説明

パルス電気刺激装置

【課題】強い刺激が可能な、不快感のない心地良い刺激の可能な、刺激の慣れの少ない、より高い治療効果を有するパルス式電気刺激装置の提供を目的とする。
【解決手段】パルス幅tのパルスを発生するパルス発生手段と、パルスに続く出力ゼロの休止期間trを発生する休止期間設定手段と、パルス発生部で発生したパルスを任意の波形と周波数でパルス幅変調を行うパルス幅変調手段と、パルスのパルス幅tと休止期間trから周期Tを求める周期設定手段とを有し、パルスをパルス幅変調し、そのときのパルス幅tに対して、周期Tが一定値になるように、パルス出力ゼロの期間trを調節するようにした。また、この周期Tを周波数変調するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス式の電気刺激装置の改良に関するもので、特に、刺激の強さと感覚を改善した、より高い治療効果の刺激装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気刺激装置は、通常、図3(A)のように、電気刺激信号発生部31と増幅部32、制御部33、電極34等で構成される。図には記載していないが、装置のパネル部には刺激電流の周波数やパルス幅、治療時間などの刺激条件を設定する設定キーや、刺激電流の強さや治療時間等を表示する表示部等が設けられて、治療の操作部を構成しており、操作部は制御部33に接続されている。
使用前に、電極34を所望の刺激部位に装着し、操作部の設定キー等を操作して周波数やパルス幅、治療時間などの刺激条件を入力すると、その信号は制御部33に取り込まれ、その信号をもとに、電気刺激信号発生部31で指定された電気刺激信号を発生させることができる。図3(B)はパルス幅τ、周期T、刺激の強度iの刺激信号の例である。
その後、操作部の出力調節キーを操作すると、電気刺激信号発生部31で発生させた電気刺激信号を任意の強さに増幅することができ、所望の刺激強度になると、その状態で治療を開始し、設定した治療時間だけ刺激を行い、治療時間が終了すると治療を終了する。
このように、電気刺激装置は、設定した刺激条件の刺激電流を所望の強さに増幅し、この電流を皮膚表面に装着した電極を介して生体に電流を流し、神経や筋肉などを刺激するものであり、組織の血流増加、筋機能の回復、疼痛緩和などに使用する。
【0003】
刺激装置には、パルス信号や正弦波状の交流信号を用いるものが使用されている。
パルス式電気刺激装置では通常、周波数が1000Hz以下のパルス信号を用いる。この刺激信号は効率よく神経刺激をおこなうことができるが、周波数が低いため、皮膚インピーダンスが高く、ある程度以上の強い電流を流すと、ぴりぴりした皮膚表面の電気刺激感が出て、さらに電流を増やすと、痛みや場合によっては熱傷を生じる。つまり、低い周波数のパルス式電気刺激装置は生体に大きな電流を供給することはできず、このため、筋肉刺激などの強い刺激には不向きである。
【0004】
これを解決するため、図4のような、より高い周波数の正弦波電流を用いた干渉低周波治療器等が使用されている(例えば特許文献1等)。
パルス式の刺激装置でも、1000Hz以上の高い周波数の電流を用いて、低い皮膚インピーダンスで使用するものも増えている。
一方、電気刺激を続けると、刺激に対する慣れが生じ、治療効果の低下につながる。これを解決するために、図5のような、パルス信号を不規則に出力するものが提示されている(例えば特許文献2等)。
【特許文献1】特許公報昭53-30270
【特許文献2】特開昭54-119792
【0005】
特許文献1は、図4に示すように、通常は周波数が4000Hz程度の、周波数がわずかに異なる2つの電流を同時に通電し、体内で生じる干渉電流を治療に用いる、干渉低周波治療器に関するものである。図4(A)ha装置の構成例、(B)は出力信号とたいないで生じる干渉低周波の例である。この例では、周波数が4000Hzと4100Hzを用い、100Hzの干渉波を発生させる例を示している。これは、周波数が高いため、皮膚インピーダンスは低く、皮膚の電流刺激感覚は少なく、不快な刺激感は少ない。このため、大きな電流を流すことができ、強い刺激(筋収縮)を得ることができる。
しかし、従来の干渉低周波治療器では周波数の変化は少ないため、電気刺激の生体への慣れが生じ易い。
特許文献2は、図5に示すように、振幅が一定のパルスの頻度(周波数)を不規則に変化させ、そのパワースペクトルに1/fゆらぎを持たせるようにしたものであり、生体への慣れを少なくしたものである。図5の(A)はパルス信号、(B)はパワースペクトル図である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気刺激では、筋肉を刺激するためには大きな電流を流して強い刺激を得ることができるようにする必要がある。また、強い刺激をおこなったとき、不快な電気刺激が無いように、さらに、慣れを少なくする必要がある。本発明は、これらの課題を解決する、新しい電気刺激装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで請求項1記載の発明では、
刺激信号を発生する電気刺激信号発生部と、
前記電気刺激信号発生部で発生した刺激信号を増幅する増幅部と、
装置の制御を行う制御部と、
前記増幅部で増幅した刺激信号を生体に供給する電極を有するパルス電気刺激装置において、
パルス幅tのパルス(P)を発生するパルス発生手段と、
パルス発生部で発生したパルス(P)を、任意の波形と周波数を有するパルス幅変調信号でパルス幅変調を行うパルス幅変調手段と、
パルス(P)をパルス幅変調をおこなったパルス幅t‘のパルス(P‘)に続けて出力ゼロの休止期間trを発生する休止期間設定手段と、
パルス幅t‘と休止期間trから周期Tを求める周期設定手段と、
を設けるとともに、
周期Tが一定値になるように、パルス出力ゼロの期間trを調節して、刺激信号として出力するようにした。
【0008】
請求項2記載の発明では、請求項1記載のパルス電気刺激装置におけるパルス周期Tのパルス信号を任意の波形と周波数を有する周波数変調信号で周波数変調する周波数変調手段を設け、パルス(P)をパルス幅変調するとともに、パルス周期Tを周波数変調するようにした。
【0009】
請求項3記載の発明では、請求項1又は請求項2記載のパルス電気刺激装置において、パルス(P)は1周期の正弦波とした。
【0010】
請求項4記載の発明では、請求項1から請求項3のいずれかに記載したパルス電気刺激装置のパルス(P)の周波数は1000Hz以上とした。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明により、パルスの周期がTで、パルス幅がtの、休止期間がtrの、パルス幅変調されたパルス刺激電流波形を発生することができる。しかも、パルス幅変調部は任意の波形と周波数のパルス幅変調信号でパルスPをパルス幅変調する。
このため、パルス幅を例えばt0〜tnまで変化させることができ、1パルス(1周期T)のパワーを大きく変化させることができる。つまり、パルスのパワーが大きく変化し、刺激強度を大きく変化させることができる。また、パルス幅が変化するため、周波数成分も大きく変化させることができる。しかも、パルス幅変調をおこなう1サイクルの間、変調のパターン(周期と波形)を任意に設定できる。このため、刺激の変化が大きく、慣れを防止することができる。
【0012】
請求項2記載の発明により、請求項1記載のパルス電気刺激装置のパルス信号を周波数変調する周波数変調手段を設けた。このため、パルスをパルス幅変調するとともに、パルス周波数変調をおこなう。
つまり、請求項1記載でパルス幅変調した周期Tのパルスをさらに周波数変調するため、パルス幅がさらに変化し、パルス周期も変化する。このため、請求項1記載のパルス信号をさらに大きな範囲で周波数を変化させることができる。
このため、請求項1記載のパルス信号のパワーがさらに大きく変化し、刺激強度がさらに大きく変化させることができる。また、パルス幅がさらに変化するため、周波数成分もさらに大きく変化させることができる。しかも、パルス幅変調をおこなう1サイクルの間、変調のパターン(周期と波形)を任意に設定できる。このため、刺激の変化が大きく、慣れ防止効果がさらに高くなる。
請求項2記載の発明により、請求項1記載のパルス幅変調と請求項2記載の周波数変調を合わせておこなうため、両方の刺激感覚の変化を同時に知覚することができる。両方の変調を同期させておこなうと、両方の刺激の強さをそれぞれ感じながら増強して知覚することができる。
また、両方の変調を独立しておこなうと、それぞれの刺激を別々に、同時に知覚できる。
2つの電流刺激を同時に得られるという、従来は得られなかった刺激を得ることができる。
【0013】
請求項3記載の発明では、パルスに正弦波を1周期、用いているため、正弦波独特の柔らかな刺激感を得ることができる。
【0014】
請求項4記載の発明では、請求項1から請求項3のいずれかに記載したパルス電気刺激装置において、パルス(P)は1000Hz以上の周波数とした。周波数が高いため、皮膚インピーダンスが小さくなり、電気刺激による不快な刺激感が少なくなる。このため、より多くのエネルギーを供給することができるようになり、より強い刺激と高い治療効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図示した実施例により、本発明を詳しく説明する。
【実施例1】
【0016】
請求項1の発明は、
刺激信号を発生する電気刺激信号発生部と、前記電気刺激信号発生部で発生した刺激信号を増幅する増幅部と、装置の制御を行う制御部と、前記増幅部で増幅した刺激信号を生体に供給する電極を有するパルス電気刺激装置において、
パルス幅tのパルス(P)を発生するパルス発生手段と、
パルス発生部で発生したパルス(P)を、任意の波形と周波数を有するパルス幅変調信号でパルス幅変調を行うパルス幅変調手段と、
パルス(P)をパルス幅変調したパルス幅t‘のパルス(P‘)に続けて出力ゼロの休止期間trを発生する休止期間設定手段と、
パルス幅t‘と休止期間trから周期Tを求める周期設定手段と、
を設けるとともに、
周期Tが一定値になるように、パルス出力ゼロの期間trを調節して、刺激信号として出力するようにした。
【0017】
請求項2の発明は、請求項1記載のパルス電気刺激装置に、パルス周期Tを周波数変調する周波数変調手段を設け、パルス(P)をパルス幅変調するとともに、パルス周期Tを周波数変調して、刺激信号として出力するようにした。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載のパルス電気刺激装置において、パルス(P)は1周期の正弦波とした。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載したパルス電気刺激装置のパルス(P)は1000Hz以上の周波数とした。
【0020】
図1は本発明の実施例である。図の(A)は本発明で用いるパルスの基本波であり、その周期がtである。パルスには、請求項3記載の発明により、不快な刺激が最も少ない正弦波を用いている。
また、請求項4記載の発明により、1000Hz以上の周波数としている。
ここでは、請求項3と4により、基本波の周波数が1000Hzの正弦波の例を考える。周波数が1000Hzであるから、基本波の周期tは1msとなる。図1の(D)でTが1msとなる。
【0021】
請求項1の発明により、図1(D)の基本波をパルス幅変調する。例えばパルス幅を1//2にし、その後に休止期間を入れ、周期をTとしたのが、図1(E)である。周期tとはT/2で、休止期間trも期間Tの1/2になる。
同様に、パルス幅を1/iに変調し全体の周期をTになるように休止期間trを発生させたのが図1(F)、パルス幅を1/8にしパルス周期をTになるように休止期間trを発生させたのが(G)である。
これを順番に、刺激装置の出力から出力したときの様子が図1(H)である。
この例では、パルス幅を1/8に変調したときの様子を示したが、変調の程度は1/8でなくても、1/10であっても、1/100であってもよい。変調の程度は問わない。
図1には、パルス幅変調を1/8までの8種類を出す例を示しているが、連続的に、変調したものを出力しても良い。
【0022】
基本波が1000Hzで、パルス幅を1/8になるように変調すると、8000Hzのパルス波形になる。1000Hzのパルスは強く筋肉を収縮させるため刺激感も強い。一方、8000Hzのパルスでは、筋収縮は得られず、刺激感は得られない。しかし、8000Hzの刺激感の無いパルスは、皮膚抵抗も体内組織の電気抵抗も非常に小さくなるため、深部まで達し、疼痛緩和などの治療効果があることが知られている。このため、本発明により、不快感の無い筋肉刺激や深部刺激をおこなうことができる。また、血流増加作用、それによる組織の富栄養化・賦活化の作用も得られる。
周波数がこのように大きな範囲で変化すると、筋収縮力の違いだけでなく、電気刺激感覚の違いも知覚でき、各周波数領域で異なる刺激感覚を知覚できる。このため、多様な刺激が得られるため、電気刺激の慣れも少なくなる。
【0023】
パルス幅変調信号の波形や周波数は示していないが、任意であり、波形は正弦波、三角波、矩形波など、どのようなものでもよく、周波数もどのようなものでもよい。不快感の少ない柔らかな刺激をおこないたい場合は正弦波が、機械的な強い圧迫刺激を得たい場合は矩形波が適する。ゆっくりした刺激か、早い刺激か、変調信号の周期で指定できる。
【0024】
出力は、通常、刺激開始時に、出力調整ボリュームを操作して、適切な大きさに出力を調節して、刺激をおこなうため、ここでは記載しなかった。
前述のように、パルスの振幅が変動すると、これが刺激感として、通常は不快な刺激感として知覚されるため、振幅の変動は無いようにしたほうが良い。しかし、ある目的で振幅を変化させることもあるため、一定であっても、変化させても良い。
【0025】
請求項2記載の発明の実施例を図2に示す。本発明は、請求項1記載の刺激信号(図2(A))を、周波数変調する。図では、基本波のパルス幅を1/8までパルス幅変調し、これを一定周期Tにしたものを、これと同期して、TがT/8になるまで、周波数変調している。
この場合、周波数が1000Hzの基本パルスを用いると、パルスの周期は1/8に、正弦波の周期は1/64になる。つまり、1kHzが64kHzまで変化する。
周波数変調信号の波形や周波数は任意である。
数kHzを超える刺激感が殆ど得られなくなるが、刺激効果はあり、疼痛緩和などには有効である。数kHz以上の刺激信号であっても、振幅変調をおこなうと、10kHz過ぎまで、筋肉刺激効果(筋収縮)は十分に得られる。
一方、周波数が1kHz以上の、いわゆる中周波の領域で大きく周波数を変化させると、前述のように、筋収縮力の違いだけでなく、電気刺激感覚の違いも知覚でき、各周波数領域で異なる刺激感覚を知覚できるため、電気刺激の慣れも少なくなる。
これらを勘案し、周波数変化の範囲を決定すればよい。
【0026】
以上のように、本発明は、不快な刺激の少ない正弦波信号を用い、その周波数が1000Hzを超える高い領域で使用し、これをパルス幅変調し、さらに周波数変調を行う。
このため、周波数が大きく変化し、このため電気刺激の慣れは少なくなる。
周波数が高いため、皮膚インピーダンスは小さくなり、電気刺激の不快感は少なく、深部まで大きな電流を供給することができる。
このため、周波数を変化させると、表層部から深部まで刺激をおこなうことができる。
また、神経刺激だけでなく筋肉刺激も十分に強くおこなうことができるため、表層部から深部まで、筋肉疾患の治療、疼痛治療などを効果的におこなうことができる。
周波数が1000Hzと2000Hz,3000Hz…と変化すると、電気刺激感覚の変化を知覚できる。本発明では、基本周波数を1500Hzにして、パルス幅変調で10倍程度に、周波数変調で2倍程度に周波数を変化させると、周波数が1500〜30000Hz変化し、それぞれの周波数帯特有の刺激感覚を知覚し識別できる。このため、電気刺激の慣れが防止できるし、変化に富んだ刺激感覚を得ることが可能になる。
このように、本発明は、従来の問題を解決し、新しい作用効果の得られる電気刺激装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】請求項1記載の発明の出力電流の例。
【図2】請求項2記載の発明の出力電流の例。
【図3】一般的な電気刺激装置のブロック図
【図4】特許文献1記載の図
【図5】特許文献2記載の図
【符号の説明】
【0028】
P:パルス波 T:パルスの周期
t:基本パルスの周期 tr:パルス休止期間
31:電気刺激信号発生部 32:増幅部
33:制御部 34:電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺激信号を発生する電気刺激信号発生部と、
前記電気刺激信号発生部で発生した刺激信号を増幅する増幅部と、
装置の制御を行う制御部と、
前記増幅部で増幅した刺激信号を生体に供給する電極
を有するパルス電気刺激装置において、
パルス幅t0のパルス(P0)を発生するパルス発生手段と、
パルス(P0)を、任意の波形と周波数のパルス幅変調信号でパルス幅変調を行うパルス幅変調手段と、
前記パルス幅変調手段によりパルス(P0)をパルス幅変調したパルス幅tのパルス(P)に続く出力ゼロの期間trを設定する休止期間設定手段と、
前記パルス幅変調手段によりパルス幅変調をおこなったパルス(P)のパルス幅tと休止期間trから周期Tを求める周期設定手段とを設け、
パルス(P)をパルス幅変調し、そのときのパルス幅tに対して、周期Tが一定値になるように、パルス出力ゼロの期間trを調節して刺激信号として出力する手段を設けたことを特徴とするパルス電気刺激装置。
【請求項2】
請求項1記載のパルス電気刺激装置において、
パルス(P)を任意の波形と周波数の周波数変調信号で周波数変調する周波数変調手段を設けたことを特徴とする、請求項1記載のパルス電気刺激装置。
【請求項3】
パルス(P)は1周期の正弦波であることを特長とする請求項1又は請求項2記載のパルス電気刺激装置。
【請求項4】
パルス(P)は1000Hz以上の周波数を有することを特長とする請求項1から請求項3のいずれかに記載したパルス電気刺激装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−184113(P2010−184113A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8954(P2010−8954)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000114190)ミナト医科学株式会社 (31)
【Fターム(参考)】