説明

パンデミック対応型換気システム

【課題】医療従事者への空気感染を防御することができるパンデミック対応型換気システムを提供する。
【解決手段】室内2に給気するファン12を用いて室内2を換気する換気システム100であって、ファン12の下流側に設けたHEPAフィルタ14と、HEPAフィルタ14の下流側の室内2の医療従事者Mと感染被疑者Sとの間にエアカーテンCを形成するエアカーテン形成手段24とを備えるようにする。HEPAフィルタ14の下流側に、さらにイオン発生素子を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室内用の換気システムに関し、特に、新型インフルエンザなどの空気感染が疑われる疾病のパンデミック(汎発流行)に対応可能なパンデミック対応型換気システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、室内空間をエアカーテンで分断することにより細菌やウイルス等の侵入を阻止し、清浄度の向上した空間を創出する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4326227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、2009年に世界的に流行した新型インフルエンザは空気感染するおそれがあるとも言われており、パンデミック(汎発流行)に発展する可能性が指摘されている。このような空気感染が疑われる疾病は、公的病院のみならず民間病院でも外来診察を受け付けることがあるが、病院の医療従事者は、感染被疑者と直接対面して診察等の医療行為を行うため、感染被疑者から空気を介して感染するおそれがある。このため、医療従事者への空気感染を防御することができる室内換気システムの開発が急務となっていた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、医療従事者への空気感染を防御することができるパンデミック対応型換気システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るパンデミック対応型換気システムは、室内に給気するファンを用いて前記室内を換気する換気システムであって、前記ファンの下流側に設けたHEPAフィルタと、前記HEPAフィルタの下流側の前記室内の所定領域にエアカーテンを形成するエアカーテン形成手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に係るパンデミック対応型換気システムは、上述した請求項1において、前記HEPAフィルタの下流側に、イオン発生素子を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に係るパンデミック対応型換気システムは、上述した請求項1または2において、前記ファンからの給気流を、前記HEPAフィルタを通過しないで前記室内に導く空気通路を設け、前記エアカーテン形成手段は、この空気通路からの給気流により前記室内の所定領域にエアカーテンを形成するものであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4に係るパンデミック対応型換気システムは、上述した請求項3において、前記空気通路に、イオン発生素子を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5に係るパンデミック対応型換気システムは、上述した請求項4において、前記空気通路に、イオンの室内拡散を防止するための導流手段を設けたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項6に係るパンデミック対応型換気システムは、上述した請求項2〜5のいずれか一つにおいて、前記室内にイオン量測定手段を設け、前記イオン量測定手段による測定値に基づいて前記室内への給気風量と前記イオン発生素子に対する印加電圧の少なくとも一方を制御する制御手段を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項7に係るパンデミック対応型換気システムは、上述した請求項1〜6のいずれか一つにおいて、前記ファンおよび前記HEPAフィルタは、天井に設けられ、前記エアカーテン形成手段は、前記HEPAフィルタ直下の室内の医療従事者用の空間と、前記HEPAフィルタの斜め下の感染被疑者用の空間とを空間的に分断するエアカーテンを形成するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、室内に給気するファンを用いて前記室内を換気する換気システムであって、前記ファンの下流側に設けたHEPAフィルタと、前記HEPAフィルタの下流側の前記室内の所定領域にエアカーテンを形成するエアカーテン形成手段とを備えるので、室内空間の清浄化を図ることができると同時に、エアカーテンで感染被疑者と医療被疑者との間を空間的に遮断することにより医療従事者への空気感染を防御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係るパンデミック対応型換気システムの実施例1を示す図である。
【図2】図2は、図1のA−A線に沿った図である。
【図3】図3は、図1のB部分の詳細図である。
【図4】図4は、本発明に係るパンデミック対応型換気システムの吹き出し面を示す図である。
【図5】図5は、本発明に係るパンデミック対応型換気システムの実施例2を示す図である。
【図6】図6は、空間イオン濃度を比較した図である。
【図7】図7は、イオン発生素子の配置の一例を示す図である。
【図8】図8は、本発明に係るパンデミック対応型換気システムの実施例3を示す図である。
【図9】図9は、実施例3によるイオン吹き出しの一例を示す図である。
【図10】図10は、本発明に係るパンデミック対応型換気システムの実施例4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るパンデミック対応型換気システムの実施の形態(実施例1〜4)を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
[実施例1]
まず、実施例1について説明する。
図1および図2に示すように、本発明の実施例1に係るパンデミック対応型換気システム100は、病院の診療室内2の天井に設けたファンフィルタユニット10(FFU)からなる換気システムである。室内2には、空気感染型の疾病に感染している疑いがある感染被疑者Sと、この感染被疑者Sと対面して診察等を行う医療従事者Mとが滞在している。
【0017】
FFU10は、ファン12と、ファン12の下流側に設けたHEPAフィルタ14と、エアカーテン形成手段24、26と、多数の吹き出し口16を有するパンチングパネル18と、還気口22を有する還気通路20とを備える。エアカーテン形成手段24、26は、HEPAフィルタ14直下の医療従事者Mと、HEPAフィルタ14の斜め下の感染被疑者Sとの間を空間的に分断するエアカーテンCを形成するためのものである。
【0018】
エアカーテン形成手段は、図3の詳細図および図4の吹き出し面に示すように、給気口26と、導流板24とからなる。給気口26は、パンチングパネル18の外周側に配置してあり、斜め下方に向けて開口し、HEPAフィルタ14を通過した気流を室内へ斜め下方に吹き出すためのものである。
【0019】
導流板24は、パンチングパネル18の外周に設けた還気口22と給気口26の境界に、鉛直から角度θだけ傾斜した態様で設けてある。この導流板24は、給気口26から吹き出した気流を、パンチングパネル18の直下方向に対して斜め外方に偏向させるとともに、還気口22に入り込む還気流を案内するためのものである。
【0020】
上記の構成において、室内2の空気はファン12の回転によって還気口22から還気通路20に入り込む。この空気はファン12でHEPAフィルタ14に送られて清浄化され、この清浄空気は吹き出し口16から室内2の医療従事者Mが居る領域Rに給気され、領域Rは清浄化される。
【0021】
一方、給気口26からもHEPAフィルタ14による清浄化された空気が吹き出される。この気流は、導流板24で案内され、医療従事者Mと感染被疑者Sとの間にエアカーテンCを形成する。このエアカーテンCにより、感染被疑者Sからの飛沫を防御するバリアを構築でき、非感染者である医療従事者Mを空気感染から防ぐことができる。また、HEPAフィルタ14により室内2の清浄度を上げてウイルスの除去を行うことができる。
【0022】
なお、上記の実施の形態において、低騒音仕様のFFUを用いてもよい。この場合、例えば、ファンサイズを16インチ程度にし、ファンモータをDCモータとし、FFU内部にグラスウール等の防音材を設け、モータの回転を低回転として、発生騒音を低く抑える。このようにしても、室内の医療従事者Mと感染被疑者Sとの間に生じる風速を約0.3〜0.4m/sに維持しつつ、FFUからの騒音を50dB(A)程度に抑制することができる。
【0023】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。
図5に示すように、本発明の実施例2に係るパンデミック対応型換気システム200は、上記の実施例1の構成において、HEPAフィルタ14の下流側に、プラズマクラスターイオン発生素子などのイオン発生素子28を設け、HEPAフィルタ14を通過した空気の除菌を行うものである。このイオン発生素子28は、プラスイオン発生素子28aと、マイナスイオン発生素子28bとからなる。
【0024】
ところで、プラズマクラスターイオン等の空気イオンは、主に直径1〜10μm以下のガラス繊維等で構成されているHEPAフィルタ14を通過することはできない。したがって、図6に示すように、イオン発生素子28をHEPAフィルタ14の上流側に設置すると室内空間にイオンを供給することはできない。反対に、イオン発生素子28をHEPAフィルタ14の下流側に設置すると、空気中の微粒子がHEPAフィルタ14に捕集され、微粒子によるイオンの吸着がなく、室内空間へのイオン供給を増加させることができる。
【0025】
なお、イオン発生素子28は、プラスおよびマイナスイオンが同時発生するものではなく、プラスイオンのみを発生する素子とマイナスイオンのみを発生する素子とを併用した方が室内空間のイオン量を多くすることができる。この場合、イオン発生素子どうしは少なくとも5cm以上離して設置した方がよい。
【0026】
また、イオン発生素子28の配置態様は、例えば、図7に示すように、パンチングパネル18の下面側に、プラスイオン発生素子28aとマイナスイオン発生素子28bとを千鳥格子状に配置した態様とすることができる。
【0027】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。
図8に示すように、本発明の実施例3に係るパンデミック対応型換気システム300は、上記の実施例1の構成において、ファン12からの給気流をHEPAフィルタ14を通過しないで室内2に導く給気通路30(空気通路)を設け、この給気通路30内にイオン発生素子28を設けたものである。こうすることで、HEPAフィルタ14を通過させずにイオンを発生させ、この空気を室内2に給気する。なお、給気通路30からの給気流にでエアカーテンCを形成する。
【0028】
給気通路30の吹き出し口の下方に形成されるエアカーテンCの形態としては、複数の方式が考えられる。例えば、図9(a)に示すように、プラスイオン(+)とマイナスイオン(−)を同じ吹き出し口から混在状態で室内に供給する方式が考えられる。
【0029】
また、図9(b)に示すように、イオンの室内拡散を防止するためのフィン(導流手段)32等を給気通路30に設けて給気通路30内部を2つの通路に分割し、例えば、外周側をイオンなしの気流で、内周側をイオンありの気流とする。この際、外周側の風速は数mから十数m(強風)で、内周側はそれより少ない風速が望ましい。
【0030】
また、図9(c)に示すように、給気通路30内部をフィン32等で2つの通路に分割するだけでなく、3つ以上の複数の通路に分割することもできる。その際に、吹き出すイオンの態様としては、プラスイオンとマイナスイオンを別々の通路から吹き出す場合と、同じ通路内を混在した状態で吹き出す場合が考えられる。
【0031】
[実施例4]
次に、実施例4について説明する。
図10に示すように、本発明の実施例4に係るパンデミック対応型換気システム400は、上記の実施例2の構成において、室内2に少なくとも一つのイオンカウンタ34(イオン量測定手段)を設けるとともに、制御手段36を設けたものである。
【0032】
制御手段36は、イオンカウンタ34による測定値に基づいてFFU10からの室内2への給気風量とイオン発生素子28に対する印加電圧の少なくとも一方を制御することで、イオンカウンタ34によるイオン発生量の制御を行うものである。
【0033】
イオン発生素子28からのイオン発生量は、印加する電圧等に依存しており、イオンの移動度(移動距離)は、風速等に依存している。また、空気中のイオン濃度(イオン量)は、空気中の微粒子、湿度(水分粒子)等に依存している。
【0034】
常時一定量のイオンを空気中に維持させるため、イオンカウンタ34は、イオンを必要とする部位(範囲)内に設置し、イオン量を常時モニタリングするようにする。モニタリングされたイオン量の増減によって、イオン発生素子28への印加電圧を増減制御したり、ファン12の回転数を増減制御すること等で室内2への吹き出し風速を増減する。また、予備のイオン発生素子を新たに設け、この予備のイオン発生素子を発停する制御を行うことで、室内2の所定領域のイオン量を一定に保つようにしてもよい。
【0035】
イオンカウンタ34は、平行平板式イオン密度測定器や同軸二重円筒式イオン密度測定器等、イオンを測定できる装置を用いることができる。また、印加電圧の制御は数kVから数十kVの範囲で、風速の制御は数mから数十mの範囲が望ましい。制御手段36による印加電圧の制御と風速の制御は、いずれか一方を単独で制御してもよいし、両方を同時に制御してもよい。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、室内に給気するファンを用いて前記室内を換気する換気システムであって、前記ファンの下流側に設けたHEPAフィルタと、前記HEPAフィルタの下流側の前記室内の所定領域にエアカーテンを形成するエアカーテン形成手段とを備えるので、室内空間の清浄化を図ることができると同時に、エアカーテンで感染被疑者と医療被疑者との間を空間的に遮断することにより医療従事者への空気感染を防御することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明に係るパンデミック対応型換気システムは、病院の発熱外来用の診察室や救急診察室等の換気システムに有用であり、特に、医療従事者が感染被疑者に対して診察等の医療行為を行う場合に、感染被疑者から医療従事者への空気感染を防ぐのに適している。
【符号の説明】
【0038】
2 室内
10 FFU(ファンフィルタユニット)
12 ファン
14 HEPAフィルタ
16 吹き出し口
18 パンチングパネル
20 還気通路
22 還気口
24 導流板(エアカーテン形成手段)
26 給気口(エアカーテン形成手段)
28 イオン発生素子
28a プラスイオン発生素子
28b マイナスイオン発生素子
30 給気通路(空気通路)
32 フィン(導流手段)
34 イオンカウンタ(イオン量測定手段)
36 制御手段
M 医療従事者
S 感染被疑者
C エアカーテン
R 清浄化領域
100 パンデミック対応型換気システム(実施例1)
200 パンデミック対応型換気システム(実施例2)
300 パンデミック対応型換気システム(実施例3)
400 パンデミック対応型換気システム(実施例4)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内に給気するファンを用いて前記室内を換気する換気システムであって、
前記ファンの下流側に設けたHEPAフィルタと、
前記HEPAフィルタの下流側の前記室内の所定領域にエアカーテンを形成するエアカーテン形成手段とを備えることを特徴とするパンデミック対応型換気システム。
【請求項2】
前記HEPAフィルタの下流側に、イオン発生素子を設けたことを特徴とする請求項1に記載のパンデミック対応型換気システム。
【請求項3】
前記ファンからの給気流を、前記HEPAフィルタを通過しないで前記室内に導く空気通路を設け、前記エアカーテン形成手段は、この空気通路からの給気流により前記室内の所定領域にエアカーテンを形成するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のパンデミック対応型換気システム。
【請求項4】
前記空気通路に、イオン発生素子を設けたことを特徴とする請求項3に記載のパンデミック対応型換気システム。
【請求項5】
前記空気通路に、イオンの室内拡散を防止するための導流手段を設けたことを特徴とする請求項4に記載のパンデミック対応型換気システム。
【請求項6】
前記室内にイオン量測定手段を設け、前記イオン量測定手段による測定値に基づいて前記室内への給気風量と前記イオン発生素子に対する印加電圧の少なくとも一方を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一つに記載のパンデミック対応型換気システム。
【請求項7】
前記ファンおよび前記HEPAフィルタは、天井に設けられ、
前記エアカーテン形成手段は、前記HEPAフィルタ直下の室内の医療従事者用の空間と、前記HEPAフィルタの斜め下の感染被疑者用の空間とを空間的に分断するエアカーテンを形成するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のパンデミック対応型換気システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−257011(P2011−257011A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128989(P2010−128989)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】