説明

パラレルリンク式搬送装置とその制御方法

【課題】構成部材やその設置位置に誤差があり、或いは構成部材が自重により弾性変形する場合でも、計算負荷が小さい補正手段により、パネル把持部が取り付けられているアーム先端部を目標位置[X,Y]に正確に位置決めすることができるパラレルリンク式搬送装置とその制御方法を提供する。
【解決手段】パネル把持部15と、パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアーム6と、リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライド4,5と、各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上を移動させるスライド駆動装置11,12と、制御装置20とを備える。制御装置20により、パネル把持部15のXY座標上の目標値と実測値のずれを基に、目標位置[X,Y]の補正行列Aを求め、この補正行列によって補正された補正目標位置[Xt,Yt]に対してパラレルリンクの変換式を適用し、その結果から得られたスライド軸方向位置[p,q]に位置決め制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレルリンク機構を駆動して搬送物を搬送するパラレルリンク式搬送装置とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばタンデムプレスなどのプレス間搬送装置として、スライド軸とパラレルリンクアームを組み合わせた新しいパネル搬送装置が既に提案されている(例えば特許文献1)。
以下、本出願において、この装置を「パラレルリンク式搬送装置」と呼ぶ。
【0003】
一方、本出願に関連する誤差補正の手段として、特許文献2が開示されている。
【0004】
特許文献1の「パネル搬送装置」は、プレスステーション毎に異なるモーションを持たせることができ、可動部を容易に軽量化でき、可動部の剛性を高め、撓みや振動を抑制することができ、更にマルチスライド方式のトランスファプレスにも適用できることを目的とし、図7に示すように、パネルを把持するパネル把持部51と、該パネル把持部に接続されたリンク機構52と、該リンク機構の一部に接続され、その駆動領域のうち搬送ライン上流側で高位置となり搬送ライン下流側で低位置となるように水平面に対して傾斜して直線駆動される第1スライド53と、該リンク機構の一部に接続され、その駆動領域のうち搬送ライン上流側で低位置となり搬送ライン下流側で高位置となるように水平面に対して傾斜して直線駆動される第2スライド54と、前記第1スライド及び前記第2スライドをそれぞれ駆動する第1スライド駆動手段55及び第2スライド駆動手段56とを備え、第1スライド53と第2スライド54が駆動されることによる位置変動によりパネル把持部51をパネル搬送方向に移動させるものである。
【0005】
特許文献2の「工作機械の制御方法」は、パラレルリンク機構を高精度に制御し得ることを目的とし、図8に示すように、トラベリングプレート61に取付けられた測定器62と、テーブル63に載置される測定治具64とにより、指令値に従って移動した工具先端(測定器62の各ダイヤルゲージの先端)の目標位置に対する駆動制御の誤差を実測し、その測定値から算出した各機構パラメータを制御装置65の内部パラメータに置き換えることによって、直交座標系で与えられる工具先端の位置および姿勢の指令値から各サーボモータの出力値への高精度変換を可能にするものである。
【0006】
【特許文献1】特開2004−344899号公報、「パネル搬送装置」
【特許文献2】特開平11−114777号公報、「工作機械の制御方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、パラレルリンク式搬送装置は、垂直軸に対して傾斜を成した2本のスライド軸と、そのスライド部から回転自由に接続された2本のリンクの先端にパネル把持部を備えた、2次元平面に自由度を持ったパラレルリンク構造となっている。以下、パネル把持部が移動可能な2次元平面をXY平面とする。
この装置において、パネル把持部をXY平面状の任意の点[X,Y]に移動させるためには、パラレルリンクの構造から決定される変換式を用いて、2つのスライド軸の座標[p,q]に変換し、モータ制御によりスライドブロックを座標[p,q]に位置決め制御すれば良い。
【0008】
この座標変換式はリンク系が理想的に設置され、アームやスライドブロックの寸法にも誤差がない場合を想定した理論式である。しかし実際には、搬送装置の設置位置には誤差があり、機械寸法にも公差がある。また、アームは装置中央近くでは釣り合いによりほとんど変形しないが、可動範囲の端に近づくにつれ、重力の影響を受け弾性変形し、ダレる状態になる。
そのため、スライド部を正確に座標[p,q]に位置決めしたとしても、パネル把持部が取り付けられているアーム先端部は目標位置[X,Y]からずれを生じる問題点がある。
【0009】
同様の問題点を解決するため、上述した特許文献2では、装置設置後に複数点で理想値と実測値の誤差を求め、そこから機械寸法の誤差をニュートン法などの収束演算により推定して補正するという方法が提案されている。しかし、この方法は機械寸法のパラメータが増えるほど計測点が増大し、また収束演算を使用しているため、計算負荷が大きいという問題点がある。
【0010】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものである。すなわち本発明の目的は、構成部材やその設置位置に誤差があり、或いは構成部材が自重により弾性変形する場合でも、計算負荷が小さい補正手段により、パネル把持部が取り付けられているアーム先端部を目標位置[X,Y]に正確に位置決めすることができるパラレルリンク式搬送装置とその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、パネルを把持するパネル把持部と、
該パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアームと、
該リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライドと、
該各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるスライド駆動装置と、
前記パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する制御装置とを備え、搬送ラインに沿ってパネルを搬送する、ことを特徴とするパラレルリンク式搬送装置が提供される。
【0012】
また本発明によれば、パネルを把持するパネル把持部と、
該パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアームと、
該リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライドと、
該各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるスライド駆動装置と、
前記パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、前記パネル把持部の鉛直平面上の実測位置[X’,Y’]に応じて前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する制御装置とを備え、搬送ラインに沿ってパネルを搬送する、ことを特徴とするパラレルリンク式搬送装置が提供される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記制御装置は、パネル把持部のXY座標上の目標値と実測値のずれを基に、目標位置[X,Y]の補正行列Aを求め、該補正行列によって補正された補正目標位置[Xt,Yt]に対してパラレルリンクの変換式を適用し、その結果から得られたスライド軸方向位置となるように前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する。
【0014】
また本発明によれば、パネルを把持するパネル把持部と、
該パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアームと、
該リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライドと、
該各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるスライド駆動装置とを備え、搬送ラインに沿ってパネルを搬送するパラレルリンク式搬送装置の制御方法であって、
前記パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する、ことを特徴とするパラレルリンク式搬送装置の制御方法が提供される。
【0015】
また本発明によれば、パネルを把持するパネル把持部と、
該パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアームと、
該リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライドと、
該各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるスライド駆動装置とを備え、搬送ラインに沿ってパネルを搬送するパラレルリンク式搬送装置の制御方法であって、
前記パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、前記パネル把持部の鉛直平面上の実測位置[X’,Y’]に応じて前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する、ことを特徴とするパラレルリンク式搬送装置の制御方法が提供される。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、パネル把持部のXY座標上の目標値と実測値のずれを基に、目標位置[X,Y]の補正行列Aを求め、該補正行列によって補正された補正目標位置[Xt,Yt]に対してパラレルリンクの変換式を適用し、その結果から得られたスライド軸方向位置となるように前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明の装置及び方法によれば、パネル把持部のXY座標上の目標値[X,Y]と実測値[x,y]のずれ(後述するように4点のみの計測)を基に、目標位置[X,Y]の補正行列Aを求めることができるので、補正行列Aを比較的小さな計算負荷で求めることができる。また制御装置のCPUに求められる演算能力を低く抑えることができ、装置コストを抑えることが可能となる。
【0018】
また、この補正行列によって補正された補正目標位置[Xt,Yt]を求め、この目標位置に対してパラレルリンクの変換式を適用し、その結果から得られたスライド軸方向位置[p,q]に2つのスライドを位置決め制御することにより、パネル把持部の最終誤差を低減し、プレス搬送に必要な精度補正が実現できる。
【0019】
従って、設置後の調整作業を軽減でき、かつ行列要素を求める演算に収束演算を必要としないので、計算負荷が小さく、これによりパネル把持部が取り付けられているアーム先端部を目標位置[X,Y]に正確に位置決めすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明によるパラレルリンク式搬送装置の全体構成図である。
この図では、説明の便宜上、上流側、下流側の2つのプレスステーション14とその間に設けられた本発明のパラレルリンク式搬送装置(以下、単に「搬送装置」と呼ぶ)をプレスラインの内側から見た図で示している。
また、実機では、通常、プレスステーションは2〜5つ程度の複数台設けられる。なお、本明細書において、「上流側」、「下流側」とは、それぞれ搬送ラインの上流側、下流側を意味するものとする。
【0022】
上流側プレスステーション14から成形された材料(パネル)1を受け取り、下流側プレスステーション14へ搬送するために、本発明の搬送装置がプレスステーション14、14の間に設置されている。本発明の搬送装置10は、プレス成形するパネル1を搬送する送り方向Xの両側にプレスステーション毎に互いに対称に設けられている。
【0023】
図1に示すように本発明のパラレルリンク式搬送装置10は、パネル把持部15、2組のリンクアーム6、2つのスライド4,5、スライド駆動装置11,12、及び制御装置20を備える。
【0024】
パネル把持部15は、パネル(ワーク1)を吸着するバキュームカップ等のワーク把持具2と、ワーク把持具2が取り付けられ搬送ラインと直角方向に延びるクロスバー3とを備えており、このクロスバー3の両端にそれぞれ2組のリンクアーム6が接続されている。
【0025】
2組のリンクアーム6は、この例では互いに長さの等しい2本のアーム6aと別のアーム6bとからなり、それぞれの一端がパネル把持部15に回転可能に接続されている。またスライド4,5には、アーム6a,6bの他端がそれぞれ回転可能に接続されている。
スライド駆動装置11,12は、各スライド4,5を鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるようになっている。
【0026】
制御装置20は、後述する各計算式を記憶したコンピュータであり、パネル把持部のXY座標上の目標値と実測値のずれを基に、目標位置[X,Y]の補正行列Aを求め、この補正行列によって補正された補正目標位置[Xt,Yt]に対してパラレルリンクの変換式を適用し、その結果から得られたスライド軸方向位置[p,q]に位置決め制御する。
このスライド軸方向位置[p,q]の位置制御により、パネル把持部15が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように制御することができる。
【0027】
なお、この例において、スライド駆動装置11,12は、V字型のベース部材16に取り付けられている。また、この2つの駆動手段11、12は、それぞれ同じ長さの直動アクチュエータを備えており、この直動アクチュエータの駆動により、それぞれスライド4,5が直線駆動され、かつ、数値制御等で正確に位置決めできるようになっている。17は直動アクチュエータ用駆動モータである。
本実施形態において直動アクチュエータはボールネジとボールナットであるが、本発明はこれに限定されず、タイミングベルト、液圧シリンダ、ラックアンドピニオン、リニアモータ、等であってもよい。
【0028】
上述した構成により、制御装置20から動作指令を与えることによって、駆動モータ17を駆動させ、2組のリンクアーム6をそれぞれ独立して駆動する。すると、2組のリンクアーム6の相互位置関係によってパネル把持部15の位置が決まる。従って、制御装置20により、スライド4,5の軸方向位置[p,q]を位置制御することにより、パネル把持部15を鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置決めすることができる。
【0029】
図1の例において、スライド駆動装置11,12は鉛直軸から一定の角度を成し、互いに交差する2本の直線上を移動自由なスライド4、5を駆動モータ17で駆動する。スライドには回転自由なリンクアーム6が接続され、アーム先端にパネル把持部15が取り付けられている。14は左が上流プレスステーション、右が下流プレスステーションであり、パラレルリンク式搬送装置10は上流から下流へと成型パネル1を搬送する。
【0030】
図2は、図1のパラレルリンク式搬送装置の模式図である。この図において、パネル把持部15のX−Y平面上の位置座標を[X,Y]、スライド位置のp軸、q軸上の位置座標を[p,q]とすると、両者には数1の(A−1式)〜(B−4式)の関係が成り立つ。
なお、スライド駆動装置11,12のp軸、q軸の交点のX−Y平面上の位置座標が[X,Y]であり、p軸、q軸の原点でもある。また、Lはアームの長さ、α、βは図中の角度である。
【0031】
【数1】

【0032】
パネル把持部15を目標位置[X,Y]に位置決めしたい場合、(A−1式)(A−2式)から対応するスライド位置[p,q]を求めてやれば良い。
【0033】
図3は、リンクアーム6のたわみの影響を示す模式図である。パネル把持部15は、上流側でパネルを吸着して持ち上げ、下流側でパネルを下降させて離すので、この図に矩形で示す範囲内で作動する。
中央付近の釣り合い位置では問題にならないが、リンクアーム6は、可動範囲の端部に移動するに従って自重によるたわみが発生し、この図のようにアーム先端で目標位置[X,Y]から[X’,Y’]へのずれが発生する。これはパネル把持部15の位置ずれに他ならない。
【0034】
図4は、構成部材や設置位置の誤差の影響を示す模式図である。この図に示すように、搬送装置のスライド軸自体が理想的な鉛直軸から誤差θのずれで傾いている場合や、搬送装置の本来の設置位置Xから誤差ΔXだけずれて設置されている場合もある。また、パネルの搬送先である下流ボルスタ位置が本来の設置位置Xから誤差ΔXだけずれて設置されている場合もある。
そのため、パネル把持部15を正確に位置決めし、パネル把持を正確に行うためには、このような設置誤差や、機構のたわみ誤差を何らかの方法で補正してやることが必要となる。
【0035】
本発明では、アーム先端の目標位置[X,Y]と実測値[x,y]の間に数2の(式1)の関係式が成り立つと仮定する。以下、目標位置を大文字のX,Yで、実測値を小文字のx、yで示す。ここで、Aは2×2の線形行列である。
【0036】
搬送装置の特性行列Aがわかれば、パネル把持部を目標位置[X,Y]に追従させるための補正目標位置[Xt,Yt]は、(式2)から計算できる。
【0037】
【数2】

【0038】
この[Xt,Yt]を(A−1式)、(A−2式)に代入して、スライド補正目標位置[pt、qt]を求め、スライドがこの位置に移動するように制御することによって、アーム先端のパネル把持部を目標位置[X,Y]に移動させることができる。
【0039】
図5は、パネル把持部15(アーム先端)の可動範囲の模式図である。プレス用パネル搬送装置の場合、パラレルリンクの先端位置精度が要求されるのは、上流側で成型済みパネルを吸着する上流側端点Aと、パネルを下流側金型に投入する下流側端点Cとなる。
また、パラレルリンク構造の対称性から、アームが釣り合う中心軸を境に特性が変化すると考えられる。
【0040】
そのため、図5のようにアームの釣り合い点D[X,Y]とB[X,Y]を結ぶ中心線を境に上流側を「領域1」、下流側を「領域2」として、それぞれ数3の(式3)(式4)の特性方程式が成り立つと仮定する。
【0041】
【数3】

【0042】
この特性方程式の未知パラメータは(a,a,b,c,c,d,x,y)の8つである。ただし、[x、y]は、目標位置を[X,Y]とした場合のアームの実測位置であるので、パネル搬送装置の実機設置後に計測することができる。
【0043】
残りの未知パラメータ6つ(a,a,b,c,c,d)を決定するためには、6元の連立方程式が必要であるので、[X,Y]の組み合わせで独立した3点の目標位置と実測値の計測をすればよい。
ただし、3点のうち少なくとも1点ずつは[領域1]、[領域2]の点である必要がある。
【0044】
なお、以下の3点を計測した場合、未知パラメータは数4の(式5)〜(式10)で求まる。
・目標位置B[X,Y]に対する、実測位置B[x、y
・目標位置A[X,Y]に対する、実測位置A[x、y]:パネル吸着位置
・目標位置C[X,Y]に対する、実測位置C[x、y]:パネル離し位置
このようにパネル吸着位置A、パネル離し位置Cで計測し、補正式を求めることで、プレス搬送装置に要求されるパネル搬送の最終目標位置での位置精度が確保できる。
【0045】
【数4】

【0046】
(式5)〜(式10)により、搬送装置の特性行列A1,A2が判明するので、目標位置[X,Y]から補正目標位置[Xt,Yt]を求める補正式は数5の(式11)、(式12)のように求まる。
【0047】
【数5】

【0048】
図6は、本発明によるパラレルリンク式搬送装置の制御方法のブロック図である。
本発明の制御方法では、上述した搬送装置を用い、パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、スライドの軸方向位置(p、q)を位置制御する。
すなわちこの図に示すように、ステップS1において(式11)、(式12)を用いて目標位置[X,Y]から補正目標位置[Xt,Yt]を求め、ステップS2において得られる補正目標位置[Xt,Yt]を(A−1式)、(A−2式)に代入して、スライド補正目標位置[pt、qt]を求める。このスライド補正目標位置[pt、qt]に位置制御することで、パネル把持部を鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置決めすることができる。
【0049】
上述した本発明の装置及び方法によれば、パネル把持部のXY座標上の目標値[X,Y]と実測値[x,y]のずれ(4点のみの計測)を基に、目標位置[X,Y]の補正行列Aを求めることができるので、補正行列Aを比較的小さな計算負荷で求めることができる。
【0050】
また、この補正行列によって補正された補正目標位置[Xt,Yt]を求め、この目標位置に対してパラレルリンクの変換式を適用し、その結果から得られたスライド軸方向位置[p,q]に2つのスライドを位置決め制御することにより、パネル把持部の最終誤差を低減し、プレス搬送に必要な精度補正が実現できる。
【0051】
従って、設置後の調整作業を軽減でき、かつ行列要素を求める演算に収束演算を必要としないので、計算負荷が小さく、これによりパネル把持部が取り付けられているアーム先端部を目標位置[X,Y]に正確に位置決めすることができる。
【0052】
次に、上述した(式11)、(式12)の切換条件の導出方法を説明する。
【0053】
(式3)、(式4)のような特性を持つ搬送装置の先端位置を目標位置[X,Y]に位置決めするための補正目標位置[Xt,Yt]は、数6の(式A1)(式A2)から逆関数を求めればよい。
【0054】
【数6】

【0055】
[領域1]に対応する(式A1)の逆関数は数7の(式A3)、[領域2]に対応する(式A2)の逆関数は数7の(式A4)となる。
(式A3)と(式A4)の切換点は、[領域1]と[領域2]の切換点、つまり、数7の(式A5)で表されるXを通り、Y軸に垂直な直線である。
【0056】
【数7】

【0057】
(式A5)に対応する[X,Y]を求めるため、(式A5)を(式A1)、(式A2)に代入すると、結果は(式A1)、(式A2)からも同じ式が得られ、数8の(式A6)(式A7)となる。
(式A6)(式A7)からYnを消去すると、数8の(式A8)となり、上述した(式11)、(式12)の切換条件が求まる。
【0058】
【数8】

【0059】
なお、上述した実施形態では、2自由度のパラレルリンク機構をもつパラレルリンク式搬送装置を対象としたが、本発明の適用範囲はこれに限られず、3自由度以上のパラレルリンク機構をもつパラレルリンク式搬送装置にも同様に適用可能である。
【0060】
また、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明によるパラレルリンク式搬送装置の全体構成図である。
【図2】図1のパラレルリンク式搬送装置の模式図である。
【図3】リンクアームのたわみの影響を示す模式図である。
【図4】構成部材や設置位置の誤差の影響を示す模式図である。
【図5】パネル把持部(アーム先端)の可動範囲の模式図である。
【図6】本発明によるパラレルリンク式搬送装置の制御方法のブロック図である。
【図7】特許文献1の「パネル搬送装置」の模式図である。
【図8】特許文献2の「「工作機械の制御方法」」の模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1 パネル、2 ワーク把持具、3 クロスバー、
スライド、6 リンクアーム、6a,6b アーム、
10 パラレルリンク式搬送装置、
11,12 スライド駆動装置、14 プレスステーション、
15 パネル把持部、16 V字型ベース部材、
17 駆動モータ、20 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルを把持するパネル把持部と、
該パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアームと、
該リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライドと、
該各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるスライド駆動装置と、
前記パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する制御装置とを備え、搬送ラインに沿ってパネルを搬送する、ことを特徴とするパラレルリンク式搬送装置。
【請求項2】
パネルを把持するパネル把持部と、
該パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアームと、
該リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライドと、
該各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるスライド駆動装置と、
前記パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、前記パネル把持部の鉛直平面上の実測位置[X’,Y’]に応じて前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する制御装置とを備え、搬送ラインに沿ってパネルを搬送する、ことを特徴とするパラレルリンク式搬送装置。
【請求項3】
前記制御装置は、パネル把持部のXY座標上の目標値と実測値のずれを基に、目標位置[X,Y]の補正行列Aを求め、該補正行列によって補正された補正目標位置[Xt,Yt]に対してパラレルリンクの変換式を適用し、その結果から得られたスライド軸方向位置となるように前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のパラレルリンク式搬送装置。
【請求項4】
パネルを把持するパネル把持部と、
該パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアームと、
該リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライドと、
該各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるスライド駆動装置とを備え、搬送ラインに沿ってパネルを搬送するパラレルリンク式搬送装置の制御方法であって、
前記パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する、ことを特徴とするパラレルリンク式搬送装置の制御方法。
【請求項5】
パネルを把持するパネル把持部と、
該パネル把持部に一端が回転可能に接続された2組のリンクアームと、
該リンクアームの他端がそれぞれ回転可能に接続された2つのスライドと、
該各スライドを鉛直平面上で互いに交差する2本の直線上をそれぞれ移動させるスライド駆動装置とを備え、搬送ラインに沿ってパネルを搬送するパラレルリンク式搬送装置の制御方法であって、
前記パネル把持部が鉛直平面上の目標位置[X,Y]に位置するように、前記パネル把持部の鉛直平面上の実測位置[X’,Y’]に応じて前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する、ことを特徴とするパラレルリンク式搬送装置の制御方法。
【請求項6】
パネル把持部のXY座標上の目標値と実測値のずれを基に、目標位置[X,Y]の補正行列Aを求め、該補正行列によって補正された補正目標位置[Xt,Yt]に対してパラレルリンクの変換式を適用し、その結果から得られたスライド軸方向位置となるように前記スライドの軸方向位置[p,q]を位置制御する、ことを特徴とする請求項4又は5に記載のパラレルリンク式搬送装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−142724(P2008−142724A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330341(P2006−330341)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)