説明

パンクシーリング剤及びパンクの修理方法

【課題】タイヤ内への注入量を低減し、保存安定性に優れ、少量でもパンク孔をシール可能なパンクシーリング剤を提供する。
【解決手段】少なくともエラストマーを内包するカプセルの集合粉体を含むパンクシーリング剤である。前記カプセルは、さらに前記エラストマーが分散された分散液を内包することがこのましく、前記エラストマーは、天然ゴム、合成ゴム、及び合成樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記カプセルのカプセル殻は、樹脂を含有することが好ましく、前記樹脂は、ウレタン樹脂であることが好ましい。前記カプセルの外径は、タイヤバルブの内径よりも小さいことが好ましく、タイヤバルブコアの内径よりも小さいことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンクシーリング剤及びパンクの修理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パンクが発生した際に、その発生箇所をシールするための補修剤であるパンクシーリング剤(以下、単に「シーリング剤」とも称する)は、一般に液状で、タイヤのバルブないしバルブコアからタイヤ内に注入されて用いられる。シーリング剤は、容器に詰められ、例えば、シーリング剤入り容器とシーリング剤をタイヤ内に押し入れるポンプアップ装置とが一体となったパンク応急修理キットとして車内に積載される。
【0003】
パンクシール機能は、主として、シーリング剤に含まれるラテックスが凝固して、ラテックス中の固形分がパンク孔やパンク穴(以下、パンク孔およびパンク穴を総称して「パンク孔等」と称することがある)を塞ぐことによるものである。よりパンク孔等の目詰まりを迅速に、かつ、確実なものとするため、短繊維を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、短繊維を含有するシーリング剤は、シーリング剤の注入時に、シーリング剤の流れに対して平行に配列する短繊維に起因して粘性が異方的に増し、流動性が低くなるため、タイヤ内への注入性が低下する問題が懸念されている。かかる問題を解決することを目的として、短繊維の代わりに、シーリング剤の流れに対して力を等方分散する中空粒子を用いて、シーリング剤の流動性低下を防止することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
シーリング剤は、低温度化によっても流動性が低下し易い。これは、主として、ラテックスが低温度化と共に粘性を増すことに起因するものである。そのため、寒冷地(例えば−40℃)においてもシーリング剤が流動的でタイヤに注入し易いように、プロピレングリコールに代表される不凍液が添加される(例えば、前記特許文献1参照)。
【0005】
一方、シーリング剤がタイヤに注入された後、パンク孔等でのラテックスの凝固が迅速に行なわれるために、ラテックスの凝固を促進させる成分である酸や有機溶媒や塩を内包するマイクロカプセルを、液体のラテックス中に分散させたシーリング剤が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2004/048493号公報
【特許文献2】特開2006−167952号公報
【特許文献3】特開2007−146007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1〜3に記載されるパンクシーリング剤は、いずれも液状である。液状のシーリング剤は、ラテックスの固形分であるラテックス粒子の分散安定性の低下や、シーリング剤の酸化劣化により劣化し易かった。
シーリング剤の酸化劣化に対しては、シーリング剤容器の酸素非透過性を高めたり、シーリング剤容器中のシーリング剤に対して窒素ガスをバブリングする等の対処がなされていたが、限界があった。
【0008】
従来の液状のシーリング剤は、タイヤ内部のパンク孔等が存在する部分以外の部分にもシーリング剤が付着することを見越して、パンク孔等を塞ぐのに必要な量以上のシーリング剤をタイヤ内に注入する必要があった。さらに、低温度環境下では、シーリング剤の粘度が上昇する傾向にあり、タイヤ内に注入されたシーリング剤が、タイヤのトレッド部全体に広がりにくかった。そのため、このような条件下でも使用可能なように、必要量以上のシーリング剤をタイヤに注入したり、余裕を持ってシーリング剤を用意しておく必要があった。
【0009】
このように、タイヤ内に相当量のシーリング剤を含むと、タイヤの重量が増し、車の操縦性を損ないやすかった。また、シーリング剤の必要量が多いことは、シーリング剤を用いたパンク応急修理キット等のコストアップや、シーリング剤容器の収納スペースを確保の必要性も求められた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、タイヤ内への注入量を低減し、保存安定性に優れ、少量でもパンク孔をシール可能なパンクシーリング剤を提供することを目的とする。また、前記パンクシーリング剤を用いることで、パンクシーリング剤を扱い易く、タイヤ内へのパンクシーリング剤の注入が容易で、パンクシールを迅速に行なうことができるパンクの修理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく鋭意検討の結果、本発明者らは、下記本発明により当該目的を達成できることを見出した。本発明の具体的手段は、次のとおりである。
【0012】
<1> 少なくともエラストマーを内包するカプセルの集合粉体を含むパンクシーリング剤である。
【0013】
<2> 前記カプセルは、さらに前記エラストマーを分散させる分散液を内包する前記<1>に記載のパンクシーリング剤である。
【0014】
<3> 前記エラストマーは、合成ゴム、天然ゴム、及び合成樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である前記<1>または前記<2>に記載のパンクシーリング剤である。
【0015】
<4> 前記カプセルのカプセル殻は、樹脂を含有する前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤である。
【0016】
<5> 前記樹脂は、ウレタン樹脂である前記<4>に記載のパンクシーリング剤である。
【0017】
<6> 前記カプセルの外径は、タイヤバルブの内径よりも小さい前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤である。
【0018】
<7> 前記カプセルの外径は、タイヤバルブコアの最小隙間よりも小さい前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤である。
【0019】
<8> 前記カプセルのカプセル殻は、気体非透過性である前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤である。
【0020】
<9> さらに滑剤を含む前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤である。
【0021】
<10> さらに、酸、水溶性有機溶媒、及び塩からなる群より選択される少なくとも1種を内包する第2のカプセルを含む前記<2>〜前記<9>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤である。
【0022】
<11> 前記<1>〜前記<10>のいずれか1つに記載のパンクシーリング剤を、タイヤ内に注入するパンクの修理方法である。
【発明の効果】
【0023】
前記<1>に記載の発明によれば、液体状としてではなく、シーリング剤も固体状のカプセルに存在させて含ませることで、シーリング剤は外気から離され、酸化劣化等の保存安定性に優れたパンクシーリング剤を提供することができる。また、パンクシーリング剤がカプセルの集合粉体であることで、−40℃等の寒冷地でも粘性が低く、不凍液が不要であることから、シーリング剤が液状である場合に比べ、タイヤ内への注入量を低減し、少量でもパンク孔をシール可能なパンクシーリング剤を提供することができる。
【0024】
前記<2>に記載の発明によれば、前記カプセルには、エラストマーとエラストマーを分散させる分散媒体との混合物であるエラストマー分散液、例えば、ラテックスが内包されることとなる。従って、ラテックスを内包するカプセルがパンク孔に入ってカプセルが割れたとき、前記パンク孔にラテックスが細部にまで滲み渡り易い。
【0025】
前記<3>に記載の発明によれば、エラストマーが、パンク孔に適用し易い柔軟性を有し、パンクシール性により優れる。
【0026】
前記<4>に記載の発明によれば、前記カプセルがタイヤ内に注入されるまでは割れにくく、タイヤ内でパンク孔に入ったときには、パンク孔の圧縮により割れ易い。
【0027】
前記<5>に記載の発明によれば、前記カプセルがタイヤ内に注入されるまでは、より割れにくく、タイヤ内でパンク孔に入ったときには、パンク孔の圧縮により、より割れ易い。
【0028】
前記<6>に記載の発明によれば、パンクシーリング剤をタイヤバルブから注入し易い。
【0029】
前記<7>に記載の発明によれば、タイヤバルブにタイヤバルブコアが装着しているままでも、パンクシーリング剤を注入し易い。
【0030】
前記<8>に記載の発明によれば、前記カプセルに内包されるエラストマー等の酸化劣化を防止することができる。
【0031】
前記<9>に記載の発明によれば、前記カプセルの集合粉体の流動性が増し、パンクシーリング剤をタイヤ内へより注入し易く、タイヤ内でのトレッド部全体にも広く行きわり易い。
【0032】
前記<10>に記載の発明によれば、エラストマーを内包するカプセルと共にシーリング剤に混在させることで、パンク孔内でカプセルが破裂した時に、前記カプセルに例えばラテックスを含む場合に、カプセルから滲み出たラテックスの凝固化を促進し、パンクシールをより迅速にすることができる。
【0033】
前記<11>に記載の発明によれば、パンクシーリング剤を扱い易く、タイヤ内へのパンクシーリング剤の注入が容易で、及びパンクシールを迅速に行なうことができるパンクの修理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係るパンクシーリング剤をタイヤに充填するために用いられるシーリング・ポンプアップ装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るパンクシーリング剤をタイヤに充填するために用いられるシーリング・ポンプアップ装置の他の例を示す概略図であり、(A)は、パンクシーリング剤の収納容器であるボトルの使用例を示す概略図であり、(B)はエアコンプレッサの使用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
<パンクシーリング剤>
パンクしたタイヤの孔をシールする本発明のパンクシーリング剤は、少なくともエラストマーを内包するカプセルの集合粉体を含むことが必要である。
シーリング剤は、タイヤ内への注入性をより向上するために、必要に応じて、滑剤等の他の成分を更に含有していてもよいが、シーリング剤の流動性を維持するために、カプセル外に液体が存在しないことが好ましい。すなわち、本発明のパンクシーリング剤は、カプセル外に液体成分を含まない固形成分のみで構成されていることが好ましい。
【0036】
本発明のパンクシーリング剤は、前記カプセルの集合粉体を用いて構成されることで、シーリング剤が液状であることに起因する温度低下に伴う増粘を、解消することができる。従って、本発明のパンクシーリング剤は、例えば、−40℃の寒冷地で用いても、例えば、常温の水の如く流動性が良く粘度が低いため、不凍液を添加する必要性がない。その結果、タイヤ内へ注入すべきシーリング剤の必要量を大きく減らすことができる。
シーリング剤が流動性に富み粘度が低いことは、シーリング剤をタイヤ内に注入したときに、タイヤ内面のトレッド部全面に、シーリング剤が広がり易いことを意味している。
【0037】
本発明のパンクシーリング剤が前記カプセルの集合粉体であることで、シーリング剤が液状である場合に比べ、シーリング剤がタイヤ内面に付着しにくくなるため、パンク孔およびパンク穴の無いタイヤ内面へのシーリング剤の付着を見越した必要量以上のシーリング剤注入を回避することができる。従って、従来に比べて、タイヤ内へのシーリング剤の注入量を減らすことができる。
【0038】
パンクしたタイヤのパンク孔およびパンク穴は、一般に、車の走行により路面や車体から受ける振動により、収縮と膨張を繰り返す。従って、本発明のパンクシーリング剤がパンク孔やパンク穴に到達すると、カプセルがパンク孔やパンク穴の壁面によって圧縮され、カプセルが破裂する。カプセルが破裂することにより、カプセル内に内包されたエラストマーが露出し、パンク孔およびパンク穴は、該エラストマーによって塞がれる。
このように、本発明のシーリング剤は、釘等が貫通して発生したパンク孔を塞ぐほか、貫通まではしなくともタイヤ内面が損傷して発生したパンク穴も塞いで、更なる損傷を防ぐことができる。以下、パンク孔のシールについて特に説明するが、いずれも、パンク穴のシールについてもあてはまる。
【0039】
タイヤのパンク孔を塞ぎ、パンクをシールする成分の1つである前記エラストマーは、本発明において、カプセルに内包されるため、前記エラストマーの酸化劣化を抑制することができる。
パンクシーリング剤は、一般に、容器に詰められ、例えば、パンク応急修理キットとして車内に積載される。従来、エラストマーの酸化劣化等によりパンクシーリング剤の使用期限が切れた場合には、シーリング剤自体の交換をすることが困難であり、シーリング剤容器ごと交換する必要があった。これは、シーリング剤が、シーリング剤容器内の壁面にまとわりつき、容器内を水洗した場合にも、ラテックス固形分等が該壁面にこびりつく等して、シーリング剤が容器から完全には排出できなかったためである。
【0040】
本発明に係るパンクシーリング剤は、液状のシーリング剤に比べ、シーリング剤容器の内部壁面に付着し難いことから、シーリング剤容器中のシーリング剤を取り出し易く、シーリング剤のみを交換することができる。
以下、本発明のパンクシーリング剤が含有し得る各成分について説明する。
【0041】
〔カプセル〕
本発明のパンクシーリング剤は、少なくともエラストマーを内包するカプセルの集合粉体を含有する。
前記カプセルの構造は、より具体的には、少なくともエラストマーを含有する成分によって構成されるコア部と、前記コア部を被覆するシェル部とを有するコアシェル構造である。以下、適宜、前記シェル部を「カプセル殻」と称し、カプセルに内包されるコア部の成分を「コア成分」と称する。
【0042】
−カプセル殻−
カプセル殻は、カプセルがタイヤ内のパンク孔に入るまでは割れにくく、パンク孔に入ってパンク孔壁面によって圧縮されたときにカプセルが割れる強度を有することが好ましい。
パンクシーリング剤は、トランク等の高温になり易い車内に積載されることが多い。また、走行中にパンクしたタイヤは、車体からの熱やタイヤと路面との摩擦熱により、熱を持っているため、タイヤ内へ注入されたシーリング剤のカプセルが、少なくともパンク孔に到達するまでは溶融しないことが好ましい。そのような観点から、カプセル殻成分の融点は80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。カプセルがパンク孔に入り圧縮されたときに、カプセルが圧縮に応じて変形してカプセルが割れにくくなることを防止し、カプセルが割れて内包されたエラストマーが露出し易くなる。
【0043】
カプセルが内包するエラストマーの酸化劣化を防止するため、前記カプセル殻は、気体透過性が低い材料であることが好ましい。ここで、「気体透過性が低い材料」とは、酸素透過度(25℃、1mm厚)が200ml/m・day・atm(1973.8ml/m・day・MPa)未満であることをいう。酸素透過度は、40ml/m・day・atm(394.8ml/m・day・MPa)未満であることが好ましい。なお、「酸素透過度」は、「ガスバリア付与技術、p.48より、東レリサーチセンター著」に詳しい。
さらに、カプセルがエラストマー以外に液体成分を内包する場合には、前記カプセル殻は、液体透過性が低いことが好ましい。
【0044】
カプセル殻の成分としては、ポリアミド、ポリウレア、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、(メタ)アクリル酸系ポリマー、ポリビニルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アラビアゴム、アルギン酸、ゼラチン、セルロース等の有機化合物、塩化カルシウム、炭酸カルシウム等の無機化合物、アルミニウム、チタン等の金属を用いることができる。これらのカプセル殻成分は、2種以上を併用してもよく、アルギン酸及び塩化カルシウムのように、材質の異なる有機化合物と無機化合物とを併用してもよい。
【0045】
カプセル殻の強度、気体非透過性、および液体非透過性の観点から、カプセル殻は、ポリアミド、ポリウレア、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、(メタ)アクリル酸系ポリマー、ポリビニルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アラビアゴム、ゼラチン、セルロース等の高分子化合物を含有することが好ましく、ポリアミド、ポリウレア、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、(メタ)アクリル酸系ポリマー、ポリビニルアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の樹脂を含有することがより好ましく、特に、ウレタン樹脂を含有することが好ましい。
【0046】
また、カプセル殻かパンク孔内で割れ易くいこと、気体非透過性、および液体非透過性の観点から、カプセル殻の膜厚は、1μm以上であることが好ましく、例えば、ウレタン樹脂を用いる場合には、5μm〜50μmであることが好ましい。
次に、カプセルの形状及び大きさについて説明する。
【0047】
カプセルの形状は特に限定されず、球状、円筒状、ラグビーボール状、卵状、金平糖状、多角形、不定形いずれでもよいが、シーリング剤の流動性の観点から、カプセル同士の摩擦が小さくなる形状であること好ましい。従って、球状、円筒状、ラグビーボール状、卵状等の角の無い丸びを帯びた形状であることが好ましく、球状であることがより好ましい。
【0048】
カプセルの外径は、タイヤバルブの内径(直径)よりも小さいことが好ましい。タイヤバルブの内径は一般に3mm程度であるため、カプセル外径の最小長さは、2,000μm以下であることが好ましく、1,000μm以下であることがより好ましい。更に、カプセル外径の最大長さが、2,000μm以下であることが好ましく、1,000μm以下であることがより好ましい。
【0049】
タイヤバルブコアを取り外さずにシーリング剤を注入できれば、より便宜であることから、カプセルの外径は、タイヤバルブコアの最小隙間よりも小さいことが好ましい。このような観点からは、カプセル外径の最小長さが、500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。また、カプセル外径の最大長さが、500μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましい。
【0050】
カプセルの外径は、その最大長さが、さらに1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。カプセルの外径が1μm以上であると、エラストマー等のパンクシール成分を内包するカプセルを工業上製造し易い。また、カプセルの外径が1μm以上であることで、カプセルの集合粉体中に占めるカプセルコア成分(エラストマー等)の割合を、カプセル殻の割合より多くすることができ、タイヤ内に注入すべきシーリング剤の量を抑えることができる。
【0051】
本発明において、カプセルは球状であって、カプセルの外径が上記範囲である場合がより好ましい。なお、カプセルの外径は、電子顕微鏡の写真観察、ビデオマイクロスコープ等により測定することができる。
【0052】
〔エラストマー〕
前記カプセルには、コア成分として少なくともエラストマーが内包される。
前記エラストマーはパンク孔を塞ぐパンクシール成分として機能する。エラストマーの種類は特に制限されないが、パンク孔壁の圧縮に対応する柔軟性と、パンク孔の充分なシール性とを有することが好ましい。かかる柔軟性とシール性の観点から、パンク孔中で固体化したときの固体物のガラス転移温度(Tg)が、−30℃以下となるエラストマーであることが好ましく、−40℃以下であることがより好ましく、−45℃以下であることが更に好ましい。「パンク孔中で固体化したときの固体物」の構成物は、エラストマーのみならず、カプセル殻、滑剤を含むときは滑剤、粘着剤、タイヤがパンクしたときに生じたタイヤ材料の小片等を含み得る。
【0053】
前記パンク孔中で固体化したときの該固体物のガラス転移温度(Tg)が−30℃以下となるエラストマーは、例えば、合成ゴム、天然ゴム(NR)、合成樹脂等が挙げられる。
【0054】
前記合成ゴムとしては、例えば、ブチルゴム(IIR)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、MBR(メチルメタクリレートブタジエンゴム)、BR(ポリブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、IR(イソプレンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、フッ素ゴム、シリコンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、カルボキシ変性NBR、カルボキシ変性SBR、ビニルピリジン、及び多硫化ゴム等が挙げられる。
【0055】
前記合成樹脂としては、スチレン・ブタジエン樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂等のビニル系樹脂、ポリアクリルエステル等のエステル系樹脂、ポリアミド等のアミド系樹脂、ポリウレタン等のウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、及びフッ素系樹脂等が挙げられる。
【0056】
エラストマーは、2種以上を併用してもよい。また、合成ゴムと合成樹脂との組み合わせのように材質の異なるエラストマーを併用してもよい。
【0057】
コア成分としてのエラストマーは、上記の中でも、合成ゴムが好ましく、特に、SBR、NBR、およびBRが好ましい。
【0058】
(エラストマー分散液)
カプセルは、前記エラストマーが分散された分散液(エラストマー分散液)を内包することが好ましい。
カプセルが、前記エラストマーと、エラストマーを分散させる液状の分散媒体とを内包し、コア成分が分散液となることで、カプセルがパンク孔で割れてコア成分がパンク孔内に露出したとき、パンク孔の細部にまで、分散液を行き渡らすことができる。
【0059】
エラストマーの分散媒体としては、水や、エタノール等の水溶性有機溶媒を用いることができ、2種以上の分散媒体を混合して用いてもよい。エラストマー分散液は、エラストマーの分散剤として、公知の界面活性剤(好ましくは、非イオン系界面活性剤)を用いてもよい。
エラストマー分散液は、天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックス、合成樹脂ラテックスを用いてもよい。
【0060】
ラテックス固形分の含有量は、カプセルコア成分の全質量に対して、5質量%〜40質量%とすることが好ましく、8質量%〜35質量%とすることがより好ましく、10質量%〜30質量%とすることがさらに好ましい。
なお、カプセルがエラストマーを、エラストマー分散液としてではなく、固体としてエラストマーを含むとき、エラストマーの含有量は、カプセルコア成分の全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。
【0061】
エラストマー分散液は、エラストマー、エラストマーの分散媒、及び、必要に応じて他のコア成分を、公知の方法で混合等して製造することができる。また、コア成分の製造、保管、充填は、酸化劣化等を避けるため、好ましくは窒素又は希ガスの雰囲気で行われる。
【0062】
−他のコア成分−
カプセルは、前記エラストマー及びその分散媒に加えて、他の成分を内包してもよい。例えば、エラストマーがパンク孔壁に密着し易いように粘着剤を内包したり、低温環境下での柔軟性を付与するために、オイル成分や可塑剤を内包することができる。さらに、パンクシール性能を向上するために、カーボンブラック(CB)、タルク、及び短繊維を内包することができる。
エラストマー及びエラストマーの分散媒以外の他のコア成分は、エラストマー(エラストマーの分散媒を用いるときは、エラストマー及びエラストマーの分散媒)を内包するカプセルとは異なる他のカプセルに、別途内包して用いてもよい。このとき、当該他のカプセルの構造、形状、大きさ(外径)、カプセル殻の成分は、前記エラストマーを内包するカプセルの態様と同じであり、好ましい範囲も同様である。
【0063】
(粘着剤)
粘着剤は、主としてエラストマーのタイヤへの密着力を向上させるものである。従って、粘着剤は、前記カプセル中に内包されるエラストマーより粘着性の高い軟性化合物であることが好ましい。
前記粘着剤は、本発明の効果を損なうものでなければ特に制限されず、例えば、樹脂系粘着剤を好適に用いることができる。
【0064】
前記樹脂系粘着剤としては、例えば、天然樹脂、変性ロジン及び変性ロジンの誘導体、テルペン系樹脂及びテルペン変性体、脂肪族系炭化水素樹脂、シクロペンタジエン樹脂;芳香族系石油樹脂、フェノール系樹脂、アルキルフェノールアセチレン系樹脂、スチレン系樹脂、キシレン系樹脂、クマロン・インデン樹脂、及びビニルトルエン−αメチルスチレン共重合体を挙げることができる。
【0065】
前記天然樹脂としては、ロジン、ダンマル等が挙げられる。
前記変性ロジン及び変性ロジンの誘導体としては、重合ロジン(例えば、ロジン酸エステル樹脂等)、部分水添ロジン等が挙げられる。
前記テルペン系樹脂及びテルペン変性体としては、ピネン、α−ピネンフェノール樹脂、ジペンテンフェノール樹脂、テルペンビスフェノール樹脂等のテルペンフェノール樹脂、またはこれらを水素添化したものなどが挙げられる。
前記脂肪族系炭化水素樹脂としては、オレフィン、オレフィン重合体等が挙げられる。
【0066】
また、アクリル系粘着剤、水溶性粘着剤等を用いることもできる。
【0067】
中でも、エラストマーとタイヤとの密着性に優れ、エラストマー分散液(特に、ラテックス)を凝固しにくいとの観点から、テルペンフェノール樹脂またはロジン酸エステル樹脂を用いることが好ましい。
【0068】
粘着剤の含有量は、カプセルコア成分中、1質量%〜15質量%であることが好ましく、2質量%〜12質量%であることがより好ましく、3質量%〜9質量%であることがさらに好ましい。1質量%〜15質量%とすることで、実用的で良好なシール性を発揮することができる。
【0069】
粘着剤は、エラストマーをエラストマー分散液(例えば、ラテックス)として用いるときのエラストマー分散液との混和性やパンクシール性の向上を考慮して、粘着剤エマルジョンとして用いることが好ましく、前記エラストマー分散液に適合するものを使用することが好ましい。当該粘着剤エマルジョンは、乳化剤として公知の界面活性剤(好ましくは、非イオン系界面活性剤)を使用し、樹脂成分にロジン酸エステル樹脂、テルペンフェノール樹脂等のテルペン樹脂、又はポリイソブチレン等のブチルゴム系材料を使用することができる。
ここで、粘着剤エマルジョンがエラストマー分散液に「適合」するということは、粘着剤エマルジョンがエラストマー分散液を少しも凝固させるものではないことを意味し、粘着剤エマルジョンが、エラストマーのタイヤへの接着力を向上するものとして用いられることを示す。
【0070】
粘着剤を粘着剤エマルジョンとして用いるとき、コア成分中の粘着剤エマルジョンの含有量は、コア成分の全質量に対して、1質量%〜30質量%であることが好ましく、2質量%〜25質量%であることがより好ましく、5質量%〜20質量%であることがさらに好ましい。1質量%〜30質量%とすることで、実用的で良好なシール性を発揮することができる。
【0071】
(短繊維)
前記カプセルは、前記粘着剤に代えて、または、さらに追加して短繊維を含有してもよい。短繊維は、パンクによりタイヤに発生した穴や孔(欠陥部)に入り込んで目詰まりを生じさせて、これらの穴や孔を迅速、かつ確実に塞ぐ役割を果たす。
短繊維の含有量は、コア成分の全質量に対して、0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.3質量%〜4質量%とすることがより好ましく、0.5質量%〜3質量%とすることがさらに好ましい。上記範囲であれば、短繊維を添加したことによるシール性を十分に発揮することができる。
短繊維は、WO2004/048493号公報の第7〜9ページに記載されるものを好適に用いることができる。
【0072】
(フィラー)
また迅速にシールしかつ大きな孔でも確実にシールできるように、カプセルには1種又はそれ以上のフィラーを混合してもよい。フィラーは、コア成分中に、好ましくは約20g/リットル〜200g/リットル、より好ましくは60g/リットル〜100g/リットル加えられ、あるいはタイヤのリム組においてタイヤ内部に配される。
フィラーは、WO2004/048493号公報の第10〜11ページに記載されるものを好適に用いることができる。
【0073】
(コア成分の固形分)
本発明のパンクシーリング剤において、エラストマーを内包するカプセルが、エラストマーの分散媒等の液体を含む場合は、該カプセル内のコア成分中の固体成分(以下、「固形分」ということがある)の含有量は、コア成分の全質量に対して、5質量%〜70質量%であることが好ましい。
【0074】
「固形分の含有量」は、以下のようにして求めることができる。まず、エラストマーを内包するカプセル内のコア成分10gを4時間、140℃の状態で放置する。放置後の残留分の質量を測定し、当該残留分の質量を前記コア成分の質量で除する(残留分の質量/放置前の前記コア成分の質量)ことで求めることができる。
【0075】
固形分の含有量がコア成分の全質量に対して、5質量%以上あれば十分なシール性を確保することが可能となる。また、70質量%以下であればシール性以外の特性を十分に確保することができる。
上記範囲内での固形分含有量のより好ましい上限は60質量%であり、さらに好ましくは50質量%であり、特に好ましくは40質量%である。また、上記範囲内で固形分の含有量のより好ましい下限は8質量%である。
【0076】
〔滑剤〕
本発明のパンクシーリング剤は、さらに滑剤を含むことが好ましい。
前記滑剤は、カプセルの集合粉体がより流動性を有し、シーリング剤をタイヤ内により注入し易くする機能を有し、カプセル殻を損ねにくい(カプセル殻を損傷したり、カプセル殻を溶かして孔を開けたりしない)性質のものが好ましい。
【0077】
具体的には、例えば、シリカ、酸化チタン等の無機粉末や、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、セレシンワックス、シリコーンワックス等のワックスが挙げられる。
滑剤は、カプセルの集合粉体の全質量に対して、1質量%〜10質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0078】
滑剤は、次のようにしてカプセル表面に付着して用いることが好ましい。滑剤として無機粉末を用いる場合は、カプセルの集合粉体と無機粉末とを混合し攪拌することで、滑剤をカプセル表面に付着することができる。ワックスを用いる場合には、カプセルの集合粉体にワックスを塗布した後、充分に乾燥することで、滑剤をカプセル表面に付着することができる。
上記の中でも、カプセル同士のべたつきが少なく、製造上の便宜から無機粉体を用いることが好ましい。
【0079】
〔第2のカプセル〕
カプセルがエラストマー分散液(例えば、ラテックス)を内包する場合には、本発明のパンクシーリング剤は、さらに、酸、水溶性有機溶媒、及び塩からなる群より選択される少なくとも1種を内包する第2のカプセルを含むことが好ましい。
以下「酸、水溶性有機溶媒、及び塩からなる群より選択される少なくとも1種」を「第2のカプセルのコア成分」と称する。
【0080】
エラストマー分散液の1種であるラテックスは、ラテックス粒子のまわりを取り囲んでいる乳化剤の負の電荷同士の反発力により安定している。そして、この反発力よりも大きな力を与えると、粒子同士が接着することになり、ラテックスが凝固する。酸、水溶性有機溶媒、及び塩は、乳化剤の負の電荷同士の反発力を弱める機能を有するため、前記
第2のカプセルを含むことで、カプセルがパンク孔内で割れ、エラストマー分散液が露出したときに、エラストマー分散液の凝固を促進することができる。
【0081】
第2のカプセルに内包する酸としては、酢酸、ギ酸などの有機酸;塩酸、硝酸、硫酸、炭酸、シュウ酸などの無機酸;を用いることができる。
【0082】
第2のカプセルに内包する水溶性有機溶媒としては、メタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、アセトン、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等の水溶性の有機溶媒を用いることができる。
【0083】
第2のカプセルに内包する塩としては、食塩(塩化ナトリウム)、塩化カリウム等の塩酸塩;重曹、炭酸ナトリウム等の炭酸塩;硫酸塩;硝酸塩;等の無機物の塩を挙げることができる。また、酢酸塩、ギ酸塩、ヘキシルアミン塩等の有機物の塩を用いることもできる。
【0084】
第2のカプセルの構造、形状、大きさ(外形)、カプセル殻の成分は、エラストマーを内包するカプセル(以下、「第1のカプセル」と称する)と同じであり、好ましい範囲も同様である。
第2のカプセルのコア成分の量は、エラストマー分散液の凝固を充分に行なう観点から、第1のカプセルのコア成分であるエラストマー分散液の全質量に対して、0.1質量%〜10質量%であることが好ましく、0.5質量%〜7.5質量%であることがより好ましく、1質量%〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0085】
−カプセルの製造方法−
第1のカプセル、第2のカプセル、及び、粘着剤や短繊維等を第1のカプセルとは異なる他のカプセルに内包する場合の該他のカプセルを含む前記各カプセルの製造は、マイクロカプセルの製造方法として公知の方法により行なうことができる。例えば、コア成分を含む疎水性有機溶媒と水との界面で重(縮)合反応させる界面重(縮)合法、コア成分の内または外側からカプセル殻成分の樹脂のモノマーを供給し、界面上で重合反応させるin situ重合法、同心二重ノズルの先端からコア成分とカプセル殻成分とを同時に固液中に滴下させて液滴形成と硬化を同時に行なう液中硬化法(オリフィス法)等が挙げられる。
【0086】
例えば、界面重縮合法によりカプセルを作製する場合には、次のようにして作製することができる。
既述のコア成分を、ヘキサン、酢酸エチル等の有機溶剤に溶解し、分散相を調製する。カプセル殻としてウレタン樹脂を用いる場合には、重縮合によりウレタン樹脂を生成可能なモノマー(例えば、イソシアネート基を有するモノマー)を、前記分散相に相溶性のない水等の液体(さらに塩化ナトリウム等の無機塩を含有していてもよい)に溶解し、水相を調製する。
前記分散相と、前記水相とを混合し、前記水相を連続相とした混合液を調製し、次いでアルコールを該分散液に添加することで、分散相−水相界面でイソシアネート基を有するモノマーの重縮合反応が開始され、ウレタン樹脂をカプセル殻とするカプセルが作製される。作製したカプセルは、混合液をろ過することで回収することができる。
【0087】
〔パンクの修理方法〕
本発明のパンクの修理方法は、本発明のパンクシーリング剤を、タイヤ内に注入することにより行なう。
具体的には、まず、パンクシーリング剤が充填された容器を、タイヤのバルブ口と接続して適量を注入する。その後、パンクシーリング剤がタイヤ内面に広がりパンク孔をシールできるようにタイヤを回転させればよい。パンクシーリング剤のタイヤ内への注入は、ロートを使用して、手動で注入してもよいし、後述のポンプアップ装置を用いて注入してもよい。本発明のパンクシーリング剤はカプセルの集合粉体を用いて構成されているので、いずれの注入方法でも、扱い易く、注入し易い。また、タイヤを回転させた後は、すみやかにパンクがシールされる。
【0088】
このようなパンクシーリング剤そのものは、種々のポンプアップ装置、例えば燃料ガスとしてプロパン・ブタン混合ガスを含むスプレー缶を用いてタイヤの内部に導入されてタイヤを再膨張させ得るが、図1に示されるポンプアップ装置20によってより好ましく使用できる。
【0089】
図1に示されるポンプアップ装置20では、前記圧力源として小型のエアコンプレッサ1を用いている。このエアコンプレッサ1は、ホース2を介して耐圧容器4のガス導入部3に接続されている。前記ガス導入部3は、栓バルブ5で閉止できかつ耐圧容器4に収納されたパンクシーリング剤6の液面上までのびるライザーチューブとして形成されている。
【0090】
また、耐圧容器4は、パンクシーリング剤6を取出すための出口バルブ7を有し、この出口バルブ7にホース8の一端が接続されるとともに、該ホース8の他端には、タイヤバルブ10にねじ止めされるねじアダプタ9が取付けられている。
【0091】
耐圧容器4は、フィリングスタブ12を有し、かつ水が充填されたジャケット11を具える。必要に応じて加熱源としての塩化カルシウムが前記フィリングスタブ12内に充填されうる。パンクシーリング剤6が低温で凍結すると、この加熱源の水和作用で解放される熱によって、利用できる温度にパンクシーリング剤6が加熱される。
前記エアコンプレッサ1には、電気ケーブル13が接続され、そのプラグ14は、例えば、シガレットライターに差込まれる。
【0092】
タイヤにパンクが発生すると、前記ねじアダプタ9がタイヤバルブ10にねじ止めされ、かつエアコンプレッサ1がシガレットライターに接続されるとともに、耐圧容器4のガス導入部3において前記栓バルブ5が開かれる。そしてエアコンプレッサ1から耐圧容器4内にガス導入部3をへて導入される圧縮空気が、出口バルブ7からパンクシーリング剤6を押出し、タイヤバルブ10をへてタイヤの内部に導入させる。然る後、空気がタイヤの内部に再充填され、タイヤを特定の内圧で膨張させる。これが終わると、ねじアダプタ9をタイヤバルブ10から取外し、エアコンプレッサ1を止める。この直後に、一定距離に亘って予備走行し、タイヤ内部にパンクシーリング剤6を散布しつつパンク孔をシールした後、ポンプアップ装置20が再び接続されてタイヤを要求される内圧まで再度、ポンプアップする。
【0093】
また、本発明のパンクシーリング剤は、図2(A)、(B)に示されるポンプアップ装置によってもより好ましく使用できる。なお、図2(A)、(B)に示されるポンプアップ装置において、図1に示されるポンプアップ装置20と共通の部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0094】
このポンプアップ装置は、図2(A)に示されるパンクシーリング剤6の収納容器である樹脂製のボトル22と、図2(B)に示される圧力源としてのエアコンプレッサ1とを備えている。ボトル22は、1回のパンク修理に必要なパンクシーリング剤6を収容している。ボトル22には、先端部にアダプタ26が配置されたホース24が接続されている。またエアコンプレッサ1に接続されたホース2にも、その先端部にアダプタ9が配置されている。但し、ボトル22のホース24については、タイヤバルブ10に直接接続可能なものであるならばアダプタ26を省略してもよい。
【0095】
パンク発生時に、ボトル22のアダプタ26がタイヤバルブ10にねじ止めされる。これにより、ボトル22は、ホース24及びアダプタ26を通してタイヤ内に連通する。この状態で、作業者は、図2(A)で2点鎖線(想像線)により示されるように、ボトル22を握り潰してパンクシーリング剤6をボトル22内から搾り出すことにより、ホース24を通してパンクシーリング剤6をタイヤ内へ注入する。
【0096】
ボトル22内からタイヤ内へのパンクシーリング剤6の注入が完了すると、作業者は、アダプタ26をタイヤバルブ10から取り外してボトル22をタイヤから切り離す。
【0097】
次いで、作業者は、エアコンプレッサ1のアダプタ9をタイヤバルブ10にねじ止めし、アダプタ9及びホース2を通してエアコンプレッサ1をタイヤ内に連通させる。この状態で、作業者は、エアコンプレッサ1を作動させて加圧空気をタイヤ内へ再充填し、タイヤを特定の内圧で膨張させる。これが終わると、作業者は、アダプタ9をタイヤバルブ10から取外し、エアコンプレッサ1を止める。この直後に、一定距離に亘って予備走行し、タイヤ内部にパンクシーリング剤6を散布しつつパンク孔をシールした後、作業者は、ポンプアップ装置のエアコンプレッサ1を再び接続してタイヤを要求される内圧まで再度、ポンプアップする。
【0098】
本発明のパンクシーリング剤は、種々の空気入りタイヤのパンク修理に適用することができる。例えば、自動車用タイヤ、二輪車用タイヤ、一輪車用タイヤ、車いす用タイヤ、農地作業や庭園作業に使用する車両用タイヤ等が挙げられる。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、パンクシーリング剤の製造に用いた各成分の数量の単位は、特に断りのない限り、いずれも質量基準である。
【0100】
〔実施例1〕
下記組成のコア成分をウレタン樹脂のカプセルに内包したカプセルを、界面重縮合反応により作製した。
【0101】
−第1のカプセルのコア成分組成−
・エラストマー〔SBR〕 70%
・粘着剤〔ロジン酸エステル〕 30%
【0102】
具体的には、上記コア成分(SBRとロジン酸エステル)を混合し、分散相1を調製した。また、イソシアネート基を有するモノマーの水溶液を水相1とした。得られた分散相1を水相1に加えた。その後、さらにアルコールを添加することにより、界面重縮合反応を開始させることにより、ウレタン樹脂をカプセル殻としたカプセルを得、これを実施例1のパンクシーリング剤とした。
【0103】
得られたカプセルについて、キーエンス社製、ビデオマイクロスコープでカプセル殻の膜厚を測定したところ、10μm〜40μmであった。また、カプセルは球状であり、その外径は、80μm〜180μmであった。
【0104】
〔実施例2〕
実施例1のパンクシーリング剤の製造において、第1のカプセルのコア成分を、下記コア成分に代えた他は同様にして、実施例2のパンクシーリング剤を製造した。
カプセルは球状であり、その外径は120μm〜240μmであった。また、カプセル殻の膜厚は、20μm〜60μmであった。
【0105】
−第1のカプセルのコア成分組成−
・エラストマー分散液〔SBRラテックス(固形分:12%)〕 29%
・粘着剤〔ロジン酸エステルエマルジョン(固形分: 3%)〕 6%
・水 35%
・プロピレングリコール 30%
なお、SBRラテックス及びロジン酸エステルエマルジョンの固形分量は、第1のカプセルのコア成分全質量に対する割合である。
【0106】
〔実施例3〕
第1のカプセルは、実施例2と同様の方法でウレタン樹脂殻を有する第1のカプセルを作製した。次に、実施例2の第1のカプセルの製造において、コア成分を酢酸に代えたほかは同様にして、第2のカプセルを製造した。
第2のカプセルは球状であり、その外径は60μm〜120μmであった。また、カプセル殻の膜厚は、10μm〜40μmであった。
【0107】
上記で得られた第1のカプセルと第2のカプセルとを、7:3(第1のカプセル量:第2のカプセル量〔質量基準〕)で混合すると共に、更に、滑剤として粒径6μmのシリカ粒子を添加した。シリカ粒子は、第1のカプセル及び第2のカプセルの総質量に対して、5%となるように添加した。
【0108】
〔比較例1〕
下記成分を混合して、比較例1のパンクシーリング剤を製造した。
・SBRラテックス(固形分:7質量%) 17%
・不凍液(プロピレングリコール) 45%
・粘着剤(ロジン酸エステルエマルジョン、固形分:3%) 6%
・水 32%
【0109】
<評価>
1.保存安定性(熱的安定性)
得られたパンクシーリング剤を密閉容器に入れ、80℃のオーブンに4時間保管した。その後、マイナス20℃環境下で、1つのタイヤのタイヤトレッド溝部に直径3mmの釘を踏み抜いて穴をあけたタイヤ内に、パンクシーリング剤を注入した。さらに、1.3kgf/cm2(12.74×10−4Pa)の空気圧を維持しながら、約50km/hで車を走行させ、10km以上走行したときのマイナス20℃でのパンクシール性の優劣により、保存安定性を評価した。評価結果を表1に示す。
評価基準は下記のとおりである。
○:10km未満で完全にパンクをシールした
×:10km以上走行してもシールできなかった
【0110】
2.シーリング剤必要量
タイヤサイズ205/55R16のタイヤを用い、マイナス20℃環境下で、1つのタイヤのタイヤトレッド溝部に、直径3mmの釘を踏み抜いて穴をあけたパンクシーリング剤を注入した。その後、1.3kgf/cm2(12.74×10−4Pa)の空気圧を維持しながら、約50km/hで車を走行させた。
シーリング剤必要量の評価は、比較例のパンクシーリング剤を使用した際に要した必要最小質量を100としたとき、実施例1〜実施例3のパンクシーリング剤を使用した際に要した必要最小質量がどれほどとなるかを指数化することより行なった。評価結果を表1に示す。
【0111】
3.パンクシール性
1つのタイヤのタイヤトレッド溝部に、直径3mmの釘を踏み抜いて穴をあけたパンクシーリング剤を注入した。その後、1.3kgf/cm2(12.74×10−4Pa)の空気圧を維持しながら、マイナス20℃環境下で約50km/hで車を走行させた。
パンクシール性の評価は、比較例のパンクシーリング剤を使用した際に要した必要最小走行距離を100としたとき、実施例1〜実施例3のパンクシーリング剤を使用した際に要した必要最小走行距離がどれほどとなるかを指数化することにより行なった。評価結果を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
表1の結果より、本発明のパンクシーリング剤は、従来の液体シーリング剤である比較例のパンクシーリング剤と同等のパンクシール性を有しつつ、比較例のパンクシーリング剤に比べ、タイヤ内への注入性および保存安定性に優れ、必要量も大きく減らすことができた。
【符号の説明】
【0114】
3 ガス導入部
4 耐圧容器
6 シーリング剤
7 出口バルブ
20 ポンプアップ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエラストマーを内包するカプセルの集合粉体を含むパンクシーリング剤。
【請求項2】
前記カプセルは、前記エラストマーが分散された分散液を内包する請求項1に記載のパンクシーリング剤。
【請求項3】
前記エラストマーは、合成ゴム、天然ゴム、及び合成樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または請求項2に記載のパンクシーリング剤。
【請求項4】
前記カプセルのカプセル殻は、樹脂を含有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。
【請求項5】
前記樹脂は、ウレタン樹脂である請求項4に記載のパンクシーリング剤。
【請求項6】
前記カプセルの外径は、タイヤバルブの内径よりも小さい請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。
【請求項7】
前記カプセルの外径は、タイヤバルブコアの最小隙間よりも小さい請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。
【請求項8】
前記カプセルのカプセル殻は、気体非透過性である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。
【請求項9】
さらに、滑剤を含む請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。
【請求項10】
さらに、酸、水溶性有機溶媒、及び塩からなる群より選択される少なくとも1種を内包する第2のカプセルを含む請求項2〜請求項9のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載のパンクシーリング剤を、タイヤ内に注入するパンクの修理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−32321(P2011−32321A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177725(P2009−177725)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】