説明

パック電池の製造方法

【課題】 プログラムが流出しても通常動作が困難となるプログラムを採用したパック電池の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明のパック電池の製造方法は、二次電池と直列に接続された制御素子と、該制御素子をオンオフ制御する制御部とを備えたパック電池において、前記制御部を動作させるプログラムが、前記制御素子を動作状態とするかしないかの許可を出す起動モード許可ステップとを備えたパック電池の製造方法であって、前記制御部にプログラムをインストールする第1工程と、該第1工程後において、前記起動モード許可ステップを許可できる状態にする第2工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パック電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、電池パックの模造品が市場に流通し、それら製品は安全性に欠けることがあるため通常の使用においても爆発事故など人体に危害を加える可能性がある。これら電池パックを排除するため、最近では認証技術を導入し、正規品と模造品を区別する技術が導入されている。(下記の特許文献1参照)
また、このような認証技術の採用の有無にかかわらず、マイコンからなる制御部を備えるパック電池においては、模造品の製造を防止するためには、このマイコン、メモリにインストールされるプログラム、データが、流出、盗難されるのを防止することが大切である。
【特許文献1】特開2000−200222号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
正規品の電池パックを製造するときに必要な情報(この場合、制御部として制御回路のプログラムやデータ)が漏れた場合は、容易に正規品と同じ電池パックの製造が行えてしまう。このようなプログラム、データは、市場で通常入手できる電池パックから入手することが現実的に不可能である(入手できるデータは1、0からなるバイナリーコードとなるため等の理由から)。残念ながら、製造者の意に反して、これらのプログラム、データの情報(これらの電子ファイルでの形式も含めて)が流出、盗まれたりする可能性は、製造する工場内で発生することがある。
【0004】
これら情報が漏れないようにするためには、これら情報を扱う基板製造工場(又は工程)、電池パック製造工場(又は工程)、品質部門(又は検査工程)など広範囲に渡って、情報、データの閲覧、アクセスを制限したり、閲覧する時にはパスワードを必要とするなどセキュリティを高めた高額な設備が必要になる。実際、これら設備を整えたとしても、データを扱う部門が多岐に渡っており、その管理を行うのは容易ではない。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するために成されたものであり、プログラムが流出しても通常動作が困難となるプログラムを採用したパック電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のパック電池の製造方法は、二次電池と直列に接続された制御素子と、該制御素子をオンオフ制御する制御部とを備えたパック電池において、前記制御部を動作させるプログラムが、前記制御素子を動作状態とするかしないかの許可を出す起動モード許可ステップとを備えたパック電池の製造方法であって、前記制御部にプログラムをインストールする第1工程と、該第1工程後において、前記起動モード許可ステップを許可できる状態にする第2工程とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記起動モード許可ステップにおいて、起動データが所定値か否かが判定され、前記起動データが前記所定値であるとき、許可し、前記起動データが前記所定値でないとき、許可しないことを特徴とする。
【0008】
更に、前記第1工程においては、前記起動データが前記所定値でない値であり、前記起動モード許可ステップを許可できる状態でなく、前記第2工程においては、前記起動データが前記所定値であることにより、前記起動モード許可ステップを許可できる状態にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、第1工程でプログラムをインストールするものの、該第1工程後の第2工程において、起動モード許可ステップを許可できる状態にするので、たとえ、第1工程でプログラムが流出したとしても、このプログラムでは、正常にパック電池を動作することはできない。つまり、このプログラムでは、制御素子を動作状態とすることができない。また、第2工程においては、起動モード許可ステップを許可できる状態にする工程であるので、この工程のプログラムが流出しても、このプログラム自体だけでは、正常にパック電池を動作させることはできない。
【0010】
また、本発明においては、起動モード許可ステップにおいて、起動データが所定値か否かが判定されるので、簡便の方法で、許可できる。
【0011】
更に、本発明においては、第1工程においては、前記起動データが前記所定値でない値とするだけで、前記起動モード許可ステップを許可できる状態にないので、たとえ、第1工程でプログラムが流出したとしても、このプログラムでは、正常にパック電池を動作することはできない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施例を、図を用いて詳細に説明する。まず、図1を用いて、本発明の実施例のパック電池Aの回路構成、動作、機能を説明し、その後、本発明の特徴について説明する。図1に示すように、本実施例においては、パック電池Aと、これを充電する電源を備える電子機器である携帯機器PCとを備えている。携帯機器PCは、ノート型のような携帯型パーソナルコンピュータである。パック電池Aは、通常、携帯機器PCに着脱自在に装着される構造である。携帯機器PCには、コンセントからの交流商用電力を直流電力に変換するアダプター(図示せず)から出力される直流電力が供給され、この電力を制御し、供給するマイコンを内蔵する制御・電源手段Sを備えている。制御・電源手段Sからの電力出力は、パック電池Aを充電するのに利用されたり、携帯機器PCの負荷Lに電力供給される。また、商用電力より電力供給がない場合は、パック電池Aより電力が供給され、電源回路S及び負荷Lを駆動させる。
【0013】
まず、パック電池Aにおいては、第1工程としての基板組立工程で組立られる各種電子部品を搭載した制御基板100を備えている。そして、基板組立工程の後、第2工程として、パック組立工程において、周知の技術のように、箱型の樹脂製外ケース110(詳細な外形は省略する)内に、制御基板100、電池1等が収納される。
【0014】
パック電池Aにおいては、リチウムイオン電池又はニッケル水素電池等の二次電池1と、電池1の充放電時の電流を検出する抵抗等からなる電流検出部2と、電池1の充放電を監視、制御するマイクロプロセッサーユニット(以下、MPUと記す)とを備えている。また、パック電池A内には、電池1に密接して配置されたサーミスタを含む温度検出部3が設けられている。
【0015】
本実施例においては、電池1は図示されるように、電池セル11,12,13、電池セル21,22,23、電池セル31,32,33を、3並列に電気接続して、ブロックP1、P2、P3とし、これらブロックP1、P2、P3を直列接続している。このような電気接続においては、電池セルの正極、負極に平板状金属片であるタブをスポット溶接等により接続して、電気接続している。電池セルには、リチウムイオン2次電池の場合は、約2000mAh/セル程度の容量のものを使用する。
【0016】
MPUにおいては、トータル電池電圧(測定箇所d)、各ブロックP1〜P3の電圧、電流検出部2からの出力、温度検出部3からの出力のアナログ電圧が入力され、デジタル変換し、実電圧[mV]や実電流値[mA]等に換算するA/D変換部4が設けられている。そして、A/D変換部4からの出力が、マイコンを備える制御部としての充放電制御・演算部5に入力されて、演算、比較、判定等が行われて、この制御・演算部5からの信号で、スイッチングトランジスタ等からなる制御素子7をオンオフ制御する。
【0017】
つまり、制御・演算部5においては、充放電電流を積算して残容量を演算処理したり、電池1の満充電を検出したり、異常電流、異常温度、異常電圧の検出時等に、充放電を制御する。そして、スイッチングトランジスタ等からなるスイッチング素子としての制御素子7は、オンオフ制御され、異常電流、異常温度、異常電圧の検出時に、制御・演算部5からの制御信号で電流を遮断する。周知技術を利用して、制御・演算部5においては、A/D変換部4によって変換された充放電電流に測定単位時間(例えば、250msec)を掛け算した値を積算し、放電時においては満充電から積算量を引き算し、或いは、充電時においては充電開始時の残容量より積算量を加算する。このような演算により、電池1の残容量(Ah)を算出している。このような電流積算の残容量に代わって、測定時点での電圧と、電流と、測定単位時間とを掛け算した値を積算した電力の積算量(Wh) を、残容量としても良い。
【0018】
また、制御・演算部5においては、各種データをメモリーに記録している。マイコンであるCPU(Central Processing Unit)を含む制御・演算部5は、種々のメモリーを備えている。パック電池Aの動作を制御するプログラムを保存するプログラムメモリを備え、プログラムメモリは、不揮発性の記憶媒体である。ROM(Read Only Memory)には、プログラムの実行時に必要なデータなどがあらかじめ記憶される。RAM(Random Access Memory)は、プログラムの一部や、各種データを一時的に記憶する。この他に、不揮発性メモリとしてEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)又はFlashMemoryを備えており、EEPROM又はFlashMemoryには、CPUに実行させるソフトウェアや設定データや、MPUのシャットダウンが発生しても保存が必要なデータ(例えば、学習容量、サイクル数、異常時のデータ等)などをシャットダウンより前に記憶するとともに、これらを随時書き換えることが可能となっている。
【0019】
そして、制御・演算部5においては、上述のRAMにおいて、各種のタイマー、カウンターを備えており、時間計測、回数の計測等に利用される。
【0020】
また、制御・演算部5において、満充電の検出については、電池1がニッケル水素電池等の場合は、ピーク電圧を検出したり、電池電圧の−ΔV(=電圧低下)を検出したり、演算された残容量を利用したり等の周知の方法にて検出している。電池1がリチウムイオン電池の場合は、電流、電圧を規制した定電流(MAX電流0.5〜1C程度)・定電圧(MAX4.2V/セル程度)充電を利用し、電圧が所定値以上、電流が所定値以下の条件のとき、満充電とする。満充電を検出したとき、制御・演算部5は残容量を100%とする情報を出力する。満充電の情報は、通信ラインを介して、電子機器に送信されることもできる。
【0021】
ここで、制御・演算部5は、充電電流、放電電流を遮断するために、制御素子7であって、充電用制御素子としてpチャネル型FETである充電用FET素子71、放電用制御素子としてpチャネル型FETである放電用FET素子72に対して、オンオフ制御する信号を発する。なお、pチャネル型FETに代わって、チャージポンプを利用してnチャネル型FETの充電用FET素子、放電用FET素子を利用することも可能であり、このときは、後述する予備充電用FET素子74はpチャネル型FETを利用する。
【0022】
制御・演算部5においては、リチウムイオンであるとき電池1の電圧が、過充電電圧以上(例えば、4.2V以上)になると、充電用FET素子71をオフ制御するために、オフ信号(素子71がpチャネル型FETのゲートに印加するため、オフ信号の電圧は、High電圧の信号に相当する)を、ポートCHより発する。また、電池1の電圧が、過放電電圧以下(例えば、2.7V/Cell以下)になると、放電用FET素子72をオフ制御するために、オフ信号(素子72がpチャネル型FETのゲートに印加するため、オフ信号の電圧は、High電圧の信号に相当する)を、ポートDSCより発する。なお、上述のように、素子71、72のpチャネル型FETのゲートに印加するため、オフ信号の電圧は、High電圧の信号に相当し、オン信号の電圧は、Low電圧の信号に相当する。また、過充電状態においては、制御・演算部5よりポートCHにオフ信号が発せられることより、充電は停止される。このときは、携帯機器PCが放電すると、DSCはオン信号であるので、放電用FET素子72がオン状態で、オフ状態の充電用FET素子71の寄生ダイオード71Bを介して、放電できる。また、過放電状態においては、制御部5よりポートDSCにオフ信号が発せられることより、放電は停止される。このときは、携帯機器PCが充電すると、CHはオン信号であるので、充電用FET素子71がオン状態で、オフ状態の放電用FET素子72の寄生ダイオード72Bを介して、充電できる。
【0023】
また、MPUにおいては、電池電圧、残容量、充放電電流値等の各種の電池情報、各種指令の情報を、携帯機器PCの制御・電源手段Sに伝送する通信部9を備えている。パック電池Aと携帯機器PCとの通信処理は、以下のように、通信部9にて行われる。通信部9は、電池電圧、残容量、充放電電流値等の各種の電池情報を携帯機器PCが受信できる信号データに作成する通信データ作成部と、実際に通信を行うためのドライバ部と備え、残容量を算出するための各種パラメータの記憶や諸々のデータを記憶する為の制御・演算部5内メモリを利用する。また、電子機器からバッテリパックの各種情報の送信要求をドライバ部にて受け、通信データ作成部にて作成されたデータをドライバ部から電子機器に送信する。通信方式としては、周知技術であるSMBus方式等が利用でき、2つの通信ラインであるデータラインSDA、クロックラインSCLを介して、データ信号等を送信、受信する機能を備えている。
【0024】
以下に、本発明の特徴について説明する。制御部として、マイコンを備える制御・演算部5には、制御部を動作させるプログラムがインストールされる。そして、この製品プログラムには、制御素子7を動作状態とするかしないかの許可を出す起動モード許可ステップを備えている。
【0025】
この起動モード許可ステップは、以下の内容である。
(1)メモリーの所定場所(番地)のデータを読みに行く。なお、メモリーの所定場所(番地=所定アドレス)には、データが存在する。
(2)読んだデータが、所定値(例えば、1234)と同じかどうかを比較する。
(3)同じであるなら、制御素子7を動作状態とする。(オン状態とする)つまり、制御素子7の動作状態を許可する。
【0026】
同じでないなら、制御素子7を動作状態としない。(オフ状態とする)つまり、制御素子7の動作状態を許可しない。
【0027】
本実施例のパック電池は、以下の工程により、製造される。第1工程としての基板組立工程において、図1に示す各種電子部品を搭載した制御基板100を製造する。そして、マイコンを備える制御・演算部5に、上述の起動モード許可ステップを含む製品プログラムがインストールされる。換言するなら、そのプログラム(バイナリーファイル)は基板組立工程で製品に書き込まれる。ここで、上述のメモリーの所定場所(番地)には、所定値でない値が、メモリーに書き込まれる。この工程においては、プログラムが流出したとしても、このプログラムでは、正常にパック電池を動作することはできず、模倣品を製造することができない。
【0028】
次に第1工程の後、第2工程として、パック組立工程において、樹脂製外ケース110内に、制御基板100、電池1等が収納され、接続、固定される。そして、この工程において、メモリーの所定場所(番地)には、所定値を書き込む。これにより、電池1より電力が供給されてマイコンを備える制御・演算部5が、起動開始し、起動モード許可ステップにて、メモリーの所定場所(番地)のデータが所定値であることを、確認して、制御素子7を動作状態とする。換言するなら、前記起動モード許可ステップを許可できる状態にする。
【0029】
これにより、パック電池Aは、通常の動作をすることになり、その後、正常に動作するかどうかの検査を行い、出荷されることになる。このパック組立工程においては、メモリーの所定場所(番地)には、所定値を書き込むプログラムをインストールし、実行することになるが、このプログラム自体だけでは、正常にパック電池を動作することはできない。よって、たとえ、このプログラムが流出しても、正常にパック電池を動作させることができず、模倣品を製造することができない。
【0030】
更にプログラム漏洩に対する強度を高めるために、所定アドレスを機種毎に変更することで、制御アドレスの推定を困難にすることもできる。
【0031】
また、メモリの所定場所のデータを参照することによる切り分け処理ではなく、プログラムの一部を書き換えることでも所望の機能を実現することができる。
【0032】
単純には、第1工程と第2工程で書き込むプログラムを2種類用意し、それぞれの工程でそのプログラムを書き込むという方法もあるが、プログラム全体を書き込むためには書き込むための時間を要することになり、この方法では生産の効率を落とすことになる。しかし、本実施例の方法では、一部分のプログラム或いはデータを書き換えるだけなので、本実施例の製造方法を行わない場合と比べても、生産の時間は変わらず、簡易な方法で情報漏洩を阻止する効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施例のパック電池の回路ブロック図である。
【符号の説明】
【0034】
A 電池パック
PC 携帯機器(=電子機器)
S 制御・電源手段
L 負荷
MPU マイクロプロセッサユニット
100 制御基板
110 外ケース
1 電池
2 抵抗(電流検出部)
3 温度検出部
4 A/D変換部
5 制御・演算部
7 制御素子 71 充電用FET素子 72 放電用FET素子
9 通信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池と直列に接続された制御素子と、該制御素子をオンオフ制御する制御部とを備えたパック電池において、前記制御部を動作させるプログラムが、前記制御素子を動作状態とするかしないかの許可を出す起動モード許可ステップとを備えたパック電池の製造方法であって、
前記制御部にプログラムをインストールする第1工程と、
該第1工程後において、前記起動モード許可ステップを許可できる状態にする第2工程とを備えることを特徴とするパック電池の製造方法。
【請求項2】
前記起動モード許可ステップにおいて、起動データが所定値か否かが判定され、
前記起動データが前記所定値であるとき、許可し、
前記起動データが前記所定値でないとき、許可しないことを
特徴とする請求項1のパック電池の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程においては、前記起動データが前記所定値でない値であり、前記起動モード許可ステップを許可できる状態でなく、
前記第2工程においては、前記起動データが前記所定値であることにより、前記起動モード許可ステップを許可できる状態にすることを特徴とする請求項2のパック電池の製造方法。

【図1】
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