説明

パピローマウイルスカプソメアワクチン製剤および使用方法

【課題】 ウイルスカプソメアを含む治療および予防用ワクチン製剤を提供する。
【解決手段】 第2タンパク質由来のアミノ酸残基に近接するヒトパピローマウイルスL1タンパク質を含んだ融合タンパク質を含むヒトパピローマウイルス(HPV)カプソメアを含むワクチン製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パピローマウイルスタンパク質、または、その融合タンパク質、欠切された(truncated)タンパク質、または、欠切された融合タンパク質を含んでなるワクチン製剤に関する。さらに本発明は、前記製剤を用いた予防および治療方法に加え、前記製剤のキャプソメアを製造する方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおける性器のパピローマウイルスのある高い発症率の株(例えば、HPV 16、18、または45など)は、肛門性器路(anogenital tract)の悪性腫瘍の形成の主要な危険因子であると考えられている。可能性のある悪性のものとしては、子宮頸部癌が非常に最も頻繁に起きている:世界保健機構(WHO)の評価によれば、ほぼ500,000の新しい症例が毎年出てきている。この病理の生じる頻度ゆえに、HPV感染と子宮頸部癌の関連が広く研究され、多数の一般論に結びついている。
【0003】
例えば、子宮頸部上皮内の腫瘍形成(CIN)の前駆病変はパピローマウイルス感染によって生じることが知られている[クラム(Crum), New Eng. J. Med. 310:880-883(1984)]。例えば、株16、18、33、35、および45を含む、あるHPVタイプのゲノム由来のDNAは、この病態の患者由来の腫瘍から培養されたプライマリーの細胞系に加えて、前記腫瘍のバイオプシーでも95%を超えて検出されている。バイオプシーを行ったCIN腫瘍細胞のおよそ50乃至70%がHPV16からのみ由来しているDNAを含むことがわかった。
【0004】
HPV16およびHPV18の初期遺伝子E6およびE7のタンパク質産物は、in vitroで形質転換されたヒトケラチノサイトにおけるのと同様に、子宮頸部癌の細胞系においても検出されており[ウエッツステイン(Wettstein)ら,PAPILLOMA VIRUSES AND HUMAN CANCER, ピスター(Pfister)(編), CRC Press:ボカ ラトン(Boca Raton), FL 1990 pp155-179]、さらに、かなりのパーセンテージの子宮頸部癌患者が抗E6抗体または抗E7抗体を有している。前記E6およびE7タンパク質は、ヒト細胞において細胞DNA合成の誘導、ヒトケラチノサイトおよび他の細胞タイプの形質転換、および、トランスジェニックマウスにおける腫瘍形成に関与していることが示されている[アルベルト(Arbelt)ら, J. Virol. 68:4358-4364(1994); アウエワラクル(Auewarakul)ら, Mol. Cell. Biol. 14:8250-8258(1994); バーボサ(Barbosa)ら, J. Virol. 65:292-298(1991); カゥアー(Kaur)ら, J. Gen. Virol.70:1261-1266(1989);シェレゲル(Schlegel)ら, EMBO J. 7:3181-3187(1988)]。前記E6/E7タンパク質の本質的な発現には、HPV陽性腫瘍の形質転換された状態を維持することが必要であるらしい。
【0005】
In vivoおよびin vitroでの腫瘍形成性表現型を誘導する幾種類かのHPV株の能力にもかかわらず、いまだ他のHPVタイプは尖形コンジロームなどの良性の性器疣を生じるだけで、ただまれに悪性腫瘍と関係している[イケンベルグ(Ikenberg), イン グロス(In Gross)ら,(編)GENITAL PAPILLOMAVIRUS INFECTIONS, スプリンガー バーラグ(Springer Verlag):ベルリン, 87-112頁]。このタイプの低い発症率の株には、例えば、HPV 6および11が含まれる。
【0006】
性器のパピローマウイルスは、性交中にヒトとヒトの間で最も頻繁に伝染し、多くの場合肛門性器の粘液分泌膜におけるしつこい感染をもたらす。この知見は一次感染が不適当な免疫応答を誘導するか前記ウイルスが免疫監督を避ける能力を発達させたことを示唆しているが、別の知見ではパピローマウイルス感染の悪性進行のあいだと同様に初期徴候のあいだに免疫システムが活性であることが示唆される[アルトマン(Altmann)ら, in VIRUSES AND CANCER, ミンソン(Minson)ら,(編) Cambridge University Press,(1994) pp. 71-80]。
【0007】
例えば、ウサギおよびウシパピローマウイルスによる一次感染の臨床徴候は疣抽出物またはウイルスの構造タンパク質を用いてワクチン接種を行うことによって防ぐことができる[アルトマンら, 前出;キャンポ(Campo), Curr. Top. In Microbiol and Immunol. 186:255-266(1994); インドル(Yindle)およびフラザー(Frazer), Curr. Top. In Microbiol. and Immunol. 186;217-253(1994)]。HPV 16初期タンパク質E6またはE7をコードするワクシニア組換え体で、または合成E6またはE7ペプチド類で事前にワクチン接種を行った齧歯類動物は、同様にHPV16で形質転換したオーソローガスな細胞の接種後の腫瘍形成から防御される[アルトマンら, 前出;キャンポら,前出;インドルおよびフラザーら,前出]。動物パピローマウイルスによる感染後の退行動物からのリンパ球の移送により疣の退行が誘導されうる。最後に、例えば臓器移植のレシピエントまたはHIVに感染している個体などの、免疫が抑制された患者において、性器疣、CIN、および肛門性器癌の発生率は高い。
【0008】
今日まで、予防と治療の両方の意図に適したカプソメアの形態のヒトパピローマウイルス後期L1タンパク質を含むHPVワクチン接種については報告されていない。前記L1タンパク質は悪性の性器病変においては存在しないので、L1タンパク質を用いたワクチン接種はこれらの患者には治療効果がない。キメラカプソメアを生じる、L1タンパク質由来のアミノ酸残基と、例えば、E6またはE7タンパク質を含むキメラタンパク質の構築によりワクチンの予防機能と治療機能とが組み合わされる。よって、キメラカプソメアを高レベルに製造する方法は、予防および治療の介入のためのこのようなワクチンによって提供される可能な利点の観点から特に望ましいであろう。
【0009】
したがって、当該技術分野においてHPV感染を予防または処置することができるワクチン製剤を提供する必要がある。組換えHPVタンパク質の発現と精製に付随する当該技術分野における既知の問題を克服するワクチン製剤を製造する方法は、HPV感染に感受性のある個体の集団を免疫するために有用であることに加え、HPVに既に感染している個体の集団を処置するためにも明白に有用であろう。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、キメラヒトパピローマカプソメアを含む治療および予防用ワクチン製剤を提供する。本発明はまた、HPVに対して感受性の個体をHPV感染から守るための予防方法とともに、HPVに感染した患者を処置するための治療方法をも提供する。また、本発明のカプソメアおよびタンパク質の製造と精製のための方法も意図される。
【0011】
本発明の一側面において、パピローマウイルスの構造タンパク質L1およびL2を含むHPV感染を防ぐための予防ワクチン接種が考慮される。経済的にワクチンを製造するための充分な量のウイルスタンパク質を提供するために細胞培養または他の実験システムにおいて適当な力価までパピローマウイルスを増やすことができないので、このタイプのワクチンの開発は重大な障害に直面している。さらに、前記タンパク質を発現するための組換え方法は必ずしも容易ではなく、しばしば低いタンパク収量に終わっている。最近、ウイルスのカプシド構造を構成する点で類似している、ウイルス様粒子(VLP)が記載されており、組換え体ワクチンまたはバキュロウイルスを用いたウイルスL1およびL2(またはそれ自身におけるL1)の発現において前記粒子はSf-9昆虫細胞において形成される。VLPの精製はショ糖勾配またはCsClにおける遠心分離によって非常に簡単に達成できる[キンバウアー(Kimbauer)ら, Proc. Natl. Acad. Sci.(USA), 99:12180-12814(1992);キンバウアーら, J. Virol. 67:6929-6936(1994);プロソ(Proso)ら, J. Virol. 6714:1936-1944(1992);ササガワ(Sasagawa)ら, Virology 2016:126-195(1995);ボルパース(Volpers)ら, J. Virol. 69:3258-3264(1995);ゾウ(Zhou)ら, J. Gen. Virol. 74:762-769(1993);ゾウら, Virology 185:251-257(1991)]。WO 93/02184には、診断に応用するため、またはパピローマウイルスによって引き起こされた感染に対してのワクチンとしてパピローマウイルス様粒子(VLP)を用いる方法が記載されている。WO 94/00152には、ヒトおよび動物パピローマウイルス粒子のコンフォメーション中和エピトープによく似たL1タンパク質の組換え体の製造が記載されている。
【0012】
本発明の別の側面において、治療用ワクチン接種を例えば子宮頸部癌またはパピローマウイルス感染に起因する前駆病変の複雑化を緩和するために提供し、よって予防的介入に対する選択肢を表す。このタイプのワクチン接種は持続的に感染している細胞において発現する、初期パピローマウイルスタンパク質、本質的にはE6またはE7を含むものでもよい。このタイプのワクチン接種の投与に続き、細胞傷害性T細胞が性器の病変において持続的に感染している細胞に対して活性化されるかもしれないと想定される。治療介入のターゲット集団はHPVに関連した前悪性または悪性の性器病変をもつ患者である。PCT特許出願WO 93/20844には、HPVまたはBPV由来のパピローマウイルスの初期タンパク質E7およびその抗原断片が退行に治療的に有効であることが開示されているが、それは哺乳動物におけるパピローマウイルス腫瘍の、予防においてではない。初期HPVタンパク質は大腸菌または適当な真核細胞タイプにおける組換え体発現によって製造されているが、本質的な低溶解性と、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過およびアフィニティー・クロマトグラフィーを含む工程の組み合わせを一般的に必要とする複雑な精製手順ゆえに、前記組換え体の精製が困難であることが証明されている。
【0013】
本発明によれば、パピローマウイルスカプソメアを含むワクチン製剤を提供し、前記製剤は(i)第1のタンパク質であって、第2のタンパク質由来のアミノ酸残基の一部を含む融合タンパク質として発現する完全なウイルスタンパク質である第1タンパク質;(ii)欠切されたウイルスタンパク質;(iii)第2タンパク質由来のアミノ酸残基の一部を含む融合タンパク質として発現する欠切されたウイルスタンパク質、または(iv)前記3タイプのタンパク質のいくつかの組み合わせのいずれかを含んでなる。本発明によれば、ウシパピローマウイルス(BPV)およびヒトパピローマウイルスのカプソメアを含むワクチン製剤が提供される。好ましいウシウイルスカプソメアは、ウシパピローマウイルスタイプI由来のタンパク質を含んでいる。好ましいヒトウイルスカプソメアは、ヒトパピローマウイルス株HPV6、HPV11、HPV16、HPV18、HPV33、HPV35、およびHPV45のいずれかひとつの株由来のタンパク質を含むものである。最も好ましいワクチン製剤は、HPV16由来のタンパク質を含むカプソメアを含んでなる。
【0014】
一側面において、本発明のカプソメアワクチン製剤は第2タンパク質由来の付加的なアミノ酸残基をともなった融合タンパク質として発現する第1の完全なウイルスタンパク質を含む。好ましい完全ウイルスタンパク質は構造パピローマウイルスタンパク質L1およびL2である。完全ウイルスタンパク質融合体を含むカプソメアは、前記L1およびL2タンパク質をともに用いてもまたはL1タンパク質単独を用いて製造してもよい。好ましいカプソメアは完全にL1融合タンパク質から成り立っており、そのアミノ酸配列は配列番号:2に記載され、配列番号:1のポリヌクレオチド配列によってコードされている。第2タンパク質のアミノ酸は第2タンパク質のアミノ酸残基の第1タンパク質への添加がカプソメアの形成を許容する限り多数の供給源(第1タンパク質由来のアミノ酸残基を含む)から誘導できる。好ましくは、第2タンパク質のアミノ酸残基の添加が完全なウイルスタンパク質の能力を阻害しウイルス様粒子構造を形成する;最も好ましくは第2タンパク質のアミノ酸残基がカプソメア形成をプロモートする。本発明の1態様において、第2タンパク質は新生物のまたは感染の疾患状態における免疫応答を刺激するのに重要ないかなるヒト腫瘍抗原、ウイルス抗原、または細菌抗原であってもよい。好ましい実施態様において第2タンパク質はまたパピローマウイルスタンパク質である。また第2タンパク質がパピローマウイルスの初期遺伝子の発現産物であることが好ましい。しかしながら、また第2タンパク質がE1、E2、E3、E4、E5、E6、およびE7-パピローマウイルス株HPV6、HPV11、HPV18、HPV33、HPV35、またはHPV45のゲノムにコードされた初期遺伝子産物の群から選択されることが好ましい。第2タンパク質がHPV16 E7遺伝子でコードされていることが最も好ましく、その読み取り枠は配列番号:3に記載されている。融合タンパク質サブユニットから組み立てられたカプソメアは本明細書ではキメラカプソメアという。ある実施態様では、本発明のワクチン製剤はL1タンパク質アミノ酸残基が全融合タンパク質アミノ酸残基のおよそ50乃至99%から成り立っているキメラカプソメアを含んでなる。別の実施態様において、L1アミノ酸残基が全融合タンパク質アミノ酸残基のおよそ60乃至90%から成り立っており、特に好ましい実施態様においては、L1アミノ酸が全融合タンパク質アミノ酸残基のおよそ80%を含む。
【0015】
本発明の別の側面において、カプソメアワクチン製剤が提供され、前記製剤はウイルス様粒子の形成に必要な1以上のアミノ酸残基の欠失を有する欠切されたウイルスタンパク質を含んでいる。アミノ酸の欠失が欠切されたタンパク質によるカプソメアの形成を阻害しないことが好ましく、前記欠失がカプソメア形成に有利に働くことが最も好ましい。このタイプの好ましいワクチン製剤はL2ウイルスタンパク質とともにまたはなしに欠切されたL1を含むカプソメアを含んでなる。特に好ましいカプソメアは、欠切されたL1タンパク質を含むものである。本発明によって意図される欠切されたタンパク質は、タンパク質のカルボキシ末端から欠失された1以上のアミノ酸残基、または、タンパク質のアミノ末端から欠失された1以上のアミノ酸残基、またはタンパク質の内部領域から(すなわち、いずれの末端からでもない)欠失された1以上のアミノ酸残基を有するタンパク質を含む。好ましいカプソメアワクチン製剤は、カルボキシ末端で欠切されたタンパク質を含んでなる。HPV16から由来したL1タンパク質を含む製剤においては、1乃至34のカルボキシ末端アミノ酸残基が欠失されていることが好ましい。L1タンパク質およびそれによって形成されたカプソメアの抗原性質のマイナー修飾について利点をもたらす比較的短い欠失もまた意図される。しかしながら、34アミノ酸残基がL1配列から欠失されていることが最も好ましく、そのアミノ酸配列は配列番号:2に記載されているHPV16におけるアミノ酸472から505であり、かつ配列番号:1に記載された配列をヒトHPV16L1をコードする配列におけるヌクレオチド1414から1516に対応するポリヌクレオチド配列によってコードされている。カプソメアワクチン製剤が内部欠失のあるタンパク質から成り立っている場合、欠失されたアミノ酸配列がタンパク質の核局在化領域を含むことが好ましい。HPV16のL1タンパク質において、核局在化シグナルが約アミノ酸残基499から約アミノ酸残基505で見出されている。NLSが欠失しているL1タンパク質の発現に続き、カプソメア構造の組立てが宿主細胞の細胞質で起こる。その結果、カプソメア内に完全なL1タンパク質が組み立てられている核からに代え、細胞質からカプソメアの精製が可能である。付加的なアミノ酸配列が欠失されたタンパク質配列に置き換わっていない、欠切されたタンパク質の組立てから結果として得られたカプソメアは必ずしも天然においてキメラではない。
【0016】
本発明のさらなる別の側面において、第2タンパク質由来のアミノ酸残基に近接する融合タンパク質として発現された欠切されたウイルスタンパク質を含むカプソメアワクチン製剤を提供する。本発明の好ましい欠切されたウイルスタンパク質は構造パピローマウイルスタンパク質L1およびL2である。欠切されたウイルスタンパク質融合物を含むカプソメアは、L1およびL2タンパク質成分をともにまたはL1タンパク質単独で用いて製造してもよい。好ましいカプソメアは、L1タンパク質アミノ酸残基を含むタンパク質である。融合タンパク質の欠切されたウイルスタンパク質成分は、タンパク質のカルボキシ末端から欠失された1以上のアミノ酸残基、またはタンパク質のアミノ末端から欠失された1以上のアミノ酸残基、またはタンパク質の内部領域から(すなわち、いずれの末端からでもない)欠失された1以上のアミノ酸残基を有するタンパク質を含む。好ましいカプソメアワクチン製剤はカルボキシ末端で欠切されたタンパク質を含む。HPV16に由来するL1タンパク質を含むそれらの製剤においては、1乃至34カルボキシ末端アミノ酸残基が欠失していることが好ましい。融合タンパク質と、形成されるそのカプソメアのL1タンパク質成分の抗原特性の若干の修飾の利点を与える、比較的短い欠失体も企図される。しかしながら、最も好ましいのは、配列番号:2に示すHPV16のアミノ酸472から505までに対応する、L1配列から34アミノ酸残基が欠失されたものであって、配列番号:1に示すヒトHPV16 L1をコードする配列の1414から1516までのヌクレオチドに対応するポリヌクレオチド配列によってコードされるものである。ワクチン製剤が内部欠失を有するタンパク質で構成されるカプソメアを含む場合、欠失されるアミノ酸配列はタンパク質の核局在化領域、すなわちその配列を含むことが好ましい。
【0017】
第2タンパク質のアミノ酸は、第1タンパク質への当該第2タンパク質アミノ酸残基の添加がカプソメアの形成を可能とする限りにおいて数多くの供給源に由来するものとすることができる。好ましくは、第2タンパク質アミノ酸残基の添加によって、カプソメア形成が促進または推進される。第2タンパク質のアミノ酸残基は、第1タンパク質のアミノ酸残基を含めた数多くの供給源に由来するものとすることができる。好ましい実施態様において、第2タンパク質もまたパピローマウイルスタンパク質である。さらに、第2タンパク質がパピローマウイルス初期遺伝子の発現産物であっても好ましい。しかしながら最も好ましくは、パピローマウイルスE1、E2、E3、E4、E5、E6、およびE7遺伝子によってコードされる初期遺伝子産物よりなる群から第2タンパク質が選択される。一実施態様において、本発明のワクチン製剤は、キメラカプソメアを含んでなり、ここでL1タンパク質アミノ酸残基が、融合タンパク質アミノ酸残基全体のおよそ50乃至99%を構成している。他の実施態様において、L1アミノ酸残基は、融合タンパク質アミノ酸残基全体のおよそ60乃至90%を構成しており、特に好ましい実施態様にあっては、L1アミノ酸残基が融合タンパク質アミノ酸残基全体のおよそ80%を構成している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好ましい実施態様において、ワクチン製剤のタンパク質は組換え法によって生産されるが、完全体のウイルスタンパク質を含む製剤の場合には、タンパク質が天然の供給源から単離されたものであってもよい。天然の供給源から単離された完全体のタンパク質は、よく知られており当該技術分野で日常的に実施されている共有結合修飾の技術を使用して、本発明の融合タンパク質を提供すべくさらに付加的なアミノ酸残基を含めるよう、in vitroで修飾してもよい。同様に、欠切されたウイルスタンパク質を含む製剤で、タンパク質が天然の供給源から単離されたものでもよく、そして、in vitroにて、化学的加水分解、または数多くの部位特異的または一般的プロテアーゼのいずれかを用いた酵素消化を使用して加水分解を行ってもよく、そして欠切したタンパク質は引き続き、本発明の欠切した融合タンパク質を提供すべく前記のごとくにさらに付加的なアミノ酸残基を含むよう修飾を施されてもよい。
【0019】
カプソメアを製造するに際して、所望の完全体タンパク質、欠切体タンパク質、つまり欠切された融合タンパク質の何れかをコードするDNAを製造するのに、組換え分子生物学的技術を利用することができる。所望のタンパク質をコードするDNAを製造するために必要な組換え法はよく知られており、当該技術分野で日常的に実施されている。実験マニュアル、例えば、Sambrookら(編)、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク(1989)およびAusebelら(編)、PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley & Sons. Inc.、(1994-1997)に、DNA操作を行うために必要な技術の詳細が記載されている。キメラカプソメアの大量生産のためには、ウイルスまたは真核細胞性ベクターの何れかを用いたタンパク質発現を行うことができる。好ましいベクターには、あらゆる既知の原核細胞性発現ベクター、組換えバキュロウイルス、COS細胞特異的ベクター、ワクシニア組換え体、あるいは酵母特異的発現構築体が包含される。本発明のカプソメアを提供するために組換えタンパク質が用いられる場合、タンパク質を先ず、その発現の宿主細胞から単離し、そしてその後、カプソメアを提供すべく自己会合を許容する条件下にインキュベーションを行うとよい。あるいは、宿主細胞中でカプソメアが形成される条件下に、タンパク質を発現させてもよい。
【0020】
本発明はさらに、ワクチン製剤のカプソメアを生産するための方法も企図するものである。一つの方法においては、L1タンパク質をコードする配列のカルボキシ末端でさらに付加的な6つのヒスチジンをコードするDNAから、L1タンパク質が発現される。付加的なヒスチジンと共に発現されるL1タンパク質(His L1タンパク質)は、最も好ましくは大腸菌で発現され、そしてこのHis L1タンパク質は、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製することができる。細胞溶解液中のHis L1タンパク質を変性用緩衝液(例えば6Mグアニジン塩酸塩または同等の変性能を有する緩衝液)に懸濁し、次いでニッケルクロマトグラフィーに付す。ニッケルクロマトグラフィーの工程から溶出されたタンパク質は、例えば、150mM NaCl、1mM CaCl2、0.01%Triton-X100、10mM HEPES(N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2エタンスルホン酸)、pH7.4にて再生される。本発明の好ましい方法によれば、精製タンパク質の透析後に、好ましくは、150mM NaCl、25mM Ca2+、10%DMSO(ジメチルスルホキシド)、0.1%Triton-X100、10mM Tris[トリス-(ヒドロキシメチル)アミノメタン]酢酸(pH値5.0のもの)に対する透析後に、カプソメアの会合が起こる。
【0021】
カプソメアの形成は、電子顕微鏡によってモニターすることができ、そしてカプソメアが融合タンパク質を含む場合にあっては、会合したカプソメア中の様々なタンパク質成分の存在を特異抗血清を用いたウェスタンブロット分析によって確認することができる。
【0022】
本発明によれば、HPVウイルスに感染した個体を治療処置するための方法が提供され、この方法は、HPV感染のレベルを低減するに有効な量の本発明のワクチン製剤を、それを必要としている患者個体に投与する工程を含むものである。本発明はさらにまた、HPV感染に対して感受性の個体の予防処置のための方法を提供し、HPV感染を防ぐのに有効な量の本発明のワクチン製剤を、HPV感染に対して感受性の個体に投与する工程を含む。感染した個体は標準的な診断技術を使用して容易に同定することができるが、感受性の個体については、例えば感染した個体との性交渉をもったことなどに基づいて同定してもよい。しかしながら、HPV感染が高頻度であることに起因して、性的に活動性を有するヒトはすべて、パピローマウイルス感染に対して感受性であるといえよう。
【0023】
ワクチン製剤の投与には、医薬上容認しうる担体、希釈剤、アジュバント、および/または、緩衝液などの、1以上の付加成分を包含することができる。ワクチンは、単回投与しても、または複数回投与してもよい。本発明のワクチン製剤は、例えば経口、静脈内、筋肉内、経鼻、直腸内、経皮、腟内、皮下、および腹腔内投与などを包含する様々な経路によって送達させることができる。
【0024】
本発明のワクチン製剤は、従来のワクチン調製剤に比較すると多大な利点をもたらすものである。治療用のワクチン接種の一部として、CINまたは子宮頸部癌の患者における、持続的に感染した細胞の除去を、カプソメアが促進することができる。加えて、このタイプの治療用ワクチン接種は、再感染によるCIN病変を有する患者を保護する予防的な目的にも役立てることができる。さらなる利点として、カプソメアは既存の抗カプシド抗体による中和を回避することができ、それによってキメラウイルス様粒子に比較して、より長い循環半減期を有している。
【0025】
キメラカプソメアを含むワクチン製剤は、カプソメアが形成される融合タンパク質の両タンパク質成分の抗原性上昇という、さらなる利点を提供することができる。例えば、VLPでは潜在しているカプソメアのタンパク質成分が、VLP自体の内部への内部配置の結果、構造全体として埋没してしまうかもしれない。同様に、タンパク質成分のエピトープがカプソメア−カプソメアの接触の結果、立体的に遮蔽され、従って免疫応答性を惹起するように接近することができなくなることがある。L1/E7融合タンパク質を用いてVLPを生産する予備実験の結果、E7成分に対して抗体の応答が検出できず、このような配置が裏付けられた。この観察は、L1のカルボキシ末端領域が、カプシドへのカプソメアの会合を許容する五量体間腕構造を形成することを示唆する、以前観察された結果[ガルシア(Garcia)ら、J.Viol.,71: 2988-2955(1997)]に合致するものである。おそらくキメラカプソメア構造では、融合タンパク質下位構造の両タンパク質成分が免疫応答を惹起するよう、接近可能となっているのであろう。カプソメアワクチンは従って、例えばL1アミノ酸配列として発現される、他のウイルスタンパク質由来の中和エピトープを含めて種々のタンパク質成分の抗原性を増大させるというさらなる利点をもたらすはずである。
【実施例】
【0026】
本発明は、以下の実施例によって例証されるものである。
【0027】
これらの実施例に示される本発明に種々の修飾や改変を施すことが当業者に想起されるものと考えられる。本発明が特許請求の範囲によってしか限定されないことはもちろんである。
【0028】
実施例1には、融合、あるいはキメラウイルスタンパク質を製造するための発現ベクターの構築を記載する。実施例2は、ウイルスタンパク質の発現のための組換えバキュロウイルスの作製に関するものである。実施例3には、カプソメアの精製を述べる。実施例4では、抗血清およびモノクローナル抗体の製造のための免疫付与プロトコルを記載する。実施例5には、カプソメア形成を定量するためのペプチドELISAを示す。実施例6には、カプソメア形成を定量するための抗原捕獲ELISAを記載する。実施例7には、中和抗体の誘導について分析するための赤血球凝集アッセイを示す。
【0029】
[実施例1:キメラL1遺伝子の構築]
HPV16 L1の転写解読枠をコードするDNAを、プラスミド16-114/k-L1/L2-pSynxtVI-[Kirnbauerら、Virol. 67巻、6929〜6939頁(1994)]からBglIIを用いて切り出し、得られた断片を、予め固有のBamHI制限部位にて直鎖にしておいたpUC19へとサブクローニングした。先ず、2つの塩基性発現構築体を作製して、融合タンパク質発現を許容すべく引き続いてのDNAの挿入を可能とした。1つの構築体は、9つのアミノ酸の欠失を有する、HPV16L1Δ310をコードしており、欠失された領域は他のパピローマウイルスL1タンパク質すべてと低い相同性を示すことが知られていた。第2の構築体であるHPV16L1ΔCは、カルボキシ末端のL1残基の34アミノ酸の欠失を有するタンパク質をコードしていた。他の構築体には、他のタンパク質の配列をコードするDNAの挿入を容易ならしめるために、欠失位置にEcoRV制限部位を含んでいる。EcoRV制限部位の付加によって、非L1タンパク質のアミノ酸2つ、すなわち、アスパラギン酸およびイソロイシンがコードされることとなっている。
【0030】
A.HPV16L1Δ310発現構築体の作製
2つのプライマー(配列番号:5および6)を、pUC19ベクターと、配列番号:1のヌクレオチド第916位から942位までを除いた完全なHPV16L1コード配列とを増幅させるように設計した。プライマーはまた、増幅産物の末端で固有のEcoRV制限部位(配列番号:5および6の下線部)も導入するように合成されていた。
【0031】
ccccgatatcgcctttaatgtataaatcgtctgg
(配列番号:5)
ccccgatatctcaaattattttcctacacctagtg
(配列番号:6)
こうして得られたPCR産物をEcoRVで消化して相補性端部を与え、その消化産物を連結反応により環状とした。連結したDNAを標準技術を用いて大腸菌に形質転換し、その結果得られたコロニーからのプラスミドをEcoRV制限部位の存非についてスクリーニングした。HPV16L1Δ310と命名した1つのクローンは、適切な27ヌクレオチドの欠失を有しているものとして同定され、この構築体を下記のとおりEcoRV部位にて他のHPV16タンパク質をコードしているDNA断片を挿入するために使用した。
【0032】
B.HPV16L1ΔC発現構築体の作製
2つのプライマー(配列番号:7および8)を、プライマーが相互に近接して、前記のとおりpUC19にHPV16L1をコードする配列を含む鋳型DNA上で逆方向の増幅を可能とするように、HPV16L1の転写解読枠に対して相補的に設計した。
【0033】
aaagatatcttgtagtaaaaatttgcgtcctaaaggaaac
(配列番号:7)
aaagatatctaatctacctctacaactgctaaacgcaaaaaacg
(配列番号:8)
各プライマーは、増幅産物の末端にEcoRV制限部位を導入するものであった。下流のプライマー(配列番号:8)では、EcoRV端部を連結して環状とした場合に増幅産物が34カルボキシ末端L1アミノ酸の欠失を含むように、EcoRV部位の後にTAA翻訳終止コドンが配置されていた。PCRを実施して部分的なL1転写解読枠と完全なベクターを増幅させた。増幅産物をEcoRVで切断し、T4 DNAリガーゼで環状として大腸菌DH5α細胞へと形質転換した。生存能力のあるクローン由来のプラスミドを、プラスミドを直鎖状にさせるEcoRV部位の存在について分析した。pUCHPV16L1ΔCと命名した1つの陽性の構築体を同定し、EcoRV部位を利用して他のHPV16タンパク質からDNAを挿入するために使用した。
【0034】
C.HPV16L1Δ310およびHPV16L1ΔCへのDNA断片の挿入
配列番号:4のアミノ酸1〜50、1〜60、1〜98、25〜75、40〜98、50〜98をコードするHPV6 E7のDNA断片を、HPV16L1Δ310とHPV16L1Δの修飾配列のいずれかへの断片の挿入を容易ならしめるために、端部5' EcoRV制限部位が導入されたプライマーを用いて増幅させた。様々な増幅反応で、プライマーE7.1(配列番号:9)をプライマーE7.2(配列番号:10)と組み合わせて用いてE7アミノ酸1〜50をコードするDNA断片を作製し、プライマーE7.3(配列番号:11)と組み合わせて用いてE7アミノ酸1〜60をコードするDNA断片を作製し、あるいはプライマーE7.4(配列番号:12)と組み合わせて用いてE7アミノ酸1〜98をコードするDNA断片を作製した。他の増幅反応において、E7.5(配列番号:13)とE7.6(配列番号:14)のプライマー対を用いてE7アミノ酸25〜75をコードするDNA断片を増幅させ、E7.7(配列番号:15)とE7.4(配列番号:12)を用いてE7アミノ酸40〜98をコードするDNA断片を増幅させ、そしてE7.8(配列番号:16)とE7.4(配列番号:12)を用いてE7アミノ酸50〜98をコードするDNA断片を増幅させた。
【0035】
プライマーE7.1(配列番号:9)
aaaagatatcatgcatggagatacacctacattgc
プライマーE7.2(配列番号:10)
ttttgatatcggctctgtccggttctgcttgtcc
プライマーE7.3(配列番号:11)
ttttgatatccttgcaacaaaaggttacaatattgtaatgggcc
プライマーE7.4(配列番号:12)
aaaagatatctggtttctgagaacagatggggcac
プライマーE7.5(配列番号:13)
ttttgatatcgattatgagcaattaaatgacagctcag
プライマーE7.6(配列番号:14)
ttttgatatcgtctacgtgtgtgctttgtacgcac
プライマーE7.7(配列番号:15)
tttatcgatatcggtccagctggacaagcagaaccggac
プライマーE7.8(配列番号:16)
ttttgatatcgatgcccattacaatattgtaaccttttg
同様に、インフルエンザマトリックスタンパク質(配列番号:17)をコードするDNA由来のヌクレオチドを、配列番号:19および20に示すプライマー対を使用して増幅させた。両プライマーはいずれも増幅産物中にEcoRV制限部位を導入するものであった。
【0036】
ttttgatatcgatatggaatggctaaagacaagaccaatc
(配列番号:19)
ttttgatatcgttgtttggatccccattcccattg
(配列番号:20)
各増幅反応から得られたPCR産物は、EcoRVで切断し、同酵素を用いて予め直鎖状にしておいたHPV16L1Δ310とHPV16L1ΔC配列のいずれかのEcoRV部位へと挿入した。E7アミノ酸25〜75および50〜98をコードするプラスミド、そしてインフルエンザマトリックスタンパク質を含むプラスミドでのインサートの方向を調べるために、新しく作られたEcoRV制限部位(gatatcgat)に重複する制限部位の利点を有し、上流プライマーに含められたClaI消化を採用した。HPV16 E7の開始のメチオニンを含む3つの発現構築体について、E7コード領域内のNslI制限部位を利用して挿入方向を調べた。
【0037】
適切なインサートを有する発現構築体が同定されると、L1と挿入されたアミノ酸の双方に対するタンパク質コード領域を制限酵素XbaIおよびSmaIを用いてユニットとして切り出し、そして単離したDNAをプラスミドpVL1393(Invitrogen社)へと連結して組換えバキュロウイルスを作製した。
【0038】
D.発現構築体中のEcoRV制限部位の除去
HPV16L1ΔC配列は、野生型L1ポリペプチドには通常認められないアミノ酸の翻訳を結果的に引き起こすEcoRV部位由来のDNAを含んでいる。しかして、人工的なEcoRV部位が除去された一連の発現構築体を設計した。発現構築体のこのシリーズに対するL1配列は、HPV16L1ΔC*と命名した。
【0039】
HPV16L1ΔC*配列を含む発現構築体を作製するために、2つのPCR反応を実施して、E7アミノ酸1〜50をコードするpUC-HPV16L1ΔCからの2つの重複断片を増幅させた。こうして得られたDNA断片は、L1/E7境界の位置で重複していたが、2つのEcoRV制限部位は含んでいなかった。断片1はプライマーP1(配列番号:21)およびP2(配列番号:22)を用いて作製され、断片2はプライマーP3(配列番号:23)およびP4(配列番号:24)を用いて作製された。
【0040】
プライマーP1(配列番号:21)
gttatgacatacatacattctatg
プライマーP2(配列番号:22)
ccatgcattcctgcttgtagtaaaaatttgcgtcc
プライマーP3(配列番号:23)
ctacaagcaggaatgcatggagatacacc
プライマーP4(配列番号:24)
catctgaagcttagtaatgggctctgtccggttctg
第1の2つの増幅反応の後、2つの精製産物を、プライマーP1およびP4のみを使用したさらなるPCR反応における鋳型として用いた。こうして得られた増幅産物を、酵素EcoNIおよびHindIIIで消化して前記のHPV16L1ΔC発現構築体へと挿入し、続いて同酵素で消化した。得られた発現構築体は、2つの内部EcoRV制限部位を喪失しているという点でL1およびE7アミノ酸1〜50をコードするDNAを含む元のHPV16L1ΔC構築体と相違していた。第1のEcoRV部位は、本来のこの位置にあるL1のアラニンおよびグリシンアミノ酸をコードするDNAに置換されており、第2の部位は翻訳終止シグナルに置換されていた。加うるに、HPV16L1ΔC*E7 1-52と命名された発現構築体は、第51位のヒスチジンと第52位のチロシンのE7アミノ酸残基もコードするプライマーP4を用いた結果、HPV16 E7の最初の52アミノ酸を含んでいた。次いで、HPV16L1ΔC*E7 1-52を使用し、プライマーP1(配列番号:21)をプライマーP5(配列番号:25)と組み合わせて用いて、E7アミノ酸の1〜55をコードするDNAをさらに包含する、さらなるHPV16L1ΔC発現構築体を作製した。また、プライマー対P1およびP6(配列番号:26)を用いてE7アミノ酸の1〜60を、そしてプライマー対P1およびP7(配列番号:27)を用いてE7アミノ酸の1〜65をコードするDNAをさらに包含するものを作製した。増幅産物中のさらに付加したアミノ酸をコードするDNA配列は、所望のアミノ酸に対する付加的なヌクレオチドを含むようなプライマーの設計から生じるものであった。
【0041】
プライマーP5(配列番号:25)
catctgaagcttatcaatattgtaatgggctctgtccg
プライマーP6(配列番号:26)
catctgaagcttacttgcaacaaaaggttacaatattgtaatgggctctgtccg
プライマーP7(配列番号:27)
catctgaagcttaaagcgtagagtcacacttgcaacaaaaggttacaatattgtaatgggctctgtccg
同様に、HPV16L1ΔC*E7 1-70を、HPV16L1ΔC*E7 1-66をコードする鋳型DNAとプライマー対P1およびP8(配列番号:28)を用いて作製した。
【0042】
プライマーP8(配列番号:28)
catctgaagcttattgtacgcacaaccgaagcgtagagtcacacttg
各PCR反応の後、増幅産物をEcoNIおよびHindIIIで消化して、予め同酵素で消化しておいたHPV16L1ΔCに挿入した。各構築体の配列は、蛍光鎖終止ジデオキシヌクレオチドを用い、Applied Biosystems Prism 377配列決定装置を使用して決定した[Proberら、Science、238巻、336〜341頁(1987)]。
【0043】
[実施例2:組換えバキュロウイルスの作製]
Spodoptera frugiperda(Sf9)細胞を、10%胎児仔ウシ血清および2mMグルタミンを追加したTNMFH培地(Sigma社)中で27℃で懸濁または単層培養にて生育した。HPV16L1に基づく組換えバキュロウイルス構築体に対し、2μgのBaculo-Gold DNA(PharMingen、サンディエゴ、カリホルニア州)と共に10μgの伝達プラスミドを用いて、Sf9細胞をトランスフェクトした。製造業者が提示したプロトコルに従うことにより組換えウイルスを精製した。
【0044】
HPV16L1タンパク質の発現について調べるために、105個のSf9細胞を5〜10の感染効率(m.o.i)でバキュロウイルス組換え体で感染させた。28℃にて3乃至4時間インキュベートした後、培地を除去して細胞をPBSで洗浄した。細胞をSDS試料用緩衝液に溶解して、SDS-PAGEと抗HPV16L1および抗HPV16E7抗体を使用したウェスタンブロッティングによって分析した。
【0045】
いずれのキメラL1タンパク質発現構築体が優先的にカプソメアを生産するかを調べるために、トランスフェクトした細胞からの抽出物を密度勾配遠心分離に付した。密度勾配から得られた画分をウェスタンブロッティングによりL1タンパク質含量について、そして電子顕微鏡によりVLP形成について分析した。その結果を表1に示す。
【0046】
完全なHPV L1タンパク質そして、発現産物HPV16L1Δ310およびHPV16L1ΔCはそれぞれ、同等の比率でカプソメアおよびウイルス様粒子を生産することが示された。E7をコードする配列をHPV16L1Δ310ベクターへ挿入すると、生産されるE7アミノ酸1〜50を含む融合タンパク質だけが検出可能な程度にカプソメア形成を上昇させた。
【0047】
E7をコードするDNAをHPV16L1ΔCベクターへ挿入すると、すべての融合タンパク質がカプソメアを生産することが見出され、E7アミノ酸40〜98を含むキメラタンパク質は、専一的にカプソメア構造を最高レベルで生産した。E7アミノ酸1〜98および25〜75を含むキメラタンパク質は双方とも、主にカプソメアを生産したが、それでもウイルス様粒子の形成も観察された。E7アミノ酸1〜60を含むキメラタンパク質では、ほぼ同レベルのカプソメアとウイルス様粒子の生産が認められた。
【0048】
E7配列がHPV16L1*ΔCベクターに挿入されると、すべての融合タンパク質がカプソメアを形成することが示された。E7残基の1〜52、1〜55、および1〜60をコードするDNAの挿入で、最高レベルのカプソメアが生産されたが、ウイルス様粒子の生産は同レベルで観察された。1〜65、1〜70、25〜75、40〜98および1〜98の残基に対するE7 DNAをコードするDNAの挿入の結果、比較的低レベルの、または検出不能なレベルのカプシドが生じたものの、カプソメアは多量に生産された。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例3:カプソメアの精製]
トリコプルシアニ(Trichopulsiani、TN)High Five細胞を、Ex-Cell405無血清培地(JRH Biosciences)中でおよそ2×106細胞/mlの密度で生育した。約2×108の細胞を、1000×gで15分間遠心分離することによりペレット化し、20mlの培地に再懸濁し、そして2乃至5のm.o.iで1時間室温にて組換えバキュロウイルスで感染させた。200mlの培地を添加した後、細胞を播種し、27℃にて3乃至4日間インキュベートした。インキュベーションの後、細胞を回収してペレット化し、そして10mlの抽出用緩衝液に再懸濁させた。
【0051】
以下の工程は4℃にて実施した。細胞を60ワットで45秒間超音波処理し、そうして得られた細胞溶解液をSorvalSS34ローターにて10,000rpmで遠心分離した。上清を取り出して生じたペレットを6mlの抽出用緩衝液に再懸濁してさらに60ワットで3秒間超音波処理し、再度遠心分離する間保存しておいた。2回分の上清を併せて14mlの40%スクロースを8mlのCsCl溶液(抽出用緩衝液8ml当たり4.6gのCsCl)上方に含む2段階密度勾配の上に積層し、そして10℃にて27,000rpmで2時間、SorvalAH629スイングバケットローターで遠心分離した。CsClとスクロースとの間の界面領域を、CsCl完全層に沿って13.4mlのQuicksealチューブ(Beckman)に集め、そして抽出用緩衝液を添加して容量を13.4mlに調整した。試料をBeckman 70 TIローターで20℃にて50,000rpmで終夜遠心分離した。密度勾配は、21ゲージの針でチューブの上部と底部を穿孔することにより分画(1画分につき1ml)した。画分を各チューブから集めて、各画分の2.5μlを10%SDS−PAGEと抗−HPV16L1抗体を用いたウェスタンブロッティングによって分析した。
【0052】
ウイルス様粒子とカプソメアとを、10乃至50%スクロース勾配に沈降する、前記同定画分から分離した。CsCl密度勾配からのピーク画分を集めて、5mM HEPES(pH7.5)に対して2時間透析した。透析液の半分を用いて、EDTA(最終濃度50mM)、EGTA(50mM)、DTT(30mM)、NaCl(100mM)、および、Tris/HCl、pH8.0(10mM)を添加することによる完全体のVLPの離合によってカプソメアを生産した。対照として、残り半分にNaClおよびTris/HClのみを添加した。
【0053】
離合させたVLPを分析するために、EDTA、EGTA、およびDTT(各々5mM)をスクロースクッションに添加して、これを250,000×gで4℃にて2乃至4時間遠心分離した。底部からチューブを穿孔することにより画分を集めた。各画分の1:10希釈液を、次いで抗原捕獲ELISAによって分析した。
【0054】
[実施例4:ポリクローナル抗血清およびモノクローナル抗体の製造のための免疫付与プロトコル]
60μgのHPVキメラカプソメアを、完全または不完全フロインドアジュバントと1:1で混合して総容量100μlとしたものを用いて、4週間おきに3回、Balb/cマウスに対し皮下に免疫付与する。第3回目の免疫付与から6週間後にマウスを屠殺し、心臓穿刺により血液を集める。
【0055】
[実施例5:カプソメア形成を定量するためのペプチドELISA]
PBS中10μg/mlの濃度のペプチドE701[Mullarら、1982]50μで、微量定量プレート(Dynatech)を終夜被覆する。PBS中に5%BSAおよび0.05%Tween 20を含有する緩衝液100μlで、37℃にて2時間ブロッキングを行い、そして0.05%Tween 20を含有するPBSで3回洗浄する。第3回目の洗浄の後、BSA/Tween 20/PBSで1:5000に希釈した50μlの血清を各ウェルに添加し、そしてインキュベーションを1時間実施する。プレートを前回と同様に再度洗浄し、そして1:5000希釈にて、ヤギ−抗マウスペルオキシダーゼ接合物50μlを添加する。1時間後にプレートを洗浄し、ABTS基質(0.1Mナトリウム-酢酸-リン酸緩衝液(pH4.2)中に、0.2mg/ml、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズヒアゾリン-β-スルホン酸を、10mlに対し4μlの30%H22と共に含むもの)を用いて染色する。Dynatech自動式プレートリーダーにて、490nmで1時間後に吸光度を測定する。
【0056】
[実施例6:カプソメア形成を定量するための抗原捕獲ELISA]
CsCl密度勾配でのウイルス様粒子およびカプソメアの相対的な定量を許容するために、抗原捕獲ELISAを利用した。微量定量プレートを、HPV16L1に対して免疫特異性を有する、プロテインAで精製されたマウスモノクローナル抗体(抗体25/C、MM07およびRitti1は、HPV16 VLPを用いて免疫付与したマウスから得たもの)の1:500希釈液(PBS中、最終濃度は1ml当たり2μg)50μl/ウェルで終夜被覆した。プレートを5%ミルク/PBSで1時間ブロッキングし、そしてCsCl密度勾配の画分50μlを1:300の希釈液(5%ミルク/PBS溶液)にて37℃で1時間添加した。PBS/0.05%Tween 20で3回洗浄した後、HPV16 VLPに対して作製したポリクローナルウサギ抗血清(ミルク/PBSを用いた1:3000希釈液)50μlを添加し、このプレートを37℃にて1時間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、さらに5%のミルクを含有するPBSで1:5000に希釈したヤギ−抗ウサギペルオキシダーゼ接合物(Sigma社)50μlとさらに1時間インキュベートした。最後に洗浄してから、プレートをABTS基質で30分間染色し、Dynatech自動化プレートリーダーで490nmにて吸光度を測定した。負の対照として、アッセイにはPBSのみを被覆したウェルも含めておいた。
【0057】
カプソメアへの特異性についてモノクローナル抗体を試験するために、粒子を離合させるべくEDTA/DTTと共にVLPを用いた。処理した粒子調製物は、抗原捕獲ELISAでアッセイし、その読取り値を未処置の対照と比較した。離合のため、30mMのDTT、50mMのEGTA、60mMのEDTA、100mMのNaCl、および100mMのTris/HCl、pH8.0を含有する500μlの破壊用緩衝液中で4℃にて終夜、40μlのVLPをインキュベートした。処置および未処置粒子のアリコートを、上記の捕獲ELISAで、1:20〜1:40の希釈倍率にて使用した。
【0058】
[実施例7:赤血球凝集阻害アッセイ]
キメラカプソメアワクチンが中和抗体の生産を惹起する程度を調べるために、赤血球凝集阻害アッセイを、下記に概略説明するとおりに行う。このアッセイは、ウイルス様粒子が赤血球を凝集させることができるとの過去の観察に基づいたものである。
【0059】
マウスをキメラカプソメアワクチンのいずれかのもので免疫し、実施例4に記載したと同様に血清を集める。陽性の対照として、HPV16L1ウイルス様粒子(VLP)とウシPV1(BPV)L1 VLPをキメラカプソメア調製物と平行してアッセイする。陽性のベースラインを樹立するために、HPV16またはBPV1 VLPを、先ず、免疫したマウスから集めた血清の存在下または非存在下にインキュベートし、その後赤血球を加える。マウス血清とのプレインキュベーションが赤血球凝集を阻害する程度が、マウス血清の中和能力の指標となる。次いで、ワクチンへのマウス血清の中和効果を調べるために、キメラカプソメアを用いて実験を繰り返す。赤血球凝集阻害アッセイのための概略のプロトコルを以下に記載する。
【0060】
100μlのヘパリン(1000usp単位/ml)を、1mlのマウス新鮮血に添加する。赤血球は、PBSで3回洗浄し、次いで遠心分離して10mlの容量となるように再懸濁する。次に、赤血球を0.5mlのPBSに再懸濁して3日を上限として4℃に保存する。赤血球凝集アッセイのために、96ウェルプレートでウェル当たり70μlの懸濁液を用いる。
【0061】
CsCl密度勾配より得られたキメラカプソメアのアリコートを、10mMのHepes(pH7.5)に対して1時間透析し、そしてPBSで連続的に2倍希釈した溶液100μlを、96ウェル微量定量プレートの丸底に入れたマウス赤血球に添加し、それをさらに4℃にて3〜16時間インキュベートする。赤血球凝集阻害のためには、カプソメアを抗体のPBS希釈液と室温にて60分間インキュベートし、次いで赤血球に添加する。赤血球凝集のレベルと、それにより中和抗体の存在が、標準技術によって決定される。
【0062】
予備的な実験結果で、E7アミノ酸残基1〜98と会合させたHPV16L1ΔCタンパク質を含むキメラカプソメアに対して作製されマウス血清は、HPV16 VLPによる赤血球凝集を阻害するが、BPV VLPによるものは阻害しないことが観察された。従ってかかるマウス血清は、ヒトVLPに対する中和抗体に対して陽性であり、この差示的な中和は、抗体を作製したもののエピトープに対する抗体の特異性の結果に最も依存するものであると推定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトパピローマウイルス(HPV)カプソメアを含むワクチン製剤であって、当該カプソメアが、第2タンパク質由来のアミノ酸残基に近接するヒトパピローマウイルスL1タンパク質を含む融合タンパク質を含み、当該L1タンパク質および当該第2タンパク質由来の当該アミノ酸が、ウィルス様粒子の形成を阻害する位置に存在し、および、当該製剤が、ヒトパピローマウイルスビリオンを中和する免疫応答を惹起する、ことを特徴とするワクチン製剤。
【請求項2】
ヒトパピローマウイルス(HPV)カプソメアを含むワクチン製剤であって、当該カプソメアが、ウイルス様粒子の形成のために必要な一つまたはそれ以上のアミノ酸残基が欠切されているヒトパピローマウイルスL1タンパク質を含み、および、当該製剤が、ヒトパピローマウイルスビリオンを中和する免疫応答を惹起する、ことを特徴とするワクチン製剤。
【請求項3】
前記カプソメアが、第2タンパク質由来のアミノ酸残基に近接する欠切されたヒトパピローマウイルスL1タンパク質を含む融合タンパク質を含む請求項2に記載のワクチン製剤。
【請求項4】
前記L1タンパク質が、HPV6、HPV11、HPV16、HPV18、HPV33、HPV35、および、HPV45よりなる群から選択されるヒトパピローマウイルスのゲノムによってコードされる請求項1乃至3のいずれかに記載のワクチン製剤。
【請求項5】
前記パピローマウイルスが、HPV16である請求項4に記載のワクチン製剤。
【請求項6】
前記L1タンパク質が、そのカルボキシ末端アミノ酸残基を欠失している請求項2、3または5のいずれかに記載のワクチン製剤。
【請求項7】
前記L1タンパク質が、そのカルボキシ末端の第1位〜第34位のアミノ酸残基を欠失している請求項6に記載のワクチン製剤。
【請求項8】
前記L1タンパク質が、そのカルボキシ末端アミノ酸残基から34個のアミノ酸を欠失している請求項7に記載のワクチン製剤。
【請求項9】
前記L1タンパク質が、そのアミノ末端アミノ酸残基を欠失している請求項2、3または5のいずれかに記載のワクチン製剤。
【請求項10】
前記L1タンパク質が、その内部アミノ酸残基を欠失している請求項2、3または5のいずれかに記載のワクチン製剤。
【請求項11】
前記内部アミノ酸残基が、核局在化シグナルを含む請求項10に記載のワクチン製剤。
【請求項12】
前記第2タンパク質由来のアミノ酸残基が、HPVタンパク質に由来する請求項2または3に記載のワクチン製剤。
【請求項13】
前記HPVタンパク質が、初期HPVタンパク質である請求項12に記載のワクチン製剤。
【請求項14】
前記初期HPVタンパク質が、E1、E2、E3、E4、E5、E6、および、E7よりなる群から選択される請求項13に記載のワクチン製剤。
【請求項15】
HPV感染およびその関連疾患を処置するための薬学的組成物を製造するための請求項1乃至14のいずれかに記載のワクチン製剤の使用。
【請求項16】
HPV感染およびその関連疾患を予防するための薬学的組成物を製造するための請求項1乃至14のいずれかに記載のワクチン製剤の使用。

【公開番号】特開2010−95530(P2010−95530A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292021(P2009−292021)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【分割の表示】特願2000−515014(P2000−515014)の分割
【原出願日】平成10年10月6日(1998.10.6)
【出願人】(500160734)ロヨラ ユニバーシティ オブ シカゴ (5)
【Fターム(参考)】