説明

パラフィン主体の燃料電池システム用炭化水素燃料油

【課題】炭化水素燃料油を改質して水素を得る燃料電池システムにおいて、改質装置の入口温度を低くすることができ、炭素数の大きい炭化水素の割合の高いパラフィン主体の料電池システム用炭化水素燃料油を提供する。
【解決手段】本発明に係る燃料電池システム用炭化水素燃料油は、以下の組成(1)〜(3)を満たす。
(1)炭素数13未満のパラフィンが55質量%以上
(2)炭素数15以上のイソパラフィンが0.01〜8.4質量%
(3)炭素数13以上のノルマルパラフィンが2質量%以下
組成(1)〜(3)に加え、更に、炭素数17以上のイソパラフィンが3質量%以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムにおいて水素の発生に用いられる炭化水素燃料油に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題等の観点から燃料電池が注目されており、その実用化に向けて様々な研究がなされている。水素の製造方法や供給方法もそのような研究における課題の一つとなっており、取り扱い時の安全性や既設インフラの利用可能性等の観点から、鉱油や化石燃料由来の合成油、すなわち炭化水素燃料油を改質して水素とする方法に関する様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特開2002−80868号公報及び特開2002−83626号公報には、特定の組成と蒸留性状の炭化水素化合物からなる燃料を燃料電池に用いることにより、性能劣化割合の少ない電気エネルギーを高出力で得ることができる他、燃料電池用として各種性能を満足させるための技術が開示されている。
【0004】
また、環境問題への対応として自動車の排ガス規制も広く行われており、この規制に対してサルファーフリーや煤の排出の無い燃料が求められている。すなわち、炭化水素系燃料のクリーン化は重要な課題となっている。一方、炭化水素燃料を供給する燃料電池においても、改質装置のコンパクト化や触媒劣化防止の観点から、燃料の低硫黄化が求められている。
低硫黄含有量燃料を製造するためには、硫黄分の非常に少ない燃料基材を用いることが製造上有利であり、そのような燃料基材として、水素化分解油、軽質化LGO、或いは、合成ガス(CO、H)からフィッシャー・トロプッシュ反応により生成されるGTL(Gas to Liquid)燃料等が挙げられる。この中でも、特に、GTL燃料は、硫黄分、芳香族分の含有量が微量であり、将来燃料として有望視され、上記公報においても検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−80868号公報
【特許文献2】特開2002−83626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炭化水素燃料油を改質して水素を得る燃料電池システムでは、燃料および改質装置を加熱する必要があるため、燃料を改質させるために必要な温度が低ければ加熱量が小さくなり、システムの効率が高くなり好ましいといえる。
【0007】
一方、改質に必要な加熱には、改質用の燃料の一部を燃焼させる方法も考えられるが、燃料電池からのオフガスを利用した場合、装置を小型化できる等の利点があり好ましい。ただし、この場合、オフガスの発熱量は改質装置の温度を維持するために必要な熱量であることが望ましい。このオフガスの発熱量は組成(特に、水素とメタンの濃度)により決まるが、その組成は改質装置出口における反応状態、即ち出口温度により決まる。従って、オフガスを改質装置の熱源とする場合、改質装置の出口温度はオフガス発熱量を維持するための制約を受ける。従って、オフガスを改質装置の熱源として使用する燃料電池システムでは、その効率を向上させるために、改質装置の入口温度を低下させることが有効となる。
【0008】
また、炭化水素燃料油は軽質である程、すなわち炭素数の小さい炭化水素の割合が高い程、水素への改質率が良く、入口温度を低下させるためには燃料を軽質にすることが有効であるが、軽質な燃料は引火点が低くなる傾向があり、取り扱い時の安全性が損なわれる危険性がある。そのため、炭化水素燃料の増産等の観点から、できるだけ重質とすること、すなわち炭素数の大きい炭化水素の割合を高めることが好ましいといえるが、従来の技術では、そもそも改質装置における入口温度の低下を考慮したものはなく、まして、その重質化についての研究もない。
【0009】
更に、将来燃料として有望視されているGTL燃料は、芳香族、オレフィン、ナフテン成分などの含有量が微量のパラフィンを主体とした燃料であり、その炭素数分布やイソパラフィンとノルマルパラフィンの組成比などは改質し易さに影響を与える可能性があるものの、この点を考慮した研究もない。
【0010】
そこで、本発明は、炭化水素燃料油を改質して水素を得る燃料電池システムにおいて、改質装置の入口温度を低くすることができ、炭素数の大きい炭化水素の割合の高いパラフィン主体の燃料電池システム用炭化水素燃料油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るパラフィン主体の燃料電池システム用炭化水素燃料油は、以下の組成(1)〜(3)を満たすことを特徴とする。
(1)炭素数13未満のパラフィンが55質量%以上
(2)炭素数15以上のイソパラフィンが0.01〜8.4質量%
(3)炭素数13以上のノルマルパラフィンが2質量%以下
【0012】
また、上記(1)〜(3)の組成に加え、更に、炭素数17以上のイソパラフィンが3質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明において、パラフィン主体とは、イソパラフィンとノルマルパラフィンの合計が99質量%以上であることを意味する。また、炭素数とその割合は、ASTMD5291「Standard Test Methods for Instrumental Determination of Carbon, Hydrogen, and Nitrogen in Petroleum Products and Lubricants」によって得られる値である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、引火点が高く取り扱い時の安全性に優れ、改質装置の入口温度を310℃まで低下させることを可能としながら、炭素数15以上のイソパラフィン、炭素数13以上のノルマルパラフィン、及び炭素数17以上のイソパラフィンを所定の割合まで含有させることができ、燃料電池システム用炭化水素燃料油の重質化を図ることができる。
【0015】
なお、改質装置の入口温度は低温である程、起動性や効率面で有利となるが、その温度が低すぎる場合、水素の原料となる炭化水素燃料油の蒸留沸点を下回り、原料ガスが凝縮してしまう懸念がある。しかしながら、本発明の構成であれば、入口温度が310℃であっても、改質が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】炭素数13未満のパラフィン分の含有量と450℃における転化率の関係を示すグラフである。
【図2】炭素数13以上のノルマルパラフィン分の含有量と450℃における転化率の関係を示すグラフである。
【図3】炭素数15以上のイソパラフィン分の含有量と450℃における転化率の関係を示すグラフである。
【図4】炭素数17以上のイソパラフィン分の含有量と450℃における転化率の関係を示すグラフである。
【図5】310℃で改質され得る境界点となる転化率を反応温度毎にプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の燃料電池システム用炭化水素燃料油について詳しく説明する。
本発明の燃料電池システム用炭化水素燃料油は、例えば、天然ガス、石炭等から部分酸化、スチームリフォーミング等で合成ガスを得て、フィッシャー・トロプシュ反応により長鎖のアルキル炭化水素重合油にし、その後水素化分解、蒸留を行い所望の物性を調整して得ることができる。ただし、その製法は、これらに限定されるものではない。
【0018】
組成は、炭素数13未満のパラフィンが55質量%以上であり、炭素数15以上のイソパラフィンが0.01〜8.4質量%、炭素数13以上のノルマルパラフィンが2質量%以下である。また、好ましくは、炭素数17以上のイソパラフィンが3質量%以下である。炭素数の小さい炭化水素が多くなると、低温における転化率(水素に変換される率)が向上し入口温度をより低くすることができるが、取り扱い時の安全性が低下する。また、炭素数の大きい炭化水素が多くなると、低温における転化率が低下し入口温度が高くなる。
【実施例】
【0019】
SMDS(Shell Middle Distillate Synthesis)プロセスにより製造したノルマルパラフィンとイソパラフィンの混合油、及び前記混合油の蒸留性状、組成などをイソパラフィン溶剤を用いて調整した調整混合油、更に前記イソパラフィン溶剤からなる炭化水素燃料油を得た。得られた炭化水素燃料油の性状を表1に、組成を表2に示す。ただし、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、SMDSプロセスとは、天然ガスを部分酸化し、フィッシャー・トロプシュ合成により重質パラフィンを合成し、得られた重質パラフィン油を水素化分解・蒸留し、ナフサ、灯油、軽油留分を得るプロセスである。
【0020】
【表1】

なお、表1の密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」により測定される15℃における密度、硫黄分は、JIS K 2541−2「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第2部:微量電量滴定式酸化法」により測定される硫黄分、蒸留性状は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法 6.ガスクロマトグラフ法蒸留試験方法」により測定される各留出量における温度、CH分析は、ASTMD5291「Standard Test Methods for Instrumental Determination of Instrumental Determination Carbon, Hydrogen, and Nitrogen in Petroleum Products and Lubricants」によるものである。
【0021】
【表2】

ノルマルパラフィン及びイソパラフィンの含有量は、ASTM D 2887「Standard Test Method for Boiling Range Distribution of Petroleum Fraction by Gas Chromatography」に準拠したガスクロマトグラフ法を用い、得られたクロマトグラムから各炭素数毎の炭化水素含有量を算出することによって得た。すなわち、ノルマルパラフィンの混合物を標準物としてリテンションタイムを調べておき、ノルマルパラフィンのピーク面積値からノルマルパラフィンの含有量を求め、炭素数N−1のノルマルパラフィンによるピーク〜炭素数Nのノルマルパラフィンによるピークの間にあるピークのクロマトグラム面積値の総和から炭素数Nのイソパラフィン含有量を求めた。ガスクロマトグラフィの検知器は水素炎イオン化型検出器(FID)であることから、測定感度はパラフィンの炭素数に比例する。そこで、この感度を考慮して面積値から含有モル比を求め、最終的に各質量比を求めた。
なお、ガスクロマトグラフ法におけるカラムの種類は、HP5(長さ:30m,内径:0.32mm,液層厚さ:0.25μm)であり、各分析条件は以下のとおりである。
カラム槽昇温条件:35℃(5分)→10℃/分(昇温)→320℃(11.5分)
試料気化室条件:320℃一定 スプリット比150:1
検出器部:320℃
【0022】
表1及び表2に示す炭化水素燃料油について、改質試験を行った。改質の結果(各改質温度における転化率)は表3に示す通りである。なお、改質試験の条件は、次の通りである。
<改質試験>
改質試験は、常圧固定床流通式反応装置を用いて行った。反応管に貴金属系改質触媒を50ml充填し、気化した原料油を水蒸気と共に流通させて水蒸気改質処理を行った。改質処理条件は、圧力:大気圧、水蒸気/炭素モル比(S/C):3.0、LHSV:0.75h−1、改質温度:750℃〜360℃(750℃〜400℃までは50℃刻みで測定)である。
転化率は以下の式(1)で定義される。
【数1】

なお、出口ガスの組成はガスクロマトグラフィにより分析し、流量は体積流量計により測定を行った。
【0023】
【表3】

【0024】
改質試験において、反応温度が360℃以下では測定効率等の理由により、転化率を測定することが困難になることから、反応温度310℃での測定は行われていない。そこで、上記実施例が、改質装置における入口温度を310℃まで下げることができることを、以下の手順により確認した。
まず、310℃で改質されるために必要な条件、すなわち、特定温度における転化率の算出を行った。算出には、燃料電池システム用燃料として採用される可能性の高い燃料の改質試験から得られた転化率と温度の相関関係を用いた。表4に、その改質試験に使用された燃料の組成と性状を示す。
【0025】
【表4】

【0026】
なお、表4のGTL灯油は上述のSMDSプロセスにより得られた灯油留分、脱硫灯油は原油を蒸留して得られる灯油留分を市販のNi系吸着脱硫剤を用いて200℃、LHSV=0.5h−1の条件で脱硫して得られた灯油である。
【0027】
実施例及び比較例1〜4と同じ改質試験を、表4のGTL灯油及び脱硫灯油について行ったところ、表5に示す結果(各改質温度における転化率)が得られた。
【表5】

なお、脱硫灯油の310℃における転化率は測定不能であったたため、他の温度における結果から求めた2次近似曲線、y=ax−bx+1.04、a=1.11×10−5、b=6.78×10−3、から、0.4%と推察した。
【0028】
改質が出来ていることを示す下限転化率は、誤差などを考慮すると1%と推察される。そのため、310℃で転化率1.0%となる境界点と、GTL灯油、脱硫灯油の転化率の関係は、
(境界点の転化率 − 脱硫灯油の転化率) : (GTL灯油の転化率−境界点の転化率)
=(1.0−0.4):(2.0−1.0)
となる。これと同じ比となるように各温度で境界点を求めた。310℃で改質され得る境界点となる転化率(境界点転化率という)を表6に、境界点転化率を反応温度毎にプロットした結果を図5に示す。なお、図5には、GTL灯油及び脱硫灯油の転化率も併せて示す。また、310℃における脱硫灯油の転化率の計算値は*印で示す。
【表6】

【0029】
表6に示す計算結果、或いは図5に示す境界点のプロットの結果(近似曲線)から推測すると、310℃で改質され得るためには、改質温度450℃の状態で少なくとも35.6%以上の転化率を維持していることが望まれる。そして、表3の実施例は、450℃の状態で35.6%以上の転化率を維持していることから、310℃でも改質されるものであることが確認された。
【0030】
次に、310℃で改質され得る燃料とするために必要な組成について確認する。
上記実施例及び比較例の炭素数分布と450℃における転化率との相関について整理したところ、図1〜図4に示す関係が得られた。
【0031】
まず、炭素数13未満のパラフィン分に関し整理した図1について検討する。比較例1、比較例2、比較例3は、炭素数の高いノルマルパラフィンとイソパラフィンの影響(以下に述べる要件)とも関連していると考えられるため除外すると、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例4の関係よりC13未満パラフィン含有量の減少に伴い転化率は低下することがわかる。そして、C13未満のパラフィン分が55質量%以上の場合、450℃における転化率が35.6%以上になることが確認できる。
【0032】
次に、炭素数13以上のノルマルパラフィン分に関し整理した図2について検討する。実施例2を基準として考察すると、比較例4は上記C13未満のパラフィンの、比較例1と比較例3は炭素数の高いイソパラフィンの影響とも関連していると考えられる。そこで、これらを除外すると、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2の関係より、C13以上のノルマルパラフィン増加に伴い転化率は低下することがわかる。そして、C13以上のノルマルパラフィンが2質量%以下の場合、450℃における転化率が35.6%以上になることが確認できる。
【0033】
次に、炭素数の大きいイソパラフィンについて検討する。まず、これまで検討されてきた、パラフィン主体の燃料電池システム用炭化水素燃料油では、炭素数の多いイソパラフィンの影響についてほとんど考慮されていなかったが、実施例より、C15以上のイソパラフィンを含む場合であっても、十分な転化率の得られることが確認できる。また、炭素数15以上のイソパラフィン分に関し整理した図3について、実施例を基準として考察すると、比較例4は上記C13未満のパラフィンの、比較例2と比較例3は炭素数の高いノルマルパラフィンの影響とも関連していると考えられる。そこで、これらを除外すると、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例1の関係より、C15以上のイソパラフィン増加に伴い転化率は低下することがわかる。そして、C15以上のイソパラフィンが8.4質量%以下の場合、450℃における転化率が35.6%以上になることが確認できる。更に、炭素数17以上のイソパラフィン分に関し整理した図4についても同様に検討すると、C17以上のイソパラフィンが3質量%以下の場合、450℃における転化率が35.6%以上になることが確認できる。
【0034】
以上の結果から、450℃における転化率が35.6%以上の燃料油とするための、すなわち、310℃で改質され得る燃料とするために必要な組成は、以下の通りになることがわかる。
(1)炭素数13未満のパラフィンが55質量%以上
(2)炭素数15以上のイソパラフィンが0.01〜8.4質量%
(3)炭素数13以上のノルマルパラフィンが2質量%以下
また、より炭素数の多い成分として、炭素数17以上のイソパラフィンを含む場合、3質量%以下であれば、310℃で改質され得る燃料となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の組成(1)〜(3)を満たすことを特徴とするパラフィン主体の燃料電池システム用炭化水素燃料油。
(1)炭素数13未満のパラフィンが55質量%以上
(2)炭素数15以上のイソパラフィンが0.01〜8.4質量%
(3)炭素数13以上のノルマルパラフィンが2質量%以下
【請求項2】
炭素数17以上のイソパラフィンが3質量%以下である請求項1に記載の燃料電池システム用炭化水素燃料油。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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