説明

パラ型全芳香族ポリアミド繊維

【課題】深みのある黒色を有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】パラ型全芳香族ポリアミド繊維中に、特定量の窒化チタン粒子を配合する。具体的には、パラ型全芳香族ポリアミド繊維全体に対して、窒化チタン粒子を3〜30質量%配合する。Lab表色法におけるL値(明度)が26.0以下であり、引張強度が15cN/dtex以上、伸度が3.0%以上である、コポリパラフェニレン・3,4´−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深みのある黒色を有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性を有するとともに、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持つ合成繊維である。これらの特長から、パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、自動車や自動二輪、および自転車用のタイヤ、自動車用歯付きベルト、コンベヤなどの補強材料、あるいは、光ファイバーケーブルの補強やロープなどに利用されている。また、衣料分野においても、防弾チョッキや、防刃性の作業用手袋、作業服などの防護衣料またはスポーツ衣料、さらには、燃え難さを利用した消防服など、各方面に用途を展開している。
【0003】
パラ型全芳香族ポリアミド繊維の用途の中でも特に衣料分野においては、着色が必要とされる。ここで、着色した繊維を得る方法としては、繊維化後に染料を用いて染色する後染色法と、紡糸原液に顔料を添加した後に繊維化する原着法の2つが、一般的に知られている。
【0004】
しかしながら、分子鎖が剛直であり、かつ高い結晶性を有するために分子が動きにくい共重合パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、後染色法を適用しようとすると、ポリアミド分子内への染料分子の拡散がきわめて困難であるため、満足な発色はもちろんのこと染着させることすら困難であった。
【0005】
この対策として、例えば特許文献1においては、特定のカチオン電解質存在下でパラ系アラミド繊維を低温染色する方法が示されている。特許文献1に記載された方法によれば、染色による色の展開は可能とはなるものの、染色したパラ型アラミド繊維は、原着のパラ型アラミド繊維と比較して強度が低下するという問題や、耐火、防火用として高温に曝される用途においては高温耐候性に対しての問題が残っていた。
【0006】
また、パラ型全芳香族ポリアミド繊維の顔料原着法に関しては、例えばアゾ系、フタロシアニン系、ペリノン系、ペリレン系、アンスラキノン系などの有機顔料、群青、ベンガラ、酸化チタンなどの無機顔料を、顔料として挙げることができる(特許文献2参照)。しかしながら、パラ型アラミド繊維の用途である消防服などにおいては、耐熱性の問題が有るため、これらの顔料では高温下で容易に退色するという問題があった。
【0007】
また、例えば特許文献3においては、無機顔料であるカーボンブラックを用いてパラ型全芳香族ポリアミド繊維に黒色を付与しているが、特許文献3に記載された繊維では、いまだ十分な黒味を満足することができず、さらに深みのある黒色を有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−325471号公報
【特許文献2】特開平8−165453号公報
【特許文献3】特開平6−081211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のごとき従来技術を背景になされたものであり、その目的とするところは、深みのある黒色を有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、パラ型全芳香族ポリアミド繊維中に特定量の窒化チタン粒子を配合することにより、深みのある黒色を有する繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、Lab表色法におけるL値(明度)が26.0以下であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、深みのある黒色を有する繊維となる。このため、本発明の繊維によれば、意匠性、特に深みのある黒色が要求される布帛、衣服、耐熱性作業服、防護具などの各種繊維製品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
<パラ型全芳香族コポリアミド>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、アミド結合により直接連結されたポリマーである。また、芳香族基には、2個の芳香環が酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものも含む。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。なお、2価の芳香族基を直接連結するアミド結合の位置は、パラ型である。
【0014】
<パラ型全芳香族ポリアミドの製造方法>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライド(以下「酸クロライド」ともいう)成分と芳香族ジアミン成分とを低温溶液重合、または界面重合などにより反応せしめることにより得ることができる。
【0015】
[パラ型全芳香族コポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドなどが挙げられる。また、これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。これらのなかでは、汎用性や得られる繊維の機械的物性等の観点から、テレフタル酸ジクロライドが好ましい。なお、本発明においては、イソフタル酸クロライド等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0016】
(芳香族ジアミン成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、p−フェニレンジアミン、2−クロル−p−フェニレンジアミン、2,5−ジクロル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジクロル−p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなどを挙げることができる。これらは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、m−フェニレンジアミン等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0017】
これらのなかでは、高温熱延伸における安定性の観点から、p−フェニレンジアミンを単独で使用、あるいは併用することが好ましく、p−フェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが最も好ましい。パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくは、それぞれ45〜55モル%、55〜45モル%とする。
【0018】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0019】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0020】
[重合溶媒]
パラ型全芳香族ポリアミドを重合する際の溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、上用いられる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族コポリアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0021】
[その他重合条件等]
生成するパラ型全芳香族ポリアミドの溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時のいずれかに、一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
また、パラ型全芳香族ポリアミドの末端は、封止することもできる。末端封止剤を用いて末端を封止する場合には、例えば、フタル酸クロライドおよびその置換体、アニリンおよびその置換体等を末端封止剤として用いることができる。
また、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために、脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩等を併用することもできる。
反応の終了後は、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加し、中和反応を実施してもよい。
【0022】
[重合後処理等]
上記のようにして得られるパラ型全芳香族ポリアミドは、アルコール、水等の非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族ポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得たポリマー溶液をそのまま紡糸用溶液(ドープ)に調整して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記パラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0023】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法>
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造するにあたっては、湿式紡糸法または半乾半湿式紡糸法を採用し、先ず、パラ型全芳香族コポリアミド、窒化チタン、および溶媒を含む均一な紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整し、紡糸口金から吐出する。
【0024】
[紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整]
パラ型全芳香族コポリアミド、窒化チタン、および溶媒を含む均一な紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、パラ型全芳香族ポリアミド溶液と、窒化チタン分散液とを混合する方法が挙げられる。ここで、パラ型全芳香族ポリアミド溶液と窒化チタンの分散液に用いられる溶媒としては、上記したパラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒を使用することができる。また、用いられる溶媒は、1種単独であっても2種以上を併用してもよい。パラ型全芳香族ポリアミドの製造によって得られたポリマー溶液から当該ポリマーを単離することなく、そのまま用いることも可能である。なお、紡糸上、パラ型全芳香族ポリアミド溶液と窒化チタンの分散に用いられる溶媒は、同一であることが好ましい。
【0025】
本発明の繊維を得るための紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整にあたっては、添加する窒化チタンの凝集を抑制する必要がある。窒化チタンの凝集を抑制する方法としては特に限定されるものではないが、窒化チタン分散液を一定の圧力で注入し、ダイナミックミキシングおよび/またはスタティックミキシングする方法が好ましい。さらには、添加する窒化チタン分散液に、あらかじめパラ型全芳香族ポリアミド溶液を少量添加しておくことが効果的である。具体的には、窒化チタン100質量部に対して、好ましくはパラ型全芳香族ポリアミドを1.0〜5.0質量部含有する窒化チタン分散液を作成し、この窒化チタン分散液とパラ型全芳香族ポリアミド溶液とを混合する。パラ型全芳香族ポリアミドが窒化チタン100質量部に対して1.0質量部未満の場合には、窒化チタンの凝集を抑制することが困難となる。一方、パラ型全芳香族ポリアミドが窒化チタン100質量部に対して5.0質量部を超えると、窒化チタン分散液の粘度が高くなるため、配管輸送を必要とするプロセスで取り扱いが困難となる。
【0026】
紡糸用溶液(ポリマードープ)の固形分濃度(パラ型全芳香族ポリアミドおよび窒化チタンの合計濃度)は、1〜20質量%とすることが好ましく、3〜15質量%程度とすることがさらに好ましい。固形分濃度が1質量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、固形分濃度が20質量%を超える場合には、ノズルから吐出する際に流動が不安定になりやすく、安定的に紡糸することが困難となる。
【0027】
なお、本発明においては、繊維に機能性等を付与する目的で、物性を損なわない範囲で、窒化チタン以外に添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。添加剤等を配合する場合には、ドープの調整において導入することができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドープに対して、ルーダーやミキサ等を使用して導入する方法が挙げられる。
【0028】
〔窒化チタン粒子〕
(平均粒径)
本発明に用いられる窒化チタン粒子は、動的光散乱法で測定した平均粒径が、10〜1000nmの範囲であることが好ましく、10〜500nmの範囲であることがさらに好ましい。ここで、「平均粒径」とは、窒化チタン粒子が分散媒中に5質量%濃度で分散された状態で、動的光散乱法により測定された値である。
窒化チタン粒子の平均粒径を上記範囲内にすると、窒化チタン粒子自体が非常に細かいため、窒化チタン粒子の質量あたりの個数や表面積を大幅に増加させることができる。その結果、少ない配合量であっても、繊維に深い黒色を付与することができる。
なお、分散媒中における窒化チタン粒子は、必ずしも一次粒子の状態で分散されているとは限らず、凝集状態にあるものも存在する。凝集状態にある窒化チタン粒子の平均粒径は、凝集塊の大きさを当該窒化チタン粒子の粒径として求める。つまり、本発明において、「平均粒径」とは、分散媒中における窒化チタン粒子の一次粒子または凝集塊の大きさの平均値を意味するものとする。
【0029】
(窒化チタン粒子の製造方法)
本発明に用いられる窒化チタン粒子は、公知の種々の方法により製造することができる。一般的な製造方法としては気相反応法が用いられ、電気炉法や熱プラズマ法などが挙げられる。これらの中では、不純物の混入が少なく、粒子径が揃いやすく、また生産性も高いことから、熱プラズマ法による合成が好ましい。
なお、本発明の繊維においては、市販の窒化チタン粒子を用いることも可能である。窒化チタン粒子としては、種々ものが市販されており、本発明においては、それらの市販品を好ましく用いることができる。
【0030】
(表面処理)
本発明の繊維を得るための窒化チタン粒子は、シラン系カップリング剤もしくはチタン系カップリング剤などのカップリング剤、または界面活性剤などの表面処理剤によって、表面処理された表面処理層を有するものであることが好適である。
この表面処理剤は被覆層の表面に存在し、表面処理層を形成する。表面処理剤の種類を適切に選択することにより、ポリマーとの親和性が向上し、ポリマー中への粒子の分散性が良くなり、機械強度を損なうことなく深い黒色を付与することができる。
【0031】
(配合量)
本発明の繊維における窒化チタンの含有量は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維全体に対して3〜30質量%、好ましくは5〜20質量%の範囲である。3質量%未満では、所定の黒味(明度:L値)が発現しない。一方、30質量%を超える場合には、繊維成形性が乏しくなり好ましくない。
【0032】
[紡糸・凝固]
本発明の繊維の製造においては、上述の如く調整された紡糸用溶液(ドープ)を用いて、湿式紡糸法またはエアギャップを設けた半乾半湿式紡糸法によって繊維を成形する。すなわち、先ず、上記で得られた紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出し、続いて、凝固浴中の凝固液に接触させて凝固糸を形成する。
凝固浴としては、パラ型全芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、紡糸用溶液(ポリマードープ)の溶媒が急速に抜け出して、得られる全芳香族ポリアミド凝固糸に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。貧溶媒としては水、良溶媒としてはパラ型全芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いるのことが好ましい。良溶媒/貧溶媒の質量比は、パラ型全芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60の範囲とすることが好ましい。
【0033】
[その他の工程]
凝固液から凝固糸条を引き上げた後は、公知の方法によって、最終的な芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。例えば、水洗工程を実施して形成された未延伸糸から溶媒を除去し、必要に応じて延伸を実施し、乾燥工程等を経た後に必要に応じて延伸することにより配向させ、最終的な繊維を得ることができる。
【0034】
[延伸工程]
本発明の繊維は、延伸配向されていることが好ましい。延伸の方法としては特に限定されるものではなく、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸のみならず、乾燥糸状態での加熱延伸等、いずれでもよい。また、延伸倍率については特に制限はないが、5倍以上であることが好ましく、8倍以上であることがさらに好ましい。延伸倍率を制御することにより、得られる芳香族ポリアミド繊維の伸度および強度を制御することができる。
【0035】
本発明の繊維は、広角X線回折により求めた結晶配向度が89%以上、結晶化度が74%以上と、高度に配向および結晶化していることが好ましい。結晶配向度および結晶化度のどちらか一方または両方が低い場合には、得られる繊維の機械的物性が不充分となりやすい。
熱延伸を実施する場合には、その温度は、全芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、好ましくは300〜600℃、さらに好ましくは350〜550℃とし、また、延伸倍率は好ましくは10倍以上、さらに好ましくは10〜15倍とする。
【0036】
<芳香族ポリアミド繊維の物性>
(引張強度)
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、高い程好ましいが、窒化チタンの濃度を上げるにつれて強度は低下の傾向があり、15cN/dtex未満では高強度繊維としての特長が不足する。このため、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、15cN/dtex以上とすることが好ましく、さらに好ましくは、20cN/dtex以上である。
【0037】
(伸度)
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の伸度は、3.0%以上であることが好ましい。3.0%未満の場合には、撚糸して使用する場合に撚り歪が大きくなり、撚糸時の強力利用率が低下する。このため、例えば耐久性が特に要求される使用用途に用いた場合に、耐久性が不足する場合がある。伸度は、好ましくは3.5〜5.0%の範囲である。
【0038】
(単糸繊度)
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、好ましくは0.5〜50dtexの範囲、さらに好ましくは1.0〜10dtexの範囲である。0.5dtex未満の場合には、添加された窒化チタンが糸欠陥として作用し、製糸性が不安定となる場合がある。また、繊維の比表面積が大きくなるので、耐光劣化を受け易い。一方、50dtexを超える場合には、繊維の比表面積は小さくなり、耐光劣化を受けにくいが、反面、比表面積が小さいために製糸工程において凝固が不完全になりやすく、その結果、紡糸や延伸工程での工程調子が乱れやすく、物性も低下しやすくなる。
【0039】
(窒化チタンの分散粒子平均相当径)
本発明の繊維における窒化チタン粒子の分散粒子平均相当径は、10〜1000nmの範囲であることが好ましく、10〜500nmの範囲であることがさらに好ましい。
窒化チタン粒子の分散粒子平均相当径を上記の範囲内にするには、本発明に用いられる窒化チタン粒子の平均粒径を上記範囲内とし、さらに、窒化チタン粒子をビーズミルなどで微粉砕または分散して、ポリマーに配合する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0041】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法で測定・評価を実施した。
【0042】
[窒化チタンの平均粒径]
窒化チタンを、5質量%のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散した状態で、NMP分散径として測定した。NMP分散径は、「マイクロトラックMT3300EX」(日機装(株)製)を用いて、レーザー回折法により求めた。
【0043】
[明度(L値)]
色彩色差計(MINOLTA社製、型式:CR−200)を用いて、測定を実施した。
【0044】
[繊度]
JIS−L−1015に準じ、測定した。
【0045】
[繊維の引張強度]
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
(測定条件)
温度 :室温
測定試料長 :500mm
チャック引張速度 :250mm/分
初荷重 :0.2cN/dtex
【0046】
<表面改質窒化チタン粒子の製造>
窒化チタン粒子(日清エンジニアリング社製)10gを、純水500gに対して1時間、分散・撹拌し、その後、フェニルエトキシシランを4g添加して、さらに24時間、分散・撹拌を行って分散液を得た。続いて、得られた分散液をろ過し、ろ過後に得られた沈殿物を110℃で24時間乾燥した。乾燥後に得られた凝集体を、ハンマーミル(三庄インダストリー(株)社製、商品名:ハンマークラッシャーNH−34)を用いて解砕することにより、表面に表面処理層を有する表面改質窒化チタン粒子を得た。このとき、0.3mmのメッシュスクリーンを用いて回転数3600rpmの条件とした。
【0047】
<実施例1>
上記で得られた表面改質窒化チタン粒子を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に濃度5質量%となるように、ビーズミル(淺田鉄工(株)製、Nano Grain Mill)を用いて分散させた。このとき、メディアとして、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。
得られた分散液を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した固有粘度(IV):3.4)の濃度6質量%のNMP溶液中に添加し、攪拌機(栗本鐵工所製、KRCニーダーS1)を用いて、60℃で2時間、攪拌機の周速度が0.81m/sの条件で撹拌混合し、紡糸用溶液(ポリマードープ)を得た。このとき、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対する窒化チタンの配合量は、5質量%となるようにした。
得られた紡糸用溶液(ポリマードープ)を用い、孔数667ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出して凝固させた後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度530℃下で10倍に延伸した後巻き取ることにより窒化素チタンが良好に分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0048】
<実施例2>
表面改質窒化チタン粒子の含有量を10質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、窒化チタンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0049】
<実施例3>
表面改質窒化チタン粒子の含有量を30質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、窒化チタンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0050】
<実施例4>
表面改質窒化チタン粒子の含有量を3質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、窒化チタンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0051】
<比較例1>
窒化チタンを未添加とした以外は、実施例1と同様の方法で、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0052】
<比較例2>
表面改質窒化チタン粒子の含有量を1質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、窒化チタンが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0053】
<比較例3>
表面改質窒化チタン粒子の含有量を40質量%とした以外は、実施例1と同様の方法により繊維を得ようとしたが、繊維化ができなかった。
【0054】
<比較例4>
窒化チタンの代わりにカーボンブラック(大日精化工業株式会社製、MPS−1100 Black(T)、)を用い、その含有量を5質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、カーボンブラックが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0055】
<比較例5>
カーボンブラックの含有量を14質量%とした以外は、比較例4と同様の方法で、カーボンブラックが分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の全芳香族ポリアミド繊維は、深い黒色を有するため、深い黒色を必要とする耐熱布帛、それを用いた消防服、耐火服、防護衣、防護具として非常に有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Lab表色法におけるL値(明度)が26.0以下であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
繊維全体に対して窒化チタン粒子を3〜30質量%含有する請求項1記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
引張強度が15cN/dtex以上、伸度が3.0%以上である請求項1または2記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
パラ型全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1〜3いずれか記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項5】
延伸配向されてなる、請求項1〜4いずれか記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2012−67415(P2012−67415A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213655(P2010−213655)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】