説明

ヒト化FcγRマウス

遺伝子改変が内因性低親和性FcγR遺伝子座の欠失を含み、マウスが機能的FcR γ鎖を発現することができる、遺伝子改変された非ヒト動物、ならびにそれらを作製および使用するための方法および組成物を提供する。内因性FcγR遺伝子座由来の低親和性ヒトFcγR遺伝子を発現するマウスを含めた、機能的FcR γ鎖を含む、遺伝子改変されたマウスを記載する。宿主免疫系のアクセサリー細胞上に5つまでの低親和性ヒトFcγR遺伝子を発現する、遺伝子改変されたマウスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明の分野は、内因性マウスFcγR遺伝子を欠く遺伝子改変された非ヒト動物であり、これには、内因性FcγR遺伝子の、ヒトFcγR遺伝子による置き換えを含む遺伝子改変された動物が含まれ、かつ少なくとも2、3、4、または5つの機能的ヒト低親和性FcγR遺伝子を発現することができるマウスが含まれ、かつ内因性低親和性FcγR遺伝子を発現しない免疫細胞を含む遺伝子改変されたマウスが含まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
Fc受容体(FcR)は、哺乳動物において免疫系の様々な機能を実行する、免疫系の細胞の表面上に見出されるタンパク質である。FcRは、様々な細胞上に、様々なタイプで存在し、たとえば、感染細胞または侵入している病原体に付いている抗体への結合、抗体媒介性食作用または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)によって微生物または感染細胞を破壊するために、食作用性細胞または細胞傷害性細胞の刺激などのような、様々な免疫機能を媒介する。
【0003】
ADCCは、それによって、抗体が結合した標的細胞を免疫系のエフェクター細胞が溶解するプロセスである。このプロセスは、外来抗原または外来細胞に対する事前の曝露に依存し、抗体応答をもたらす。ADCCは、それ自体が外来抗原または外来細胞に結合した抗体のFc部分への、エフェクター細胞の表面上に発現されたFcRの結合によって、たとえばナチュラルキラー(NK)細胞などのようなエフェクター細胞を通して媒介することができる。FcRが免疫応答において果たす中心的な役割のために、複数のヒト低親和性FcRを同時発現する非ヒト動物を含む、複数のヒトFcRを同時発現する有用な非ヒト動物が必要とされる。ヒト疾患療法、特に、抗腫瘍療法および自己免疫疾患を治療するための療法に関する研究および解明ならびに特に、ヒト抗体医薬品の開発、設計、および試験における医薬開発のための、ヒトFcR機能およびADCCのヒトプロセスの非ヒト動物モデルの必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
遺伝子改変された細胞、非ヒト胚、非ヒト動物、ならびにそれらを作製し、使用するための方法および組成物が提供される。様々な態様では、非ヒト動物は、ヒトFcγR受容体、内因性低親和性FcγR受容体の欠失、および/または内因性マウス低親和性FcγRの遺伝子座での、内因性FcγR受容体の、ヒトFcγR受容体による置き換えを含む。
【0005】
一態様では、機能的FcR γ鎖を含む、遺伝子改変された細胞、非ヒト胚、および非ヒト動物が提供され、細胞、胚、および動物は、低親和性内因性非ヒトFcγR遺伝子配列(たとえばFcγRIIB、FcγRIV、およびFcγRIII)の、1つまたは複数の低親和性ヒトFcγR遺伝子配列(たとえば、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、FcγRIIIB、およびその組合せから選択される)による置き換えを含む、さらなる改変を含む。
【0006】
一実施形態では、細胞、非ヒト胚、および非ヒト動物は、マウスである。一実施形態では、機能的FcR γ鎖は、マウスFcR γ鎖である。一実施形態では、マウスFcR γ鎖は、マウス、細胞、または胚に対して内因性のFcR γ鎖である。
【0007】
一実施形態では、細胞、胚、および動物は、マウスであり、マウスは、ヒト低親和性FcγR受容体の機能的α鎖および機能的内因性マウスγ鎖を発現する。
【0008】
一態様では、遺伝子改変されたマウスが提供され、マウスは、FcγRIIB α鎖、FcγRIV α鎖、FcγRIII α鎖、およびその組合せから選択される内因性α鎖を発現せず、マウスは、機能的内因性マウスγ鎖を発現する。
【0009】
特定の実施形態では、マウスは、機能的FcγRIIB α鎖を発現せず、機能的FcγRIV α鎖を発現せず、かつ機能的FcγRIII α鎖を発現しない。
【0010】
一実施形態では、マウスゲノムは、内因性FcγRIIB α鎖の欠失、内因性FcγRIV α鎖の欠失、および内因性FcγRIII α鎖の欠失を含む。
【0011】
一実施形態では、マウスは、内因性FcγRIIB α鎖の欠失、内因性FcγRIV α鎖の欠失、および内因性FcγRIII α鎖の欠失を含み、さらに、同じ抗原に関して、野生型マウスの能力と比較して、抗原に対する免疫応答を行う能力が低下している。一実施形態では、免疫応答の低下は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の減少を含む。一実施形態では、免疫応答の低下は、抗体依存性NK細胞殺傷を達成するための細胞殺傷アッセイにおける能力の低下を含む。特定の実施形態では、ADCCまたは抗体依存性NK細胞殺傷における低下は、少なくとも50%であり、一実施形態では少なくとも75%、一実施形態では少なくとも90%である。
【0012】
一実施形態では、マウスは、内因性FcγRIIB α鎖の欠失、内因性FcγRIV α鎖の欠失、および内因性FcγRIII α鎖の欠失を含み、野生型マウス、たとえば、欠失を含まない同じまたは類似する株のマウスと比較して、抗原を用いる免疫化に際しての体液性抗体応答の増加をさらに含む。一実施形態では、体液性抗体応答の増加は、野生型マウスと比較して、2倍である。一実施形態では、体液性抗体応答の増加は、野生型マウスと比較して、3倍である。一実施形態では、体液性抗体応答の増加は、野生型マウスと比較して、5倍である。一実施形態では、体液性抗体応答の増加は、野生型マウスと比較して、7倍である。一実施形態では、体液性抗体応答の増加は、野生型マウスと比較して、10倍である。特定の実施形態では、体液性抗体応答は、マウス由来の血清タンパク質の1マイクログラム当たりの、(マウスが免疫化される)抗原に特異的に結合する抗体のマイクログラムによって測定される。一実施形態では、体液性抗体応答の増加は、野生型マウスが耐性を示す抗原または野生型マウスにおいて弱いもしくは最小限の体液性免疫反応を示す抗原に関してのものである。特定の実施形態では、抗原は、マウス抗原である。特定の実施形態では、抗原は、少なくとも約95%、96%、97%、98%、または99%のマウスタンパク質との同一性を示すヒト抗原である。
【0013】
一態様では、低親和性マウスFcγR α鎖遺伝子の、低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子による置き換えを含む、遺伝子改変されたマウスが提供され、置き換えは、内因性マウスFcγR α鎖遺伝子の遺伝子座でのものである。一実施形態では、低親和性マウスFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIB、FcγRIV、およびFcγRIII α鎖遺伝子から選択される。特定の実施形態では、遺伝子改変されたマウスが提供され、マウスは、内因性FcR γ鎖を発現し、低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIIA α鎖である。他の特定の実施形態では、遺伝子改変されたマウスは、NK細胞上に、内因性FcR γ鎖および機能的ヒトFcγRIIIA α鎖を発現する。特定の実施形態では、NK細胞上のFcγRIIIA α鎖の機能性は、ヒト抗体媒介性NK殺傷(たとえばヒト抗体によって媒介されるADCC)によって反映される。
【0014】
一態様では、遺伝子改変された細胞、非ヒト胚、または非ヒト動物が提供され、遺伝子改変は、少なくとも1つの内因性低親和性FcγR α鎖遺伝子の、ヒトFcγR α鎖遺伝子による置き換えを含み、細胞、胚、または動物は、機能的FcR γ鎖を発現する。一実施形態では、機能的FcR γ鎖は、内因性FcR γ鎖である。一実施形態では、低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIA α鎖遺伝子、FcγRIIIA α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。特定の実施形態では、ヒトFcγRIIA遺伝子は、多型を含み、多型は、131His低応答動物多型および131Arg高応答動物多型から選択される。特定の実施形態では、FcγRIIA多型は、131His低応答動物多型である。一実施形態では、FcγRIIIA遺伝子は、特異的な対立遺伝子変異体(allelic variant)であり、対立遺伝子変異体は、158Val変異体および158Phe変異体から選択される。特定の実施形態では、FcγRIIIA対立遺伝子変異体は、158Val変異体である。
【0015】
一実施形態では、低親和性ヒトFcγR遺伝子は、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIB遺伝子、およびその組合せから選択される。特定の実施形態では、ヒトFcγRIIB遺伝子は、アミノ酸置換を含み、置換は、232Ileまたは232Thr置換から選択される。他の特定の実施形態では、アミノ酸置換は、232Ile置換である。特定の実施形態では、FcγRIIIB遺伝子は、特異的対立遺伝子変異体であり、対立遺伝子変異体は、NA1変異体およびNA2変異体から選択される。他の特定の実施形態では、FcγRIIIB対立遺伝子変異体は、NA2変異体である。
【0016】
一実施形態では、低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、FcγRIIIB α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。
【0017】
一実施形態では、低親和性マウスFcγRIV α鎖遺伝子およびFcγRIII α鎖遺伝子は、少なくとも1つの低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子によって置き換えられる。一実施形態では、低親和性マウスFcγRIV α鎖遺伝子およびFcγRIIB α鎖遺伝子は、少なくとも1つの低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子によって置き換えられる。一実施形態では、低親和性マウスFcγRIIB α鎖遺伝子およびFcγRIII α鎖遺伝子は、少なくとも1つの低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子によって置き換えられる。特定の実施形態では、少なくとも1つの低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、FcγRIIIB α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。他の特定の実施形態では、少なくとも1つの低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIA α鎖遺伝子、FcγRIIIA α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。他の特定の実施形態では、少なくとも1つの低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIB α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。他の特定の実施形態では、低親和性マウスFcγR遺伝子は、ヒトFcγRIIA α鎖遺伝子およびヒトFcγRIIIA α鎖遺伝子によって置き換えられる。他の特定の実施形態では、低親和性ヒトFcγRIIA α鎖遺伝子およびFcγRIIIA α鎖遺伝子は、変異体を含み、FcγRIIA α鎖遺伝子は、131His変異体を含み、FcγRIIIA α鎖遺伝子は、158Val変異体を含む。他の特定の実施形態では、低親和性マウスFcγR α鎖遺伝子は、以下の低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子:FcγRIIB、FcγRIIC、およびFcγRIIIBによって置き換えられる。他の特定の実施形態では、低親和性ヒトFcγRIIB α鎖遺伝子およびFcγRIIIB α鎖遺伝子は、変異体を含み、FcγRIIB α鎖遺伝子は、232Ile変異体を含み、FcγRIIIB α鎖遺伝子は、NA2変異体を含む。
【0018】
一実施形態では、遺伝子改変は、マウスおよびヒト染色体1のシンテニックゲノム配列の置き換えを含む。特定の実施形態では、遺伝子改変は、内因性低親和性マウスFcγR遺伝子を含むゲノム断片の、低親和性ヒトFcγR遺伝子を含むゲノム断片による置き換えを含む。他の特定の実施形態では、染色体1:172,889,983〜染色体1:172,989,911のマウスゲノムは、ヒト染色体1:161,474,729〜染色体1:161,620,458を含むヒトゲノム断片によって置き換えられる。
【0019】
一態様では、遺伝子改変された細胞、非ヒト胚、または非ヒト動物が提供され、遺伝子改変は、1つまたは複数の内因性低親和性受容体α鎖遺伝子のノックアウトおよび1つまたは複数のヒトFcγR α鎖遺伝子を含むエピソームの存在を含む。特定の実施形態では、細胞、胚、または動物は、機能的FcR γ鎖を発現する。特定の実施形態では、エピソームは、ミニ染色体である。一実施形態では、機能的FcR γ鎖は、細胞、胚、または動物に対して内因性である。
【0020】
一態様では、低親和性マウスFcγR α鎖遺伝子の、低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子による置き換えを含む、遺伝子改変されたマウスが提供され、マウスは、マウスFcR γ鎖遺伝子を含み、マウスは、機能的ヒト低親和性FcγR受容体を発現する。一実施形態では、機能的低親和性FcγR受容体は、ヒトにおいて低親和性FcγR受容体が発現される細胞型上に発現される。特定の実施形態では、機能的ヒト低親和性FcγR受容体は、FcγRIIIAであり、FcγRIIIAは、NK細胞上に発現される。
【0021】
一実施形態では、マウスは、2つのマウスFcγR α鎖遺伝子の欠失を含む。他の実施形態では、マウスは、3つのマウスFcγR α鎖遺伝子の欠失を含む。
【0022】
一実施形態では、マウスは、3つのマウスFcγR α鎖遺伝子の、少なくとも1つのヒトFcγR α鎖遺伝子による置き換えを含む。他の実施形態では、マウスは、2つのマウスFcγR α鎖遺伝子の、少なくとも1つのヒトFcγR α鎖遺伝子による置き換えを含む。特定の実施形態では、マウスは、3つのマウスFcγR α鎖遺伝子の、少なくとも2つのヒトFcγR α鎖遺伝子による置き換えを含む。他の特定の実施形態では、3つのマウスFcγR α鎖遺伝子は、3つのヒトFcγR α鎖遺伝子によって置き換えられる。他の特定の実施形態では、マウスは、2つのマウスFcγR α鎖遺伝子の、少なくとも2つのヒトFcγR α鎖遺伝子による置き換えを含む。他の特定の実施形態では、2つのマウスFcγR α鎖遺伝子は、少なくとも3つのヒトFcγR α鎖遺伝子によって置き換えられる。
【0023】
一実施形態では、低親和性マウスFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIB、FcγRIV、FcγRIII α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。
【0024】
一実施形態では、低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、FcγRIIIB α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。一実施形態では、低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIA、FcγRIIIA α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。一実施形態では、低親和性ヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIB α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。
【0025】
一実施形態では、低親和性マウスFcγRIV α鎖遺伝子およびFcγRIII α鎖遺伝子は、少なくとも1つのヒトFcγR α鎖遺伝子によって置き換えられる。一実施形態では、低親和性マウスFcγRIV α鎖遺伝子およびFcγRIIB α鎖遺伝子は、少なくとも1つのヒトFcγR α鎖遺伝子によって置き換えられる。一実施形態では、低親和性マウスFcγRIIB α鎖遺伝子およびFcγRIIIB α鎖遺伝子は、少なくとも1つのヒトFcγR α鎖遺伝子によって置き換えられる。特定の実施形態では、少なくとも1つのヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、FcγRIIIB α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。他の特定の実施形態では、少なくとも1つのヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIA、FcγRIIIA α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。他の特定の実施形態では、少なくとも1つのヒトFcγR α鎖遺伝子は、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIB α鎖遺伝子、およびその組合せから選択される。他の特定の実施形態では、マウスα鎖遺伝子は、以下のヒトFcγR α鎖遺伝子:FcγRIIAおよびFcγRIIIAによって置き換えられる。他の特定の実施形態では、マウスα鎖遺伝子は、以下のヒトFcγR α鎖遺伝子:FcγRIIB、FcγRIIC、およびFcγRIIIBによって置き換えられる。
【0026】
一態様では、低親和性ヒトFcγR α鎖およびマウスFcR γ鎖サブユニットを含む遺伝子改変されたマウスが提供され、マウスは、好中球、好酸球、好塩基球、単球、マクロファージ、血小板、ランゲルハンス細胞、樹状細胞、NK細胞、肥満細胞、B細胞、T細胞、およびその組合せから選択される細胞上にヒトFcγR α鎖を発現する。一実施形態では、マウスは、好中球、マクロファージ、好酸球、血小板、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、およびその組合せから選択される細胞上にヒトFcγRIIA α鎖を発現する。一実施形態では、マウスは、発現されたヒトFcγRIIA α鎖を通して開始または媒介される食作用、ADCC、および細胞性の活性化が可能である。一実施形態では、マウスは、マクロファージ、NK細胞、単球、肥満細胞、好酸球、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、少なくとも1つのT細胞型、およびその組合せから選択される細胞上にヒトFcγRIIIA α鎖を発現する。一実施形態では、マウスは、NK細胞上に発現されるヒトFcγRIIIA α鎖を通して媒介されるADCCが可能である。特定の実施形態では、マウスは、ヒトFcを含む抗体に応じて、hFcγRIIIA媒介性のADCCを示す。
【0027】
一実施形態では、マウスは、ヒトFcγRIIA α鎖およびヒトFcγRIIIA α鎖の両方を発現する。一実施形態では、ヒトFcγRIIA α鎖は、血小板上に発現され、ヒトFcγRIIIA α鎖は、NK細胞上に発現される。一実施形態では、マウスは、ヒトFcを含む抗体によって媒介されるADCCが可能であり、媒介は、アクセサリー細胞の表面上に発現されるヒトFcγRIIA α鎖を通してのまたはヒトFcγRIIIA α鎖を通してのものである。一実施形態では、ヒトFcγRIIA α鎖は、血小板上に発現されない。ヒトFcγRIIA α鎖が血小板上に発現されない特定の実施形態では、マウスは、ヒトゲノムにおいてヒトFcγRIIA α鎖に作動可能に連結されるヒトプロモーター配列を欠くまたは実質的に欠く。
【0028】
一実施形態では、マウスは、B細胞、肥満細胞、好塩基球、マクロファージ、好酸球、好中球、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、およびその組合せから選択される細胞上にヒトFcγRIIB α鎖を発現する。特定の実施形態では、マウスは、B細胞および肥満細胞上にヒトFcγRIIB α鎖を発現する。他の特定の実施形態では、マウスは、発現されたヒトFcγRIIB α鎖を通して媒介される免疫複合体のエンドサイトーシスが可能である。一実施形態では、マウスは、好中球、マクロファージ、好酸球、血小板、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、およびその組合せから選択される細胞上にヒトFcγRIIC α鎖を発現する。特定の実施形態では、マウスは、発現されたヒトFcγRIIC α鎖を通して開始される食作用、ADCC、および細胞の活性化が可能である。
【0029】
一実施形態では、マウスは、好中球および好酸球上にヒトFcγRIIIB α鎖を発現する。特定の実施形態では、マウスは、細胞の活性化、食作用、ADCC、および脱顆粒が可能であり、活性化、食作用、ADCC、および脱顆粒は、発現されたヒトFcγRIIIB α鎖を通して媒介される。
【0030】
一態様では、内因性FcγRIIB、FcγRIV、およびFcγIII遺伝子の欠失ならびにヒトFcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIB遺伝子の挿入を含むマウスが提供され、マウスは、機能的マウスFcR γ鎖遺伝子を含む。
【0031】
一実施形態では、マウスは、内因性FcγRIIB、FcγRIV、およびFcrRIII遺伝子によってコードされるα鎖の欠失ならびにヒトFcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIB遺伝子によってコードされるα鎖の挿入を含む。
【0032】
一実施形態では、ヒトFcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIB α鎖遺伝子の挿入は、マウスゲノム内のランダムな位置にある。
【0033】
一実施形態では、ヒトFcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIB α鎖遺伝子の挿入は、内因性マウス低親和性FcγR α鎖の遺伝子座にある。
【0034】
一実施形態では、マウスは、NK細胞およびマクロファージ上にヒトFcγRIIIAを発現する。特定の実施形態では、マウスの脾細胞試料由来のすべてまたは実質的にすべてのNK細胞は、ヒトFcγRIIIAを発現する。特定の実施形態では、マウスの脾細胞試料由来のすべてまたは実質的にすべてのマクロファージは、ヒトFcγRIIIAを発現する。
【0035】
一実施形態では、マウスは、好中球、マクロファージ、およびその組合せから選択される細胞型上に、ヒトFcγRIIA、ヒトFcγRIIIA、およびその組合せから選択されるヒトFcγRを発現する。特定の実施形態では、マウスは、マウス由来の脾細胞試料のすべてまたは実質的にすべての好中球およびマクロファージ上にヒトFcγRIIAおよびヒトFcγRIIIAを発現する。
【0036】
一実施形態では、マウスは、このマウスからのB細胞ゲーティングされた脾細胞試料からのB細胞のうち、B細胞および好中球上にヒトFcγRIIBおよびヒトFcγRIIIBを発現する。特定の実施形態では、マウスは、このマウスからB細胞ゲーティングされた脾細胞試料からのすべてまたは実質的にすべてのB細胞および好中球上にFcγRIIIBおよびFcγRIIBを発現する。
【0037】
一実施形態では、マウスは、ヒト化CD20遺伝子をさらに含む。一実施形態では、ヒト化CD20遺伝子をさらに含むマウスは、Fcを含む抗CD20結合タンパク質を用いる処理に続いて、B細胞の枯渇(in vivoにおいて)を示す。一実施形態では、枯渇は、骨髄、血液、リンパ節、脾臓、およびその組合せから選択されるコンパートメントにおけるものとする。一実施形態では、Fcは、ヒトFcである。一実施形態では、Fcは、マウスFcである。一実施形態では、抗CD20結合タンパク質は、抗CD20抗体である。
【0038】
一態様では、本明細書において記載される遺伝子改変を含む細胞が提供される。一実施形態では、細胞は、胚性幹(ES)細胞、多能性細胞、誘導多能性細胞、および全能性細胞から選択される。一実施形態では、細胞は、マウス細胞およびラット細胞から選択される。特定の実施形態では、細胞は、ES細胞である。特定の実施形態では、細胞は、マウスES細胞である。
【0039】
一態様では、本明細書において記載される遺伝子改変を含む非ヒト胚が提供される。一実施形態では、非ヒト胚は、マウス胚およびラット胚から選択される。
【0040】
一態様では、治療薬の効能を決定するための方法が提供される。一実施形態では、治療薬は、ヒトFcを含む抗体(たとえば単一特異性、二重特異性、三重特異性、多重特異性)である。一実施形態では、治療薬は、ヒト抗体である。一実施形態では、効能は、治療薬媒介性の細胞殺傷(たとえばADCC)の効能である。特定の実施形態では、ヒト治療薬は、ヒト免疫グロブリン重鎖のFcを含む融合タンパク質である。一実施形態では、治療薬は、本明細書において記載されるように、マウスに投与され、治療薬依存性のADCCのレベルが測定される。一実施形態では、マウスは、治療薬をマウスに投与し、次いで、FcγR発現細胞上のヒト低親和性FcγRへの治療薬の結合を検出することによって(たとえば、動物から採取された試料(たとえば血液)からin vitroにおいて)、治療薬のADCC活性を評価するために使用される。特定の実施形態では、マウスのアクセサリー細胞は、マウスから単離され、治療薬依存性のADCCを媒介するための、治療薬の存在下または非存在下における能力について試験される。
【0041】
一態様では、低親和性FcγRがヒト疾患または障害と関連するかどうかを決定するための方法であって、本発明に従って、マウスにおいて、ヒト疾患または障害と関連する形質を決定するステップを含む、方法が提供される。一実施形態では、形質は、1つまたは複数の低親和性FcγRの機能の不在または損失と関連する表現型である。特定の実施形態では、疾患または障害は、自己免疫疾患または障害である。特定の実施形態では、自己免疫疾患または障害は、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、I型糖尿病、ギラン−バレー症候群、硬化症、多発性硬化症、グッドパスチャー症候群、ウェゲナー肉芽腫症、および実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)から選択される。特定の実施形態では、マウスは、低親和性FcγRにおいて多型を含み、形質は、多型を有しない大多数のヒト集団と比較した、ADCCを媒介するための能力の増強および多型を有しない大多数のヒト集団と比較した、ADCCを媒介するための能力の低下から選択される。
【0042】
一態様では、マウスにおいて抗ヒトFcR α鎖抗体を作製するための方法であって、本明細書において記載されるヒトFcRに対して本発明によるマウスを曝露するステップを含む、方法が提供される。一実施形態では、ヒトFcRを認識する抗体は、マウスから単離される。他の実施形態では、ヒトFcRを認識する抗体の可変領域のすべてまたは一部をコードする核酸配列は、同定され、クローニングされる。
【0043】
一態様では、標的分子の食作用についての、FcR発現細胞に対する標的分子に対する抗ヒトFcR抗体の能力を決定するための方法であって、抗ヒトFcR抗体を含む作用物質に対して本明細書において記載されるマウスを曝露するステップおよび標的分子の食作用を測定するステップを含む、方法が提供される。
【0044】
一態様では、1つまたは複数のFcγRに関して野生型であるマウスにおいて低免疫原性の抗原に対して、マウスにおいて抗体を作製するための方法であって、1つまたは複数のFcγRに関して野生型であるマウスにおいて低免疫原性の抗原に対して、マウス低親和性FcRを欠くが、FcγR γ鎖を発現する、本明細書において記載されるマウスを曝露するステップおよび低抗原性の抗原を認識する抗体を同定するステップを含む、方法が提供される。一実施形態では、方法は、マウスから抗体を単離するステップを含む。他の実施形態では、抗体の可変領域のすべてまたは一部をコードする核酸配列は、同定され、クローニングされる。
【0045】
一態様では、ヒト可変領域を含む抗体を作ることができるマウスを作製するための方法であって、本明細書において記載される第1のマウスを、(a)1つもしくは複数のヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントおよび1つまたは複数のヒト定常領域遺伝子または(b)マウス定常領域遺伝子に作動可能に連結された1つもしくは複数のヒト免疫グロブリン可変領域遺伝子セグメントを含む第2のマウスと交配するステップを含み、ヒト遺伝子セグメントは、マウス可変領域遺伝子セグメントの遺伝子座で可変領域遺伝子セグメントに取って代わる、方法が提供される。
【0046】
一実施形態では、第2のマウスは、(a)1つまたは複数のヒト免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子セグメントおよびヒト軽鎖定常遺伝子を含む導入遺伝子ならびに1つまたは複数のヒト免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子セグメントおよび1つまたは複数のヒト重鎖定常遺伝子を含む導入遺伝子を含む。一実施形態では、1つまたは複数のヒト免疫グロブリン重鎖可変領域遺伝子セグメントを含む導入遺伝子は、2つ以上の重鎖定常遺伝子を含み、クラススイッチが可能である。特定の実施形態では、マウスは、不活性化された内因性軽鎖遺伝子座および/または不活性化された内因性重鎖遺伝子座を含む。特定の実施形態では、マウスは、内因性軽鎖遺伝子座の欠失および/または内因性重鎖遺伝子座の欠失を含む。
【0047】
一実施形態では、第2のマウスは、(b)それぞれ、重鎖および軽鎖のマウス遺伝子座に、ヒト重鎖可変領域遺伝子セグメントおよびヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントを含む。
【0048】
一態様では、抗腫瘍抗体を選択するための方法であって、ADCCを媒介するための抗体の能力を決定するステップを含み、ADCCを媒介するための抗体の能力は、本明細書において記載されるマウスの細胞によって媒介されるADCCを決定することによって試験され、抗体は、それが本明細書において記載される遺伝子改変されたマウスの細胞を用いるADCCを媒介する場合、選択される、方法が提供される。特定の実施形態では、遺伝子改変されたマウスの細胞への抗体の結合が決定され、抗腫瘍抗体が、細胞上のヒトFcγRに結合するその能力について選択される。特定の実施形態では、ヒトFcγRは、低親和性FcγRである。
【0049】
一実施形態では、抗腫瘍抗体は、野生型マウスの細胞を通してADCCを媒介するための抗腫瘍抗体の能力と比較した、マウスの細胞を通してADCCを媒介する能力の増強によって同定される。特定の実施形態では、抗腫瘍抗体は、NK細胞を通してADCCを媒介するその能力によって同定される。特定の実施形態では、NK細胞は、ヒトFcγRIIIAを発現する。
【0050】
一実施形態では、抗腫瘍作用物質を選択するための方法であって、ヒトFcまたは改変ヒトFcを含む作用物質を第1の非ヒト動物に投与するステップであって、第1の非ヒト動物は、本発明に従って遺伝子改変され、ヒト腫瘍を含む、ステップ、腫瘍を含む第2の非ヒト動物に作用物質を投与するステップ、および作用物質の投与に続いて、ヒト腫瘍の成長を遅延させるための、第1の非ヒト動物および第2の非ヒト動物の能力を決定するステップを含み、作用物質は、それが、第2の非ヒト動物においてではなく、第1の非ヒト動物においてヒト腫瘍の成長を遅延させる能力の増強を示す場合、抗腫瘍作用物質として選択される、方法が提供される。
【0051】
一実施形態では、第1の非ヒト動物は、内因性FcR αサブユニットの欠失を含むように改変され、FcγRIIA αサブユニット、FcγRIIB αサブユニット、FcγRIIC αサブユニット、FcγRIIIA αサブユニット、FcγRIIIB αサブユニット、およびその組合せから成る群から選択されるヒトFcR αサブユニットを含むように改変される。一実施形態では、第2の動物は、野生型動物である。一実施形態では、第1の非ヒト動物は、内因性FcR γ鎖を発現する。
【0052】
一実施形態では、第1の非ヒト動物は、機能的内因性FcγRIを発現する。
【0053】
一態様では、低親和性マウスFcγRを欠き、機能的FcR γ鎖を発現し、ヒトFcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIBのα鎖をコードする遺伝子を含む、マウスを作製するための方法であって、マウスFcγR α鎖の遺伝子座で、低親和性マウスFcγR α鎖をヒトFcγR α鎖と置き換えするステップを含む、方法が提供される。
【0054】
一実施形態では、第1のステップは、内因性FcγRIIB、FcγRIV、およびFcγRIII遺伝子のα鎖を欠失させることならびにヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIA遺伝子のα鎖を挿入することを含み、第2のステップは、第1のステップから結果として生じるマウスゲノムの中にヒトFcγRIIB、FcγRIIC、およびFcγRIIIB遺伝子のα鎖を挿入することを含み、マウスは、機能的マウスFcR γ鎖遺伝子を含む。特定の実施形態では、第2のステップのヒトFcγRIIB、FcγRIIC、およびFcγRIIIB遺伝子のα鎖は、第1のステップのヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIA遺伝子のα鎖に対して5’側に挿入される。
【0055】
一態様では、非霊長動物においてヒト治療薬による細胞殺傷を決定するための方法であって、ヒトFcを含むヒト治療薬に、細胞、非ヒト胚、または非ヒト動物を曝露するステップであって、細胞、胚、または動物は、機能的FcR γ鎖を含み、1つまたは複数の内因性低親和性FcγR α鎖遺伝子の、1つまたは複数のヒトFcγR α鎖による置き換えを含む、ステップおよび細胞、胚、または動物の低親和性ヒトFcγRを通して細胞殺傷を媒介するためのヒト治療薬の能力を決定するステップを含む、方法が提供される。
【0056】
一実施形態では、非霊長動物は、マウスである。特定の実施形態では、内因性マウスFcγR α鎖遺伝子FcγRIIB、FcγRIV、およびFcγRIIIは、ヒトFcγR α鎖遺伝子FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIBと置き換えされる。
【0057】
一実施形態では、細胞は、B細胞、肥満細胞、好塩基球、マクロファージ、好酸球、好中球、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、およびその組合せから選択される。特定の実施形態では、細胞は、NK細胞であり、ヒト抗体またはヒト化抗体によるNK細胞媒介性ADCCが、決定される。特定の実施形態では、低親和性ヒトFcγRは、ヒトFcγRIIIAである。
【0058】
一態様では、治療薬依存性の血栓形成を決定するための方法であって、治療薬に、血小板上にヒトFcγRIIAを発現する第1の非ヒト動物を曝露するステップ、当該治療薬に、血小板上にヒトFcγRIIAを発現しない第2の非ヒト動物を曝露するステップ、第1の非ヒト動物および第2の非ヒト動物において、治療薬依存性の血栓形成の量を測定するステップ、ならびに治療薬依存性の血栓形成における差異を決定するステップを含む、方法が提供される。
【0059】
一実施形態では、非ヒト動物は、マウスおよびラットから選択される。
【0060】
一実施形態では、治療薬依存性の血栓形成における決定された差異は、ヒトへの治療薬の投与と関連する危険性を同定するために用いられる。一実施形態では、決定された差異は、その必要性のあるヒト患者への治療薬の投与の変化をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、マウスFcγRIIB、FcγRIV、およびFcγRIII遺伝子を示す、マウスにおける野生型低親和性FcγR遺伝子座、ならびにこれらの遺伝子の標的欠失のために使用される、部位特異的組換え部位に挟まれたネオマイシンカセットを含むマウスFcγRターゲッティングベクターの略図である。
【図2】図2は、野生型FcγRおよび低親和性FcγR α鎖遺伝子欠損マウス(mFcγR KO)についての、内因性mFcγRIIおよびmFcγRIII遺伝子の発現を含む、B細胞(抗CD19)、NK細胞(抗NKp46)、およびマクロファージ(抗F4/80)についてゲーティングされた脾細胞のヒストグラムを示す図である。
【図3A】図3A〜3Dは、いくつかのリンパ球コンパートメント:骨髄(図3A)、血液(図3B)、リンパ節(図3C)、および脾臓(図3D)における、ヒト化CD20マウス(hCD20)およびFcγRノックアウトマウスに交配したヒト化CD20マウス(hCD20/FcγR KO)における、マウスFc(Ab 168)またはヒトFc(Ab 735)を有するヒト抗ヒトCD20抗体を用いたB細胞のin vivo枯渇を示す図である。それぞれの図について、Y軸は、ゲーティングされたB細胞(B220/IgMまたはB220/CD19)のパーセントを示し、X軸は、それぞれの動物グループについての抗体用量を示す:10mg/kg対照抗体(C)、2mg/kgヒト抗ヒトCD20抗体(2Ab)、および10mg/kgヒト抗ヒトCD20抗体(10Ab)。
【図3B】図3A〜3Dは、いくつかのリンパ球コンパートメント:骨髄(図3A)、血液(図3B)、リンパ節(図3C)、および脾臓(図3D)における、ヒト化CD20マウス(hCD20)およびFcγRノックアウトマウスに交配したヒト化CD20マウス(hCD20/FcγR KO)における、マウスFc(Ab 168)またはヒトFc(Ab 735)を有するヒト抗ヒトCD20抗体を用いたB細胞のin vivo枯渇を示す図である。それぞれの図について、Y軸は、ゲーティングされたB細胞(B220/IgMまたはB220/CD19)のパーセントを示し、X軸は、それぞれの動物グループについての抗体用量を示す:10mg/kg対照抗体(C)、2mg/kgヒト抗ヒトCD20抗体(2Ab)、および10mg/kgヒト抗ヒトCD20抗体(10Ab)。
【図3C】図3A〜3Dは、いくつかのリンパ球コンパートメント:骨髄(図3A)、血液(図3B)、リンパ節(図3C)、および脾臓(図3D)における、ヒト化CD20マウス(hCD20)およびFcγRノックアウトマウスに交配したヒト化CD20マウス(hCD20/FcγR KO)における、マウスFc(Ab 168)またはヒトFc(Ab 735)を有するヒト抗ヒトCD20抗体を用いたB細胞のin vivo枯渇を示す図である。それぞれの図について、Y軸は、ゲーティングされたB細胞(B220/IgMまたはB220/CD19)のパーセントを示し、X軸は、それぞれの動物グループについての抗体用量を示す:10mg/kg対照抗体(C)、2mg/kgヒト抗ヒトCD20抗体(2Ab)、および10mg/kgヒト抗ヒトCD20抗体(10Ab)。
【図3D】図3A〜3Dは、いくつかのリンパ球コンパートメント:骨髄(図3A)、血液(図3B)、リンパ節(図3C)、および脾臓(図3D)における、ヒト化CD20マウス(hCD20)およびFcγRノックアウトマウスに交配したヒト化CD20マウス(hCD20/FcγR KO)における、マウスFc(Ab 168)またはヒトFc(Ab 735)を有するヒト抗ヒトCD20抗体を用いたB細胞のin vivo枯渇を示す図である。それぞれの図について、Y軸は、ゲーティングされたB細胞(B220/IgMまたはB220/CD19)のパーセントを示し、X軸は、それぞれの動物グループについての抗体用量を示す:10mg/kg対照抗体(C)、2mg/kgヒト抗ヒトCD20抗体(2Ab)、および10mg/kgヒト抗ヒトCD20抗体(10Ab)。
【図4】図4は、低親和性マウスFcγR遺伝子座の、ネオマイシンを標的にした欠失、ならびに欠失させたマウス遺伝子座内に2つのヒト低親和性FcγR遺伝子(hFcγRIIIAおよびhFcγRIIA)を挿入するための、部位特異的組換え部位に挟まれたヒグロマイシンカセットを含む第2のターゲッティングベクターの略図である。血小板上のhFcγRIIAの発現のために、ヒトFcγRIIIA−IIAターゲッティングベクターのhFcγRIIA遺伝子に作動可能に連結した伸長プロモーター領域を用いる;血小板上のhFcγRIIAの発現を防止するために、プロモーター領域が取り除かれているか、実質的に取り除かれている。
【図5A】図5Aは、野生型およびヒトFcγRIIIA−IIAホモ接合体マウス(ヒトFcγRIIIA/FcγRIIA HO)についての、ヒトFcγRIIIAの発現を含む、NK細胞(抗NKp46)およびマクロファージ(抗F4/80)についてゲーティングされた脾細胞のヒストグラムを示す図である。
【図5B】図5Bは、野生型およびヒトFcγRIIIA−IIAホモ接合体マウス(ヒトFcγRIIIA/FcγRIIA HO)についての、ヒトFcγRIIAの発現を含む、好中球(抗Ly6G)およびマクロファージ(抗F4/80)についてゲーティングされた脾細胞のヒストグラムを示す図である。
【図6】図6は、2つの低親和性ヒトFcγR遺伝子(hFcγRIIIAおよびhFcγRIIA)の挿入を含む低親和性マウスFcγR遺伝子座の、ヒグロマイシンを標的にした欠失、ならびに3つのさらなる低親和性ヒトFcγR遺伝子(hFcγRIIB、hFcγRIIIB、およびhFcγRIIC)、および部位特異的組換え部位に挟まれたネオマイシンカセットを挿入するための第3のターゲッティングベクターの略図である。
【図7】図7は、野生型およびヒトFcγRIIIA−IIIB−IIA−IIB−IICホモ接合体マウス(ヒトFcγRIIIA/FcγRIIIB/FcγRIIA/FcγRIIB/FcγRIIC HO)についての、ヒトFcγRIIBおよびヒトFcγRIIIBの発現を含む、B細胞(抗CD19)および好中球(抗Ly6G)についてゲーティングされた脾細胞のヒストグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
詳細な説明
本発明は、方法および条件が変更されてもよいので、記載される特定の方法および実験条件に限定されない。本明細書において使用される術語は、特定の実施形態のみを説明する目的のためのものであり、本発明の範囲が請求項によってのみ限定されるので、限定を意図するものではない。
【0063】
その他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する当技術分野の当業者らによって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものに類似するまたはそれと等価であるいかなる方法および材料も、本発明の実施または試験において使用することができるが、ここでは、特定の方法および材料が記載される。本明細書において言及される刊行物はすべて、それらの全体が参照によって本明細書において組み込まれる。
【0064】
語句「標的構築物」は、標的領域を含むポリヌクレオチド分子を含む。標的領域は、標的細胞、組織、または動物における配列に実質的に相同な配列を含み、細胞、組織、または動物のゲノム内の位置への標的構築物の組み込みをもたらす。特定の実施形態では、標的構築物は、さらに特定の対象の核酸配列または遺伝子、選択マーカー、制御配列または調節配列、およびそのような配列を含む組換えを支援するまたは促進するタンパク質の外因性の追加を通して媒介される組換えを可能にする他の核酸配列を含む。他の特定の実施形態では、標的構築物は、対象の遺伝子をさらに含み、対象の遺伝子は、内因性配列によってコードされるタンパク質と類似する機能を有するタンパク質をコードする異種遺伝子である。
【0065】
用語「置き換え」は、その他に示されない限り、DNA配列が、ゲノム内の配列をそのゲノム配列の遺伝子座で異種配列によって置き換えるような方法で細胞のゲノムの中に配置されることを含む(たとえばマウスにおけるヒト配列)。そのように配置されたDNA配列は、そのように配置された配列を得るために使用される供給源のDNAの一部である1つまたは複数の調節配列を含んでいてもよい(たとえばプロモーター、エンハンサー、5’または3’非翻訳領域など)。たとえば、様々な実施形態では、置き換えは、内因性配列の発現ではなく、そのように配置されたDNA配列(異種配列を含む)由来の遺伝子産物の生産をもたらす、内因性配列の異種配列との置換であり、置き換えは、内因性ゲノム配列の、内因性ゲノム配列によってコードされるタンパク質に類似する機能を有するタンパク質をコードするDNA配列とのものである。(たとえば、内因性ゲノム配列は、低親和性マウスFcγR受容体をコードし、DNA断片は、たとえばヒトFcγRIICおよび/またはFcγRIIIBなどのような、1つまたは複数のヒト低親和性FcγR受容体をコードする)。
【0066】
用語「FcγR」は、Fc、たとえばIgG免疫グロブリンのFc部分に対する受容体を含む。FcγR遺伝子は、細胞の表面上に発現されるα鎖を含み、リガンド結合ドメインとして働き、FcR γ鎖のホモ二量体またはFcR γ鎖およびδ鎖のヘテロ二量体を伴う。いくつかの異なるFcγR遺伝子があり、それらは、免疫複合体におけるIgGへの優先的な結合に従って低親和性タイプおよび高親和性タイプに分類することができる。ヒトにおける低親和性FcγR遺伝子は、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIBを含み、ほとんどのこれらの遺伝子内に、天然に存在する遺伝子差異または多型が、自己免疫疾患を有するヒト対象において記載されている。本開示を読むに際して当業者らは、ゲノムにおける1つまたは複数の内因性低親和性FcγR遺伝子(またはすべて)を、1つまたは複数の異種低親和性FcγR遺伝子(たとえば、対立形質などのような変異体または多型、他の種由来の遺伝子、キメラ形態など)によって置き換えることができることを認識するであろう。
【0067】
語句「対立遺伝子変異体」は、同じ遺伝子の一連の異なる形態をもたらす、遺伝子の通常の配列の変異を含む。異なる形態は、たとえば遺伝子由来のタンパク質の配列において20までのアミノ酸の差異を含んでいてもよい。たとえば、対立遺伝子は、同じ物理的な遺伝子座での代替のDNA配列であることを理解することができ、対立遺伝子は、同じ遺伝子についての他の対立遺伝子において結果として生じないまたは他の対立遺伝子において様々な程度で結果として生じる、ある種の疾患または状態に対する感受性などのような異なる形質(たとえば遺伝的な表現型の特徴)をもたらしてもよいまたはもたらさなくてもよい。
【0068】
「アクセサリー細胞」は、免疫応答のエフェクター機能に関与する免疫細胞を含んでいてもよい。例示的な免疫細胞は、リンパまたは骨髄起源の細胞、たとえば、リンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、血小板、ランゲルハンス細胞、樹状細胞、肥満細胞などを含む。アクセサリー細胞は、それらの表面上に発現される受容体、たとえばFcRを通して免疫系の特異的な機能を実行する。特定の実施形態では、アクセサリー細胞は、細胞表面上に発現されるFcR、たとえば低親和性FcγRを通して媒介されるADCCを引き起こすことができる。たとえば、FcRを発現するマクロファージは、抗体被覆細菌の食作用および破壊に関与する。アクセサリー細胞はまた、他の免疫プロセスを媒介する作用物質を放出することができるかもしれない。たとえば、肥満細胞は、FcRに結合した抗体によって活性化され、感染の部位で、顆粒、たとえば炎症性分子(たとえばサイトカイン)を放出することができる。様々な他の実施形態では、アクセサリー細胞上のFcRの発現は、他の因子(たとえばサイトカイン)によって調節することができる。たとえば、FcγRIおよびFcγRIII発現は、インターフェロン−γ(IFN−γ)を用いる刺激によって誘導することができる。
【0069】
マウスおよびヒトFcR
免疫グロブリンのFc(つまり定常)領域に対する受容体(FcR)は、免疫応答の調節において重要な役割を果たす。FcRは、抗体が結合した外来抗原を有効に処分するために、宿主の免疫系のアクセサリー細胞上に存在する。FcRはまた、免疫系のアクセサリー細胞の活性化および阻害性の応答の平衡を保つ際に重要な役割を果たす。FcRは、マクロファージによる食作用、肥満細胞の脱顆粒、抗体−抗原複合体の取り込み、および免疫応答の改変ならびに他の免疫系プロセスに関与する。
【0070】
マウスおよびヒトでは、発現された抗体レパートリーにおいて存在する免疫グロブリンアイソタイプにそれぞれ特異的である別個のFcRが、異なるアクセサリー細胞の表面上に異なって発現される。たとえば、免疫グロブリンG(IgG)抗体は、IgG受容体(FcγR)を通してエフェクター機能を媒介する。FcγRは、3つのグループに分類される:高親和性活性化FcγRI(CD64)、低親和性阻害性FcγRII(CD32)、および低親和性活性化FcγRIII(CD16)。グループはそれぞれ、マウスおよびヒトの両方に存在するが、それらが存在する免疫細胞のアイソフォームおよびサブセットの数は異なる。たとえば、FcγRIIAおよびFcγRIIIBは、ヒトにおいてアクセサリー細胞上に発現されるが、報告によれば、マウスでは不在である。さらに、それぞれのFcγRに対する異なるIgGアイソタイプ(たとえばIgG1)の親和性は、マウスおよびヒトにおいて異なる。
【0071】
FcγRを通しての細胞シグナル伝達の活性化または阻害およびFcγRへの抗体結合と関連するエフェクター機能は、FcγRの細胞内ドメインのまたは共受容体のサブユニットの特異的配列モチーフによって媒介されると考えられる。受容体の活性化は、最も一般には、免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含有する共通のγ鎖(FcR γ鎖)と関連する。ITAMは、FcRへの抗体結合に応じてリン酸化されるチロシン残基を含む、約9〜12のアミノ酸の特異的配列を含有する。リン酸化は、シグナル伝達カスケードを導く。FcR γ鎖をコードする遺伝子を欠くマウス(FcR γ鎖 KO)が報告された(たとえばTakaiら(1994年) FcR γ Chain Depletion Results in Pleiotrophic Effector Cell Defects, Cell 76巻:519〜529頁;van Vugtら(1996年)FcR γ-Chain Is Essential for Both Surface Expression and Function of Human FcγRI (CD64) In Vivo, Blood 87巻(9号):3593〜3599頁;およびParkら(1998年)Resistance of Fc Receptor-deficient Mice to Fatal Glomerulonephritis, J. Clin. Invest. 102巻(6号):1229〜1238頁を参照されたい)。FcR γ鎖は、報告によれば、ほとんどのFcRの適切な表面発現および機能(たとえばシグナル伝達、食作用など)にとって不可欠であり、FcR γ鎖 KOマウスは、いくつかの報告書によれば、FcγRIを欠く。しかしながら、他の報告は、FcR γ鎖 KOマウスが、実際は、ある種のアクセサリー細胞の表面上にFcγRIを発現し、発現されたFcγRIは、報告によれば、それが、発現されるFcR γ鎖の非存在下において、マウスにおいて、IgGに結合するという点で機能的に見えるということを明らかにする(Barnesら(2002年) FcγRI-Deficient Mice Show Multiple Alterations to Inflammatory and Immune Responses, Immunity 16巻:379〜389頁)。
【0072】
対照的に、FcγRIIBは、その細胞質ドメイン中に免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を含有する、阻害性の受容体である。ITAMと同様に、ITIMは、リン酸化することができるチロシン残基を含む配列モチーフである。しかしながら、ITMのリン酸化に続く下流の事象は、免疫細胞機能の、活性化ではなく阻害を導く。報告によれば、FcγRIIBが欠損したマウスは、野生型マウスと比較して、B細胞抗体応答のダウンレギュレーターとしてFcγRIIBの役割を支持する観察である、抗体応答の増加を示す(Takaiら(1996年) Augmented humoral and anaphylactic responses in FcgRII-deficient mice, Nature 379巻:346〜349頁)。
【0073】
ヒトでは、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIBは、古典的な低親和性FcγR遺伝子と考えられ、同じ染色体上にともに位置する(Suら(2002年) Genomic organization of classical human low-affinity Fcγ receptor genes, Genes and Immunity 3巻(補足1):S51〜S56頁)。これらの遺伝子は、別個の表現型、たとえば、受容体のリガンド結合および機能の改変と関連するいくつかの多型を示す。いくつかの多型は、自己免疫疾患、たとえば全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、および多発性硬化症(MS)と関連する。様々なヒトFcγR(hFcγR)についてのトランスジェニックマウスが開発されており、高親和性抗体を生成し、特異的細胞応答を誘発する能力について治療用抗体を試験し、異常な免疫応答を回復させる化合物をスクリーニングするなどの疾患モデルとして使用されている(たとえばHeijnenら(1996年)A Human FcgRI/CD64 Transgenic Model for In Vivo Analysis of (Bispecific) Antibody Therapeutics, J. Hematother. 4巻:351〜356頁;Heijnenおよびvan de Winkel(1996年)Antigen Targeting to Myeloid-specific Human FcgRI/CD64 Triggers Enhanced Antibody Responses in Transgenic, J. Clin. Invest. 97巻(2号):331〜338頁;米国特許第6,111,166号、第6,676,927号、第7,351,875号、第7,402,728号、ならびに第7,416,726号を参照されたい)。
【0074】
免疫系の抗体およびアクセサリー細胞の間のブリッジを提供する際のFcRの重要な役割にもかかわらず、すべての低親和性hFcγRが発現されるモデル系は、現在、存在しない。すべての低親和性hFcγRが同時発現されるマウスは、内因性マウスFcγRを欠くマウスを含めて、様々な実施形態において、ADCC媒介性の効果を含むヒト抗体治療薬の効果を正確に反映するために使用することができる。そのようなマウスは、ヒトにおいて、特に、ヒト抗体治療薬の試験との関連において、免疫学的プロセスのより正確な評価を達成することができる動物モデルを提供することによって、たとえばRA、I型糖尿病、SLE、および自己免疫病などのようなヒト疾患の治療のために、治療用抗体のエンジニアリング、分析、および評価において、重大なツールとして果たすであろう。マウスはまた、低親和性受容体に結合する治療薬について、治療薬依存性の細胞殺傷を評価するために、したがって、有用なヒト治療薬を同定するために、in vitroアッセイにおいて使用することができる、低親和性受容体を有する細胞の有益な供給源となるであろう。
【0075】
内因性低親和性FcγR遺伝子欠損マウス
内因性低親和性マウスFcγR遺伝子を発現しないが、内因性マウスFcR γ鎖を発現する遺伝子改変された非ヒト動物が提供される。様々な実施形態では、FcR γ鎖は、野生型マウスと同じまたは実質的に同じであるマウスにおける分布(つまり細胞型において)およびレベルで発現される。内因性低親和性FcγR遺伝子は、免疫細胞の表面上にまたは動物の末梢において可溶性で発現することができる。内因性低親和性マウスFcγR遺伝子を発現しない非ヒト動物を作製するための遺伝子改変は、例証としてマウスを使用することによって好都合に説明される。本発明による遺伝子改変されたマウスは、様々な方法において作製することができ、これらの特定の実施形態は、本明細書において議論される。
【0076】
内因性の遺伝子座でのFcγR遺伝子配置を示すために、低親和性マウスFcγR遺伝子の遺伝子座の略図(正確な縮尺ではない)を図1(上)中に提供する。示されるように、低親和性マウスFcγR遺伝子FcγRIIB、FcγRIV、およびFcγRIIIは、1つの染色体上にすぐ近くにともに存在する。これらの遺伝子のそれぞれは、抗体分子のFc部分への結合を担うα鎖またはリガンド結合ドメインを含む。
【0077】
内因性低親和性FcγR遺伝子のα鎖をコードするヌクレオチド配列を欠く遺伝子改変されたマウスは、当技術分野において公知の任意の方法によって作製することができる。たとえば、選択マーカー遺伝子を用いて低親和性マウスFcγR α鎖遺伝子を欠失させるターゲッティングベクターを作製することができる。図1は、内因性低親和性FcγR α鎖の遺伝子座の上流の配列を含有する5’相同性アーム、それに続く薬剤選択カセット(たとえばloxP配列に挟まれたネオマイシン抵抗性遺伝子)、および内因性低親和性FcγR α鎖の遺伝子座の下流の配列を含有する3’相同性アームを有する標的構築物によってターゲッティングされたマウスゲノム(下)を示す。この遺伝子座での相同組換えに際して、内因性低親和性FcγR α鎖の遺伝子座は、薬剤選択カセットによって置き換えられる(図1の下)。内因性低親和性FcγR α鎖遺伝子の遺伝子座は、それによって欠失させられ、内因性低親和性マウスFcγR α鎖遺伝子を発現しない細胞または非ヒト動物がもたらされる。薬剤選択カセットは、レコンビナーゼ(たとえばCre処理によって)の続く追加によって任意選択で除去されてもよい。
【0078】
内因性低親和性マウスFcγR α鎖遺伝子(複数可)を非機能性にするためのマウスの遺伝子改変は、様々な実施形態において、免疫応答において欠損を示すマウスをもたらし、正常および病気の免疫機能、IgG媒介性のプロセス、ならびに自己免疫疾患における、内因性低親和性マウスFcγR遺伝子の協同的なならびに個々の役割を評価するのに有用なマウスを作製する。様々な実施形態では、FcR γ鎖ではなく、内因性低親和性マウスFcγR遺伝子のα鎖の改変は、表面発現および機能にFcR γ鎖を必要とする他の内因性FcR遺伝子(たとえば高親和性FcγRI)の潜在的な低下を回避し、したがって、γ鎖依存性のプロセスを通して媒介される様々な他の免疫学的機能およびプロセスを維持する。
【0079】
いくつかの報告によれば、FcR γ鎖欠損マウスは、FcγRIIIおよびFcγRIの表面発現を欠く。しかしながら、FcγRIは、報告によれば、FcR γ鎖欠損マウスにおいて細胞表面上に検出されており、報告によれば、部分的に機能的である。対照的に、本発明によるマウスは、非改変内因性FcR γ鎖を含有し、これは、FcR γ鎖を必要とする他のFcR遺伝子の天然細胞表面発現パターンおよび細胞機能を維持する。
【0080】
様々な実施形態では、本発明のマウスは、それらが有する遺伝子改変が、低親和性FcγR遺伝子に全体的に充てられるのではなく、他の免疫学的機能に必要な他の遺伝子の維持をもたらすという点で、他のFcγR遺伝子欠損マウスに対して利点を示す。たとえば、機能的FcR γ鎖があれば、他のγ鎖依存性のタンパク質(たとえばFcγRI)は、このFcR γ鎖と会合することができ、免疫応答におけるエフェクター細胞機能に参加するであろう。本発明に従う様々な遺伝子改変されたマウスでは、内因性低親和性FcγR遺伝子(1つまたは複数のαサブユニット)を欠失させながらの、そのような機能の維持(機能的FcR γ鎖の存在による)は、自己免疫病におけるFcRの役割のより正確な解明を可能にすると考えられる。
【0081】
低親和性FcγRヒト化マウス
低親和性ヒトFcγR遺伝子を発現する遺伝子改変された非ヒト動物が提供される。低親和性ヒトFcγR遺伝子は、動物の免疫系のアクセサリー細胞の表面上にまたは動物の末梢において可溶性で発現することができる。
【0082】
遺伝子改変は、様々な実施形態において、1つまたは複数の低親和性マウスFcγR遺伝子の機能的α鎖の欠失を含み、いくつかの実施形態において、2つ以上の、3つ以上の、4つ以上の、または5つの低親和性ヒトFcγR αサブユニット遺伝子による置き換えを含むさらなる改変を含み、非ヒト動物は、機能的マウスFcR γ鎖遺伝子を発現する。非ヒト動物、非ヒト胚、および細胞を作製するための遺伝子改変された非ヒト胚、細胞、および標的構築物もまた、提供される。
【0083】
特異的多型形態または対立遺伝子変異体(たとえば単一アミノ酸差異)を含むヒトFcγR遺伝子を発現するマウスを作製するための組成物および方法が提供され、ヒトプロモーターおよびヒト調節配列からそのような遺伝子を発現するマウスを作製するための組成物および方法を含む。方法は、内因性低親和性マウスFcγR遺伝子を選択的に非機能性にするステップ(たとえばそのα鎖の欠失によって)およびマウスにおいて、低親和性ヒトFcγR αサブユニット遺伝子を発現させるために、内因性低親和性マウスFcγR遺伝子の遺伝子座に低親和性ヒトFcγR遺伝子のα鎖を用いるステップを含む。低親和性マウスFcγR遺伝子の欠失は、FcR γ鎖遺伝子ではなく、1つまたは複数のα鎖遺伝子の欠失によって成される。このアプローチは、機能的内因性FcR γ鎖遺伝子を保持しながら、1つまたは複数の内因性低親和性FcγR α鎖を選択的に非機能性にする。
【0084】
内因性FcγR α鎖置き換えアプローチは、FcγR α鎖のゲノム配列が単一の断片によって置き換えられ、そのため、必要な調節配列を含むことによって正常な機能性を保持するので、様々な実施形態において、動物における天然FcγR媒介性のシグナル伝達の比較的最小限の破壊を用いる。したがって、そのような実施形態では、FcγR α鎖改変は、機能的FcR γ鎖分子に依存する他の内因性FcRに影響しない。さらに、様々な実施形態では、改変は、細胞表面上の、いくつかのFcγR α鎖の適切な発現におよび活性化された受容体から結果として生じる下流のシグナル伝達に必要とされると考えられるFcγR α鎖および内因性FcR γ鎖を含む機能的受容体複合体の構築に影響しない。FcR γ鎖が欠失していないので、様々な実施形態では、内因性FcγR α鎖遺伝子の、ヒトFcγR α鎖遺伝子による置き換えを含有する動物は、アクセサリー細胞の表面上に存在するヒトFcγR α鎖へのIgG免疫グロブリンのFc部分の結合を通しての、抗体からの正常なエフェクター機能を処理することができるはずである。
【0085】
欠失させた内因性低親和性マウスFcγR遺伝子の略図(正確な縮尺ではない)を、図4(上)中に提供する。示されるように、低親和性ヒトFcγR遺伝子FcγRIIAおよびFcγRIIIAは、ヒト低親和性ヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIA遺伝子を含有するゲノム断片を有する標的構築物(ヒトFcγRIIIA−IIAターゲッティングベクター)によって、欠失させた内因性低親和性マウスFcγR遺伝子の遺伝子座内に挿入される。これらの遺伝子のそれぞれは、抗体分子のFc部分への結合を担う、ヒトFcγR遺伝子のα鎖またはリガンド結合ドメインを含む。
【0086】
内因性低親和性マウスFcγRの遺伝子座で低親和性ヒトFcγR遺伝子を発現する遺伝子改変されたマウスは、当技術分野において公知の任意の方法によって作製することができる。たとえば、選択マーカー遺伝子と共に低親和性ヒトFcγR遺伝子(たとえばFcγRIIAおよびFcγRIIIA)を導入するターゲッティングベクターを作製することができる。図4は、内因性低親和性FcγRの遺伝子座の欠失を含むマウスゲノムを示す(上)。示されるように、標的構築物は、内因性低親和性マウスFcγRの遺伝子座の上流の配列を含有する5’相同性アーム、それに続く薬剤選択カセット(たとえば、loxP配列に両側で挟まれたヒグロマイシン抵抗性遺伝子)、ヒトFcγRIIA遺伝子、ヒトHSP76遺伝子、およびヒトFcγRIIIA遺伝子を含有するゲノム断片、ならびに内因性低親和性マウスFcγRの遺伝子座の下流の配列を含有する3’相同性アームを含有する。欠失させた遺伝子座での相同組換えに際して、薬剤選択カセットは、ターゲッティングベクター中に含有される配列によって置き換えられる(図4の下)。したがって、内因性低親和性FcγR遺伝子の遺伝子座は、低親和性ヒトFcγR遺伝子によって置き換えられ、低親和性ヒトFcγR遺伝子を発現する細胞または動物がもたらされる。薬剤選択カセットは、レコンビナーゼ(たとえばCre処理によって)の続く追加によって任意選択で除去されてもよい。
【0087】
血小板上のhFcγRIIAの発現については、標的構築物であるヒトhFcγRIIA−IIAターゲッティングベクターは、たとえば、ヒトゲノムにおいてhFcgRIIA遺伝子に作動可能に連結されたすべてまたは実質的にすべてのヒトプロモーター領域を含む伸長配列を含む。血小板上のhFcγRIIAの発現を防止するために、標的構築物は、ヒトにおいてhFcγRIIA遺伝子に作動可能に連結された、すべてまたは実質的にすべてのヒトプロモーター領域を欠く。
【0088】
キメラの遺伝子座へのさらなる改変(図4の下)は、2つのヒトFcγR遺伝子による置き換えについて記載される類似する技術を使用して達成することができる。内因性低親和性FcγR遺伝子の遺伝子座を2つのヒトFcγR遺伝子によって置き換えるための改変は、他の低親和性ヒトFcγR遺伝子の組み込みのための出発点をさらに提供することができる。たとえば、2つのヒト低親和性FcγR遺伝子によって置き換える内因性低親和性FcγRの遺伝子座の略図(正確な縮尺ではない)を、図6(上)において提供する。示されるように、低親和性ヒトFcγR遺伝子FcγRIIB、FcγRIIC、およびFcγRIIIBは、低親和性ヒトFcγRIIB、FcγRIIC、およびFcγRIIIB遺伝子を含有するゲノム断片を有する他の標的構築物(ヒトFcγRIIB−IIIB−IICターゲッティングベクター)によって、改変内因性低親和性マウスFcγR遺伝子の遺伝子座内に挿入される。これらの遺伝子のそれぞれは、抗体分子のFc部分への結合を担う、ヒトFcγR遺伝子のα鎖またはリガンド結合ドメインを含む。
【0089】
内因性低親和性マウスFcγRの遺伝子座に5つの低親和性ヒトFcγR遺伝子を発現する遺伝子改変されたマウスは、当技術分野において公知の任意の方法によって作製することができる。たとえば、選択マーカー遺伝子と共に低親和性ヒトFcγR遺伝子(たとえばFcγRIIB、FcγRIIC、およびFcγRIIIB)を導入するターゲッティングベクターを作製することができる。図6は、内因性低親和性FcγRの遺伝子座の2つの低親和性ヒトFcγR遺伝子による置き換えを含むマウスゲノムを示す(上)。示されるように、標的構築物は、内因性低親和性マウスFcγRの遺伝子座の上流の配列を含有する5’相同性アーム、それに続く薬剤選択カセット(たとえば、loxP配列に両側で挟まれたネオマイシン抵抗性遺伝子)、ヒトFcγRIIB遺伝子、ヒトFcγRIIIB、ヒトHSP77遺伝子、ヒトFcγRIIC遺伝子を含有するゲノム断片、それに続く内因性の遺伝子座に存在する低親和性ヒトFcγRIIIA遺伝子の上流の配列を含有する3’相同性アームを含有する。改変の遺伝子座での相同組換えに際して、ヒトFcγRIIB、FcγRIIIB、およびFcγRIIC遺伝子は、ターゲッティングベクター中に含有される配列によって、内因性低親和性FcγR遺伝子の遺伝子座に先に存在するヒトFcγRIIIAおよびFcγRIIA遺伝子の5’に挿入される(図6の下)。したがって、改変内因性低親和性FcγR遺伝子の遺伝子座は、3つのさらなる低親和性ヒトFcγR遺伝子を組み込むためにさらに改変され、5つの低親和性ヒトFcγR遺伝子を発現する細胞または動物がもたらされる。薬剤選択カセットは、レコンビナーゼ(たとえばCre処理によって)の続く追加によって任意選択で除去されてもよい。図6(下)は、結果として生じる遺伝子座の構造を示し、これは、動物の免疫系のアクセサリー細胞の表面上に検出することができる5つの低親和性ヒトFcγR遺伝子を発現し、適切に、内因性FcR γ鎖と独立して会合するであろう。
【0090】
FcγR欠損マウスおよびFcγRヒト化マウスの実験モデル
内因性低親和性マウスFcγR遺伝子を発現しない遺伝子改変された非ヒト動物は、たとえば、免疫応答における個々の低親和性FcγR遺伝子の様々な機能を解明するのに、細胞性免疫(たとえばADCC)を介してのヒト治療用抗体の効能を測定するのに、免疫疾患または障害におけるFcγRの役割を決定するのに、免疫疾患または障害のモデルとして果たすのに、1つまたは複数のFcγRタンパク質に対する抗体を生成するのに、および対象の他の遺伝子改変されたマウスを生成するために交配仲間として果たすのに有用である。
【0091】
一実施形態では、本発明によるマウスは、そのようなマウスに作用物質を投与することによって、低親和性FcγR遺伝子を発現しないマウスによって、失われた細胞傷害性効果(野生型マウスと比較して)を決定するために使用することができ、作用物質は、野生型マウスにおいてFcγR依存性の細胞傷害性効果を引き起こすことが公知である。一実施形態では、本発明のマウスに腫瘍細胞が移植され、続く期間の後に、腫瘍細胞の表面上に発現される抗原に特異的な抗体が注射される。抗体のアイソタイプは、注射前に既知であり、動物は、野生型動物において観察されるADCCとの比較によってFcγR依存性のADCCの機能障害について分析される。
【0092】
他の態様では、内因性低親和性受容体が欠損したマウスは、自己免疫疾患のin vivoモデルを開発するために、他の免疫欠損マウスと組み合わせることができる(たとえば交配によって)。たとえば、重症複合免疫不全症(SCID)マウスは、免疫系を研究するためのモデル生物として当技術分野においてルーチン的に使用される。SCIDマウスは、TもしくはBリンパ球を作るまたは補体系のいくつかの成分を活性化する能力が損なわれており、効率的に感染と戦うことができず、腫瘍を拒絶することができず、移植を拒絶することができない。本発明の低親和性FcγR αサブユニット遺伝子欠損マウスは、抗体治療薬(たとえば抗腫瘍抗体)の投与に応じて、宿主動物における細胞の枯渇を確認するためにSCIDマウスに交配されてもよく、これにより、in vivoにおいて腫瘍細胞の枯渇におけるADCCおよび補体依存性細胞障害作用(CDC)の役割が決定されるであろう。
【0093】
他の態様では、内因性低親和性FcγR遺伝子の、低親和性ヒトFcγR遺伝子による置き換えを含む遺伝子改変された非ヒト動物が提供される。そのような動物は、完全ヒト抗体およびhFcγR媒介性のADCCの薬物動態を研究するのに有用である。さらに、ヒトFcγR遺伝子は、疾患(たとえばSLE、RA、ウェゲナー肉芽腫症、ギラン−バレー症候群、および多発性硬化症)と関連する多型または対立遺伝子変異体を示すことが示された。したがって、内因性低親和性FcγR遺伝子の、ヒトFcγR遺伝子の特異的対立遺伝子形態または多型形態による置き換えを含む遺伝子改変された非ヒト動物は、動物において、ヒト自己免疫疾患および多型と関連する形質を研究するために使用することができる。特定の実施形態では、ヒトFcγR遺伝子の対立形質は、ヒトIgGに対する効能の増強と関連する。
【0094】
他の特定の実施形態では、ヒト抗体治療薬の効能に対するヒト低親和性FcγR多型の影響が、決定される。特定の実施形態では、抗腫瘍抗体は、ヒトFcγRの第1の多型を含む第1のヒト化マウスに投与され、また、ヒトFcγRの第2の多型を含む第2のヒト化マウスにも投与され、第1および第2のマウスはそれぞれ、ヒト腫瘍細胞を含み、抗腫瘍抗体の抗腫瘍活性は、第1のマウスおよび第2のマウスにおいて評価される。特定の実施形態では、治療オプションは、第1のマウスおよび第2のマウスにおける抗腫瘍抗体の効能の評価に基づいて、ヒト腫瘍細胞に対応する腫瘍を有する第1のまたは第2の多型を有するヒトの治療に関して医師によって選択される。
【0095】
ヒトFcγR遺伝子の適した多型は、当技術分野において公知のすべてのものを含む。ヒトFcγRIIA遺伝子については、多型は、たとえば、T細胞がIgGに応じて増殖する能力によって報告される高応答動物表現型および低応答動物表現型を含む。高応答動物多型は、131位のアルギニン残基(131Arg)によって特徴付けられるが、低応答動物は、131位のヒスチジン残基(131His)によって特徴付けられる。特定の実施形態では、ヒトFcγRIIA配列は、131His多型を含む。ヒトFcγRIIA α鎖の代表的なタンパク質配列は、配列番号32において示される。
【0096】
ヒトFcγRIIB遺伝子の単一ヌクレオチド置換は、リガンド結合ドメイン(α鎖)においてミスセンス置換をもたらし、推定上、IgGのFc部分が、細胞表面上のFcγRIIBのα鎖に結合する結合能力に影響する。たとえば、マウスにおけるFcγRIIB遺伝子の膜貫通ドメイン内の232位のイソロイシンのトレオニン残基の置換(Ile232Thr)は、受容体のシグナル伝達能力を損なうことが示された。特定の実施形態では、ヒトFcγRIIB遺伝子は、イソロイシン変異体(232Ile)を含む。ヒトFcγRIIB α鎖の代表的なタンパク質配列は、配列番号33において示される。
【0097】
ヒトFcγRIIIA遺伝子の対立遺伝子変異体は、SLEおよびRAに対する感受性に関与することが提唱されている。この対立遺伝子変異体は、158位のバリンのフェニルアラニン置換(Val158Phe)を含む。バリン対立遺伝子変異体(158Val)は、フェニルアラニン対立遺伝子変異体(158Phe)よりも、IgG1およびIgG3に対してより高度な親和性を有することが特徴付けられている。158Phe対立遺伝子変異体は、免疫複合体の排除の低下を導くことが提唱された。特定の実施形態では、ヒトFcγRIIIA遺伝子は、158Val対立遺伝子変異体を含む。ヒトFcγRIIIA α鎖の代表的なタンパク質配列鎖は、配列番号35において示される。
【0098】
ヒトFcγRIIIB遺伝子の対立遺伝子変異体は、好中球抗原1(NA1)および好中球抗原2(NA2)対立遺伝子を含む。これらの対立遺伝子変異体は、輸血副作用、自己免疫好中球減少症、SLE、およびウェゲナー肉芽腫症に関与することが提唱された。NA2対立遺伝子変異体は、食作用を媒介する能力の減少によって特徴付けられる。特定の実施形態では、ヒトFcγRIIIB遺伝子は、NA2対立遺伝子変異体を含む。ヒトFcγRIIIB α鎖の代表的なタンパク質配列は、配列番号36において示される。
【0099】
一態様では、遺伝子改変された非ヒト動物は、治療用抗体のFc部分によって引き起こされる、FcγR媒介性の機能を最適化するのに有用である。抗体のFc領域は、当技術分野において公知の任意の方法によって改変することができる。たとえば、Fc部分(たとえばCH2およびCH3ドメイン)内のアミノ酸残基は、ヒトFcγRIIIAへの結合親和性を選択的に増強するために改変されてもよい。したがって、結果として生じる抗体は、FcγRIIIA依存性のADCCの増強を有するはずである。特定の実施形態では、本発明のヒトFcγRIIIAを発現する動物は、改変ヒト抗体を動物に投与し、FcγRIIIA発現細胞に結合する抗体を検出し(たとえばin vitroにおいて)、観察されたADCC活性を、野生型動物において決定されたものから観察されたADCC活性と比較することによって、改変ヒト抗体のADCC能力の増強を評価するために使用される。
【実施例】
【0100】
(実施例1)
低親和性FcγR遺伝子欠損マウスの生成
内因性低親和性マウスFcγR遺伝子座の欠失を導入するための標的構築物(下記に記載)を構築した(図1)。
【0101】
標的構築物は、細菌人工染色体(BAC)RP23−395f6(Invitrogen)を改変するために、VELOCIGENE(登録商標)技術を使用して作製した(たとえば米国特許第6,586,251号およびValenzuelaら(2003年)High-throughput engineering of the mouse genome coupled with high-resolution expression analysis, Nature Biotech. 21巻(6号):652〜659頁を参照されたい)。RP23−395f6 BAC DNAは、FcγRのそれぞれのα鎖を含む内因性低親和性FcγRIIB、FcγRIV、およびFcγRIII遺伝子を欠失させるために改変した。
【0102】
手短かに言えば、上流および下流の相同性アームは、それぞれ
【0103】
【化1】

【0104】
を用いて作製した。これらの相同性アームは、内因性低親和性FcγRIIB、FcγRIV、およびFcγRIII遺伝子のα鎖を欠失したカセットを作製するために使用した。標的構築物は、内因性の座に関しての5’および3’領域に対して相同な配列を含む相同性アームを含むloxネオマイシン抵抗性遺伝子を含んだ。内因性FcγRIIB遺伝子の上流のおよび内因性FcγRIII遺伝子の下流の遺伝子および/または配列(図1を参照されたい)は、標的構築物によって改変しなかった。
【0105】
標的欠失は、欠失させた領域の外側のおよび標的構築物内のプライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって確認した。欠失させた座の上流領域は、
【0106】
【化2】

【0107】
を使用し、PCRによって確認し、欠失させた座の下流領域は、
【0108】
【化3】

【0109】
を使用して確認した。上流の欠失ポイントの両端のヌクレオチド配列は、以下を含み、これは、欠失ポイントに存在するカセット配列に隣接して連結されたFcγRIIB遺伝子の下流の内因性マウス配列(下記の括弧内に含有される)を示す:
【0110】
【化4】

【0111】
下流の欠失ポイントの両端のヌクレオチド配列は、以下を含み、これは、FcγRIII遺伝子の上流の内因性マウス配列(下記の括弧内に含有される)と隣接しているカセット配列を示す:
【0112】
【化5】

【0113】
FcγRIIB、FcγRIII、およびFcγRIVが欠損したマウスは、マウスES細胞への標的BAC DNA(上記に記載)のエレクトロポレーションを通して生成した。ポジティブES細胞クローンは、Taqman(商標)スクリーニングおよび核型分析によって確認する。次いで、ポジティブES細胞クローンをメスマウスに移植するために使用し、低親和性FcγR遺伝子が欠損した同腹子の子を生じさせた。
【0114】
(実施例2)
低親和性FcγR遺伝子欠損マウスの特徴付け
脾臓を、FcγR欠損マウスおよび野生型マウスから採取し、無菌の使い捨てのバッグ中で10mLコラゲナーゼDを用いて灌流した。次いで、ただ1つの脾臓を含有するそれぞれのバッグを、Stomacher(登録商標)(Seward)の中に配置し、30秒間、中程度の設定でホモジナイズした。ホモジナイズした脾臓は、10cmペトリ皿に移し、37℃で25分間インキュベートした。細胞は、0.5M EDTAの1:50希釈液を使用して、ピペットを用いて分離し、37℃で5分間、さらにインキュベーションを続けた。次いで、細胞は、遠心分離機(10分間、1000rpm)を用いてペレットにし、赤血球は、3分間、4mL ACKバッファー(Invitrogen)中で溶解した。脾細胞は、RPMI−1640(Sigma)を用いて希釈し、再び遠心分離した。ペレットにした細胞は、10mL RPMI−1640中で再懸濁し、0.2μm細胞ストレーナーを用いてろ過した。
【0115】
フローサイトメトリー。リンパ球集団は、以下の蛍光色素コンジュゲート細胞表面マーカーを用いてBD LSR II System(BD Bioscience)でFACによって同定した:抗CD19(B細胞)、抗CD3(T細胞)、抗NKp46(NK細胞)、および抗F4/80(マクロファージ)。リンパ球は、特定の細胞系列についてゲーティングされ、ラット抗マウスFcγRIII/II抗体(クローン2.4G2、BD Biosciences)を用い、内因性FcγRIIIおよびFcγRIIBの発現について分析した。クローン2.4G2は、マウスFcγRIIIおよびFcγRIIの細胞外ドメイン上の共通の多型エピトープを認識する。結果は、検出可能なマウス低親和性FcγRIIIおよびFcγRIIが、mFcγR KOマウスにおけるB細胞、NK細胞、およびマクロファージ上になかったことを示す(図2)。
【0116】
ADCCアッセイ。FcγR遺伝子欠損マウスおよび野生型マウスから単離した脾細胞は、細胞殺傷アッセイにおいて、ADCCを実行するそれらの能力について分析した。細胞集団は、単離し、MACS(登録商標)技術(Miltenyi Biotec)を使用して分離した。手短かに言えば、T細胞は、磁気標識抗マウスCD3ビーズを使用して、脾細胞から枯渇させた。次いで、T細胞を枯渇させた脾細胞は、磁気標識抗マウスCD49Bビーズを使用して、NK細胞について濃縮した。これとは別に、ラージ細胞(ヒトCD20を発現する)は、4℃で、30分間、様々な濃度(0.1〜10μg/mLの範囲)のマウス抗ヒトCD20抗体(クローンB1;Beckman Coulter)を用いて被覆した。抗体被覆ラージ細胞は、37℃で4時間、100:1および50:1の比(NK:ラージ)で、濃縮したNK細胞と共にインキュベートした。細胞死は、CytoTox−Glo(商標)細胞傷害性アッセイ(Promega)を使用して測定した。発光シグナルは、溶解した細胞に由来し、死細胞の数に比例する。対照(抗CD20抗体なし)からの発光を、それぞれの比についてのバックグラウンド死細胞数について決定し、野生型マウスおよびKOマウスについての測定値から引いた。平均細胞死を計算し、細胞殺傷の減少パーセント(ADCC%)を、野生型に対する比較によって決定した。結果を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
(実施例3)
低親和性FcγR遺伝子欠損マウスにおけるB細胞のin vivo枯渇
ADCC経路を通してのB細胞枯渇に対するヒトまたはマウスFcアイソタイプの効果は、ヒト抗ヒトCD20抗体を使用して、ヒトCD20を発現するように遺伝子操作した低親和性FcγR遺伝子欠損マウスにおける様々なB細胞コンパートメントについて決定した。ヒトCD20を発現するマウスは、当技術分野において公知の技術を使用して、これとは別に遺伝子操作した。B細胞上にヒトCD20を発現し、低親和性FcγR遺伝子が欠損した(実施例1において記載)マウスは、2つの遺伝子操作株の標準的な交配技術によって作製した。
【0119】
ヒトCD20を発現し、内因性低親和性FcγR遺伝子の完全な補足物を有したマウスの別々のグループに、それぞれ、以下のうちの1つを投与した:(1)10mg/kg対照抗体(N=4;マウスIgG2aを有する、ヒトCD20に特異的でないヒト抗体);(2)2mg/kg Ab 168(N=3;マウスIgG2aを有するヒト抗hCD20抗体;米国特許出願公開第2009/0035322号の、それぞれ配列番号339および347において見つけられる重配可変領域配列および軽鎖可変領域配列);(3)10mg/kg Ab 168;(4)2mg/kg Ab 735(N=3;ヒトIgG1を有するAb 168);(5)10mg/kg Ab 735。実験の類似するセットにおいて、ヒトCD20を発現し、内因性低親和性FcγR遺伝子の欠失を有したグループのマウスに、対照抗体およびヒト抗hCD20抗体(上記に記載)を投与した。
【0120】
それぞれのグループにおけるマウスに、腹腔内注射によって抗体を投与した。注射の7日後に、動物を安楽死させ、骨髄(B220/IgM)、末梢血(B220/CD19)、リンパ節(B220/CD19)、および脾臓(B220/CD19)の残りのB細胞含有率を、LSR−IIフローサイトメーターで実行したマルチカラーFACSによって同定し、Flow−Joソフトウェアを使用して分析した(上記に記載)。B細胞枯渇実験の結果を、図3A〜3Dに示す。
【0121】
図3A〜3Dに示されるように、Ab 735は、低親和性FcγR遺伝子の完全な補足物を含有するマウスにおいてAb 168よりも低い効率でB細胞を枯渇させた。さらに、両方の抗体(マウスおよびヒトFc)について、B細胞の枯渇は、低親和性FcγR遺伝子の完全な補足物を欠くマウスにおいて有意に低下した。本実施例は、ADCC経路を通してB細胞を枯渇させる能力が、低親和性FcγRを必要とすることを示し、マウスにおける、ヒト定常領域を含有する抗体についてのADCC効率の測定が、ヒト低親和性FcγR遺伝子の完全な補足物を含有する、遺伝子的に操作されたマウスの使用によってより適したものとなることを実証する。
【0122】
(実施例4)
FcγRIIIA/FcγRIIAヒト化マウスの生成
欠失させた内因性低親和性マウスFcγR遺伝子座(下記に記載)の中に2つの低親和性ヒトFcγR遺伝子を導入するための標的構築物を構築した(図4)。
【0123】
ヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIA遺伝子を含む標的構築物は、BAC RP23−395f6およびCTD−2514j12(Invitrogen)の改変を通して、類似する方法(実施例1を参照されたい)を使用して作製した。両方のBACのBAC DNAは、低親和性ヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIA遺伝子のα鎖の欠失を、欠失させた内因性低親和性FcγR遺伝子座の中に導入するために改変した。
【0124】
同様に、上流および下流の相同性アームは、それぞれ
【0125】
【化6】

【0126】
を用いて作製した。これらの相同性アームは、内因性マウス低親和性FcγR遺伝子座の中に低親和性ヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIA遺伝子のα鎖を導入するカセットを作製するために使用した。標的構築物は、欠失させた内因性低親和性FcγR遺伝子座に対して5’の配列を含む5’相同性アーム、FRTヒグロマイシン抵抗性遺伝子、それに続く、低親和性ヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIA α鎖遺伝子を含む、BAC CTD−2514j12由来のヒトゲノム断片、ならびに欠失させた内因性低親和性FcγR遺伝子座に対して3’のマウス配列を含む3’相同性アームを含む(図4の中央)。マウス血小板上にFcγRIIAを発現するマウスについては、標的構築物は、lox2372部位が両側の側面に位置するヒグロマイシンカセットを使用して、構築物が、たとえば約18kbまたはそれ以上までの、ヒトゲノムにおいてヒトFcγRIIA遺伝子に作動可能に連結される伸長プロモーター配列を含むという点を除いて、類似する方法で作製し(同じBACを使用して)、プロモーター領域と第1のlox2372部位との接合部は、
【0127】
【化7】

【0128】
であり、第2のlox2372部位とマウス配列との接合部は、
【0129】
【化8】

【0130】
である。適したプライマーは、プロモーター領域を含むヒト化の遺伝子型を同定するために使用した。
【0131】
ヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIA α鎖遺伝子の標的挿入は、PCRによって確認した(上記に記載)。部分的にヒト化した座の上流領域は、
【0132】
【化9】

【0133】
を使用して、PCRによって確認したのに対して、部分的にヒト化した座の下流領域は、
【0134】
【化10】

【0135】
を使用して、確認した。下流の接合部の両端のヌクレオチド配列は、以下を含み、これは、欠失させた低親和性FcγR遺伝子座の3’の内因性マウス配列と隣接するhFcγRIIA遺伝子の上流の内因性ヒト配列の新規な挿入ポイントを示す(下記の括弧内に含有される):
【0136】
【化11】

【0137】
上流の接合部は、2つの新規な配列を含む。上流の接合部の一方のポイントは、以下を含み、これは、挿入されたhFcγRIIIA遺伝子の上流領域を含むヒトゲノム配列(下記の括弧内に含有される)と隣接するヒグロマイシンカセットのヌクレオチド配列を示す:
【0138】
【化12】

【0139】
上流の接合部の第2のポイントは、以下を含み、これは、ヒグロマイシンカセット内のヌクレオチド配列と隣接する、欠失させた低親和性FcγR遺伝子座の上流領域由来の内因性マウス配列のヌクレオチド配列を示す(下記の括弧内に含有される):
【0140】
【化13】

【0141】
内因性低親和性マウスFcγR遺伝子座の代わりに2つの低親和性ヒトFcγR遺伝子(伸長プロモーター領域を欠くhFcγRIIAおよびhFcγRIIIA)を含有するマウスは、マウスES細胞への標的BAC DNA(上記に記載)のエレクトロポレーションを通して生成した。ポジティブES細胞クローンは、Taqman(商標)スクリーニングおよび核型分析によって確認した。次いで、ポジティブES細胞クローンは、VELOCIMOUSE(登録商標)法(下記に記載)を使用してメスマウスに移植するために使用し、2つのヒト低親和性FcγR遺伝子との内因性低親和性FcγR遺伝子の置き換えを含有する同腹子の子を生成した。
【0142】
上記に記載される標的ES細胞は、ドナーES細胞として使用し、VELOCIMOUSE(登録商標)法によって8細胞段階のマウス胚の中に導入した(たとえば米国特許第7,294,754号およびPoueymirouら(2007年)F0 generation mice that are essentially fully derived from the donor gene-targeted ES cells allowing immediate phenotypic analyses Nature Biotech. 25巻(1号):91〜99頁を参照されたい。hFcγRIIAおよびhFcγRIIlAを有するVELOCIMICE(登録商標)(ドナーES細胞に完全に由来するF0マウス)は、hFcγR遺伝子の存在を検出した対立遺伝子アッセイの改良法を使用して遺伝子型を同定することによって同定した(Valenzuelaら、前掲)。
【0143】
hFcγR遺伝子を有するマウスは、たとえばES細胞段階でまたは胚中で除去されていない、標的構築物によって導入された、あらゆるlox neoカセットを除去するために、Cre deleterマウス株に交配することができる(たとえば、国際特許出願公開WO 2009/114400を参照されたい)。任意選択で、ネオマイシンカセットは、マウス中に保持される。
【0144】
子は、遺伝子型を同定し、hFcγR遺伝子についてヘテロ接合性の子は、FcγRIIAおよびFcγRIIIAのヒト化を特徴付けるために選択する。
【0145】
(実施例5)
FcγRIIIA/FcγRIIAヒト化マウスの特徴付け
脾臓は、ヒト化FcγRIIIA/FcγRIIA(伸長FcγRIIAプロモーター領域を欠くヘテロ接合体)および野生型マウスから採取し、FACのために調製した(上記に記載)。
【0146】
フローサイトメトリー。リンパ球は、特定の細胞系列についてゲーティングされ、それぞれ、マウス抗ヒトFcγRII抗体(クローンFLI8.26;BD Biosciences)およびマウス抗ヒトFcγRIII抗体(クローン3G8;BD Biosciences)を使用して、hFcγRIIおよびhFcγRIIIの発現について分析した。それぞれのリンパ球亜集団について観察された相対的な発現(++、+)または発現なし(−)を、表2に示す。
【0147】
【表2】

【0148】
類似する実験において、脾臓は、ヒト化FcγRIIIA/FcγRIIA(伸長FcγRIIAプロモーター領域を欠くホモ接合体)および野生型マウスから採取し、FACのために調製した(上記に記載)。結果を図5Aおよび5Bに示す。FcγRIIIA/FcγRIIAホモ接合体マウスにおいてヒトFcγRIIIA、FcγRIIA、またはその両方を発現する別々のリンパ球集団のパーセントを、表3に示す。
【0149】
【表3】

【0150】
本実施例において示されるように、実施例3に従って生成した遺伝子改変されたマウス(ヘテロ接合体およびホモ接合体遺伝子型の両方)は、NK細胞およびマクロファージ上にヒトFcγRIIIAを発現し、血小板ではなく好中球およびマクロファージ上にヒトFcγRIIAを発現した。ヒトFcγRIIIAは、NK細胞上に高度に発現された。本実施例において示されるヒトFcγR遺伝子の発現パターンは、ヒトアクセサリー細胞におけるこれらの遺伝子の発現パターンと一致している。
【0151】
(実施例6)
低親和性FcγRヒト化マウスの生成
部分的にヒト化された内因性低親和性FcγR遺伝子座(下記に記載)の中に3つのさらなる低親和性ヒトFcγR遺伝子を導入するために標的構築物を構築した(図6)。
【0152】
ヒトFcγRIIB、FcγRIIIB、およびFcγRIIC遺伝子を含む標的構築物は、BAC RP−23 395f6およびRP−11 697e5(Invitrogen)の改変を通して、類似する方法(実施例1を参照されたい)を使用して作製した。両方のBACのBAC DNAは、低親和性ヒトFcγRIIB、FcγRIIIB、およびFcγRIIC遺伝子のα鎖を、2つのヒト低親和性FcγR遺伝子を含有する部分的にヒト化された内因性低親和性FcγR遺伝子座の中に導入するために改変した。
【0153】
同様に、上流および下流の相同性アームは、それぞれ、
【0154】
【化14】

【0155】
を用いて作製した。これらの相同性アームは、低親和性ヒトFcγRIIB、FcγRIIIB、およびFcγRIICのα鎖をコードするDNA配列を導入したカセットを作製するために使用した。標的構築物は、欠失させた内因性低親和性FcγR遺伝子座に対して5’のマウス配列を含む5’相同性アーム、loxネオマイシン抵抗性遺伝子、それに続く、低親和性ヒトFcγRIIB、FcγRIIIB、およびFcγRIIC α鎖遺伝子を含む、BAC RP−11 697e5由来のヒトゲノム断片、ならびに低親和性ヒトFcγRIIIA α鎖遺伝子に対して5’のヒト配列を含む3’相同性アームを含んだ(図6の中央)。
【0156】
3つのさらなる低親和性ヒトFcγR遺伝子の標的挿入を、PCRによって確認した(上記に記載)。完全にヒト化した座の上流領域は、
【0157】
【化15】

【0158】
を使用して、PCRによって確認したのに対して、完全にヒト化した座の下流領域は、
【0159】
【化16】

【0160】
を使用して確認した。下流の接合部の両端のヌクレオチド配列は、hFcγRIIA α鎖遺伝子の上流の同じヒトゲノム配列を含んだ(実施例3を参照されたい;配列番号19)。上流の接合部の両端のヌクレオチド配列は、以下を含み、挿入ポイントのマウス配列およびカセット配列ならびにカセット配列およびヒトゲノム配列の2つの新規な接合部を示す。ゲノムマウス配列(下記の括弧内に含有される)とneoカセット配列の上流領域との接合部は、
【0161】
【化17】

【0162】
である。第2の新規な接合部は、neoカセット(下記の括弧内に含有される)の3’末端とhFcgRIIB α鎖遺伝子の下流のヒトゲノム配列との連結部を含む:
【0163】
【化18】

【0164】
これらの接合部は、標的構築物内に、図6(中央)において示す。完全にヒト化した低親和性FcγR遺伝子座の結果として生じる改変ゲノムを、図6(下)に示す。
【0165】
内因性低親和性マウスFcγR遺伝子座の代わりに5つの低親和性ヒトFcγR遺伝子を含有するマウスは、マウスES細胞への標的BAC DNA(上記に記載)のエレクトロポレーションを通して生成した。ポジティブES細胞クローンは、Taqman(商標)スクリーニングおよび核型分析によって確認した。次いで、ポジティブES細胞クローンをメスマウスに移植するために使用し(上記に記載)、内因性低親和性FcγR遺伝子の、5つのヒト低親和性FcγR遺伝子による置き換えを含有する同腹子の子を生じさせた。
【0166】
(実施例7)
低親和性FcγRヒト化マウスの特徴付け
脾臓を、完全にヒト化したFcγR(ヘテロ接合体)および野生型マウスから採取し、FACのために調製した(上記に記載)。
【0167】
フローサイトメトリー。リンパ球は、特定の細胞系列についてゲーティングされ、それぞれ、マウス抗ヒトFcγRII抗体(クローンFLI8.26;BD Biosciences)およびマウス抗ヒトFcγRIII抗体(クローン3G8;BD Biosciences)を使用して、ヒトFcγRIIAおよびFcγRIIIAの発現について分析した。それぞれのリンパ球亜集団について観察された相対的な発現(++、+)または発現なし(−)を、表4に示す。
【0168】
【表4】

【0169】
類似する実験において、脾臓を、完全にヒト化したFcγR(ホモ接合体)および野生型マウスから採取し、FACのために調製した(上記に記載)。結果を図7に示す。完全にヒト化したFcγRホモ接合体マウスにおける、ヒトFcγRIIIA、ヒトFcγRIIIB、ヒトFcγRIIA、ヒトFcγRIIB、ヒトFcγRIIC、またはその組合せを発現する別々のリンパ球集団のパーセントを、表5に示す。
【0170】
【表5】

【0171】
本実施例において示されるように、実施例5に従って生成した遺伝子改変マウス(ヘテロ接合体およびホモ接合体遺伝子型の両方)は、NK細胞およびマクロファージ上にヒトFcγRIIIA、好中球上にヒトFcγRIIIB、好中球およびマクロファージ上にヒトFcγRIIA、B細胞上にヒトFcγRIIB、ならびにNK細胞上にヒトFcγRIICを発現した。本実施例において示されるヒトFcγR遺伝子の発現パターンは、ヒトアクセサリー細胞におけるこれらの遺伝子の発現パターンと一致している。
【0172】
(実施例8)
ヒト化FcγRマウスにおけるADCC
FcγR遺伝子欠損(つまりノックアウト)マウス、FcγRIIIA/FcγRIIA(ホモ接合体)マウス、FcγRIIIA/FcγRIIIB/FcγRIIA/FcγRIIB/FcγRIIC(ホモ接合体)マウス、および野生型マウスから単離した脾細胞を、細胞殺傷アッセイにおいて、ADCCを実行するそれらの能力について分析した(実施例2において上記に記載)。
【0173】
手短かに言えば、細胞集団は、単離し、MACS(登録商標)技術(Miltenyi Biotec)を使用して分離した。手短かに言えば、T細胞およびB細胞を枯渇させた脾細胞を、マウスIL−2(500U/mL)の存在下において2週間、培養した。結果として生じる増殖させたNK細胞を、50:1(NK:ラージ)の比でADCCアッセイにおいてエフェクター細胞として使用した。ラージ細胞は、10μg/mLのAb 168またはAb 735を用いて被覆した(実施例3において上記に記載)。結果を表6に示す。
【0174】
【表6】

【0175】
本発明は、本明細書において記載される特定の実施形態による範囲に限定されない。実際、本明細書において記載されるものに加えての本発明の様々な改変は、先の記載および添付の図から当業者らに明白になるであろう。そのような改変は、添付した請求項の範囲内にあるように意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変を含むマウスであって、該遺伝子改変が、内因性低親和性FcγR遺伝子の、該内因性マウス低親和性FcγR遺伝子の遺伝子座に配置される、少なくとも2つの低親和性ヒトFcγR遺伝子による置き換えを含み、該マウスが機能的FcR γ鎖を含む、マウス。
【請求項2】
前記少なくとも2つの低親和性ヒトFcγR遺伝子が、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIA、およびFcγRIIIBから選択される、請求項1に記載のマウス。
【請求項3】
前記少なくとも2つの低親和性ヒトFcγR遺伝子が、FcγRIIAおよびFcγRIIIAである、請求項1に記載のマウス。
【請求項4】
前記ヒトFcγRIIIAが、前記マウスのNK細胞上に発現される、請求項3に記載のマウス。
【請求項5】
前記少なくとも2つの低親和性ヒトFcγR遺伝子が、FcγRIIB、FcγRIIC、およびFcγRIIIBである、請求項1に記載のマウス。
【請求項6】
前記FcγRIIAおよびFcγRIIIAの遺伝子が、対立遺伝子変異体または多型を含む、請求項3に記載のマウス。
【請求項7】
ヒト低親和性FcγR対立遺伝子変異体を含み、前記対立遺伝子変異体が、(a)FcγRIIA対立遺伝子変異体131H、(b)FcγRIIIA対立遺伝子変異体158V、(c)FcγRIIB対立遺伝子変異体232I、(d)好中球抗原2(NA2)対立遺伝子によって特徴付けられるFcγRIIIB対立遺伝子変異体、および(e)それらの組合せから成る群から選択される、請求項5に記載のマウス。
【請求項8】
遺伝子改変されたマウスであって、該遺伝子改変が、FcγRIIB、FcγRIII、およびFcγRIVのαサブユニットをコードする内因性マウス遺伝子の、ヒトFcγRIIIA αサブユニットをコードする遺伝子による置き換えを含み、該マウスが、内因性マウスFcR γサブユニットを伴うヒトFcγRIIIAタンパク質を発現し、該ヒトFcγRIIIAタンパク質がマウスNK細胞の表面上に発現される、マウス。
【請求項9】
マウスNK細胞が、前記マウスの血中で循環するNK細胞であり、該マウスNK細胞の表面上に発現される該FcγRIIIAタンパク質が、ヒトFcまたは改変ヒトFcを含むイムノアドヘシンまたは抗体に結合し、該イムノアドヘシンまたは抗体が、該マウスにおける標的細胞に特異的に結合し、該NK細胞の該FcγRIIIAへの、該イムノアドヘシンまたは該抗体の結合が、該標的細胞のNK細胞殺傷を媒介する、請求項8に記載の遺伝子改変されたマウス。
【請求項10】
前記標的細胞にヒト病原体が感染しており、前記イムノアドヘシンまたは抗体が該ヒト病原体のエピトープに特異的に結合する、請求項9に記載の遺伝子改変されたマウス。
【請求項11】
前記標的細胞が腫瘍細胞であり、前記イムノアドヘシンまたは抗体が該腫瘍細胞のエピトープに特異的に結合する、請求項9に記載の遺伝子改変されたマウス。
【請求項12】
治療薬依存性の細胞殺傷を測定するための方法であって、
(a)遺伝子改変されたマウスに、該マウスにおけるNK細胞でない標的細胞に特異的に結合する治療剤を投与するステップであって、該治療剤がヒトFcを含む、ステップと、
(b)該マウスまたは該マウスの組織試料におけるNK媒介性の標的細胞殺傷のレベルを測定するステップと、
(c)前記治療剤によって媒介される標的細胞殺傷の量を決定し、それによって、治療薬依存性の細胞殺傷を測定するステップと
を含み、該遺伝子改変が、マウスFcγRIIBのαサブユニットをコードする遺伝子の欠失、マウスFcγRIIIのαサブユニットをコードする遺伝子の欠失、およびマウスFcγRIVのαサブユニットをコードする遺伝子の欠失を含み、前記マウスが、ヒトFcγRIIIAのαサブユニットをコードする遺伝子を、内因性マウスαサブユニットの遺伝子座に含み、該マウスが機能的FcR γ鎖サブユニットを発現する、方法。
【請求項13】
前記マウスが、前記内因性マウスαサブユニットの遺伝子座に、FcγRIIA αサブユニット、FcγRIIB αサブユニット、FcγRIIC αサブユニット、FcγRIIIB αサブユニット、およびそれらの組合せから選択されるヒトFcγR αサブユニットをコードする遺伝子をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記標的細胞がヒト病原体であり、前記治療薬が、該ヒト病原体のエピトープに特異的に結合する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記標的細胞が、ヒト病原体が感染しているマウス細胞であり、前記治療薬が、該ヒト病原体のエピトープに特異的に結合する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記標的細胞が、ヒト病原体が感染しているヒト細胞であり、前記治療薬が、該ヒト病原体のエピトープに特異的に結合する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記標的細胞が、ヒト腫瘍細胞であり、前記治療薬が、該ヒト腫瘍細胞のエピトープに特異的に結合する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記組織試料が血液試料である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記治療薬が抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体がヒト抗体である、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−514778(P2013−514778A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544863(P2012−544863)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/060925
【国際公開番号】WO2011/084664
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(597160510)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】