説明

パラフィン灸と器具及びこれを用いた温灸方法

【課題】火傷や火災のリスクを低く止め、安全でかつ患者の症状に応じた灸治療を行うことができるパラフィン灸と器具及びこれを用いた温灸方法を提供する。
【解決手段】粘性液状のパラフィン6を収納可能なゴム製又は弾性のある合成樹脂製の筒状容器1と、その底部に張設されたラップフィルム2とから温灸用器具を構成する。筒状容器1の底面開口をラップフィルム2で塞いだ状態で、ラップフィルム2の周縁で鍔1aを包み込んで輪ゴム3で係止し、筒体1の底面にラップフィルム2が張設してパラフィン収容槽1bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温灸に関するものであり、とくにパラフィン(蝋)を用いた灸と器具及びこれを用いた温灸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温灸は、身体の経穴(以下、単にツボと称する)となる部分の皮膚上にモグサをゴマ粒から米粒程度の大きさにまとめて置き、このモグサに着火し、その燃焼熱によってツボを刺激する透熱灸と呼ばれるものが一般的である。温灸は、皮下に43℃以上の熱刺激を付与することによりヒストトキシン(加熱蛋白体)の発生を促し、白血球の増加を促進させ身体の免疫力を高める効果がある。また、患部の血行の循環を改善し、疼痛物質の代謝を促進する。
【0003】
近年、軽い刺激と皮膚への痕跡の残り難さから糸のように極細い灸を施点する糸状灸が患者に好まれる。糸状灸は極小な点火で済むため、火災や火傷に対する安全性も高い。一方、リュウマチ治療で用いられるパラフィン浴のように、所定の温度に加熱し液状化したパラフィンに患部を浸して痛みを緩和させる全く火を使わない温熱治療法がある。
【0004】
従来のパラフィンや蝋を使用した温灸としては、例えば、細孔を穿った点滴口を頭部に取り付けた円筒容器にパラフィン、木蝋を収容して熱湯にて加熱し、溶解したパラフィン、木蝋を患部に点滴する器具(特許文献1参照。)。蜜蝋、ハーブ等の成分を含浸させた麻布等の天織布を、その一側を耳孔に挿入できる円筒体に形成し、耳穴に差し込み、垂直に立てた状態で他端部に火をつけて燃焼させ、温かな湿った空気を耳穴の中に流入させることにより、身体に開放感を得られる耳用温灸材(特許文献2及び特許文献3参照。)。人体に対し温感若しくは冷感を与える温感剤若しくはエラストマーとした薬剤混入樹脂を可撓性を有するシート部材に溶着又は接着した灸用チップとシート(特許文献4及び特許文献5参照。)。濃縮したモグサ−メタノールエキスを水に懸濁し、懸濁したエキスをジクロロメタンと混合し、得られたモグサ−ジクロロメタン画分およびモグサ−酢酸エチル画分を混合し、混合物を濃縮して粉末化し、これを液体パラフィンと混合したモグサエキスローションを用いた電子よもぎ灸器(特許文献6参照。)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平1−98639号公報
【特許文献2】実開平6−44545号公報
【特許文献3】実用新案登録第3004109号公報
【特許文献4】実用新案登録第3071552号公報
【特許文献5】実用新案登録第3071553号公報
【特許文献6】特許第3256205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者もまた、火を使わないで済むパラフィン(以下、木蝋も含めて、単にパラフィンと称する)を用いた温灸を鋭意研究した結果、とくに、パラフィンの持つ油分の作用による皮膚細胞に対する不透過性に着目し本発明をするに至った。本発明は、上記従来の課題に鑑み、火傷や火災のリスクを低く止め、安全でかつ患者の症状に応じた灸治療を行うことができるパラフィン灸と器具及びこれを用いた温灸方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明に係るパラフィン灸は、パラフィンを加熱融解して粘性液化し、これを患部若しくはツボに設置した筒状容器に注入し、粘性液化パラフィンを皮膚に当接させ、皮膚及び皮下に灸刺激することを第1の特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るパラフィン灸用器具は、粘性液状のパラフィンを収納可能なゴム製又は合成樹脂製の筒状容器と、その底部に張設されたラップフィルムとからなることを第2の特徴とする。
【0009】
さらに、本発明に係る温灸方法は、先ず、パラフィンを融解し粘性液化する行程、次いで、粘性液化したパラフィンをシリンジに吸い上げて収容し、このシリンジ毎、保温庫で45℃乃至50℃に保存する行程、次いで、患部若しくはツボに筒状容器を設置する行程、次いで、筒状容器に数回に分けてパラフィンを注入する行程、次いで、パラフィン注入後、所定時間放置する行程からなることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の優れた効果がある。
(1)粘性液化したパラフィンを用いることにより、低粘度の液体のように、収納した容器の破損時に液漏れを生じることがなく安全である。
(2)皮膚に対する高い密着性が得られ、より高い温感を確実に発揮することができる。
(3)火を使用しないことから重度の火傷や火災の危険を排除することができる。
(4)パラフィンと皮膚の当接面にラップフィルムを複数枚積層することで皮膚に付与される温度の調節を行うことができ、患者の身体への負担をかけることなく、また、灸の跡を残さずに治療できる。
(5)筒状容器及びパラフィンともに滅菌して反復して使用することができ経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るパラフィン灸用器具の一実施例を示す(a)は分解斜視図、(b)は斜視図である。
【図2】パラフィン灸用器具の使用状態を示す縦断面図である。
【図3】本発明に係るパラフィン温灸方法を示す斜視図である。
【図4】本発明に係るパラフィン温灸方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、体内に存在するツボに筒状の容器に設置し、加熱融解し、粘性液状化したパラフィンを注入し、皮膚及び皮下に灸刺激を付与するものである。そして、皮下に43℃以上の熱刺激を付与することによりヒストトキシン(加熱蛋白体)の発生を促し、白血球の増加を促進させ、身体の免疫力を高める。また、患部の血行の循環を改善し、疼痛物質の代謝を促進する。皮膚設置面の温度は糸状灸と同様に45℃から49℃となる。さらに、パラフィンの持つ油分の作用による皮膚細胞に対する不透過性により人体に悪影響を与えることなく安全に温灸を施すことができる。
【実施例】
【0013】
図1乃至図2に示すように、本発明に係る温灸用器具は、粘性液状のパラフィン6を収納可能なゴム製又は弾性のある合成樹脂製の筒状容器1と、その底部に張設されたラップフィルム2とからなる。筒状容器1の下端には周囲に膨出した鍔1aが一体的に形成されており、ラップフィルム2で筒状容器1の底面開口を塞いだ状態で、ラップフィルム2の周縁で鍔1aを包み込んで輪ゴム3で係止する。これにより、筒状容器1の底面にラップフィルム2が張設され、パラフィン収容槽1bが形成される。尚、とくに径の小さな筒状容器1によってピンポイントで温灸する場合、ラップフィルム2は必ずしも介在させる必要はなく、パラフィンの表面張力と硬化に起因する粘性の増加によりパラフィン6が筒状容器1の外部に漏洩することはない。
【0014】
このように、筒状容器1を弾性体で形成することで、硬化した後のパラフィン6の取り出しを容易に行うことができ、筒状容器1及びパラフィン6ともに滅菌して反復して使用する際に有利である。また、パラフィン6と皮膚の当接面にラップフィルム2を介在させ、ラップフィルム2を複数枚積層することで皮膚に付与される温度の調節を行うことができ、患者の身体への負担をかけることなく、また、灸の跡を残さずに治療できる。
【0015】
また、筒状容器の容積、すなわち直径や高さは種々のものが採用できる。つまり、患部の大きさや治療目的に応じて、あらかじめ筒状容器1のサイズの異なるものを種々用意しておくことが好ましい。さらに、筒状容器1の断面形状は本実施例のような円筒形に限定されるものではなく、楕円、矩形等任意である。またさらに、パラフィン収納槽1bの内壁面の上下方向に若干のテーパを持たせることで、硬化した後のパラフィン6の取り出しがさらに容易になる。
【0016】
図3及び図4に示すように、本発明に係る温灸方法は、先ず、パラフィン6を融解し粘性液化する行程、次いで、粘性液化したパラフィン6をシリンジ5に吸い上げて収容し、このシリンジ5毎、保温庫で45℃乃至50℃に保存する行程、次いで、患部若しくはツボに筒状容器1を設置する行程、次いで、筒状容器1に数回に分けてパラフィン6を注入する行程、次いで、パラフィン6注入後、所定時間放置する行程からなる。
【0017】
ここで、パラフィン6は加熱して粘性液化したものである。また、ラップフィル2は市販の食品包装用のラップフィルムを使用している。筒状容器1の皮膚Hへの固定は、医療用絆創膏4を使用し、接着面が汗や汚れることによって、皮膚Hに対して接着力が低下した場合には、容易に取り替えることを可能としている。尚、本実施例で使用したパラフィン6は株式会社日本触媒製の医療用ものである。
【0018】
本発明において、パラフィン6の硬化速度は、当初の加熱温度を下げることによって短縮できることから、温度の制御によって生産性を向上することができる。したがって、加熱温度は50℃を上限とし、それ以上の加熱は要しない。
【0019】
パラフィン6を50℃に加熱した後、常温中で放置し、その経過時間による温度低下状態を測定した。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から明らかなように、一旦50℃に加熱したパラフィン6は、温灸として有効な温度を10分程度確保でき、十分な温灸効果が得られることが分かった。尚、パラフィン6に替えて木蝋を用いることによっても、同様の効果を得ることが推測できる。
【符号の説明】
【0022】
1 筒状容器
1a 筒状容器下端の鍔
1b パラフィン収納槽
2 ラップフィルム
3 輪ゴム
4 絆創膏
5 シリンジ
6 パラフィン
H 皮膚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用パラフィンを加熱融解して粘性液化し、これを患部若しくはツボに設置した筒状容器に注入し、粘性液化パラフィンを皮膚に当接させ、皮膚及び皮下に灸刺激することを特徴とするパラフィン灸。
【請求項2】
粘性液状のパラフィンを収納可能なゴム製又は合成樹脂製の筒状容器と、その底部に張設されたラップフィルムとからなることを特徴とする請求項1記載のパラフィン灸器具。
【請求項3】
先ず、パラフィンを融解し粘性液化する行程、次いで、粘性液化したパラフィンをシリンジに吸い上げて収容し、このシリンジ毎、保温庫で45℃乃至50℃に保存する行程、次いで、患部若しくはツボに筒状容器を設置する行程、次いで、筒状容器に数回に分けてパラフィンを注入する行程、次いで、パラフィン注入後、所定時間放置する行程からなることを特徴とする温灸方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−9799(P2013−9799A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143920(P2011−143920)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(511158708)
【Fターム(参考)】