説明

パスボックス

【課題】 飛沫感染防止用等の隔離室に用いることができ、コスト低減が可能なパスボックスを提供する。
【解決手段】 角筒状の外枠体2と、角筒状で引き出し式の内枠体3と、片開き扉4と、選択的ロック手段5とを備える。外枠体2は、隔離室を仕切る壁を貫通して室内側から室外側に連通する。内枠体3は外枠体2内に進退自在に嵌合し、室内側部分には室内側への引き出し位置で上方に開口する引出し側開口6を有し、室外側部分には前面に開口する開き扉側開口8を有する。片開き扉4は、内枠体3の開き扉側開口8の開口縁部に取付けられ開き扉側開口8を開閉する。選択的ロック手段5は、片開き扉4のみを開ける状態と内枠体3の引出し側開口6が開かれる室内側への内枠体3の引き出しのみを許容する状態とに選択可能な手段である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クリーンルーム程の高い清浄度は求められないが、飛沫感染の感染症への対策を講じる発熱外来施設等の部屋などのように、隔離が必要な部屋の室内側と室外側との間で物品の受け渡しを行うパスボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
パスボックスは、壁を介して仕切られたクリーンルームや、空気感染する感染症(天然痘,SARS,エボラ出血熱など)の患者の病床などの隔離室の室内側と室外側との間で、物品の受け渡しを行うのに使用される箱状の装置であり、これまで各種の構成のものが提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−28450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のパスボックスは、クリーンルームなどでの物品の受け渡しに対応した気密度の高い複雑な構造のものであり、材質もステンレスなどの重厚なものを使用する例が多く、コストが高くなる。飛沫感染の感染症(麻疹,インフルエンザなど)への対策を講じる程度の部屋の場合、クリーンルームほどの高い清浄度は求められず、従来のパスボックスでは、いずれも要求される清浄度に対して高価になるという問題点がある。
【0005】
この発明の目的は、クリーンルームほどの高い清浄度が得られなくても、室内外への物品の出し入れ時に、飛沫感染への対策を講じる隔離室に必要な程度の清浄度が確保でき、かつ低コストで製造でき、壁への設置も容易に行うことができるパスボックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のパスボックスは、隔離室の室内側と室外側とを仕切る壁に設置されて室内外間で物品の受け渡しを行うパスボックスであって、室内側から室外側に連通する筒状の外枠体と、この外枠体内に進退自在に嵌合して室内側および室外側に対する片方へのみ引出し可能な内枠体とを備え、この内枠体は、引出し可能側部分の上面または側面に、外枠体から引き出されることにより開放される引出し側開口を有し、かつ引出し不能側部分の正面に、開き扉が設けられた開き扉側開口を有し、前記内枠体は前記引出し側開口および開き扉側開口の他の部分では閉鎖されており、前記内枠体の前記開き戸側開口の開口縁部に、前記引出し側開口が前記外枠体で完全に閉じられる進退位置に前記内枠体が位置する状態で、前記開き扉の開きを可能として前記内枠体の引出しを阻止するロック状態と、前記内枠体の前記引出しを許容して前記開き扉の開きを阻止するロック状態とに切換可能な選択的ロック手段を設けたことを特徴とする。なお、上記の壁は、隔離室の出入り用の戸を含む意味である。
【0007】
この構成によると、内枠体が引き出し式であって、内枠体の室内外にそれぞれ開口する両側の開口は、一方の開口を、内枠体が引き出された位置でのみ開放される引出し側開口とし、他方の開口を開き扉としている。また、内枠体が引き出された状態では開き扉側開口は選択的ロック手段で閉じ状態が維持される。選択的ロック手段により開き扉によるロックを解除して開き扉が開き可能となる状態では、内枠体が外枠体内への納まり位置にあって、引出し側開口が閉ざされる。そのため、室内側と室外側との両方の開口が同時に開放されることが阻止される。したがって、室内外の開口が同時に開放状態になることがなくて、クリーンルームほどの清浄度は得られないまでも、室内外への物品の出し入れ時に、飛沫感染への対策を講じるに必要な程度の清浄度が確保される。
また、このパスボックスは、特に密封度を高めるシール手段や、密封性の高いステンレス等の材料は不要であり、内枠体の開口につき、片方を引出し式の開口、もう他方を片開き扉にした構成と、選択的ロック手段を設けただけの構成で済むため、構造が簡単で、安価に製造できる。そのため、木質材やプラスチック等の軽量資材で構成できて、全体を軽量にでき、簡易な間仕切り壁のような大きな荷重がかけられない壁にも設置することができる。
【0008】
この発明において、前記引出し可能側が前記隔離室の室内側であって、前記引出し側開口が室内側開口、前記開き扉側開口が室外側開口であっても良い。この場合、室外側に選択的ロック手段が位置し、この選択的ロック手段の操作を室外側で行うことになる。
隔離室に対し、一般的には室外側から室内側への物品の持ち込みを行うことが多いが、室外側が開き扉であって、かつ室外側で選択的ロック手段の操作が可能であると、室外側から室内側への物品の持ち込みの作業が行い易い。
【0009】
この発明において、前記開き扉が片開き扉であり、前記選択的ロック手段は、前記内枠体の開き扉側開口における、片開き扉の開き端側の開口縁部に設けられ、閉じ状態にある前記片開き扉の前面に係合する位置と、前記外枠体の開き扉側開口縁部の前面に係合する位置との間でスライド自在なスライド部材からなるものであっても良い。
片開き扉であって、選択的ロック手段が前記のスライド部材であると、選択的なロックを行う選択的ロック手段が簡素な構成にできる。そのため、パスボックスがより一層安価に製造できる。
【0010】
前記外枠体および内枠体が、木質材、またはプラスチックからなる場合は、前記のように一般的なパスボックスに比べて軽量にできて、簡易な間仕切り壁のような大きな荷重がかけられない壁にも設置することができ、また取付けや廃棄の作業が簡単に行える。
【発明の効果】
【0011】
この発明のパスボックスは、隔離室の室内側と室外側とを仕切る壁に設置されて室内外間で物品の受け渡しを行うパスボックスであって、室内側から室外側に連通する筒状の外枠体と、この外枠体内に進退自在に嵌合して室内側および室外側に対する片方へのみ引出し可能な内枠体とを備え、この内枠体は、引出し可能側部分の上面または側面に、外枠体から引き出されることにより開放される引出し側開口を有し、かつ引出し不能側部分の正面に、開き扉が設けられた開き扉側開口を有し、前記内枠体は前記引出し側開口および開き扉側開口の他の部分では閉鎖されており、前記内枠体の前記開き戸側開口の開口縁部に、前記引出し側開口が前記外枠体で完全に閉じられる進退位置に前記内枠体が位置する状態で、前記開き扉の開きを可能として前記内枠体の引出しを阻止するロック状態と、前記内枠体の前記引出しを許容して前記開き扉の開きを阻止するロック状態とに切換可能な選択的ロック手段を設けたため、室内外への物品の出し入れ時に、飛沫感染への対策を講じる隔離室に必要な程度の清浄度が確保でき、かつ低コストで製造でき、壁への設置も容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施形態に係るパスボックスの設置状態を示す断面図である。
【図2】同パスボックスの引出し側開口を開いた状態を示す断面図である。
【図3】同パスボックスを室外側から見た斜視図である。
【図4】同パスボックスの開き扉側開口を開いた状態を示す斜視図である。
【図5】同パスボックスを室内側から見た斜視図である。
【図6】同パスボックスの引出し側開口を開いた状態を示す斜視図である。
【図7】同パスボックスにおける選択的ロック手段の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の一実施形態を図1ないし図7と共に説明する。図1は、この実施形態のパスボックス1を、隔離室21を仕切る壁22に設置した状態を断面図で示す。このパスボックス1は、前記壁22に設置されて、隔離室21の室内側と室外側との間で物品の受け渡しを行う箱状の装置であって、外枠体2、内枠体3、片開き扉4、および選択的ロック手段5を備える。外枠体2および内枠体3は、合板やその他の木質材,アクリル樹脂製板材,または薄い金属板材などの軽量資材で形成されている。
【0014】
外枠体2は、前記壁22に設けられた貫通孔22a内に設置されて隔離室21の室内側から室外側に連通する断面方形の筒状体である。内枠体3は、前記外枠体2内に進退自在に嵌合する断面方形の引き出し式筒状体であり、その長手方向の寸法は外枠体2の長手方向の寸法に揃えられている。この内枠体3の一端側である室内側部分の上面には、図2のように外枠体2よりも室内側へ引き出された位置で、上方に向け開口する引出し側開口6が設けられている。引出し側開口6は、内枠体3の他端部を除く上面の略全体に設けられていても良い。内枠体3の他端部の周縁は、内枠体3が引き出された状態で引出し側開口6が室内側に連通する隙間を生じることがないように、引出し側開口6が形成されていない範囲となる前後幅が、ある程度は必要である。内枠体3の室内側部分の室内側を向く背面は背面壁3aで閉鎖されており、この背面壁3aに引き出し用把手7が設けられている。また、背面壁3aの一部または全体は、透明ガラス板や透明アクリル板等の透光性板材で構成され、この背面壁3aから内枠体3の中を透かし見ることができるようにされている。内枠体3が外枠体2から引き出されない図1の状態では、引出し側開口6は外枠体2に覆われて閉じられた状態となる。内枠体3の室外側部分には、前面に向け開口する開き扉側開口8が設けられている。
【0015】
パスボックス1を室外側から見た斜視図を図3に示す。同図のように、内枠体3の開き扉側開口8の開口縁部8aには、開き扉側開口8を開閉する方形の片開き扉4がヒンジ9を介して開閉自在に取付けられている。片開き扉4は、全体または一部が透明ガラス板や透明アクリル板等の透光性板材からなり、片開き扉4で内枠体3の開き扉側開口8が閉じられた図3の状態でも、内枠体3の中を透かし見ることができるようにされている。また、片開き扉4の前面には、開閉操作用の把手10が設けられている。
【0016】
選択的ロック手段5は、片開き扉4の前面と外枠体2の室外側に面する開口縁部2aとに跨がって設けられ、内枠体3の引出し側開口6が外枠体2で完全に閉じられる進退位置に内枠体3が位置するとき(図1の状態)、片開き扉4のみを開くことができる状態と、内枠体3の引出し側開口6が開かれる室内側への内枠体3の引き出しのみを許容する状態とを択一的に選択できる機構である。この選択的ロック手段5は、具体的には、図7のように、内枠体3の室側側開口8の開口縁部8aに設けられ、閉じ状態にある片開き扉4の前面と、外枠体2の開き扉側開口縁部2aの前面とにスライド自在なスライド部材11からなる。スライド部材11には、横方向に延びる上下一対のガイド用ルーズ孔12,12が設けられ、内枠体3の開き扉側開口8の開口縁部8a前面に突設された上下一対の係合ピン13,13を前記両ルーズ孔12に係合させることにより、スライド部材11が左右にスライド自在とされ、かつ抜け止めされている。
【0017】
次に、上記構成のパスボックス1を用いて隔離室21の室内外間で行われる物品の受け渡し手順について説明する。
内枠体3の引出し側開口6が外枠体3により完全に閉じられ、また内枠体3の開き扉側開口8も片開き扉4で閉じられた図1の状態において、選択的ロック手段5のスライド部材11の一部が、図7(B)のように外枠体2の開口縁部2aの前面に跨がっているとき、スライド部材11は片開き扉4の前面から完全に退避した状態にある。このため、この状態では、図4のように片開き扉4を開いて内枠体3の開き扉側開口8を開放することができるが、スライド部材11の一部が外枠体2の開口縁部2aの前面に跨がっているため、内枠体3を室内側から引き出すことはできない。この状態で、室側側から内枠体3内に物品を差し入れることができ、このとき引出し側開口6が同時に開かれるのを防止できる。
【0018】
内枠内3への物品の差し入れを完了したあとで、図7(A)のように選択的ロック手段5のスライド部材11をその一部が片開き扉4の前面に跨がる位置までスライドさせると、片開き扉4は図3のようにスライド部材11でロックされて開くことができなくなる。しかし、スライド部材11は外枠体2の開口縁部2aから完全に退避した状態にあるので、室内側において図5の状態から図6のように内枠体3を引き出して引出し側開口6を開き、その引出し側開口6から内枠内3に差し入れられた物品を受け取ることができ、このとき開き扉側開口8が同時に開かれるのを防止できる。
【0019】
このように、このパスボックス1によると、室内側と室外側との両方の開口6,8が同時に開放されることが阻止される。したがって、クリーンルームほどの清浄度は得られないまでも、室内外への物品の出し入れ時に、飛沫感染への対策を講じるに必要な程度の清浄度が確保される。そのため、飛沫感染レベルの感染症での医療スタッフの感染防止対策などに有効である。
【0020】
また、このパスボックス1は、特に密封度を高めるシール手段や、密封性の高いステンレス等の材料は不要であり、内枠体3の開口につき、片方を引出し式の開口6、もう他方を片開き扉8にした構成と、選択的ロック手段5を設けただけの構成で済む。そのため、構造が簡単で、安価に製造できる。例えば、構成部品の材質も、合板,アクリル樹脂製板材,金属板材などの軽量材料を使用することができるので、コスト低減も可能となる。全体を軽量にできるため、簡易な間仕切り壁のような大きな荷重がかけられない壁にも設置することができ、廃棄などの作業も容易となる。
【0021】
また、この実施形態では、選択的ロック手段5として、内枠体3の開き扉側開口8の開口縁部8aに設けられ、閉じ状態にある片開き扉4の前面と外枠体2の開き扉側開口縁部2aの前面とにスライド自在なスライド部材11を用いているので、選択的ロック手段5を簡単に構成できる。
【0022】
またこの実施形態では、内枠体3の室内側部分に引き出し用把手7を設けているので、室内側からの内枠体3の引き出し操作を把手7を用いて容易に行うことができる。
またこの実施形態では、外枠体2および内枠体3を断面方形の筒状体としているので、パスボックス1の加工が容易で、基本サイズを固定して進める場合にはサイズオーダも可能となり、さらなるコスト低下が可能となる。
【0023】
なお、上記実施形態では、片開き扉4を設けたが、片開き扉4の代わりに両開き扉を設けても良く、また上下、例えば下端で上下回動可能に片開き扉4を開閉回動可能したものであっても良い。上記引出し側開口6は、内枠体3の側面に設けられていても、また内枠体3の上面から側面に渡って設けられていても良い。
【符号の説明】
【0024】
1…パスボックス
2…外枠体
2a…開口縁部
3…内枠体
4…片開き扉
5…選択的ロック手段
6…引出し側開口
7…引き出し用把手
8…開き扉側開口
8a…開口縁部
11…スライド部材
21…隔離室
22…壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔離室の室内側と室外側とを仕切る壁に設置されて室内外間で物品の受け渡しを行うパスボックスであって、
室内側から室外側に連通する筒状の外枠体と、この外枠体内に進退自在に嵌合して室内側および室外側に対する片方へのみ引出し可能な内枠体とを備え、この内枠体は、引出し可能側部分の上面または側面に、外枠体から引き出されることにより開放される引出し側開口を有し、かつ引出し不能側部分の正面に、開き扉が設けられた開き扉側開口を有し、前記内枠体は前記引出し側開口および開き扉側開口の他の部分では閉鎖されており、前記内枠体の前記開き戸側開口の開口縁部に、前記引出し側開口が前記外枠体で完全に閉じられる進退位置に前記内枠体が位置する状態で、前記開き扉の開きを可能として前記内枠体の引出しを阻止するロック状態と、前記内枠体の前記引出しを許容して前記開き扉の開きを阻止するロック状態とに切換可能な選択的ロック手段を設けたことを特徴とするパスボックス。
【請求項2】
請求項1において、前記引出し可能側が前記隔離室の室内側であって、前記引出し側開口が室内側開口、前記開き扉側開口が室外側開口であるパスボックス。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記開き扉は片開き扉であり、前記選択的ロック手段は、前記内枠体の開き扉側開口における片開き扉開き端側の開口縁部に設けられ、閉じ状態にある前記片開き扉の前面に係合する位置と、前記外枠体の開き扉側開口縁部の前面に係合する位置との間でスライド自在なスライド部材からなるパスボックス。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記外枠体および内枠体が、木質材、またはプラスチックからなるパスボックス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37080(P2012−37080A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175041(P2010−175041)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【出願人】(591241718)大和リース株式会社 (6)
【Fターム(参考)】