説明

ビスアリールアミン誘導体の製造方法

【課題】ビスアリールアミン誘導体のアミノ基を保護基で保護することなく、直接炭素−炭素結合形成反応を行い、製造工程の短縮された、高収率で高純度なビスアリールアミン誘導体を製造する方法を提供する。
【解決手段】特定なビスアリールアミン誘導体と下記一般式(2)で表されるボロン酸誘導体との炭素―炭素結合形成反応において、パラジウム化合物とtert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むホスフィン化合物からなる触媒を用いること、及び特定の塩基を使用することによって、脱ボロン酸反応、ホモカップリング反応、炭素−窒素結合形成反応などの副反応を抑制しつつ、一工程で、下記一般式(3)で表されるビスアリールアミン誘導体を高収率、高純度で製造する方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種有機材料の中間体として有用なビスアリールアミン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスアリールアミン誘導体は、医農薬中間体や機能性材料の中間体として有用な材料である。近年では有機EL材料や有機導電性材料などの中間体としても用いられ、その重要性が増している。
アリールハライドとボロン酸もしくはボロン酸誘導体との反応はスズキカップリングとしてよく知られており、炭素―炭素結合形成の重要な手段の一つとして用いられている。中でもアリール−アリール間の結合形成において、その収率の高さ、汎用性、温和な条件、使用する試薬の安定性の高さなどから、最もよく使用される反応の一つとなっている(例えば、非特許文献1および2参照)。
【0003】
【非特許文献1】Tsuji Jiro、Paradium Reagents and Catalysts、p288−313(2004)Wiley社
【非特許文献2】Akira Suzuki、Herbert C Brown、Organic Syntheses via Boranes p81−215、vol.3(2003)Aldrich社
【0004】
しかしながら、反応条件によっては反応基質や配位子、塩基などの選択が難しく脱ボロン酸反応、アリールハライドのホモカップリング反応など、副反応が進行し、高収率で生成物を得ることができない(例えば、非特許文献3参照)。特に、反応基質として分子内にビスアリールアミン構造を持つ場合、炭素−窒素結合形成反応として知られるパラジウム触媒によるアミノ化反応が優先して起こり(例えば、特許文献1参照)、アミノ化反応を抑制しながら、かつクロスカップリング反応を効率良く行う反応条件を選択することが困難であった。従って、多くの場合アミノ基を保護基で保護してからクロスカップリング反応を行い、その後、保護基を外してビスアリールアミン誘導体を製造する必要があった。この場合、製造工程が長くなり、コスト的に問題があった。(例えば、特許文献2参照)
【0005】
【特許文献1】特許第3161360号公報
【特許文献2】国際公開WO2002/076922号公報
【0006】
【非特許文献3】宮浦憲夫、ファインケミカル vol.26 No.6 p5−15(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ビスアリールアミン誘導体のアミノ基を保護基で保護することなく、直接炭素−炭素結合形成反応を行い、製造工程の短縮された、高収率で高純度なビスアリールアミン誘導体を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ビスアリールアミン誘導体とボロン酸誘導体との炭素―炭素結合形成反応において、パラジウム化合物とtert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むホスフィン化合物からなる触媒を用いること、及び特定の塩基を使用することによって、脱ボロン酸反応、ホモカップリング反応、炭素−窒素結合形成反応などの副反応を抑制しつつ、一工程でビスアリールアミン誘導体を高収率、高純度で得ることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は一般式(1)で表されるビスアリールアミン誘導体
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、Ar1は置換もしくは無置換のフェニレン基、ナフチレン基またはアントリレン基を表し、Xはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子またはトリフルオロメタンスルホニロキシ基を表し、nは1ないし5の整数を表す。ここで、nが2以上の場合、複数個存在するXは相互に異なっていても良いものとする。)と一般式(2)で表されるボロン酸誘導体
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Ar2は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、Yは−B(OH)2もしくは−B(OH)2の無水物、または−B(OR)2を表す。ここで、Rは炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、2個存在するR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。)を原料とし、パラジウム化合物とtert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むホスフィン化合物からなる触媒を使用し、塩基と溶媒を共存させて炭素―炭素結合形成反応を行うことを特徴とする下記一般式(3)で表されるビスアリールアミン誘導体の製造方法である。
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、Ar1は置換もしくは無置換のフェニレン基、ナフチレン基またはアントリレン基を表し、Ar2は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、nは1ないし5の整数を表す。)
【0016】
前記一般式(1)中に示されるAr1で表される、置換もしくは無置換のフェニレン基、ナフチレン基またはアントリレン基に対する置換基としては、具体的にメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基などの炭素原子数2ないし6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基;エチニル基、1−プロパルギル基、2−プロパルギル基などの炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、フェニルオキシ基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基もしくはアリールオキシ基:ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルフェニルアミノ基、フェニルナフチルアミノ基などのジ置換アミノ基;N−メチルカルバモイル基、N−ヘキシルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基、N,N−ジメチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、N,N,−ジフェニルカルバモイル基などN−置換カルバモイル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェニルオキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基もしくはアリールオキシカルボニル基;フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、アントリル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピリミジル基、フラニル基、ピロニル基、チオフェニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基などの芳香族炭化水素基、芳香族複素環基もしくは縮合多環芳香族基をあげることができ、これらの置換基はさらに置換されていても良い。
【0017】
前記一般式(2)中に示されるAr2で表される、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基の芳香族炭化水素基、芳香族複素環基または縮合多環芳香族基としては、具体的にフェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、テトラキスフェニル基、スチリル基、ナフチル基、アントリル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ピリジル基、トリアジル基、ピリミジル基、フラニル基、ピロニル基、チオフェニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基などがあげられる。
【0018】
一般式(2)中に示されるAr2で表される、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基に対する置換基としては、前記一般式(1)中に示されるAr1で表される、置換もしくは無置換のフェニレン基、ナフチレン基またはアントリレン基に対する置換基としてあげたものと同様の炭素原子数1ないし6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基、炭素原子数2ないし6の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルケニル基、炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基もしくはアリールオキシ基、ジ置換アミノ基、N−置換カルバモイル基、アルコキシカルボニル基もしくはアリールオキシカルボニル基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基もしくは縮合多環芳香族基をあげることができ、これらの置換基はさらに置換されていても良い。
【0019】
一般式(2)中に示されるYで表される−B(OR)2においてRで表される、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基としては、具体的にメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などがあげられ、2個存在するR同士が互いに結合して環構造を形成した場合としては、具体的に3,3−ジメチルプロパン−1,3−ジイル基、2,3−ジメチルブタン−2,3−ジイル基などがあげられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、実用的な条件下でビスアリールアミン誘導体とボロン酸誘導体との炭素―炭素結合形成反応を行うことができ、目的とするビスアリールアミン誘導体を、副反応を抑制しつつ、高収率で製造することができる。アミノ基を保護基で保護することなく炭素−炭素結合形成を行うことができるため、従来よりも短工程、高純度で目的物を得ることができ、反応後の精製も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に用いられるボロン酸誘導体は、単独で使用しても良く、ボロン酸、ボロン酸の無水物、またはボロン酸エステルそれぞれとの混合物で使用しても良い。
【0022】
本発明の反応において、ビスアリールアミン誘導体とボロン酸誘導体との仕込み比率は、特に限定されるものではないが、経済性、収率等を勘案して、ビスアリールアミン誘導体に対し、ボロン酸誘導体を1.0〜6.0倍モルの範囲内で用いることが好ましく、2.0〜4.0倍モルの範囲内で用いることがより好ましい。
【0023】
本発明に用いるパラジウム化合物は、特に限定されるものではないが、公知のものを使用できる。具体的に、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナト(II)、ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロリド、ビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)ジクロリド、シクロペンタジエニルアリルパラジウム(II)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジブロミド、水酸化パラジウム(II)、などをあげることができる。これらのパラジウム化合物は、単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いても良い。これらのパラジウム化合物は、炭素―炭素結合形成反応中、均一に溶解していても、何らかの担体に担持された状態で用いても良い。経済性、触媒の安定性の観点からは、II価のパラジウム化合物を炭素―炭素結合形成反応の系内で還元し、0価のパラジウム化合物としてから用いる方法が好ましい。
【0024】
本発明に用いるパラジウム化合物の使用量は、ビスアリールアミン誘導体に対して、0.0001〜0.5倍モルの範囲内であることが好ましく、0.001〜0.2倍モルの範囲内であることがより好ましい。
【0025】
本発明に用いられるホスフィン化合物は、tert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むホスフィン化合物が好ましく、公知化合物を用いることができる。
【0026】
本発明に用いられるホスフィン化合物は、具体的にtert−ブチル−ジメチルホスフィン、ジ(tert−ブチル)メチルホスフィン、トリ(tert−ブチル)ホスフィン、ジ(tert−ブチル)−n−ブチルホスフィン、ビス(tert−ブチル)−1−アダマンチルホスフィン、ブチル−ジ(1−アダマンチル)ホスフィン、ベンジル−ジ(1−アダマンチル)ホスフィン、フェニル−ジ(1−アダマンチル)ホスフィン、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)ビフェニル、2−(ジ−1−アダマンチルホスフィノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)−2’−メチルビフェニル、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)−2’、4’、6’−トリメチルビフェニル、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)−2’−(ジメチルアミノ)ビフェニル、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)−2’−イソプロピルビフェニル、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)ビナフチル、2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)−2’−(ジメチルアミノ)ビナフチル、1−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセン、1、1’−ビス(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセン、N−フェニル−2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)ピロール、N−(2−メトキシフェニル)−2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)ピロール、N−フェニル−2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)インドールなどがあげられ、トリ−tert−ブチルホスフィン、ブチル−ジ−1−アダマンチルホスフィン、ビス−tert−ブチル−1−アダマンチルホスフィン、トリスシクロヘキシルホスフィンなどの、tert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むトリアルキルホスフィン化合物がより好ましい。これらのホスフィン化合物は、単独で用いても良く、2種類以上を混合して用いても良い。
【0027】
本発明に用いるホスフィン化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、経済性の観点から、ビスアリールアミン誘導体に対して、0.0004〜0.8倍モルの範囲内であることが好ましく、0.004〜0.4倍モルの範囲内であることがより好ましい。
【0028】
本発明に用いられる塩基は、炭酸アルカリ金属塩類、リン酸アルカリ金属塩類、水酸化アルカリ金属類、水酸化アルカリ土類金属類、フッ化アルカリ金属塩類、有機塩基類から選択される塩基が好ましく、金属アルコキシドなどの強塩基は、前記した炭素−窒素結合形成反応を副反応として起こし易いため好ましくない。
【0029】
炭酸アルカリ金属塩類としては、具体的に炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、炭酸カリウムなどがあげられる。リン酸アルカリ金属塩類としては、具体的にリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸セシウム、リン酸リチウムなどがあげられる。水酸化アルカリ金属類としては、具体的に水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどがあげられる。水酸化アルカリ土類金属としては、具体的に水酸化バリウムなどがあげられる。フッ素化アルカリ金属塩類としては、具体的にフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウムなどがあげられる。有機塩基としては、具体的にトリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、ジアザビシクロウンデセンなどがあげられる。本発明に用いられる塩基として、特にリン酸カリウム、炭酸カリウム、有機塩基が好ましい。
【0030】
本発明に用いる塩基の使用量は、ビスアリールアミン誘導体に対して、1〜10倍モルの範囲内であることが好ましく、2.4〜6倍モルの範囲内であることがより好ましい。塩基の使用量が1倍モル未満では、得られるビスアリールアミン誘導体の収率が低くなる場合があり好ましくない。また、反応に用いられる塩基を大過剰に加えても、得られるビスアリールアミンの収率に影響はないが、反応終了後の後処理操作が煩雑になり好ましくない。これらの塩基は粉体の状態のままで用いても、水溶液として用いても良く、有機塩基の場合は液体の状態のままで加えても良い。
【0031】
本発明において、反応に用いることができる溶媒としては、炭素―炭素結合形成反応を阻害しない限り特に限定されないが、水、芳香族炭化水素類、アルコール類、エーテル類、アミド類、ニトリル類、ケトン類などが用いられ、単独でも2種類以上を混合して用いても良い。
【0032】
芳香族炭化水素類としては、具体的にトルエン、キシレン、メシチレンなどがあげられる。アルコール類としては、具体的にメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールなどがあげられる。エーテル類としては、具体的に1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテルなどがあげられる。アミド類としては、具体的にジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどがあげられる。ニトリル類としては、具体的にアセトニトリル、プロピオニトリルなどがあげられる。ケトン類としては、具体的にアセトン、メチルエチルケトンなどがあげられる。
【0033】
本発明に用いる溶媒の使用量は特に限定されないが、ビスアリールアミン誘導体1質量部に対して、通常1〜50質量部の範囲内であることが好ましく、5〜20質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0034】
本発明において、反応温度は、基質にもよるが通常20〜150℃の範囲内であることが好ましく、50〜120℃の範囲内であることがより好ましい。反応温度が低すぎると反応完結まで長時間を要し、反応温度が高すぎると、副反応が進行する可能性が高くなるため、好ましくない。反応時間は反応温度によるが、通常0.2〜72時間の範囲内であることが好ましく、1〜30時間の範囲内であることがより好ましい。
【0035】
本発明において、反応は常圧下、加圧下いずれの条件でも実施できるが、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0036】
本発明において、反応は通常、常圧、窒素雰囲気にて、ビスアリールアミン誘導体、ボロン酸誘導体、塩基、パラジウム化合物、ホスフィン化合物、溶媒を反応器に入れ、撹拌しながら所定の温度まで加熱して行う。薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーなど各種分析手段によって反応の終点を確認してから、常法によって後処理した後、カラムクロマトグラフによる精製や活性炭、活性白土等による吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法などによる精製を行って、目的のビスアリールアミン誘導体を単離することができる。
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
(ビス−ビフェニル−4−イル−アミンの合成)
窒素雰囲気下、反応容器にビス(4−ブロモフェニル)アミン6.5g(20ミリモル)、フェニルボロン酸6.3g(52ミリモル)、リン酸カリウム12.7g(60ミリモル)を仕込み、アルゴンガス雰囲気下への置換を行った。酢酸パラジウム(II)0.05g(0.2ミリモル)、ブチル−ジ(1−アダマンチル)ホスフィン0.3g(0.8ミリモル)、予めアルゴンガスを充分通気したトルエン80mlを仕込み、100℃に加熱して3時間反応を行った。反応液についてHPLC分析(装置:島津製作所製LC−2010型、カラム:ジーエルサイエンス製Ineril ODS−3 4.6×250mm、流速:0.8ml/min、カラム温度:40℃、検出波長:254nm、溶離液:アセトニトリル/水=95/5(v/v))を行ったところ、HPLCピーク面積比でビス(ビフェニル−4−イル)アミン92.9%、原料であるビス(4−ブロモフェニル−アミン)0%、原料であるビス(4−ブロモフェニル−アミン)の脱ブロモ体6.4%であった。反応液を室温まで冷却した後、不溶分をろ別して、灰色の固形物を得た。得られた固形物からTHF抽出を行った後、THF/メタノールの混合溶媒で晶析による精製を行うことによって、ビス(ビフェニル−4−イル)アミン4.5gを得た。(収率71%)
【0039】
得られた粉体についてNMR分析を行って、その構造を確認した。1H−NMR測定結果を図1に示した。
【実施例2】
【0040】
実施例1において、ブチル−ジ(1−アダマンチル)ホスフィンをトリ(tert−ブチル)ホスフィンに代え、反応時間を6時間とした以外は実施例1と同様に反応を行った。反応液について、実施例1と同じ条件でHPLC分析を行ったところ、HPLCピーク面積比でビス(ビフェニル−4−イル)アミン93.6%、原料であるビス(4−ブロモフェニル−アミン)4.1%、原料であるビス(4−ブロモフェニル−アミン)の脱ブロモ体0.3%であった。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、パラジウム化合物とホスフィン化合物からなる触媒をテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)に、塩基を1M−炭酸カリウム水溶液に、溶媒をトルエン/エタノール=4/1(v/v)に、反応温度を73℃に、反応時間を4.5時間にそれぞれ代えた以外は実施例1と同様に反応を行った。反応液について、実施例1と同じ条件でHPLC分析を行ったところ、HPLCピーク面積比でビス(ビフェニル−4−イル)アミン34.8%、原料であるビス(4−ブロモフェニル−アミン)0%、原料であるビス(4−ブロモフェニル−アミン)の脱ブロモ体62.8%であった。
【0042】
[比較例2]
実施例1において、ホスフィン化合物をトリス(2−メチルフェニル)ホスフィンに、塩基をトリエチルアミンに、溶媒をジメチルホルムアミドに、反応温度を105℃に、反応時間を15時間にそれぞれ代えた以外は実施例1と同様に反応を行った。反応液について、実施例1と同じ条件でHPLC分析を行ったところ、HPLCピーク面積比でビス(ビフェニル−4−イル)アミン32.2%、原料であるビス(4−ブロモフェニル−アミン)21.0%、原料であるビス(4−ブロモフェニル−アミン)の脱ブロモ体25.9%であった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明実施例1で得られた化合物の1H−NMRチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビスアリールアミン誘導体と下記一般式(2)で表されるボロン酸誘導体を原料とし、パラジウム化合物とtert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むホスフィン化合物からなる触媒を使用し、塩基と溶媒を共存させて炭素―炭素結合形成反応を行うことを特徴とする下記一般式(3)で表されるビスアリールアミン誘導体の製造方法。
【化1】

(式中、Ar1は置換もしくは無置換のフェニレン基、ナフチレン基またはアントリレン基を表し、Xはヨウ素原子、臭素原子、塩素原子またはトリフルオロメタンスルホニロキシ基を表し、nは1ないし5の整数を表す。ここで、nが2以上の場合、複数個存在するXは相互に異なっていても良いものとする。)
【化2】

(式中、Ar2は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、Yは−B(OH)2もしくは−B(OH)2の無水物、または−B(OR)2を表す。ここで、Rは炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、2個存在するR同士が互いに結合して環構造を形成していても良い。)
【化3】

(式中、Ar1は置換もしくは無置換のフェニレン基、ナフチレン基またはアントリレン基を表し、Ar2は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、nは1ないし5の整数を表す。)
【請求項2】
前記tert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むホスフィン化合物が、tert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むトリアルキルホスフィン化合物であることを特徴とする請求項1記載のビスアリールアミン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記tert−ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基のうち少なくとも一つを置換基として含むホスフィン化合物が、ブチル−ジ−1−アダマンチルホスフィン、ビス−tert−ブチル−1−アダマンチルホスフィン、トリスシクロヘキシルホスフィンまたはトリ−tert−ブチルホスフィンであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のビスアリールアミン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(1)において、Ar1がフェニレン基である、請求項1〜3記載のビスアリールアミン誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記した塩基が炭酸アルカリ金属塩類、リン酸アルカリ金属塩類、水酸化アルカリ金属類、水酸化アルカリ土類金属類、フッ化アルカリ金属塩類または有機塩基であることを特徴とする請求項1〜4記載のビスアリールアミン誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記した塩基が、リン酸カリウム、炭酸カリウムまたは有機塩基であることを特徴とする請求項5記載のビスアリールアミン誘導体の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−105960(P2010−105960A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279669(P2008−279669)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000005315)保土谷化学工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】