説明

パイプラインの電磁誘導電圧低減装置

【課題】 パイプラインに発生する電磁誘導電圧を従来よりも容易に且つ確実に低減できるようにする。
【解決手段】 送電線2とパイプライン3とが並行している区間において、パイプライン3の延長方向に沿うように電磁誘導低減導体101を埋設する。その際、接地抵抗が10Ω以下となるように、電磁誘導低減導体101の一端に接地極102aを、その他端に接地極102bを、電気的にそれぞれ接続する。このようにすることによって、送電線2に流れる交流電流に起因した電磁誘導の作用により、電磁誘導低減導体101の周囲に、送電線2から発生している交流磁界を相殺するような交流磁界が発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置に関し、特に、電線に流れている交流電流に起因してパイプラインに発生する電磁誘導電圧を低減するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
ガス、石油、上水、工業用水、海水等の輸送手段として、パイプラインが多く敷設されている。多くのパイプラインは、地中に埋設して敷設されているが、用地の制約等により、パイプラインの一部が、交流架空送電線(以下の説明では必要に応じて「送電線」と略称する)或いは交流式電気鉄道の交流き電線(以下の説明では必要に応じて「き電線」と略称する)に近接して埋設される場合がある。
【0003】
鋼製パイプライン等のような導電性のパイプラインが、送電線或いは交流式電気鉄道のき電線に近接し、且つ、送電線或いは交流式電気鉄道のき電線と並行するようにして埋設されると、パイプラインは送電線或いは交流式電気鉄道のき電線から電磁誘導を受けることとなる。特に、送電線に大きな交流電流が流れている場合には、送電線から100m〜200m程度離して埋設されたパイプラインでも、電磁誘導を受けることとなる。
【0004】
このような電磁誘導によりパイプラインには、その軸方向(延長方向)に沿って電磁誘導電圧が発生し、この電磁誘導電圧が、パイプラインの大地に対する交流電位(以下の説明では、必要に応じて「管対地交流電位」と称する)を発生させる。この管対地交流電位が高いレベルにまで上昇すると、現場作業の際に作業者が感電したり、パイプラインが交流腐食によって腐食したりするといった、種々の障害が懸念される。したがって、この管対地交流電位を低減する必要がある。
【0005】
そこで、特許文献1には、パイプラインに生じている電磁誘導電圧を低減する技術が提案されている。この特許文献1に記載の技術では、まず、パイプラインと送電線とが並行している範囲において、パイプラインに沿って誘導起電力発生用導体を地中に埋設する。この際に、誘導起電力発生用導体の一端と発信器の出力端子の一端とを相互に接続し、誘導起電力発生用導体の他端と発信器の出力端子の他端とをそれぞれ接地する。また、送電線から発生する磁束密度の信号を検出する検出器を設置(又は用意)する。このようにした状態で、送電線から発生する磁束密度の信号を検出し、この磁束密度の信号の周波数及び位相を求める。そして、この信号の周波数及び位相に基づいて、同一の周波数及び所定の位相差を付加した相殺信号を発信器にて生成し、その相殺信号を誘導起電力発生用導体に流すことで、パイプラインに生じている電磁誘導電圧を打ち消すような誘電起電力をパイプラインに発生させる。このようにすることによって、パイプラインに生じている電磁誘導電圧を低減し、管対地交流電位を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−132880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、送電線から発生する磁界を検出する装置(検出器等)や、パイプラインに生じている電磁誘導電圧を打ち消す誘電起電力を発生させる装置(発信器等)を設けなければならない。したがって、パイプラインに生じている電磁誘導電圧を低減するための構成を簡素化することが困難であるという問題点があった。
また、誘導起電力発生用導体の両端の接地極の接地抵抗が十分に小さくないと、誘導起電力発生用導体に流れる電流が小さくなり、十分な誘導起電力をパイプランに発生させることができず、管対地交流電位を十分に低減することができない。したがって、特許文献1に記載の技術では、この接地抵抗が大きい場合、管対地交流電位を十分に低減させるには、発信器で高い電圧を印加して十分な電流を誘導起電力発生用導体に流す必要がある。そのために、発信器の容量が大きくなり、発信器のサイズが大きくなったり、設置費用が高くなったり等の問題点があった。
また、誘導起電力発生用導体の両端の接地極をパイプラインの遠方に設置することができずパイプラインの近傍に設置した場合、接地極から大地に電流が流れることにより、接地極の周辺の大地電位が上昇してしまう。したがって、特許文献1に記載の技術では、誘導起電力発生用導体の両端の接地極をパイプラインの近傍に設置した場合、接地極の周辺におけるパイプラインの管対地交流電位を増加させてしまうという問題点があった。
【0008】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、パイプラインに発生する電磁誘導電圧を従来よりも容易に且つ確実に低減できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のパイプラインの電磁誘導電圧低減装置は、電線に流れる交流電流に起因した電磁誘導の作用によって地中に埋設されたパイプラインに発生する電磁誘導電圧を低減する、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置であって、前記電線と前記パイプラインとが並行している区間において前記パイプラインの延長方向に沿うように地中に埋設された電磁誘導低減導体と、前記電磁誘導低減導体の前記延長方向における一端において、前記電磁誘導低減導体と電気的に相互に接続された接地極と、前記電磁誘導低減導体の前記延長方向における他端において、前記電磁誘導低減導体と電気的に相互に接続された接地極と、を有し、前記電磁誘導低減導体は、絶縁物で被覆されており、前記接地極の接地抵抗の大きさは、10Ω以下であり、前記電磁誘導低減導体は、前記電線に流れる交流電流に起因した電磁誘導の作用によって、前記パイプラインに発生する電磁誘導電圧を低減する交流磁界を発生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、交流電流が流れている電線とパイプラインとが並行している区間において、パイプラインの延長方向に沿うように電磁誘導低減導体を埋設する際に、接地抵抗が10Ω以下となるように、その両端に接地極を電気的に接続した。このようにすることによって、電線からの電磁誘導を起因とする交流の誘導電流が電磁誘導低減導体の内部を流れると、電磁誘導低減導体の周囲に、電線から発生している交流磁界を低減する(打ち消す)交流磁界が発生する。したがって、従来のように、電線から発生する磁界を検出する装置や、発信器等を使用しなくても、パイプラインに生じている電磁誘導電圧を低減することが可能となる。また、接地抵抗を10Ω以下としているので、パイプラインに発生している電磁誘導電圧を低減するのに必要な量の誘導電流を可及的に確実に電磁誘導低減導体に流すことができる。したがって、パイプラインに発生する電磁誘導電圧を従来よりも確実に低減することが可能になる。
また、本発明の他の特徴では、電磁誘導低減導体と接地極との間に絶縁体を設けるようにしたので、接地極をパイプラインの近傍に配置しなければならなかったり、接地極の表面積を大きくすることができなかったりする場合でも、パイプラインに発生する電磁誘導電圧を従来よりも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態を示し、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示し、パイプラインと接地極との位置関係の一例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を示し、接地極の延長方向の長さ(接地極長)と、接地極の直上の上昇電位との関係の一例を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示し、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
まず、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置の構成の一例を示す図である。尚、図1では、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置を横方向から見た図を示している。
図1において、送電鉄塔1a、1bには、送電線2が張られている。この送電線2には交流電流が流れている。パイプライン3は、大地4中に埋設して敷設されている(大地4中に埋設して敷設されているパイプライン3を埋設パイプラインと称する)。図1では、地点P1から地点P2の間において、パイプライン3と送電線2とが並行(パイプライン3の延長方向と送電線2の延長方向とが略平行)となっている。
送電線2を流れる交流電流に起因する電磁誘導の作用により、パイプライン3には、(式1)で表される電磁誘導電圧Eが、パイプライン3の軸方向(延長方向)に沿って発生する。
E=jωMILc ・・・(式1)
ここで、jは、虚数単位、ωは、送電線2を流れる交流電流の角周波数[rad/sec]、Mは、送電線2とパイプライン3との相互インダクタンス[H]、Iは、送電線2を流れる交流電流[A]、Lcは、パイプライン3と送電線2とが並行している距離(地点P1と地点P2との間の距離)[m]である。
パイプラインの電磁誘導電圧低減装置(以下の説明では、必要に応じて「電磁誘導電圧低減装置」と略称する)100は、このようなパイプライン3に生じる電磁誘導電圧を低減する装置であり、電磁誘導低減導体101と、接地極102a、102bとを有している。
【0013】
<電磁誘導低減導体101>
電磁誘導低減導体101は、導体と、その導体の表面に形成された絶縁体とを有する。具体的に電磁誘導低減導体101は、銅線等のケーブルと、当該ケーブルの表面に形成された絶縁体(塩化ビニル、ポリエチレン等)とを有し、ケーブルの表面が絶縁体で被覆された構成となっている。尚、導体と、その導体の表面に形成された絶縁体とを有していれば、電磁誘導低減導体101の構成は、このようなものに限定されない。例えば、銅線等のケーブルの代わりに、鉄板等の構造物等を用いてもよい。
このような電磁誘導低減導体101は、パイプライン3と送電線2とが並行している区間(地点P1から地点P2の間の距離Lcの区間)全体に亘ってパイプライン3に沿って大地4中に埋設している。
【0014】
電磁誘導低減導体101は、パイプライン3に誘導起電力を発生させることで、送電線2を流れる交流電流に起因してパイプライン3に発生している電磁誘導電圧を打ち消す役割を果たす。電磁誘導低減導体101の両端を大地4に接地すると、送電線2からの電磁誘導に起因する交流の誘導電流が電磁誘導低減導体101の内部を流れる。その結果、電磁誘導低減導体101の周囲に交流磁界が発生する。この交流磁界の位相は、送電線2から発生する交流磁界と位相が180度異なる。すなわち、電磁誘導低減導体101からは、送電線2から発生している交流磁界を相殺するような交流磁界が発生する。したがって、電磁誘導低減導体101に沿って併設されたパイプライン3に発生している電磁誘導電圧は、電磁誘導低減導体101からの誘導起電力により低減・相殺される。
尚、電磁誘導低減導体101は、パイプライン3と送電線2とが並行している区間全体に亘ってパイプライン3に沿って大地4中に埋設させるのが最も効果的であるが、パイプライン3と送電線2とが並行している区間の一部に埋設させた場合でも、パイプライン3に発生している電磁誘導電圧を低減・相殺する効果がある。
【0015】
<接地極102>
接地極102a、102bは、導体を用いて構成されており、それぞれ、電磁誘導低減導体101の一端、他端と(電気的に)接続された状態で大地4中に埋設されている。本実施形態では、このようにして接地極102a、102bを埋設するに際し、接地極102a、102bの延長方向に沿う面がパイプライン3と対向するようにしている。また、本実施形態では、前述したように、電磁誘導低減導体101は、パイプライン3と送電線2とが並行している区間(地点P1と地点P2との間の距離Lcの区間)全体に亘って埋設されるので、接地極102a、102bは、この区間外に埋設されることになる。しかしながら、接地極102a、102bを、必ずしもこの区間外に埋設する必要はない。例えば、パイプライン3と送電線2とが並行している区間の一部に電磁誘導低減導体101が埋設されている場合には、接地極102a、102bの少なくとも一部がこの区間内に埋設されることがある。
【0016】
電磁誘導低減導体101に大きい誘導電流を流すためには、電磁誘導低減導体101自体の抵抗を小さくするのはもちろんのこと、電磁誘導低減導体101の両端に接続する接地極102a、102bの接地抵抗も小さくする必要がある。そのため、本実施形態では、電磁誘導低減導体101と接続された接地極102a、102bの接地はA種接地とする。すなわち、接地極102a、102bの接地抵抗の大きさは10Ω以下、好ましくは1Ω以下、より好ましくは0.1Ω以下とする。
【0017】
接地極102a、102bの接地抵抗は、接地極102a、102bの表面積と土壌抵抗率とに大きく依存しており、接地極102a、102bの表面積が大きいほど接地抵抗を小さくすることができる。一般的に接地抵抗の小さい接地極を設置する場合、表面積が大きな接地極を地下数十mの地点に埋設することがあるが、その場合、接地極102a、102bの施工費用が高くなるというデメリットがある。そのため、本実施形態では、接地極102a、102bの施工費用を抑えるために、パイプライン3を埋設する際に、接地極102a、102bの延長方向がパイプライン3の延長方向に沿うようにして接地極102a、102bを設置するようにしている。このようにして設置する接地極102a、102bの場合、パイプライン3の延長方向に沿う方向の長さが長いほど接地抵抗が小さくなる。このため、接地極102a、102bとしては、パイプライン3の延長方向に沿う方向に長くなるような施工が比較的容易に実現できるものを採用するのが好ましい。例えば、金属板、ケーブル、ケーブルを埋め込んだ導電性コンクリート等を接地極102a、102bとして採用するが望ましい。また、接地抵抗低減剤等を使用することも効果的である。尚、本実施形態では、接地極102a、102bとして金属板を採用している。
【0018】
本発明者らは、電磁誘導低減導体101を流れる誘導電流と、パイプライン3に発生する電磁誘導電圧の低減値との関係について実験による調査を行った。この実験では、電磁誘導低減導体101として、内部導体が銅製の被覆ケーブルを使用した。この実験の結果、長さ1kmの電磁誘導低減導体101に1Aの誘導電流が流れたとき、数十〜百数十mmの離隔で併設したパイプライン3に発生する電磁誘導電圧は0.4V〜0.9V低減することが分かった。すなわち、電磁誘導低減導体101によるパイプライン3への電磁誘導電圧の低減値は0.4V/A・km〜0.9V/A・km(=0.4Ω/km〜0.9Ω/km)となる。
電磁誘導低減導体101に大きい誘導電流を流すためには、電磁誘導低減導体101の接地極102a、102bの接地抵抗を含めた抵抗値が小さいほど良い。しかしながら、電磁誘導低減導体101の抵抗を小さくしようとすると、接地極102a、102bの表面積を大きくしたり、電磁誘導低減導体101の断面積を大きくしたりする必要があり、施工費用が増大することになる。そのため、電磁誘導低減導体101の抵抗値については、費用対効果を考えた上で必要十分な値を設定することが求められる。電磁誘導低減導体101の抵抗値を決定する方法として、電磁誘導低減導体101に発生する電磁誘導電圧と必要な誘導電流から求める方法が挙げられる。電磁誘導低減導体101に誘導電流を流す起因となる送電線2から電磁誘導低減導体101への電磁誘導電圧の値は、電磁誘導低減導体101の周囲の磁束密度や電磁誘導低減導体101と送電線2との離隔距離に依存して様々に変化するが、この電磁誘導低減導体101への電磁誘導電圧の値がパイプライン3への電磁誘導電圧の低減値相当であると仮定すると、1km当たり1Aの誘導電流を流すのに必要な抵抗値Rは、R=0.4V〜0.9V÷1A=0.4Ω〜0.9Ωとなる。このことから、電磁誘導低減導体101の導体部分と接地極102a、102bのトータルの1km当たりの抵抗値(電磁誘導低減導体101の導体部分と接地極102a、102bの1km当たり合成抵抗の値)は、0.4Ω/km〜0.9Ω/km程度であることが望ましいと求めることができる。ただし、電磁誘導低減導体101の導体部分と接地極102a、102bのトータルの1km当たりの抵抗値を、必ずしもこの範囲の値とする必要はない。例えば、施工費用の増大を考慮しなければ、電磁誘導低減導体101の導体部分と接地極102a、102bのトータルの1km当たりの抵抗値が0.4Ω/kmを下回ってもよい。また、これとは逆に、電磁誘導低減導体101の導体部分と接地極102a、102bのトータルの1km当たりの抵抗値が0.9Ω/kmを上回ってもよい。
【0019】
<接地極102による大地電位の上昇>
接地極102a、102bから大地4に電流が流れると、接地極102a、102bの周囲の大地電位(無限遠方点を0(ゼロ)としたときの接地極102a、102bの周囲の電位)が上昇する。そのため、接地極102a、102bの近くにパイプライン3があると、パイプライン3は、接地極102a、102bから大地4に流れる電流による大地電位の上昇の影響を受け、接地極102a、102bの周辺におけるパイプライン3の管対地交流電位が大きくなる。
図2は、パイプライン3と接地極102との位置関係の一例を示す図である。図2は、パイプライン3と接地極102とを横方向から見た図である。尚、ここでは、接地極102が棒状である場合を例に挙げて説明する。
棒状の接地極102をパイプライン3の下に設置した場合、接地極102に電流が流れたときに接地極102の直上に発生する大地電位(上昇電位)Vは、(式2)のように表される。ここで、ρは、土壌抵抗率(Ω・m)であり、Iは、接地極102を流れる電流(A)であり、Lgは、接地極102の延長方向(パイプライン3の延長方向に沿う方向)の長さ(m)であり、Dは、接地極102の上端とパイプライン3の下端との間の距離(m)であり、lnは自然対数を表している。尚、(式2)では、接地極102の太さ(高さ方向の長さ)は無視している。
V=(ρI/2πLg)ln(2Lg/D) ・・・(式2)
【0020】
図3は、接地極102の延長方向の長さ(接地極長)Lg(m)と、接地極102の直上の上昇電位V(V)との関係の一例を示す図である。図3では、土壌抵抗率ρを100Ω・m、接地極102を流れる電流Iを10A、接地極102の上端とパイプライン3の下端との間の距離Dを0.5mとした場合の、接地極102の延長方向の長さ(接地極長)Lgと、接地極102の直上の上昇電位Vとの関係をグラフにしている。
図3に示すように、接地極102の延長方向の長さが長いほど、接地極102の直上に発生する電位は小さくなる。これは、接地極102の延長方向の長さが長いほど、接地極102から大地4に流れる電流が広い範囲に分散され、流れる電流の接地極102の単位面積あたりの電流密度が小さくなるためである。図3に示した例では、例えば、パイプライン3の近傍に発生する大地電位を5V以下に低減したい場合は、接地極102の延長方向の長さ(接地極長)Lgを95m以上にすることが必要となることが分かる。
以上の知見と、パイプライン3の延長方向に沿って接地極102a、102bを設置する施工方法とを踏まえ、例えば、接地極102の延長方向(パイプライン3の長手(延長)方向に沿う方向)の長さを、接地極102におけるパイプライン3と対向する面に沿う方向のうち、接地極102の延長方向に垂直な方向(図1、図2に示す例では、横方向(接地極102の延長方向に垂直且つ水平な方向、すなわち横方向))における接地極102の長さよりも長くすることで、接地極102による大地電位の上昇を抑えることができる。ただし、接地極102の各方向の長さは、土壌抵抗率ρ等の環境条件や、送電線2に流れる交流電流の大きさ等、現地の状況に応じて定まるものであるので、必ずしもこのような関係になっている必要はない。
【0021】
また、(式2)から、パイプライン3と接地極102の間の距離(接地極102の上端とパイプライン3の下端との間の距離D)が大きくなるほど、パイプライン3の近傍の電位は小さくなることが分かる。したがって、パイプライン3と接地極102とは十分な離隔を確保して設置することが望ましい。尚、接地極102の周囲の大地電位は、土壌抵抗率ρ等の環境条件や、送電線2に流れる交流電流の大きさ等によって様々に変化するので、パイプライン3と接地極102との離隔距離は、現地の状況に応じて設計を行う必要がある。
【0022】
以上のように本実施形態では、送電線2とパイプライン3とが並行している区間において、パイプライン3の延長方向に沿うように電磁誘導低減導体101を埋設する。その際、接地抵抗が10Ω以下となるように、電磁誘導低減導体101の一端に接地極102aを、その他端に接地極102bを、電気的にそれぞれ接続する。このようにすることによって、送電線2に流れる交流電流に起因した電磁誘導の作用により、電磁誘導低減導体101の周囲に、送電線2から発生している交流磁界を相殺するような交流磁界を発生させることができる。したがって、従来のように、送電線2から発生する磁界を検出する装置や、発信器等を使用しなくても、パイプライン3に生じている電磁誘導電圧、すなわち、管対地交流電位を低減することが可能となる。また、接地抵抗を10Ω以下としているので、パイプライン3に発生している電磁誘導電圧を低減するのに必要な誘導電流を可及的に確実に電磁誘導低減導体101に流すことができる。したがって、パイプライン3に発生する電磁誘導電圧を従来よりも確実に低減することができる。よって、パイプライン3に発生する電磁誘導電圧、すなわち、管対地交流電位を従来よりも簡単な構成で確実に低減することができる。
また、本実施形態では、パイプライン3の延長方向に沿う方向に長い接地極102を埋設し、電磁誘導低減導体101の導体部分と接地極102a、102bのトータルの1km当たりの抵抗値を0.4Ω/km以上0.9Ω/km以下の範囲にすることで、電磁誘導低減導体101及び接地極102の施工費用が増大することを可及的に抑制しつつ、管対地交流電位をより効果的に低減することができる。
【0023】
尚、本実施形態では、パイプライン3の延長方向に沿って設置する電磁誘導低減導体101の数が1つの場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、パイプライン3が送電線2と並行する区間に、電磁誘導低減導体101と接地極102の組を複数設けてもよい。
また、本実施形態では、パイプライン3が送電線2の近傍に埋設されている場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこのような場合に限定されない。例えば、パイプライン3が交流式電気鉄道のき電線等、交流電流が流れる電線の近傍に埋設されている場合についても、前述したのと同様にしてパイプライン3に発生する電磁誘導電圧を低減することができる。
また、本実施形態では、電磁誘導低減導体101と、接地極102a、102bとが、パイプライン3よりも下側にある場合を例に挙げて説明した。しかしながら、パイプライン3の延長方向に沿って電磁誘導低減導体101が大地4中に埋設され、電磁誘導低減導体101の両端に接地極102a、102bが電気的に接続されていれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、電磁誘導低減導体101と、接地極102a、102bとが、パイプライン3よりも上側或いは横側にあってもよい。
【0024】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、パイプライン3の延長方向に沿う方向に長い形状の接地極102を埋設することができない場合やパイプライン3から十分な離隔を確保して接地極102を埋設することができない場合を想定し、接地極102とパイプライン3との間に絶縁体を設けるようにしている。このように本実施形態は、第1の実施形態に対し、接地極102とパイプライン3との間に絶縁体を設けることが主として異なる。したがって、本実施形態の説明において、第1の実施形態と同一の部分については、図1〜図3に付した符号と同一の符号を付すこと等により、詳細な説明を省略する。
【0025】
<絶縁体による電位遮蔽>
図4は、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置の構成の一例を示す図である。図4(a)は、延長方向(軸方向)から見た断面図を示し、図4(b)は、横方向から見た図を示す。
接地極102の設置に当たり、パイプライン3の延長方向に沿う方向に十分な長さを有する接地極102を大地4中に埋設することができず、接地極102の周辺の電位の上昇を抑えることができない場合がある。この場合、図4に示すように、パイプライン3と接地極102との間に絶縁体401を設置することで、接地極102から発生する上昇電位Vを遮蔽することができる。このようにすることで、接地極102の延長方向(パイプライン3の延長方向に沿う方向)の長さLgが長くない場合や、接地極102がパイプライン3の近傍に配置されている場合(接地極102の上端とパイプライン3の下端との間の距離Dが短い場合)でも、パイプライン3の周辺における上昇電位Vを抑制し、パイプライン3の対地交流電位を抑制することができる。絶縁体401は、その抵抗率が大きく施工性のよい材料で形成するのが好ましい。具体的に、例えば、ゴムや塩化ビニル等を用いて絶縁体401を構成することができる。
また、絶縁体401の大きさ及び位置は、接地極102とパイプライン3との離隔距離や土壌抵抗率ρ等の環境条件等に基づいて決定する必要があるが、絶縁体401におけるパイプライン3と対向する面に沿う方向のうち、パイプライン3の延長方向に垂直な方向における絶縁体401の長さ(図4に示す例では、横方向(パイプライン3の延長方向に垂直且つ水平な方向)の長さ)Wを、概ね、パイプライン3の直径Φよりも大きくするのが望ましい(図4(a)を参照)。また、絶縁体401の延長方向の長さLiを、概ね、接地極102の延長方向の長さ(接地極長)Lgよりも大きくするのが望ましい(図4(b)を参照)。このようにすれば、パイプライン3が、接地極102のパイプライン3側の領域の全体と絶縁体401を介して対向するように絶縁体401を大地4中に埋設することができ、絶縁体401により、接地極102から発生する上昇電位Vをより確実に遮蔽することができるからである。
【0026】
以上のように本実施形態では、接地極102とパイプライン3との間に絶縁体401を設けるようにしたので、第1の実施形態で説明した効果に加えて、接地極102をパイプライン3の近傍に配置しなければならなかったり、接地極102の延長方向の長さLgを十分に長くすることができなかったり(すなわち、接地極102の表面積を大きくすることができなかったり)する場合でも、パイプライン3の対地交流電位を低減することができるという効果が得られる。
尚、本実施形態においても、第1の実施形態で説明した種々の変形例を採用することができる。
【0027】
尚、以上説明した本発明の各実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 送電鉄塔
2 交流架空送電線
3 パイプライン
100 パイプラインの電磁誘導電圧低減装置
101 電磁誘導低減導体
102 接地極
401 絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線に流れる交流電流に起因した電磁誘導の作用によってパイプラインに発生する電磁誘導電圧を低減する、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置であって、
前記電線と前記パイプラインとが並行している区間において前記パイプラインの延長方向に沿うように地中に埋設された電磁誘導低減導体と、
前記電磁誘導低減導体の前記延長方向における一端において、前記電磁誘導低減導体と電気的に相互に接続された接地極と、
前記電磁誘導低減導体の前記延長方向における他端において、前記電磁誘導低減導体と電気的に相互に接続された接地極と、を有し、
前記電磁誘導低減導体は、絶縁物で被覆されており、
前記接地極の接地抵抗の大きさは、10Ω以下であり、
前記電磁誘導低減導体は、前記電線に流れる交流電流に起因した電磁誘導の作用によって、前記パイプラインに発生する電磁誘導電圧を低減する交流磁界を発生することを特徴とする、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置。
【請求項2】
前記接地極の延長方向が前記パイプラインの延長方向に沿うように、前記接地極が地中に埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置。
【請求項3】
前記接地極の延長方向の長さは、前記接地極における前記パイプラインと対向する面に沿う方向のうち、前記接地極の延長方向に垂直な方向における前記接地極の長さよりも長いことを特徴とする請求項2に記載の、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置。
【請求項4】
前記接地極は、前記区間外で地中に埋設されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置。
【請求項5】
前記電磁誘導低減導体の導体部分と前記接地極との1km当たり合成抵抗の大きさが0.4Ω/km以上、0.9Ω/km以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置。
【請求項6】
前記電磁誘導低減導体と前記接地極との間で地中に埋設された絶縁体を更に有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置。
【請求項7】
前記パイプラインと、前記接地極のパイプライン側の領域の全体とが、前記絶縁体を介して対向するように、前記パイプライン、前記接地極、及び前記絶縁体が、地中に埋設されていることを特徴とする請求項6に記載の、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置。
【請求項8】
前記絶縁体における前記パイプラインと対向する面に沿う方向のうち、前記パイプラインの延長方向に垂直な方向における前記絶縁体の長さは、前記パイプラインの直径よりも長いことを特徴とする請求項7に記載の、パイプラインの電磁誘導電圧低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−7224(P2011−7224A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149168(P2009−149168)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(500171811)日鉄パイプライン株式会社 (34)
【Fターム(参考)】