説明

パターヘッド

【課題】バックスピン量が少ないパターヘッドを提供する。
【解決手段】パターヘッド1のフェース面3にはトウ・ヒール方向に延在する複数本の溝4が平行に設けられている。溝4の幅Wは0.5〜1.6mm、溝間隔Sは0.25〜3.2mm、W/Sは0.5〜2.0、好ましくは0.5〜1.5である。溝の深さHは0.03〜1.2mmである。溝4の断面形状は、方形又はU字形である。溝4は縦溝であってもよく、横溝と縦溝の双方を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴルフ用のパターヘッドに係り、特にフェース面に溝を設けたパターヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
パターヘッドは、グリーン上でボールを転がす為のゴルフクラブたるパターのヘッドである。特開2003−777号の0002段落に記載の通り、フェース面全体に、通称ミリング目と呼ばれる、フェース面正面からみて、等間隔の円弧状に、フライス盤での切削加工によって溝を形成したものが、よくみられる。この溝を形成する理由は、ゴルフボールとの接触面積の減少によりソフトフィーリングが得られることや、雨や露によってフェース面が濡れている状態でボールがスリップしにくい、または、デザイン的な模様による見栄えという意味など、様々に利点があり、打感やフィーリングを重視した上級者用パタークラブヘッドに多くみられるものである。
【0003】
同号公報の請求項3〜5には、溝間隔を0.3〜3mmとすること、溝深さを0.03〜0.3mmとすること、円弧状溝の円弧の半径を8〜80mmとすることが記載されている。
【特許文献1】特開2003−777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パターヘッドは、一般に2〜5°程度のロフト角を有しており、インパクト直前には、ゴルフボールにバックスピンが掛かっていることが、高速度カメラの撮影で分かった。このバックスピンにより、ボールの転がりが悪くなる。本発明は、このバックスピンを減らすように改良されたパターヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明(請求項1)のパターヘッドは、フェース面に複数の溝が略平行に形成されたパターヘッドにおいて、溝幅W(mm)と溝間の幅S(mm)との比W/Sが0.5〜2.0であることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2のパターヘッドは、請求項1において、溝幅Wが0.5〜1.6mmであることを特徴とするものである。
【0007】
請求項3のパターヘッドは、請求項1又は2において、前記溝の深さHが、0.03〜1.2mmであることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4のパターヘッドは、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記溝の断面形状は、方形又はU字形であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項5のパターヘッドは、請求項1ないし4のいずれか1項において、フェース面が本体とは材質の異なるインサート材によって構成されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項6のパターヘッドは、請求項5において、該インサート材は、複数の材料が積層された積層材よりなることを特徴とするものである。
【0011】
請求項7のパターヘッドは、請求項6において、該積層材の少なくとも1つの層が金属よりなり、他の少なくとも1つの層が合成樹脂、ゴム又はエラストマーよりなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明者らの研究の結果、フェース面とボールの接触面積を減らすとバックスピンが減ることが分かった。また、パターでゴルフボールを打った時のフェース面の打痕を、パターヘッドのフェース面に感圧紙を貼って調べたところ、直径3〜5mm程度の跡が残ることが認められ、ボールに多少の変形が有ることが分かった。
【0013】
そこで、フェース面にアイアンヘッドに設けられるコルゲーションと同様の溝を入れて、ボールの初期のバックスピン量を調べて、その転がり量を調べた。その結果、アイアンヘッドの場合は、パターヘッドに比べ、遥かにヘッドスピードが速い為、コルゲーション(溝)にボールが食い込むため、バックスピン量は増えると考えられるが、パターヘッドの場合は、逆にバックスピン量が減ることが分かった。
【0014】
本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0015】
本発明のパターヘッドにあっては、上記の通り、パッティングされたボールのバックスピン量が少ないため、グリーン上を転がるボールがフェース面から離れた早い段階でオーバースピンするようになり、ボールが狙ったライン上をスムーズに転がるようになる。また、特にグリーン上の芝目が逆目である場合に、予期せずに球足が伸びずに大幅にショートする(停止したボールからカップまで長い距離が残ってしまう)ことが防止される。
本発明では、フェース面を本体とは材質の異なるインサート材によって構成することによって、打感を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
第1図は実施の形態に係るパターヘッドの正面図、第2図は第1図のII−II線断面図、第3図は第2図のフェース面部分の拡大図である。
【0018】
このパターヘッド1は、ホゼル部2にシャフト(図示略)が挿入され、接着剤等によって固着されることによりパターとされるものである。
【0019】
このパターヘッド1のフェース面3にはトウ・ヒール方向に延在する複数本の溝4が平行に設けられている。
【0020】
溝4は、パターヘッド1のソール面のトウ・ヒール方向の中央部を水平面に当接させたソール状態において水平方向に延在している。各溝4の長手方向の中心はパターヘッド1のトウ・ヒール方向の中心付近に位置している。
【0021】
溝4の長さは好ましくは5mm以上、特に30mm以上である。溝4は、フェース面3のトウ・ヒール方向の全長にわたって存在してもよい。溝4の数は3本以上、特に3〜30本程度が好ましい。
【0022】
最も下位の溝4の下縁とパターヘッド1のソール面からの距離は10mm以下であることが好ましい。なお、溝4が下方に向って凸となる円弧形であるときには、最も下位の溝4がフェース面3の下縁に沿って延在してもよい。
【0023】
次に、溝4の幅、溝間隔、深さ及び溝の断面形状について説明する。
【0024】
本発明では、溝幅Wと溝間隔Sとの比W/Sは0.5〜2であり、好ましくは0.5〜1.5、特に好ましくは0.6〜1.3である。W/Sが0.5よりも小さいと効果が少ない。また、2よりも大きいとボールが溝の無い部分のみに接触したりしなかったりで、転がる距離にバラツキが出やすくなる。
【0025】
溝幅Wは好ましくは0.5〜1.6mm、特に0.5〜1.25mm、とりわけ0.75〜1.25mmである。溝幅が0.5mm未満であると、溝形成が難しくなる為、0.5mm以上とした。1.6mm以下としたのは、ボールの打痕が直径3〜5mm程度であったためである。溝幅が1.6mmよりも大きいと、溝部のエッジ部が、ボールの転がる距離にバラツキがでやすくなる可能性が有る。
【0026】
溝間隔Sは0.25〜3.2mm、特に0.25〜2.5mm程度が好ましい。溝間隔Sが0.25mmよりも小さいと、溝形成が難しくなる。
【0027】
溝4は、フェース面3とボールとの接触面積を減らすためのものである。従って、溝4が深い分には、効果に関して言えば影響は無いが、1.2mm以下である事が好ましい。打痕の直径がおよそ3mmでは、ボールは、0.03mm程度変形することから、0.03mm以上の深さを有していることが好ましい。
【0028】
溝の断面形状は、V溝、U溝、角溝のどれでも良いが、U溝、角溝が、ボールが変形してもフェース面の接触面積が殆ど変わらないので、好ましい。また、フェース面と溝との接する角部を丸めてあると、バックスピンの影響が小さくなるので好ましい。
【0029】
この実施の形態では、横方向に溝を作成したが、縦方向に溝を形成させても良い。この場合、溝の幅、間隔、W/Sは上記の通りである。縦溝の場合も長さは5mm以上であることが好ましい。
【0030】
本発明のパターヘッドの材質は、金属、合成樹脂、ゴム、セラミックス、繊維強化樹脂など任意である。また、フェース面だけパターヘッドの本体部分と別の素材で構成してもよい。
【0031】
上記実施の形態では、溝4は直線状であるが、円弧形など曲線状であってもよい。また、横溝と縦溝の双方を設けてもよい。
【0032】
第4図〜第7図を参照してフェース面をインサート材で構成した実施の形態について説明する。第4図はこのパターヘッド1Aの正面図、第5図は第4図のV−V線に沿う断面図、第6図はインサート材の裏面側の斜視図、第7図は第6図のVII−VII線断面図である。なお、このパターヘッド1Aは、フェース面にインサート材10,20を設けた他は上記パターヘッド1と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0033】
第1のインサート材10は裏面がえぐられて凹所11となっている略長方形板状であり、このインサート材10の前面に溝4が設けられている。
【0034】
インサート材10の凹所11の底面に相当する裏面からは複数(この実施の形態では12個)の柱状、好ましくは円柱状の凸部12が突設されている。この凸部12は、その先端面が凹所11を囲む周壁部13の後面と面一となる高さを有している。
【0035】
なお、インサート材10の全体の厚みTは2〜6mm、凹所11の深さ即ち凸部12の高さは1〜3mm、凸部12の数は10〜30個、凸部12の径は1〜3mm、周壁部13の肉厚Nは1〜3mm程度が好ましい。インサート材10のトウ・ヒール方向の長さは40〜100mm程度が好適であり、高さは10〜30mm程度が好ましい。
【0036】
この実施の形態では凹所11に合成樹脂、ゴム又はエラストマーよりなる第2のインサート材20が充填されている。この第2のインサート材20を凹所11に充填したインサート材10がヘッド本体の凹部に接着剤を介して嵌合接着される。なお、接着剤と共に、又は接着剤の代わりに、凹部の中を広く、入口を狭くして、外れにくくしても良い。また、金属やセラミック同士であれば、カシメ、溶接、ロウ付けなどの固定手法を採用してもよい。
【0037】
このように、インサート材10,20をフェース面に設けることにより、パターヘッド1Aの打感、フィーリング、タッチなどの感覚的要素を調整することができる。
【0038】
第1のインサート材10としては、チタン、チタン合金、ステンレス、軟鉄、アルミニウム、アルミニウム合金、貴金属などの金属が好適であるが、ゴム、合成樹脂などであってもよく、セラミックス、カーボンなどであってもよい。
【0039】
第2のインサート材20を構成する合成樹脂としては、ポリウレタン、ナイロン、ポリエステル、ポリカーボネート等、ゴムとしてはシリコンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム等、エラストマーとしてはスチレン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、エチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、アミド系エラストマー等が好適である。この合成樹脂のショアA硬度は90〜98程度が好ましく、ゴム及びエラストマーのショアA硬度は20〜30程度が好ましい。
【0040】
なお、本発明では、第2のインサート材20を省略し、第1のインサート材10のみを設けてもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0042】
実施例1〜3、比較例1
パターヘッドとして、ロフト角4度のピン型のパターヘッド(材質ステンレス SUS304)を使用して、評価を行った。
【0043】
フェース面には、ボールを打つ部分(フェースのトウ・ヒール方向の中間部分)に図示のように溝を6本入れてある。溝は、機械加工で加工し、角溝とした。溝の長さは、最も低い位置の溝長さが一番長く、54mmとし、最も高い位置の溝長さは、37mmと最も短くした。
【0044】
溝幅は0.75mm、溝深さは0.4mmとした。
【0045】
このパターヘッドにスチールシャフトを取り付けてパターとした。
【0046】
トップアマ(上級ゴルファー)がテストを行った。目標を2.5mとし、同じスイングでテストをした。グリーン上転がるボールを高速度カメラで撮影し、ボールのスピン量を計測した。なお、ボールはヒット直後に若干飛翔し、次いで着地して転がった。実験結果を表1に示す。表中の単位rpmは、1分間の回転数である。
【0047】
【表1】

【0048】
表1の通り、溝があるパターヘッドの方が、初期のバックスピンが少なく、着地後のフォワードスピンが多くなり、転がりが良く、転がる距離が伸びた。
【0049】
実施例4、5、比較例2
次に、W/Sを0.9と一定とし、溝幅を変えたものを試作して試験し、溝幅の効果を検討した。
【0050】
パターヘッドとして、W=0.75mm、S=0.83mm、W/S=0.9、H=0.4mmのもの(実施例4)と、W=1.25mm、S=1.39mm、W/S=0.9、H=0.4mmのもの(実施例5)とを用いた。
【0051】
今回は目標を4.8mとし、同じスイングで実験を行った。
【0052】
対比のために比較例1と同じパターヘッドについても同一条件で実験を行った(比較例2)。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2の通り、実施例4,5はいずれも比較例2に比べて、バックスピンの減少が見られ、転がり距離が伸びた。
【0055】
実施例6
第1のインサート材10及び第2のインサート材20を用いて第4図〜第7図に示すパターヘッド1Aを製作し、ゴルファーの試打に供し、打感を集計した。なおNo.1,2では第2のインサート材を省略し、第1のインサート材10のみを用いた。
【0056】
第1のインサート材10の各部分の寸法は次の通りである。
トウ・ヒール方向の長さ:60mm
高さ :14mm
厚さT :4mm
周壁部肉厚N :1.5mm
凹所11の深さ :2mm
インサート材の材料の組み合わせは次の通りである。No.3〜No.8では、+の記号の左側が第1のインサート材の材料であり、右側が第2のインサート材の材料である。
【0057】
No.1:ステンレス製の第1のインサート材10のみ
No.2:アルミ合金製の第1のインサート材10のみ
No.3:ステンレス+高硬度樹脂
No.4:アルミ合金+高硬度樹脂
No.5:ステンレス+ゴム
No.6:アルミ合金+ゴム
No.7:高硬度樹脂+ゴム
No.8:高硬度樹脂+高硬度樹脂
【0058】
ステンレスとしてはSUS304を用いた。アルミ合金としては6061を用いた。高硬度樹脂としてはショアA硬度95のウレタン樹脂を用いた。ゴムとしてはショアA硬度25のニトリルゴムを用いた。
【0059】
打感の軟らかさの評価順位を軟らかいほうから並べた結果、打感が調整されたことが認められた。なお、18人のゴルファーにより好感度を調べたところ、No.8が最も高く、以下、No.5,No.6,No.1,2(同位)、No.3、No.7の順であった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施の形態に係るパターヘッドの正面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図2の一部の拡大図である。
【図4】別の実施の形態に係るパターヘッドの正面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】第1のインサート材の斜視図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 パターヘッド
2 ホゼル部
3 フェース面
4 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース面に複数の溝が略平行に形成されたパターヘッドにおいて、
溝幅W(mm)と溝間の幅S(mm)との比W/Sが0.5〜2.0であることを特徴とするパターヘッド。
【請求項2】
請求項1において、溝幅Wが0.5〜1.6mmであることを特徴とするパターヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記溝の深さHが、0.03〜1.2mmであることを特徴とするパターヘッド。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記溝の断面形状は、方形又はU字形であることを特徴とするパターヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、フェース面が本体とは材質の異なるインサート材によって構成されていることを特徴とするパターヘッド。
【請求項6】
請求項5において、該インサート材は、複数の材料が積層された積層材よりなることを特徴とするパターヘッド。
【請求項7】
請求項6において、該積層材の少なくとも1つの層が金属よりなり、他の少なくとも1つの層が合成樹脂、ゴム又はエラストマーよりなることを特徴とするパターヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−154974(P2008−154974A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351577(P2006−351577)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(592014104)ブリヂストンスポーツ株式会社 (652)
【Fターム(参考)】