説明

ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼタンパク質の測定法

【課題】 ヒトOPRT免疫測定法の確立。
【解決手段】 ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ抗体と、ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ抗体とを組み合わせて使用する、ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼタンパク質の測定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼに対する新規な抗体及び該抗体を用いたヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼタンパク質の測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(orotate phosphoribosyl transferase ;EC2.4.2.10、以下「OPRT」と称する)は、オロト酸からウリジル1リン酸(UMP)を生成する反応を触媒する酵素で、核酸合成に必須であるピリミジンヌクレオチドを供給する役割をもち、核酸前駆体供給経路の主要な律速酵素の一つである。従って、細胞増殖の盛んな腫瘍組織や消化管上皮でその活性が高いことが知られている。
【0003】
一方、5−フルオロウラシル系の抗癌剤は、OPRTを律速酵素として活性化され抗腫瘍効果を発揮するので、腫瘍細胞中のOPRT量が多い患者に対してはその効果が大きく、顕著な延命効果が認められるのに対し、OPRT量が少ない患者に対しては効果が小さいことが知られている(非特許文献1参照)。従って、例えば腫瘍患者の治療を行うに際し、予め摘出腫瘍中のOPRT量を測定することは、治療方法の決定や投与する抗がん剤の選定の指標となるなど、その重要性は高い。
【0004】
従来、組織中のヒトOPRTの定量は、mRNA量又は酵素活性を測定することにより行われてきた。しかしながら、mRNA量の測定では、転写後の調節機構等によりタンパク質量及び酵素活性を十分に反映していない可能性がある。また、酵素活性の測定による定量は、主に放射能標識された基質を用いるので、その操作は非常に煩雑である。ヒトOPRT定量法を臨床での診断や治療に応用するには、簡便かつ正確であることが重要であり、このような定量法の開発が強く望まれていた。
【非特許文献1】Br.J.Cancer.,2003,Oct,20;89(8):1486−92.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明は、ヒトOPRTの簡便かつ正確な測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、ヒトOPRT全体に対するポリクローナル抗体及びヒトOPRTのアミノ酸配列中の種々のオリゴペプチドに対する抗体を作製し、それらの抗体を組み合せた測定系を設計して検討してきたところ、ヒトOPRTのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗体と、ヒトOPRTのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗体とを組み合せたヒトOPRT免疫測定系が、他の抗体を用いた測定系に比べて顕著に感度が高く、ヒトOPRTタンパク質を簡便かつ正確に測定できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ヒトOPRTのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトOPRT抗体を提供するものである。
また、本発明は、ヒトOPRTのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトOPRT抗体を提供するものである。
また、本発明は、ヒトOPRTのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトOPRT抗体と、ヒトOPRTのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトOPRT抗体とを含有する、ヒトOPRTタンパク質測定用キットを提供するものである。
更に本発明は、ヒトOPRTのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトOPRT抗体と、ヒトOPRTのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗OPRT抗体とを組み合わせて使用する、ヒトOPRTタンパク質の測定法を提供するものである。
なお、ヒトOPRTタンパク質のアミノ酸配列は、Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America,vol.85,No.6,1988,1754-1758 に記載のものに従った。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、ヒトOPRT全体を抗原とした抗体を用いた場合や、ヒトOPRTのN末端から428番目〜446番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗OPRT抗体を用いた場合に比べて、ヒトOPRTタンパク質を簡便かつ正確に定量できる。更に、本発明測定法を利用して検体のヒトOPRTタンパク質を定量することで、癌の診断、治療効果予測だけでなく、治療方法の選定、抗がん剤投与の可否を決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明にかかるヒトOPRTタンパク質のN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトOPRT抗体の抗原としては、ヒトOPRTタンパク質のN末端から86番目〜108番目のアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列の連続した80%以上を含むアミノ酸配列を有する合成ペプチドを使用することができる。以後この抗原を使用して得られた抗体を抗OPRT−A抗体と称す。
【0010】
本発明にかかるヒトOPRTタンパク質のN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトOPRT抗体の抗原としては、ヒトOPRTタンパク質のN末端から454番目〜474番目のアミノ酸配列、又はこのアミノ酸配列の連続した80%以上を含むアミノ酸配列を有する合成ペプチドを使用することができる。以後この抗原を使用して得られた抗体を抗OPRT−C抗体と称す。
【0011】
上記合成ペプチドを抗原として使用する場合、免疫応答を促進する目的で、Freund(フロイント)アジュバント等のアジュバントを抗原と混合して使用したり、ウシサイログロブリン、BSA(Bovine Serum Albumin:ウシ血清アルブミン)、KLH(Keyhole limpet hemocyanine : keyhole limpetのヘモシアニン)等のキャリアーを抗原に結合させて使用することができる。
【0012】
本発明にかかる抗ヒトOPRT抗体は、前記アミノ酸配列の領域に存在する上記エピトープを認識すればよく、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。
上記抗原を用いて抗ヒトOPRTポリクローナル抗体を作製する場合、以下の通り作製できる。抗ヒトOPRTポリクローナル抗体を含む抗血清は、常法にしたがって、上記抗原をウサギ、ラット、マウス、ヤギ等各種の動物に必要回数免疫し、採取することにより得られる。好ましくは、上記合成ペプチドにKLHを結合させたものを抗原として3週間に2度の割合でウサギに免疫する。抗血清から抗OPRT抗体を精製するには、抗体精製の常法にしたがい、アフィニティークロマトグラフィー、硫安塩析、イオン交換カラムクロマトグラフィー、分子篩カラムクロマトグラフィー(ゲル濾過)、プロテインAカラムクロマトグラフィー等を行えばよい。また、抗体の純度を高める目的で、これらの精製手段を組み合わせたり、繰り返したりしてもよい。
アフィニティークロマトグラフィー(抗原固定化カラム)を行う場合、上記合成ペプチドをカラムに固定し、抗血清を充填して抗OPRT抗体をカラムに吸着させた後、溶出液を用いて抗OPRT抗体を外し、これを回収することにより、高純度の抗OPRT抗体を得ることができる。
【0013】
上記抗原を用いて抗ヒトOPRTモノクローナル抗体を作製する場合、以下の通り、抗ヒトOPRTモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製することにより得ることができる。上記ハイブリドーマは、例えば上記抗原をマウス、ラット等の哺乳動物又は鳥類に免疫し、その脾臓細胞とマウス、ラット等の哺乳動物のミエローマ細胞(骨髄腫細胞)とを、Koler及びMilsteinの基本方法〔Nature、第256巻、495項(1975年)参照〕に従って細胞融合し、選択用培地中で培養することにより得ることができる。その際の免疫方法は、例えば調製した抗原をリン酸緩衝液、生理食塩水等に溶解し、必要に応じアジュバントを混合し、動物の皮下、脾臓内、腹腔、静脈等に1〜3週ごとに充分抗体価が上昇するまで、数回投与することにより行われる。細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、マウスP3−NS−1/1Ag4.1、P3−X63−Ag8.653、Sp2/0Ag14、ラットYB2/0等が挙げられる。細胞融合の際には、融合促進剤としてポリエチレングリコール、センダイウィルス等を用いることができ、また電気パルスを用いてもよい。細胞融合に使用する骨髄細胞は8−アザグアニン耐性株でヌクレオチド生合成のサルベージ経路に必要なヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠くため、HAT培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む培地)中ではヌクレオチドの合成が出来ず、生き残れない。よって細胞融合と行った後、HAT培地にて1週間〜2週間培養することにより、脾細胞と骨髄腫が融合したハイブリドーマのみを選択することができる。
【0014】
このようにして得られる本発明の抗ヒトOPRT抗体は、ヒトOPRTタンパク質の免疫学的測定に有用であり、例えば、サンドイッチELISA法、競合法によるラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイや、イムノクロマトグラフィー法等に適用することができる。このうち、サンドイッチELISA法が特に好ましい。
【0015】
本発明のヒトOPRTタンパク質測定用キットは、抗OPRT−A抗体と、抗OPRT−C抗体とを含有する。これらの2種の抗体を用いてサンドイッチELISA法を行うには、一方の抗OPRT抗体を支持体に固定化し(固相化抗体)、他方の抗OPRT抗体を標識抗体(検出抗体)とする。好ましい組み合わせは、抗OPRT−C抗体を固相化抗体とし、抗OPRT−A抗体を検出抗体とする場合である。
【0016】
免疫測定は、例えばサンドイッチELISA法の場合、ELISA用プレート等の支持体に一方の抗OPRT抗体を固定化し、次いで被検体を反応させ、更に標識抗OPRT抗体を反応させた後、洗浄し、サンドイッチ免疫反応が生じた標識量を測定する。
【0017】
本発明に用いられる被検体としては、OPRTが存在し得るヒトの組織、体液であればよく、例えば腫瘍組織、消化管組織、血液、リンパ液等が挙げられるが、腫瘍組織が特に好ましい。
【0018】
本発明において用いられる支持体としては、例えば、アガロース、セルロースなどの不溶性の多糖類、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネイト樹脂などの合成樹脂や、ガラスなどの不溶性の支持体を挙げることができる。これらの支持体は、ビーズやプレートなどの形状で用いることが可能である。ビーズの場合、これらが充填されたカラムなどを用いることができる。プレートの場合、マルチウェルプレート(96穴マルチウェルプレート等)、バイオセンサーチップなどを用いることができる。抗OPRT抗体と支持体との結合は、化学結合や物理的な吸着などの通常用いられる方法により結合することができる。これらの支持体は市販のものを用いることができる。
【0019】
抗OPRT抗体と被検体との反応は、通常、緩衝液中で行われる。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液などが使用される。また、インキュベーションの条件としては、例えば、4℃〜室温にて1時間〜24時間のインキュベーションが行われる。インキュベート後の洗浄は、被検体中のヒトOPRTタンパク質と抗OPRT抗体の結合を妨げないものであれば何でもよく、例えば、Tween20等の界面活性剤を含む緩衝液などが使用される。
【0020】
本発明のヒトOPRTタンパク質測定方法においては、ヒトOPRTタンパク質を検出したい被検体の他に、コントロール試料を設置してもよい。コントロール試料としては、ヒトOPRTタンパク質を含まない陰性コントロール試料やヒトOPRTタンパク質を含む陽性コントロール試料などがある。この場合、ヒトOPRTタンパク質を含まない陰性コントロール試料で得られた結果、ヒトOPRTタンパク質を含む陽性コントロール試料で得られた結果と比較することにより、被検体中のヒトOPRTタンパク質を検出することが可能である。また、濃度を段階的に変化させた一連のコントロール試料を調製し、各コントロール試料に対する検出結果を数値として得て、標準曲線を作成し、被検体の数値から標準曲線に基づいて、被検体に含まれるヒトOPRTタンパク質を定量的に検出することも可能である。
【0021】
抗OPRT抗体の標識は通常知られている方法により行うことが可能である。標識物質としては、蛍光色素、酵素、補酵素、化学発光物質、放射性物質などの当業者に公知の標識物質を用いることが可能であり、具体的な例としては、ラジオアイソトープ(32P、14C、125I、3H、131Iなど)、フルオレセイン、ローダミン、ダンシルクロリド、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、ホースラディッシュパーオキシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカリドオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ビオチンなどを挙げることができる。標識物質としてビオチンを用いる場合には、ビオチン標識抗体を添加後に、アルカリホスファターゼなどの酵素を結合させたアビジンを更に添加することが好ましい。標識物質と抗OPRT抗体との結合には、グルタルアルデヒド法、マレイミド法、ピリジルジスルフィド法、過ヨウ素酸法、などの公知の方法を用いることができる。
【0022】
具体的には、一方の抗OPRT抗体を含む溶液をプレートなどの支持体に加え、当該抗OPRT抗体を支持体に固定する。プレートを洗浄後、タンパク質の非特異的な結合を防ぐため、例えばBSA、ゼラチン、アルブミンなどでブロッキングする。再び洗浄し、被検体をプレートに加える。インキュベートの後、洗浄し、他方の標識抗OPRT抗体を加える。適度なインキュベーションの後、プレートを洗浄し、プレートに残った標識抗OPRT抗体を検出する。検出は当業者に公知の方法により行うことができ、例えば、放射性物質による標識の場合に液体シンチレーションやRIA法により検出することができる。酵素による標識の場合には基質を加え、基質の酵素的変化、例えば発色を吸光度計により検出することができる。基質の具体的な例としては、2,2−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩(ABTS)、オルトフェニレンジアミン、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TME)などを挙げることができる。蛍光物質の場合には蛍光光度計により検出することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
比較例(抗rhOPRT抗体を用いたELISA法によるOPRTの定量)
(1)抗原作成
抗原としては、大腸菌を培養して得られた組み換えヒトOPRT(rhOPRT)を利用した。その製法は次のとおりである。PCRにてヒトOPRTの全長cDNAをクローニングし、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)とrhOPRTとの融合タンパク質を発現するように作成されたプラスミドを導入した大腸菌BL21を、100 μg/mLのアンピシリン存在下、100mLのLB培地(和光純薬工業社製)中で37℃にて一晩振盪培養した。その培養液10mLを1LのLB培地の入った三角フラスコに移し、37℃で更に4時間培養した。遠心による集菌後、100mLの集菌バッファー(50mM Tris、 8M Urea、 1mM PMSF、 5mM EDTA、 5mM DTT pH7.4)に菌体を懸濁後、4℃で30分間緩やかに攪拌した。懸濁液を4℃で超音波破砕後、15000xg、4℃で30分間の遠心処理を行った。その後、上清中の尿素の濃度を透析処理により徐々に1Mまで落とし、リフォールディング処理を行い、2mLのグルタチオン(GSH)−セファロース(シグマ社製)を充填したカラムに通し、洗浄液(20mM Tris、 1M Urea、 5mM EDTA pH7.4)10mLにて洗浄した。溶出用バッファー(50mM GSH, 50mM Tris, pH 9.6)にてGST-rhOPRTを溶出し、rhOPRT溶液を得た。
【0025】
(2)免疫
GST-rhOPRTを免疫原とし、更にフロイント(Freund)の完全アジュバント(FCA)又はフロイントの不完全アジュバント(FIA)を用いて、ウサギ(white日本白色種)を以下により免疫した。
1回目:GST-rhOPRT 0.2mg+FCA S.C.
2〜8回目:GST-rhOPRT 0.5mg+FIA S.C.
【0026】
(3)抗血清の精製
免疫したウサギの全血を回収し、これを1500xg、4℃で5分間遠心して血清を分離した。得られた抗血清20mLをPBS(-)にて2倍希釈し40mLとした。この抗血清希釈液をGST蛋白の固定化カラムに添加し、GST反応性の抗体を吸着させた後、素通り溶液をプロテインA固定化カラムに通して、抗体(IgG)を結合させ、PBS(-)を用いて、280nmの吸光度がなくなるまでよく洗浄した。その後0.2M Glycine-HCl pH2.5をカラムに通して抗原に吸着した抗体を溶出させた。なお、この際にpHを中和するために、溶出した抗体を受ける試験管に1M Trisを予め添加しておき、回収した抗体の変質を防いだ。得られた抗体画分をPBS(-)で4℃にて一晩透析し、精製抗体とした。
【0027】
(4)サンドイッチELISA法によるヒト腫瘍細胞中のOPRTの定量
抗rhOPRT抗体を0.1mM炭酸緩衝液pH9.6で5.0μg/mLに調製して96穴のELISA用プレートに0.1mL分注し、シールをして4℃のインキュベーター内で一晩コーティングを行い、抗体固定化担体を得た。96穴プレートを0.05%ツイーン20含有PBS(-)で2回洗浄後、0.1%BSA含有PBS(-)を0.1mL加え非特異吸着のブロッキングを行った。洗浄液で2回洗浄した後、3、9、27倍に希釈したヒト胃癌由来細胞TMK1細胞のホモジネート(5x106の細胞より0.2mLの蛋白抽出液を調製した)を0.1mL添加し室温で1時間反応させた。洗浄液で5回洗浄した後、0.5μg/mLに希釈液にて希釈したパーオキシダーゼ標識抗rhOPRT抗体を0.1mLづつ分注し、室温で30分間反応させた。洗浄液で7回洗浄後、1.3mg/mLのオルトフェニレンジアミンと0.01%の過酸化水素水、1mM EDTAを含む0.1Mのリン酸−クエン酸緩衝液pH5.1(発色液)を0.1mL加え、室温暗所にて30分酵素反応を行った。最後に、0.1M硫酸0.1mLを加えて反応を停止し、492nmの吸光度の測定を行った。この結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
吸光度(492nm)があまりにも低く、希釈倍率との相関が全く認められていないため、OPRTの全長cDNAを用いて作成した抗rhOPRT抗体はサンドイッチELISA法には適していないことが確認された。
【0030】
実施例1(抗体の作成)
次の操作により、抗OPRTポリクローナル抗体を得た。
(1)ペプチド合成
ヒトOPRTのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸配列を有するペプチド、ヒトOPRTのN末端から428番目〜446番目のアミノ酸配列を有するペプチド、及びヒトOPRTのN末から454番目〜474番目のアミノ酸配列を有するペプチドを合成し、以下のペプチド配列からなる人工ペプチドを得た。
【0031】
ヒトOPRTのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸配列を有するペプチド(抗原名:OPRT-A)
Cys-Ser-Thr-Asn-Gln-Ile-Pro-Met-Leu-Ile-Arg-Arg-Lys-Glu-Thr-Lys-Asp-Tyr-Gly-Thr-Lys-Arg-Leu(配列番号1)
【0032】
ヒトOPRTのN末端から428番目〜446番目のアミノ酸配列を有するペプチド(抗原名:OPRT-B)
Cys-Leu-Gly-Gln-Gln-Tyr-Asn-Ser-Pro-Gln-Glu-Val-Ile-Gly-Lys-Arg-Gly-Ser-Asp-Ile(配列番号2)
【0033】
ヒトOPRTのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸配列を有するペプチド(抗原名:OPRT-C)
Cys-Ile-Ser-Ala-Ala-Asp-Arg-Leu-Glu-Ala-Ala-Glu-Met-Tyr-Arg-Lys-Ala-Ala-Trp-Glu-Ala-Tyr(配列番号3)
【0034】
(2)抗原結合物の作成
上記によって得た人工ペプチド4mgとマレイミド活性化KLH(Pierce)2mgを用いてペプチド-KLH結合物(conjugate)をそれぞれのペプチドについて作成した。
【0035】
(3)免疫
人工ペプチド-KLHを免疫原とし、更にフロイント(Freund)の完全アジュバント(FCA)又はフロイントの不完全アジュバント(FIA)を用いて、ウサギ(white日本白色種)を以下により免疫した。
1回目:Peptide-KLH 0.5mg+FCA S.C.
2〜8回目:Peptide-KLH 0.5mg+FIA S.C.
【0036】
(4)抗血清の精製
免疫したウサギの全血を回収し、これを1600xg、4℃で5分間遠心して血清を分離した。得られた抗血清20mLをPBS(-)にて2倍希釈し40mLとした。この抗血清希釈液を抗原ペプチドカラムに添加し、抗体(IgG)を結合させ、PBS(-)を用いて、280nmの吸光度がなくなるまでよく洗浄した。その後0.2M Glycine-HCl pH2.5をカラムに通して抗原に吸着した抗体を溶出させた。なお、この際にpHを中和するために、溶出した抗体を受ける試験管に1M Trisを予め添加しておき、回収した抗体の変質を防いだ。得られた抗体画分をPBS(-)で4℃にて一晩透析し、精製抗体とした。
【0037】
(5)ウェスタンブロッティング法による抗OPRT抗体の特異性の確認
ヒト肺癌由来細胞LC-11細胞のホモジネート(タンパク濃度20mg/mL)に電気泳動用試料調製液(4%SDS、10%beta-メルカプトエタノール、20%グリセロール、125mM Tris、 pH 6.8)を等量混合し、2分間煮沸処理を行い、10μLを電気泳動に使用した。試料は10%ポリアクリルアミドを用いて泳動した後、PVDFフィルターに電気的に転写し、ブロックエース(ブロッキング剤、大日本製薬社製)に浸してブロッキングを行った。20mM PBS(-)で1.2μg/mLに調製した各ポリクローナル抗体を一次抗体に用い1時間の反応を行い、500mM塩化ナトリウム及び0.5%ツイーン20を含む20mM Tris pH 7.0(洗浄液)でフィルターを洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識デキストランポリマー結合抗ウサギポリクローナル抗体(Dako Cytomation)を二次抗体として1時間反応した。ついで洗浄液でフィルターを洗浄し、化学発光試薬(CDP-star、 Tropix)を使用して酵素反応を行いOPRTの検出を行った。その結果、図1に示すように、本発明の抗ヒトOPRT抗体はいずれもOPRTのみを特異的に認識することが確認された。
【0038】
実施例2(サンドイッチELISA法によるヒトOPRTの定量)
(1)Standardとしては、大腸菌を培養して得られたrhOPRTを利用した。その製法は次のとおりである。PCRにてヒトOPRTの全長cDNAをクローニングし、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)とrhOPRTとの融合タンパク質を発現するように作成されたプラスミドを導入した大腸菌BL21を、100 μg/mLのアンピシリン存在下、100mLのLB培地(和光純薬工業社製)中で37℃にて一晩振盪培養した。その培養液10mLを1LのLB培地の入った三角フラスコに移し、37℃で更に4時間培養した。遠心による集菌後、100mLの集菌バッファー(50mM Tris、 8M Urea、 1mM PMSF、 5mM EDTA、 5mM DTT pH7.4)に菌体を懸濁後、4℃で30分間緩やかに攪拌した。懸濁液を4℃で超音波破砕後、15000xg、4℃で30分間の遠心処理を行った。その後、上清中の尿素の濃度を透析処理により徐々に1Mまで落とし、リフォールディング処理を行い、2mLのグルタチオン(GSH)−セファロース(シグマ社製)を充填したカラムに通し、洗浄液(20mM Tris、 1M Urea、 5mM EDTA pH7.4)10mLにて洗浄した。この融合タンパクが結合したグルタチオン(GSH)−セファロースに600Uのthrombinを加え、2.5mM塩化カルシウム存在下に4℃で一晩反応させ、GST-OPRT融合タンパクの結合部位を切断した。thrombinとrhOPRTの混合物はBenzamidine-Sepharoseカラムを通すことで、目的のrhOPRT溶液を得た。ブラッドフォード法によるタンパク定量の結果、20μg/mLの濃度のrhOPRTが14mL得られた。
【0039】
(2)抗OPRT抗体組み合わせの比較
抗OPRT-A抗体、抗OPRT-B抗体及び抗OPRT-C抗体を0.1mM炭酸緩衝液pH9.6で5.0μg/mLに調製して96穴のELISA用プレートに0.1mL分注し、シールをして4℃のインキュベーター内で一晩コーティングを行い、抗体固定化担体を得た。96穴プレートを0.05%ツイーン20含有PBS(-)で2回洗浄後、0.1%BSA含有PBS(-)を0.1mL加え非特異吸着のブロッキングを行った。洗浄液で2回洗浄した後、1.88ng/mLの濃度のrhOPRT溶液を0.1mL添加し、室温で1時間反応させた。洗浄液で5回洗浄した後、希釈液(0.1%BSA, 0.05% ツイーン20含有PBS(-))にて0.5μg/mLに希釈した抗OPRT-A抗体、抗OPRT-B抗体及び抗OPRT-C抗体のパーオキシダーゼ標識抗体を0.1mLづつ分注し、室温で30分間反応させた。洗浄液で7回洗浄後、1.3mg/mLのオルトフェニレンジアミンと0.01%の過酸化水素水、1mM EDTAを含む0.1Mのリン酸−クエン酸緩衝液pH5.1(発色液)を0.1mL加え、室温暗所にて30分酵素反応を行った。最後に、0.1M硫酸0.1mLを加えて反応を停止し、492nmの吸光度の測定を行った。この結果を図2に示す。
【0040】
抗OPRT-B抗体を用いた場合には、いずれの組み合わせのときも、十分な吸光度が得られなかった。抗OPRT-A抗体と抗OPRT-C抗体の組み合わせたとき、最も高感度にrhOPRTの濃度を測定できることが確認された。
【0041】
(3)サンドイッチELISA法によるヒトOPRT量の定量性
抗OPRT-C抗体を0.1mM炭酸緩衝液pH9.6で5.0μg/mLに調製して96穴のELISA用プレートに0.1mL分注し、シールをして4℃のインキュベーター内で一晩コーティングを行い、抗体固定化担体を得た。96穴プレートを0.05%ツイーン20含有PBS(-)で2回洗浄後、0.1%BSA含有PBS(-)を0.1mL加え非特異吸着のブロッキングを行った。洗浄液で2回洗浄した後、0.47、0.94、1.88、3.75、7.5ng/mLの濃度に調製したrhOPRT溶液を0.1mL添加し室温で1時間反応させた。洗浄液で5回洗浄した後、0.5μg/mLに希釈液にて希釈したパーオキシダーゼ標識抗OPRT-A抗体を0.1mLづつ分注し、室温で30分間反応させた。洗浄液で7回洗浄後、1.3mg/mLのオルトフェニレンジアミンと0.01%の過酸化水素水、1mM EDTAを含む0.1Mのリン酸−クエン酸緩衝液pH5.1(発色液)を0.1mL加え、室温暗所にて5分酵素反応を行った。最後に、0.1M硫酸0.1mLを加えて反応を停止し、492nmの吸光度の測定を行った。この結果を図3に示す。
【0042】
固相化抗体として抗OPRT-C抗体を用い、検出抗体として抗OPRT-A抗体を用いたとき、定量的にrhOPRTの濃度を測定できることが確認され、ここにサンドイッチELISAシステムが確立した。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】抗OPRT抗体のウエスタンブロッティングの結果を示す図である。
【図2】抗OPRT−A抗体、抗OPRT−B抗体及び抗OPRT−C抗体の2種を組み合せて用いたサンドイッチELISA系の結果を示す図である。 図中A−B:抗OPRT−A抗体固相化−抗OPRT−B抗体検出。 図中B−A:抗OPRT−B抗体固相化−抗OPRT−A抗体検出。 図中B−C:抗OPRT−B抗体固相化−抗OPRT−C抗体検出。 図中C−A:抗OPRT−C抗体固相化−抗OPRT−A抗体検出。 図中C−B:抗OPRT−C抗体固相化−抗OPRT−B抗体検出。
【図3】固定化抗体として抗OPRT−C抗体を用い、検出抗体として抗OPRT−A抗体を用いたELISA系の検量線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ抗体。
【請求項2】
ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ抗体。
【請求項3】
ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ抗体と、ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ抗体とを含有する、ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼタンパク質測定用キット。
【請求項4】
測定手段がサンドイッチELISAである請求項3記載の測定用キット。
【請求項5】
ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼのN末端から86番目〜108番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ抗体と、ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼのN末端から454番目〜474番目のアミノ酸の領域に存在するエピトープを認識する抗ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ抗体とを組み合わせて使用する、ヒトオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼタンパク質の測定法。
【請求項6】
測定手段がサンドイッチELISAである請求項5記載の測定法。


【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−241070(P2006−241070A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59221(P2005−59221)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000207827)大鵬薬品工業株式会社 (52)
【出願人】(000138277)株式会社三菱化学ヤトロン (30)
【Fターム(参考)】