説明

パッチアレイアンテナ

【課題】グレーティングローブの発生を抑制したパッチアレイアンテナを提供することである。
【解決手段】円筒形状の誘電体基板表面上の曲面方向に、複数のパッチアンテナ素子を列状に、両端部分に近づくほど素子間隔が順次狭くなるように配置して構成したパッチアレイアンテナである。複数のパッチアンテナ素子を、隣接する一方と他方を第1、第2のパッチアンテナ素子とするとき、給電点から第1のパッチアンテナ素子までの給電線路による移相量と第1のパッチアンテナ素子から誘電体基板表面の前方の等位相面までの移相量との加算値と、給電点から第2のパッチアンテナ素子までの給電線路による移相量と第2のパッチアンテナ素子から等位相面までの移相量との加算値との差が、2nπ(n:正の整数)となるような間隔で配列する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形状の誘電体基板表面上に曲面方向に複数のパッチアンテナ素子を列状に配置して構成したパッチアレイアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置等に使用するアンテナとして、スロットアンテナやパッチアレイアンテナがある。パッチアレイアンテナは、誘電体基板上に銅箔からなるパッチアンテナ素子を複数個パターン配列した薄型アンテナであり、レーダ装置では、一般的にRCS(レーダクロスセクション)の抑制等を目的とした円筒形状アンテナを実現するために使用される。また小型船舶用レーダ装置のレドームは、図6に示すように円筒形状をしており、このレドーム20に内蔵させる回転アンテナとして、レドーム内径に沿った曲面の放射面を有するパッチアレイアンテナを実現することで、レドーム20内でのレーダ装置機器配置に使用できるスペースを増やしたり、レドーム20とパッチアンテナ素子との間隔を一定に保ってアイソレーション特性を改善することできる。
【0003】
一般的には、平面形状のパッチアレイアンテナでは、各パッチアンテナ素子間隔を等間隔で設計することが多いが、曲率の大きな円筒状の誘電体基板31上に同一幅のパッチアンテナ素子32を曲面方向に等間隔(等ピッチ)dで配置した図7(a)に示すパッチアレイアンテナ30では、等位相面34で、水平方向(図7(a)の左右方向)の指向特性において、図7(b)に示すように、広角方向(左右端部)にグレーティングローブ35が発生するという問題が発生する。33は給電位置であり、ここから各パッチアンテナ素子32に給電線路(図示せず)を経由して給電が行われる。
【0004】
また、等位相面44において等間隔dとなるように、同一幅のパッチアンテナ素子42を曲率の大きな円筒状の誘電体基板41上に複数配置した図8(a)に示すパッチアレイアンテナ40でも、図8(b)に示すように、広角方向にグレーティングローブ45が発生するという問題は改善できない。43は給電位置であり、ここから各パッチアンテナ素子42に給電線路(図示せず)を経由して給電が行われる。なお、曲面上にアンテナ素子を複数配列するアレイアンテナについては、特許文献1に記載がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、円筒形状の誘電体基板の曲面方向に複数のパッチアンテナ素子を配列するパッチアレイアンテナでは、グレーティングローブが発生する問題があった。
【0006】
本発明の目的は、グレーティングローブの発生を抑制したパッチアレイアンテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1にかかる発明のパッチアレイアンテナは、円筒形状の誘電体基板表面上の曲面方向に、複数のパッチアンテナ素子を列状に、両端部分に近づくほど素子間隔が順次狭くなるように配置して構成したパッチアレイアンテナであって、前記複数のパッチアンテナ素子は、隣接する一方と他方を第1、第2のパッチアンテナ素子とするとき、給電点から前記第1のパッチアンテナ素子までの給電線路による移相量と前記第1のパッチアンテナ素子から前記誘電体基板表面の前方の等位相面までの移相量との加算値と、前記給電点から前記第2のパッチアンテナ素子までの給電線路による移相量と前記第2のパッチアンテナ素子から前記等位相面までの移相量との加算値との差が、2nπ(n:正の整数)となるような間隔で配列されている、ことを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載のパッチアレイアンテナにおいて、前記列状に配置されたパッチアンテナ素子を、複数行配置したことを特徴とする。
請求項3にかかる発明は、請求項1又は2に記載のパッチアレイアンテナにおいて、前記複数のパッチアンテナ素子は、中央部のパッチアンテナ素子が大きく両端部側のパッチアンテナ素子が小さくなる振幅重みが付けられていることを特徴とする。
請求項4にかかる発明は、請求項2に記載のパッチアレイアンテナにおいて、前記複数のパッチアンテナ素子のうちの両端部側のパッチアンテナ素子を間引いたことを特徴とする。
請求項5にかかる発明は、請求項4に記載のパッチアレイアンテナにおいて、前記間引きによって残った前記両端部側のパッチアンテナ素子の振幅重みを、中央部のパッチアンテナ素子に対して大きくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パッチアンテナ素子の間隔が両端部分に近づくほど順次小さくなり、且つ、給電点から給電線路とパッチアンテナ素子を経由して等位相面に至るまでの移相量と、給電点から給電線路と隣のパッチアンテナ素子を経由して等位相面までの移相量との差、つまり位相差が、2nπ(n:正の整数)となるような間隔で、複数のパッチアンテナ素子が配列されているので、グレーティングローブの発生を効果的に抑制することができる。また、両端部側ではパッチアンテナ素子の間隔が小さくなることで給電線路の配置が困難になるが、間引きを行うことによりこれを解消できる。また、パッチアンテナ素子の位置に応じて振幅重みを異ならせたり、間引き部分のパッチアンテナ素子の振幅重みを大きくすることで、指向特性を調整することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は第1の実施例のパッチアレイアンテナの断面図、(b)はそのパッチアレイアンテナの指向性特性図である。
【図2】(a)は第1の実施例において、パッチアンテナ素子につけた3種のテイラー分布の振幅重みの特性図、(b)は各重みによるパッチアレイアンテナの指向性特性図である。
【図3】(a)は第1の実施例において、パッチアンテナ素子につけた3種のコサイン分布の振幅重みの特性図、(b)は各重みによるパッチアレイアンテナの指向性特性図である。
【図4】(a)、(b)は第2の実施例のパッチアレイアンテナの展開図である。
【図5】(a)は第2の実施例においてパッチアレイアンテナ素子の間引き無しと有りの場合のパッチアレイアンテナの指向性特性図、(b)はパッチアレイアンテナ素子の間引きの無しの場合と間引き有りで間引き部の素子振幅重みを2倍にした場合のパッチアレイアンテナの指向性特性図である。
【図6】レドームの斜視図である。
【図7】(a)は従来例のパッチアレイアンテナの断面図、(b)はそのパッチアレイアンテナの指向性特性図である。
【図8】(a)は別の従来例のパッチアレイアンテナの断面図、(b)はそのパッチアレイアンテナの指向性特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1の実施例>
図1(a)に本発明の第1の実施例のパッチアレイアンテナ10を示す。11は円筒形状の曲面をもつ誘電体基板であり、その表面の曲面方向(図の左右方向)に、銅箔パターンで形成され、幅が同一のN個のパッチアンテナ素子12〜12が、両端部側に近づくほど間隔(ピッチ)が順次狭くなるように配置されている。その間隔は、具体的には、例えば、中央部で波長のほぼ1倍程度、端部で波長のほぼ0.5倍程度である。一方の端のパッチアンテナ素子12と他方の端のパッチアンテナ素子の12との離間角度φは、例えば120度程度である。このパッチアンテナ素子12〜12の誘電体基板11の曲面方向の配列間隔は、中央に位置する給電点13からパッチアンテナ素子12〜12までの給電線路による移相量をθ1〜θ1とし、そのパッチアンテナ素子12〜12から等位相面14までの距離による移相量をθ2〜θ2とし、nを1以上の整数とするとき、
|(θ1+θ2)−(θ1+θ2)|=2nπ
|(θ1+θ2)−(θ1+θ2)|=2nπ
: : :
: : :
|(θ1N-1+θ2N-1)−(θ1+θ2)|=2nπ
となるように設定されている。
【0011】
すなわち、隣接するパッチアンテナ素子に関して、給電点13から当該のパッチアンテナ素子を経由して等位相面14に至るまでの位相差が、常に2πの整数倍となるように、N個のパッチアンテナ素子12〜12の配列間隔が設定されている。
【0012】
この結果、本実施例では、水平方向の指向性特性が、図1(b)に示すように、中央部でピークをもち、左右の端のグレーティングローブが抑制される利点がある。また、パッチアンテナ素子は列状に配列されるので、給電線路が単純化され、給電位相を調整するための線路曲げ等の作業をする必要がなく、不要輻射も発生しない利点がある。
【0013】
このグレーティングローブおよびビーム幅は、各パッチアンテナ素子12〜12の振幅重み(電界値)を、中央配置のものが大きくなりアレイ端部側配置のものが小さくなるような分布にすることで、調整可能である。図2(a)にテイラー分布とした場合の3種の振幅重みを示し、図2(b)にそのときの水平方向の指向性特性を示した。また、図3(a)にコサイン分布とした場合の3種の振幅重みを示し、図3(b)にそのときの水平方向の指向性特性を示した。なお、これら図2、図3において、パッチアンテナ素子の素子数Nは26である。
【0014】
<第2の実施例>
ところで、上記第1の実施例では、N個のパッチアンテナ素子12〜12の円筒曲面に沿った配列間隔は、中央部が波長のほぼ1倍、端部が波長のほぼ0.5倍程度であり、アレイ端部側では間隔が密になるため、高周波になるほど素子が近接して、給電線路の配置が困難になる問題がある。そこで、第2の実施例では、パッチアンテナ素子12〜12を複数行とした上で、配列が密になるアレイ端部側で素子間引きを行うことで、素子近接を回避する。
【0015】
図4(a)に本実施例のパッチアンテナ素子配列の展開図を示す。パッチアンテナ素子の円筒曲面方向の配列数Nは26、行数は4である。ここでは、1行目と3行目のパッチアンテナ素子12、12、12,12,1220,1222,1224,1226を間引き、2行目と4行目のパッチアンテナ素子12、12、12,12,1219,1221,1223,1225を間引いている。15はストリップ線路からなる給電線路である。なお、図4(b)は給電線路15に変更加えたパッチアンテナ素子配列の展開図を示す。
【0016】
図4(a)、(b)に示したように、アレイ端部側のパッチアンテナ素子を間引くと、その分だけアレイ端部側での電界が弱くなるので、アレイ端部側のサイドローブが大きくなるが、図5(a)の指向性特性に示すように、間引きが無い場合と比較しても大きな差は生じない。なお、図5(a)は、給電線路を考慮せずにシミュレーションした結果であり、実際に給電線路を配線した場合は、アレイ端部側のパッチアンテナ素子が重なるので、現実では間引き無し特性を得ることは難しい。
【0017】
そこで、アレイ端部側のパッチアンテナ素子を間引く場合に、間引いて残ったパッチアンテナ素子に、間引かない中央領域のパッチアンテナ素子の振幅値の2倍の振幅重みを付けた場合の指向性特性を図5(b)に示した。この図5(b)にあるように、間引がある場合と無い場合とで、ほとんど差のない特性が得られている。この特性は、図5(a)の間引き無しの特性とほぼ同じである。
【符号の説明】
【0018】
10:本発明のパッチアレイアンテナ、11:円筒形状の誘電体基板、12〜12:パッチアンテナ素子、13:給電点、14:等位相面、15:給電線路
20:レドーム
30:従来のパッチアレイアンテナ、31:円筒形状の誘電体基板、32:パッチアンテナ素子、33:給電点、34:等位相面
40:従来のパッチアレイアンテナ、41:円筒形状の誘電体基板、42:パッチアンテナ素子、43:給電点、44:等位相面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平7−321546号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の誘電体基板表面上の曲面方向に、複数のパッチアンテナ素子を列状に、両端部分に近づくほど素子間隔が順次狭くなるように配置して構成したパッチアレイアンテナであって、
前記複数のパッチアンテナ素子は、隣接する一方と他方を第1、第2のパッチアンテナ素子とするとき、給電点から前記第1のパッチアンテナ素子までの給電線路による移相量と前記第1のパッチアンテナ素子から前記誘電体基板表面の前方の等位相面までの移相量との加算値と、前記給電点から前記第2のパッチアンテナ素子までの給電線路による移相量と前記第2のパッチアンテナ素子から前記等位相面までの移相量との加算値との差が、2nπ(n:正の整数)となるような間隔で配列されている、ことを特徴とするパッチアレイアンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載のパッチアレイアンテナにおいて、
前記列状に配置されたパッチアンテナ素子を、複数行配置したことを特徴とするパッチアレイアンテナ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパッチアレイアンテナにおいて、
前記複数のパッチアンテナ素子は、中央部のパッチアンテナ素子が大きく両端部側のパッチアンテナ素子が小さくなる振幅重みが付けられていることを特徴とするパッチアレイアンテナ。
【請求項4】
請求項2に記載のパッチアレイアンテナにおいて、
前記複数のパッチアンテナ素子のうちの両端部側のパッチアンテナ素子を間引いたことを特徴とするパッチアレイアンテナ。
【請求項5】
請求項4に記載のパッチアレイアンテナにおいて、
前記間引きによって残った前記両端部側のパッチアンテナ素子の振幅重みを、中央部のパッチアンテナ素子に対して大きくしたことを特徴とするパッチアレイアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−177983(P2010−177983A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17597(P2009−17597)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】