説明

パルプの製造方法

【課題】製紙用薬品または填料をパルプ繊維の内部に浸透、あるいは、パルプ繊維表面に定着させることで、製紙用薬品または填料のパルプに対する作用を向上させる。
【解決手段】パルプを(A)凍結し、次いで(B)解凍し、その後、(C)該パルプを減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬することにより、製紙用薬品または填料を含有するパルプを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルプの製造方法にする。具体的には、パルプを凍結し、次いで解凍し、その後、パルプを減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬させることにより、製紙用薬品または填料をパルプ繊維の内部に浸透させ、あるいは、パルプ繊維表面へ定着させる、製紙用薬品または填料を含有するパルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙に使われる薬品は、パルプの製造から抄紙までの過程において様々なものがある。チップからパルプを製造するパルプ製造工程においては、蒸解液や、蒸解を促進する助剤、漂白剤などが用いられ、次いで、調成工程においては、繊維を改質し脱水性を向上させ、また、ピッチを分解除去する酵素や、嵩高剤、サイズ剤、紙力増強剤、歩留り向上剤、漂白剤等の製紙用薬品、さらに、紙の白色度や不透明度、平滑性、印刷適性等を向上させる軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、ホワイトカーボン、二酸化チタン等の填料が添加される。
【0003】
このように、パルプの製造から抄紙に至るまでの一連の過程において様々な製紙用薬品や填料が用いられているが、該製紙用薬品や填料の効果を高めるためには、添加した製紙用薬品や填料を効率良くパルプと接触させ、パルプ繊維の内部に浸透させたり、あるいは定着させることにより、これらの薬品や填料の作用を促進し、また、歩留りを向上させる必要がある。
【0004】
特許文献1には、未漂白パルプの酵素的漂白工程に先立ち、ヘミセルロースを熱加水分解処理するか、セルロースの繊維間隙の拡張処理をするか、あるいはリグニンの有機溶剤膨潤処理をすることにより、酵素漂白を促進させる方法が記載されている。このうち、セルロース繊維間隙拡張処理としては、水分の存在下で未漂白パルプを凍結融解処理することが記載されている(特許文献1)。しかしながら、パルプを凍結・融解するのみでは、酵素を繊維内部に十分に浸透させることができなかった。
【0005】
現在のところ、製紙用薬品や填料をパルプ繊維の内部に十分に浸透させたり、定着させることができる方法は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−172888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製紙用薬品または填料をパルプ繊維の内部に浸透させ、あるいは、パルプ繊維表面に定着させることにより、製紙用薬品や填料のパルプに対する作用を高めることができるパルプの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、パルプを特定の方法で処理することにより、製紙用薬品や填料をパルプの内部に浸透させ、あるいは定着させることができることを見出した。具体的には、(A)パルプを凍結し、次いで(B)解凍し、その後、(C)該パルプを減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬することにより、製紙用薬品または填料をパルプ繊維の内部にまで十分に浸透させ、あるいは、パルプ繊維表面に定着させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、パルプを(A)凍結し、(B)解凍し、その後、(C)パルプを減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬することにより、製紙用薬品または填料をパルプ繊維の内部に浸透させ、あるいは、パルプ繊維の表面に定着させることができる。本発明により得られたパルプは、製紙用薬品または填料がパルプ繊維の内部にまで浸透しているか、あるいは、パルプ繊維表面に定着しているため、製紙用薬品や填料のパルプに対する効果をより向上させることができる。
【0010】
例えば、製紙用薬品として酵素を用いる場合であれば、酵素がパルプ繊維の内部に浸透し、あるいは、パルプ繊維表面へ定着することにより、脱水性の向上やピッチの分解除去といった酵素のパルプに対する作用を促進することができる。また、填料スラリーを用いる場合であれば、填料がパルプ繊維の内部に浸透し、あるいは、パルプ繊維表面へ定着することにより、不透明度や比散乱係数といったパルプの光学特性等を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1にて作成した手すきシートの共焦点顕微鏡写真である。
【図2】比較例1にて作成した手すきシートの共焦点顕微鏡写真である。
【図3】比較例2にて作成した手すきシートの共焦点顕微鏡写真である。
【図4】比較例3にて作成した手すきシートの共焦点顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、(A)パルプを凍結し、次いで(B)解凍し、その後、(C)該パルプを減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬することにより、製紙用薬品または填料を含有するパルプを製造する。
【0013】
(パルプ)
本発明に用いられるパルプは、製紙に使用できるパルプであればいずれでもよく、その種類は特に限定されない。パルプの例としては、化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)、サルファイトパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)等)、針葉樹の機械パルプ(砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、アルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドパルプ(CGP)等)などの木材パルプや、脱墨パルプ(DIP)を使用することができる。その他、例えば、稲わらパルプや、バガスパルプ、ケナフパルプ等の非木材パルプも使用することができる。特に、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)は、本発明による製紙用薬品または填料の浸透、定着効果が高いことから好ましい。
【0014】
本発明で使用するパルプのカナダ標準ろ水度は、特に限定されず、叩解前のろ水度が高いパルプや、叩解後のろ水度が低いパルプのいずれでも用いることができる。
(パルプの処理)
本発明の(A)凍結、(B)解凍、及び(C)減圧下での浸漬工程は、抄紙機に送る前のパルプであればいずれの段階でも行うことができ、例えば、叩解前のパルプに行ってもよいし、叩解後のパルプに行ってもよい。
【0015】
本発明における(A)パルプの凍結工程は、パルプを凍結できる温度であればいずれの温度でも行なうことができるが、−5〜−80℃で行なうことが好ましく、−5〜−20℃で行うことがより好ましい。−5℃以下程度の温度であれば、パルプを凍結させるには十分であるといえる。また、−80℃よりも低い温度とすると、その後の浸漬工程において、パルプ繊維に製紙用薬品または填料が浸透しにくくなるか、あるいは定着しにくくなる傾向がある。
【0016】
(A)凍結工程におけるパルプは、凍結させやすいように、スラリーの状態であることが好ましい。パルプスラリーの濃度は、凍結処理を行うことができる程度の濃度であればいずれでもよいが、10質量%以上程度にパルプの濃度を高めておけば凍結時の容量が小さくなり、処理しやすくなるため好ましい。より好ましくは、10〜50質量%、さらに好ましくは、30〜50質量%程度である。
【0017】
本発明における(B)パルプの解凍工程は、パルプを解凍できる温度であればいずれの温度でも行うことができるが、4〜40℃で行うことが望ましく、4〜25℃で行うことがより望ましい。40℃を超える温度で急激に解凍すると、その後の(C)浸漬工程において、製紙用薬品や填料がパルプ繊維に浸透しにくくなるか、あるいは定着しにくくなる傾向がある。
【0018】
凍結・解凍されたパルプは、次に、(C)減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬される。浸漬における条件は、適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、50kPa以下、好ましくは10kPa〜50kPaの圧力下(絶対圧)で静置することにより、製紙用薬品や填料をパルプ繊維へ浸透、定着させることができる。
【0019】
(C)減圧下での浸漬工程におけるパルプスラリーの濃度は、適宜設定することができるが、3質量%以下であれば、製紙用薬品や填料スラリーと混合し易く、製紙用薬品や填料のパルプ繊維への浸透、定着の効率を高めることができるため好ましい。より好ましくは、0.1〜3質量%程度、さらに好ましくは、0.1〜1質量%程度である。
【0020】
(製紙用薬品または填料)
本発明において製紙用薬品とは、調成工程でパルプに添加されるあらゆる薬品を指し、例えば、繊維を改質し脱水性を向上させたり、あるいはピッチを分解除去するためのセルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ等の酵素;多価アルコール、脂肪酸エステル、脂肪酸ビスアマイド等の嵩高剤;アルキルケテンダイマー、無水アルケニル琥珀酸、ロジンエマルジョン等のサイズ剤;高分子ポリアクリルアミド、澱粉等の紙力増強剤;アニオン性またはカチオン性の高分子ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等の歩留向上剤;硫酸バンド、濾水性向上剤、ベントナイト、シリカ、染料、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が挙げられる。このうち、特に製紙用薬品として酵素(特にセルラーゼ)を(C)減圧下で浸漬させた場合には、酵素がパルプ繊維の内部に浸透、あるいはパルプ繊維表面に定着することにより、酵素のパルプに対する作用が非常に高まるため、好ましい。製紙用薬品の添加量は、薬品の種類によって適宜設定すればよく、一般には、各々の薬品の通常用いられる量と同程度の量を添加すればよい。あるいは、本発明の処理により製紙用薬品のパルプに対する効果が高められているから、薬品の添加量は、通常用いられる量よりもやや少ない量であってもよい。
本発明で製紙用薬品としてセルラーゼを用いる場合、セルラーゼの種類は特に限定されず、粗製セルラーゼ、セロビオヒドラーゼ、エンドグルカナーゼ、エキソグルカナーゼなど、セルロースを分解できるものであればいずれを用いてもよい。具体的には、ノボザイム社製、商品名NS51081、NS51059、NZ476、NZ188、Celluclast 1.5L FG等を用いることができる。セルラーゼの添加量は、好ましくは絶乾パルプ質量に対して10ppm〜1000ppm、さらに好ましくは100ppm〜500ppmである。
【0021】
本発明において填料とは、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、タルク、シリカ、クレー、ホワイトカーボン、酸化チタン、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化チタン、ベントナイト等の無機物質や、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子等の有機填料等のことをいう。また、製紙スラッジや脱墨フロス等を原料とした再生填料や、炭酸カルシウム−シリカ複合物(例えば、特開2003−212539号公報あるいは特開2005−219945号公報等に記載の軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物)などの複合填料も使用可能である。本発明では、これらを、単独または適宜2種類以上を組み合わせて操業上問題ない範囲で適宜使用することができる。
【0022】
本発明で填料を用いる場合、パルプの填料スラリーへの浸漬処理は、填料を水に分散することにより得られた填料スラリーをパルプスラリーに添加するか、あるいは、粉体の填料をパルプスラリーに添加することにより行うことができる。なお、粉体の填料を添加する場合には、填料とパルプスラリーとを攪拌することにより、填料もスラリー状態となる。填料の添加量は、適宜調整することができるが、好ましくは絶乾パルプ質量に対して0.1〜100質量%、より好ましくは1〜50質量%である。
【0023】
また、上記のような薬品や填料以外にも、パルプとして脱墨パルプを用いる場合には、漂白剤や脱墨剤などの製紙用薬品をパルプに浸漬させても良い。
(製紙用薬品または填料を含有するパルプ)
本発明により得られたパルプは、製紙用薬品または填料がパルプ繊維の内部に浸透、あるいは、パルプ繊維表面に定着しているため、製紙用薬品や填料のパルプに対する効果が促進されている。したがって、製紙用薬品や填料の添加量を少なくすることができ、コストを抑えることができる。また、製紙用薬品や填料を従来と同程度の量で用いる場合には、より機能性の高い紙を製造することができる。
【0024】
(紙)
本発明により得られた製紙用薬品または填料を含有するパルプは、通常の抄紙機などを用いて、あらゆる種類の紙、例えば、これらに限定されないが、印刷用紙、新聞用紙の他、塗工紙、情報用紙、加工用紙、衛生用紙等として使用することができる。情報用紙としては、例えば、電子写真用転写紙、インクジェット記録用紙、感熱記録体、フォーム用紙等が挙げられる。加工用紙としては、例えば、剥離紙用原紙、積層板用原紙、成型用途の原紙等が挙げられる。衛生用紙としては、例えば、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル等が挙げられる。また、段ボール原紙等の板紙として使用することも可能である。
【0025】
(作用)
本発明では、パルプを凍結・解凍し、その後、パルプを減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬することにより、製紙用薬品または填料をパルプ繊維の内部に浸透させ、あるいは、パルプ繊維表面に定着させることができる。その理由は、以下のように推察される。パルプの凍結・解凍処理を行うことにより、氷結時の水の膨脹によってパルプにおけるセルロースの繊維構造がスポンジ化し、繊維を損傷することなく、繊維間隙を有効に拡張することができる。この状態のパルプを減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬することで、パルプ繊維内部の間隙と繊維外部の物質(製紙用薬品または填料)が置換され、製紙用薬品や填料をパルプ繊維の内部に浸透、あるいはパルプ繊維表面に強く定着させることができるものと考えられる。そして、製紙用薬品または填料をパルプ繊維の内部に浸透、あるいはパルプ繊維の表面に強く定着させることで、パルプ繊維と製紙用薬品または填料が接触しやすくなるため、単にパルプに製紙用薬品または填料スラリーを添加した場合よりも、該製紙用薬品または填料のパルプに対する作用を促進させることができるものと考えられる。
【0026】
本発明の方法を用いることで、従来法に比べて製紙用薬品または填料のパルプに対する作用が向上することから、製紙用薬品あるいは填料の添加量を少なくすることができ、コストを抑えることができる。また、製紙用薬品または填料を従来法と同程度の量で用いる場合には、より機能性の高い紙を製造できる。また、従来、特有な性質を有する紙を製造する際には、紙に特定の塗工層を設けることが一般的であるが、本発明の方法を応用すれば、パルプ繊維自体に特有の機能性を持たせることができる。
【実施例】
【0027】
次に実施例に基づき、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<蛍光染料を用いたパルプへの浸漬状態の観察>
[実施例1]
広葉樹由来の漂白済みパルプシート10g(絶乾)を離解(濃度2質量%)した後、パルプを脱水して濃度30質量%に調製した。この試料を−20℃にて一昼夜静置し凍結させた(凍結処理)。その後、試料を室温(20℃)に数時間放置することにより解凍した(解凍処理)。次に、試料に下記の蛍光染料を2g添加した後、充分に攪拌し、濃度1質量%となるように冷水を添加して1Lにメスアップした。試料を耐圧密閉容器に静置し、真空ポンプにより30分間減圧(50kPa)した(減圧下での浸漬処理)。この試料を用いて手すきシートを作製した。手すきシートを共焦点顕微鏡(Leica社製、商品名:TCS-SP5)により560nm付近の波長を照射して観察した。共焦点顕微鏡写真を図1に示す。
・手すきシートの作製:JIS P 8209の方法に従った。
・蛍光染料:ローダミン(化学的及び光活性的に安定であり、約560nmを超える波長を有する光により励起可能な蛍光染料化合物)
[比較例1]
凍結・解凍処理を行なわず、また、蛍光染料を常圧下で浸漬させた以外は、実施例1と同様にして手すきシートを作製した。得られたシートの共焦点顕微鏡写真を図2に示す。
【0028】
[比較例2]
蛍光染料を常圧下で浸漬させた以外は、実施例1と同様にして手すきシートを作製した。得られたシートの共焦点顕微鏡写真を図3に示す。
【0029】
[比較例3]
凍結・解凍処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして手すきシートを得た。得られたシートの共焦点顕微鏡写真を図4に示す。
【0030】
図1〜4において、色の薄い部分は、蛍光染料が浸透し、光を発している部分である。図1〜4を比較すると、実施例1のパルプ(図1)は局所的に強い光を発しており、蛍光染料がパルプ繊維の内部に十分に浸透しているか、あるいは繊維の表面に強く定着していることがわかる。一方、比較例1及び3のパルプ(図2及び4)では、ほとんど蛍光が見られず、また、比較例2のパルプ(図3)も繊維表面が全体的にうっすらと光を発する程度であるから、比較例1〜3のパルプでは、染料がパルプにほとんど浸透していないか、あるいは定着していないことがわかる。以上の通り、凍結・解凍処理後に減圧下での浸漬処理を行った場合(実施例1)には、凍結・解凍処理を行わず常圧下で浸漬させた場合(比較例1)や、凍結・解凍処理を行ったが常圧下で浸漬させた場合(比較例2)、また、凍結・解凍処理を行わずに減圧下で浸漬させた場合(比較例3)に比べて、蛍光染料がパルプ繊維の内部へ浸透、あるいは、パルプ繊維の表面に定着したことがわかる。
【0031】
<セルラーゼを用いたパルプの製造例>
[実施例2]
広葉樹由来の漂白済みパルプシート10g(絶乾)を離解(濃度2質量%)した後、パルプを脱水して濃度30質量%に調製した。この試料を−20℃にて一昼夜静置し凍結させた(凍結処理)。その後、試料を室温(20℃)に数時間放置することにより解凍した(解凍処理)。次に、パルプ絶乾10g分のパルプスラリーを採取し、1Lに調整した(濃度1質量%、カナダ標準ろ水度:530mL)。この試料に、製紙用添加剤としてセルラーゼ(ノボザイム社製、商品名:NS51081)を絶乾パルプ質量あたり500ppmとなるよう添加した。試料を耐圧密閉容器に静置し、真空ポンプにより30分間減圧(50kPa)した(減圧下での浸漬処理)。浸漬処理後のパルプを耐圧密閉容器から恒温装置へと移し、40℃で2時間酵素反応を行った。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した。結果を表1に示す。
・カナダ標準ろ水度:JIS P 8121に従って測定した。
・Δろ水度:次の式に従って、計算した
(酵素反応後のろ水度)−(酵素反応を行っていない試料のろ水度)
[実施例3]
解凍処理を5℃で行った以外は、実施例2と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表1に示す。
【0032】
[実施例4]
解凍処理を60℃で行った以外は、実施例2と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表1に示す。
【0033】
[実施例5]
凍結処理を−80℃で行った以外は、実施例3と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表1に示す。
【0034】
[実施例6]
凍結処理を−80℃で行った以外は、実施例2と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表1に示す。
【0035】
[実施例7]
凍結処理を−80℃で行った以外は、実施例4と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表1に示す。
【0036】
[比較例4]
凍結・解凍処理を行わず、また、酵素の添加も行わなず、したがって減圧下での浸漬処理を行なわなかった以外は、実施例2と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表1に示す。
【0037】
[比較例5]
酵素の添加を行わず、したがって減圧下での浸漬処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表1に示す。
【0038】
[比較例6]
凍結・解凍処理を行わなかった以外は、実施例2と同様にして紙料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表1に示す。
【0039】
[実施例8]
針葉樹由来のパルプスラリーを用いた以外は実施例2と同様にして紙料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表2に示す。
【0040】
[比較例7]
凍結・解凍処理を行わず、また、酵素の添加もしなかった以外は、実施例8と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表2に示す。
【0041】
[比較例8]
酵素の添加を行わず、したがって減圧下での浸漬処理を行わなかった以外は、実施例8と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表2に示す。
【0042】
[比較例9]
凍結・解凍処理を行わず、また、酵素を常圧下で浸漬させた以外は、実施例8と同様にして試料を得た。得られた試料のカナダ標準ろ水度を測定した結果を表2に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表1及び表2の結果より、凍結・解凍、及び減圧下での浸漬処理を行った場合(実施例2〜7、8)は、凍結・解凍処理を行わず、酵素の添加も行わなかった場合(比較例4、7)や、凍結・解凍処理をしたが、酵素を添加しなかった場合(比較例5、8)、凍結・解凍処理を行わずに酵素を減圧下で浸漬させた場合(比較例6)、また、凍結・解凍処理を行わず、酵素を常圧下で浸漬させた場合(比較例9)よりも、ろ水度の上昇幅(Δろ水度)が大きく、本発明の方法により酵素によるセルロースの分解が促進されたことがわかる。なお、パルプのろ水度を高めることにより、後の抄紙工程における脱水の効率を高めて、抄紙速度を高めることができ、紙の製造効率を高めることができる。
【0046】
また、表1及び表2の結果より、広葉樹材由来のパルプ(実施例2〜7)の方が針葉樹材由来のパルプ(実施例8)よりも、Δろ水度が大きくなる傾向が読み取れる。したがって、本発明の方法は、広葉樹材由来のパルプにセルラーゼを浸透、定着させるのに特に適していることがわかる。
【0047】
<酸化チタンを用いたパルプの製造例>
[実施例9]
填料として酸化チタン(紛体)を絶乾パルプ質量あたり50質量%となるよう添加した以外は実施例2と同様にして、凍結・解凍処理および減圧下での浸漬処理を行った。その後、試料を篩い分け機を用いて流水により洗浄した後、JIS P 8209に従って手抄きシートを作製した。得られたシートの白色度、不透明度、比散乱係数を測定した結果を表3に示す。
・坪量:JIS P 8124:1998(ISO 536:1995)に従って測定した。
・白色度:JIS P 8148に準じて測定した。
・比散乱係数:TAPPI T425om-91に準じて色差計(村上色彩製)を用いて測定した。
【0048】
[比較例10]
凍結・解凍処理を行わず、また、酸化チタンの添加も行わなず、したがって減圧下での浸漬処理を行なわなかった以外は、実施例2と同様にして試料を得た。白色度、不透明度、比散乱係数を測定した結果を表3に示す。
【0049】
[比較例11]
酸化チタンを常圧下で浸漬させた以外は、実施例2と同様にして試料を得た。白色度、不透明度、比散乱係数を測定した結果を表2に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表3に示されるように、凍結・解凍処理、および、酸化チタンの減圧下での浸漬処理を行った場合(実施例9)には、凍結・解凍処理を行わず、また、酸化チタンの添加も行なわなかった場合(比較例10)や、酸化チタンを常圧下で浸漬した場合(比較例11)と比較して、不透明度、比散乱係数の高い紙が得られた。このことから、凍結・解凍、および減圧下での浸漬処理を行うことにより、酸化チタンがパルプ繊維の内部に浸透、あるいは、パルプ繊維の表面に強く定着したことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)パルプを凍結する工程、
(B)前記(A)からのパルプを解凍する工程、及び、
(C)前記(B)からのパルプを減圧下で製紙用薬品または填料スラリーに浸漬する工程、
を含む、製紙用薬品または填料を含有するパルプの製造方法。
【請求項2】
前記(A)工程において、パルプの凍結を−5℃以下で行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記(B)工程において、パルプの解凍を4〜25℃で行うことを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記(C)工程において、パルプの製紙用薬品または填料スラリーへの浸漬を50kPa以下の減圧下で行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記製紙用薬品が、酵素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−47058(P2011−47058A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194149(P2009−194149)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】