説明

パルプの圧縮指数の測定装置

【課題】 スラリー中のパルプの圧縮指数や濾水度をオンラインで容易に測定し得る装置及び方法を提供すること。
【解決手段】 濾材3と、濾材へスラリーを供給する手段7と、該スラリーの濾過圧力の測定手段13と、該スラリーの濾液量の測定手段10と、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出する手段12とを備え、該スラリーが前記濾過圧力を変えながら供給されるようになされているパルプの圧縮指数の測定装置1。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スラリー中のパルプの圧縮指数や濾水度をオンラインで容易に測定し得る装置及び方法に関する。また、本発明は、抄造中における抄造状態を監視し得る抄造装置及び抄造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】パルプの濾水度を測定する方法としては、例えば特開昭51−123301号公報や特開昭54−46902号公報に記載のものが知られている。これらの公報に記載の濾水度の測定方法は、抄紙工程からスラリーを一定時間毎に一定量取り出し、これを予め計量してあった清水中に取り入れ、空気を吹き込んで分散させた後、一定の空気圧で加圧し濾過スクリーンを通して濾過し、濾液を計量して濾水度を測定することからなる。
【0003】しかし、この方法では、スラリーを清水で希釈して濾水度を測定するので、実際の抄紙状態での濾水挙動を測定しているわけではない。スラリーの濾水度をその原液の状態で測定することも可能ではあるが、その場合は抄紙温度やスラリー濃度等の抄紙条件毎に濾水度に対する検量線を作成する必要があり手間がかかる。更に、一定時間濾過した後の濾液量を測定するので、短時間での測定が容易でない。
【0004】これとは別に、抄紙中におけるネット目詰まりや偏肉の発生等の抄紙異常を、スラリーの注入時間や注入圧力の異常値からオンラインで判断する方法が知られている。しかし、この方法は温度の影響を受ける上、個々の抄紙条件が相互に影響しているので、抄紙異常の原因を判断することが困難である。
【0005】従って、本発明は、スラリー中のパルプの圧縮指数や濾水度をオンラインで容易に測定し得る装置及び方法を提供することを目的とする。また本発明は、抄造中における抄造状態に異常が発生したか否かを監視し得る抄造装置及び抄造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、濾材と、該濾材へスラリーを供給する手段と、該スラリーの濾過圧力の測定手段と、該スラリーの濾液量の測定手段と、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出する手段とを備え、該スラリーが前記濾過圧力を変えながら供給されるようになされているパルプの圧縮指数の測定装置を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0007】また本発明は、圧力を変えつつスラリーを濾材へ供給し濾過ながら、該スラリーの濾過圧力及び該スラリーの濾過量を経時的に測定し、測定された該圧力及び該濾過量の値に基づき該スラリー中のパルプの濾過比抵抗を算出し、算出された該濾過比抵抗及び前記圧力の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出するパルプの圧縮指数の測定方法を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0008】また本発明は、濾材と、該濾材へスラリーを供給する手段と、該スラリーの濾過圧力の測定手段と、該スラリーの濾液量の測定手段と、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出し、予め作成された圧縮指数と濾水度との検量線に基づき、算出された前記圧縮指数の値から前記スラリー中のパルプの濾水度を求める手段とを備え、該スラリーが前記濾過圧力を変えながら供給されるようになされているパルプの濾水度の測定装置を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0009】また本発明は、圧力を変えつつスラリーを濾材へ供給し濾過しながら、該スラリーの濾過圧力及び該スラリーの濾過量を経時的に測定し、測定された該圧力及び該濾過量の値に基づき該スラリー中のパルプの濾過比抵抗を算出し、算出された該濾過比抵抗及び前記圧力の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出し、予め作成された圧縮指数と濾水度との検量線に基づき、算出された前記圧縮指数の値から前記スラリー中のパルプの濾水度を求めるパルプの濾水度の測定方法を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0010】また本発明は、スラリー中のパルプを漉き取る抄造網と、該抄造網へ該スラリーを供給する手段と、該スラリーの濾過圧力の測定手段と、該スラリーの濾液量の測定手段と、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出する手段とを備え、該スラリーが前記濾過圧力を変えながら供給されるようになされている紙製品の抄造装置を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0011】また本発明は、圧力を変えつつスラリーを抄造網へ供給して該抄造網上へパルプを漉き取りながら、該スラリーの濾過圧力及び該スラリーの濾液量を経時的に測定し、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの濾過比抵抗を算出し、算出された該濾過比抵抗及び前記圧力の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出し、算出された該圧縮指数の値に基づき抄造状態を監視しながら抄造を行う紙製品の製造方法を提供することにより前記目的を達成したものである。
【0012】
【発明の実施の形態】以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。先ず図1を参照しながら、スラリー中のパルプの圧縮指数及び濾水度の測定装置及び測定方法を説明する。
【0013】図1に示す装置1は、スラリー中のパルプの圧縮指数及び濾水度の測定に好ましく用いられるものであり、スラリー受容槽2、該受容槽2の下部に位置する濾材3、濾材3の下部に位置し、濾材を通過した白水を集める漏斗4、漏斗4により集められた白水を貯留する貯留槽5を備えている。受容槽2の上部は閉じた構造となっており、該上部にはエアベントのための排気パイプ11が取り付けられている。受容槽2、濾材3及び漏斗4は、保持台6上に載置されている。
【0014】濾材3は、金属製ネット、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン(PE)等の樹脂製ネット、多孔板、濾布などから構成されている。その目の粗さは、スラリー中のパルプ繊維の保持(パルプ繊維が濾材3を通過することなく、濾材3上に堆積すること)及び濾材3自体の濾過比抵抗の減少の点から、ネットの場合には20〜100メッシュ、特に30〜80メッシュであることが好ましい。またスラリー受容槽2の容積は、測定時間の短縮及び測定精度の向上等の点から、濾過面積1cm2 当たり5〜40cm3 、特に10〜20cm3 であることが好ましい。
【0015】装置1は、スラリーの供給手段としての送液ポンプ7を備えている。そして、送液ポンプ7によって、図示しないスラリーの供給タンクから受容槽2に、スラリーが加圧下に供給されるようになっている。
【0016】送液ポンプ7と受容槽2とを接続する送液パイプ8には、受容槽2に供給されるスラリーの供給圧力の測定手段としての圧力計9、流量計10及び温度計13が取り付けられている。流量計10は、受容槽2に供給されるスラリーの積算供給量(体積)が測定できるようになっている。
【0017】装置1は、更にコンピュータ等の演算手段12を備えている。この演算手段12には、圧力計9で測定されたスラリーの供給圧力、流量計10で測定されたスラリーの流量及び温度計13で測定されたスラリーの温度が、それぞれ電気信号に変換されて送られる。
【0018】このような構成を有する装置1を用いたパルプの圧縮指数及び濾水度の測定方法について説明すると、先ず送液ポンプ7を起動させて、図示しない供給タンクから受容槽2にスラリーを加圧下に供給し、濾材3によってスラリーを濾過する。そして、スラリーを供給しながらその供給圧力及び供給量を、圧力計9及び流量計10を用いて経時的に測定する。図2には、スラリーの供給圧力と供給時間との関係の一例が示されている。図2から明らかなように、スラリーの供給圧力は、その供給初期においてはほぼ0に近い。これは、送液ポンプ7の起動時には受容槽内は空になっており、濾材3にパルプが堆積されていないためである。受容槽2内にスラリーが一定流量で供給され濾過が次第に進行すると、濾材3にパルプが堆積されていき、それに従いスラリーの供給圧力は上昇していく。
【0019】スラリーの供給圧力及び供給量は、電気信号に変換されて演算手段12に送られる。演算手段12においては、圧力計9及び流量計10から送られてきたスラリーの供給圧力及び供給量に対応する電気信号が処理されて、スラリー中のパルプの濾過比抵抗αm 〔m/kg〕が算出される。その算出方法を以下に詳述する。
【0020】濾過比抵抗αm は以下の式(1)から算出される。
【0021】
【数1】


【0022】式(1)の左辺において、vは、単位面積当たりの濾材3を通過した濾液量〔m3 /m2 〕、即ち白水の量(体積)を意味する。本実施形態においては、白水の量(体積)は、V−V0 で近似される。ここで、Vは流量計10で測定されたスラリーの積算供給量(体積)であり、V0 はスラリーの供給タンクから受容槽2に至る配管内の体積である。従って、濾材3の表面積をAとすれば、vは、v=(V−V0 )/Aで表される。またtは時間〔s〕を意味する。
【0023】式(1)の右辺において、分子のpは濾過圧力〔kg/m/s2 〕、即ち、濾材3の前後でのスラリーの圧力差を意味する。本実施形態においては、濾材3の通過後の圧力は無視できるので、濾過圧力は、圧力計9で測定されたスラリーの供給圧力で近似される。分母のμは白水の粘度〔kg/m/s〕を意味する。白水の粘度は、予め作成された粘度と温度との検量線から求められる。この場合の温度は、温度計13で測定された温度が用いられる。c〔kg/m3 〕は、〔スラリー中の固形分重量/白水体積〕を意味し、ρs/(1−ms)で表される。ここでρは白水の密度〔kg/m3 〕、sはスラリーの濃度(無次元数、但し、100重量%のときを1として計算する)、mはパルプの湿乾比(無次元数)を意味する。白水の密度ρは、予め作成された密度と温度との検量線から求められる。この場合の温度は、白水の粘度の場合と同様に、温度計13で測定された温度が用いられる。Rm は濾材3の抵抗〔m-1〕を意味する。尚、スラリーの濃度sは、予め測定しておいても良く、或いはインラインで測定しても良い。
【0024】前述の通り、スラリーの供給圧力及び供給量は経時的に測定されるから、式(1)の微分方程式は演算手段12において、数値計算によって解くことができる。これによって濾過比抵抗αm が算出される。尚、本実施形態においては、スラリーの供給圧力及び供給量はΔt=0.5秒毎に測定される。
【0025】このようにして算出された濾過比抵抗αm は、濾過圧力p及びパルプの圧縮指数n(無次元数)の関数となる。即ち、濾過比抵抗αm は、濾過圧力p及びパルプの圧縮指数nを用いて以下の式(2)で表される。
【0026】
【数2】


【0027】式(2)中、α0 は定数であり、スラリーの種類によってその値が定まる。パルプを含んだスラリーの場合、α0 はパルプの種類や叩解度によらずほぼ一定の値となることが確認されている。
【0028】このようにして、算出された濾過比抵抗αm 及び濾過圧力pとの値に基づき、演算手段12において、パルプの圧縮指数nが算出される。パルプの圧縮指数nは、後述するように、例えばパルプモールド成形体や紙等の紙製品の抄造における抄造状態を監視するのに有用なパラメータとなる。尚、前述の通り、濾過圧力pはスラリーの圧力で近似される。
【0029】以上の通り、装置1を用いてパルプの圧縮指数nが算出される。更に装置1を用いると、パルプの濾水度も求められる。以下、この濾水度を求める方法について説明する。
【0030】パルプの圧縮指数と濾水度との間には、図3R>3に示す相関関係があることが本発明者らの詳細な検討によって判明した。具体的には、縦軸に圧縮指数、横軸に濾水度をとると、両者間には右下がりの直線関係が成り立つ。そこで、既知のパルプについて圧縮指数と濾水度との検量線を作成しておき、この検量線に基づき前述の方法で算出された圧縮指数の値からパルプの濾水度を求める。この操作は、圧縮指数の算出と同様に演算手段12において行われる。
【0031】以上の方法によれば、パルプの濾水度を容易に且つ短時間で測定できる。またスラリーを希釈せずにその原液の状態で測定できるので、実際の抄造状態の濾水挙動を知ることができる。従来の濾水度の測定方法/測定装置では、定圧濾過法を用いていたので、本発明の濾水度の測定に従来の装置を適用しようとすると、非常に手間の掛かるものとなり実用的でなくなる。
【0032】図4には、図1に示す装置1とは異なる実施形態の装置1’が示されている。この装置1’によっても、前述の方法と同様の方法でパルプの圧縮指数及び濾水度が測定される。
【0033】図4に示す装置1’は、図1に示す装置1と同様に、スラリー受容槽2、該受容槽2の下部に位置する濾材3、濾材3の下部に位置し、濾材を通過した白水を集める漏斗4を備えており、これらは保持台6上に載置されている。スラリー受容槽2には温度計13が取り付けられており、この温度計13によってスラリーの温度が測定される。漏斗4は、チューブ14を介して気密状態となっている貯留槽5と接続している。貯留槽5は、排気管15を介して真空ポンプ16に接続している。排気管15には圧力調整バルブ17が付設されている。貯留槽5には、圧力計9及び流量計10が取り付けられている。圧力計9、流量計10及び温度計13で測定された各データはそれぞれ電気信号に変換されて演算手段12へ送られる。
【0034】図4に示す装置1’を用いたパルプの圧縮指数及び濾水度の測定方法について説明すると、先ず真空ポンプ16を起動させ、受容槽2に貯えられているスラリーを、濾材3を通じて濾過する。濾過によって生じた白水はチューブ14を通じて貯留槽5に集められる。本実施形態においては、濾材3通過前の圧力は無視できるので、前記式(1)における濾過圧力pは、圧力計9で測定される真空ポンプ16の吸引圧力で近似される。また流量計10で測定される白水の量(体積)は、前記式(1)におけるvの算出に用いられる。更に、温度計13で測定される温度は、白水の粘度算出に用いられる。
【0035】このようにして測定された濾過圧力及び白水の量(濾液量)の値に基づき、前述した方法と同様の方法によって、パルプの圧縮指数及び濾水度が求められる。
【0036】次に、本発明の紙製品の抄造装置及び製造方法を、図5を参照しながら説明する。図5に示す抄造装置は、紙製品の一つとしてのボトル状のパルプモールド成形体の抄造に好ましく用いられる装置である。この装置100は、スラリー供給部20、抄造部30、スラリー調製部40、及び疑似抄造部50に大別される。
【0037】スラリー供給部20は、スラリー21を貯蔵し且つスラリー21の攪拌機22を備えたスラリー貯蔵タンク23、スラリー貯蔵タンク23からスラリー21を吸引し後述する金型34内にスラリー21を加圧注入する送液ポンプ24、三方弁26を備えている。スラリー貯蔵タンク23、送液ポンプ24及び三方弁26は、管路28によって、この順で直列に接続されている。
【0038】三方弁26において、管路28は、管路27と管路39とに分岐している。管路27は、第2の三方弁25を介してスラリー貯蔵タンク23へ接続されている。このように、スラリー供給部20においては、スラリー21の循環流路が形成されている。この循環流路における管路27には、温度計13及びスラリー濃度計18が取り付けられている。温度計13及びスラリー濃度計18で測定された各データは、電気信号に変換されてコンピュータからなる演算手段12に送られる。
【0039】抄造部30は、2個で一組をなし、且つ外部と内部とを連通させる複数の連通路(図示せず)がそれぞれ形成された抄紙用割型31,32を突き合わせることにより、所定形状のキャビティ33が形成される金型34、キャビティ33内に注入されたスラリーから水分を排出するドレイン35、キャビティ33内を吸引する吸引ポンプ36、及び金型34と吸引ポンプ36との間の開閉を行う開閉弁37とを備えている。スラリー供給部20からキャビティ33内へのスラリーの供給は、前述の三方弁26に接続されたキャビティ内挿入管路39を通じて行われる。
【0040】金型34は、割型31,32を突き合わせることにより、その内部にキャビティ33が形成されると共に、その上部の位置に、キャビティ33と連通し且つ外部に向けて開口したスラリー流入口38が形成される。そして、スラリー流入口38を通じて、キャビティ内挿入管路39がキャビティ33内に挿入される。キャビティ33の内面にはスラリー中のパルプを漉き取る抄造網(図示せず)が取り付けられている。
【0041】キャビティ内挿入管路39には、圧力計9及び流量計10が取り付けられており、これらによってキャビティ33内に注入されるスラリー21の圧力及び供給量が測定される。これらのデータは電気信号に変換され、前述の演算手段12へ送られる。このように、金型34に供給される直前でスラリー21の圧力及び供給量を測定することで、後述するパルプの圧縮係数及び濾水度が正確に求められ、またスラリー21の状態を含む各種抄造状態を正確に監視できる。
【0042】スラリー調製部40は、リファイナー41から構成されるパルプの調製装置及びリファイナー41とスラリー貯蔵タンク23とを接続する管路42を備えている。リファイナー41は前述の演算手段12によって制御されている。スラリー貯蔵タンク23には、スラリー21の液面レベル計(図示せず)が取り付けられており、該液面レベル計からの信号が、管路42に取り付けられている送液ポンプ(図示せず)に送られて該送液ポンプが作動することで、スラリー調製部40からスラリー貯蔵タンク23へスラリー21が供給され、スラリー貯蔵タンク23内のスラリー21の液面レベルが一定に保たれるようになっている。
【0043】疑似抄造部50は疑似金型51を備えている。疑似金型51は、抄造網(図示せず)を備えており、前述した抄造部30における金型34と同様に、スラリーからのパルプの漉き取りが可能になっている。疑似金型51は、管路52を介して第2の三方弁25に接続されている。そして、この管路52を通じて、スラリー貯蔵タンク23から疑似金型51へ、スラリー21が供給される。疑似金型51に供給される直前のスラリー21の供給圧力及び供給量は、管路52に取り付けられた圧力計53及び流量計54によって測定される。測定されたデータは電気信号に変換され、前述の演算手段12へ送られる。
【0044】前記の抄造装置100を用いたパルプモールド成形体の製造方法について説明すると、先ず送液ポンプ24を起動させ、スラリー貯蔵タンク23からスラリー21を吸い上げて、三方弁26を経由して、金型34のキャビティ33内にスラリー21を加圧注入する。その際、スラリー21の圧力及び供給量が圧力計9及び流量計10によってインラインでそれぞれ測定される。吸い上げられたスラリー21の一部は、三方弁26、管路27、第2の三方弁25及び管路52を経由して、疑似金型51へも供給される。疑似金型51へのスラリー21の供給量及び供給流量は、キャビティ33へ供給されるスラリー21の供給量及び供給流量とほぼ同じとなるように調整される。
【0045】金型34においては、スラリー21は加圧下にキャビティ33内に注入され、スラリー流入口38の上端面は封鎖され、ドレイン35は開状態となっており、且つスラリー中の水分が排出される量よりも多くのスラリーが供給されているので、キャビティ33内は所定圧力に加圧される。抄造の初期においては、キャビティ33内面の抄造網にはパルプが堆積していないので、スラリーの供給圧力は0に近いが、パルプが堆積するに従い該供給圧力は徐々に上昇する。キャビティ33内に注入されたスラリー中の水分は、キャビティ33の内面から金型34の外部に連通する連通路(図示せず)及びドレイン35を通じ、金型34の外部に排出される。この場合、上述の通り、スラリー中の水分の排出量よりもスラリーの供給量の方が多いので、キャビティ33内はスラリーで徐々に満たされる。スラリー中の水分の排出と共にキャビティ33の内面には、スラリー中に含まれるパルプ繊維が堆積することによってパルプ層(図示せず)が形成される。
【0046】使用するスラリーの濃度は、0.1〜3重量%、特に0.3〜2重量%であることが、スラリーを加圧注入したときにキャビティ内で対流し易くなり、均一な厚みでパルプ層が形成されることから好ましい。
【0047】金型34においてパルプを漉き取りながらインラインで測定されたスラリーの圧力及び供給量のデータは、演算手段12において処理される。即ち、前述した方法によって、スラリーの圧力及び供給量の値に基づき該スラリー中のパルプの濾過比抵抗がインラインで算出される。尚、算出に際して用いられる前述の式(1)における濾過圧力pは、スラリーの供給圧力で近似され、濾液量はスラリー供給量で近似される。濾過比抵抗の算出に際しては、管路27に取り付けられた温度計13及び濃度計18によって測定されたスラリーの温度及び濃度のデータも用いられる。算出された濾過比抵抗及び測定されたスラリーの供給圧力の値に基づき、パルプの圧縮指数が算出される。更に、予め作成された圧縮指数と濾水度との検量線に基づき、算出された圧縮指数の値からパルプの濾水度が求められる。
【0048】以上と同様の演算操作が、圧力計53及び流量計54で測定されたスラリーの供給圧力及び供給量の値に基づき、疑似金型51に関しても行われる。
【0049】このように抄造工程においてインラインでパルプの圧縮指数及び濾水度が求められる。従来の濾水度の測定方法では、スラリーの一部を採取して別途濾水度を測定していたので、送液ポンプによる剪断や温度等の濾水度の値に変化を及ぼす要因に影響を受けて、その正確な値を測定することが困難であった。しかし、本発明の方法ではインラインで濾水度を測定できるので、それらの要因に影響されずに濾水度を測定でき、実際の濾水挙動を正確に把握できるという利点がある。
【0050】本発明においては、抄造工程において、圧縮指数及び/又は濾水度の値が変動したか否かに基づき抄造状態を監視することができる。ここでいう抄造状態とは、例えばスラリーの状態やパルプの堆積状態をいう。
【0051】抄造状態の監視は具体的には以下の方法で行うことができる。金型34に供給されるスラリーの圧力及び供給量に基づいて求められた圧縮指数及び/又は濾水度の値と、疑似金型51に供給されるスラリーの圧力及び供給量に基づいて求められた圧縮指数及び/又は濾水度の値との双方に変動があった場合には、スラリーの状態、具体的にはパルプの濾水性が変動したと演算手段12において判断される。この判断に基づき演算手段12は、スラリーの状態を定常状態に戻す指令をリファイナー41に送る。指令を受けたリファイナー41では、パルプの叩解度を調整してスラリーの状態を定常状態に戻す操作が行われる。
【0052】一方、疑似金型51に供給されるスラリーの圧力及び供給量に基づいて求められた圧縮指数及び/又は濾水度の値には変動が観察されず、金型34に供給されるスラリーの圧力及び供給量に基づいて求められた圧縮指数及び/又は濾水度の値にのみ変動が観察された場合には、その金型34においてパルプの堆積状態に異常が発生したと演算手段12において判断される。パルプの堆積状態の異常の具体例としては、抄造網の目詰まりや偏肉が挙げられる。この判断がされた場合には、抄造を一時中止して異常を取り除く作業が行われる。
【0053】抄造が完了した後は、公知の工程、例えば本出願人の先の出願に係る特開平11−314267号公報に記載の方法に従い、パルプ層の脱水及びそれに引き続く乾燥が行われ、目的とするパルプモールド成形体が製造される。
【0054】本発明は前記実施形態に制限されない。例えば図5に示す抄造装置においては実際に抄造が行われる金型34の他に疑似金型51を用いたが、金型を2個以上備えた抄造装置では疑似金型は不要である。2個以上の金型を備えた抄造装置においては、各金型へ供給されるそれぞれのスラリーの圧力及び供給量に基づいて求められた圧縮指数及び/又は濾水度の値それぞれを監視し、すべての金型について圧縮指数及び/又は濾水度の値に変動が観察された場合にはスラリーの状態に変動が生じたと判断する。一方、ある金型のみについて圧縮指数及び/又は濾水度の値に変動が観察された場合には、その金型においてパルプの堆積状態に異常が発生したと判断する。
【0055】また、圧縮指数及び/又は濾水度の値を経時的に観察することで、異常ピークを検知して異常の発生を判断したり、1回前の抄造時の値又は正常時の値と比較して異常の発生を判断することもできる。
【0056】また前記実施形態は、三次元形状のパルプモールド成形体の製造方法を例にとったものであるが、本発明の紙製品の抄造装置及び製造方法はその他の紙製品、例えば通常の紙や板紙等の製造にも適用できる。
【0057】また前記実施形態における抄造装置及び抄造方法では、抄造に用いる金型として、一組の割型を組み合わせることによって内部にキャビティが形成されるものを用いたが、これに代えて雄型の表面にパルプが堆積されるタイプの金型や、雌型の表面にパルプが堆積されるタイプの金型を用いることもできる。
【0058】
【実施例】〔実施例1〕
<パルプの圧縮指数及び濾水度の測定>図1に示す装置を用い、前述の方法でパルプの圧縮指数及び濾水度を測定した。パルプとして脱墨模造古紙とNBKPとを7:3の重量比で含むものを用いた。JIS P 8121に従い測定されたこのパルプの濾水度は350mLであった。スラリーの濃度は0.87重量%とした。スラリーの温度は18.2℃であった。濾材として用いたネットの表面積は0.075m2 であり、配管内の体積は1700mLであった。その結果を以下の表1に示す。
【0059】
【表1】


【0060】表1において、スラリーの圧力が安定した状態(スラリー注入開始後9〜15.5秒の間、圧力0.03MPa以上)での圧縮指数の平均値は0.743であった。また、濾水度の平均値は357mLとなり、実測値とほぼ一致した。
【0061】〔実施例2〕
<抄紙状態の監視>濾材として用いたネットにテープで目張りをして、面積率で5%の疑似目詰まり状態とした。これ以外は実施例1とと同様の条件でパルプの圧縮指数及び濾水度を求めた。その結果を以下の表2に示す。
【0062】
【表2】


【0063】表2において、スラリーの圧力が安定した状態(スラリー注入開始後8.5〜16.5秒の間、圧力0.03MPa以上)での圧縮指数の平均値は0.759であり、実施例1で算出された圧縮指数の値よりも大きくなった。また、濾水度の平均値は332mLとなり、実測値から大きく低下した。これによって、圧縮指数及び/又は濾水度の変動を監視することで、抄造状態に異常が発生したか否かを判断できることが判る。
【0064】
【発明の効果】本発明によれば、スラリー中のパルプの圧縮指数や濾水度をオンラインで容易に且つ短時間で測定でき、実際の濾水挙動を正確に把握できる。また本発明によれば、抄造中における抄造状態に異常が発生したか否かを、ポンプによる剪断やスラリーの温度等の影響を受けずに容易に監視できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のパルプの圧縮指数及び濾水度の測定装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】スラリーの供給時間と圧力との関係を示すグラフである。
【図3】パルプの圧縮指数と濾水度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明のパルプの圧縮指数及び濾水度の測定装置の別の実施形態を示す模式図である。
【図5】本発明の抄造装置の一実施形態を示す模式図である。
【符号の説明】
1 測定装置
2 スラリー受容槽
3 濾材
4 漏斗
5 貯留槽
7 送液ポンプ
9 圧力計
10 流量計
12 演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】 濾材と、該濾材へスラリーを供給する手段と、該スラリーの濾過圧力の測定手段と、該スラリーの濾液量の測定手段と、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出する手段とを備え、該スラリーが前記濾過圧力を変えながら供給されるようになされているパルプの圧縮指数の測定装置。
【請求項2】 圧力を変えつつスラリーを濾材へ供給し濾過ながら、該スラリーの濾過圧力及び該スラリーの濾過量を経時的に測定し、測定された該圧力及び該濾過量の値に基づき該スラリー中のパルプの濾過比抵抗を算出し、算出された該濾過比抵抗及び前記圧力の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出するパルプの圧縮指数の測定方法。
【請求項3】 濾材と、該濾材へスラリーを供給する手段と、該スラリーの濾過圧力の測定手段と、該スラリーの濾液量の測定手段と、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出し、予め作成された圧縮指数と濾水度との検量線に基づき、算出された前記圧縮指数の値から前記スラリー中のパルプの濾水度を求める手段とを備え、該スラリーが前記濾過圧力を変えながら供給されるようになされているパルプの濾水度の測定装置。
【請求項4】 圧力を変えつつスラリーを濾材へ供給し濾過しながら、該スラリーの濾過圧力及び該スラリーの濾過量を経時的に測定し、測定された該圧力及び該濾過量の値に基づき該スラリー中のパルプの濾過比抵抗を算出し、算出された該濾過比抵抗及び前記圧力の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出し、予め作成された圧縮指数と濾水度との検量線に基づき、算出された前記圧縮指数の値から前記スラリー中のパルプの濾水度を求めるパルプの濾水度の測定方法。
【請求項5】 スラリー中のパルプを漉き取る抄造網と、該抄造網へ該スラリーを供給する手段と、該スラリーの濾過圧力の測定手段と、該スラリーの濾液量の測定手段と、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出する手段とを備え、該スラリーが前記濾過圧力を変えながら供給されるようになされている紙製品の抄造装置。
【請求項6】 圧力を変えつつスラリーを抄造網へ供給して該抄造網上へパルプを漉き取りながら、該スラリーの濾過圧力及び該スラリーの濾液量を経時的に測定し、測定された該圧力及び該濾液量の値に基づき該スラリー中のパルプの濾過比抵抗を算出し、算出された該濾過比抵抗及び前記圧力の値に基づき該スラリー中のパルプの圧縮指数を算出し、算出された該圧縮指数の値に基づき抄造状態を監視しながら抄造を行う紙製品の製造方法。
【請求項7】 予め作成された圧縮指数と濾水度との検量線に基づき、算出された前記圧縮指数の値から前記スラリー中のパルプの濾水度を求め、求められた該濾水度の値に基づき抄造状態を監視しながら抄造を行う請求項6記載の紙製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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