説明

ヒトK−RASのコドン12−13における突然変異の診断試験

本発明は標的配列を増幅するプライマーを使用してヒトK−RASのコドン12及び13における突然変異に相関する癌及び腫瘍を診断するための組成物、方法及びキットに関する。増幅した標的配列をその後、任意数の質量分析法により分析し、コドン12及び13におけるK−RAS突然変異の塩基組成シグネチャデータベースに対してデータを照会する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に分子ツールを使用して各種癌のマーカーであるヒトK−RASのコドン12−13における突然変異を検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
K−RASと癌
K−RAS(「ラット肉腫」ウイルス由来;別称K−RAS2)遺伝子における突然変異は多様な癌に相関する。K−RAS遺伝子はKirstenラット肉腫ウイルスから単離されたトランスフォーミング遺伝子のヒト細胞ホモログをコードする。コドン12及び13におけるK−RAS遺伝子の突然変異はコードされるp21蛋白質の機能的変異につながる。K−RAS突然変異は概数で膵癌の90%、結腸直腸癌の50%及び非小細胞肺癌の30%に存在することが知られており、その突然変異プロファイルによると、突然変異の約85%はコドン12及び13に生じることが判明した(Samowitz et al.,2000)。K−RAS遺伝子突然変異の識別は例えば膵癌、結腸直腸癌及び非小細胞肺癌の癌診断における有用なツールとして使用され、各種腫瘍表現型との相関が報告されている(Andreyev et al.,2001;Brink et al.,2003;Samowitz et al.,2000)。
【0003】
RAS癌遺伝子ファミリーは十分に特性決定されている(Barbacid,1987);(Bos,1989)。RAS遺伝子ファミリーは分子量21,000をもつ免疫学的に近縁の蛋白質(p21)をコードする(Ellis et al.,1981);(Papageorge et al.,1982)。これらは細胞内シグナルトランスデューサーとして作用するグアノシン二リン酸/グアノシン三リン酸(GDP/GTP)結合蛋白質である。このファミリーには(1)マウス肉腫ウイルスのHarvey株におけるH−RAS(Ellis et al.,1981)と、(2)K−RAS及びKirstenマウス肉腫ウイルス(Ellis et al.,1981)と、(3)H−RASとの低ストリンジェンシーハイブリダイゼーションにより同定されたN−RAS(Shimizu et al.,1983)の少なくとも3種のメンバーが含まれる。野生型蛋白質は増殖、分化及び老化を含む正常組織シグナル伝達において重要な役割を果たすが、突然変異RAS遺伝子は多数のヒト癌において役割を果たす(Kranenburg,2005)。
【0004】
K−RASは最も一般に活性化される癌遺伝子の1種であると思われ、全ヒト腫瘍の17〜25%が活性化K−RAS突然変異を含む(Kranenburg,2005)。コドン12及び13以外で癌遺伝子活性化に重要な領域としては、コドン59、61及び63が挙げられる(Grimmond et al.,1992)。突然変異の結果、活性なGTPと結合した状態でRASが蓄積するが、これは内在GTPアーゼ活性の低下に起因すると思われ、従って、GTPアーゼ活性化蛋白質に対する耐性を生じる(Zenker et al.,2007)。
【0005】
コドン12及び13におけるK−RAS突然変異を報告している研究例を表1に示す。
【0006】
【表1】

【0007】
K−RASコドン12−13突然変異の従来の判定方法
ヒトK−RAS遺伝子のコドン12−13における突然変異の典型的な分子アッセイは野生型から多型を検出する段階に依存する。例えば、K−RASのコドン12又は13に突然変異を含む疑いのある核酸を含有する試験サンプルを各種技術により分析し、RNA/RNA又はRNA/DNAデュプレクス塩基ミスマッチ検出後にゲル電気泳動する方法や、ゲル上で突然変異体ポリヌクレオチドと野生型ポリヌクレオチドの電気泳動移動度の差を検出する1本鎖コンフォーメーション多型(SSCP)アッセイ等の電気泳動移動度アッセイ、又は同様にGCクランプを標的配列に付加する追加段階を含む変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)が挙げられる。他の例としては、選択的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、選択的核酸増幅技術、及び選択的プライマー伸長アッセイが挙げられる。分子の中心(従って突然変異毎に異なるプライマーが必要になる)又はプライマーの3’末端(ARMS)等に該当突然変異を含むようにプライマーを設計する選択的PCR増幅アプローチも使用される。あるいは、試験サンプルからの配列を野生型K−RAS配列と比較する方法(従って、シーケンシングが必要)や、制限フラグメント長多型(RFLP)をアッセイする方法(有用なRFLPの識別が必要であり、制限ヌクレアーゼ消化やフラグメント長検出等の追加段階が必要である)もある。
【0008】
核酸に基づく分子診断法
核酸の同定には分子診断が主流になっている。標的ポリヌクレオチドをインビトロ増幅した後に検出するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による診断は疾患、病態及び病原体に特異的な多様な核酸について開発に成功している。
【0009】
PCRアッセイを臨床面に適用する際の重要な欠点として、バックグラウンドDNA汚染と競合基質によるPCR増幅の妨害を回避できない点が挙げられる。著しい進歩にも拘わらず、試験サンプルの汚染は依然として問題であり、外来DNA源を除去する方法はアッセイ感度の有意低下を伴うことが多い。PCR産物を同定及び特性決定するには単にDNAシーケンシングを実施すればよいが、シーケンシングとその後の分析は手間と時間がかかる。
【0010】
迅速なPCR産物検出と特性決定には高分解能エレクトロスプレーイオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(ESI−FT−ICR MS)等の質量分析技術を使用することができる。少なくとも1種のヌクレオチドの個数の認知と厳密な質量の正確な測定により、約100塩基対のPCRデュプレクス産物の合計塩基組成を計算することができる(Muddiman and Smith,1998)。例えば、Aaserudらは2本の鎖の相補性により加えられる数学的制約を使用して2本鎖合成DNA構築物から塩基組成を導くために、高性能質量分析法により得られた正確な質量測定値を使用できることを立証した(Aaserud et al.,1996)。Muddimanらは相補的な1本鎖オリゴヌクレオチドの厳密な質量測定値から明確な塩基組成を導くことが可能なアルゴリズムを開発した(Muddiman et al.,1997)。WunschelらはBacillus cereusに由来する16/23S rDNA中間領域から増幅したPCR産物において89bpレベルでESI−FTICRを使用し、1塩基相違する鋳型から増幅したPCR産物を分解及び同定できることを示した(Wunschel et al.,1998)。エレクトロスプレーイオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(ESI−FT−ICR)MSを使用し、平均分子量により2本鎖500塩基対PCR産物の質量を決定することができる(Hurst et al.,1996)。PCR産物を特性決定するためにマトリックス支援レーザー脱着イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法も利用されている(Muddiman et al.,1999)。
【0011】
ポリヌクレオチドの質量分析法の例を以下に挙げる。
【0012】
米国特許第5,965,363号はこれらの方法の質量分解能と質量精度を改善するための質量分析技術及び手法を使用し、増幅した標的核酸を分析することにより、核酸を多型についてスクリーニングする方法を開示している。
【0013】
WO99/14375は予め選択したDNAタンデムヌクレオチドリピート対立遺伝子を質量分析法により分析するのに使用する方法、PCRプライマー及びキットについて記載している。
【0014】
WO98/12355は標的核酸を開裂してその長さを短縮し、標的1本鎖を作製し、MSを使用して1本鎖短縮標的の質量を測定することにより、標的核酸の質量を質量分析法により測定する方法を開示している。標的核酸を増幅し、鎖の一方を固体支持体に結合し、第2鎖を遊離させてから第1鎖を遊離させた後にMSにより分析する段階を含むMS分析に使用する2本鎖標的核酸の作製方法も開示されている。標的核酸作製用キットも提供されている。
【0015】
PCT WO97/33000は標的を1組の1本鎖非ランダム長フラグメントに非ランダムに断片化し、その質量をMSにより測定することにより標的核酸中の突然変異を検出する方法を開示している。
【0016】
米国特許第5,605,798号は高速高精度質量分析計を使用し、診断目的で生体サンプル中の特定核酸の存在を検出する方法について記載している。
【0017】
WO98/21066は質量分析法により特定標的核酸の配列を決定する方法について記載している。生体サンプル中に存在する標的核酸をPCR増幅と質量分析検出により検出する方法も開示されており、更に、制限部位とタグを付加したプライマーを使用して標的を増幅し、増幅した核酸を伸長及び開裂し、伸長した産物の存在を検出し、野生型と異なる質量のDNAフラグメントの存在を突然変異の指標とすることにより、サンプル中の標的核酸を検出する方法も開示されている。質量分析法による核酸のシーケンシング方法も記載されている。
【0018】
WO97/37041、WO99/31278及び米国特許第5,547,835号は質量分析法を使用した核酸のシーケンシング方法について記載している。米国特許第5,622,824号、5,872,003号及び5,691,141号はエキソヌクレアーゼによる質量分析シーケンシング方法、システム及びキットについて記載している。
【0019】
米国特許第7,217,510号、7,108,974号、7,255,992号、7,226,739号及びUS2004/0219517は塩基組成シグネチャを利用するための方法と組成物について記載しており、これらの場合には病原体を同定している。塩基組成シグネチャは増幅産物の分子量から決定される厳密な塩基組成であり、先ず増幅産物の分子量を質量分析法により測定した後に、分子量から塩基組成を決定することにより決定される。少なくとも1対のオリゴヌクレオチドはリボソームRNAをコードする核酸の2個の別個の保存領域とハイブリダイズし、2個の別個の保存領域は可変核酸領域を挟み、増幅されると、病原体の特徴である塩基組成「シグネチャ」を形成する。塩基組成シグネチャをデータベースに保存されたシグネチャとマッチさせることにより病原体を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第5,965,363号明細書
【特許文献2】国際公開第99/14375号
【特許文献3】国際公開第98/12355号
【特許文献4】国際公開第97/33000号
【特許文献5】米国特許第5,605,798号明細書
【特許文献6】国際公開第98/21066号
【特許文献7】国際公開第97/37041号
【特許文献8】国際公開第99/31278号
【特許文献9】米国特許第5,547,835号明細書
【特許文献10】米国特許第5,622,824号明細書
【特許文献11】米国特許第5,872,003号明細書
【特許文献12】米国特許第5,691,141号明細書
【特許文献13】米国特許第7,217,510号明細書
【特許文献14】米国特許第7,108,974号明細書
【特許文献15】米国特許第7,255,992号明細書
【特許文献16】米国特許第7,226,739号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2004/0219517明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Samowitz et al.,2000
【非特許文献2】Andreyev et al.,2001
【非特許文献3】Brink et al.,2003
【非特許文献4】Barbacid,1987
【非特許文献5】Bos,1989
【非特許文献6】Ellis et al.,1981
【非特許文献7】Papageorge et al.,1982
【非特許文献8】Shimizu et al.,1983
【非特許文献9】Kranenburg,2005
【非特許文献10】Grimmond et al.,1992
【非特許文献11】Zenker et al.,2007
【非特許文献12】Rodenhuis et al.,1987
【非特許文献13】Yanez et al.,1987
【非特許文献14】Almoguera et al.,1988
【非特許文献15】Hruban et al., 1993
【非特許文献16】Smit et al.,1988
【非特許文献17】Laghi et al.,2002
【非特許文献18】Burmer and Loeb,1989
【非特許文献19】Lee et al.,1995
【非特許文献20】Otori et al.,1997
【非特許文献21】Nikiforova et al.,2003
【非特許文献22】Liu et al.,1987
【非特許文献23】Bezieau et al.,2001
【非特許文献24】Muddiman and Smith,1998
【非特許文献25】Aaserud et al.,1996
【非特許文献26】Muddiman et al.,1997
【非特許文献27】Wunschel et al.,1998
【非特許文献28】Hurst et al.,1996
【非特許文献29】Muddiman et al.,1999
【発明の概要】
【0022】
第1の側面において、本発明は試験サンプル中のヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無の識別方法であって、
試験サンプルを準備する段階と;
セットA、B、C及びD(ここで、
セットAは配列番号1の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットBは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットCは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットDは配列番号3の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含む)から構成される群から選択されるプライマー対セットを含む反応混合物を形成する段階と;
混合物を増幅条件に付し、増幅産物を生成する段階と;
増幅産物の分子量を測定する段階と;
増幅産物の分子量をデータベース中の標的配列の分子量計算値又は測定値と比較し、ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無を識別する段階を含む方法に関する。
【0023】
第2の側面において、本発明は試験サンプル中のヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無の識別方法であって、
試験サンプルを準備する段階と;
セットA、B、C及びD(ここで、
セットAは配列番号1の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットBは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットCは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットDは配列番号3の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含む)から構成される群から選択されるプライマー対セットを含む反応混合物を形成する段階と;
混合物を増幅条件に付し、増幅産物を生成する段階と;
増幅産物の塩基組成を決定する段階と;
増幅産物の塩基組成をデータベース中の標的配列の塩基組成計算値又は測定値と比較し、ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無を識別する段階を含む方法に関する。
【0024】
第1及び第2の側面の方法のいずれにおいても、標的配列の識別は増幅産物のシーケンシングを含まず、質量分析法はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FT−ICR−MS)又はエレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析法(ESI−TOF)等の飛行時間型質量分析法(TOF−MS)とすることができる。更に、第1及び第2の側面のいずれにおいても、プライマーセットは少なくとも1種のヌクレオチドアナログを含むことができ、前記ヌクレオチドアナログは例えばイノシン、ウリジン、2,6−ジアミノプリン、プロピンC及びプロピンTである。どちらの側面の増幅産物も更に炭素同位体(例えば13C)等の分子量修飾タグを付加することができる。コドン12又は13における突然変異の検出は結腸直腸、非小細胞肺、卵巣、胆管、膵臓、食道、乳房、甲状腺及び子宮内膜癌もしくは腫瘍、又はK−RASのコドン12もしくは13における突然変異に相関する他の任意癌もしくは腫瘍から構成される群から選択される癌に相関する。
【0025】
第3の側面において、本発明は試験サンプル中のヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無の識別方法であって、
試験サンプルを準備する段階と;
セットA、B、C及びD(ここで、
セットAは配列番号1の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットBは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットCは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットDは配列番号3の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含む)から構成される群から選択されるプライマー対セットを含む反応混合物を形成する段階と;
混合物を増幅条件に付し、増幅産物を生成する段階と;
増幅産物の分子量を測定する段階と;
増幅産物の分子量をデータベース中の標的配列の分子量計算値又は測定値と比較し、ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無を識別する段階を含む方法に関する。
【0026】
第4の側面において、本発明は試験サンプル中のヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無の識別方法であって、
試験サンプルを準備する段階と;
セットA、B、C及びD(ここで、
セットAは配列番号1の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットBは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットCは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットDは配列番号3の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含む)から構成される群から選択されるプライマー対セットを含む反応混合物を形成する段階と;
混合物を増幅条件に付し、増幅産物を生成する段階と;
増幅産物の塩基組成を決定する段階と;
増幅産物の塩基組成をデータベース中の標的配列の塩基組成計算値又は測定値と比較し、ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無を識別し、K−RAS突然変異を少なくとも1種の癌又は腫瘍に相関させる段階を含む方法に関する。
【0027】
第3及び第4の側面の方法のいずれにおいても、標的配列の識別は増幅産物のシーケンシングを含まず、質量分析法はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FT−ICR−MS)又はエレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析法等の飛行時間型質量分析法(TOF−MS)とすることができる。更に、第3及び第4の側面のいずれにおいても、プライマーセットは少なくとも1種のヌクレオチドアナログを含むことができ、前記ヌクレオチドアナログは例えばイノシン、ウリジン、2,6−ジアミノプリン、プロピンC及びプロピンTであり、反応混合物は少なくとも2個のプライマーセットを含む。どちらの側面の増幅産物も更に分子量修飾タグを付加することができる。コドン12又は13における突然変異の検出は結腸直腸、非小細胞肺、卵巣、胆管、膵臓、食道、乳房、甲状腺及び子宮内膜の癌もしくは腫瘍、又はK−RASのコドン12もしくは13における突然変異に相関する他の任意癌もしくは腫瘍から構成される群から選択される癌に相関する。
【0028】
第5の側面において、本発明はセットA、B、C及びD(ここで、
セットAは配列番号1の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットBは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットCは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットDは配列番号3の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含む)から構成される群から選択されるプライマー対セットと;
増幅試薬
を含むキットに関する。
【0029】
第6の側面において、本発明はセットA、B、C及びD(ここで、
セットAは配列番号1の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットBは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットCは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットDは配列番号3の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含む)から構成される群から選択されるプライマー対セットと;
増幅試薬
を含むキットに関する。
【0030】
第7の側面において、本発明はプライマー対セットに関し、前記プライマー対セットはセットA、B、C及びDから構成される群から選択される1種であり、
セットAは配列番号1の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットBは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットCは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットDは配列番号3の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含む。
【0031】
第8の側面において、本発明はプライマー対セットに関し、前記プライマー対セットはセットA、B、C及びDから構成される群から選択される1種であり、
セットAは配列番号1の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットBは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットCは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列を含むリバースプライマーを含み;
セットDは配列番号3の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含む。
【0032】
本発明はK−RASコドン12及び13における突然変異の検出を著しく簡単にする。新規プライマー対セットを使用して標的配列の増幅後、得られたフラグメントの塩基組成を質量分析法により分析し、塩基組成中に特定変異がある場合に突然変異が存在すると判定する。
【0033】
本発明は分光技術を利用することによりその顕著な利点の一部を実現する。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の標的増幅技術により生成されたアンプリコンの厳密な塩基組成を決定するためには、エレクトロスプレーインジェクション飛行時間型質量分析法(ESI−MS)を使用することができる。本願に開示する発明はK−RASのコドン12−13を挟むプライマー対セット(セットA、B、C及びD)を利用する。プライマーを表2に示し、これらのプライマーにより増幅される配列を表3に示す。表4はコドン12及び13における突然変異の非限定的な例を示し、核酸変異と、得られるアミノ酸変異を示す。表5〜8は増幅後の核酸が表4に示す各種突然変異を含むときに各プライマーセットにより増幅される配列を示す。
【0034】
本発明は新規プライマー対セットを提供する。これらのプライマー対セットは本発明の各種K−RAS突然変異検出法で使用することができる。1態様において、本発明は配列番号1及び4の新規プライマー対(セットA)を提供及び使用する。別の態様において、本発明は配列番号2及び4の新規プライマー対(セットB)を提供及び使用する。別の態様において、本発明は配列番号2及び5のプライマー対(セットC)を提供及び使用する。更に別の態様において、本発明は配列番号3及び4のプライマー対(セットD)を提供及び使用する。
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
【表8】

【0042】
別の態様では、プライマーセットを増幅条件に付し、第1のサイクルでは反応混合物を少なくとも1種の核酸ポリメラーゼ(例えばDNAポリメラーゼ)と共に94℃で10秒間後、55〜60℃で20秒間、次いで72℃で20秒間インキュベートする。サイクルを複数回(例えば40サイクル)反復することができる。反応混合物を40℃に維持する最終サイクルを加えることができる。これらの条件は必要に応じて当業者が容易に調節することができる。増幅条件については追って詳述する。
【0043】
増幅後、反応混合物をESI−MS等の分光分析に付す。サンプルを分光計に注入後、任意増幅産物の分子量又は対応する「塩基組成シグネチャ」(BCS)を決定し、分子量又はBCSのデータベースにマッチさせる。BCSはアンプリコンを識別する生体物質の分子量から計算された厳密な塩基組成である。BCSは核酸の有用な指標を提供する。BCSは塩基配列ではなく、核酸の核酸塩基組成(例えばA,G,C,T)を表すという点が核酸配列と異なる。従って、本願方法は迅速なスループットを提供し、検出と識別に増幅後の標的配列の核酸シーケンシングを必要としない。更に、分離した配列を単なるゲル染色により検出するか、あるいは検出ラベルを含むプローブとのハイブリダイゼーションにより検出するかに関係なく、検出後にゲル電気泳動等の時間のかかる分離技術を実施する必要がなくなる。本発明の方法では、K−RASのコドン12及び13における突然変異を単純な検出段階とデータベース照会によりサンプル中で検出することができる。
【0044】
1態様では、ヒト等の哺乳動物とすることができる対象からサンプルを採取する。サンプルは一般に腫瘍又は腫瘍もしくは癌細胞を含む疑いのある組織から採取される。
【0045】
定義
「特異的にハイブリダイズする」とは、核酸が第2の核酸と検出可能且つ特異的に結合できることを意味する。ポリヌクレオチドは非特異的核酸との相当量の検出可能な結合を最小限にするハイブリダイゼーション及び洗浄条件下で標的核酸鎖と特異的にハイブリダイズする。
【0046】
「標的配列」又は「標的核酸配列」とは、K−RAS遺伝子のコドン12又は13を含む核酸配列、あるいはポリヌクレオチドプライマーセットA、B、C又はDの1種以上を使用して増幅、検出又は増幅検出されるその相補配列を意味する。更に、標的配列なる用語は2本鎖核酸配列を意味する場合もあるが、標的配列は1本鎖でもよい。標的が2本鎖の場合には、本発明のポリヌクレオチドプライマー配列は標的配列の両方の鎖を増幅することが好ましい。特定生物に多少なりとも特異的な標的配列を選択することができる。例えば、標的配列は属全体、2種以上の属、種もしくは亜種、血清群、栄養要求型、血清型、株、単離株又は生物の他のサブセットに特異的であり得る。
【0047】
「試験サンプル」とは対象又は体液から採取したサンプルであって、K−RAS標的配列を含んでいる可能性のあるサンプルを意味する。試験サンプルは任意ソース(例えば組織、血液、唾液、喀痰、粘液、汗、尿、尿道スワブ、子宮頸部スワブ、泌尿・生殖器スワブ又は肛門スワブ、結膜スワブ、水晶体液、脳脊髄液等)から採取することができる。試験サンプルは(i)ソースから採取したまま使用してもよいし、(ii)サンプルの特徴を改変するように前処理後に使用してもよい。従って、例えば、血液から血漿又は血清の調製、細胞又はウイルス粒子の破壊、固体材料から液体の調製、粘液の希釈、液体濾過、試薬添加、核酸精製等により試験サンプルを前処理することができる。
【0048】
「対象」とは哺乳動物、鳥類又は爬虫類を包含する。対象はウシ、ウマ、イヌ、ネコ又は霊長類とすることができる。対象はヒトが好ましい。対象は生体でも死体でもよい。
【0049】
「ポリヌクレオチド」とは、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、修飾RNAもしくはDNA、又はRNAもしくはDNAミメティクス(例えばPNA)、並びにその誘導体及びそのホモログの核酸ポリマーである。従って、ポリヌクレオチドは天然ヌクレオ塩基、糖及び共有的ヌクレオシド間(主鎖)結合から構成されるポリマーと、同様に機能する非天然部分をもつポリマーを包含する。このような修飾又は置換核酸は当分野で周知であり、本発明の趣旨では「アナログ」と呼ぶ。オリゴヌクレオチドは一般に約10ヌクレオチドから約160又は200ヌクレオチドまでの短いポリヌクレオチドである。
【0050】
第1のポリヌクレオチドが第2のポリヌクレオチドに対して配列一致度を有すると言う場合には、ポリヌクレオチドが第2のポリヌクレオチドに対して少なくとも約60%の核酸配列一致度、より好ましくは少なくとも約61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%及び99%の核酸配列一致度を有することを意味する。
【0051】
核酸配列に関する「核酸配列一致度百分率(%)」は該当配列を整列させ、必要に応じて最大の配列一致度百分率に達するようにギャップを導入後に該当配列中のヌクレオチドと一致する候補配列中のヌクレオチドの百分率として定義される。核酸配列一致度%を決定する目的での整列は例えば、BLAST、BLAST−2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等の公共入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して当業者に公知の各種方法により実施することができる。当業者は比較する配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意アルゴリズムを含めてアラインメントの測定に適したパラメータを決定することができる。
【0052】
ヌクレオチド配列を整列させる場合には、所定核酸配列Dに対する所定核酸配列Cの核酸配列一致度%(あるいは所定核酸配列Dに対して所定の核酸配列一致度%を有する所定核酸配列Cと言うこともできる)は次のように計算することができる:
核酸配列一致度%=W/Z*100
(式中、
Wは配列アラインメントプログラム又はアルゴリズムによるCとDの整列により一致マッチとしてスコアされたヌクレオチド数であり、
ZはDにおける合計ヌクレオチド数である)。
【0053】
核酸配列Cの長さが核酸配列Dの長さに等しくない場合には、Dに対するCの核酸配列一致度%はCに対するDの核酸配列一致度%と等しくならない。
【0054】
「%の配列一致度を有するポリヌクレオチドから本質的に構成される」とは、ポリヌクレオチドの長さは実質的に相違しないが、配列は実質的に相違していてもよいことを意味する。従って、100ヌクレオチドの既知配列「B」に対して少なくとも80%の配列一致度を有するポリヌクレオチドから本質的に構成されるポリヌクレオチド「A」と言う場合には、ポリヌクレオチド「A」が約100nt長であるが、20ntまでは「B」配列と相違していてもよいことを意味する。目的の二次構造を作製するために実質的に一致しない配列を付加する場合のように、例えば特定型のプローブ、プライマー及び他の分子ツール等を作製するために1〜15ヌクレオチドを付加する等の末端修飾により、該当ポリヌクレオチド配列を延長又は短縮することができる。配列が「から本質的に構成される」と言う場合には、このような不一致のヌクレオチドは配列一致度の計算に含まない。
【0055】
相補的フラグメントとハイブリダイズするための1本鎖DNAの特異性は反応条件のストリンジェンシーにより決定される。DNAデュプレクスを形成する傾向が減るにつれてハイブリダイゼーションストリンジェンシーは増加する。核酸ハイブリダイゼーション反応において、ストリンジェンシーは特異的ハイブリダイゼーションを助長するように選択することができる(高ストリンジェンシー)。近縁であるが、厳密ではない(相同であるが、一致しない)DNA分子又はセグメントを識別するには低特異性ハイブリダイゼーション(低ストリンジェンシー)を使用することができる。
【0056】
DNAデュプレクスは(1)相補的塩基対の数、(2)塩基対の種類、(3)反応混合物の塩濃度(イオン強度)、(4)反応温度、及び(5)DNAデュプレクス安定性を低下させる所定の有機溶媒(例えばホルムアミド)の存在により安定化される。一般的なアプローチは温度を変化させる方法であり、相対温度が高いほど、ストリンジェントな反応条件となる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーについては、優れた説明が文献に記載されている(Ausubel et al.,1987)。
【0057】
「ストリンジェント条件」下のハイブリダイゼーションとは、相互に少なくとも60%相同のヌクレオチド配列がハイブリダイズされる状態に保たれるハイブリダイゼーションプロトコルを意味する。
(例えば宿主細胞受容体にインビボ標的するための)ペプチドや、細胞膜通過を助長する物質等の他の付加基をポリヌクレオチドに付加することができる。更に、ハイブリダイゼーション誘導型開裂剤(van der Krol et al.,1988)やインターカレーター(Zon,1988)でオリゴヌクレオチドを修飾することもできる。オリゴヌクレオチドを別の分子(例えばペプチド、ハイブリダイゼーション誘導型架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘導型開裂剤等)と共役してもよい。
【0058】
有用なポリヌクレオチドアナログとしては、修飾主鎖又は非天然ヌクレオシド間結合をもつポリマーが挙げられる。修飾主鎖としては、主鎖にリン原子を保持するもの(例えばホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロトリエステル、アミノアルキルホスホロトリエステル、メチル及び他のアルキルホスホネート)と、リン原子をもたないもの(例えば短鎖アルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子及びアルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、又は1個以上の短鎖ヘテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド間結合により形成される主鎖)が挙げられる。修飾核酸ポリマー(アナログ)は1個以上の修飾糖部分を含むことができる。
【0059】
ヌクレオチド単位の糖とヌクレオシド間結合の両方が新規基で置換されたRNA又はDNAミメティクスであるアナログも有用である。これらのミメティクスでは、塩基単位は標的配列とのハイブリダイゼーションのために維持されている。優れたハイブリダイゼーション特性をもつことが示されているこのようなミメティクスの1例はペプチド核酸(PNA)である(Buchardt et al.,1992;Nielsen et al.,1991)。別の例は2’及び4’グリコシド炭素が2’−O−メチレン橋により結合されたロックト核酸(LNA)である(Karkare and Bhatnagar,2006)。
【0060】
核酸の範囲は、核酸分子が置換、化学的手段、酵素的手段又は他の適切な手段により天然ヌクレオチド以外の部分で共有結合的に修飾された誘導体を含む。
【0061】
従って、本発明のポリヌクレオチドは標的配列(例えば配列番号1〜5の核酸配列のいずれか1種をもつ核酸分子、並びに前記核酸配列のアナログ及び/又は誘導体とそのホモログ)と特異的にハイブリダイズするプライマーを含む。本発明のポリヌクレオチドはK−RASを含有するポリヌクレオチドを増幅又は検出するためのプライマーとして使用することができる。
【0062】
配列番号1〜5のポリヌクレオチドはApplied Biosystems USA Inc.(Foster City,CA;USA)、DuPont(Wilmington,DE;USA)、又はMilligen(Bedford,MA;USA)から市販されているような市販装置を使用して固相合成等の従来技術により製造することができる。ホスホロチオエートやアルキル化誘導体等の修飾ポリヌクレオチドも当分野で公知の同様の方法により容易に製造することができる(Fino,1995;Mattingly,1995;Ruth,1990)。
【0063】
発明の実施
本発明はK−RAS核酸のコドン12又は13における突然変異の検出方法であって、試験サンプルを採取し;増幅試薬と配列番号1〜5のプライマー等のK−RAS特異的プライマーを添加し;サンプルを増幅し;増幅した核酸(アンプリコン)がある場合には、質量分析法により分析し;得られたデータを使用してデータベースに照会する方法を含む。BCSを決定及び使用してもよいし、しなくてもよい。
【0064】
K−RAS核酸の増幅
サンプル中のK−RASポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして配列番号1〜5のポリヌクレオチドを使用することができる。ポリヌクレオチドをプライマーとして使用し、プライマー対セットは配列番号1及び4(セットA)、配列番号2及び4(セットB)、配列番号2及び5(セットC)、並びに配列番号3及び4(セットD)である。
【0065】
増幅方法は一般に、(a)核酸増幅試薬と、少なくとも1個の本発明のプライマーセットと、少なくとも1個の標的配列を含む疑いのある試験サンプルを含む反応混合物を形成する段階と;(b)混合物を増幅条件に付し、標的配列が存在する場合には標的配列に相補的な核酸配列の少なくとも1個のコピーを作製する段階を含む。
【0066】
上記方法の段階(b)は例えば検出段階の前に適切な任意回数反復することができ、例えば反応混合物を10〜100回(又はそれ以上)、一般には約20〜約60回、より一般には約25〜約45回熱サイクルに付す。
【0067】
核酸増幅試薬としては、ポリメラーゼ活性をもつ酵素、酵素補因子(例えばマグネシウムやマンガン);塩類;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD);及びデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP),(dATP,dGTP,dCTP及びdTTP又はリボヌクレオシド三リン酸)が挙げられる。
【0068】
増幅条件は1個以上の核酸配列のアニーリングと伸長を助長する条件である。このようなアニーリングは温度、イオン強度、配列長、相補性及び配列のG:C含量等の数個のパラメータにかなり予測通りに依存する。例えば、相補的核酸配列の環境内の温度が低下すると、アニーリングが助長される。一般には、診断用途では溶融温度Tよりも約2℃〜18℃(例えば約10℃)低いハイブリダイゼーション温度を使用する。イオン強度もTに影響を与える。典型的な塩濃度はカチオンの種類と原子価に依存するが、当業者に容易に理解される。同様に、G:C含量の増加と配列長の増加によりデュプレクス形成は安定化し、Tは上昇する。
【0069】
最後に、ハイブリダイゼーション温度はプライマーのTに近似又は一致するように選択される。従って、PCR技術の当業者であれば、特定プライマーセットに適切なハイブリダイゼーション条件を得ることできる。
【0070】
増幅法は当分野で周知であり、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、転写による増幅(TMA)、ローリングサークル増幅、核酸配列増幅(NASBA)、リガーゼ連鎖反応及び鎖置換増幅(SDA)が挙げられる。当業者に理解される通り、所定増幅技術で使用するには、プライマーを修飾することが必要な場合があり、例えば、SDAプライマーには一般に制限エンドヌクレアーゼの認識部位を構成する付加ヌクレオチドを5’末端近傍に付加する。NASBAでは、RNAポリメラーゼプロモーターを構成する付加ヌクレオチドをプライマーの5’末端近傍に付加することができる。こうして修飾したポリヌクレオチドも本発明の範囲に含むものとみなす。
【0071】
本発明は単一容器フォーマットで試験サンプル中の標的核酸配列を特異的に増幅するための方法における配列番号1〜5のポリヌクレオチドの使用を包含する。
【0072】
プライマーの化学修飾
例えばハイブリダイゼーションの効率を改善するために、プライマーを化学的に修飾することができる。例えば、DNAトリプレットの3文字目の位置には種間の保存領域の(3文字目の位置のコドンゆらぎによる)変異が起こることが多いので、この位置に対応するヌクレオチドが2個以上のヌクレオチドと結合することができる「ユニバーサル塩基」となるように配列番号1〜5のプライマーを修飾することができる。例えば、イノシン(I)はU、C又はAと結合し、グアニン(G)はU又はCと結合し、ウリジン(U)はA又はGと結合する。ユニバーサル塩基の他の例としては、5−ニトロインドールや3−ニトロピロール等のニトロインドール類(Loakes et al.,1995)、縮重ヌクレオチドdPもしくはdK(Hill et al.)、5−ニトロインダゾールを含有する非環状ヌクレオシドアナログ(Van Aerschot et al.,1995)又はプリンアナログ1−(2−デオキシ−β−D−リボフラノシル)イミダゾール−4−カルボキサミド(Sala et al.,1996)が挙げられる。
【0073】
別の態様では、「ゆらぎ」塩基による多少弱い結合を補償するために、各トリプレットの1文字目と2文字目の位置が未修飾ヌクレオチドよりも高い親和性で結合するヌクレオチドアナログにより占有されるようにオリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。これらのアナログの例としては、チミンと結合する2,6−ジアミノプリン、アデニンと結合するプロピンT、並びにGと結合するプロピンC及びフェノキサジン(Gクランプを含む)が挙げられる。プロピン化ピリミジンは米国特許第5,645,985号、5,830,653号及び5,484,908号に記載されている。フェノキサジンは米国特許第5,502,177号、5,763,588号及び6,005,096号に記載されている。Gクランプは米国特許第6,007,992号及び6,028,183号に記載されている。
【0074】
対照
本発明の方法では、例えば増幅条件が最適になるように確保するために、各種対照を設定することができる。反応には内部標準を含むことができる。このような内部標準は一般に対照標的核酸配列を含む。内部標準は場合により更に別のプライマー対を含むことができる。これらの対照プライマーの一次配列は本発明のポリヌクレオチドと無関係で対照標的核酸配列に特異的なものとすることができる。
【0075】
本発明の関連で対照標的核酸配列は、
(a)特定反応で使用されるプライマーもしくはプライマー対セット又は明白な対照プライマーにより増幅することができ;
(b)質量分析技術により検出される
核酸配列である。
【0076】
アンプリコンの質量分析特性決定
質量分析法(MS)によるPCR産物の検出と特性決定にはいくつかの明白な利点がある。MSは全増幅産物をその分子量により識別するので、元来放射性又は蛍光ラベルを必要としない並列検出スキームである。フェムトモル未満の量の材料しか必要としない。サンプルの分子量の正確な測定を短時間で得ることができる。サンプルを気相に変換するために各種イオン化法の1種を使用して増幅産物からインタクトな分子イオンを生成することができる。これらのイオン化法としては、エレクトロスプレーイオン化(ES)、マトリックス支援レーザー脱着イオン化(MALDI)及び高速原子衝突(FAB)が挙げられる。例えば、WO98/54751には核酸のMALDIと、核酸のMALDIで使用されるマトリックスの例が記載されている。
【0077】
イオン化後、異なる電荷をもつイオンの形成により1個のサンプルから数個のピークが観測される。1個の質量スペクトルから得られる分子量の複数の読み取り値を平均すると、アンプリコンの分子量の推定値が得られる。エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−MS)は有意量の断片化を生じずにサンプルの多荷電分子の分布が得られるため、分子量が10kDaを上回る蛋白質や核酸等の非常に高分子量のポリマーに特に有用である。
【0078】
本発明に適切な質量検出器としては、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FT−ICR−MS)、イオントラップ型分析計、四重極型分析計、磁気セクター型分析計、飛行時間(TOF)型分析計、Q−TOF型分析計及び三連四重極型分析計が挙げられる。
【0079】
一般に、本発明で使用することができる有用な質量分析技術としては、タンデム質量分析法、赤外多光子解離法及び熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法(PGC−MS)が挙げられる。
【0080】
大きなDNAの分子量の正確な測定は各鎖へのPCR反応からのカチオン付加、天然に存在する13C及び15N同位体からの同位体ピークの分解、並びに任意イオンの電荷状態の帰属により制限される。カチオンは流れに対して垂直な電場勾配の存在下でPCR産物を含有する溶液を酢酸アンモニウムを含有する溶液と接触させるフロースルーチップを使用するインライン透析により除去される。後者2つの問題は>100,000の分解能で操作し、同位体を減少させたヌクレオチド三リン酸をDNAに付加することにより対処することができる。機器の分解能も考慮すべきである。10,000の分解能では、84量体PCR産物の[M−14H+]14−電荷状態からのモデル化シグナルは特性決定が不良であり、電荷状態又は厳密な質量の帰属は不可能である。33,000の分解能では、個々の同位体成分からのピークが目に見える。100,000の分解能では、同位体ピークは基線まで分解され、イオンの電荷状態の帰属が簡単である。例えば、微生物を欠乏培地で増殖させ、ヌクレオチドを回収することにより、[13C,15N]を減少させた三リン酸塩が得られる(Batey et al.,1992)。
【0081】
タンデム質量分析法は分子種又は配列に関するより決定的な情報を提供することができる。タンデムMSは2段階以上の質量分析を併用するものであり、分離段階と検出段階の両方を質量分析法により実施する。第1段階を使用し、詳細な構造情報を得ることが望まれるサンプルのイオン又は成分を選択する。選択したイオンを次に例えば黒体放射、赤外多光子解離又は衝突活性化により断片化する。例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)により生成されたイオンはIR多光子解離を使用して断片化することができる。この活性化はグリコシド結合とリン酸主鎖の解離をもたらし、(内部開裂後にインタクトな3’末端と5’リン酸をもつ)w系列と(インタクトな5’末端と3’フランをもつ)a−Base系列と呼ばれる2系列のフラグメントイオンを生じる。
【0082】
次に第2段階の質量分析を使用し、これらの得られた生成イオンフラグメントの質量を測定する。このようなイオン選択後に断片化ルーチンを複数回実施すると、サンプルの分子配列をほぼ完全に解析することができる。
【0083】
PCRアンプリコンをESI−TOF質量分析法により分析すると、2本鎖DNAアンプリコンの各鎖に1つずつ1対の質量が得られる。場合によっては、一方の鎖のみの分子量から明確な識別に十分な情報が得られる。他方、他の場合には、両鎖からの情報を判定することが好ましい。
【0084】
1本鎖の分子量が2個以上のBCSに一致する場合もある。相補鎖でもこのような場合がある。これらの曖昧さは相補性の付加制約を適用すると解決される。従って、A28242925のBCSをもつ鎖をその相補配列A24282529と対合させる。一般にアンプリコンの2本の鎖の可能なBCS解のセットを比較する場合、通常は1対のみの鎖が相互の相補配列である。この対はアンプリコンのBCSの唯一の解に相当し、他の潜在的な解は非相補的であるため、棄却する。
【0085】
例えば、アンプリコンをESI−TOF質量分析法により分析し、第1鎖の第1の質量32.889.45Daと、第2鎖の第2の質量33,071.46Daの2つの質量を得る。DNA塩基の平均質量は以下の通り:
A=313.0576amu
G=328.0526amu
C=289.0464amu;及び
T=304.0461amu
であると仮定する。各鎖に5つの解が考えられ、各解から質量測定値が得られる。第1鎖と第2鎖の可能な解の計算値は以下の通りである。
【0086】
【表9】

【0087】
これらの可能な解を検証すると、相補性の制約を適用した場合に第1鎖が第2鎖の相補配列となる解は1個だけであり、即ち、第1鎖の全Aの代わりに第2鎖ではTが存在し、第1鎖の全Gの代わりに第2鎖ではCが存在し、以下同様である。従って、唯一の解は以下の通りとなる:
第1鎖:A28292524
第2鎖:T28292524
【0088】
質量修飾「タグ」も使用することができる。質量の識別を改善するように未修飾塩基と異なる分子量をもつヌクレオチドアナログ又は「タグ」(例えば5−(トリフルオロメチル)デオキシチミジン三リン酸)を増幅中に付加する。このようなタグは例えばWO97/33000に記載されている。こうして任意質量に一致する可能な塩基組成の数を更に制限する。例えば、別の核酸増幅反応でdTTPの代わりに5−(トリフルオロメチル)デオキシチミジン三リン酸を使用することができる。従来の増幅産物とタグ付き産物の質量シフトの測定を使用し、各1本鎖におけるチミジンヌクレオチド数を定量する。鎖は相補的であるため、各鎖におけるアデノシンヌクレオチド数も決定される。
【0089】
別の増幅反応では、例えばシチジンアナログである5−メチルシトシン(5−meC)又はプロピンCを使用して各鎖におけるG及びC残基の数を測定する。A/T反応とG/C反応の併用後に分子量を測定すると、唯一の塩基組成が得られる。この方法を表9にまとめる。
【0090】
【表10】

【0091】
表9では、Bacillus anthracisクラスターを識別するために質量タグホスホロチオエートA(A*)を使用した。ESI−TOF MS測定によると、B.anthracis(A1414)は平均MW14072.26であり、B.anthracis(AA*1314)は平均分子量14281.11であり、ホスホロチオエートAは平均分子量+16.06であった。
【0092】
別の例では、各鎖の分子量測定値が夫々30,000.115Da及び31,000.115Daであり、dT及びdA残基数の測定値が(30,28)及び(28,30)であると仮定する。分子量精度が100ppmであるならば、各鎖に7種類のdG+dCの組合せが考えられる。他方、分子量測定値の精度が10ppmであるならば、dG+dCの組合せは2種類だけであり、精度が1ppmならば、各鎖に考えられる塩基組成は1種類だけである。
【0093】
アンプリコン識別及びデータベース照会の指標としての塩基組成シグネチャ
所定の分析には分子量データから塩基組成シグネチャへの変換が有用である。「塩基組成シグネチャ」(BCS)はアンプリコンの分子量から決定した厳密な塩基組成である。BCSは特定生物における特定遺伝子の指標を提供することができる(例えば、米国特許第7,217,510号、7,108,974号、7,255,992号及び7,226,739号参照)。
【0094】
配列と同様に塩基組成も種内の単離株間で多少変動する。各K−RAS突然変異について組成制約の周囲に「塩基組成確率クラウド」を設定することによりこのダイバーシティを管理することが可能である。こうして、配列分析と同様にK−RAS突然変異を同定することが可能になる。塩基組成確率クラウドの概念を視覚化するために「疑似四次元プロット」を使用することができる。
【0095】
質量分析から収集したBCSを使用し、既知突然変異(例えばK−RASのコドン12及び13について表1に示し、文献から公知の突然変異であり、突然変異は少なくとも1個の癌又は腫瘍細胞の存在に相関する)の配列からの情報を含むデータベースに照会することができる。この照会に基づき、増幅した標的配列からK−RAS突然変異の種を識別することができる。
【0096】
データベース
本発明は多数の癌及び腫瘍で突然変異していることが知られているK−RAS配列も利用し、本発明のポリヌクレオチドである配列番号1〜5は突然変異領域、特にコドン12及び13を挟む配列とハイブリダイズするように設計される。本発明に有用なデータベースは既知K−RASコドン12及び13分子量と、(プライマーセットA、B、C及びDにより規定される)標的配列のBCSと、場合により野生型K−RAS配列からのBCS及び質量を含む。単純なデータベースにまとめることができるデータの1例を表10に示し、プライマーセットA、B、C及びDからの増幅配列(従って、配列番号6〜37の配列が得られる;なお、増幅配列はプライマー配列自体を含む)から得られるBCS、G+C含量及び分子量を示す。
【0097】
【表11】


【0098】
キット
K−RAS核酸のコドン12及び13における突然変異の検出を可能にするキットの一部として配列番号1〜5のポリヌクレオチドを含むことができる。このようなキットは本発明のポリヌクレオチドの1種以上を含む。1態様において、ポリヌクレオチドは試験サンプル中のK−RAS核酸を特異的に増幅するためのプライマーとして併用するようにキットとして提供される。
【0099】
K−RAS核酸の検出用キットは更に対照標的核酸を含むことができる。キットは更に対照標的核酸配列の配列を特異的に増幅する対照プライマーを含むことができる。
【0100】
キットは更に増幅試薬、反応成分及び/又は反応容器を含むことができる。ポリヌクレオチドの1種以上を上記のように修飾することができる。キットの成分の1種以上を凍結乾燥してもよく、キットは更に凍結乾燥物を再構成するのに適した試薬を含むことができる。キットは更に使用説明書を含むことができる。
【0101】
別の態様において、キットは更にBCSの識別を可能にするデータベースを含むコンピュータ読取り可能な媒体を含む。場合により、コンピュータ読取り可能な媒体はデータ収集及び/又はデータベース照会を可能にするソフトウェアを含むことができる。キットは更に説明書を備えることができる。説明書は紙もしくは他の基材に印刷してもよいし、及び/又はフロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープ等の電子読取り可能な媒体として供給してもよい。
【0102】
キットを供給する場合には、組成物の個々の成分を別々の容器に個装し、使用直前に混合することができる。成分のこのような個装により、活性成分の長期保存が可能になる。例えば、ポリヌクレオチドと、対照基質と、増幅酵素を別々の容器で供給する。
【0103】
キットに含まれる試薬は各成分が保存され、容器の材料に吸着したり、変性を受けないような任意種類の容器で供給することができる。例えば、密閉ガラスアンプルに窒素等の中性非反応性ガス下で充填した試薬又は緩衝液の1種以上を収容することができる。アンプルはガラス、有機ポリマー(例えばポリカーボネート、ポリエステル等)、セラミック、金属又は同様の試薬を保持するために一般に使用される他の任意材料等の任意の適切な材料から構成することができる。適切な容器の他の例としては、アンプルと同様の物質から製造することができる単純なボトルと、アルミニウムや合金等の箔裏張りを付けることができるエンベロープが挙げられる。他の容器としては、試験管、バイアル、フラスコ、ボトル、シリンジ等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0104】
実施例
以下の実施例は単に例証を目的とし、請求項に記載する発明を限定するものと解釈すべきではない。同様に目的の発明を首尾よく実施することが可能な種々の代替技術及び手法が当業者に利用可能である。
【実施例1】
【0105】
プライマー設計
本実施例では、ヒトv−Ki−ras2 Kristenラット肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログのコドン12及び13における突然変異の識別を可能にするように質量分析に適した増幅産物を生成するように、ポリメラーゼ連鎖反応及び他のポリヌクレオチド増幅プロトコルで使用するのに適した4組のプライマーセットを設計した。コドン12及び13(どちらも野生型配列ではグリシンである)を挟むようにプライマーを設計した。
【0106】
OLIGO 6ソフトウェア(Molecular Biology Insights,Inc.;Cascade,CO)を使用し、以下の設計パラメータ:
200nM プライマー濃度
50mM 一価カチオン
0.7mM 遊離二価カチオン
を使用して配列番号1〜5のプライマーを設計した。
【0107】
表2に示すようなプライマーセットA〜Dが同定された。
【実施例2】
【0108】
標的配列を増加するためのプライマー効力の実証(予言的)
表1に示し、表11にもう一度示すような4組のプライマーセット、A(配列番号1及び4)、B(配列番号2及び4)、C(配列番号2,5)及びD(配列番号3,4)をその標的配列増幅能と増幅配列検出について試験する。プライマー自体に更にイノシン、ウリジン、2,6−ジアミノプリン、プロピンC又はプロピンT等のヌクレオチドアナログを付加することができる。
【0109】
【表12】

【0110】
PCRの条件は以下の通りとする。
【0111】
【表13】

【0112】
あるいは、PCRの初期ラウンド中の偽プライミングを避けるために「ホットスタート」ポリメラーゼを使用することができる。PCRサイクリングパラメータの調節としては、標準PCRサイクリング前の熱活性化段階が挙げられる。
【0113】
【表14】

【0114】
予測される増幅産物を質量分析に付し、そのBCSを決定し、各標的配列の質量及び/又はBCSを含めてK−RASのコドン12及び13における突然変異からの突然変異情報を含むデータベースに照会する。
【実施例3】
【0115】
質量分析法(予言的)
フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)質量分析法
機器:FT−ICR機器は7テスラアクティブシールド磁石と、改造型Bruker Daltonics Apex II 70eイオンオプティクス(Bruker Daltonics;Billerica;MA)と、真空チャンバーをベースとする。分光計をLEAP PALオートサンプラー(LEAP Technologies;Carrboro,NC)及び高スループットスクリーニング用カスタム流体制御システムとインターフェースする。サンプルを約1個/分の速度で96ウェル及び384ウェルマイクロタイタープレートから直接分析する。オートサンプラーを制御し、タンデムMS実験用複合rf励起波形(周波数スイープ,ノイズフィルター,蓄積波形逆フーリエ変換(SWIFT)等)を生成することが可能な任意波形発生器を搭載する補助データステーションを実験室で設定し、Brukerデータ獲得プラットフォームに追加する。典型的な性能特性としては、100,000(FWHM)を超える質量分解能、低ppm質量測定誤差、及び50〜5000m/zの動作可能なm/z範囲が挙げられる。
【0116】
改造型ESI源:サンプル限定分析では、3Dマイクロマニピュレータに搭載した内径30mm溶融シリカESIエミッターに検体溶液を150nL/分で供給する。ESIイオンオプティクスは加熱金属毛管と、rf専用六重極と、スキマーコーンと、補助ゲート電極から構成される。6.2cm rf専用六重極は直径1mmのロッドから構成され、電圧380Vpp、周波数5MHzで動作する。データステーションからのTTLパルスを介して「開」位置に駆動されない限り、エレクトロスプレー流が入口毛管に流入しないようにするために、電気機械的シャッターを使用することができる。「閉」位置にあるときには、ESIエミッターとシャッターの面の間に安定なエレクトロスプレー流が維持される。シャッターアームの裏面には、入口毛管と共に真空シールを形成するように配置することが可能なエラストマーシールを設ける。シールを外すと、シャッターが開閉いずれの位置にあるかに関係なく、シャッターブレードと毛管入口の間の1mmのギャップにより、外部イオンレザバーに一定の圧力が得られる。シャッターを駆動すると、イオンの「タイムスライス」が入口毛管に導入された後に、外部イオンレザバーに蓄積される。イオンシャッターの応答時間が短い(<25ms)ため、ユーザーにより決定される再現可能な間隔でイオンを外部イオンレザバーに注入及び蓄積することができる。
【0117】
赤外多光子解離用装置:タンデムMS用赤外多光子解離(IRMPD)を可能にするように、10.6μmで動作する25ワットCW COレーザーを分光計とインターフェースする。レーザービームを磁石の中心軸と整列させるようにアクティブシールド超伝導磁石から約1.5mの位置にアルミニウム光学ベンチを配置する。赤外線に適合可能な標準ミラーとキネマティックミラーマウントを使用し、収束していない3mmレーザービームがFT−ICRでトラップされたイオンセルのトラッピング電極の3.5mmホールを直接通過し、外部イオンガイドの六重極領域を長手方向に通過し、最終的にスキマーコーンに達するように前記レーザービームを調整する。このスキームにより、(例えば該当種のSWIFT単離後に)トラップされたイオンセル内でm/z選択的に赤外多光子解離(IRMPD)を実施することが可能になり、あるいは外部イオンレザバーの高圧領域において広帯域モードで実施することが可能になり、IRMPDにより生成される準安定フラグメントイオンは中性分子との衝突により安定化され、その結果、フラグメントイオン収率と配列対応範囲が増加する。
【実施例4】
【0118】
試験サンプルからのコドン12及び13K−RAS突然変異の存在のアッセイ(予言的)
ヒトK−RAS,コドン12及び/又は13に突然変異をもつ疑いのある生物又は対象からのサンプルを周知方法により処理し、実施例2に示した方法等の標準方法を使用するPCRによりプライマーセットA、B、C及び/又はDを使用してアッセイする。実施例3に記載した装置を使用して増幅産物を質量分析法によりアッセイする。
【0119】
必要に応じて、例えば細胞溶解、遠心及びエタノール沈殿又は当分野で周知の他の任意技術によりサンプルから核酸を単離する。
【0120】
PCR産物のESI−MS試験で内部質量標準を使用して質量測定精度をアッセイすることができる。プライマーセットA、B、C及び/又はD PCR産物を含有する溶液に20量体ホスホロチオエートオリゴヌクレオチド等の質量標準を添加して使用することができる。
【0121】
PCR反応体及び混在する金属カチオンを除去するための段階にPCR産物を付す。PCR産物を固体支持体に固定し、1〜5回洗浄後、PCR産物を固体支持体から溶出させる。
【0122】
増幅産物を質量分析し、各標的配列の質量及び/又はBCS(例えば表9に示すデータ)を含めてプライマーセットA(配列番号1,4)、B(配列番号2,4)、C(配列番号2,5)及びD(配列番号3,4)により標的される領域からの情報を含むデータベースに照会する。
【0123】
【表15】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験サンプル中のヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無の識別方法であって、
試験サンプルを準備する段階と,
セットA、B、C及びD,
前記セットAは配列番号1の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットBは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットCは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットDは配列番号3の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
から構成される群から選択されるプライマー対セットを含む反応混合物を形成する段階と,
混合物を増幅条件に付し、増幅産物を生成する段階と,
増幅産物の分子量を測定する段階と,
増幅産物の分子量をデータベース中の標的配列の分子量計算値又は測定値と比較し、ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無を識別する段階を含む前記方法。
【請求項2】
試験サンプル中のヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無の識別方法であって、
試験サンプルを準備する段階と,
セットA、B、C及びD,
前記セットAは配列番号1の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットBは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットCは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットDは配列番号3の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
から構成される群から選択されるプライマー対セットを含む反応混合物を形成する段階と,
混合物を増幅条件に付し、増幅産物を生成する段階と,
増幅産物の塩基組成を決定する段階と,
増幅産物の塩基組成をデータベース中の標的配列の塩基組成計算値又は測定値と比較し、ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無を識別する段階を含む前記方法。
【請求項3】
標的配列の識別が増幅産物のシーケンシングを含まない請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
質量分析法がフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FT−ICR−MS)、飛行時間型質量分析法(TOF−MS)又はエレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析法である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
プライマーセットが少なくとも1種のヌクレオチドアナログを含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
ヌクレオチドアナログがイノシン、ウリジン、2,6−ジアミノプリン、プロピンC及びプロピンTから構成される群から選択される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
分子量修飾タグを増幅産物に付加する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異が結腸直腸、非小細胞肺、卵巣、胆管、膵臓、食道、乳房、甲状腺、子宮内膜の癌又は腫瘍及びその存在がコドン12又は13における突然変異に相関する他の任意癌又は腫瘍から構成される群から選択される癌に相関する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
増幅産物の分子量を測定する段階の前にPCR反応体とカチオンを除去する段階を更に含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
試験サンプル中のヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無の識別方法であって、
試験サンプルを準備する段階と,
セットA、B、C及びD,
前記セットAは配列番号1の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットBは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットCは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットDは配列番号3の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
から構成される群から選択されるプライマー対セットを含む反応混合物を形成する段階と,
混合物を増幅条件に付し、増幅産物を生成する段階と,
増幅産物の分子量を測定する段階と,
増幅産物の分子量をデータベース中の標的配列の分子量計算値又は測定値と比較し、ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無を識別する段階を含む前記方法。
【請求項11】
試験サンプル中のヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無の識別方法であって、
試験サンプルを準備する段階と,
セットA、B、C及びD,
前記セットAは配列番号1の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットBは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットCは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットDは配列番号3の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
から構成される群から選択されるプライマー対セットを含む反応混合物を形成する段階と,
混合物を増幅条件に付し、増幅産物を生成する段階と,
増幅産物の塩基組成を決定する段階と,
増幅産物の塩基組成をデータベース中の標的配列の塩基組成計算値又は測定値と比較し、ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異の有無を識別する段階を含む前記方法。
【請求項12】
標的配列の識別が増幅産物のシーケンシングを含まない請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
質量分析法がフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析法(FT−ICR−MS)、飛行時間型質量分析法(TOF−MS)又はエレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析法である請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
プライマーセットが少なくとも1種のヌクレオチドアナログを含む請求項10又は11に記載の方法。
【請求項15】
ヌクレオチドアナログがイノシン、ウリジン、2,6−ジアミノプリン、プロピンC及びプロピンTから構成される群から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
分子量修飾タグを増幅産物に付加する請求項10又は11に記載の方法。
【請求項17】
ヒトK−RASのコドン12又は13における突然変異が結腸直腸、非小細胞肺、卵巣、胆管、膵臓、食道、乳房、甲状腺、子宮内膜の癌又は腫瘍及びその存在がコドン12又は13における突然変異に相関する他の任意癌又は腫瘍から構成される群から選択される癌に相関する請求項10又は11に記載の方法。
【請求項18】
セットA、B、C及びD,
前記セットAは配列番号1の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットBは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットCは配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットDは配列番号3の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
から構成される群から選択されるプライマー対セットと,
増幅試薬
を含むキット。
【請求項19】
セットA、B、C及びD,
前記セットAは配列番号1の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットBは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットCは配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
前記セットDは配列番号3の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
から構成される群から選択されるプライマー対セットと,
増幅試薬
を含むキット。
【請求項20】
A、B、C及びDから構成される群から選択されるプライマー対セットであって、
セットAが配列番号1の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
セットBが配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
セットCが配列番号2の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
セットDが配列番号3の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列に対して少なくとも80%の配列一致度を有する核酸配列を含むリバースプライマーを含む前記プライマー対セット。
【請求項21】
A、B、C及びDから構成される群から選択されるプライマー対セットであって、
セットAが配列番号1の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
セットBが配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
セットCが配列番号2の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号5の核酸配列を含むリバースプライマーを含み,
セットDが配列番号3の核酸配列を含むフォワードプライマーと、配列番号4の核酸配列を含むリバースプライマーを含む前記プライマー対セット。

【公表番号】特表2012−512665(P2012−512665A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542494(P2011−542494)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/068778
【国際公開番号】WO2010/071821
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】