説明

ビスマスの回収方法

【課題】ビスマスの回収効率を高くすることができるビスマスの回収方法を提供する。
【解決手段】ビスマスを含有するビスマス含有処理液からビスマスを回収する方法であって、貯留槽に貯留されているビスマス含有処理液を、ビスマス含有処理液を外部循環させながら冷却する。ビスマス含有処理液を迅速に冷却することができるので、ビスマス含有処理液からビスマスを回収する回収効率を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマスの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ビスマスは、銅鉱石に多く含有されて産出され、銅製錬で副産物として回収される。銅の乾式製錬では、からみへのビスマスの分配率が小さいため粗銅中に残留し、銅電解精製工程で電解液中に溶出し電解液内に蓄積される。
【0003】
かかる電解液中に蓄積されたビスマスを回収する方法として、配位結合を有する樹脂であって、配位結合を担うクラウンエーテルのサイズによって、そのサイズに適合する各種の金属カチオンを選択的に吸着するという特性を有する分子認識技術樹脂(MRT樹脂)を用いた回収方法が開発されている(例えば、特許文献1)。
このMRT樹脂を用いた回収方法は、まず、MRT樹脂粒子をカラムに充填し、このカラムに対して、カラムの上方から下方に銅電解液を通液して、銅電解液中のビスマスをMRT樹脂粒子に吸着させる。ついで、このカラムに対して、カラムの上方から下方に溶離液(硫酸)を通液してMRT樹脂粒子に吸着されているビスマスを溶離液に溶出させた後、溶離液を冷却して、ビスマスを沈殿物として回収するのである。
【0004】
溶離液を冷却して沈殿物を得る場合、一般的に、蛇管、テフロン性の細管等の冷媒管が内部に配置された貯留槽に溶離液を集め、冷媒管内に冷媒を通液し、熱交換により溶離液の温度を下げる方法が採用される。
【0005】
しかし、上記冷却方法は、貯留槽に配置した冷媒管が溶離液に充分に浸った状態でないと溶離液を冷却する効果を十分に得ることができない。このため、貯留槽内の溶離液の液量が一定量になるまでに熱交換を開始しても十分な冷却効果を得ることは難しく、冷却効果が得られるまでに時間的なロスが生じる。
しかも、ビスマス沈殿物の溶解度は、常温において、9モル/リットルの硫酸に対しては1〜2グラム/リットルであるが、ビスマス沈殿物は過飽和になりやすい性質を有しているため、沈殿物が析出する温度まで冷却した場合でも、沈殿が生成するまでには長時間を要する。
したがって、ビスマスの回収効率を向上させる上では、溶離液を沈殿物が析出する温度以下に迅速に冷却させることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−213350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、ビスマスの回収効率を高くすることができるビスマスの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(ビスマスの回収方法)
第1発明のビスマスの回収方法は、ビスマスを含有するビスマス含有処理液からビスマスを回収する方法であって、貯留槽に貯留されている前記ビスマス含有処理液を、該ビスマス含有処理液を外部循環させながら、循環経路において冷却することを特徴とする。
第2発明のビスマスの回収方法は、第1発明において、前記ビスマス含有処理液が、ビスマス吸着樹脂粒子を充填したカラムにビスマスを含有するビスマス含有液を通過させて該ビスマス含有液のビスマスを前記ビスマス吸着樹脂粒子に吸着させる吸着工程、該吸着工程の後の前記カラムに洗浄液を供給して該カラム内を洗浄する洗浄工程、該洗浄工程後の前記カラムに溶離液を供給して前記ビスマス吸着樹脂粒子に吸着されているビスマスを該溶離液に溶出させる溶出工程、を順に行って得られたビスマスを含有する溶離液である場合において、前記洗浄工程では、前記洗浄液と前記溶離液とが混合したときにおける前記ビスマス吸着樹脂粒子の温度が、前記ビスマス吸着樹脂粒子におけるビスマス吸着機能の損傷が生じる温度以下となるように、前記カラムに供給する前記溶離液の温度を制御することを特徴とする。
第3発明のビスマスの回収方法は、第2発明において、前記吸着工程では、前記ビスマス吸着樹脂粒子を充填した前記カラムにビスマスを含有するビスマス含有液を下降流となるように通液し、前記洗浄工程では、前記カラムに前記洗浄液を上昇流となるように通液し、前記溶出工程では、前記カラムに前記溶離液を上昇流となるように通液することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、ビスマス含有処理液を迅速に冷却することができるので、ビスマス含有処理液からビスマスを回収する回収効率を高くすることができる。
第2発明によれば、カラムに供給される溶離液の温度が低くなっているので、溶離液の温度をビスマス化合物が析出する温度まで短時間で低下させることができる。しかも、ビスマス吸着樹脂粒子が高温となって急激に劣化することを防止することができるから、ビスマス吸着樹脂粒子の劣化によるビスマス回収効率の悪化を回避することができる。
第3発明によれば、洗浄液によってビスマス吸着樹脂粒子を撹拌できるので、ビスマス吸着樹脂内において、ビスマスの吸着量の多いビスマス吸着樹脂粒子の偏在を防ぐことができる。すると、溶離工程の初期に発生する、溶離液中のビスマス濃度の急激な上昇を防ぐことができるので、溶離液が高濃度のビスマスを含有することによって生じる種々の問題の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)は本実施形態のビスマス回収設備の概略ブロック図であり、(B)は回収手段20の概略ブロック図である。
【図2】実施例1の実験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のビスマスの回収方法は、ビスマスを含有する液体(ビスマス含有処理液)からビスマスを回収する方法であって、ビスマス含有処理液を循環させながら冷却することに特徴を有している。
【0012】
本発明のビスマスの回収方法は、以下のごとき回収手段20によって実現することができる。
図1(B)に示すように、本発明のビスマスの回収方法に使用する回収手段20は、ビスマス含有処理液を貯留できる貯留槽21と、この貯留槽21に対してビスマス含有処理液を供給する供給配管22と、貯留槽21内のビスマス含有処理液を供給配管22の途中に戻す循環配管23とを備えている。なお、この循環配管23には、ポンプ23pが介装されている。
【0013】
そして、上記供給配管22において、循環配管23が接続されている部分と貯留槽21との間の部分には、供給配管22内を流れるビスマス含有処理液を冷却する冷却手段24が介装されている。
この冷却手段24は、ビスマス含有処理液を流すための流路24aと、この流路24aの周囲に低温(例えば、10℃以下)の冷媒(例えば、水やアンモニア等)を流すための冷媒通路24hとを備えている。そして、冷媒通路24h内において、冷媒は、供給配管22内におけるビスマス含有処理液の流れる方向と逆方向に流されている。
【0014】
なお、冷却手段24は、ビスマス含有処理液を流す流路24aを有し、流路24a内を流れるビスマス含有処理液を冷却することができるものであればよく、ビスマス含有処理液を冷却する方法、装置はとくに限定されない。
【0015】
(回収作業の説明)
上記の回収手段20を用いて、本発明のビスマスの回収方法によりビスマスを回収する作業を説明する。なお、以下では、ビスマス含有処理液を、回収手段20に連続供給して処理する場合ではなく、バッチ処理する場合(つまり、所定の量のビスマス含有処理液を回収手段20に供給して処理する場合)を説明する。
【0016】
冷却手段24の冷媒通路24h内に冷媒を流した状態で、外部から供給配管22にビスマス含有処理液を供給すると、流路24aを通過するときにビスマス含有処理液と冷媒通路24h内の冷媒との間で熱交換が行われ、ビスマス含有処理液は冷却される。そして、冷却手段24によって冷却されたビスマス含有処理液は貯留槽21に供給され貯留される。
【0017】
貯留槽21内のビスマス含有処理液は、循環配管23によって供給配管22における冷却手段24よりも上流側に戻される。すると、戻されたビスマス含有処理液は、外部から新たに供給されるビスマス含有処理液とともに冷却手段24によって冷却され、貯留槽21に戻される。
【0018】
所定の量のビスマス含有処理液を外部から回収手段20に供給されると、回収手段20へのビスマス含有処理液の供給が終了する。すると、貯留槽21内のビスマス含有処理液のみが、供給配管22および循環配管23を通って貯留槽21外を循環し、冷却手段24によって冷却される。
【0019】
外部から回収手段20へのビスマス含有処理液の供給が終了しても、貯留槽21内のビスマス含有処理液を、その温度がビスマス化合物が析出する温度(約30度)以下となるまで循環させる。例えば、所定の温度以下(25℃程度)となるまで循環を継続し、所定の温度以下となると循環を停止する。すると、貯留槽21内にビスマス化合物が析出するので、ビスマス化合物の沈殿物としてビスマスを回収することができる。
【0020】
以上のごとく、ビスマス含有処理液を循環させて、ビスマス含有処理液を冷却手段24に何度も通過させるので、ビスマス含有処理液を迅速に冷却することができる。
すると、ビスマス含有処理液中のビスマス化合物が析出するまでの時間を短くできるので、ビスマス含有処理液からビスマスを回収する回収効率を高くすることができる。
【0021】
(ビスマス回収設備1)
また、本発明のビスマスの回収方法は、ビスマスを含有する液体であれば、どのような液体からでもビスマスを回収することができる。
とくに、本発明のビスマスの回収方法を、以下のビスマス回収設備1におけるビスマス回収に使用すれば、上述したビスマス含有処理液に相当する溶離液からビスマスを回収する効率を向上させることができる。
以下、かかるビスマス回収設備1について説明する。
【0022】
図1(A)において、符号10は、ビスマス回収設備1のカラムを示している。このカラム10は、その内部の中空な空間を有しており、この中空な空間に分子認識技術樹脂の粒子が充填されているものである。そして、カラム10内の中空な空間には、分子認識技術樹脂の粒子の層(以下、単にMRT樹脂層Mという)が形成されている。
なお、分子認識技術樹脂とは、配位結合を有する樹脂であって、配位結合を担うクラウンエーテルのサイズによって、そのサイズに適合する各種の金属カチオンを選択的に吸着するという特性を有する分子認識技術樹脂(MRT樹脂)を用いた回収方法が開発されている(例えば、特許文献1)。
【0023】
図1(A)に示すように、このカラム10の上端には、その内部のカラム10内と外部との間を連通する上端連通口が設けられている。この上端連通口には、配管等を介して、ビスマス含有液をカラム10に供給する処理液供給手段2、および、前述した回収手段20の供給配管22が連結されている。
【0024】
カラム10の下端には、カラム10内と外部との間を連通する下端連通口が設けられている。この下端連通口には、配管等を介して、カラム10内を洗浄する洗浄液(例えば、水や硫酸(2モル/リットル程度)等)を供給する洗浄液供給手段3、および、溶離液(例えば、硫酸(9モル/リットル程度)等)を供給する溶離液供給手段4が連通されている。
洗浄液供給手段3および溶離液供給手段4は、いずれも、カラム10に供給する洗浄液または溶離液の流量を調整する機構を備えている。そして、洗浄液および溶離液の流量は、カラム10内を洗浄する効果や、MRT樹脂粒子Mからビスマスを溶出させる効果が最大限発揮できるように調整されている。例えば、カラム10内に充填されているMRT樹脂の量(使用樹脂量)や、カラム10の容積、カラム10に接続されている配管の断面積等に応じて調整されている。
そして、カラム10の下端には、カラム10内の液体を外部に排出するための排出配管10cも連通されており、排出配管10cに介装されたバルブを操作することによって、カラム10内の液体を外部に排出できるように構成されている。
【0025】
(ビスマス回収作業)
以上のごとき構成を有するビスマス回収設備1によって、ビスマスを回収する作業を説明する。
【0026】
(吸着工程)
まず、排出配管10cのバルブを開いた状態で、処理液供給手段2から、銅の電解精製に使用された銅電解液をカラム10内に供給する。すると、銅電解液は、カラム10内を上端連通口から下端連通口に向かって流れ、排出配管10cから外部に排出される。
銅の電解精製に使用された銅電解液は、通常、銅濃度40〜50g/リットル、遊離硫酸濃度150〜200g/リットル、アンチモン0.5〜0.6g/リットル、ビスマス0.3〜0.8g/リットルとなっている。つまり、一般的な濃度の銅電解液に比べて、アンチモン、ビスマス濃度が高い硫酸銅−硫酸水溶液の状態となっており、その状態でカラム10内に充填されているMRT樹脂層Mを通過する。このため、銅電解液に含有されているビスマスがMRT樹脂粒子に吸着される。
そして、所定の量の銅電解液がカラム10に通液されると、カラム10に対する銅電解液の供給を停止する。なお、カラム10に供給される銅電解液の総量およびその流量は、例えば、カラム10内に充填されているMRT樹脂の量(使用樹脂量)や、カラム10の容積、カラム10に接続されている配管の断面積等に応じて決定される。
【0027】
(洗浄工程)
ついで、排出配管10cのバルブを閉じ、洗浄液を供給手段3からカラム10内の空間に供給する。すると、洗浄液は、カラム10内を下端連通口から上端連通口に向かって流れ、回収手段20と連通された配管を通って外部に排出される。
このとき、洗浄液がカラム10内に充填されているMRT樹脂層Mを通過するので、MRT樹脂粒子表面が洗浄液によって洗浄され、かつ、MRT樹脂層M内に残留していた銅電解液が排出される。
そして、所定の量の洗浄液がカラム10に通液されると、カラム10に対する洗浄液の供給を停止する。なお、カラム10に供給する洗浄液の総量は、カラム10通液後の液分析値に基づいて決定され、その流量は、上述したように、カラム10内に充填されているMRT樹脂の量(使用樹脂量)や、カラム10の容積、カラム10に接続されている配管の断面積等に応じて決定される。
【0028】
(溶離工程)
洗浄工程が終了すると、溶離液供給手段4からカラム10内に溶離液を供給する。すると、溶離液は、カラム10に残留している洗浄液を押し上げながら、カラム10内を下端連通口から上端連通口に向かって流れる。そして、溶離液は、カラム10内から回収手段20と連通された配管を通って回収手段20に供給される。
このとき、溶離液はカラム10内に充填されているMRT樹脂層Mを通過するので、MRT樹脂粒子に吸着されているビスマスが溶離液中に溶出する。
そして、所定の量の溶離液がカラム10に通液されると、カラム10に対する溶離液の供給を停止する。なお、カラム10に供給する溶離液の総量およびその流量も、カラム10内に充填されているMRT樹脂の量(使用樹脂量)や、カラム10の容積、カラム10に接続されている配管の断面積等に応じて決定される。
【0029】
(回収工程)
溶離工程中にカラム10から排出された溶離液は、上述した本発明の回収手段20において冷却されるので、冷却に伴って溶離液中に溶解していたビスマスがビスマス化合物として析出するから、ビスマスをビスマス化合物の沈殿物として回収することができる。
そして、本発明の回収手段20では、溶離液を迅速に冷却することができるので、溶離液からビスマスを回収する回収効率を高くすることができる。
【0030】
(上昇流による攪拌効果)
上述したように、洗浄工程において、洗浄液をカラム10内で上昇流となるようにしているので、溶離工程において、溶離液をカラム10内で上昇流となるように供給しても、高濃度にビスマスが溶解した溶離液がカラム10から排出されることを防ぐことができる。すると、回収手段20と連通された配管内において、ビスマスの沈殿の急速な生成が生じることを防止することができるので、かかる沈殿による配管の閉塞の発生を防ぐことができるという効果が得られる。
かかる効果が得られる理由を以下に説明する。
【0031】
吸着工程では、銅電解液は、カラム10内を上端連通口から下端連通口に向かって流れる下降流であり、カラム10内において上部に位置していたMRT樹脂粒子はビスマス濃度が高い銅電解液と接触する。このため、カラム10内の上部に位置していたMRT樹脂粒子は、ビスマスを多く捕捉する。一方、カラム10内の下部に位置していたMRT樹脂粒子は、上部に位置していたMRT樹脂粒子によってビスマスが捕捉されビスマス濃度が低くなった銅電解液と接触するため、ビスマスを少量しか捕捉できない。つまり、吸着工程終了時点では、ビスマスを多く捕捉したMRT樹脂粒子が、MRT樹脂層M内の上部に偏在した状態となる。
【0032】
この状態が洗浄工程終了後も維持されたまま、溶離工程において溶離液をカラム10内に上昇流で通液すると、高濃度にビスマスが溶解した溶離液、つまり、溶解度を超えてビスマスが溶解した溶離液がカラム10から排出されてしまう。それは、カラム10内に溶離液を供給すると、カラム10内では、溶離液と洗浄液との比重差により生じた液界面がカラム10内を上昇することになり、その界面がMRT樹脂層Mの上部(ビスマスを多く捕捉したMRT樹脂粒子が存在する領域)に達したときに、MRT樹脂粒子に吸着されていたビスマスがほぼ同時に溶離液中に溶け込むからである。
【0033】
しかし、洗浄液をカラム10内で上昇流となるように供給すれば、上述したようなビスマスを多く捕捉したMRT樹脂粒子の偏在を解消することができる。MRT樹脂粒子は、その比重が洗浄液の比重よりも小さいので、MRT樹脂粒子は上昇流によって上方に流れようとする。このとき、上方に流れようとするMRT樹脂粒子と、このMRT樹脂粒子よりも上方に位置するMRT樹脂粒子とが干渉するから、MRT樹脂層M内においてMRT樹脂粒子が攪拌され、上述したようなビスマスを多く捕捉したMRT樹脂粒子の偏在が解消されるのである。
【0034】
ビスマスを多く捕捉したMRT樹脂粒子の偏在が解消されれば、洗浄工程終了後、溶離液をカラム10内の空間10hに上昇流で通液しても、MRT樹脂粒子に吸着されていたビスマスは徐々に溶離液と溶出するので、高濃度にビスマスが溶解した溶離液が生成されることを防ぐことができる。
【0035】
以上のごとく、洗浄工程において、洗浄液をカラム10内で上昇流となるようにすれば、カラム10から排出される溶離液のビスマス濃度が高濃度となることを防ぐことができる。
よって、回収手段20において溶離液を短時間で冷却したときに、供給配管22や循環配管23内におけるビスマス化合物の沈殿を生じにくくすることができるから、かかる沈殿に起因する供給配管22等の閉塞が生じることも防ぐことができる。
【0036】
(温度制御)
また、溶離液と洗浄液の組み合わせによっては、溶離工程の初期においてカラム10内部で両者が接触すると熱を発生し、溶離液等の温度が上昇する場合がある。例えば、洗浄液に水、溶離液に硫酸を使用すると、カラム10内部で両者が混合したときに、希釈熱が発生し、カラム10内部の温度が上昇する。
発生する希釈熱は、溶離液の濃度がそれほど高くなければ(硫酸であれば9モル/リットル程度)、希釈熱による温度上昇はそれほどでもない。しかし、溶離液の濃度が高くなると(11.3モル/リットル程度)、希釈熱が大きくなりこの希釈熱による温度上昇も大きくなる。すると、この希釈熱の影響により、カラム10内部の温度、言い換えれば、MRT樹脂粒子の温度が70℃を超えてしまう可能性がある。かかる温度になると、MRT樹脂粒子は、その樹脂官能基(クラウンエーテル)が破壊、脱離してしまい樹脂能力(ビスマス吸着能力)が急激に低下してしまう。とくに、洗浄液と溶離液とが接触する界面においては、局所的な希釈熱の発生により急激に温度が高くなるため、より一層MRT樹脂粒子の損傷が生じやすくなる。
【0037】
溶離液の濃度が高い場合において、上記のごとき問題を防ぐ上では、洗浄液供給手段3および溶離液供給手段4に、カラム10に供給する溶離液や洗浄液の温度を制御する温度制御手段を設けることが好ましい。かかる温度制御手段を設け、溶離液や洗浄液の温度を調整すれば(例えば、40℃以下)、洗浄液と溶離液とが接触したときの希釈熱によるMRT樹脂粒子の温度が上昇しても、その温度上昇をMRT樹脂粒子の樹脂官能基の損傷が生じる温度よりも低く抑えることができる。すると、MRT樹脂粒子が高温となって急激に劣化することを防止することができるから、MRT樹脂粒子の劣化によるビスマス回収効率の悪化を回避することができる。
【0038】
そして、上記のごとくカラム10に供給する溶離液の温度を調整すれば、カラム10に供給される溶離液の温度が低くなっているので、カラム10から排出される溶離液の温度をビスマス化合物が析出する温度まで短時間で低下させることができる。よって、溶離液からビスマスを回収する回収効率を高くすることができる。
【実施例1】
【0039】
本発明のビスマス回収方法において、冷却方法の相違がビスマス化合物を含有するビスマス含有処理液の冷却効率に与える影響を確認した。
比較は、本発明の方法を採用した冷却器(回収手段20参照)を使用してビスマス含有処理液を冷却した場合(実施例1)と、従来の冷却器を使用してビスマス含有処理液を冷却した場合(比較例1:段落0004参照)とにおいて、ビスマス含有処理液温度の時間変化を比較した。
【0040】
実験では、MRT樹脂を収容した試験カラムに対し、ビスマスを含有する60℃の銅電解液を下降流で通液してビスマスをMRT樹脂に吸着させた後、60℃の洗浄液を下降流で通液してカラム内に残存する銅電解液を洗浄液で置換し、その後溶離液を上昇流で通液して、カラムから排出された60℃の溶離液(ビスマス含有処理液)を冷却器で冷却し、貯留槽内の溶離液の温度変化を測定した。
なお、溶離液を上昇流で通液した後でも、60℃の洗浄液によってカラム内の洗浄を行った。
また、冷却器では、実施例1、比較例1とも、10℃以下に冷却した冷却水を冷媒として、溶離液の冷却を行った。
【0041】
実験に使用した試験カラムは、MRT樹脂が充填されたものであり、直径60mm、高さ354mm、中空部分の容積は0.001mである。
【0042】
使用した各物質およびその使用量は以下のとおりである。
MRT樹脂:0.75L(1.0kg)(商品名:SuperLig#83、米国IBC社製)
銅電解液(BV27.2、LV1.2):ビスマス濃度0.6g/リットル(2モル/リットル硫酸銅水溶液)
溶離液(BV3.5、LV1.2) :9モル/リットル硫酸
洗浄液(BV1.7(溶離後はBV4.0)、LV1.2) :2モル/リットル硫酸
【0043】
なお、BV(Bed volume)は、MRT樹脂量に対して供給する液体の流量の倍数である。つまり、MRT樹脂量をAとし供給する液体の流量をBとすると、B/AがBVである。
また、LV(線速度:Linear velocity)は、単位面積(カラムの断面積)当たり1時間の通過液量である。つまり、カラムの断面積をX、1時間Yの通液量をYとすると、Y/XがLVである。
【0044】
結果を図2に示す。なお、図2において、時間は、溶離後の洗浄が終了した時点を溶離終了時とし、このタイミングを0分として表示している。また、冷却器入口、出口の温度は、溶離を行っている期間の温度を示している。
図2に示すように、溶離中であっても、冷却器から排出される溶離液の温度は、実施例1のほうが比較例1よりも低くなっている。
また、実施例1では、溶離終了から30分で溶離液が30℃以下となり、短時間でビスマス結晶を回収することができた。
一方、比較例1では、溶離液が30℃以下となるまでに6時間を要しており、ビスマス結晶を回収するまでに非常に長時間を要した。
【0045】
上記結果より、本発明のビスマス回収方法によりビスマス含有処理液を冷却した場合、ビスマス含有処理液の冷却時間を短くでき、ビスマスを回収する効率が向上することが確認できた。
【実施例2】
【0046】
MRT樹脂を収容したカラムを有するビスマス回収設備において、カラムの洗浄を上昇流によって行うようにした場合(実施例2)と、カラムの洗浄を下降流によって行うようにした場合(比較例2)とにおいて、ビスマス化合物による配管閉塞に与える影響を比較した。
【0047】
実験は、以下の作業を行って、溶離工程において配管閉塞が生じるか否かを確認した。
まず、MRT樹脂を収容した試験カラムに対し、ビスマスを含有する銅電解液を下降流で通液してビスマスをMRT樹脂に吸着させた。その後、洗浄液を上昇流で通液して通液して、カラム内に残存する銅電解液を洗浄水で置換した後、溶離液を上昇流で通液し、溶離液を貯留槽に排出した。
【0048】
実施例2では、洗浄液として水を上昇流で供給し(BV 1.3(2,000l)、LV2)、カラム内の銅電解液を水で置換した後、洗浄液の通液を3分間停止してから、溶離液を上昇流で通液した。
一方、比較例2では、洗浄液として水を下降流で供給し(BV5、LV15)、カラム内の銅電解液を水で置換した後、洗浄液の通液を3分間停止してから、溶離液を上昇流で通液した。
【0049】
実験に使用した試験カラムは、MRT樹脂が充填されたものであり、直径1,100mm、高さ3,370mm、中空部分の容積は 3.7mである。
【0050】
使用した各物質およびその使用量は以下のとおりである。
MRT樹脂:600kg(商品名:SuperLig#83、米国IBC社製)
銅電解液(BV20):ビスマス濃度0.6g/リットル(2モル/リットル硫酸銅水溶液)
溶離液(BV4、LV6):60%硫酸(9モル/リットル硫酸)
【0051】
以下に結果を示す。
実施例2では、溶離液の供給を開始した初期において、カラムと貯留槽とを連通する配管内にビスマス化合物の沈殿は観察されず、全ての溶離液を貯留槽に排出することができた。
一方、比較例2では、溶離液の供給を開始し、BVで1となる液量を通液した時点で、カラムと貯留槽とを連通する配管内でビスマス化合物の沈殿が生成し、配管閉塞が発生した。
【0052】
上記結果より、洗浄液を上昇流としてカラム内に供給することによって、溶離液の供給を開始初期におけるビスマス化合物の沈殿に起因する配管の閉塞を防止効果が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のビスマスの回収方法は、湿式銅精錬に使用された銅電解液中に蓄積されるビスマスや、スズ−ビスマス合金メッキで使用された液体中に存在するビスマスを回収する方法として適している。
【0054】
1 ビスマス回収設備
2 処理液供給手段
3 洗浄液供給手段
4 溶離液供給手段
10 カラム
10a 下端連通口
10b 下端連通口
11 上部粒子保持部材
12 下部粒子保持部材
20 回収手段
M 分子認識技術樹脂層
B 不活性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスを含有するビスマス含有処理液からビスマスを回収する方法であって、
貯留槽に貯留されている前記ビスマス含有処理液を、該ビスマス含有処理液を外部循環させながら、循環経路において冷却する
ことを特徴とするビスマスの回収方法。
【請求項2】
前記ビスマス含有処理液が、
ビスマス吸着樹脂粒子を充填したカラムにビスマスを含有するビスマス含有液を通過させて該ビスマス含有液のビスマスを前記ビスマス吸着樹脂粒子に吸着させる吸着工程、該吸着工程の後の前記カラムに洗浄液を供給して該カラム内を洗浄する洗浄工程、該洗浄工程後の前記カラムに溶離液を供給して前記ビスマス吸着樹脂粒子に吸着されているビスマスを該溶離液に溶出させる溶出工程、を順に行って得られたビスマスを含有する溶離液である場合において、
前記洗浄工程では、
前記洗浄液と前記溶離液とが混合したときにおける前記ビスマス吸着樹脂粒子の温度が、前記ビスマス吸着樹脂粒子におけるビスマス吸着機能の損傷が生じる温度以下となるように、前記カラムに供給する前記溶離液の温度を制御する
ことを特徴とする請求項1記載のビスマスの回収方法。
【請求項3】
前記吸着工程では、前記ビスマス吸着樹脂粒子を充填した前記カラムにビスマスを含有するビスマス含有液を下降流となるように通液し、
前記洗浄工程では、前記カラムに前記洗浄液を上昇流となるように通液し、
前記溶出工程では、前記カラムに前記溶離液を上昇流となるように通液する
ことを特徴とする請求項2記載のビスマスの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−162862(P2011−162862A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28924(P2010−28924)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】