説明

パイプ型熱交換器

【課題】 占有体積の拡大を抑えながらも凝縮液の戻りが良く熱交換性能の優れたパイプ型熱交換器を提供する。
【解決手段】 作動流体を封入するヒートパイプ11を有するパイプ型熱交換器1において、前記ヒートパイプ11は、横断面において、液状の作動流体通路となる隅部13が周方向に3箇所以上形成され、かつ該 隅部13は熱交換器の設置状態において略水平方向に形成されている。また、前記ヒートパイプ11は、横断面において周方向の一部に平坦部12を有し、基板21上に前記平坦部12で該基板12に接するように取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】各種電子機器を冷却する熱交換器、特に小型発熱デバイスの放熱器として好適に用いられるパイプ型熱交換器に関する。
【0002】
【従来の技術】パソコン等の電子機器には数多くの発熱デバイスが組込まれており、発生した熱を排出してこれらのデバイスを冷却するために種々の放熱器が用いられている。特にノートブック型パソコンや携帯用パソコンでは、小型ケースの中に発熱デバイスを装填し、かつキーボードも同じケース内に装填する必要上、狭いスペースに多くの発熱デバイスが組み込まれることとなり、放熱器は高い熱交換効率が求められる。また、昨今の電子機器の高性能化により発熱量が増大する傾向にあり、この点からも熱交換効率の向上が求められている。
【0003】このような放熱器として、放熱性が優れていることはもとより薄くてスペースをとらずかつ軽量であることから、作動流体を封入したヒートパイプを基板に取り付けたパイプ型熱交換器が汎用されている。従来のパイプ型熱交換器は、断面円形、楕円形、半月形等のパイプ、あるいはパイプ内面に溝を形成したグルーブ管が一般的である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、ヒートパイプの熱交換性能を左右する一要因に、凝縮液のもどりの良否がある。従来のヒートパイプではパイプ内面の作動流体付着量が少ないため、発熱体接触部近傍では作動流体が蒸発し尽くしているにも拘わらず、凝縮液が発熱体側に戻らずそれ以上の熱輸送ができなくなるドライアウト現象が発生するという問題点があった。特に、ノート型パソコンでは、ヒートパイプが水平状態に設置されるために凝縮液が戻りにくい状況にある。ヒートパイプの断面積を大きくして作動流体量を増やして熱輸送量を増大させることは可能であるが、限られたスペース内ではヒートパイプの占有体積の拡大は極めて困難である。
【0005】この発明は、このような技術背景に鑑み、占有体積の拡大を抑えながらも凝縮液の戻りが良く熱交換性能の優れたパイプ型熱交換器の提供を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明のパイプ型熱交換器は、前記目的を達成するために、作動流体を封入するヒートパイプ(11)を有するパイプ型熱交換器において、前記ヒートパイプ(11)は、横断面において、液状の作動流体通路となる隅部(13)が周方向に3箇所以上形成され、かつ該隅部(13)は熱交換器の設置状態において略水平方向に形成されていることを基本要旨とする。
【0007】前記ヒートパイプ(11)は、横断面において周方向の一部に平坦部(12)を有すること、あるいはさらに基板(21)上に前記平坦部(12)で該基板(21)に接するように取り付けられていることが好ましい。また、前記ヒートパイプ(11)は、ろう付、かしめ、超音波接合、グリス、粘着性テープのいずれかにより基板(21)に取り付けられていることが好ましい。
【0008】また、前記ヒートパイプ(11)は、少なくとも内面側が銅または銅合金により形成されていることが好ましい。
【0009】また、前記ヒートパイプ(11)の肉厚(T)は0.2〜0.8mmであること、あるいは前記ヒートパイプ(11)の横断面内部寸法は、幅(W)2〜40mm、高さ(H)0.5〜10mm、隅部(13)の角度(M)5〜45°であることが好ましい。
【0010】この発明のパイプ型熱交換器は、凝縮液のもどりに効果のある隅部(13)が3箇所以上形成されているから、発熱体との接触部以外に少なくとも1箇所以上することになる。従って、凝縮液がもどりやすくなり、縮液を確実に環流させてドライアウトの発生を防ぐことができる。しかも、前記隅部(13)は略水平方向に形成されているから、多数の隅部を形成してもパイプ高さや断面積の拡大を抑えることができる。
【0011】また、前記ヒートパイプ(11)に平坦部(12)を形成し、この平坦部(12)で基板(21)または直接発熱体に取り付ければ、ヒートパイプ(11)はこれら(12)(21)と広い面積で接触するから熱抵抗が小さくなって優れた熱交換性能を得ることができる。前記ヒートパイプ(11)の基板(21)への取付は、ろう付、かしめ、超音波接合、グリス、粘着性テープのいずれかによれば、高い密着性を得て熱抵抗を可及的に小さくすることができる。
【0012】また、前記ヒートパイプ(11)の少なくとも内面側が銅または銅合金により形成されてる場合は、封入される作動流体に対する耐食性が良い。
【0013】また、前記ヒートパイプ(11)の肉厚(T)や横断面内部寸法が上記所定値である場合は、パイプ強度や優れた熱交換性能を確保しつつも、ヒートパイプ(11)の占有体積を抑制することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】図1および図2に、この発明のパイプ型熱交換器の一実施形態を示す。
【0015】前記パイプ型熱交換器(1)は、基板(21)と、この基板(21)上に密着状態に取付られて、内部に作動流体が封入されるヒートパイプ(11)とから構成される。
【0016】前記ヒートパイプ(11)は、横断面において上下壁が平らな平坦部(12)(12)に形成される一方、側面壁は中央で内側に折れ曲がって倒M字状を呈し、外側の角部に液状の作動流体の通路である隅部(13)が形成されている。前記隅部(13)は、優れた熱交換効率を達成するためにパイプ横断面において3箇所以上必要であり、かつ熱交換器の設置状態において略水平方向に形成することを要する。このように、略水平方向に形成することによって、隅部(13)を複数段に形成することが可能となり、多数の隅部を設けてもパイプ高さ(H)や断面積の拡大を抑えることができる。本実施形態では、左右各2段に形成して合計4箇所に隅部(13)が形成されている。この他、図3に示すように、隅部(13)を左右各3段合計6箇所に設けたヒートパイプ(15)や、図4に示すように、左右の隅部(13)数に差をつけた断面三角形のヒートパイプ(16)を例示できる。
【0017】前記ヒートパイプ(11)は、一方の平坦部(12)で基板(21)上に取付られており、基板(21)との接触面積が大きいため、熱抵抗が少なく熱交換効率が良い。しかもハンドリング性も良い。また、基板(21)を用いない場合でも、ヒートパイプ(11)を平坦部(12)で直接発熱体に取付ることにより優れた熱交換効率を達成できる。
【0018】前記基板(21)の材質や厚さは限定されないが、熱伝導性に優れている点でアルミニウムまたは銅あるいはこれらの合金を推奨できる。また、厚さは、基板(21)としての剛性を確保しつつ軽量化を図るために0.1〜0.8mmが好ましい。
【0019】前記ヒートパイプ(11)の材質は、基板(21)と同様に熱伝導性が優れていることからアルミニウムまたは銅あるいはこれらの合金を推奨できる。特に、銅またはその合金は、作動流体として汎用される水に対する耐食性に優れているという長所があり、少なくとも作動流体に触れるヒートパイプ(11)の内面を銅または合金で形成することが好ましい。内面のみを銅または銅合金で形成する方法として、メッキ、電着、蒸着、クラッド等を例示できる。また、好適な銅材料として特に水との反応性が低いOFHC(無酸素銅)やCu−Zr系化合物を推奨できる。
【0020】前記ヒートパイプ(11)の肉厚(T)は0.2〜0.8mmが好ましい。0.2mm未満では強度が低く、0.8mmを超えると軽量化を図ることができない。肉厚(T)の好ましい上限値は0.6mmである。また、ヒートパイプ(11)の横断面内部の幅(W)が2〜40mmが好ましい。2mm未満では基板(21)への接触面積が小さく十分な熱交換性能を得られない。一方、40mmを超えると軽量化を図ることができない。幅(W)の特に好ましい下限値は3mmであり、特に好ましい上限値は10mm、さらに好ましい上限値は13mmである。また、高さ(H)は0.5〜10mmが好ましい。0.5mm未満ではパイプ断面積が小さくなって封入される作動流体量が少なく十分な熱交換性能が得られない。一方、10mmを超えると大きくなりすぎてパソコン等の狭いスペースに組み込むには適さない。高さ(H)の特に好ましい下限値は0.6mmであり、特に好ましい上限値は5mmである。また、隅部(13)の角度(M)は5〜45°が好ましい。5°未満ではパイプが偏平になりすぎて作動流体量が少なく十分な熱交換効率が得られない。一方、45°を超えると凝縮液のもどりが悪くなって十分な熱交換効率が得られない。隅部の角度(M)の特に好ましい下限値は12°であり、特に好ましい上限値は40°である。
【0021】また、前記ヒートパイプ(11)は、さらなる熱交換効率の向上を図るために、内壁に溝を設けることも好ましい。このとき、溝は凝縮液のもどりを妨げないように隅部(13)を除く部分に形成することが好ましい。
【0022】前記パイプ型熱交換器(1)は、例えば図5に示す工程によって好適に製造される。
【0023】ヒートパイプ(11)の作製に際し、まず長尺の金属条(41)に横断面略円形に成形し、両端の継ぎ目を接合して円形パイプ(42)とする(図5(I)(II))。接合方法は、TIG溶接や高周波加熱接合などのように連続的に突き合わせ溶接ができる接合方法であれば適用できる。
【0024】なお、ヒートパイプ(1)の内面のみを銅または銅合金で形成する場合は、図5(I)の金属条(41)の状態でメッキ、電着、蒸着、クラッド等により被覆処理を行う。さらに、溝を形成する場合は、銅または銅合金被覆処理前にロール圧延等により溝を形成しておくことが好ましい。溝加工後に被覆処理を施すと、銅または銅合金の被覆材料が溝を埋めてしまうためである。また、所要断面形状のパイプに成形することを勘案して、両端の接合位置と隅部(13)相当位置には溝を形成しない。このように、溝加工を平面状態で行うことにより、容易に溝の形状設定を行うことができる。さらに、ロール圧延時に使用した圧延油や汚れはこの段階で適宜洗浄除去しておく。この段階では、材料は板状であるから洗浄作業は容易であり、かつ完全な洗浄除去を期することができる。
【0025】次いで、前記円形パイプ(42)をロールフォーミングにより、周方向の一部に平坦部(12)を形成するとともに、側壁部を内側に曲げて隅部(13)を形成して所要横断面形状のヒートパイプ(11)に成形する(図5(III))。ロールフォーミングを採用するのは、長尺で細いパイプの成形に有利であることによる。ロールフォーミングは変形の度合いに応じて、適宜数段階で行う。さらに、要すれば前記ヒートパイプ(11)を蛇行状に曲げ加工する。
【0026】そして、ヒートパイプ(11)の長さ方向の一端をろう付等により封鎖し、作動流体を封入した後、他端を封鎖する。
【0027】次いで、前記ヒートパイプ(11)を平坦部(12)で基板(21)上に取り付ける(図5(IV))。取り付け方法は、ヒートパイプ(11)と基板(21)との密着性が良い点で、ろう付、かしめ、超音波接合、グリス、粘着性テープのいずれかが良い。
【0028】
【発明の効果】以上の次第で、この発明は、作動流体を封入するヒートパイプを有するパイプ型熱交換器において、前記ヒートパイプは、横断面において、液状の作動流体通路となる隅部が周方向に3箇所以上形成され、かつ該隅部は熱交換器の設置状態において略水平方向に形成されているから、隅部において凝縮液を確実に発熱体接触部近傍に環流させてドライアウトの発生を防止するとともに、多数の隅部を形成してもパイプ高さや断面積の拡大を抑えることができる。従って、占有体積の拡大を抑制しつつも優れた熱交換性能を得ることができる。
【0029】また、前記ヒートパイプが横断面において周方向の一部に平坦部を有する場合、この平坦部で基板や発熱体に広い面積で接触するよう取り付けることができ、この間の熱抵抗を小さくして優れた熱交換性能を得ることができる。
【0030】さらに、前記ヒートパイプの基板への取付は、ろう付、かしめ、超音波接合、グリス、粘着性テープのいずれかによれば、高い密着性を得て熱抵抗を可及的に小さくすることができる。
【0031】また、前記ヒートパイプの少なくとも内面側が銅または銅合金により形成されてる場合は、封入される作動流体に対する耐食性が良い。
【0032】また、前記ヒートパイプの肉厚(T)が0.2〜0.8mmである場合、あるいはさらに前記ヒートパイプの横断面内部寸法が、幅(W)2〜40mm、高さ(H)0.5〜10mm、隅部の角度(M)5〜45°である場合は、パイプ強度や優れた熱交換性能を確保しつつも、ヒートパイプの占有体積を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のパイプ型熱交換器の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のII-II線断面図である。
【図3】この発明のパイプ型熱交換器の他の実施形態を示す横断面図である。
【図4】この発明のパイプ型熱交換器のさらに他の実施形態を示す横断面図である。
【図5】図1のパイプ型熱交換器の製造工程を示す横断面図である。
【符号の説明】
1…パイプ型熱交換器
11…ヒートパイプ
12…平坦部
13…隅部
21…基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】 作動流体を封入するヒートパイプ(11)を有するパイプ型熱交換器において、前記ヒートパイプ(11)は、横断面において、液状の作動流体通路となる隅部(13)が周方向に3箇所以上形成され、かつ該隅部(13)は熱交換器の設置状態において略水平方向に形成されていることを特徴とするパイプ型熱交換器。
【請求項2】 前記ヒートパイプ(11)は、横断面において周方向の一部に平坦部(12)を有する請求項1に記載のパイプ型熱交換器。
【請求項3】 前記ヒートパイプ(11)は、基板(21)上に前記平坦部(12)で該基板(21)に接するように取り付けられている請求項2に記載のパイプ型熱交換器。
【請求項4】 前記ヒートパイプ(11)は、ろう付、かしめ、超音波接合、グリス、粘着性テープのいずれかにより基板(21)に取り付けられている請求項3に記載のパイプ型熱交換器。
【請求項5】 前記ヒートパイプ(11)は、少なくとも内面側が銅または銅合金により形成されている請求項1〜4のいずれかに記載のパイプ型熱交換器。
【請求項6】 前記ヒートパイプ(11)の肉厚(T)は0.2〜0.8mmである請求項1〜5のいずれかに記載のパイプ型熱交換器。
【請求項7】 前記ヒートパイプ(11)の横断面内部寸法は、幅(W)2〜40mm、高さ(H)0.5〜10mm、隅部(13)の角度(M)5〜45°である請求項1〜6のいずれかに記載のパイプ型熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2002−13886(P2002−13886A)
【公開日】平成14年1月18日(2002.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−194216(P2000−194216)
【出願日】平成12年6月28日(2000.6.28)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)