説明

パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法

【課題】耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、耐候性、離型性、撥水性、撥油性等に優れたパーフルオロポリエーテルゲル硬化物において、これらの特性を損なうことなく、更に、該パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法を提供する。
【解決手段】組成物の主剤(ベースポリマー)である2個以上のアルケニル基を含有する直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物(A)と、分子中に1個のアルケニル基を含有する直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物(B)との混合物の合計100質量部に対し、可塑剤として作用する無官能性の直鎖状ポリフルオロ化合物(E)の配合量を5質量部以上20質量部未満という特定の範囲内に制御したパーフルオロポリエーテルゲル組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐溶剤性、低温特性、耐湿性、低気体透過性等に優れるパーフルオロポリエーテルゲル硬化物において、更に、該パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物、1分子中にH−SiOSiO構造を少なくとも2個以上有する有機ケイ素化合物及びヒドロシリル化反応触媒からなる組成物から、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、撥水性、撥油性、耐候性等の性質がバランスよく優れた硬化物を得ることができることが提案されている(特許第2990646号公報:特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、このようなパーフルオロポリエーテル組成物は、殆どの用途においては、これで十分な性能を有しているものの、耐薬品性を要求される半導体製造装置用シール剤等の材料、エンジンオイル用に使用されるシール剤及びポッティング材、エンジンの排気系部品に使用されるシール剤及びポッティング材等の用途では、更に耐酸性が必要とされる場合がある。それ故、耐油性、耐薬品性、特に耐酸性に優れるパーフルオロポリエーテルゲル組成物の出現が強く望まれていた。
なお、本発明に関連する従来技術として、上述した文献と共に下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2990646号公報
【特許文献2】特開2000−248166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、耐候性、離型性、撥水性、撥油性等に優れたパーフルオロポリエーテルゲル硬化物において、これらの特性を損なうことなく、更に、該パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特に、耐溶剤性を維持しつつ、耐酸性にも優れたゲル硬化物を与えるパーフルオロポリエーテルゲル組成物を提供するには、パーフルオロポリエーテルゲル組成物の主剤(ベースポリマー)である2個以上のアルケニル基を含有する直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物(A)と、分子中に1個のアルケニル基を含有する直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物(B)との混合物の合計100質量部に対し、可塑剤として作用する無官能性の直鎖状ポリフルオロ化合物(E)の配合量を5質量部以上20質量部未満という特定の範囲内に制御することによって、パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、耐候性、離型性、撥水性、撥油性等の特性を損なうことなく、更に耐酸性を顕著に向上させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法を提供する。
〔請求項1〕
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中に−Ca2aO−(式中、aは1〜6の整数である。)単位の繰り返しを含んでなるパーフルオロポリエーテル構造を有する、重量平均分子量が10,000〜100,000である直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物 100質量部、
(B)1分子中に1個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する、直鎖状ポリフルオロモノアルケニル化合物 1〜300質量部、
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する下記(C−1)及び/又は(C−2)から選ばれる有機ケイ素化合物
(C−1)1分子中に少なくとも1個のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基を有する環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(C−2)1分子中に少なくとも1個のパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、又は1価もしくは2価のパーフルオロポリエーテル基を有し、ケイ素原子に結合した水素原子が全てH−Si(CH2xSi−(式中、xは1〜3の整数である。)構造を構成する有機ケイ素化合物
(A)成分及び(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して(C)成分中の
ケイ素原子に結合した水素原子が0.1〜5モルとなる量、
(D)ヒドロシリル化反応触媒 触媒量、
(E)主鎖中に−Ca2aO−(式中、aは1〜6の整数である。)単位の繰り返しを含んでなるパーフルオロポリエーテル構造を有し、かつ、分子中にアルケニル基を含有しない無官能性のパーフルオロポリエーテル化合物
を含有する硬化性パーフルオロポリエーテルゲル組成物を加熱硬化してなるパーフルオロポリエーテルゲル硬化物において、(E)成分の配合量を(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して5質量部以上20質量部未満に制御することを特徴とする、パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
〔請求項2〕
(A)成分の主鎖中に−Ca2aO−(式中、aは上記と同じ。)単位の繰り返しを含んでなるパーフルオロポリエーテル構造が、−(Ca2aO)z−[ただし、zは50〜600の整数である。]で表されるものである請求項1に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
〔請求項3〕
(A)成分が、下記一般式(1)
【化1】


[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化2】


(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
で示される基であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y’−(但し、Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化3】


(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。pは独立に0又は1、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜600の整数であり、更にmとnの和が50〜600の整数である。]
で表される直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物である請求項2に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
〔請求項4〕
(B)成分が、下記一般式(2)
Rf2−(X’)p−CH=CH2 (2)
[式中、X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y’−(但し、Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化4】


(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。pは独立に0又は1であり、Rf2は下記一般式
F−[CF(CF3)CF2O]w−CF(CF3)−
(式中、wは1〜500の整数である。)]
で表される直鎖状ポリフルオロモノアルケニル化合物である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
〔請求項5〕
(C−1)成分が、下記一般式(3)
【化5】


(式中、Rf3はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基であり、R3は独立に炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、R4は炭素数2〜20の2価の有機基である。kは2以上の整数であり、lは1〜6の整数である。)
で示される請求項1乃至4のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
〔請求項6〕
(C−2)成分が、下記一般式(4)
【化6】


[式中、Mは下記一般式(i)及び/又は(ii)
【化7】


(式中、R6は同一又は異種の炭素数1〜20の1価炭化水素基である。Q’は炭素数1〜15の2価の有機基である。Rf4はパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基である。xは1〜3の整数である。)
で表される基で、且つ1分子中に上記式(i)で表される基が少なくとも2個存在する。R5は同一又は異種の炭素数1〜20の1価炭化水素基である。tは1,2又は3、uは0,1,2又は3で、t+uは2〜6の整数である。i及びjは0又は1であるが、iとjは同時に0とはならない。i,jのいずれか一方が0、他方が1の場合、Zは水素原子、−Q’−M’、又は−Q’−Rf4である〔但し、M’は下記一般式(iii)
【化8】


(式中、R6、xは上記と同じである。)
で表される基であり、Q’、Rf4は上記と同じである。〕。また、i,jがいずれも1の場合、Zは−Q’−、−Rf’−、又は−Q’−Rf’−Q’−である(但し、Q’は上記と同じである。Rf’はパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基である。)。なお、1分子中にRf4及び/又はRf’が少なくとも1個存在する。]
で示される請求項1乃至5のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
〔請求項7〕
パーフルオロポリエーテルゲル硬化物が、40℃/500時間における濃硫酸(98質量%)に対する固形物残存率が60質量%以上であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
〔請求項8〕
パーフルオロポリエーテルゲル硬化物が、自動車用、化学プラント用、インクジェットプリンタ用、半導体製造ライン用、分析・理化学機器用、医療機器用、航空機用又は燃料電池用のゲル製品である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐溶剤性、低温特性、耐湿性、低気体透過性等の諸特性を損なうことなく、更に耐酸性を顕著に向上させることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法は、後述する(A)〜(E)成分を含有する硬化性パーフルオロポリエーテルゲル組成物において、(E)成分の配合量を特定の範囲内に制御することを特徴とする。
【0010】
[(A)成分]
本発明の(A)成分は、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造、好ましくは2価のパーフルオロアルキルエーテル構造を有する、重量平均分子量が10,000〜100,000、好ましくは20,000〜50,000程度の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物であって、後述する(B)成分と共に本発明のゲル組成物の主剤(ベースポリマー)を構成するものである。
本発明において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析(溶媒:含フッ素有機溶剤AK225(旭硝子(株)製))による分子量分布測定におけるポリスチレン換算値として求めることができる(以下、同じ)。
【0011】
ここで、パーフルオロアルキルエーテル構造としては、−Ca2aO−(式中、aは1〜6の整数である。)単位の多数の繰り返しを含んでなるもので、例えば下記一般式(5)で示されるものなどが挙げられる。
−(Ca2aO)z− (5)
(式中、aは上記と同じ。zは50〜600の整数、好ましくは50〜400の整数、より好ましくは50〜200の整数である。)
【0012】
上記式(5)で示される繰り返し単位−Ca2aO−としては、例えば下記の単位等が挙げられる。なお、上記パーフルオロアルキルエーテル構造は、これらの繰り返し単位の1種単独で構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
−CF2CF2CF2CF2O−
−CF2CF2CF2CF2CF2CF2O−
−C(CF32O−
これらの中では、特に下記単位が好適である。
−CF2O−
−CF2CF2O−
−CF2CF2CF2O−
−CF(CF3)CF2O−
【0013】
この(A)成分の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物におけるアルケニル基としては、炭素数2〜8、特に2〜6で、かつ末端にCH2=CH−構造を有するものが好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等の末端にCH2=CH−構造を有する基、特にビニル基、アリル基等が好ましい。このアルケニル基は、直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物の主鎖の両端部に直接結合していてもよいし、2価の連結基、例えば、−CH2−、−CH2O−又は−Y−NR1−CO−〔但し、Yは−CH2−又は
【0014】
【化9】


(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。〕等を介して結合していてもよい。該アルケニル基は1分子中に少なくとも2個、好ましくは2〜6個有する。
【0015】
(A)成分としては、下記一般式(6)、(7)で表される直鎖状ポリフルオロジアルケニル化合物を挙げることができる。
CH2=CH−(X)p−Rf1−(X’)p−CH=CH2 (6)
CH2=CH−(X)p−Q−Rf1−Q−(X’)p−CH=CH2 (7)
[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−〔但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化10】


(o,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)
で示される基であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。〕であり、X’は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y’−〔但し、Y’は−CH2−又は下記構造式(Z’)
【化11】


(o,m又はp−ジメチルシリルフェニレン基)
で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。〕であり、Rf1は2価のパーフルオロポリエーテル構造であり、上記式(5)、即ち(Ca2aO)zで示されるものが好ましい。Qは独立に炭素数1〜15の2価の炭化水素基であり、エーテル結合を含んでいてもよく、具体的にはアルキレン基、エーテル結合を含んでいてもよいアルキレン基である。pは独立に0又は1である。]
【0016】
このような(A)成分の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物としては、特に下記一般式(1)で示されるものが好適である。
【化12】


[式中、X、X’及びpは前記と同じであり、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜600の整数であり、更にmとnの和が50〜600の整数である。]
【0017】
上記式(1)の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物は、重量平均分子量が10,000〜100,000、望ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量が10,000未満の場合は、ガソリンや各種溶剤に対する膨潤が大きくなる。特に、ガソリンに対する膨潤が6質量%以上となり、耐ガソリン性が要求される部材としては特性を満足することができない。また、重量平均分子量が100,000を超える場合は、粘度が高く作業性に劣るため実用性がない。
【0018】
一般式(1)で表される直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【0019】
【化13】

【0020】
【化14】

【0021】
【化15】


(式中、m1及びn1はそれぞれ0〜200の整数、m1+n1=50〜200を満足する整数を示す。)
【0022】
更に本発明では、上記式(1)の直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物を目的に応じた所望の重量平均分子量に調節するため、予め上記したような直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物を分子内にSiH基を2個含有する有機ケイ素化合物と通常の方法及び条件でヒドロシリル化反応させ、鎖長延長した生成物を(A)成分として使用することも可能である。
【0023】
[(B)成分]
(B)成分は、1分子中に1個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する、直鎖状ポリフルオロモノアルケニル化合物であり、前述の(A)成分と共に本発明のゲル組成物の主剤(ベースポリマー)を構成するものである。(B)成分の直鎖状ポリフルオロモノアルケニル化合物としては、特に、下記一般式(2)のポリフルオロモノアルケニル化合物が好ましい。
Rf2−(X’)p−CH=CH2 (2)
[式中、X’及びpは上記と同じであり、Rf2は下記一般式で示される。
F−[CF(CF3)CF2O]w−CF(CF3)−
(式中、wは1〜500の整数、好ましくは2〜100の整数、より好ましくは5〜50の整数である。)]
【0024】
上記一般式(2)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0025】
【化16】


(ここで、w1=1〜500の整数、好ましくは2〜100の整数、より好ましくは5〜50の整数である。)
【0026】
(B)成分の直鎖状ポリフルオロモノアルケニル化合物の配合量は、上記(A)成分の直鎖状ポリフルオロジアルケニル化合物100質量部に対して1〜300質量部、好ましくは10〜250質量部、より好ましくは50〜150質量部である。(B)成分の配合量が少なすぎると硬化後の架橋密度が高くなり、ゴム状弾性体(エラストマー)となってしまい、ゲル硬化物となり難く、多すぎると硬化後の架橋密度が低く、液状物となってしまう。
【0027】
[(C)成分]
(C)成分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する有機ケイ素化合物である。この(C)成分は、(A)成分の架橋剤、鎖長延長剤として作用するものである。但し、(A)、(B)成分又は後述する(E)成分との相溶性、分散性、硬化後の均一性等の観点から、1分子中に1個以上のパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基(1価のパーフルオロポリエーテル基)、パーフルオロアルキレン基、あるいはパーフルオロオキシアルキレン基(2価のパーフルオロポリエーテル基)を有しているものを使用することが好ましい。
【0028】
かかる(C)成分としては、(C−1)1分子中に少なくとも1個(通常、1〜10個)、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜4個のパーフルオロアルキル基あるいは1価のパーフルオロポリエーテル基を有する環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
このような(C−1)成分としては、特に下記一般式(3)で示されるものが好ましい。
【0029】
【化17】


(式中、Rf3はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基、R3は独立に炭素数1〜20の1価炭化水素基、R4は炭素数2〜20の2価の有機基である。kは2以上の整数、好ましくは2〜9の整数、より好ましくは3〜6の整数、lは1〜6の整数、好ましくは1〜4の整数、k+lは好ましくは3〜10の整数である。)
【0030】
Rf3のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基としては、下記一般式で示される基を例示することができる。
・パーフルオロアルキル基:
b2b+1
(式中、bは1〜20の整数、好ましくは2〜10の整数である。)
・1価のパーフルオロポリエーテル基(パーフルオロオキシアルキル基):
【化18】


(式中、cは1〜200の整数、好ましくは2〜100の整数である。)
【0031】
ここで、R3は炭素数1〜20、好ましくは1〜10の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられるが、好ましくは脂肪族不飽和結合を有さないものが好ましい。
【0032】
また、R4は炭素数2〜20、好ましくは2〜12の2価の有機基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基や、これらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)であってよく、あるいはこれらの基にエーテル結合酸素原子やアミド結合、カルボニル結合、エステル結合、ジオルガノシリレン基等から選ばれる1種又は2種以上の構造を介在させたものであってもよい2価の炭化水素基が挙げられる。好ましくは下記の基等が挙げられる。
【0033】
−CH2CH2
−CH2CH2CH2
−CH2CH2CH2OCH2
−CH2CH2CH2−NH−CO−
−CH2CH2CH2−N(Ph)−CO−
(但し、Phはフェニル基である。)
−CH2CH2CH2−N(CH3)−CO−
−CH2CH2CH2−N(CH(CH32)−CO−
−CH2CH2CH2−O−CO−
−CH2CH2−Si(CH32−Ph’−N(CH3)−CO−
(但し、Ph’はフェニレン基である。)
【0034】
このような1分子中に少なくとも1個のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基を有する(C−1)成分としては、例えば下記の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は、1種単独で用いても2種以上併用してもよいし、後述する(C−2)成分と併用して用いてもよい。また、下記式において、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。
【0035】
【化19】

【0036】
【化20】

【0037】
また(C)成分としては、(C−2)1分子中に少なくとも1個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基あるいは1価又は2価のパーフルオロポリエーテル基を有し、ケイ素原子に結合した水素原子が全てH−Si(CH2xSi−構造(式中、xは1〜3の整数である。但し、それぞれのケイ素原子上の残余2価分の置換基については記載を省略してある。)を構成する有機ケイ素化合物が好ましい。
このような(C−2)成分としては、特に下記一般式(4)で示されるものが好ましい。
【0038】
【化21】


[式中、Mは下記一般式(i)及び/又は(ii)
【化22】


(式中、R6は同一又は異種の炭素数1〜20の1価炭化水素基である。Q’は炭素数1〜15の2価の有機基である。Rf4はパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基(1価のパーフルオロポリエーテル基)である。xは1〜3の整数である。)
で表される基で、且つ1分子中に上記式(i)で表される基が少なくとも2個、好ましくは2〜6個存在する。R5は同一又は異種の炭素数1〜20の1価炭化水素基である。tは1,2又は3、好ましくは1又は2、uは0,1,2又は3、好ましくは1又は2で、t+uは2〜6の整数、好ましくは3〜6の整数である。i及びjは0又は1であるが、iとjは同時に0とはならない。i,jのいずれか一方が0、他方が1の場合、Zは水素原子、−Q’−M’、又は−Q’−Rf4である〔但し、M’は下記一般式(iii)
【化23】


(式中、R6、xは上記と同じである。)
で表される基であり、Q’、Rf4は上記と同じである。〕。また、i,jがいずれも1の場合、Zは−Q’−、−Rf’−、又は−Q’−Rf’−Q’−である(但し、Q’は上記と同じである。Rf’はパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基(2価のパーフルオロポリエーテル基)である。)。なお、1分子中にRf4及び/又はRf’が少なくとも1個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個存在する。]
【0039】
上記式中、R5、R6はそれぞれ同一又は異種の炭素数1〜20、好ましくは1〜10の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などが挙げられるが、好ましくは脂肪族不飽和結合を有さないものが好ましい。これらの中でも、R5としてはメチル基等のアルキル基が好ましく、R6としてはメチル基等のアルキル基が好ましい。
【0040】
また、Q’は炭素数1〜15、好ましくは炭素数1〜8の2価の有機基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等のアルキレン基、フェニレン基等のアリーレン基や、これらの基の2種以上の組み合わせ(アルキレン・アリーレン基等)であってよく、あるいはこれらの基に、アミド結合、カルボニル結合、ジオルガノシリレン基等から選ばれる1種又は2種以上の構造を介在させたものであってもよい2価の炭化水素基が挙げられる。好ましくは下記の基等が挙げられる。
−(CH2y−(但し、yは1〜8の整数である。)
−CH2CH2CH2−NH−CO−
−CH2CH2CH2−NPh−CO−
−CH2CH2−Si(CH32−Ph’−N(CH3)−CO−
(式中、Phはフェニル基、Ph’はフェニレン基である。)
【0041】
Rf4は1価のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基であり、上述したRf3と同様のものを例示することができる。
【0042】
Rf’のパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基(2価のパーフルオロポリエーテル基)としては、下記一般式で示される基を例示することができる。
・パーフルオロアルキレン基:
−Cd2d
(但し、dは1〜20の整数、好ましくは2〜10の整数である。)
・パーフルオロオキシアルキレン基(2価のパーフルオロポリエーテル基):
【化24】


(但し、m’、n’はそれぞれ独立に1〜200の整数、m’+n’は2〜201の整数であり、r’は2〜10の整数である。)
−(CF2O)m''−(CF2CF2O)n''−CF2
(但し、m”、n”はそれぞれ独立に1〜200の整数である。)
【0043】
このようなフッ素含有基を有する(C−2)成分としては、例えば下記の化合物が挙げられる。なお、これらの化合物は、1種単独で用いても2種以上併用してもよいし、前述した(C−1)成分と併用して用いてもよい。また、下記式において、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。
【0044】
【化25】

【0045】
【化26】

【0046】
【化27】

【0047】
【化28】

【0048】
【化29】

【0049】
上記(C)成分の配合量は、上記(A)成分及び(B)成分を硬化する有効量であり、通常、上記(A)成分及び(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対し、(C)成分中のケイ素原子結合水素原子(SiHで示されるヒドロシリル基)が、0.1〜5モル、好ましくは0.2〜2モル、より好ましくは0.5〜1.3モルとなる量である。ヒドロシリル基(SiH)が少なすぎると、架橋度合が不十分となる結果、硬化物が得られず、また、多すぎると硬化時に発泡してしまう。
【0050】
[(D)成分]
本発明の(D)成分は、ヒドロシリル化反応触媒である。ヒドロシリル化反応触媒は、(A)成分及び(B)成分中のアルケニル基と、(C)成分中のヒドロシリル基(SiH基)との付加反応を促進する触媒である。このヒドロシリル化反応触媒は、一般に貴金属の化合物であり、高価格であることから、比較的入手し易い白金又は白金化合物がよく用いられる。
【0051】
白金化合物としては、例えば塩化白金酸又は塩化白金酸とエチレン等のオレフィンとの錯体、アルコールやビニルシロキサンとの錯体、シリカ、アルミナ、カーボン等を担持した金属白金等を挙げることができる。白金化合物以外のヒドロシリル化反応触媒として、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム系化合物等の白金族金属化合物も知られており、例えばRhCl(PPh33、RhCl(CO)(PPh32、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh32、Pd(PPh34等を例示することができる。
【0052】
ヒドロシリル化反応触媒の配合量は触媒量とすることができるが、通常(A)、(B)、(C)成分及び後述する(E)成分の合計量(質量)に対して0.1〜1,000ppm、特に0.5〜200ppm(白金族金属換算)程度の割合で配合することが好ましい。
【0053】
[(E)成分]
本発明のパーフルオロポリエーテルゲル組成物は、(E)成分として、主鎖中に−Ca2aO−(式中、aは1〜6の整数である。)単位の繰り返しを含んでなるパーフルオロポリエーテル構造を有し、かつ、分子中にアルケニル基を含有しない無官能性のパーフルオロポリエーテル化合物を所定量含有するものである。この無官能性のパーフルオロポリエーテル化合物は特に直鎖状のものが好ましい。
【0054】
(E)成分であるパーフルオロポリエーテル化合物は、該成分を特定範囲の配合量で添加することにより、該組成物を硬化して得られるパーフルオロポリエーテルゲル(硬化物)に、諸物性を損なうことなく耐薬品性、耐溶剤性、可塑性、低温特性(低ガラス転移温度)等を付与することができるものである。
【0055】
(E)成分としては、特に、下記一般式(8)、(9)で表される化合物からなる群から選ばれる直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物が好ましく用いられる。
A−O−(CF2CF2CF2O)e−A (8)
(式中、Aは式:Cb'2b'+1−で表される基であり、b’は1〜3の整数、eは1〜500の整数である。)
A−O−(CF2O)f(CF2CF2O)g−A (9)
(式中、Aは上記と同じであり、f及びgはそれぞれ1〜300の整数である。)
【0056】
該(E)成分の具体例としては、例えば、下記のものが挙げられる。
CF3O−(CF2CF2CF2O)e'−CF2CF3
CF3−[(OCF2CF2g'(OCF2f']−O−CF3
(式中、e’=1〜200の整数、f’=1〜200の整数、g’=1〜200の整数で、f’+g’=2〜400の整数、好ましくは2〜200の整数である。)
(E)成分は、1種単独でも2種以上を併用してもよい。
【0057】
(E)成分の配合量は、本発明が主眼とする、パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐溶剤性を維持しつつ耐酸性を向上させるために、未硬化のゲル組成物の主剤である前記(A)成分及び(B)成分(ポリフルオロジアルケニル化合物とポリフルオロモノアルケニル化合物)との合計100質量部に対して5質量部以上20質量部未満、特に5〜19質量部の範囲で配合することが必要である。(E)成分の配合量が5質量部未満では、パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐溶剤性、耐酸性をいずれも満足することができず、20質量部以上の配合量では、耐酸性を向上させることができず、特に、40℃/500時間における濃硫酸(98質量%)に対する固形物残存率が著しく(例えば、残存率60質量%未満に)低下してしまい、耐酸性に優れたパーフルオロポリエーテルゲル硬化物を得ることができない。
【0058】
[その他の成分]
本組成物においては、上記の(A)〜(E)成分以外にも、各種配合剤を添加することは任意である。ヒドロシリル化反応触媒の制御剤として、例えば1−エチニル−1−ヒドロキシシクロヘキサン、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−3−オール、フェニルブチノールなどのアセチレンアルコールや、3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−イン等、あるいはポリメチルビニルシロキサン環式化合物、有機リン化合物等が挙げられ、その添加により硬化反応性と保存安定性を適度に保つことができる。
【0059】
無機質充填剤として、例えば酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、カーボンブラック、ヒュームドシリカ、湿式シリカ、粉砕シリカ、珪藻土、ハイドロタルサイト、アルミナ等の各種金属酸化物粉末などが挙げられ、その添加により本組成物から得られる硬化物の硬さ・機械的強度を調整することができる。中空無機質充填剤又はゴム質の球状充填剤も添加できる。
【0060】
[硬化物]
本発明のパーフルオロポリエーテルゲル組成物は、上記した組成物を硬化させることにより、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、撥水性、撥油性、耐候性等に優れている上、特に耐溶剤性と耐酸性が良好な硬化物を形成させることができ、各種の用途に使用することができる。
【0061】
本発明の硬化性パーフルオロポリエーテルゲル硬化物は、(A)成分100質量部に対して(B)成分が1〜300質量部、(C)成分が(A)成分及び(B)成分が有するアルケニル基の合計のモル数1に対して(C)成分中のヒドロシリル基が0.1〜5モルとなる量と触媒量(白金族金属換算で通常(A)、(B)、(C)及び(E)成分の合計量(質量)に対して0.1〜1,000ppm)の(D)成分とを含有する組成物において、更に、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対して5質量部以上20質量部未満の(E)成分を添加混合してなる組成物を、常法により加熱硬化することによって得ることができる。
【0062】
ゲル硬化物の形成は、適当な型内に上記した組成物を注入して硬化を行ったり、組成物を適当な基板上にコーティングした後に硬化を行うことができ、或いは貼り合わせ等により従来公知の方法により行うことができる。硬化は、通常60〜150℃の温度で30〜180分程度の加熱処理によって容易に行うことができる。
【0063】
このようにして得られたゲル硬化物は、JIS K2220(又はASTM D−1403)稠度試験法(1/4コーン使用)で規定される針入度が10〜150であり、ガラス転移温度が−60℃以下のゲル材料である。
なお、本発明において「ゲル(硬化物)」とは、通常のゴム硬度(JIS K6301に規定されるA型硬度又はデュロA硬度)において有効な硬度値を示さない(即ち、JISA硬度値が0未満である)程低硬度、低架橋密度の硬化物である点において、ゴム弾性を示すエラストマー(いわゆるゴム硬化物)とは明確に区別されるものである。
【0064】
本発明のゲル硬化物を用いたゲル製品は、自動車用、化学プラント用、インクジェットプリンタ用、半導体製造ライン用、分析・理化学機器用、医療機器用、航空機用、燃料電池用等の部材として使用することができる。
【0065】
更に詳述すると、本発明の組成物の硬化物を含むゲル製品は、自動車用部品、化学プラント用部品、インクジェットプリンタ用部品、半導体用製造ライン用部品、分析・理化学機器用部品、医療機器用部品、電気電子用防湿コーティング材、センサー用ポッティング剤、燃料電池用シール材等を挙げることができる。
【0066】
特に、電気電子用防湿コーティング材、センサー用ポッティング剤としては、ガス圧センサー、液圧センサー、温度センサー、湿度センサー、回転センサー、Gセンサー、タイミングセンサー、エアフローメーター、電子回路、半導体モジュール、各種コントロールユニット等が挙げられる。
【0067】
また、本発明の組成物の硬化物をポッティング、コーティング等する場合、基材との密着性或いは接着性を向上させるために公知のプライマーを併用することが有用である。プライマーにより、基材界面からの薬品及び溶剤の浸入を防止することができ、部品全体の耐酸性、耐薬品性及び耐溶剤性を向上することができる。
【0068】
プライマーとしては、シランカップリング剤を主体とするシラン系プライマー、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを主体とするプライマー、合成ゴムを主成分とするプライマーや、アクリル樹脂を主成分とするプライマー、ウレタン樹脂を主成分とするプライマー、エポキシ樹脂を主成分とするプライマー等が使用できる。
【0069】
更に、本発明の組成物の硬化物は、40℃/500時間における濃硫酸(98質量%)に対する固形物残存率が60質量%以上であることを特徴とする。固形物残存率が60質量%以下の場合は、シール部からの漏れや、保護された基材や電気電子部品の腐食が早期に発生する。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例で部は質量部、%は質量%を示す。また、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析(展開溶媒:含フッ素有機溶剤AK225(旭硝子(株)製))による分子量分布測定におけるポリスチレン換算値として測定したものである。
【0071】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
下記原料を表1に示す配合量で使用し、パーフルオロポリエーテルゲル組成物を調製した。得られたゲル組成物を150℃、1時間の硬化条件にて硬化し、その硬さ(針入度)をJIS K2220稠度試験法(1/4コーン使用)に準じて測定すると共に、下記方法によって耐酸性試験及び耐溶剤試験を行った。結果を表1に併記する。
【0072】
ポリマーA
【化30】


(m+nの平均=120、重量平均分子量:約20,700)
【0073】
ポリマーB
【化31】


(m+nの平均=90、重量平均分子量:約15,700)
【0074】
ポリマーC
【化32】


(wの平均値=24)
【0075】
ポリマーD
【化33】


(wの平均値=50)
【0076】
ポリマーE
【化34】

【0077】
ハイドロシロキサン
有機ケイ素化合物A
【化35】

【0078】
有機ケイ素化合物B
【化36】

【0079】
硬化触媒
白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体/トルエン溶液(白金含有量0.5%)
硬化反応制御剤
エチニルシクロヘキサノール/50%トルエン溶液
【0080】
〔評価方法〕
耐酸性試験(質量変化)
32mmφ×15mmのガラス容器内に実施例及び比較例の組成物を20g充填した後、所定の条件にて硬化してサンプルを作製し、98質量%の硫酸に40℃にて500時間浸漬し、浸漬前と後の質量変化を測定し、固体の残存率を算出した。
【0081】
耐酸性試験(物性変化)
32mmφ×15mmのガラス容器内に実施例及び比較例の組成物を20g充填した後、所定の条件にて硬化してサンプルを作製し、98質量%の硫酸に40℃にて500時間浸漬し、浸漬前と後の針入度を測定した。
【0082】
耐溶剤試験(質量変化)
32mmφ×15mmのガラス容器内に実施例及び比較例の組成物を3.0g充填した後、所定の条件にて硬化してサンプルを作製し、Fuel C(イソオクタン/トルエン=50/50vol.%)に23℃にて168時間浸漬し、浸漬前と後の質量変化率を測定した。
【0083】
耐溶剤試験(物性変化)
32mmφ×15mmのガラス容器内に実施例及び比較例の組成物を20g充填した後、所定の条件にて硬化してサンプルを作製し、Fuel C(イソオクタン/トルエン=50/50vol.%)に23℃にて168時間浸漬し、浸漬前と後の針入度を測定した。
【0084】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中に−Ca2aO−(式中、aは1〜6の整数である。)単位の繰り返しを含んでなるパーフルオロポリエーテル構造を有する、重量平均分子量が10,000〜100,000である直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物 100質量部、
(B)1分子中に1個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する、直鎖状ポリフルオロモノアルケニル化合物 1〜300質量部、
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する下記(C−1)及び/又は(C−2)から選ばれる有機ケイ素化合物
(C−1)1分子中に少なくとも1個のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基を有する環状のオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(C−2)1分子中に少なくとも1個のパーフルオロアルキル基、パーフルオロアルキレン基、又は1価もしくは2価のパーフルオロポリエーテル基を有し、ケイ素原子に結合した水素原子が全てH−Si(CH2xSi−(式中、xは1〜3の整数である。)構造を構成する有機ケイ素化合物
(A)成分及び(B)成分中のアルケニル基の合計1モルに対して(C)成分中の
ケイ素原子に結合した水素原子が0.1〜5モルとなる量、
(D)ヒドロシリル化反応触媒 触媒量、
(E)主鎖中に−Ca2aO−(式中、aは1〜6の整数である。)単位の繰り返しを含んでなるパーフルオロポリエーテル構造を有し、かつ、分子中にアルケニル基を含有しない無官能性のパーフルオロポリエーテル化合物
を含有する硬化性パーフルオロポリエーテルゲル組成物を加熱硬化してなるパーフルオロポリエーテルゲル硬化物において、(E)成分の配合量を(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して5質量部以上20質量部未満に制御することを特徴とする、パーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
【請求項2】
(A)成分の主鎖中に−Ca2aO−(式中、aは上記と同じ。)単位の繰り返しを含んでなるパーフルオロポリエーテル構造が、−(Ca2aO)z−[ただし、zは50〜600の整数である。]で表されるものである請求項1に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
【請求項3】
(A)成分が、下記一般式(1)
【化1】


[式中、Xは−CH2−、−CH2O−、−CH2OCH2−又は−Y−NR1−CO−(但し、Yは−CH2−又は下記構造式(Z)
【化2】


(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
で示される基であり、R1は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。X'は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y'−(但し、Y'は−CH2−又は下記構造式(Z')
【化3】


(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。pは独立に0又は1、rは2〜6の整数、m、nはそれぞれ0〜600の整数であり、更にmとnの和が50〜600の整数である。]
で表される直鎖状パーフルオロポリエーテル化合物である請求項2に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
【請求項4】
(B)成分が、下記一般式(2)
Rf2−(X')p−CH=CH2 (2)
[式中、X'は−CH2−、−OCH2−、−CH2OCH2−又は−CO−NR2−Y'−(但し、Y'は−CH2−又は下記構造式(Z')
【化4】


(o,m又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基)
で示される基であり、R2は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基である。)である。pは独立に0又は1であり、Rf2は下記一般式
F−[CF(CF3)CF2O]w−CF(CF3)−
(式中、wは1〜500の整数である。)]
で表される直鎖状ポリフルオロモノアルケニル化合物である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
【請求項5】
(C−1)成分が、下記一般式(3)
【化5】


(式中、Rf3はパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロポリエーテル基であり、R3は独立に炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、R4は炭素数2〜20の2価の有機基である。kは2以上の整数であり、lは1〜6の整数である。)
で示される請求項1乃至4のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
【請求項6】
(C−2)成分が、下記一般式(4)
【化6】


[式中、Mは下記一般式(i)及び/又は(ii)
【化7】


(式中、R6は同一又は異種の炭素数1〜20の1価炭化水素基である。Q'は炭素数1〜15の2価の有機基である。Rf4はパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキシアルキル基である。xは1〜3の整数である。)
で表される基で、且つ1分子中に上記式(i)で表される基が少なくとも2個存在する。R5は同一又は異種の炭素数1〜20の1価炭化水素基である。tは1,2又は3、uは0,1,2又は3で、t+uは2〜6の整数である。i及びjは0又は1であるが、iとjは同時に0とはならない。i,jのいずれか一方が0、他方が1の場合、Zは水素原子、−Q'−M'、又は−Q'−Rf4である〔但し、M'は下記一般式(iii)
【化8】


(式中、R6、xは上記と同じである。)
で表される基であり、Q'、Rf4は上記と同じである。〕。また、i,jがいずれも1の場合、Zは−Q'−、−Rf'−、又は−Q'−Rf'−Q'−である(但し、Q'は上記と同じである。Rf'はパーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基である。)。なお、1分子中にRf4及び/又はRf'が少なくとも1個存在する。]
で示される請求項1乃至5のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
【請求項7】
パーフルオロポリエーテルゲル硬化物が、40℃/500時間における濃硫酸(98質量%)に対する固形物残存率が60質量%以上であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。
【請求項8】
パーフルオロポリエーテルゲル硬化物が、自動車用、化学プラント用、インクジェットプリンタ用、半導体製造ライン用、分析・理化学機器用、医療機器用、航空機用又は燃料電池用のゲル製品である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のパーフルオロポリエーテルゲル硬化物の耐酸性を向上する方法。

【公開番号】特開2012−102187(P2012−102187A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249799(P2010−249799)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】