説明

ビスクロロホーメート化合物の製造方法、低量体数ポリカーボネートオリゴマー、及びビスクロロホーメート化合物含有溶液

【課題】生産性を向上させることができるビスクロロホーメート化合物の製造方法、低量体数ポリカーボネートオリゴマー、及びビスクロロホーメート化合物含有溶液を提供する。
【解決手段】疎水性有機溶媒を用い、下記式(化2)で表される2価フェノール性化合物と、ホスゲン系化合物と、脂肪族系第3級アミンとを混合して、下記式(化1)で表され、平均量体数(n)が1.99以下のビスクロロホーメートを製造する。




(式(化1)及び(化2)において、Arは、2価の芳香族基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスクロロホーメート化合物の製造方法、低量体数ポリカーボネートオリゴマー、及びビスクロロホーメート化合物含有溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フェノール、2つのフェノールが直接結合したビフェノール、2つのフェノールが連結基を介して結合したビスフェノールなどのフェノール類が知られている。そして、このようなフェノール類のフェノール性水酸基に対してクロロホーメート化を行い、クロロホーメート化合物を合成する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜4及び非特許文献1参照)。
特許文献1には、N,Nージエチルアニリン存在下、トルエンを溶媒とし、p−ニトロフェノールとホスゲンとを反応させて、p−ニトロフェニルクロルホーメートを調製する方法が開示されている。
特許文献2には、N,Nージメチルアニリン存在下、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とし、ビフェノールとホスゲンとを反応させて、ビスクロロホーメートとしてのビフェノールビスクロロ蟻酸エステルを調製する方法が開示されている。
特許文献3には、ハロゲン化カルボニル化合物の加水分解量が少ないハロホーメート化合物の製造方法が開示されている。
特許文献4には、2つのフェノールがエステル結合を介して結合したビスクロロホーメート化合物が開示されている。また、特許文献4のビスクロロホーメート化合物は、4−ヒドロキシ安息香酸−(4’−ヒドロキシフェニル)エステルとホスゲンとジメチルアニリンを混合して得られることも開示されている。
非特許文献1には、ジエチルアニリン存在下、ビスフェノールAを原料として、ビスクロロホーメート化合物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭59−8256号公報
【特許文献2】特開平5−70583号公報
【特許文献3】特開平8−27068号公報
【特許文献4】特開平1−275631号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Macromolecules Vol.24 3035−3044(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、ビフェノールやビスフェノールのような2価フェノール性化合物に対してビスクロロホーメート化を行う方法については記載がない。
また、特許文献2に記載の技術では、ビスクロロホーメート化合物を製造する際、反応液を氷水中に注入し、結晶を析出させている。さらに、アセトンにより再結晶化を行う操作を行っている。このように、ビスクロロホーメート化合物の製造工程に手間がかかるため、生産性が低くなる場合がある。
さらに、特許文献3に開示された製造方法では、水相と有機相の両方を用いる界面法が採用されている。この製造方法では、加水分解量を抑制するため、特に好ましいpHとして約9〜11という狭い範囲が設定されている。このため、製造時に微妙なpH調整を必要とし、生産性の面で問題がある。
また、特許文献4に開示されたビスクロロホーメート化合物では、反応系が強酸性であるため、エステル分解が起こったり、原料の4−ヒドロキシ安息香酸−(4’−ヒドロキシフェニル)エステルとエステル交換が起こる可能性を有する。そのため、再結晶などの精製により副生成物を除去する必要があり、生産性の面で問題がある。
そして、非特許文献1に開示された製造方法では、芳香族第3級アミンを用いているため、ビスクロロホーメート反応溶液に着色が起こり、そのビスクロロホーメート化合物を用いてポリマーを製造した際には、色調が悪いポリマーが得られる可能性がある。そのため、ビスクロロホーメート化合物を再結晶して精製する場合もあり、生産性が低くなる場合がある。
【0006】
本発明の目的は、生産性を向上させることができるビスクロロホーメート化合物の製造方法、低量体数ポリカーボネートオリゴマー、及びビスクロロホーメート化合物含有溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のビスクロロホーメート化合物の製造方法は、
下記式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物の製造方法であって、
疎水性有機溶媒を用い、下記式(化2)で表される2価フェノール性化合物と、ホスゲン系化合物と、脂肪族系第3級アミンとを混合して、前記式(化1)で表され、下記式(数1)で得られる平均量体数(n)が1.99以下のビスクロロホーメートを製造することを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
式(化1)及び(化2)において、Arは、2価の芳香族基を表す。
【0011】
平均量体数(n)=1+(Mav−M1)/M2・・・(数1)
【0012】
(式(数1)において、Mavは(2×1000/(CF価))であり、M2は(M1−98.92)であり、M1は式(化1)において、n=1のときのビスクロロホーメート化合物の分子量であり、CF価(N/kg)は(CF値/濃度)であり、CF値(N)は反応溶液1Lに含まれる式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物中のクロル分子数であり、濃度(kg/L)は反応溶液1Lを濃縮して得られる固形分の量より求められる。ここで、98.92は、式(化1)において( )nの外にある2個の塩素原子、1個の酸素原子および1個の炭素原子の、原子量の合計である。)
【0013】
この発明によれば、例えば、第1実施形態または第2実施形態の製造方法を採用する事ができる。具体的には、式(化1)で表される2価フェノール性化合物は、脂肪族系第3級アミンと混合すると、疎水性有機溶媒中で塩または会合物を形成し、均一系溶液または分散液になる。この均一系溶液または分散液中に存在する2価フェノール性化合物は、ホスゲン系化合物と良好に反応し、1.99量体以下という単量体に近い式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物を得ることができる。
一方、反応溶液中にて生成するアミン塩酸塩は、水を加えることにより、容易に分液抽出することができる。ここで、溶媒として疎水性有機溶媒を使用しているため、親水性溶媒を用いる場合と異なり、直接水を加えて分液操作を行えるため、精製工程が簡単になる。また、1.99量体以下の単量体に近いビスクロロホーメートが得られるため、再結晶のような精製工程を省略することができる。
また、ホスゲン系化合物と、2価フェノール性化合物との反応系に、水が存在しないため、生成する酸塩化物の加水分解は殆んど生じない。
また、本願発明のビスクロロホーメート化合物は、特許文献4に記載のエステル結合を有するビス−クロロ蟻酸エステルの場合と異なり、反応系において、エステル分解や原料の2価フェノール性化合物とのエステル交換が起こらない。
さらに、脂肪族系第3級アミンを用いた場合は、芳香族系第3級アミンを用いる場合と異なり、反応溶液に着色が起こらず、色調のよいビスクロロホーメート化合物が得られる。そのため、再結晶などの特別な精製操作が不要となり、収率の低下を招くこともなく、製造効率を向上させることもできる。
また、脂肪族系第3級アミンは、芳香族系第3級アミンに比べて比較的安価であるため、製造コストを抑えることもできる。
したがって、簡単な製造方法により単量体に近いビスクロロホーメート化合物を得ることができるため、生産性が向上する。
【0014】
本発明では、
前記式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物は、下記式(化3)又は式(化4)で表されるビスクロロホーメート化合物であり、
前記式(化2)で表される2価フェノール性化合物は、下記式(化5)で表されるビフェノール化合物又は式(化6)で表されるビスフェノール化合物であることが好ましい。
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
【化5】

【0018】
【化6】

【0019】
(式(化3)〜(化6)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜12の置換もしくは無置換のアリール基を示し、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基またはハロゲン原子を示し、Xは、9,9−フルオレニリデン基、2価のアダマンチル基、下記式(化7a)、及び(化7b)で表されるいずれかの結合基である。)
【0020】
【化7】

【0021】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基を示す。また、R、Rは互いに結合して炭素数4〜12のシクロアルキリデン基を構成していてもよい。)
【0022】
【化8】

【0023】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。また、Rのうち少なくとも一つ、好ましくは3つが炭素数1〜3のアルキル基である。)
(なお、R、R、R、Rに相当する置換基は一つのベンゼン環に複数結合していてもよく、結合する置換基は同じでも異なっていてもよい。)
【0024】
本発明において、例えば、第1実施形態では、
疎水性有機溶媒中に、式(化2)で表される2価フェノール性化合物を懸濁又は溶解させる懸濁工程または溶解工程と、
この懸濁液又は溶液にホスゲン系化合物を導入するホスゲン導入工程と、
前記ホスゲン導入工程で得られた混合液に、疎水性有機溶媒で希釈した脂肪族系第3級アミンを滴下する滴下工程と、を実施する構成が好ましい。
【0025】
この発明によれば、式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物を高収率で得ることができる。
【0026】
本発明において、例えば、第2実施形態では、
疎水性有機溶媒中に、式(化2)で表される2価フェノール性化合物を懸濁または溶解させる懸濁工程または溶解工程と、
この懸濁液または溶液に脂肪族系第3級アミンを導入するアミン導入工程と、
疎水性有機溶媒で希釈したホスゲン系化合物に、脂肪族系第3級アミンが導入された溶液を滴下する滴下工程と、を実施する構成が好ましい。
【0027】
この発明によれば、式(化1)のビスクロロホーメート化合物を高収率で得ることができる。また、式(化2)で表される2価フェノール性化合物は脂肪族系第3級アミンと混合することにより、疎水性有機溶媒に溶解し、均一系溶液が得られるか、あるいはスラリー濃度が減少する。均一系溶液、あるいはスラリー濃度が減少した不均一溶液とすることにより、滴下操作が容易になるなど、取り扱いが容易となる。
【0028】
本発明においては、
脂肪族系第3級アミンを、前記式(化2)で表される2価フェノール性化合物の水酸基に対して1.1当量以下で使用する構成が好ましい。
【0029】
式(化2)で表される2価フェノール性化合物のビスクロロホーメート化反応において、トリエチルアミン等の脂肪族系第3級アミンを用いた場合、反応条件によってはアミンの一部がクロロホーメート基、又はホスゲン系化合物と反応し、カーバメート基(−O−CO−N(C)が生成する副反応を起こすおそれが有る。カーバメート基はそれ以上の置換反応を起こさないため、末端停止剤として機能する事になり、反応生成物中の全末端官能基に占めるカーバメート基の割合が10モル%を超えると、結果として分子量が所定以上の重合体が得られない場合がある。
この副反応は、水酸基に対してアミンが過剰量有る場合に発生する事を見出した。
したがって、この発明によれば、水酸基に対して特定量の脂肪族系第3級アミンを使用するため、カーバメート基の生成の低減を図ることができる。
【0030】
本発明の低量体数ポリカーボネートオリゴマーは、
上述のビスクロロホーメート化合物の製造方法において得られた式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物を用いて製造された低量体数ポリカーボネートオリゴマーであって、
全末端基に対して10モル%以下の比率で窒素含有末端基を有するか、あるいは有しないことを特徴とする。
窒素含有末端基としては、例えば、上記のカーバメート基が挙げられる。
この発明によれば、窒素含有末端基の比率が特定の比率以下であるため、本発明の低量体数ポリカーボネートオリゴマーを用いて高分子量のポリマーを良好に製造することができる。
【0031】
本発明のビスクロロホーメート化合物含有溶液は、
上述のビスクロロホーメート化合物の製造方法により製造されたビスクロロホーメート化合物を含有する溶液であることを特徴とする。
【0032】
この発明によれば、ビスクロロホーメート化合物含有溶液は、ポリーカーボネート(PC)などの種々のポリマーの原料として用いることができる。
また、ビスクロロホーメート化合物含有溶液に用いられる溶媒としては、水と混ざらない疎水性溶媒や、ビスクロロホーメート化合物に対して不活性な不活性溶媒などが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る第1実施形態の製造方法を示すフロー図。
【図2】本発明に係る第2実施形態の製造方法を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明の第1実施形態及び第2実施形態のビスクロロホーメート化合物の製造方法について説明する。
【0035】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態のビスクロロホーメート化合物の製造方法は、下記式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物の製造方法である。具体的には、疎水性有機溶媒を用い、下記式(化2)で表される2価フェノール性化合物と、ホスゲン系化合物と、脂肪族系第3級アミンとを混合して、下記式(化1)で表され、下記式(数1)で得られる平均量体数(n)が1.99以下のビスクロロホーメート化合物を製造する方法である。
【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
式(化1)及び式(化2)において、Arは2価の芳香族基を表す。
【0039】
ここで、前記式(化1)で表される化合物は、下記式(化3)又は式(化4)で表されるビスクロロホーメート化合物であり、前記式(化2)で表される2価フェノール性化合物は、下記式(化5)で表されるビフェノール化合物又は式(化6)で表されるビスフェノール化合物であることが好ましい。
【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
【化14】

【0044】
(式(化3)〜(化6)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜12の置換もしくは無置換のアリール基を示し、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基またはハロゲン原子を示し、Xは、9,9−フルオレニリデン基、2価のアダマンチル基、下記式(化7a)、及び(化7b)で表されるいずれかの結合基である。)
【0045】
【化15】

【0046】
(式中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基を示す。また、R、Rは互いに結合して炭素数4〜12のシクロアルキリデン基を構成していてもよい。)
【0047】
【化16】

【0048】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。また、Rのうち少なくとも一つ、好ましくは3つが炭素数1〜3のアルキル基である。)
(なお、R、R、R、Rに相当する置換基は一つのベンゼン環に複数結合していてもよく、結合する置換基は同じでも異なっていてもよい。)
【0049】
前記した式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物は、式(化2)で表される2価フェノール性化合物の2つのフェノール性水酸基をクロロホーメート化して製造した化合物である。ここで、式(化2)で表される2価フェノール性化合物としては、例えば、式(化5)で表されるビフェノール化合物や式(化6)で表されるビスフェノール化合物が挙げられる。更には、ベンゼン環やナフタレン環を構成する2個の炭素原子がOH基で置換された2価フェノール性化合物が挙げられる。このような化合物としては、例えば、2,7−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオールが挙げられる。
ここで、式(化5)で表されるビフェノール化合物としては、例えば、4,4’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’,5−トリメチル−4,4’−ビフェノール、3−プロピル−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジフェニル−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジブチル−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等が挙げられる。中でも、4,4’−ビフェノールが着色の少ない共重合PCを与えるという点で好ましい。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
また、式(化6)で表されるビスフェノール化合物としては、例えば、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、1,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン、2−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)イソブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−1−フェニルメタン、1,1−ビス(2−tert−アミル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−クロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1−フェニル−1,1−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。これらのビスフェノール化合物は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、3価以上のフェノールを用いて分岐構造を持たせてもよい。
【0051】
これらのビスフェノール化合物の中で、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、4,4’−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、4,4’−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンが好ましい。
さらに好ましくは、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンである。
【0052】
平均量体数(n)=1+(Mav−M1)/M2・・・(数1)
【0053】
(式(数1)において、Mavは(2×1000/(CF価))であり、M2は(M1−98.92)であり、M1は式(化1)において、n=1のときのビスクロロホーメート化合物の分子量であり、CF価(N/kg)は(CF値/濃度)であり、CF値(N)は反応溶液1Lに含まれる式(化1)のビスクロロホーメート化合物中のクロル分子数であり、濃度(kg/L)は反応溶液1Lを濃縮して得られる固形分の量より求められる。ここで、98.92は、式(化1)において( )nの外にある2個の塩素原子、1個の酸素原子および1個の炭素原子の、原子量の合計である。)
【0054】
疎水性有機溶媒は、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン及び1,3−ジメチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル類などを採用することができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても良い。
また、疎水性有機溶媒の使用量は特に制限はないが、原料の式(化2)で表される2価フェノール性化合物の濃度が30(g/L)以上420(g/L)以下となるように使用されることが好ましく、さらに好ましくは、60(g/L)以上250(g/L)以下となるように使用されることが好ましい。
【0055】
また、ホスゲン系化合物は、ホスゲン、ジホスゲン、トリホスゲンなどであり、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても良い。
また、その使用量は特に制限はないが、原料の式(化2)で表される2価フェノール性化合物の水酸基に対して0.95当量以上使用することが好ましい。ホスゲン系化合物を大量に使用すると、経済的理由により不利になるので、0.97当量以上1.60当量以下であることが好ましい。
【0056】
脂肪族系第3級アミンは、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン等のトリアルキルアミンなどを採用することができ、これらは単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いても良い。
また、脂肪族系第3級アミンの使用量は特に制限はないが、原料の式(化2)で表される2価フェノール性化合物の水酸基に対して1.1当量以下にて使用することが好ましい。
ここで、脂肪族系第3級アミンを大量に使用すると、上述のように、カーバメート基(−O−CO−N(C)を有する副生成物が生成するおそれがある。反応生成物中の全末端官能基に占めるカーバメート基の割合が10モル%を超えると、カーバメート基はそれ以上の置換反応を起こさないため、式(化2)で表される2価フェノール性化合物を用いても高分子量のポリマーを得ることができない場合がある。そのため、反応生成物中のカーバメート基の割合は、10モル%以下であることが好ましい。
また、脂肪族系第3級アミンを大量に使用すると、経済的に不利になるので好ましくない。したがって、脂肪族系第3級アミンの使用量は、1.1当量以下であることが好ましく、より好ましくは0.95当量以上1.02当量以下である。
【0057】
第1実施形態に係るビスクロロホーメート化合物の製造方法を具体的に説明すると、図1に示されるように、疎水性有機溶媒中に、上記式(化2)で表される2価フェノール化合物を懸濁又は溶解させる懸濁工程または溶解工程(S11)と、この懸濁液又は溶液にホスゲンを導入するホスゲン導入工程(S12)と、ホスゲン導入工程で得られた混合液に、疎水性有機溶媒で希釈した上記脂肪族系第3級アミンを滴下する滴下工程(S13)と、実施する。
懸濁工程又は溶解工程では、疎水性有機溶媒とビスフェノール化合物とを混合して懸濁液又は溶液を調製する。そして、ホスゲン導入工程では、前記工程で得られた懸濁液又は溶液にホスゲンを導入する。次に、滴下工程では、懸濁液又は溶液とホスゲンの混合液に、疎水性有機溶媒で希釈した脂肪族系第3級アミンを滴下して、上記式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物を製造する。
そして、反応溶液に水又は酸性水溶液を注入して有機層を洗浄することにより、アミン塩を水層に抽出して精製を行う。
【0058】
この際、使用する水としては、純水でもよく、酸性水溶液としては、塩酸等の無機酸、酢酸等の有機酸を用いても良い。更には、低濃度の塩基性水溶液や、塩化ナトリウム水溶液などの塩水溶液も使用できる。また、このときの水層のpHは、式(化1)のビスクロロホーメート化合物製造時に使用する脂肪族系第3級アミンの、水層と有機層の分配係数を考慮して調整する。すなわち、水層にアミン塩を効率的に移動させる必要があるため、好ましくはpHが5以下、さらに好ましくは4以下、より好ましくは3以下、最も好ましくは1以上3以下とする。pHを5以下とすることにより、水層にアミン塩を良好に抽出することができ、有機層に脂肪族系第3級アミンが残存することを抑制できる。一方、pHが7を超える場合には、有機層に脂肪族系第3級アミンが残存する可能性が高くなり、好ましくない。
また、必要に応じて上記水又は酸性水溶液を用いた洗浄に加えて、有機層を水で1回、又は複数回洗浄し、式(化1)のビスクロロホーメート化合物製造時に生成する不純物や未反応で残存する化学種、例えば、塩、カーバメート化合物、フェノール性化合物を除去する事が好ましい。上記において、有機層を水で1回又は複数回洗浄する場合、水に代えて酸性水溶液、塩基性水溶液、塩水溶液を使用することができる。この場合においても、残存する不純物等の分配係数(水/有機層)を考慮して洗浄溶液を選択することが好ましい。
なお、上記の酸性水溶液としては、塩酸に限られず、各種の酸を使用できる。
つまり、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸、酢酸等の有機酸などを選択できる。
また、上記の酸性水溶液の他に、洗浄液として、各種の塩基、各種の塩の水溶液を適宜選択する事もできる。
塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基、トリエチルアミン等の有機塩基などを選択できる。
塩としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどを選択できる。
【0059】
また、上記の水による洗浄と水溶液による洗浄の順番は、除去する物質の種類、後工程への適合性などを考慮し、適宜設定すれば良い。例えば、酸性水溶液を添加して洗浄する前に、水を加えて洗浄を行っても良い。
これら洗浄を実施する際の水あるいは酸性水溶液の温度は、水の沸点及び有機層を構成する有機溶剤の沸点等を考慮し、適宜設定すればよい。
従って、洗浄する際の温度は、好ましくは5℃以上95℃以下、さらに好ましくは10℃以上有機溶剤の沸点以下、最も好ましくは15℃以上有機溶剤の沸点マイナス5℃以下である。
当該温度を95℃以下とすることにより、水層や有機層の蒸発量を小さくすることができ、安定して洗浄できる。一方、当該温度を5℃以上とすることにより、洗浄時に水層へ不純物が移動しやすくなり、除去効率を向上させることができる。
例えば、有機溶剤として塩化メチレンを常圧で使用する場合には、好ましくは5℃以上40℃以下、さらに好ましくは10℃以上35℃以下、特に好ましくは15℃以上35℃以下、最も好ましくは25℃以上35℃以下である。
【0060】
また、洗浄を実施する際の、全液層(水層+有機層)に対する水層の体積比率(水層比)は、好ましくは5vol%以上95vol%以下、さらに好ましくは10vol%以上70vol%以下、特に好ましくは20vol%以上60vol%以下、最も好ましくは30vol%以上50vol%以下である。水層比を95vol%以下とすることにより、洗浄処理する容器に対する有機層の割合を高くすることができ、経済的に好ましい。一方、水層比を5vol%以上とすることにより、一度の水洗処理で多量の不純物を除去できるため、少ない水洗回数で所定量まで不純物を除去できる。
水あるいは酸性水溶液等による上記の態様の洗浄で除去される塩としては、式(化1)のビスクロロホーメート化合物の製造時に使用される脂肪族系第3級アミンの塩、ホスゲンの分解で生成した炭酸塩などが挙げられる。
【0061】
残存する塩の残存量は、製造される式(化1)のビスクロロホーメート化合物に対して、好ましくは1000質量ppm以下、さらに好ましくは700質量ppm以下、特に好ましくは350質量ppm以下、最も好ましくは100ppm質量以下である。
当該塩の残存量を1000質量ppm以下とすることにより、残存する塩が、最終的に得られる式(化1)のビスクロロホーメート化合物の性能に影響することを抑制できる。
【0062】
また、水あるいは酸性水溶液等による上記の態様の洗浄で除去されるアミン塩以外の化合物としてはカーバメート化合物が挙げられる。カーバメート化合物としては、ジエチルカルバミン酸、ジエチルカルバミン酸クロリド、N,N,N’,N’−テトラエチル尿素等が挙げられる。
残存するカーバメート化合物の残存量は、ビスクロロホーメート化合物に対して好ましくは500質量ppm以下、さらに好ましくは150質量ppm以下、特に好ましくは50質量ppm以下、最も好ましくは20質量ppm以下である。
500質量ppm以下とすることにより、式(化1)のビスクロロホーメート化合物の電気的特性が求められる用途において、良好な電気的特性を発揮できる。
更に、水あるいは酸性水溶液等による上記の態様の洗浄で除去されるアミン塩以外の化合物として、フェノール性化合物があり、例えば、原料として使用される2価のビスフェノール性化合物が挙げられる。残存するフェノール性化合物の残存量は、好ましくはビスクロロホーメート化合物に対して5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下である。
5質量%以下とすることにより、ビスクロロホーメート化合物に混在する水酸基末端を有する化合物が少なくなるため、電気的特性の求められる用途において、良好な電気的特性を発揮できる。
【0063】
以上のようにして、有機層を洗浄して、式(化1)のビスクロロホーメート化合物を得る。なお、精製後の有機層の有機溶媒を留去させて、液体又は固体の式(化1)のビスクロロホーメート化合物を得てもよい。
このような式(化1)のビスクロロホーメート化合物は、ポリマー原料として使用可能である。ここで得られるポリマーは式(化1)のビスクロロホーメート化合物とその他のモノマーを交互に存在させる事ができるために、従来の合成法で得られる共重合体により構造制御の幅が広げられる点が好ましい。
なお、原料として式(化2)の2価フェノール性化合物として式(化5)のビフェノール化合物又は式(化6)のビスフェノール化合物を使用してもよい。さらに、式(化5)又は(化6)で表される化合物以外にも、式(化2)で表される2価フェノール性化合物であれば、上記式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物を合成することができる。
【0064】
滴下工程では、反応温度は−10〜40℃であることが好ましく、さらに好ましくは、0〜30℃である。また、滴下工程に続く反応工程においても、好適な反応温度は同様である。
ここで、反応温度が−10℃以下になると、ビスクロロホーメートの溶解度が低くなり疎水性溶媒を多量に使用する必要がある場合がある。一方、反応温度が40℃を超えると、1.99量体を超えるビスクロロホーメートが得られる場合がある。
また、反応時間は、0.1〜100時間であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜20時間であり、特に好ましくは0.1〜6時間である。ここで、反応時間とは、滴下開始から洗浄開始までの時間である。
【0065】
また、式(化1)のビスクロロホーメート化合物を合成した後、反応溶液に水を導入し、水層と有機層とに分離させる際、水層の水素イオン濃度(pH)は、7以下であれば問題ないが、4以下が好ましく、さらに好ましくは、1〜3である。水素イオン濃度が4以下であるため、ビスクロロホーメート化合物の加水分解を抑制することができる。水素イオン濃度は、塩酸等を使用して調整することができる。なお、式(化3)又は式(化4)のビスクロロホーメート化合物においても同様に上記水素イオン濃度下において水洗することができる。
【0066】
上述のようにして得られるビスクロロホーメート化合物の平均量体数(n)は、1.0以上1.99以下であり、好ましくは、1.0以上1.5以下である。
【0067】
[第2実施形態]
次に第2実施形態に係るビスクロロホーメート化合物の製造方法ついて説明する。
なお、第2実施形態に係るビスクロロホーメート化合物の製造方法では、第1実施形態の製造方法にて採用した式(化2)で表される2価フェノール性化合物、脂肪族系第3級アミン、及び疎水性有機溶媒と同様のものを採用することができる。
また、第2実施形態の製造方法においても、原料として式(化5)のビフェノール化合物又は式(化6)のビスフェノール化合物を採用して、式(化3)又は式(化4)で表されるビスクロロホーメート化合物を製造してもよい。さらに、式(化5)又は(化6)で表される化合物以外にも、式(化2)で表される2価フェノール性化合物であれば、上記式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物を製造することができる。
【0068】
図2に示すように、第2実施形態に係るビスクロロホーメート化合物の製造方法では、疎水性有機溶媒中に、上記式(化2)で表される2価フェノール性化合物を懸濁又は溶解させる懸濁工程または溶解工程(S21)と、この懸濁液又は溶液に脂肪族系第3級アミンを導入するアミン導入工程(S22)と、この脂肪族系第3級アミンが導入された溶液を、疎水性有機溶媒で希釈したホスゲンに滴下する滴下工程(S23)と、を実施する。
懸濁工程又は溶解工程では、疎水性有機溶媒と式(化2)で表される2価フェノール性化合物を混合して懸濁液又は溶液を調製する。そして、調製した懸濁液又は溶液に脂肪族系第3級アミンを混合して溶液を調製する。一方、ホスゲンと疎水性有機溶媒とから溶液を調製し、このホスゲン溶液にアミン導入工程で調製した溶液を滴下して、式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物を合成する(S23)。
【0069】
第1実施形態及び第2実施形態でのビスクロロホーメートの製造方法では、1.99量体以下の単量体に近いビスクロロホーメートが得られるため、再結晶のような精製工程を省略することができる。また、ホスゲン系化合物と、式(化2)の2価フェノール性化合物との反応系に、水が存在しないため、生成する酸塩化物の加水分解は殆んど生じない。このため、加水分解を抑制するために行うpH調整等の反応制御作業が不要である。また、本実施形態のビスクロロホーメート化合物は、特許文献4に記載のエステル結合を有するビス−クロロ蟻酸エステルの場合と異なり、クロロホーメート化や精製等の際に、原料とのエステル交換やエステル分解が起こらない。さらに、脂肪族系第3級アミンを用いた場合では、芳香族系第3級アミンを用いる場合と異なり、反応溶液に着色が起こらず、色調のよいビスクロロホーメート類が得られる。そのため、再結晶などの特別な精製操作が不要となり、収率の低下を招くこともなく、製造効率を向上させることもできる。したがって、簡単な製造方法により単量体に近いビスクロロホーメート化合物を得ることができるため、生産性が向上する。
また、式(化2)で表される2価フェノール化合物は、疎水性有機溶媒に溶けにくいものの、脂肪族系第3級アミンを混合することにより、疎水性有機溶媒に溶解するか、またはほとんどが溶解する。そのため、式(化2)で表される2価フェノール化合物は、ホスゲンと反応しやすくなり、ビスクロロホーメート化合物を容易に製造することができる。
【0070】
[実施形態の変形例]
前記第1及び第2実施形態で得られるビスクロロホーメート化合物は、ポリカーボネートの原料として用いられる構成を示したが、これに限られない。本実施形態で得られるビスクロロホーメート化合物は、過酸化処理して過酸化物とすることにより酸化剤、重合触媒として利用することができ、その他、医薬品、農薬の中間体としても利用できる。
【実施例】
【0071】
実施例および比較例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例の記載内容に何ら制限されるものではない。
【0072】
まず、第1実施形態に係るビスクロロホーメート化合物の製造方法である実施例1−1〜実施例1−11について説明する。
【0073】
[実施例1−1]
4,4’−ビフェノール50.0g(0.269mol)、ジクロロメタン(以下、「MDC」と略記する。)500ml、ホスゲン80.0g(0.809mol)の混合液中にトリエチルアミン59.8g(0.591mol以下、「TEA」と略記する。)をMDC100mlで希釈した溶液を13〜16℃で3時間6分かけて滴下した。反応混合物を14〜16℃で1時間38分撹拌した。反応混合物に濃塩酸5.0mlと純水200mlを加え洗浄した。その後水層が中性になるまで水洗を繰り返した。取り出したMDC溶液は、ビスクロロホーメート化合物含有溶液であり、897.5gであった。
【0074】
[実施例1−2]
1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン35g(0.13mol、(ビスフェノールZ、以下、「BPZ」と略記する)、MDC525ml、ホスゲン38.7g(0.39mol)の混合液中に、TEA29g(0.287mol)とMDC70mlを混合した液を5〜17℃で3時間かけて滴下した。滴下後15〜15.5℃で1時間撹拌した後に濃塩酸2.4mlと純水140mlを加え洗浄した。その後水層が中性になるまで水洗を繰り返した。MDC層を減圧下で濃縮した。これにより、319.9gのビスクロロホーメート化合物含有溶液を得た。
【0075】
[実施例1−3]
この実施例1−3では、ホスゲン系化合物としてトリホスゲンを使用した例を説明する。
BPZ35g(0.13mol)、MDC325mlの混合液に、トリホスゲン(ビス(トリクロロメチル)カーボネート)38.7g(0.13mol)をMDC200mlに溶解した液を3〜5℃で26分かけて滴下した。その溶液にTEA29g(0.287mol)とMDC70mlとを混合した液を11〜18℃で3時間かけて滴下した。滴下後、17〜17.5℃で1時間撹拌した後に濃塩酸2.4mlと純水140mlを加えて洗浄した。その後水層が中性になるまで水洗を繰り返した。そして、MDC層を取り出して、減圧下濃縮を行ったところ、319.7gのビスクロロホーメート化合物含有溶液を得た。
【0076】
[実施例1−4]
ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)メタン(以下、「Bis−OCF」と略記する。)230g(1.01mol)、MDC1058ml、ホスゲン223g(2.25mol)の混合液中に、TEA223.9g(2.21mol)とMDC460mlを混合した液を15.5〜19℃で3時間3分かけて滴下した。滴下後16〜18℃で1時間撹拌した後に濃塩酸21mlと純水920mlを加え洗浄した。その後水層が中性になるまで水洗を繰り返した。そして、MDC層を取り出した。これにより、1760.8gのビスクロロホーメート化合物含有溶液を得た。
【0077】
[実施例1−5]
この実施例1−5では、ホスゲン系化合物としてトリホスゲンを使用した例を説明する。
Bis−OCF17.5g(0.077mol)、MDC83ml、トリホスゲン16.7g(0.056mol)の混合液中にTEA17.0g(0.168mol)とMDC35mlを混合した液を9〜19℃で1時間53分かけて滴下した。滴下後15.5〜17.5℃で1時間撹拌した後に濃塩酸1.2mlと純水70mlを加えて洗浄した。その後水層が中性になるまで水洗を繰り返した。そして、MDC層を取り出したところ、129.1gのビスクロロホーメート化合物含有溶液を得た。
【0078】
[実施例1−6]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)アダマンタン33.0g(0.103mol)、MDC330ml、ホスゲン30.6g(0.309mol)の混合液に、TEA23.2g(0.229mol)とMDC66mlを混合した液を滴下した以外は、実施例1−1と同様に行った。288.2gのビスクロロホーメート含有溶液を得た。
【0079】
[実施例1−7]
ビス(2,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン33.0g(0.129mol)、MDC330ml、ホスゲン38.2g(0.386mol)の混合液に、TEA28.8g(0.285mol)とMDC80mlを混合した液を滴下した以外は、実施例1−1と同様に行った。268.6gのビスクロロホーメート含有溶液を得た。
【0080】
[実施例1−8]
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン10.0g(0.028mol)、MDC100ml、ホスゲン8.4g(0.085mol)の混合液に、TEA6.3g(0.062mol)とMDC20mlを混合した液を滴下した以外は、実施例1−1と同様に行った。76.4gのビスクロロホーメート含有溶液を得た。
【0081】
[実施例1−9]
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン230g(0.897mol)、MDC1058ml、ホスゲン187g(1.89mol)の混合液に、TEA199.4g(1.97mol)とMDC460mlを混合した液を滴下した以外は、実施例1−1と同様に行った。1848.4gのビスクロロホーメート含有溶液を得た。
【0082】
[実施例1−10]
9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(以下、「BCF」と略記する。)250g(0.661mol)、MDC1175ml、ホスゲン148g(1.50mol)の混合液に、TEA146.8g(1.45mol)とMDC500mlを混合した液を滴下した以外は、実施例1−1と同様に行った。2944.5gのビスクロロホーメート含有溶液を得た。
【0083】
[実施例1−11]
BPZ60.0kg(224モル)を塩化メチレン1080Lで懸濁し、そこにホスゲン66.0kg(667モル)を加えて溶解した。これにトリエチルアミン44.0kg(435モル)を塩化メチレン120Lに溶解した液を2.2〜17.8℃で2時間50分かけて滴下した。17.9〜19.6℃で30分間撹拌後、14〜20℃で塩化メチレン900Lを留去した。残液に純水210L、濃塩酸1.2kg、ハイドロサルファイト450gを加え30℃で15分間洗浄した。その後、純水210Lで3回洗浄を繰り返した。これにより、ビスクロロホーメート含有溶液(BPZオリゴマー塩化メチレン溶液)を得た。
【0084】
そして、実施例1−11で得られたビスクロロホーメート含有溶液に含まれるカーバメート化合物の含有量を測定した。具体的には、得られたビスクロロホーメート含有溶液を減圧乾燥して固形物とした後、化学発光法全窒素分析により窒素量を算出する。この値から、GC(ガスクロマトグラフィー)により別途定量したトリエチルアミンに由来する窒素量を差引き、残りの窒素量をカーバメート化合物に由来する窒素量として算出した。
その結果、得られたビスクロロホーメートの固形分に含まれるカーバメート化合物由来の窒素濃度は、80質量ppmであった。なお、トリエチルアミンに由来する窒素量は0.3質量ppmであった。
【0085】
全窒素量の定量は、(株)三菱化学アナリテック製TS−100を用い、JIS K2609(化学発光法)に準拠し、実施した。JIS規格は液体に関する測定法が記載されているが、固体試料に対して同様の装置で測定を行った。
ビスクロロホーメート化合物の塩化メチレン溶液から、塩化メチレンを50℃、減圧条件で除去し、ビスクロロホーメート化合物を乾燥し、固化した。得られた固形分を用いて測定を行った。この結果を、別途ピリジンを標準物質として作成した検量線と比較する事で、窒素量の定量を行った。得られた結果を、ビスクロロホーメート化合物の塩化メチレン中での濃度で換算する事で、ビスクロロホーメート化合物中の全窒素量を算出した。
トリエチルアミンの定量は、上記の方法で得たビスクロロホーメート化合物の固形分に0.5N−NaOH水溶液を加えてpHを8以上とし、これにクロロホルムを添加して、クロロホルム抽出成分をトリエチルアミンとして、ガスクロ分析し、絶対検量線法で定量した。
【0086】
ガスクロマトグラフィー分析の条件は次のとおりである。
機種:アジレント・テクノロジー製 7890A
カラム:CP−VOLAMINE(Varian製) 60m×0.32mm(内径)
注入口温度:150℃
カラム温度:40℃から150℃まで50℃/分で昇温、150℃で10分保持後、250℃まで50℃/分で昇温
キャリアガス:ヘリウム 40cm/秒 一定
注入量:2μl
注入方式:スプリットレス
検出器:FID
FID温度:260℃
【0087】
次に、第2実施形態に係るビスクロロホーメート化合物の製造方法である実施例2−1〜実施例2−5について説明する。
[実施例2−1]
BPZ73.0g(0.272mol)にMDC410mlを混合して懸濁溶液とし、この懸濁溶液にTEA55.3g(0.546mol)を混合して溶解した。これをホスゲン54.5g(0.551モル)をMDC225mlに溶解した液に、14〜18.5で2時間50分かけて滴下した。滴下後18.5〜19℃で1時間撹拌した後に10〜22℃でMDCを250ml留去した。残液に、濃塩酸4.5mlと純水73mlを加えて洗浄し、その後水層が中性になるまで水洗を繰り返した。
得られたMDC溶液は、ビスクロロホーメート化合物含有溶液であり、574.6gであった。
【0088】
[実施例2−2]
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン73.0g(0.341mol)とMDC410ml、TEA68.7g(0.679mol)で準備した溶液を、ホスゲン65.0g(0.657mol)をMDC245mlに溶解した液に滴下すること以外は実施例2−1と同様の操作を行い、ビスフェノール化合物含有溶液622.2gを得た。但し、反応液の濃度が0.20〜0.30kg/Lになる様にMDC量を調整した。
【0089】
[実施例2−3]
BCF47.0g(0.124mol)とMDC265ml、TEA25.7g(0.254mol)で準備した溶液を、ホスゲン24.8g(0.251mol)をMDC147mlに溶解した液に滴下すること以外は実施例2−1と同様の操作を行い、ビスフェノール化合物含有溶液293.5gを得た。但し、反応液の濃度が0.20〜0.30kg/Lになる様にMDC量を調整した。
【0090】
[実施例2−4]
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン80.2g(0.351mol)とMDC450ml、TEA70.4g(0.696mol)で準備した溶液を、ホスゲン69.8g(0.706mol)をMDC250mlに溶解した液に滴下すること以外は実施例2−1と同様の操作を行い、ビスフェノール化合物含有溶液695.1gを得た。但し、反応液の濃度が0.20〜0.30kg/Lになる様にMDC量を調整した。
【0091】
[実施例2−5]
トリホスゲン62.1g(0.209mol)をMDC85mlに溶解した液に、BPZ85.7g(0.32mol)、MDC111ml、TEA64.2g(0.634mol)を混合して溶解した液を、6〜15℃で3時間5分かけて滴下した。滴下後15〜20℃で1時間50分撹拌して滴下した。滴下後8〜19℃で2時間撹拌した後に濃塩酸5.2mlと純水82mlを加えて洗浄した。その後水層が中性になるまで水洗を繰り返した。ビスクロロホーメート化合物含有溶液は720.8gであった。
【0092】
次に、ビスクロロホーメート化合物を原料として製造したポリカーボネートオリゴマーについて検討した実験例3−1〜3−4、及び比較実験例1について説明する。
[実験例3−1]
BPZ600g(2.24mol)にMDC2040mlを混合して懸濁液とし、この懸濁液にTEA461.4g(4.56mol)を混合して溶解した。これをホスゲン437.9g(4.43mol)をMDC1200mlに溶解した液に、5〜11℃で2時間46分かけて滴下すること以外は、実施例2−1と同様に操作を行ない、ビスクロロホーメート化合物含有溶液4311.6gを得た。但し、反応液の濃度が0.20〜0.30kg/Lになる様にMDC量を調整した。
得られたビスクロロホーメート反応溶液より溶剤を除去したのち、5.4gに塩化メチレン60mLに溶解した。ここに水酸化カリウム(2規定)22mLに1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン3.5gを溶解した液を加え、さらにp−tert−ブチルフェノール(PTBP)を30mg加えて攪拌した後、7%トリエチルアミン水溶液を0.2mL加えて激しく攪拌した。攪拌を1時間行ったのち、水200mL、0.1規定塩酸(100mL)、水100mL(2回)の順で洗浄を行い、得られたポリカーボネートオリゴマー液をメタノール中に投入し、乾燥して固形分を得た。得られた固形分の0.5g/dlの塩化メチレン溶液の20℃における還元粘度[ηsp/c]は0.94であった。また、得られた化合物の全末端基に占めるカーバメート末端基のモル数の比率は、全末端基、カーバメート末端基について、1H−NMRにおける各末端成分(OH末端基、カーバメート末端基、クロロホーメート末端基)由来のピークの積分値を比較し、算出した。
【0093】
[実験例3−2]
BPZ40g(0.149mol)、MDC600ml、ホスゲン44.1gの混合溶液中に、TEA29.6g(0.293mol)とMDC80mlを混合した液を25〜32℃で2時間55分かけて滴下すること以外は、実施例1−2と同様に操作を行ない、ビスフェノール化合物含有溶液307.5gを得た。
得られたビスクロロホーメート化合物含有溶液を実験例3−1と同様に処理して、固形分の還元粘度を測定した。また、得られた化合物の全末端基に占めるカーバメート末端基のモル数の比率を、実験例3−1と同様に測定した。
【0094】
[実験例3−3]
BPZ40g(0.149mol)、MDC600ml、ホスゲン44.1gの混合溶液中に、TEA29.5g(0.292mol)とMDC80mlを混合した液を4〜8℃で2時間59分かけて滴下すること以外は、実施例1−2と同様に操作を行ない、ビスフェノール化合物含有溶液335.0gを得た。
得られたビスクロロホーメート化合物含有溶液を実験例3−1と同様に処理して、固形分の還元粘度を測定した。また、得られた化合物の全末端基に占めるカーバメート末端基のモル数の比率を、実験例3−1と同様に測定した。
【0095】
[実験例3−4]
BPZ90g(0.335mol)にMDC306mlを混合して懸濁液とし、この懸濁液にTEA66.5g(0.657mol)を混合して溶解した。これをホスゲン92.9g(0.939mol)をMDC180mlに溶解した液に、3〜7℃で3時間5分かけて滴下すること以外は、実施例2−1と同様に操作を行ない、ビスフェノール化合物含有溶液675.5gを得た。ただし、反応液の濃度が0.20〜0.30kg/Lになる様にMDC量を調整した。
得られたビスクロロホーメート化合物含有溶液を実験例3−1と同様に処理して固形分の還元粘度[ηsp/c]を測定した。また、得られた化合物の全末端基に占めるカーバメート末端基のモル数の比率を、実験例3−1と同様に測定した。
【0096】
[比較実験例1]
BPZ250g(0.932mol)、MDC4500ml、ホスゲン276.5gの混合溶液中に、TEA217g(2.144mol)とMDC500mlを混合した液を11〜16℃で2時間57分かけて滴下すること以外は、実施例1−2と同様に操作を行ない、ビスフェノール化合物含有溶液2378.5gを得た。
得られたビスクロロホーメート化合物含有溶液を実験例3−1と同様に処理して固形分の還元粘度[ηsp/c]を測定した。また、得られた化合物の全末端基に占めるカーバメート末端基のモル数の比率を、実験例3−1と同様に測定した。
また、得られたビスクロロホーメート化合物に含まれるカーバメート等の不純物は、窒素として3600質量ppmであった。
【0097】
これら実施例1−1〜実施例1−11、実施例2−1〜実施例2−5、実験例3−1〜3−4、及び比較実験例1において得られたビスクロロホーメート化合物、ビスクロロホーメート化合物含有溶液、又はポリカーボネートオリゴマーの評価結果を表1、2に示す。なお、表1、2の実施例1−1において、濃度(kg/L)、CF値(N)、CF価の値は、塩化メチレン層中でのビスクロロホーメート化合物に関する値である。
【0098】
表1、2において、CF値は加水分解により遊離する塩素イオンを定量することにより得た。また、表1、2において、濃度は溶液の溶媒を除去し残る固形分量を測定する事により得た。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
*表2において、「カーバメート末端基モル比(%)」は、「得られた化合物の全末端基に占めるカーバメート末端基のモル数の比率(%)」である。
【0102】
実施例1−1〜実施例1−11、及び実施例2−1〜実施例2−5では、いずれも平均量体数が1.99以下のビスクロロホーメート化合物が得られた。また、実験例3−1〜3−4では、ビスクロロホーメート化反応において、脂肪族系第3級アミンの使用量を1.1当量以下としたため、カーバメート末端基のモル比を10%以下とすることができ、分子量の大きなポリカーボネートオリゴマーが得られた。一方、比較実験例1では、第3級アミンの使用量が1.15当量であるため、カーバメート末端基のモル比が10%を超え、分子量の小さなポリカーボネートオリゴマーが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、ビスクロロホーメート化合物の製造方法に利用することができ、得られるビスクロロホーメート化合物は、種々のポリマーの原料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物の製造方法であって、
疎水性有機溶媒を用い、下記式(化2)で表される2価フェノール性化合物と、ホスゲン系化合物と、脂肪族系第3級アミンとを混合して、前記式(化1)で表され、下記式(数1)で得られる平均量体数(n)が1.99以下のビスクロロホーメートを製造する
ことを特徴とするビスクロロホーメート化合物の製造方法。
【化1】


【化2】


(式(化1)及び(化2)において、Arは、2価の芳香族基を表す。)
平均量体数(n)=1+(Mav−M1)/M2・・・(数1)
(式(数1)において、Mavは(2×1000/(CF価))であり、M2は(M1−98.92)であり、M1は式(化1)において、n=1のときのビスクロロホーメート化合物の分子量であり、CF価(N/kg)は(CF値/濃度)であり、CF値(N)は反応溶液1Lに含まれる式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物中のクロル分子数であり、濃度(kg/L)は反応溶液1Lを濃縮して得られる固形分の量より求められる。ここで、98.92は、式(化1)において( )nの外にある2個の塩素原子、1個の酸素原子および1個の炭素原子の、原子量の合計である。)
【請求項2】
請求項1に記載のビスクロロホーメート化合物の製造方法であって、
前記式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物は、下記式(化3)又は式(化4)で表されるビスクロロホーメート化合物であり、
前記式(化2)で表される2価フェノール性化合物は、下記式(化5)で表されるビフェノール化合物又は式(化6)で表されるビスフェノール化合物である
ことを特徴とするビスクロロホーメート化合物の製造方法。
【化3】


【化4】


【化5】


【化6】


(式(化3)〜(化6)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜12の置換もしくは無置換のアリール基を示し、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基またはハロゲン原子を示し、Xは、9,9−フルオレニリデン基、2価のアダマンチル基、下記式(化7a)、及び(化7b)で表されるいずれかの結合基である。)
【化7】


(式中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、トリフルオロメチル基、炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基を示す。また、R、Rは互いに結合して炭素数4〜12のシクロアルキリデン基を構成していてもよい。)
【化8】


(式中、Rは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。また、Rのうち少なくとも一つ、好ましくは3つが炭素数1〜3のアルキル基である。)
(なお、R、R、R、Rに相当する置換基は一つのベンゼン環に複数結合していてもよく、結合する置換基は同じでも異なっていてもよい。)
【請求項3】
請求項1または2に記載のビスクロロホーメート化合物の製造方法において、
疎水性有機溶媒中に、式(化2)で表される2価フェノール性化合物を懸濁又は溶解させる懸濁工程または溶解工程と、
この懸濁液又は溶液に前記ホスゲン系化合物を導入するホスゲン導入工程と、
前記ホスゲン導入工程で得られた混合液に、疎水性有機溶媒で希釈した脂肪族系第3級アミンを滴下する滴下工程と、を実施する
ことを特徴とするビスクロロホーメート化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のビスクロロホーメート化合物の製造方法において、
疎水性有機溶媒中に、式(化2)で表される2価フェノール性化合物を懸濁又は溶解させる懸濁工程または溶解工程と、
この懸濁液又は溶液に脂肪族系第3級アミンを導入するアミン導入工程と、
疎水性有機溶媒で希釈したホスゲン系化合物に、脂肪族系第3級アミンが導入された溶液を滴下する滴下工程と、を実施する
ことを特徴とするビスクロロホーメート化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のビスクロロホーメート化合物の製造方法において、
脂肪族系第3級アミンを、前記式(化2)で表される2価フェノール性化合物の水酸基に対して1.1当量以下で使用する
ことを特徴とするビスクロロホーメート化合物の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のビスクロロホーメート化合物の製造方法において得られた式(化1)で表されるビスクロロホーメート化合物を用いて製造された低量体数ポリカーボネートオリゴマーであって、
全末端基に対して10モル%以下の比率で窒素含有末端基を有するか、あるいは有しない
ことを特徴とする低量体数ポリカーボネートオリゴマー。
【請求項7】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のビスクロロホーメート化合物の製造方法において製造されたビスクロロホーメート化合物を含有する溶液である
ことを特徴とするビスクロロホーメート化合物含有溶液。

【図1】
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【図2】
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