説明

パン類の製造方法

【課題】 耐熱性があり、且つジューシーな食感を有するフィリングを内包したパン類を提供すること。即ち、本発明は焼成時に内包されたフィリングがパン生地から流れて漏れ出ず、そのため非常にジューシーな食感を有し、且つ外観を損なわないパン類及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 水分含量が50〜100重量%の液状食品をスポンジ状の食品に吸収させたフィリングを内包させてパン類を製造すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
フィリングを内包したパン類において内包されたフィリングがジューシーな食感を有するパン類及びパン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィリングを内包したパン類は多く存在するものの、充分にジューシーな食感のフィリングを内包したパン類は見当たらない。パン類以外の食品ではウイスキーボンボンなどが挙げられる。
【0003】
またこれまで、パン生地にジューシーなフィリングを内包し焼成すると、耐熱性が無く、フィリングが流れ出たりして外観を損なうという欠点があった。また、流れ出ないように耐熱性を付与するとジューシーな食感に仕上がらないという欠点があった。また、みずみずしいフィリングとしてホイップクリームと小団塊状ゲル状物質とが混在したフィリングがあるが(特許文献1)、ジューシー感は得られるものの、耐熱性は満足できるものではなかった。更に、キトサンを含有するフルーツソースなどがあるが(特許文献2)、耐熱性は満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平5−236878号公報
【特許文献2】特開平1−304855号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐熱性があり、且つジューシーな食感を有するフィリングを内包したパン類を提供すること。即ち、本発明は焼成時に内包されたフィリングがパン生地から流れて漏れ出ず、そのため非常にジューシーな食感を有し、且つ外観を損なわないパン類及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、内包するフィリングに油分を含まない液状食品を吸収させたスポンジ状食品を内包することにより、、課題であったジューシーな食感を有するフィリングを内包したパン類を製造できるという知見を得て本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明の第一は、フィリングを内包したパン類において、フィリングがスポンジ状の食品に水分含量が50〜100重量%の液状食品を吸収させたものであることを特徴とするパン類の製造方法に関する。本発明の第二は、水分含量が50〜100重量%の液状食品を吸収させたスポンジ状の食品をフィリングとして内包したパン類に関する。
【発明の効果】
【0007】
焼成時に内包されたフィリングがパン生地から流れて漏れ出ず、そのため非常にジューシーな食感を有し、且つ外観を損なわないパン類、即ち耐熱性があり、且つジューシーな食感を有するフィリングを内包したパン類及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のフィリングを内包したパン類とは、フィリングをパン生地の間に挟んだり、詰めたり、凹みに入れた後、焼成したものである。
【0009】
本発明のスポンジ状の食品とは、穀粉を用いた液状の物質を吸収できる食品であれば特に限定はないが、例えばカステラ、シフォン、バターケーキ、パウンドケーキ、フルーツケーキ、蒸しケーキ等のケーキスポンジやケーキクラム、食パン、フランスパン、菓子パン、クロワッサン、デニッシュ、イーストドーナツ、ケーキドーナツ等のパンクラム、クッキー、ビスケット等が挙げられる。
【0010】
本発明の水分含量が50〜100重量%の液状食品は、液状食品全体中50〜100重量%の水分含量であり、且つ常温又は加熱後に液状の食品であれば特に限定はなく、例えば、水、牛乳、ジュース、果汁、樹液、茶類、液卵、酒類などの常温で液状の食品、氷、アイスクリーム、ジャム、コンフィチュールなど、加熱後に液状の食品が挙げられる。好ましい水分含量は、液状食品全体中80〜100重量%、より好ましくは90〜100重量%である。上記水分含量であれば、本発明の効果を奏する。加熱後に液状の食品は、30℃以上に加熱することが好ましく、全体が液状にならなくても、一部が液状に変化するものでも良い。好ましくは、油分が液状食品全体中0〜20重量%である。また該液状食品をスポンジ状の食品に吸収させるタイミングは、パン生地に包む前でもいいし、パン生地に包む際に同時に内包させてもよいが、あらかじめスポンジ状の食品に吸収させておくと作業性が良いため好ましい。スポンジ状の食品に吸収させる液状食品の量は、スポンジ状の食品全体中15〜75重量%が好ましい。15重量%より少ないとジューシーな食感がでない場合があり、75重量%より多いと生地から流れて漏れ出る場合がある。
【0011】
本発明におけるフィリングを内包するパン類の配合、捏捏方法ついて特に限定はない。配合については例えば、食パン生地配合、フランスパン生地配合、イギリスパン生地配合、ライ麦パン生地配合、バターロール生地配合、ブリオッシュ生地配合、デニッシュペストリー生地配合、パイ生地配合、スイートロール生地配合、イーストドーナツ生地配合、デニッシュドーナツ生地配合、コーヒーケーキ生地配合、パネトーネ生地配合、ケーキドーナツ生地配合、クイックブレッド生地配合、イングリッシュマフィン生地配合、天然酵母パン生地配合、サワー種生地配合、中華まん生地配合などが挙げられる。また混捏方法については例えば、ストレート法、中種法では50%中種法、70%中種法、100%中種法、ノータイム法、液種法、サワー種法、水種法、再捏法、冷凍生地法、冷蔵生地法、湯種法などが挙げられる。なお、フィリングのパンに対する重量は、パン100重量部に対しフィリング20重量部〜200重量部が好ましい。20重量部より少ないとジューシーな食感を有するパン類が得られない場合があり、200重量部より多いとパンの食感が損なわれる場合がある。
【0012】
本発明のフィリングを内包したパン類の製造例を以下に例示する。まずスポンジ状の食品は、一般的な製法により作製する。そのスポンジ状食品を所望の形状にカッティングした後、所定量の液状食品を入れた容器内に入れて、油脂類を吸収するまで適当な時間浸しておく。その際、液状食品によっては、液体状態を維持するために加熱しながら浸しておく。その後、液状食品を吸収したスポンジ状食品を、一般的な製法により作製したパン生地で包み、焼成することで本発明のフィリングを内包したパン類を得ることができる。
【実施例】
【0013】
以下に本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら事例に限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0014】
<ケーキスポンジの作製>
表1の配合に従い、次のようにケーキスポンジを作製した。まず、表1の配合をミキサーボールに入れホイッパーを用いて比重0.45までホイップさせる。次に6号デコ缶適当なケースに入れ170℃のオーブンで35分間焼成し、ケーキスポンジを得た。得られたケーキスポンジは、各実施例で使用した。
【0015】
【表1】

【0016】
<パン生地の作製>
表2の配合に従い、次のようにパン生地を作製した。表2の配合をミキサーにて混捏する。混捏後、30℃にて30分間醗酵してパン生地を得た。得られたパン生地は、各実施例・比較例で使用した。
【0017】
【表2】

【0018】
<パンの作業性評価>
実施例・比較例を実施する際に作業性の良さについて評価した。その際の評価基準については以下の通りである。◎:非常に作業しやすい、○:作業しやすい、△:作業しにくい、×:なんとか作業ができる。
【0019】
<パンの食感評価>
実施例・比較例で得られたフィリング入りのパンを、食感という観点で熟練のパネラー10人により、5点満点で官能評価を行った。その際の評価基準については以下の通りであり、10人のパネラーの平均点を評価値とした。5:非常にジューシー、4:ややジューシー、3:ややジューシー、2:ややパサつく、1:パサつくの5段階で評価し、その平均点を評価の点数とした。
【0020】
<パンの外観評価>
実施例・比較例で得られたフィリング入りのパンの外観を、目視で評価した。その際の評価基準については以下の通りである。○:フィリングがパン生地の外に全く流れ出していない、△:フィリングがパン生地の外に少し流れ出している、×:フィリングがパン生地の外にかなり流れ出している。
【0021】
<作業性評価>
実施例・比較例において、フィリングを内包するときの作業性を評価した。その際の評価基準については以下の通りである。◎:かなり扱いやすい、○:液状食品を含むが良い、△:フィリングの粘度が高くないのであまり良くない、×:フィリングの粘度が低いので悪い。
【0022】
(実施例1)
ケーキスポンジ10gをオレンジジュース2gに浸して吸収させた後、50gのパン生地に内包後、35℃にて60分間醗酵を取り、200℃のオーブンにて12分間焼成して、フィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0023】
【表3】

【0024】
(実施例2)
オレンジジュースの量を5gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0025】
(実施例3)
オレンジジュースの量を10gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0026】
(実施例4)
オレンジジュースの量を20gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0027】
(実施例5)
オレンジジュースの量を30gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0028】
(実施例6)
ケーキスポンジの量を3gに、オレンジジュースの量を4.5gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0029】
(実施例7)
ケーキスポンジ10gを食パン(商品名:デコレーションスポンジ台、(株)サンラヴィアン社製)10gに、オレンジジュースの量を20gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0030】
(実施例8)
ケーキスポンジ10gをカステラ(商品名:カステラ、文明堂社製)10gに、オレンジジュース2gを溶かしたアイスクリーム20gに変えた以外は、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0031】
(比較例1)
ケーキスポンジを用いず、オレンジジュース10gを直接50gのパン生地に内包後、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0032】
(比較例2)
ケーキスポンジ及びオレンジジュースを用いず、カステラ(商品名:カステラ、文明堂社製)10gを50gのパン生地に内包後、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0033】
(比較例3)
ケーキスポンジ及びオレンジジュースを用いず、食パン(商品名:サンロイヤル、山崎製パン社製)10gを50gのパン生地に内包後、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0034】
(比較例4)
ケーキスポンジ及びオレンジジュースを用いず、アイスクリーム10gを50gのパン生地に内包後、実施例1と同様にしてフィリング入りのパンを得た。フィリングを内包する際の作業性と、得られたパンの食感及び外観を評価し、その結果を表3にまとめた。
【0035】
実施例1〜8は非常にジューシーな食感であり、かつ焼成時にフィリングが流れ出なく外観を損なうことはなかった。比較例1、4はジューシーな食感はやや残るもの、フィリングが流れ出し、外観を損なった。比較例2〜3は外観は損なわなかったもののジューシー感はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィリングを内包したパン類において、フィリングがスポンジ状の食品に水分含量が50〜100重量%の液状食品を吸収させたものであることを特徴とするパン類の製造方法。
【請求項2】
水分含量が50〜100重量%の液状食品を吸収させたスポンジ状の食品をフィリングとして内包したパン類。