどの、バレル20への取扱い作業を行うことがある。本発明にかかるバレルめっき装置では、バレル20の開口部22が常時上向きに開放しているので、バレル20の回転が停止さえしておれば(安全対策があれば回転中でも)、何時でも容易にバレル20内への攪拌補助材などの供給が可能となる。また、バレル20の脱着は、バレル20を回転盤30に対して挿脱するだけで、めっき槽10の状態に関わらず簡単に実施できるので、複数の金属を組み合わせた多層電極のめっきを行う場合でも、簡単に実施できる。このようにバレル20への取扱いの場所や時期が、めっき装置外にバレル20が出ている時点に制約されず、取扱いが容易になる。また、一般に無電解めっきでは1回毎にめっき液Pを交換する必要があるが、めっき槽10はバレル20の下端部を浸漬するだけのめっき液Pを貯留すればよいので、比較的少量のめっき液で足り、コスト低減できる。
【0032】
上述のようにバレル20を傾斜状態で支持しているため、バレル20の重量によって回転盤30にかかる荷重が大きくなるが、複数個の支持ローラ4を配置する事で回転盤30を安定して保持でき、バレル20の回転時の芯振れをなすくことができる。この構造を採用できるのも、回転伝達機構及びバレル荷重支持機構がめっき槽10の外にあり、めっき槽10のサイズに影響を与えないという長所によるものである。また、同時に回転伝達機構及びバレル荷重支持機構の材質及び耐摩耗対策として、潤滑材等の選択肢を広げ、有効且つ容易に装置を製作することができる。
【0033】
本バレルめっき装置の効果を列記すると以下の通りである。
(1)めっき装置上部・前面からバレルのみを脱着出来る。回転駆動機構とは別にバレルのみを取り扱うことができるので、バレルは先行技術と比べて大幅に軽量化でき、人手での取扱いが容易である。
(2)バレルの開口部がめっき槽内になく、めっき処理に関係なく関与できる。このことは、被めっき処理品のめっき途中の抜き取りにより品質確認、めっき処理の持続、厚付け化のためのめっき液やメディアのめっき途中での補充などが可能となり、めっき品質、めっきコスト低減に寄与する。
(3)めっき装置に組み込まれた回転盤にバレルを取付けており、めっき槽壁とバレルの隙間は構造上で規制できる。このため、めっき槽壁とバレルとの隙間を小さくしてもバレルを回転させた場合に、バレルがめっき槽壁に接触又は衝突して何れか又はどちらもが損傷を受けることがない。このため、めっき槽サイズをバレルのサイズに応じて小さくすることが可能となる。この事により、ワークを浸漬させるために必要なめっき液量を極小化できる。
(4)バレルのみをめっき槽に入れる事で、先行技術の様にバレル駆動伝達部、支持部までも含めたバレル装置と比べて、めっき槽サイズを小さく設計できる。この事も必要めっき液の削減に繋がる。
(5)回転駆動、伝達機構及びバレル荷重支持機構がめっき槽外にあり、めっき液と接触しないので、それらに使用することができる材質及び耐摩耗対応としての潤滑材等の選択肢を広げる事が出来る。この事により、耐荷重性能を高める事や安価な部品の使用が可能となり、有効且つ容易に装置製作を可能としている。
(6)バレルをめっき液に浸漬させるためにバレル全長が長くなるが、設計自由度が広い事と、バレル荷重を受ける回転機構部を大口径且つ複数点で支持する事で、バレル全長増による必要耐荷重増に対応できる。
【0034】
〔実施形態2〕
図4〜図6は本発明に係るバレルめっき装置の第2実施形態を示す。このバレルめっき装置は、バレル回転機構と温水加熱槽及びめっき槽が一体となった傾斜型めっき装置である。めっき装置が具備する要素は第1実施形態と同じであるが、温水加熱槽及びめっき槽をバレル回転機構部と連結一体化して、その全体の傾斜角を可動化している。第1実施形態と共通する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0035】
装置フレーム1の傾斜板2の左右両側部には、図6に示すように、ブラケット2bを介して一対の支軸2aが固定されており、支軸2aを装置フレーム1に設けた一対の軸受1aで回転自在に支持することで、傾斜板2は水平軸を支点として上下に傾動可能である。傾斜板2には、温水加熱槽5、めっき槽10、駆動用モータ40等が固定されている。また、傾斜板2には、複数の支持ローラ4を介して回転盤30が回転自在に取り付けられており、回転盤30に対してバレル20を挿脱自在である。回転盤30上には一対のクランプ35が設けられ、これらクランプ35によってバレル20のフランジ部23を回転盤30の支持板部34上に押圧保持できる。一方の支軸2aは、チェーン等の伝達機構を介して、装置フレーム1の側部に設けられた回転ハンドル50に連結されている。このハンドル50を回すことにより支軸2aが回転し、温水加熱槽5、めっき槽10、回転盤30(バレル20)、駆動用モータ40等を一体的に傾動させることができる。被めっき品毎へのめっき処理条件に応じて、傾斜板2の傾斜角を変更することで、回転盤30に装着されたバレル20の傾斜角を任意に変更できる。
【0036】
本実施形態では、温水加熱槽5はめっき槽10の外周を覆うように筒形に形成され、めっき槽10もバレル20の外周を覆うように筒形に形成されている。温水加熱槽5の外周にはヒータ6が装着されている。図4に示すように、温水加熱槽5及びめっき槽10には、フレキシブルな給水配管7、12がそれぞれ接続され、温水加熱槽5及びめっき槽10の傾動に対応している。
【0037】
本実施形態の場合には、第1実施形態と同様の効果に加えて、以下の効果がある。
(1)バレル傾斜角を任意(可動範囲:30°〜55°、実際上有効角:35°〜50°)に変更できる事により被めっき処理品毎への適正条件の設定が可能となる。
(2)めっき槽がバレルを筒型で囲うことで、第1実施形態の仕様より、更にめっき液の削減が可能となる。
(3)めっき槽、バレルが温水加熱槽で覆われている事により、めっき処理中における処理温度変化を抑制できる。
【0038】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、駆動用モータの回転を回転盤に伝達するために、ベルト伝動機構を用いたが、チェーン伝動機構を用いてもよいし、ギヤ機構を用いてもよい。ギヤ機構の場合には、駆動用モータの回転軸に駆動ギヤを固定し、回転盤の外周に従動プーリに代えてリングギヤを固定し、駆動ギヤとリングギヤとを直接又はアイドラギヤを介して噛み合わせればよい。この場合も、リングギヤをレール溝の間に設けることで、回転盤の軸長を短くできる。
【符号の説明】
【0039】
1 装置フレーム
2 傾斜板
3 カバー部材
4 支持ローラ
4a 車輪部
5 温水加熱槽
6 温水加熱ヒータ
7 給水配管
8 温度センサ/液面センサ
10 めっき槽
11 排水配管
12 給水配管
13 温度センサ/液面センサ
20 バレル
21 胴部
22 開口部
23 フランジ部
24 テーパ部
25 底部
26 連通部
30 回転盤
31 中央穴
32 従動プーリ
32a レール溝
32b プーリ溝
33 ガイド部
34 支持板部
40 駆動用モータ
42 駆動プーリ
43 ベルト
45 回転駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部の軸方向一端側に開口部を有する筒形のバレルを備え、前記胴部の軸方向他端側を下方に向けて傾斜させた状態で、その軸線を中心軸として回転させ、前記バレルの中に投入された被めっき物をめっきするバレルめっき装置において、
装置フレームと、
前記バレルの開口部の周囲に形成されたフランジ部と、
前記装置フレームに水平面に対して所定角度傾斜した状態で回転自在に保持され、前記バレルの胴部を挿通自在で、かつフランジ部の下面を支持する環状の回転盤と、
前記バレルのフランジ部を前記回転盤に傾斜状態で支持した状態で、前記バレルの胴部の軸方向他端側を浸漬するためのめっき液を貯留しためっき槽と、
前記めっき槽外に設けられ、前記回転盤を回転駆動させる駆動機構と、
を備えたことを特徴とするバレルめっき装置。
【請求項2】
前記回転盤は、前記装置フレームに周方向複数箇所に設けられた支持ローラによって傾斜姿勢を保持したまま回転自在に支持されていることを特徴とする請求項1に記載のバレルめっき装置。
【請求項3】
前記回転盤は、前記バレルのフランジ部の下面を支持する支持板部と、フランジ部近傍の胴部外周を支持するガイド部とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のバレルめっき装置。
【請求項4】
前記回転駆動機構は、前記回転盤の外周部に設けられた従動プーリと、駆動用モータと、当該モータに取り付けられた駆動プーリと、当該駆動プーリと前記従動プーリとの間に巻きかけられたベルトと、を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のバレルめっき装置。
【請求項5】
前記回転盤の外周面には2本のレール溝が周回状に形成され、
前記支持ローラは、前記回転盤のレール溝に係合する一対の車輪部を備え、
前記回転駆動機構は、前記回転盤の外周面の前記レール溝の間に設けられた従動プーリと、駆動用モータと、当該モータに取り付けられた駆動プーリと、当該駆動プーリと前記従動プーリとの間に巻きかけられたベルトと、を備え、
前記ベルトは、前記支持ローラと接触することなく、一対の車輪部の間に挿通されていることを特徴とする請求項2に記載のバレルめっき装置。
【請求項6】
前記めっき槽は、前記バレルの胴部の軸方向他端側の下側を覆うように、上向きに開いた形状であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のバレルめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−180464(P2010−180464A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26429(P2009−26429)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)