説明

バンコマイシン湿体の精製方法

本発明は、逆浸透圧を用いたバンコマイシン(vancomycin)湿体の精製方法に関するものであり、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液から得られる湿体を逆浸透圧濾過させた後、凍結乾燥させることによりバンコマイシンを得る。前記方法は、従来のバンコマイシン精製工程中の乾燥過程で発生する、低い安定性による純度低下問題を改善することにより、高純度バンコマイシンを製造することができる長所を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透圧を用いたバンコマイシン湿体の精製方法に関するものである。より具体的には、本発明は、バンコマイシン製造工程中の乾燥過程で発生する、低い温度安定性による純度低下を効果的に防止することができるバンコマイシン湿体の精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記式Iで表されるバンコマイシンは、放線菌(Actinomycetes)のうちの微生物、即ち、アミコルラトップシス・オリエンタルリース(AmycoLatopsis orientaLis)種(ATCC19795)菌株によって生産され、−O−バンコサミニル−O−グリコシルとヘプタペプチドとが化学的に結合して製造される、約1449の分子量を持つグリコペプチド系抗生物質であり、D−アラニル−D−アラニンで終わるムコペプチド前駆体に結合して細胞壁合成を阻害するメカニズムにより抗菌性を示す。主に、レンサ球菌(Streptococci)、ブドウ球菌(Staphy Lococci)、クロストリジウム・ディフィシル(CLostridium difficiLe)などのグラム陽性菌、及び、ペニシリンやセファロスポリン系抗生物質の耐性グラム陽性菌に対して優れた薬理効果を示す。
【化1】

【0003】
また、バンコマイシンは、手術後の患者、老齢患者、および免疫が弱い患者にとっては致死性であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の治療に効果が高いことが知られている。このようなバンコマイシン塩、特に、バンコマイシン塩酸塩は経口剤(液剤あるいはカプセル)、又は注射剤に常用されている。
【0004】
バンコマイシンを分離及び精製するための、従来から知られている代表的技術は、次の通りである:
【0005】
米国特許第7,018,814号及び韓国特許第554481号には、(a)バンコマイシンを含有する微生物醗酵液をpH1−3の条件下で強酸性陽イオン交換樹脂に通過させ、pHが9−11で濃度が0.05−0.2Nとなる水酸化アンモニウム水溶液に溶出させる段階;(b)得られる溶出液をpH3−5に調整した後、弱塩基性陰イオン交換樹脂及びアルミナに連続して通過させ、水で洗浄し、色素を除く段階;(c)得られる溶出液を疎水性吸着樹脂に通過させ、C1−4アルコール水溶液に溶出させる段階;及び(d)前記溶出液に塩酸を加えてpHを2−5に調整し、C1−4アルコール、アセトニトリル、アセトンまたはメチルイソブチルケトンを含む水溶性有機溶媒を加え、バンコマイシン塩酸塩を結晶化する段階を経ることによりバンコマイシン 塩酸塩を精製する方法が開示されている。
【0006】
前記特許によれば、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液を分離精製する過程において、結晶化方法により結晶体を得て濾過した後、濾過された沈殿物(結晶体)を真空乾燥(実施例においては40℃以下の温度で真空乾燥)することによりバンコマイシン塩酸塩を得ることができる。
【0007】
米国特許第5,853,720号には、最初に微生物醗酵液をシリカゲルカラムを用いるクロマトグラフィー(preparative chromatography)過程及び塩−水−エタノール溶液からエタノールを使用して沈殿させる過程を組み合わせるバンコマイシンの精製工程が開示されている。前記特許によれば、培養−精密濾過−イオン樹脂による吸着後、シリカゲルカラムで主分画物(main fraction:純度平均93%)及び副分画物(side fraction: 純度90%以下)を得る。前記主分画物の場合、濃縮−濾過−濃縮及び脱色が行われ、高温噴霧乾燥(流入空気温度:115〜130℃、排出空気温度:85±5℃)−真空乾燥(45〜50℃)を通じて乾燥された固形製品を得る。一方、副分画物の場合、酸性化後の逆浸透圧工程による脱塩及び濃縮−エタノール及び塩化ナトリウムを加えてエタノールを使用して沈殿(結晶化)−冷却及び濾過工程を経て、次にシリカゲルカラムに再び送られて主分画物に対する処理工程を行う。前記特許の場合、少なくとも7〜11段階の多段階を経るうえに、シリカゲルカラムによるバンコマイシン(塩)の純度については言及されているものの、その後の工程(特に、逆浸透圧及び真空乾燥)における純度変化については記載されていない。後述のように、前記特許は純度93%以上のバンコマイシンを得ることができるが、後続の乾燥工程(特に、高温噴霧乾燥及び45〜50℃での真空乾燥)過程において純度が低下することから、実質的にEU医薬品基準である純度93% 以上に適合した製品を製造し難くなる。
【0008】
しかしながら、前述した従来技術は、真空乾燥過程において真空乾燥期間1日〜2日間最低3.2%から最高5.6%まで純度が低くなるなど、バンコマイシンの安定性が低下する問題がある。また、温度を下げて25℃で真空乾燥過程を同じ期間に実施する場合、純度変化は1%未満を示したが、不純物であるエタノールを0.5%以上、水分を4〜10%まで含有することが確認された。
【0009】
このように、バンコマイシンは温度に敏感な医薬品であるから、真空乾燥温度を40〜50℃に設定する場合、純度に対する安定性を確保することができない。一方、真空乾燥温度を40℃以下に下げる場合には、エタノール含有量及び水分含量の基準に適合しないため、従来の精製工程の最終段階としての、乾燥製品の形態で生産する際に採択される真空乾燥方法は、安定した高純度バンコマイシンを効率的に生産しかねる。さらに、前記特許には主に分離精製過程に重点を置いており、乾燥過程における安定性低下及びこれによる純度低下の問題に対しては別に言及されていない。
【0010】
一方、EU医薬品基準に適合する、安定した高純度バンコマイシンのためのEU医薬品基準(EU薬典6.0)は純度93% 以上、水分含量最大5%に規格化されているが、エタノール含有量はICH Harmonised tripartite guideLine(Impurities:GuideLine for ResiduaL SoLvents)を参照して0.5%未満に規格化されている。
【0011】
このように、従来のバンコマイシン精製工程中の乾燥過程において、低い温度安定性による純度低下を防止し、各種医薬品関連基準を満たす精製工程の開発が必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、前述の従来技術の問題点を解決するために研究を続けた結果、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液からバンコマイシン(より具体的には、バンコマイシン塩酸塩のようなバンコマイシン塩)を精製する過程の中で得られる湿体を、逆浸透圧方式による濃縮及び凍結乾燥することにより、乾燥過程においても安定性が確保されて高純度バンコマイシンを製造することができる方法を開発するようになった。
【0013】
従って、本発明の目的は、バンコマイシンの精製工程中の乾燥過程において、安定性低下による純度低下を効果的に防止することができるバンコマイシン湿体の精製方法を提供することである。
【0014】
その他の目的は、EU医薬品基準などで要求される各種規格を満たすことができるバンコマイシン湿体の精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、
a)バンコマイシンを含有する微生物醗酵液から得られる湿体を約1〜40g/Lの濃度に水溶性溶媒に溶解させ、逆浸透圧濾過させる段階;及び
b)前記濾過されたバンコマイシンを凍結乾燥する段階;
を含むバンコマイシン湿体の精製方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるバンコマイシン湿体の精製方法は、従来のバンコマイシン精製工程中の乾燥過程で発生する安定性低下を改善することによって、高純度バンコマイシンを製造することができる長所を持つ。従って、今後、商用化の可能性が高いと判断される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1a〜1cは、実施例1によってバンコマイシンを含む湿体の精製工程中の純度変化を観察するために、それぞれ湿体、逆浸透圧濾過後の濃縮物及び凍結乾燥物に対するHPLC分析を行った結果を示した図面である。
【図2】図2は、実施例1〜4によってバンコマイシンを含む湿体の精製工程におけるバンコマイシンの純度変化を示す図面である。
【図3】図3は、比較例1によってバンコマイシンを含む湿体の精製工程におけるバンコマイシンの純度変化を示す図面である。
【図4】図4は、比較例3によってバンコマイシンを含む湿体の精製工程におけるバンコマイシンの純度変化を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は下記の説明により全て達成できる。下記の説明は本発明の好ましい具体例を示すものと理解されるべきであり、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本明細書において、「バンコマイシンを含有する微生物醗酵液」の微生物とは、バンコマイシンを生成して培養物中にバンコマイシンを蓄積できる微生物であればよく、特定の種に限定されるものではない。これに対する具体例は、米国特許第3,067,099号及び第5,235,037号、韓国特許第554481号などに記載されており、これらの文献は本発明の参考文献に含まれる。例えば、前述のように、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液は、アミコラトプシス・オリエンタリス(AmycoLatopsis orientaLis)、特にアミコラトプシス・オリエンタリス (AmycoLatopsis orientaLis)(ATT19795)、またはNocardia orientaLis、特にNocardia orientaLisNRRL2452を培養(または振盪培養)することにより得ることができる。
【0020】
本発明による方法はバンコマイシンを含有する微生物醗酵液から得られる湿体を対象として行われる。
【0021】
本発明において、「湿体」とはバンコマイシンを含有する微生物醗酵液からバンコマイシンを得る過程において水分を含有する状態で存在する状態を示し、ここで水分含量は、例えば、約10〜90%(w/v)、好ましくは約30〜50%(w/v)の範囲である。一般的には、精製過程の中、または、その後に結晶化(特に、エタノール結晶化)を行い、得られる結晶体を濾過させて乾燥していない状態であり、結晶体が水溶性有機溶媒と混合溶液である結晶化溶液から分離された状態を示す。また、前記湿体のバンコマイシン純度は好ましくは約93% 以上、より好ましくは約95% 以上であり、固形分含量は好ましくは約10〜90% 、より好ましくは約50%〜70%の範囲である。
【0022】
このように、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液から湿体を得るには、クロマトグラフィー、結晶化などの従来の分離精製工程(一般的には、結晶化による分離工程)が使用されている。具体的には、韓国特許公開第1998−39737号に開示されているように、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液を多段階を経て分離精製し、これを濃縮し、エタノール結晶化する過程で湿体を得ることができる。より具体的には、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液を多段階を経て分離精製し、約150〜200g/Lの濃度に濃縮した後、伝導率約15〜25ms/cm及びpH約2〜4の条件下で約1.5〜2の体積比でエタノールを投入し、エタノール結晶化することにより湿体を得ることができる。
【0023】
以外にも、韓国特許第554481号に開示されているように、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液を強酸性陽イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂、アルミナ及び疎水性吸着樹脂を順番に通過させて分離精製することにより湿体を得ることができる。前述したこれら先行文献は本発明の記載を構成しているものであり、本発明の参考文献に含まれる。
【0024】
逆浸透圧工程
本発明によれば、前記湿体を最初に約1〜40g/L、好ましくは約15〜30g/Lの濃度で水溶性溶媒に溶解する。ここで、前記水溶性溶媒の具体例としては、水、C1−4の脂肪族アルコール(例えば、メタノール、エタノール、 イソプロパノールなどから選択される)、またはこれらの混合物が挙げられる。好ましくは水、より好ましくは精製水である。水溶性溶媒内の湿体濃度が過度に高い場合、湿体に含まれているエタノールなどの有機溶媒によって溶解に長時間を要するだけでなく、特にエタノール含有量が水分含量よりも高い場合には完全に溶解されないため、逆浸透圧工程前に濾過工程を有する際に濾過が容易ではなく、溶解されないバンコマイシンによって回収率が低下する問題が発生することができる。一方、湿体濃度が過度に低い場合、エタノール含有量に係らず水によく溶解されるものの、例えば、濾過及び逆浸透圧工程に要する時間が増加するため、工程の効率性が低下する問題が発生することができる。従って、水溶性溶媒内の湿体濃度を前述の範囲に調節することが好ましい。
【0025】
前述のように、水溶性溶媒に適正濃度で湿体を溶解させた後、逆浸透圧工程(濾過工程)により塩または有機溶媒などの不純物を除き、バンコマイシンを濃縮する。本発明の好ましい態様によれば、前記逆浸透圧工程前に濾過工程を有し、ここで、好ましくは約0.1〜0.6μmの除菌フィルター、特に、一般的には約0.45μmの除菌フィルターを利用して濾過する。このように、逆浸透圧工程前に濾過工程を有する理由は、溶解されない不純物を除くことにより逆浸透圧をより容易に行い、また無菌バンコマイシンを得るためである。
【0026】
逆浸透圧工程、即ち、逆浸透圧濾過(reverse osmosis fiLtration)は、例えば、水及びC1−4脂肪族アルコールの混合物から塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムのような塩(saLt)または脂肪族アルコールなどの有機溶媒を除く目的として行われる。前記逆浸透圧工程に使用可能な濾過膜(membrane fiLter)は、一般的には、ポリアミド(poLyamide)、ポリサルフォン(poLysuLfone)、ポリプロピレン(poLypropyLene)、ウレタン(urethane)などの材質からなり、前記濾過膜の分画分子量(cut−off moLecuLar weight)は、好ましくは約100〜500、より好ましくは約200〜400の範囲である。前記濾過膜の分画分子量が過度に少ない場合には、分離工程時間が長くなる一方、工程圧力が増加し、分離され難くなる問題が発生できる。一方、分画分子量が過度に大きい場合には、工程内のバンコマイシンまたはバンコマイシン塩の回収率が低くなり得る。従って、前述の分画分子量範囲の濾過膜を用いるのが好ましい。これら代表例として、NanomaxTM50 RO SpiraL cartridge(MiLLipore社製)TFC−SR100−T(KOCK membrane system)などが挙げられる。
【0027】
逆浸透圧濾過膜及びその装置に関する好ましい条件を下記表1に示す。ただし、本発明は下記条件に限定されるものではない。
【表1】

【0028】
なお、逆浸透圧濾過膜及びその装置の適用可能な有機溶媒及び塩の例を下記表2に示す。
【表2】

*:水に対する濃度%
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、逆浸透圧濾過工程を通じてバンコマイシンが約50〜200g/L、好ましくは約120〜180g/Lの濃度となるように濃縮する。濃縮結果、濃度が過度に高い場合には、容易に沈殿されて製品の濁度(turbidity)が増加し、純度が低下する短所がある。一方、濃度が過度に低い場合には、凍結乾燥対象である試料の体積が増加することにより、凍結乾燥時に試料の凍結に長時間を要するとともに、回収率が低くて効率が低下する問題が発生する可能性がある。従って、前述の濃縮濃度を持つように逆浸透圧濾過過程を調節するのが好ましい。同時に、エタノール含有量を0.5%(w/v)未満、好ましくは約0.1〜0.3%(w/v)水準で調節するのが好ましい。その理由は、エタノール含有量が過度に低い場合、エタノール除去率を高めるための逆浸透圧工程が長くなり効率が低下する一方、エタノール含有量が過度に高い場合には、凍結乾燥時に水分含量を減少させる時間が長くなり工程効率が低下する恐れがあるからである。
【0030】
本発明によれば、前述の逆浸透圧濾過工程の結果、濃縮されたバンコバイシンの純度は前記湿体の純度(好ましくは約95% 以上)と殆ど差異がないだけではなく、濾過過程での損失されるバンコマイシンも約1%未満である。
【0031】
凍結乾燥工程
前記の逆浸透圧工程を通じて濃縮されたバンコマイシンは後続段階として凍結乾燥される。「凍結乾燥(LyophiLizationまたはfreeze drying)」とは、通常、物質を凍結させ、水蒸気(water vapor)の分圧を下げることにより、固体の状態にある水を気体に昇華させる乾燥方式と知られている。分圧を下げることにより、氷状態の水が熱エネルギーを供給することで液体に変化せず水蒸気に直接昇華する。本発明によれば、好ましくは凍結乾燥過程における濃縮されたバンコマイシンの純度をほぼ等しく維持しながら(好ましくは純度変化約1%未満)約93%以上、より好ましくは約95%以上、エタノール含有量を約0.5%(w/v) 未満、好ましくは約0.3%(w/v) 未満に、また水分含量を約5%(w/v)未満、好ましくは約4%(w/v)未満、より好ましくは約3%未満に下げる。
【0032】
本発明において、前記凍結乾燥工程の好ましい具体例によれば、濃縮されたバンコマイシンを、好ましくは約−4〜−196℃、より好ましくは約−40〜−150℃、特に好ましくは約−70℃で約3〜48時間、好ましくは約12〜36時間凍結後、凍結乾燥器を稼働させ、凍結乾燥器の温度を好ましくは約−60℃から約40℃まで、より好ましくは約−40℃から約20℃まで、好ましくは約12〜48時間、より好ましくは約24〜36時間にわたって徐々に上昇させる。
【0033】
次に、好ましくは約6〜24時間、より好ましくは約12〜18時間維持させる。
【0034】
これに関して、従来技術における乾燥段階、特に噴霧乾燥及び/又は真空乾燥の代わりに凍結乾燥を採用することにより、高純度バンコマイシンの該純度を安定的に維持することができるだけではなく、エタノール及び水分含量においても各種規格の要求水準を満たすことができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明に対する理解のために好ましい実施例を示す。ただし、下記の実施例は本発明をより理解しやすくするために提供されることであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
本実施例における純度は下記仕様を持つ装置を用いて測定した。
HPLC:AgiLent technoLogies
CoLumn:ODS(C18)、4.6X250、5mm
【0037】
分析条件
1.pH3.2 TEA buffer:水1996mLにTEA(TriethyLamine)4mLを加えてphosphoric acidでpH3.2を合わせる。
2.移動相
− 移動相A:pH3.2 TEA buffer920mL、ACN(acetonitriLe)70mL、THF(Tetraphydrofuran) 10mLの混合溶液
− 移動相B:pH3.2 TEA buffer700mL、ACN290mL、THF10mLの混合溶液
3.勾配(Gradient)は下記表3に示す。
【表3】

4.流速:1mL/min
5.吸光度:280nm
6.注入量:20 mL
【0038】
製造例1
バンコマイシンを含有する微生物醗酵液からの湿体(1)取得
韓国特許公開第1998−39737号に記載されているように、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液を多段階の分離精製を行い180g/Lの濃度に濃縮した後、塩化アンモニウムを加えて21ms/cmの伝導率に調整し、次に塩酸を加えてpH2.8に調節した。前記条件下で、1.8の体積比でエタノールを投入してエタノール結晶化することにより湿体を得た。前記湿体は純度96.6%、固形分含量54%、エタノール及び水分含量45%を示した。
【0039】
製造例2
バンコマイシンを含有する微生物醗酵液からの湿体(2)取得
韓国特許公開第1998−39737号に記載されているように、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液を多段階の分離精製を行い176g/Lの濃度に濃縮した後、塩化アンモニウムを加えて23ms/cmの伝導率に調整し、次に塩酸を加えてpH2.5に調節した。前記条件下で、1.8の体積比でエタノールを投入してエタノール結晶化することにより湿体を得た。前記湿体は純度96.2%、固形分含量55%、エタノール及び水分含量40%を示した。
【0040】
製造例3
バンコマイシンを含有する微生物醗酵液からの湿体(3)取得
韓国特許公開第1998−39737号に記載されているように、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液を多段階の分離精製を行い190g/Lの濃度に濃縮した後、塩化アンモニウムを加えて20ms/cmの伝導率に調整し、次に塩酸を加えてpH2.2に調節した。前記条件下で、1.8の体積比でエタノールを投入してエタノール結晶化することにより湿体を得た。前記湿体は純度95.8%、固形分含量51%、エタノール及び水分含量50%を示した。
【0041】
製造例4
バンコマイシンを含有する微生物醗酵液からの湿体(4)取得
韓国特許公開第1998−39737号に記載されているように、バンコマイシンを含有する微生物醗酵液を多段階の分離精製を行い175g/Lの濃度に濃縮した後、塩化アンモニウムを加えて22ms/cmの伝導率に調整し、次に塩酸を加えてpH2.5に調節した。前記条件下で、1.8の体積比でエタノールを投入してエタノール結晶化することにより湿体を得た。前記湿体は純度96.2%、固形分含量42%、エタノール及び水分含量55%を示した。
【0042】
実施例 1
逆浸透圧の濾過
製造例1によって取得された湿体190gを2Lの精製水に溶解させた後、0.45μmの除菌フィルター装置(製造社: Whatman、材質: ceLLuLose nitrate、商品名: disposabLe fiLter funneL)で濾過し、精製水を加えて溶液の最終体積が4Lになるように調整した。その後、逆浸透圧装置(製造社: MiLLipore、商品名: HeLicon reverse osmosis system、メンブレン: Nanomax TM 50 membrane)の試料投入部に前記溶液を投入し、圧力を8barに維持しながら濃縮を始めた。逆浸透圧による濾過を通じて余液が約3Lになるまで濃縮した後、2Lの精製水を加えた。同じ圧力を加えて余液が2Lになるまで濃縮し、また2Lの精製水を加えて 最終体積が約0.5Lになるまで濃縮した。その後、圧力を解除して10分間、濃縮液を回収した。
【0043】
前記回収された濃縮液を分析した結果、バンコマイシンの純度は96.4%、バンコマイシンの濃度は118g/L、そしてエタノール含有量は0.38%(w/v)であった。
【0044】
凍結条件
前記濃度118g/Lのバンコマイシン濃縮液を、鉄材容器に高さ1cm以下になるように注いだ後、−70℃から1日間、完全に凍結させた。その後、棚の温度を−40℃に調節した凍結乾燥器(製造社: Labconco、製品名: Freeze dry system)に凍結された濃縮液を盛った鉄材容器を入れて42時間、凍結乾燥させた。前記凍結乾燥されたバンコマイシンを分析した。
【0045】
24時間の凍結乾燥の後、バンコマイシンの純度は96.4%であり、純度変化はなかった。また、エタノール含有量及び水分含量は、それぞれ0.25%(w/v)及び3.4%(w/v)であった。
【0046】
本実施例において、湿体からバンコマイシンを精製する工程中の純度変化を観察するために、HPLC分析を行った結果を図1a〜1cに示した。前記図面から分かるように、湿体(図1a)、逆浸透圧の濾過を経った濃縮物(図1b)、及び凍結乾燥物(図1c)は、バンコマイシンに相当するピーク面積において実質的な相違点はなかった。これは、一連の精製過程の中でバンコマイシンの純度の低下が抑制されたことを意味する。
【0047】
実施例 2
逆浸透圧の濾過
製造例1によって取得された湿体250gを2Lの精製水に溶解させた後、0.45μmの除菌フィルター装置(製造社: Whatman、材質: ceLLuLose nitrate、商品名: disposabLe fiLter funneL)で濾過し、精製水を加えて溶液の最終嵩が5Lになるように調整した。その後、逆浸透圧装置(製造社: MiLLipore、商品名: HeLicon reverse osmosis system、メンブレン: Nanomax TM 50 membrane) の試料投入部に前記溶液を投入し、圧力を8barに維持しながら濃縮を始めた。逆浸透圧による濾過を通じて余液が約3Lになるまで濃縮した後、3Lの精製水を加えた。同じ圧力を加えて余液が3Lになるまで濃縮し、また3Lの精製水を加えて最終体積が約0.5Lになるまで濃縮した。その後、圧力を解除して10分間、濃縮液を回収した。
【0048】
前記回収された濃縮液を分析した結果、バンコマイシンの純度は96.4%、バンコマイシンの濃度は142g/L、そしてエタノール含有量は0.24%(w/v)であった。
【0049】
凍結条件
前記濃度142g/Lの濃縮液を鉄材容器に高さ1cm 以下になるように注いだ後、−70℃から1日間、完全に凍結させた。その後、棚温度を−40℃に調節した凍結乾燥器(製造社: Labconco、製品名: Freeze dry system)に凍結された濃縮液を盛った鉄材容器を入れて42時間、凍結乾燥させた。前記凍結乾燥されたバンコマイシンを分析した。
【0050】
24時間の凍結乾燥の後に、バンコマイシンの純度は96.4%であり、純度変化はなかった。また、エタノール含有量は0.11%(w/v)、水分含量は2.7%(w/v)であった。
【0051】
実施例3
逆浸透圧の方法
製造例2によって取得された湿体290gを2Lの精製水に溶解させた後、0.45μmの除菌フィルター装置(製造社: Whatman、材質: ceLLuLose nitrate、商品名: disposabLe fiLter funneL)で濾過し、精製水を加えて溶液の最終嵩が6Lになるように調整した。その後、逆浸透圧装置( 製造社: MiLLipore、商品名: HeLicon reverse osmosis system、メンブレン: Nanomax TM 50 membrane)の試料投入部に前記溶液を投入し、圧力を8barに維持しながら濃縮を始めた。逆浸透圧による濾過を通じて余液が約3Lになるまで濃縮した後、3Lの精製水を加えた。同じ圧力を加えて余液が3Lになるまで濃縮し、また3Lの精製水を加えて最終体積が約0.5Lになるまで濃縮した。その後、圧力を解除して10分間、濃縮液を回収した。
【0052】
前記回収された濃縮液を分析した結果、バンコマイシンの純度は96.0%、バンコマイシンの濃度は176g/L、そしてエタノール含有量は0.22%(w/v)であった。
【0053】
凍結条件
前記濃度176g/Lのバンコマイシン濃縮液を鉄材容器に高さ1cm以下になるように注いだ後、−70℃から1日間、完全に凍結させた。その後、棚温度を−40℃に調節した凍結乾燥器(製造社: Labconco、製品名: Freeze dry system)に凍結された濃縮液を盛った鉄材容器を入れて42時間、凍結乾燥させた。前記凍結乾燥されたバンコマイシンを分析した。
【0054】
24時間の凍結乾燥の後に、バンコマイシンの純度は95.8%であり、純度変化はほとんどなかった。また、エタノール含有量及び水分含量は、それぞれ0.18%(w/v)及び3.0%(w/v)であった。
【0055】
実施例 4
逆浸透圧の濾過
製造例2によって取得された湿体274gを2Lの精製水に溶解させた後、0.45μmの除菌フィルター装置(製造社: Whatman、材質: ceLLuLose nitrate、商品名: disposabLe fiLter funneL)で濾過し、精製水を加えて溶液の最終嵩が6Lになるように調整した。その後、逆浸透圧装置(製造社: MiLLipore、商品名: HeLicon reverse osmosis system、メンブレン: Nanomax TM 50 membrane)の試料投入部に前記溶液を投入し、圧力を8barに維持しながら濃縮を始めた。逆浸透圧による濾過を通じて余液が約3Lになるまで濃縮した後、3Lの精製水を加えた。同じ圧力を加えて余液が3Lになるまで濃縮し、また3Lの精製水を加えて最終嵩が約 0.5Lになるまで濃縮した。その後、圧力を解除して10分間、濃縮液を回収した。
【0056】
前記回収された濃縮液を分析した結果、バンコマイシンの純度は96.0%、バンコマイシンの濃度は162g/L、そしてエタノール含有量は0.09%(w/v)であった。
【0057】
凍結条件
前記濃度162g/Lのバンコマイシン濃縮液を鉄材容器に高さ1cm以下になるように注いだ後、−70℃から1日間、完全に凍結させた。その後、棚温度を−40℃に調節した凍結乾燥器(製造社: Labconco、製品名: Freeze dry system)に、凍結された濃縮液を盛った鉄材容器を入れて42時間、凍結乾燥させた。前記凍結乾燥されたバンコマイシンを分析した。
【0058】
24時間の凍結乾燥の後に、バンコマイシンの純度は96.0%であり、純度変化はなかった。また、エタノール含有量及び水分含量は、それぞれ0.08%(w/v)及び3.1%(w/v)であった。
【0059】
前記実施例1〜4により、バンコマイシンを含む湿体を精製する過程におけるバンコマイシンの純度を測定した結果を図2に示した。図示のように、実施例1〜4において本発明による工程の場合には、製造過程の中でバンコマイシンの純度が実質的に低下されることなく、一定に維持されることが分かる。
【0060】
比較例 1
米国特許番号第7、018、814号及び韓国特許番号第554481号の記載により、乾燥されたバンコマイシンを得た。即ち、製造例3によって取得された湿体50gを40℃で48時間、真空乾燥した。その結果、図3のように、真空乾燥の12時間後の純度は93.0%、18時間後の純度は92.8%、24時間後の純度は91.9%、36時間後の純度は90.6%、42時間後の純度は90.3%、そして48時間後の純度は90.2%に減少し、2日間の真空乾燥の過程でエタノール含有量及び水分含量はそれぞれ0.09% 及び2.9%であった。このように、2日間の真空乾燥の過程でバンコマイシンの純度は約5% 以上減少し、実際にバンコマイシンの精製工程に適用するのに困難であると判断された。
【0061】
比較例2
真空乾燥温度を25℃にして5日間、実施したことを除いては、比較例1と同じ方法で乾燥過程を行った。その結果、バンコマイシンの純度は94.6% 、エタノール 含有量は0.6%(w/v)、そして水分含量は8%(w/v)であり、ヨーロッパ医薬品基準に適合しないことを確認した。
【0062】
比較例3
米国特許番号第5、853、720号に示された方法により、乾燥されたバンコマイシンを得た。即ち、製造例4によって取得された湿体69.7gを200mLになるように精製水に溶解させ、濃度を150g/Lに調節して噴霧乾燥器(製造社: BUCHI、製品名: Mini spray dryer B−191)を用いて乾燥を実施した。噴霧乾燥のために、流入温度を130℃、そして排出温度を85℃に設定し、5mL/minの流速で試料を注入した。
【0063】
前記のように、噴霧乾燥されたバンコマイシンの純度は94.9% 、そして水分含量は8.6%(w/v)であった。前記噴霧乾燥された試料を回収して40℃から2日間、真空乾燥し、図4のように24時間の真空乾燥の後に純度は93.7% 、36時間後の純度は93.3% 、そして48時間後の純度は92.8% であった。水分含量の場合には48時間後に4.6%(w/v)であった。従って、噴霧乾燥及び真空乾燥を実施した結果、純度が3% 以上低下された。また、エタノール含有量は0.2%(w/v)で、水分含量においては基準値である5% w/v)に近接して安定した高純度バンコマイシンの製造に限界があると判断される。
【0064】
本発明の単純な変形又は変更は、本発明の領域に属するものであり、本発明の具体的な保護範囲は添付された特許請求範囲により明確になる。
【図1a】

【図1b】

【図1c】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)バンコマイシンを含む微生物醗酵液から得た湿体を約1〜約40g/Lの濃度で水溶性溶媒に溶解させ、逆浸透圧濾過させる段階;及び
b)前記濾過されたバンコマイシンを凍結乾燥する段階;
を含むバンコマイシン湿体の精製方法。
【請求項2】
請求項1において、前記段階a)によって濾過されたバンコマイシンの濃度が約50〜約200g/Lの範囲であることを特徴とするバンコマイシン湿体の精製方法。
【請求項3】
請求項1において、前記水溶性溶媒は水、C1−4の脂肪族アルコール、又はこれらの混合物であることを特徴とするバンコマイシン湿体の精製方法。
【請求項4】
請求項1において、前記逆浸透圧濾過に使われるメンブレンの分子量基準(cut−off moLecuLar weight)が、約100〜約500であることを特徴とするバンコマイシン湿体の精製方法。
【請求項5】
請求項1において、前記段階a)によって濾過されたバンコマイシン内のエタノール含有量が約0.5%(w/v)未満であることを特徴とするバンコマイシン湿体の精製方法。
【請求項6】
請求項1において、前記段階b)は、
前記濾過されたバンコマイシンを約−4〜約−196℃で約3〜約48時間、凍結させる段階;及び
前記凍結されたバンコマイシンを凍結乾燥器内で、約−60℃から約40℃まで約12〜約48時間にわたって凍結乾燥器の温度を徐々に上昇させ、凍結乾燥する段階;
を含むことを特徴とするバンコマイシン湿体の精製方法。
【請求項7】
請求項1において、前記凍結乾燥されたバンコマイシン内のエタノール含有量が約0.3 %(w/v)未満であることを特徴とするバンコマイシン湿体の精製方法。
【請求項8】
請求項1において、前記凍結乾燥されたバンコマイシン内の水分含量が約5% w/v)未満であることを特徴とするバンコマイシン湿体の精製方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−515159(P2012−515159A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545284(P2011−545284)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際出願番号】PCT/KR2009/007022
【国際公開番号】WO2010/082726
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(599167412)サムヤン ジェネックス コーポレイション (4)
【出願人】(510020538)ジェノテック カンパニー,リミテッド (3)
【Fターム(参考)】