説明

ヒューム吸引トーチスタンド

【課題】ヒューム吸引トーチの重量による作業者の負担を軽減することで、ヒューム吸引トーチの操作性を向上させる。
【解決手段】ヒューム吸引トーチスタンド1によりヒューム吸引トーチ2の体感重量を軽減させる。このスタンド1は、支柱101と可動ブーム102とを含んで構成され、このスタンド1によりヒューム吸引トーチ2を作業者の上方から吊下支持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒューム吸引トーチを使用する際の作業上の負担を軽減させるためのヒューム吸引トーチスタンドに関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な職業病として知られるじん肺は、現在も国内における業務上疾病分類上の首位を占め、このじん肺に占める溶接工肺の割合は、近年増加の傾向にある。溶接工肺とは、溶接粉じんの吸入により発症するじん肺の一種であり、その予防には、起因物質である溶接粉じんを作業場から排除し、作業者の曝露を未然に防ぐことが必要である。そのための具体的な技術的手段の1つとして、現行の安全衛生法では、ヒューム吸引トーチ(特許文献1)の使用が推奨されている。
【特許文献1】特開平09−267178号公報(段落番号0031〜0033)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ヒューム吸引トーチは、溶接ヒュームの除去に関し、プッシュプル換気装置等の他の技術的手段と比較して遜色のない効果を示すことが知られており、また、その簡易な構造により安価で提供し得るとして、現在国内外で複数の種類のものが市販されている。しかしながら、ヒューム吸引トーチは、その重量により作業者の負担が大きく、現実的に使用が困難であるとして敬遠され、充分に普及しているとは言い難いのが実情である。
【0004】
本発明は、ヒューム吸引トーチの重量による作業者の負担を軽減することで、ヒューム吸引トーチの操作性及びこれによる作業性を向上させ、その普及促進を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、本発明は、ヒューム吸引トーチを吊下支持するヒューム吸引トーチスタンドを提供する。本発明に係る装置は、床面に対して起立状態に置かれ、ヒューム吸引トーチの実質的な支持高さを定める支柱と、一側でこの支柱に対して変位可能に取り付けられるとともに、他側でヒューム吸引トーチを吊下支持し、支柱及びヒューム吸引トーチの間隔を定める可動ブームとを含んで構成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、作業時にヒューム吸引トーチをこのスタンドにより吊下支持することで、ヒューム吸引トーチの重量による作業者の負担を軽減し、ヒューム吸引トーチの操作性及びこれによる作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るヒューム吸引トーチスタンド(以下「スタンド」という。)1の構成を示している。
スタンド1は、ヒューム吸引トーチ(以下「吸引トーチ」という。)2を吊下支持するものである。吸引トーチ2は、アーク溶接作業場において、溶接ヒュームの除去に使用される。
【0008】
スタンド1は、支柱101及び可動ブーム102を含んで構成され、作業者の上方から吸引トーチ2を吊下支持する。
支柱101は、三つ又状に形成された脚部101aと、この脚部101aに対して回転自在に連結された上部101bとから構成されている。支柱101は、脚部101aが三つ又状であることにより自立可能であり、作業場の床面に対して起立状態に置かれる。支柱101は、この状態で、床面からの吸引トーチ2の実質的な支持高さhを定めている。支柱101の脚部101aには、裏面に複数のキャスター103が取り付けられた台車104が固定されており、この台車104により床面上でスタンド1を移動させることができる。台車104には、電気モータが搭載された電動牽引車105が連結されており、後述する遠隔スイッチ301の操作により電動牽引車105を前進及び後退させて、スタンド1を前後に移動させることができる。本実施形態では、台車104及び電動牽引車105により「電動台車」を構成することとしているが、台車104自体に電気モータを搭載させることで、これ自体を電動台車として構成することもできる。
【0009】
他方、可動ブーム102は、管状の複数の部材102a〜102cを入れ子状に組み合わせて、伸縮可能に構成したものであり、支柱101に取り付けられて、支柱101から吸引トーチ2までの間隔lを定めている。可動ブーム102は、基端において、支柱101の上部101bに対し、支柱101に垂直な軸Aを中心として回転自在に(すなわち、仰角を変化自在に)取り付けられるとともに、先端において、吸引トーチ2を吊下支持している。可動ブーム102は、仰角が可変であるとともに、既述の通り支柱101の上部101bが脚部101aに対して回転自在であることで、支柱101を中心として回転可能な状態にある。可動ブーム102と支柱101との間には、弾性定数が比較的に大きいバネ106が介装されており、このバネ106により、可動ブーム102は、仰角を増大させる方向(すなわち、支柱101に対する傾斜角度θを減少させる方向)に付勢されている。本実施形態では、バネ106は、フック107a,107bにより、可動ブーム102の基端と支柱101の上部101bとの間に引張状態で装着されており、その弾性定数は、吸引トーチ2から作業者の手が離れた自由な状態で、この仰角が一定に保持され、所定の支持高さhが保持される大きさに設定されている。なお、バネ106は、可動ブーム102と支柱101との連結部分に内蔵させてもよい。また、本発明に関し、「バネ」とは、弾性部材の総称をいうものとする。
【0010】
吸引トーチ2は、可動ブーム102の先端に吊り下げられた吊り部材108により吊下支持されている。吊り部材108には、弾性定数の比較的に小さなバネ109が取り付けられている。本実施形態では、バネ109の弾性定数を充分に小さなものとし、このバネ109により、可動ブーム102の仰角を変化させることなく、作業者の手元の動作による吸引トーチ2の小さな動きが吸収されるようにしている。
【0011】
吸引トーチ2は、ヒューム吸引トーチとして一般的に知られるいかなる種類のものであってもよい。本実施形態では、先端に設けられたシールドガス吐出ノズル201からシールドガスを吐出させ、溶接ヒュームの発生源を周囲から遮断するとともに、巻き上がったシールドガスを後方に設けられたフード付きの吸引ノズル202により吸引することで、シールドガスを回収させ、この流れに乗せて溶接ヒュームを除去するものを採用している。吸引されたシールドガス及び溶接ヒュームは、ホース203を介して図示しない回収装置に送り込まれる。吸引トーチ2の作動及び停止は、グリップ204に設けられた作動スイッチ205(図2)により切り換えられる。この種類のヒューム吸引トーチとして、たとえば、興研株式会社製の商品名「ジェネフレッシュ」が市販されている。
【0012】
図2は、吸引トーチ2の取付け部を示している。
吊り部材108は、一端で可動ブーム102の先端に繋がれる一方、他端でOリング110に繋がれている。このOリング110を介し、吊り部材108と吸引トーチ2とが2本の連結部材111a,111b(ここでは、チェーン)により接続されている。連結部材111a,111bは、グリップ204の前後で、留め部材112a,112bにより吸引トーチ2に固定されている。Oリング110、連結部材111a,111b及び留め部材112a,112bは、吸引トーチ2を作業上便利な向きに固定するためのものであり、吸引トーチ2の角度調節可能な固定手段を構成している。連結部材111a,111bの長さを調節することで、吸引トーチ2の向きを調節することができる。吸引トーチ2のグリップ204には、電動牽引車105の前進及び後退(詳細には、電気モータの正転及び逆転)を操作するための遠隔スイッチ301が配設されている。グリップ204において、遠隔スイッチ301は、作業者の親指が当たる位置に配置されている。
【0013】
次に、スタンド1を使用した溶接作業の流れについて、図1により説明する。
作業に際し、作業者は、スタンド1を脇に置き、吸引トーチ2を上方から吊下支持させる。スタンド1の向きは、電動牽引車105の前進方向と溶接の進行方向Dとを一致させるように設定する。作業者は、この状態で吸引トーチ2のグリップ204を握り、溶接を行う。作業者がグリップ204を手元で上下させることによる程度の吸引トーチ2の小さな上下の動きは、吊り部材108に取り付けられたバネ109により吸収されるため、可動ブーム102の仰角を大きく変化させることはない。他方、支柱101を中心とする可動ブーム102の回転を実質的に阻害する要素はないため、可動ブーム102は、吸引トーチ2の(作業者から見た)前後の動きに対して速やかに追従する。溶接が進行し、作業者がスタンド1の支柱101から離れたときは、作業者は、遠隔スイッチ301を操作して、電動牽引車105を前進させることで、スタンド1を移動させ、吸引トーチ2に追従させることができる。
【0014】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
すなわち、本実施形態では、作業時に吸引トーチ2をスタンド1により吊下支持し、吸引トーチ2の重量の一部をこのスタンド1により受け持つこととしたので、この重量による作業者の負担を軽減し、吸引トーチ2の操作性及びこれによる作業性を向上させることができる。
【0015】
また、支柱101に対し、可動ブーム102を、仰角を変化自在に取り付けるとともに、バネ106によりこの仰角を保持することとしたので、吸引トーチ2を所定の支持高さhに保持しつつ、上下方向の溶接に対応することができる。
更に、電動牽引車105の遠隔スイッチ301を吸引トーチ2に配設し、手元での操作によりこの電動牽引車105を操作可能としたので、作業を中断させることなくスタンド1を移動させ、溶接ヒュームの除去効果を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るヒューム吸引トーチスタンドの構成
【図2】同上実施形態に係るヒューム吸引トーチの取付け部の構成
【符号の説明】
【0017】
1…ヒューム吸引トーチスタンド、2…ヒューム吸引トーチ、101…支柱、102…可動ブーム、104…台車、105…電動牽引車、106…高弾性バネ、108…吊り部材、109…低弾性バネ、201…シールドガス吐出ノズル、202…吸引ノズル、203…ホース、204…グリップ、301…遠隔スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に対して起立状態に置かれ、ヒューム吸引トーチの実質的な支持高さを定める支柱と、
一側でこの支柱に対して変位可能に取り付けられるとともに、他側でヒューム吸引トーチを吊下支持し、前記支柱及びヒューム吸引トーチの間隔を定める可動ブームと、を含んで構成されるヒューム吸引トーチスタンド
【請求項2】
前記可動ブームが、前記支柱に対して仰角が変化自在に取り付けられ、前記可動ブームを、前記仰角を増大させる方向に付勢する第1のバネが設けられた請求項1に記載のヒューム吸引トーチスタンド。
【請求項3】
前記支柱の下端に取り付けられ、床面上でこのヒューム吸引トーチスタンドを移動させる電動台車と、
ヒューム吸引トーチに配置可能に設けられ、この電動台車を前進又は後退させる遠隔スイッチとが設けられた請求項1又は2に記載のヒューム吸引トーチスタンド。
【請求項4】
前記可動ブームと、ヒューム吸引トーチの取付け部との間に第2のバネが設けられた請求項1〜3のいずれかに記載のヒューム吸引トーチスタンド。

【図1】
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【図2】
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