説明

ヒートセットオフ輪インキ組成物

【課題】地球環境に配慮しつつ、耐紙剥け性、耐ミスチング性、乾燥性、印刷機上での安定性に優れた環境負荷の少ないオフセットインキに関する。及びそれを用いた印刷物の提供。
【解決手段】球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボン、バインダー樹脂、植物油および石油系溶剤を含有するオフセット印刷インキ組成物において、特定の球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンを含有するヒートセットオフ輪インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、書籍、チラシ、カタログ、フリーペーパー等の印刷に使用されるヒートセットオフ輪インキに関し、更に詳しくは、従来よりも耐紙剥け性、耐ミスチング性、乾燥性、印刷機上での安定性に優れた環境負荷の少ないオフセットインキに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートセットオフ輪印刷とは、巻き取り用紙に印刷した後、熱風温度200℃程度のオーブンを非常に短い時間通過させることでインキ中の溶剤を蒸発させて乾燥させるタイプの印刷方法であり、溶剤の沸点によりその乾燥性が変化する。インキに使用する溶剤の沸点が低いと乾燥性は良化し、印刷物の乾燥不良による印刷機上での擦れや結束後のブロッキングに関して優位である。しかし、沸点の低い溶剤を多用し、乾燥性を重視していくと、印刷機上での印刷インキの安定性が悪くなり、印刷機上でインキが増粘し、流動性の劣化やタックアップしたインキが紙剥けを誘発したり、紙粉を巻き込みパイリングを起こしやすくなる等の問題が生じ易くなる。使用する溶剤の沸点が高いと機上でのインキ安定性が良化するが、乾燥性が劣化する等相反する問題が生じるため溶剤沸点のコントロールだけでは乾燥性と機上安定性のどちらにも優れているインキを作るのは困難である。
【0003】
ヒートセットオフ輪印刷は印刷スピードが高速であり、ミスチングが発生しやすく、作業環境の劣化を招きやすい。また、印刷スピードが高速になるに伴いインキのタックが上昇するため、コミック・週刊紙・フリーペーパー等の紙の強度が弱い低級紙を用いた印刷では、特に紙剥けが起きやすい。
【0004】
一方、オフセットインキ業界においても、地球温暖化対策として二酸化炭素量の削減や環境汚染の抑制が課題となっており、化石資源から生物資源への移行によるカーボンニュートラル化が求められている。
【0005】
過去、環境対応型の観点からさまざまなヒートセットオフ輪インキの検討がなされてきたが、その多くは溶剤成分の生物資源への移行である。
【0006】
特許文献1と特許文献2にロジン変性フェノール樹脂と植物エステルを溶剤主成分とし
、従来のインキに比べて大幅にVOC成分を削減し、かつ高速セット性を備えた印刷イン
キ組成物が提案されているが、ヒートセットオフ輪インキでは乾燥性が大幅に悪く実用す
ることは不可能であった。
【0007】
特許文献3では、ロジン変性フェノール樹脂、米ぬか油と脂肪酸モノエステルを主原料
とし、従来のインキに比べ大幅にVOC成分を削減し臭気が少なくゴム部材の変質又は劣
化が少なく、かつ良好な機上安定性を備えた印刷インキが提案されているが、これも乾燥
性が悪くヒートセットオフ輪インキとしての実用性に乏しい。
【0008】
顔料成分の生物資源への移行に関しては、分散性・着色力・色相・光沢・乳化適性等の問題から生物資源への移行が進んでいないのが現状であり、特に墨顔料においては、比較的環境負荷は大きいが、分散性・着色力の良好な化石資源由来カーボンブラックを用いるのが一般的である。そのため、化石資源由来カーボンブラックの製造方法における環境負荷軽減の観点からさまざまな検討がなされてきた。
【0009】
化石資源由来カーボンブラックの製造方法としては、チャンネル法、オイルファーネス法、ガスファーネス法、アセチレン法等が挙げられ、大量生産性、高収率性の観点からオイルファーネス法がヒートセットオフ輪インキ用墨顔料の主流であるが、石炭系・石油系の原料油を高温ガス中で不完全燃焼させて製造されるため、原料として化石資源を大量に用いる点で環境に好ましくない。
【0010】
特許文献4では、収率や作業環境の面で問題のあるチャンネル法に対し、無公害環境下で効率の良いチャネル法での化石資源由来カーボンブラックの製造方法について提案されているが、原料として化石資源を使用することに変更はないため環境に好ましくなく、オイルファーネス法と比べコストアップになってしまうことから実用性に乏しい。
【0011】
特許文献5では、オイルファーネス法で使用している石炭系・石油系の原料油の一部を動植物油又はその改質品に置換した化石資源由来カーボンブラックの製造方法について提案されているが、環境負荷軽減には効果はあるものの、乾燥性の劣化を招くため好ましくない。
【0012】
一方、石油資源の高騰によるコストアップも問題となっており、特にヒートセットオフ輪インキにおいては、石油由来の材料を多く使用しているため、コスト抑制という観点からも材料の一部を生物資源に置換していくことが望ましい。
【0013】
近年、環境負荷軽減や環境汚染防止等の観点から間伐材をバイオマス資源として再利用する動きが見られ、間伐材の一部は製紙や木質ボード或いは燃料として利用されている。
しかしながら、用途が限定されてしまうため使用される物量が少ないことや、材料への再生にコストがかかりすぎる等の理由からから再利用しきれず、かなりの量の間伐材が燃焼又は廃棄されているのが現状である。また竹墨や木炭等、燃焼後のものについても有効活用していくことが環境負荷軽減や環境汚染防止の観点から望ましい。
【0014】
また、製紙向上などにおいてパルプを生産する際に多量に分離されるリグニンは、植物成分の約30%を占めるとされており、地球上で最も多量に存在する芳香族高分子バイオマスであると言われているが、現状ではリグニンの高度利用技術はほとんど確立されておらず、製紙工場で自家発電用燃料として利用されたり、極一部が香料として利用されているだけで、ほとんどが燃焼又は廃棄されている。また、大豆種皮等、リグニン以外でも有効活用されていない植物バイオマスも多種存在し、これらをより多く有効活用していくことが環境負荷軽減や環境汚染防止に繋がっていくが、オフセット分野への利用技術は確立されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−69354号公報
【特許文献2】特開2002−155227号公報
【特許文献3】特開2005−330317号公報
【特許文献4】特開平06−057170号公報
【特許文献5】特開2009−024071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、地球環境に配慮しつつ、耐紙剥け性、耐ミスチング性、乾燥性、印刷機上での安定性に優れたオフセットインキ及びそれを用いた印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために誠意研究した結果、化石資源由来カーボン、バインダー樹脂、植物油および石油系溶剤を含有するオフセット印刷インキ組成物において、特定のカーボンを含有するヒートセットオフ輪インキ組成物が優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボン、バインダー樹脂、植物油および石油系溶剤を含有するオフセット印刷インキ組成物において、
球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンが、
メジアン径0.5μ〜10μm
および
80%粒子径15μm以下
であり、かつ
球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンに対して
5〜20重量%
含有していることを特徴とするヒートセットオフ輪インキ組成物に関するものである。
【0019】
また、本発明は、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンが、ゆるみ見掛け比重0.03〜0.3g/cm3であることを特徴とする上記のヒートセットオフ輪インキ組成物に関するものである。
【0020】
また、本発明は、バインダー樹脂が、
重量平均分子量10000〜100000
および
トレランス20〜30重量%
であることを特徴とする上記のヒートセットオフ輪インキ組成物に関するものである。
【0021】
さらに、本発明は、上記のヒートセットオフ輪インキ組成物を基材上に印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0022】
書籍、チラシ、カタログ、フリーペーパー等の印刷において、本発明が提供するヒートセットオフ輪インキは、従来よりも耐紙剥け性、耐ミスチング性、乾燥性、印刷機上での安定性に優れ、しかも環境負荷が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンは、化石資源由来カーボンブラックが挙げられ、その製造方法としては、チャンネル法、オイルファーネス法、ガスファーネス法、アセチレン法等が挙げられる。これらは、石炭系・石油系の原料油を高温ガス中で不完全燃焼させて製造されるため、原料として化石資源を大量に用いる点で環境に好ましくなく、これらの一部を生物資源から生成されたバイオマスカーボンに置換していくことは、環境負荷軽減に繋がる。
【0024】
また、一般的に、ヒートセットオフ輪墨インキに使用されるカーボンは、一次(基本)粒子と呼ばれる球状のカーボン粒子が融着し連鎖状あるいは不規則な鎖状に枝分かれした凝集形態を示しており、ぶどうの房に例えられる凝集体を形成しているとされており、本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンは、走査型電子線で観察すると粒子の最短径/最長径の比率(以下、真球率と略記)が0.6〜1.0程度の回転楕円体状の粒子像が得られる。
【0025】
本発明に用いられる球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンは、印刷用紙の特性に合わせて任意のカーボンが使用できるが、JIS K6217−4に準拠して定義されたDBP吸油量が50〜120cm3/100gであることが好ましい。また、JIS K6217−2に準拠して定義された窒素吸着比表面積が60〜130m2/g以下であることが望ましい。さらに、本発明の化石資源由来カーボンブラックの添加量としては、印刷インキ中10〜25重量%であることが望ましい。
【0026】
本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンは、竹墨、木炭等の炭化物を乾式粉砕したものを必要に応じて精製したもの、或いは間伐材、植物種皮または植物の構成成分であるリグニンを炭化し、得られた炭化物や炭化する際に得られたすすを集めたものを必要に応じて乾式粉砕及び精製したものを言う。例えば、間伐材を水蒸気賦活法で高温に過熱し、炭化したものを乾式粉砕して得られる。これらを走査型電子線で観察すると、粒子は球形あるいは回転楕円体状以外の粒子像が得られる。
【0027】
本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンは、メジアン径0.5μ〜10μm、および80%粒子径が15μm以下であることが好ましく、より好ましくはメジアン径1.0μm〜8μm、および80%粒子径が12μm以下、さらに好ましくはメジアン径1.0μm〜6μm、および80%粒子径が8μm以下であることが望ましい。メジアン径が0.5μm未満であると、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボン製造時の乾式粉砕工程での負荷が大きくなりコストアップしてしまうため好ましくなく、メジアン径が10μmより大きいとインキ製造時の分散工程での負荷が大きくなるため好ましくない。また、80%粒子径が15μmより大きいと、粗大粒子数が多すぎるため分散しにくく、インキの分散安定性の劣化や印刷紙面の光沢劣化を招くため好ましくない。
【0028】
一般的にゆるみ見掛け比重とは、疎充填時の比重、すなわち、注入法により落下させて容器に受けて出来た、多量に空気を含んだ粉粒体の見掛け比重である。本発明におけるゆるみ見掛け比重は、粉体特性評価装置(パウダーテスターPT−R型)を用いて測定を行った。分散篩は1700μmの目開きのものを用いた。
【0029】
本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンは、ゆるみ見掛け比重0.03〜0.3g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.25g/cm3、さらに好ましくは0.1〜0.2g/cm3であることが望ましい。ゆるみ見掛け比重が0.03g/cm3未満であると、インキ製造時の仕込み工程において粉体が舞いやすく、収率の劣化や周囲の作業環境が劣化するため好ましくない。ゆるみ見掛け比重が0.3g/cm3より大きいと、インキ製造時に仕込んだ材料を混合する工程において、分散媒への拡散が粗くなってしまい分散工程時の負荷が大きくなってしまうため好ましくない。
【0030】
また、本発明で用いられる球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンは、球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンに対し3.0〜25重量%含有することが好ましく、さらに好ましくは5.0〜15重量、より好ましくは7.0〜12重量%含有することが望ましい。球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボンに対し3.0重量%より少ないと印刷機上でのインキの安定性が劣り、タックの増加、インキの増粘、流動性の低下を招くため好ましくなく、25重量%より多いと、分散性の劣化や光沢の劣化を招くため好ましくない。
【0031】
本発明で用いられる植物油は、大豆油、再生大豆油、菜種油、ヤシ油、綿実油、落花生油、パーム油、コーン油、オリーブ油、亜麻仁油、大豆油、サフラワー油、米サラダ油、ヤトロファ油等の植物油由来のものや、これらの再生油、さらに、それらの熱重合油及び酸素吹き込み重合油等を併用したものが挙げられ、これらを単独或いは2種類以上組み合わせて併用して用いることもできるが、好ましくはヒートセットオフ輪インキ全量に対して15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは7重量%以下の含有率にすることが望ましい。15重量%より多く併用させると、インキのセット性・乾燥性が劣るため好ましくない。
【0032】
本発明におけるトレランスとは、試験管中に樹脂2.50gとAFソルベント5号(新
日本石油(株)製)を5g入れ、適時攪拌しながら5分間で180℃に昇温し、溶解した
ものを25.0℃まで冷却し、攪拌しつつ0号ソルベント(新日本石油(株)製)で少量
ずつ希釈していき、微濁状態を終点とした時の0号ソルベントの量から以下の式によりト
レランスの値を求める。
【0033】
【数1】

【0034】
本発明で用いられるバインダー樹脂としては、重量平均分子量10000〜10000
0、好ましくは20000〜80000、且つトレランスが20〜30重量%好ましくは
22〜28重量%であるロジン変性フェノール樹脂であることが望ましい。重量平均分子量が10000未満ではインキの粘弾性が低下し、100000より大きいとインキの流動性、光沢が劣る。また、トレランスが20重量%未満ではインキのセット性が低下し、さらにセットオフ汚れ、ミスチング性能の劣化を招く。トレランスが30重量%より大きいと、印刷機上での溶剤離脱の促進によるインキの増粘、流動性の低下、タック上昇による印刷適性の劣化を招き、さらに光沢が低下するため好ましくない。
【0035】
また、本発明に用いられる石油系溶剤は必要に応じて、沸点が260〜350℃、好ま
しくは280℃〜340℃の範囲にある石油系溶剤を併用することができる。併用する石
油系溶剤の沸点が260℃未満の場合には、印刷機上でのインキの溶剤蒸発が多くなり、
インキの流動性の劣化により、インキがローラー、ブランケット、版等への転移性が悪く
なり好ましくない。また、併用する石油系溶剤の沸点が350℃を越える場合には、イン
キの乾燥性が劣るため好ましくない。また、本発明に用いられる石油系溶剤は、アニリン点が75〜95℃であることが好ましい。石油系溶剤のアニリン点が75℃未満の場合には、樹脂を溶解させる能力が高すぎる為、インキのセット性が遅くなり好ましくなく、また95℃を越える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、光沢、着肉等が悪くなり好ましくない。
【0036】
さらに、本発明のヒートセットオフ輪インキ組成物には、必要に応じて ゲル化剤、顔料分散剤、金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系界面活性剤、多価アルコール等の添加剤を便宜使用することができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によっ
て限定されるものではない。尚、本発明中の「部」は重量部を表す。
【0038】
<粘度の測定方法>
HAAKE Rheostress600(Thermo ELECTRON CORP
ORATION社製)による25℃、シェアレートが117/s時の粘度を、本発明にお
ける粘度とした。
【0039】
(フェノール樹脂製造例1)
撹拌機、冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコにP−オクチルフェノール1000部
、35%ホルマリン850部、93%水酸化ナトリウム60部、トルエン1000部を加
えて、90℃で6時間反応させたる。その後6N塩酸125部、水道水1000部の塩酸
溶液を添加し、撹拌、静置し、上層部を取り出し、不揮発分49%のレゾールタイプフェ
ノール樹脂のトルエン溶液2000部を得て、これをレゾール液Yとした。
【0040】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例1)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン100
0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液Y1360部を
添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン110部を
仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量4
0000、トレランス22重量%のロジン変性フェノール樹脂A(以下、樹脂Aと称す)
を得た。
【0041】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例2)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン100
0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液Y1500部を
添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン115部を
仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量7
0000、トレランス26重量%のロジン変性フェノール樹脂B(以下、樹脂Bと称す)
を得た。
【0042】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例3)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン100
0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液Y1800部を
添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン130部を
仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量1
40000、トレランス33重量%のロジン変性フェノール樹脂C(以下、樹脂Cと称す
)を得た。
【0043】
(ヒートセットオフ輪インキ用ゲルワニスの製造)
撹拌機、リービッヒ冷却管、温度計付4つ口フラスコに樹脂A(重量平均分子量500
00、トレランス22重量%)44部、大豆白絞油11部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)44部を仕込み、190℃に昇温、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1重量部(川研ファインケミカル(株)製ALCH、以下ALCHと称す)を仕込み、190℃で30分間攪拌してヒートセットオフ輪インキ用ゲルワニス1(以下ワニス1と称す)を得た。
【0044】
さらに、表1の組成に基づいて、上記と同等のゲルワニス製造方法により、ヒートセットオフ輪インキ用ゲルワニス2及び3(以下ワニス2及び3と称す)を得た。また、表1中にそれぞれの重量平均分子量及びトレランスの値を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
購入した竹墨由来の球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボン1の粒度分布をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、LA−920;LY−208乾式測定ユニット仕様)を用いて測定したところ、メジアン径は3.78μmであり、80%粒子径は5.43μmであった。さらに、ホソカワミクロン株式会社製、パウダーテスターPT−R型を用いてゆるみの見掛け比重を測定したところ0.275g/cm3であった。また、JEOL社製分析走査電子顕微鏡(JSM−6390LA型、倍率2000倍)にて粒子形状を測定したところ、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有していた。
【0047】
購入した球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボン2〜7及び三菱カラー用カーボンブラックMA11(三菱化学(株)製、球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン)について、同様の測定方法にて、メジアン径、80%粒子径、ゆるみの見掛け比重及び粒子形状を測定したものを表2に示した。また、表2中にそれぞれの球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボン製造の由来物を示す。
【0048】
【表2】

【0049】
(ヒートセットオフ輪ベースインキ及びインキの製造)
三菱カラー用カーボンブラックMA11を16部、球形あるいは回転楕円体以外の形を有するカーボン1を4部、ゲルワニス1を60部、耐摩擦コンパウンド(森村ケミカル(株)製)5部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)10部、計92部を3本ロール上に仕込み、60℃の3本ロールで2回練肉したところ、顔料粒子は7.5μm以下に分散され、ベースインキ1を得た。このベースインキにAFソルベント5号を8部咥えて30Pa・sの実施例1のインキを約100重量部得た。
【0050】
上記と同等のベースインキ作製方法にて、表3に示す配合にてベースインキを作製し、
実施例2〜6、比較例1〜6のインキを約100部得た。また、表3に、実施例1〜6及び比較例1〜6それぞれのインキに含まれるカーボンブラック、球形あるいは回転楕円体以外の形を有するカーボン、ワニス、コンパウンド、AFソルベント5号の重量%を示す。また、カーボンブラックに対する球形あるいは回転楕円体以外の形を有するカーボンの対重量%、ベースインキを7.5μm以下に分散するまでに必要とした練肉回数を示す。練肉回数が少ない程、分散性が良好であることを示し、練肉回数が多い程、分散性が劣ることを示している。
【0051】
【表3】

【0052】
(評価結果)
上記実施例1〜6及び比較例1〜6のヒートセットオフ輪インキにおける、耐紙剥け性、流動性、耐ミスチング性、乾燥性、機上安定性、光沢について評価を実施し、結果を表4に示した。
【0053】
【表4】

【0054】
<耐紙剥け性の測定方法>
株式会社東洋精機製デジタルインコメーターにインキ1.32ccをセットし、30℃
、400rpmの条件において1分後のタック値を測定し、以下の評価基準に基づいて評価を行った。インキのタック値が低い程、耐紙剥け性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:5.8未満
△:5.8以上、6.2未満
×:6.2以上
【0055】
<流動性の測定方法>
インキ2.1ccを半球状の容器にセットし、15分間静置させた後、60°に傾けた
傾斜板の上にインキを垂らし、10分間で流れた長さを測定し、以下の評価基準に基づい
て評価を行った。値が高いほどインキのしまりが少なく、流動性が良好であることを示す

(評価基準)
○:60mm以上
△:40mm以上、60mm未満
×:40mm未満
【0056】
<耐ミスチングの測定方法>
株式会社東洋精機製デジタルインコメーターにインキ1.32ccをセットし、ロール温度40℃、1200rpmで2分間回転させ、ロール直下に置いた白色紙へのインキの飛散度を目視にて以下の評価基準に基づいて評価を行った。飛散したインキが少ない程、耐ミスチング性が良好であることを示す。
○:飛散したインキがほとんど見られない
△:飛散したインキが多少見られる
×:飛散したインキが目立って見られる
【0057】
<乾燥性の測定方法>
インキをRIテスター(株式会社明製作所製)にてコート紙に展色し、自製コンベア式
熱風乾燥試験機を通した後、展色面のベタ付きが無くなった時の紙面温度を測定し、以下
の評価基準に基づいて評価を行った。低温度で展色面のベタ付きがなくなる程、乾燥性に
優れていることを示す。
(評価基準)
○:88℃未満
△:88℃以上、92℃未満
×:92℃以上
【0058】
<機上安定性の測定方法>
株式会社東洋精機製デジタルインコメーターにインキ1.32ccをセットし、40℃
、1200rpmの条件においてタック値が最大値になるまでの時間を測定し、以下の評
価基準に基づいて評価を行った。最大値になるまでの時間が長い程、インキのタック値が
緩やかに変動するため印刷機上でのインキの粘度上昇や流動性の変化が少ないことを示し
ているため、機上安定性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:20min以上
△:15min以上、20min未満
×:15min未満
【0059】
<光沢の測定方法>
上記実施例1〜4及び比較例5〜8のヒートセットオフ輪インキをRIテスター(株式会社明製作所製)にてコート紙に、グレタグマクベス社製D196濃度計を用いて、濃度が1.95になる様に展色し、自製コンベア式熱風乾燥試験機を通した後、光沢値を測定し、以下の評価基準に基づいて評価を行った。光沢値が高い程、艶のある良好な印刷物を得られることを示す。
(評価基準)
○:光沢値が65以上
△:光沢値が60以上、65未満
×:光沢値が60未満
【0060】
表4の結果より、耐紙剥け性、流動性、耐ミスチング性、乾燥性、機上安定性、光沢全てがバランス良く、優れているものは、実施例であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によるヒートセットオフ輪インキは、従来よりも耐紙剥け性、耐ミスチング性、乾燥性、印刷機上での安定性に優れ、しかも環境負荷が少なく、書籍、チラシ、カタログ等の印刷分野において有益な活用が図られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン、球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボン、バインダー樹脂、植物油および石油系溶剤を含有するヒートセットオフ輪インキ組成物において、
球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンが、
メジアン径0.5μm〜10μm
および
80%粒子径15μm以下
であり、かつ
球形あるいは回転楕円体状の粒子形状を有するカーボン全量に対して
5〜20重量%
含有していることを特徴とするヒートセットオフ輪インキ組成物。
【請求項2】
球形あるいは回転楕円体状以外の粒子形状を有するカーボンが、ゆるみ見掛け比重0.03〜0.3g/cm3であることを特徴とする請求項1記載のヒートセットオフ輪インキ組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂が、
重量平均分子量10000〜100000
および
トレランス20〜30重量%
であることを特徴とする請求項1または2記載のヒートセットオフ輪インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のヒートセットオフ輪インキ組成物を基材上に印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2012−97151(P2012−97151A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244001(P2010−244001)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】