説明

ビスイミダゾール化合物

【課題】発色濃度が高く、退色速度が速い、優れたフォトクロミック特性を発揮するビスイミダゾール化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)


(式中、Ar、ArAr、R、R、RおよびRは、特定の基。a、b、cおよびdは0〜3の整数で示されるビスイミダゾール化合物。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビスイミダゾール化合物、および該ビスイミダゾール化合物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミズムとは、ある化合物に太陽光あるいは水銀灯の光のような紫外線を含む光を照射すると、色が変わり(発色という)、光の照射をやめて暗所におくと元の色に戻る(退色という)可逆作用のことである。この性質を有する化合物はフォトクロミック化合物と呼ばれている。このようなフォトクロミック化合物の用途の一つにサングラス用の調光材料がある。このような用途に用いられるフォトクロミック化合物は、太陽光に含まれる紫外線により発色し、屋内に戻ると速やかに退色することが必要である。つまり、光によって発色し、熱によって退色するという特性を持つフォトクロミック化合物が適しており、従来、このようなフォトクロミック化合物としては、クロメン化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物などが用いられてきた。
【0003】
一方、ビスイミダゾール化合物もフォトクロミック特性を示すことは以前から知られているおり、非特許文献1〜3や特許文献1〜3には、下記式(A)、(B)および(C)などで示されるビスイミダゾール化合物が開示されており、光重合開始剤用途として研究がされてきた。
【0004】
【化1】

【0005】
【化2】

【0006】
【化3】

【0007】
これらのビスイミダゾール化合物は、クロメン化合物などと比較すると発色が薄く(発色濃度が低く)、退色が遅いため、調光材料としては用いるのには適していない。また、光照射により生成するラジカル種の反応性が高いため、繰り返し耐久性は低いことも、調光材料としては不適である。
【0008】
近年、新規なビスイミダゾール化合物を調光材料として用いることが提案されており、非特許文献4には下記式(D)
【0009】
【化4】

【0010】
で示す化合物が開示されている。また、特許文献4には、下記式(E)
【0011】
【化5】

【0012】
で示されるビスイミダゾール化合物が開示されている。
【0013】
これらのビスイミダゾール化合物は、2つのイミダゾール化合物を架橋させていることが特徴であり、従来のフォトクロミック化合物と比較して極めて速い退色を示す。しかしながら、太陽光やキセノンランプを光源として用いた場合には可視光領域の波長範囲(420〜700nm)における発色濃度は低く、調光材料として用いるためには更なる改良が必要であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】ブレティン オブ ザ ケミカル ソサイエティ オブ ジャパン(Bull.Chem.Soc.Jpn.)1960年、vol.33、p.565−566
【非特許文献2】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリ(J.Org.Chem.)1971年、第36巻、p.2267−2272
【非特許文献3】ジャーナル オブ アメリカン ケミカル ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)1966年、第88巻、p.3825−3829
【非特許文献4】ジャーナル オブ オーガニック レター(J.Org.Lett.)2008年、vol.10、p.3105−3108
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平08−292573号公報
【特許文献2】特開平09−278812号公報
【特許文献3】特開2008−089789号公報
【特許文献4】国際公開第WO2010/061579号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は、従来のビスイミダゾール化合物が持つ問題を解決し、フォトクロミック特性をさらに向上させることにある。すなわち、太陽光やキセノン光源に反応してフォトクロミック性を示し、退色が速く、かつ発色濃度の高いビスイミダゾール化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題に鑑み、本発明者らは鋭意研究を続けてきた。その結果、上記問題を解決する新規な構造のビスイミダゾール化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、
下記一般式(I)
【0019】
【化6】

【0020】
(式中、
Ar、ArおよびArは、それぞれ独立に、2価のアリーレン基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子であり、
a、b、cおよびdは、それぞれ独立に、0〜3の整数であり、
、R、RおよびRがそれぞれ複数存在する場合には、その複数のR、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なる基であってもよい。)
で示されるビスイミダゾール化合物である。
【0021】
また、他の発明は、上記一般式(I)で示されるビスイミダゾール化合物を含んでなるフォトクロミック光学材料である。
【発明の効果】
【0022】
本発明のビスイミダゾール化合物は、溶液中または高分子固体マトリックス中において、太陽光もしくはキセノンランプの照射により、可視光領域(420〜700nm)の波長の光を吸収して着色し、光照射を停止すると速やかに無色状態に戻る。そして、従来知られていたビスイミダゾール化合物と比較すると、本発明のビスイミダゾール化合物は、速い退色速度を維持しつつ、発色濃度が高いものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
下記一般式(I)
【0024】
【化7】

【0025】
で示されるビスイミダゾール化合物である。
【0026】
(基Ar、ArおよびAr
前記一般式(I)において、Ar、ArおよびArはそれぞれ独立に2価のアリーレン基である。この2価のアリーレン基は、未置換、又は置換のアリーレン基である。
【0027】
上記の2価のアリーレン基としては、特に限定はされないが、炭素数6〜20のアリーレン基が好ましく、フェニレン基、ナフチレン基が特に好ましい。このアリーレン基は、未置換のものであっても、得られるビスイミダゾール化合物は、優れた効果を発揮する。ただし、該アリーレン基には、以下に挙げる置換基Rを有する置換アリーレン基であってもよい。
【0028】
(Ar、ArおよびArが有する置換基R)
Ar、ArおよびArは、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子を置換として有することもできる。
【0029】
アルキル基としては、特に限定はされないが、一般的には炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。好適なアルキル基を例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等を挙げることができる。
【0030】
アルコキシ基としては、特に限定されないが、一般的には炭素数1〜5のアルコキシ基が好ましい。好適なアルコキシ基を具体的に例示すると、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等を挙げることができる。
【0031】
アミノ基としては、アミノ基(−NH)に限定されるものではなく、1つまたは2つの水素原子が置換されていてもよい。アミノ基が有する置換基としては、例えば炭素数1〜4のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基等が挙げられる。好適なアミノ基としては、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、フェニルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等を挙げることできる。
【0032】
ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を挙げることができる。
【0033】
なお、上述の置換基Rが結合する位置は、特に制限されるものではない。また、置換基Rの数も、特に制限されるものではなく、各Ar、ArおよびArが有することが可能な数であればよい。
【0034】
(基R、R、RおよびR
前記一般式(I)において、R、R、RおよびRはそれぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子である。これら基は、Ar、ArおよびArが有する置換基Rで説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基についても同じである。
【0035】
a、b、cおよびdは、基R、R、RおよびRの数をそれぞれ表し、それぞれ独立に、0〜3の整数である。そして、R、R、RおよびRがそれぞれ複数存在する場合には、その複数のR、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なる基であってもよい。
【0036】
(好適なビスイミダゾール化合物)
本発明のビスイミダゾール化合物を具体的に例示すると、次のような化合物を挙げることができる。
【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
(ビスイミダゾール化合物の同定)
本発明の前記一般式(I)で示される化合物は、一般に常温常圧で無色、あるいは淡黄色の固体または粘稠な液体として存在し、次のような手段で確認できる。
【0041】
(イ)元素分析によって相当する化合物の組成を決定することができる。
【0042】
(ロ)プロトン核磁気共鳴スペクトル(H−NMR);δ5.9〜9.0ppm付近にアロマティックなプロトンに基づくピーク、δ1.0〜4.0ppm付近にアルキル基およびアルキレン基に基づくピークが現れる。また、それぞれのスペクトル強度を相対的に比較することにより、それぞれの結合基のプロトンの個数を知ることができる。
【0043】
(ハ)13C−核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR);δ110〜160ppm付近にアリール基およびアリーレン基の炭素に基づくピーク、δ20〜80ppm付近にアルキル基およびアルキレン基の炭素に基づくピークが現れる。
【0044】
(ビスイミダゾール化合物の製造方法)
本発明の一般式(I)で示されるビスイミダゾール化合物の製造方法は、特に限定されず、いかなる合成法によって得てもよい。一般に好適に採用される代表的な方法を説明する。下記に示す工程1(イミダゾール化工程)、および工程2(酸化工程)を実施することにより、該ビスイミダゾール化合物を合成することができる。
【0045】
(工程1:イミダゾール化工程)
工程1は、以下に示す反応式で実施することができる。
【0046】
【化11】

【0047】
イミダゾール体は、ジアルデヒド化合物とジケトン化合物を、例えば、酢酸アンモニウム存在下で加熱反応することにより得られる。用いる反応溶媒としては、原料および生成物が溶解するものであれば、特に制限はないが、酢酸、クロロホルム、ジクロロメタン等が好適に用いられる。
【0048】
(工程2:酸化工程)
【0049】
【化12】

【0050】
工程1で得られたイミダゾール体に酸化剤を作用させることで、分子中の2つのイミダゾールが酸化されたビスイミダゾール化合物を得ることができる。用いる酸化剤としては、原料であるイミダゾール化合物と反応しうるものであれば、特に制限されるものではない。具体的には、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム、次亜臭素酸ナトリウム、次亜臭素酸カリウムおよびヘキサシアノ鉄酸(III)ナトリウム、ヘキサシアノ鉄酸(III)カリウム、ヘキサシアノ鉄酸(III)マグネシウム、ヘキサシアノ鉄酸(III)カルシウム等が挙げられる。これら酸化剤は、通常、水溶液にして反応に用いる。上記酸化剤のうちヘキサシアノ鉄酸(III)ナトリウム、ヘキサシアノ鉄酸(III)カリウム等のヘキサシアノ鉄酸(III)塩等が好適に用いられる。
【0051】
(ビスイミダゾール化合物の使用、用途)
本発明のビスイミダゾール化合物は、トルエン、ベンゼン、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の一般の有機溶媒によく溶解する。このような溶媒に該ビスイミダゾール化合物を溶解したとき、一般に溶液はほぼ無色透明であり、太陽光あるいは紫外線を照射すると速やかに発色し、光を遮断すると速やかに元の無色に戻る良好な可逆的なフォトクロミック作用を呈する。
【0052】
ビスイミダゾール化合物のこのようなフォトクロミック作用は、高分子固体マトリックス中でも同様な特性を示す。かかる対象となる高分子固体マトリックスとしては、本発明のビスイミダゾール化合物が均一に分散するものであればよい。光学的に好ましい高分子固体マトリックスを例示すれば、例えばポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0053】
さらに、高分子固体マトリックスとしては、ビニル基、(メタ)アクリル基、グリシジル基等の反応性基を分子内に複数有するラジカル重合性多官能単量体を重合してなる熱硬化性樹脂を挙げることができる。さらに、高分子固体マトリックスとしては、前記ラジカル重合性多官能単量体と、上記反応性基を分子内に1つ有するラジカル重合性単官能単量体との共重合体であってもよい。
【0054】
本発明のビスイミダゾール化合物を上記高分子固体マトリックス中へ分散させる方法としては特に制限はなく、一般的な手法を用いることができる。例えば上記熱可塑性樹脂とビスイミダゾール化合物を溶融状態にて混練し、樹脂中に分散させる方法、上記重合性単量体にビスイミダゾール化合物を溶解させた後、重合触媒を加え熱または光にて重合させ樹脂中に分散させる方法、上記熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂と溶剤とビスイミダゾール化合物を均一に混合し、溶剤を除去する方法、または、上記熱可塑性樹脂、あるいは熱硬化性樹脂の表面にビスイミダゾール化合物を染色することにより樹脂中に分散させる方法等をあげることができる。
【0055】
以上のような方法で本発明のビスイミダゾール化合物を高分子固体マトリックスに分散させることにより、優れたフォトクロミック特性を発揮する光学材料等に利用できる。次に、本発明のビスイミダゾール化合物を使用した用途について説明する。
【0056】
本発明のビスイミダゾール化合物は、フォトクロミック材として広範囲に利用できる。具体的な用途を例示すると、例えば銀塩感光材に代わる各種の記憶材料、複写材料、印刷用感光体、陰極線管用記憶材料、レーザー用感光材料、ホログラフィー用感光材料など種々の記憶材料として利用できる。その他、本発明のビスイミダゾール化合物を用いたフォトクロミック材は、フォトクロミックレンズ材料、光学フィルター材料、ディスプレー材料、光量計、装飾などの光学材料としても利用できる。例えば、フォトクロミックレンズに使用する場合には、均一な調光性能が得られる方法であれば、特に制限されるものではない。具体的に例示するならば、本発明のビスイミダゾール化合物を均一に分散してなるポリマーフィルムをレンズ中にサンドウィッチする方法、あるいは、この化合物を例えばシリコーンオイル中に溶解して150〜200℃で10〜60分かけてレンズ表面に含浸させ、さらにその表面を硬化性物質で被覆し、フォトクロミックレンズにする方法などがある。さらに、上記ポリマーフィルムをレンズ表面に塗布し、その表面を硬化性物質で被覆し、フォトクロミックレンズにする方法などもある。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1
(ビスイミダゾール化合物の合成)
ビスイミダゾール化合物は、以下の方法により合成した。
【0059】
【化13】

【0060】
前記式(1)で示される1,8−ジアミノナフタレン7.9g(50mmol)にアセトニトリル160mlと希硫酸を加え、5℃に冷却し、33%亜硝酸ナトリウム水溶液30mlと50%ヨウ化カリウム水溶液80mlを加えて2時間撹拌した。反応液にトルエン300mlを加え、有機層を水で洗浄し、有機溶媒を留去した後、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製することで、淡黄色の固体として、前記式(2)で示される1,8−ジヨードナフタレン9.6g(25mmol)を得た。得られた1,8−ジヨードナフタレン3.08g(8.1mmol)にジメチルホルムアミド15ml、p−クレゾール1.75g、三リン酸カリウム7.56g、ヨウ化銅0.30g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.52gを加え、還流温度で17時間反応させた。反応液にトルエン200mlと水200mlを加え、不溶物を濾別した後、母液を水洗して有機溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、黄色オイルとして前記式(3)で示されるジメチル体を1.30g(3.8mmol)得た。
【0061】
【化14】

【0062】
得られたジメチル体1.30gにベンゼン50ml、N−ブロモスクシンイミド1.38g、AIBN62mgを加え、還流温度で3時間反応させた。反応液を室温まで放冷し、析出した固体を濾別し、有機溶媒を留去し、褐色オイルとして前記式(4)で示されるジブロモ体を得た。これに、ジメチルスルホキシド50mlと炭酸水素ナトリウム1.28gを加え、95℃で2時間反応させた。反応液に酢酸エチル100mlを加え、水洗した後に有機溶媒を留去した。シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、淡黄色オイルとして前記式(5)で示されるジアルデヒド体を0.52g(1.4mmol)得た。
【0063】
【化15】

【0064】
得られたジアルデヒド体0.22g(0.6mmol)にベンジル0.33g、酢酸アンモニウム1.39g、酢酸4mlを加え、還流温度で3時間反応させた。得られた白色懸濁液をアンモニア水溶液に滴下し、テトラヒドロフラン50mlを加えて、塩水で洗浄した。有機溶媒を留去後、酢酸エチルで晶析することで白色固体として前記式(6)で示されるイミダゾール体を0.30g(0.4mmol)得た。このイミダゾール体に15%KOH水溶液150ml、ジクロロメタン500ml、ヘキサシアノ鉄酸(III)カリウム0.30gを加え、25℃で3時間反応させた。反応液を水洗した後に有機溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製して、淡黄色固体として前記式(7)で示されるビスイミダゾール化合物を0.11g(0.15mmol)得た。
【0065】
(ビスイミダゾール化合物の同定)
上記反応で得られたビスイミダゾール化合物の元素分析値はC:83.58%、H:4.62%、N:7.41%であって、C5234の計算値であるC:83.63%、H:4.59%、N:7.50%によく一致した。
【0066】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ5.2〜δ10.0ppm付近にアロマティックなプロトンに基づく34Hのピークを示した。
【0067】
さらに、13C−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ110〜160ppm付近に芳香環の炭素に基づくピーク、δ80〜140ppm付近にアルケンの炭素に基づくピークを示した。
【0068】
以上の結果から、上記反応で得られたビスイミダゾール化合物は、前記式(7)の構造式で示される化合物であることを確認した。
【0069】
(フォトクロミック特性の評価)
前記式(7)で示されるビスイミダゾール化合物をジクロロメタンに溶解し、2.0mMの濃度に調製した。この溶液を、光路長1mmの石英セルに入れて試料とした。これに浜松ホトニクス製のキセノンランプ(300W)を、エアマスフィルター(コーニング社製)を介して20℃±1℃、試料表面でのビーム強度15mW/cm(365nm)で30秒間照射して発色させ、前記試料のフォトクロミック特性を測定した。フォトクロミック特性は次のようなもので評価した。
【0070】
極大吸収波長(λmax):(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD2000M)により求めた発色後の可視光領域(420nm〜700nm)における極大吸収波長である。
【0071】
発色濃度(ABS):前記極大吸収波長における、30秒間光照射した後の吸光度。この値が高いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0072】
退色速度(t1/2):30秒間光照射後、光の照射を止めたときに、試料の前記極大吸収波長における吸光度が半分の値になるまで低下するのに要する時間。この時間が短いほどフォトクロミック性が優れているといえる。
【0073】
その結果、極大吸収波長(λmax)が604nm、発色濃度(ABS)が0.142、退色速度(t1/2)が7.5秒であった。結果を表1にまとめた。
【0074】
実施例2
(ビスイミダゾール化合物の合成)
ビスイミダゾール化合物は、以下の方法により合成した。実施例1において、前記式(2)で示される1,8−ジヨードナフタレンの代わりに、下記式(8)
【0075】
【化16】

【0076】
で示されるo−ジヨードベンゼンを用いた以外は、実施例と同様の操作を行い下記式(9)
【0077】
【化17】

【0078】
で示されるジアルデヒド体を得た。
【0079】
【化18】

【0080】
前記方法で得られたジアルデヒド体0.80g(2.5mmol)にベンジル1.07g、酢酸アンモニウム5.7g、酢酸20mlを加え、還流温度で2時間反応させた。得られた白色懸濁液をアンモニア水溶液に滴下し、テトラヒドロフラン200mlを加えて、塩水で洗浄した。有機溶媒を留去後、酢酸エチルとエタノールの混合溶媒を用いて再結晶することにより精製し、白色固体として前記式(10)で示されるイミダゾール体)を0.80g(1.1mmol)得た。このイミダゾール体に15%KOH水溶液300ml、ジクロロメタン800ml、ヘキサシアノ鉄酸(III)カリウム0.80gを加え、25℃で3時間反応させた。反応液を水洗した後に有機溶媒を留去し、シリカゲル上でのクロマトグラフィーにより精製して、淡黄色固体として前記式(11)で示されるビスイミダゾール化合物を0.42g(0.6mmol)得た。
【0081】
(ビスイミダゾール化合物の同定)
上記反応で得られたビスイミダゾール化合物の元素分析値はC:82.80%、H:4.61%、N:8.01%であって、C4832の計算値であるC:82.74%、H:4.63%、N:8.04%によく一致した。
【0082】
また、プロトン核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ5.2〜δ10.0ppm付近にアロマティックなプロトンに基づく32Hのピークを示した。
【0083】
さらに、13C−核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、δ110〜160ppm付近に芳香環の炭素に基づくピーク、δ80〜140ppm付近にアルケンの炭素に基づくピークを示した。
【0084】
以上の結果から、上記反応で得られたビスイミダゾール化合物は、前記式(11)の構造式で示される化合物であることを確認した。
【0085】
(フォトクロミック特性の評価)
実施例1のフォトクロミック特性の評価と同様の方法で、前記式(11)で示されるビスイミダゾール化合物の試料溶液を調製し、同様の方法で評価を行った。その結果、極大吸収波長(λmax)が595nm、発色濃度(ABS)が0.216、退色速度(t1/2)が19.8秒であった。結果を表1にまとめた。
【0086】
比較例1〜3
下記式(A)で示される比較化合物(比較例1)、下記式(E)で示される比較化合物(比較例2)、下記式(F)で示される比較化合物(比較例3)について、実施例1のフォトクロミック特性の評価と同様方法で試料溶液を調製し、同様の方法でこれら化合物を評価した。その結果を表1に示した。
【0087】
【化19】

【0088】
【表1】

【0089】
比較例1の化合物は発色濃度が高いが、退色は遅い。比較例2の化合物は紫外線強度の強い光源を用いた場合にはフォトクロミック特性が観測されるが、キセノン光源を用いた場合にはフォトクロミック特性は観測することができなかった。また、比較例3の化合物は、退色は極めて速いが、発色濃度が低い。これに対し、本発明のビスイミダゾール化合物を用いた実施例1〜2は、キセノン光源でも可視光領域の発色濃度が高く、退色が速く、優れたフォトクロミック特性を有しているといえる。
【0090】
実施例3
ポリメタクリル酸ブチル樹脂(根上工業株式会社製、分子量50万、製品名『D100B』)に実施例1で得られたビスイミダゾール化合物(7)を樹脂固形分に対して10重量%となるように調合し、これにテトラヒドロフランを加えて均一に分散するまで十分に撹拌した。この樹脂溶液をガラス基板上に乾燥膜厚100μmになるように均一に塗布し、テトラヒドロフランが完全に除去するまで乾燥してフォトクロミック薄膜を得た。このフォトクロミック薄膜を試料として、実施例1と同様の方法でフォトクロミック特性を評価した。その結果、極大吸収波長(λmax)が606nm、発色濃度(ABS)が0.051、退色速度(t1/2)が5.6秒であった。
【0091】
実施例4
実施例2で得られたビスイミダゾール化合物(11)を用いて、実施例3と同様の方法でフォトクロミック薄膜を得、同様の方法でフォトクロミック特性を評価した結果、極大吸収波長(λmax)が595nm、発色濃度(ABS)が0.082、退色速度(t1/2)が14.4秒であった。
【0092】
実施例3および実施例4の結果より、本発明のビスイミダゾール化合物は高分子マトリックス中においても良好な可逆的なフォトクロミック作用を示すことがわかる。このことは、本発明のビスイミダゾール化合物はフォトクロミック光学材料として使用できることを示しているといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、
Ar、ArおよびArは、それぞれ独立に、2価のアリーレン基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子であり、
a、b、cおよびdは、それぞれ独立に、0〜3の整数であり、
、R、RおよびRがそれぞれ複数存在する場合には、その複数のR、R、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なる基であってもよい。)
で示されるビスイミダゾール化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のビスイミダゾール化合物を含むフォトクロミック光学材料。