説明

ビタミンB1の前駆体の製造方法

本発明は、式(II)(式中、Rは、水素または直鎖もしくは分枝鎖C1〜4アルキルである)の化合物を水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属水溶液で加水分解する工程を含む、グルー−ジアミン(Grewe−diamine)の新規の製造方法であって、加水分解は、有機溶媒の存在下で行われることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属水溶液を用いた、N−(4−アミノ−2−メチル−ピリミジン−5−イル−メチル)−アルカンアミドの加水分解による、式I
【化1】


のグルー−ジアミン(Grewe−diamine)(GDA;5−アミノメチル−2−メチル−ピリミジン−4−イル−アミン)の、新規の製造方法に関する。より正確には、本発明は、このようなN−置換アルカンアミドの加水分解であって、有機溶媒の存在下で、好ましくは、誘電率が7〜35の有機溶媒の存在下で、より好ましくは、反応条件下では本質的に水に溶解しない有機溶媒の存在下で、行われる加水分解に関する。
【0002】
GDAは、ビタミンBの合成にとって重要な前駆体である。例えば、G・モイン(G.Moine)およびH−P・ホーマン(H−P.Hohmann)著、「ウルマンの工業化学百科事典(“Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry”)」、VCH、第A27巻、1996年、515〜517ページおよびその引用例を参照されたい。
【0003】
従来技術(EP−A 1 138 675号明細書、DE−A 35 11 373号明細書)に記載された方法、すなわち、N−アセチルGDAまたはN−ホルミルGDAの加水分解を行うには、厳しい反応条件が必要である。DE−A 35 11 373号明細書に記載の方法には、全体の収率が低く、生成物を昇華によってさらに精製しなければならないという欠点がある。
【0004】
したがって、生成物を高収率且つ高純度で得られる、GDAの製造方法が必要であった。
【0005】
この必要性は、有機溶媒の存在下、水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属水溶液で式II
【化2】


(式中、Rは、水素または直鎖もしくは分枝鎖C1〜4アルキルである)の化合物を加水分解する工程(工程a)を含む、グルー−ジアミン(Grewe−diamine)の製造方法によって達成される。
【0006】
置換基Rについて:
置換基Rは、水素、メチル、エチル、プロピルまたはブチルである。好ましくは、Rは、水素、メチル、エチル、n−プロピルまたはn−ブチルであり、より好ましくは、Rは水素またはメチルであり、最も好ましくは、Rは水素である。
【0007】
式IIの化合物の製造は、当業者には周知であり、例えば、特開昭58−065279号明細書(公開番号。出願番号は第56−162106号)、EP−A 0 172 515号明細書、EP−A 0 001 760号明細書、米国特許第4,226,799号明細書、およびDE−A 35 11 273号明細書のいずれかに記載の通り実行され得る。
【0008】
有機溶媒について:
適切な有機溶媒の例として、誘電率(εr)が7〜35の範囲である有機溶媒がある(C・ライヒャルト(C. Reichardt)著、「有機化学における溶媒および溶媒効果(“Solvents and Solvent Effects in Organic Chemistry”)」、VCH、1988年、408〜410ページ参照)。好ましい溶媒の例には、脂肪族アルコ−ル、特に、脂肪族C1〜4−アルコール、エ−テルおよびそれらの混合物がある。より好ましい溶媒の例には、反応条件下では本質的に水に溶解しない有機溶媒がある。
【0009】
「反応条件下では本質的に水に溶解しない」とは、二相液体系が生成されることを意味する。二相液体系は、例えば、脂肪族C3〜4−アルコール、エ−テルおよびそれらの混合物との反応条件下で生成される。
【0010】
脂肪族C1〜4−アルコールの例として、メタノール、エタノ−ル、プロパン−1−オール、プロパン−2−オール、ブタン−1−オール、ブタン−2−オール、2−メチル−プロパン−2−オール、および2−メチル−プロパン−1−オールがある。
【0011】
最も好ましい脂肪族C3〜4−アルコールは、プロパン−1−オール、プロパン−2−オール、ブタン−1−オール、ブタン−2−オール、および2−メチル−プロパン−2−オールからなる群から選択され、より好ましくは、プロパン−2−オール、ブタン−1−オール、およびブタン−2−オールからなる群から選択される。また、これらは、本発明に係る方法で使用される最も好ましい有機溶媒でもある。
【0012】
好ましいエ−テルは、GDAが溶解するエーテルである。最も好ましいエ−テルは、テトラヒドロフランおよび1,2−ジメトキシエタンである。
【0013】
水酸化アルカリおよびアルカリ土類金属について:
例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムがあり、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0014】
水酸化アルカリおよびアルカリ土類金属溶液について:
好ましくは、溶液の濃度は、5〜30重量%の範囲であり、より好ましくは、15〜28重量%の範囲である。
【0015】
反応条件:
好都合なことに、加水分解(工程a)は、20〜110℃の範囲の温度で、好ましくは、30℃〜90℃の範囲の温度で、より好ましくは、40℃〜85℃の範囲の温度で行われる。
【0016】
好都合なことに、反応時間は、30〜240分の範囲であり、好ましくは、30〜120分の範囲である。
【0017】
好都合なことに、反応は常圧で行われ、空気雰囲気下で行われてもよい。
【0018】
本発明の特定の実施形態では、本方法はさらに複数の工程を含む。これらの工程は、(工程aで)使用される有機溶媒によって決まる。
【0019】
加水分解(工程a)が、例えば、反応条件下では本質的に水に溶解しない有機溶媒の存在下で行われる場合、本方法は追加工程b1)、c1)、d1)およびd2)(下記参照)をさらに含み得る。
【0020】
加水分解(工程a)が、メタノールの存在下で行われる場合、本方法は追加工程b2)(下記参照)をさらに含み得る。
【0021】
加水分解(工程a)が、エタノールの存在下で行われる場合、本方法は追加工程b3)、c3)およびd3)(下記参照)をさらに含み得る。
【0022】
加水分解(工程a)が、反応条件下では本質的に水に溶解しない有機溶媒の存在下で行われる場合、本発明の方法は、以下の追加工程を含むことが好ましい。
b1)水性相および有機相での反応終了後、反応混合物を相分離する工程、
c1)場合によっては、本質的に水に溶解しない溶媒で水性相を抽出し、有機相と結合する工程。
【0023】
工程b1):
水性相、すなわち、水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属水溶液と、本質的に水に溶解しない溶媒とは、二相液体系を生成する。反応終了後、すなわち、式IIの化合物がGDAに加水分解されると、この2つの相は互いに分離する。水性相は、反応中に生成されたギ酸アルカリまたはアルカリ土類金属塩を含有し、有機相は溶媒と生成物とを含有する。
【0024】
好ましくは、相分離は、40℃〜80℃の範囲の温度で、より好ましくは、50℃〜70℃の範囲の温度で行われる。
【0025】
本発明の好適な実施形態においては、工程a)、b1)およびc1)は、(本発明の最良の形態である)所定の順序で順次行われる。
【0026】
本発明の方法の他の特定の実施形態によると、生成物GDAの単離は、その処理に対して、2つの代替案d1)およびd2)のいずれかによって行ってもよい。
【0027】
代替案1(工程d1)):
工程a)、b1)およびc1)を行った後、本質的に水に溶解しない溶媒を有機相から蒸発させる。この蒸発は、好ましくは、40℃〜80℃の温度、および/または5〜30mbarの圧力で行われる。
【0028】
代替案2(工程d2)):
工程a)、b1)およびc1)を行った後、分離した有機相からGDAを結晶化させる。これは、好ましくは、20〜−10℃の温度まで、より好ましくは、5〜0℃の温度まで、有機相を冷却することによって達成され得る。母液からさらにGDAを結晶化できる。その後、GDA結晶を液体から分離する。
【0029】
加水分解(工程a)がメタノールの存在下で行われる場合、本方法は、好ましくは、
b2)グルー−ジアミン(Grewe−diamine)を反応溶液から結晶化させる、
という工程b2)をさらに含む。
【0030】
これは、好ましくは、20〜−10℃の範囲の温度まで、より好ましくは、5〜0℃の範囲の温度まで、反応溶液を冷却することによって達成され得る。母液からさらにGDAを結晶化できる。その後、GDA結晶を液体から分離する。
【0031】
加水分解(工程a)がエタノールの存在下で行われる場合、本方法は、好ましくは、
b3)反応溶液から副生成物のギ酸アルカリまたはアルカリ土類塩を結晶化する工程、
c3)結晶化されたギ酸アルカリまたはアルカリ土類塩を反応溶液から分離する工程、および
d3)残った反応溶液から水とエタノールを蒸発させる工程、
という工程b3)、c3)およびd3)をさらに含む。
【0032】
工程b3)は、好ましくは、20〜−10℃の範囲の温度まで、より好ましくは、5〜0℃の範囲の温度まで、反応溶液を冷却することによって達成され得る。母液からさらにギ酸アルカリまたはアルカリ土類金属塩を結晶化できる。
【0033】
本発明の方法のさらなる利点は、生成物の高収率(好ましくは、≧98%)および高純度(好ましくは、≧97%)に加え、得られたGDAは、本質的にアニリン、2−クロロアニリン、および/または任意のギ酸アルカリまたはアルカリ土類金属塩を含んでいないことである。本発明の好適な実施形態では、2−クロロアニリンの含量は250ppm未満であり、および/または加水分解中に生成された任意のギ酸アルカリまたはアルカリ土類金属塩の含量は2%未満である。
【0034】
このように得られたGDAは、例えば、二硫化炭素および3−クロロ−5−アセトキシペンタン−2−オン、または3−クロロ−5−ヒドロキシペンタン−2−オン、3−メルカプト−5−ヒドロキシペンタン−2−オン、または3−メルカプト−5−アセトキシペンタン−2−オンなどの別のクロロケトン誘導体とさらに反応して、式III
【化3】


(式中、Rは、C1〜4−アルカノイル、好ましくは、アセチルである)の化合物を生成し得る(例えば、G・モイン(G.Moine)およびH−P・ホーマン(H−P.Hohmann)著、「ウルマンの工業化学百科事典(“Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry”)」、VCH、第A27巻、1996年、515〜517ページおよびその引用例を参照)。
【0035】
したがって、このような式IIIの化合物の製造方法もまた本発明の一部である。
【0036】
そして、式IIIの化合物は、酸とさらに反応して、式IVの化合物を生成する。
【化4】


(例えば、G・モイン(G.Moine)およびH−P・ホーマン(H−P.Hohmann)著、「ウルマンの工業化学百科事典(“Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry”)」、VCH、第A27巻、1996年、515〜517ページおよびその引用例を参照)。
【0037】
したがって、このような式IVの化合物の製造方法もまた本発明の一部である。
【0038】
そして、式IVの化合物は、好ましくは、Hでさらに酸化されて、式VのビタミンBになる。
【化5】


(例えば、G・モイン(G.Moine)およびH−P・ホーマン(H−P.Hohmann)著、「ウルマンの工業化学百科事典(“Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry”)」、VCH、第A27巻、1996年、515〜517ページおよびその引用例を参照)。
【0039】
したがって、本発明は、ビタミンBの製造方法を含み、式II
【化6】


(式中、Rは水素または直鎖もしくは分枝鎖C1〜4アルキルである)の化合物は、加水分解されて、上記で詳細に記載した本発明の方法に係るグルー−ジアミン(Grewe−diamine)になり、得られたグルー−ジアミン(Grewe−diamine)を、さらに反応させて、好ましくは、上記でより詳細に記載したように、式IV
【化7】


の化合物にし、得られた式IVの化合物を、好ましくは、Hでさらに酸化させて、ビタミンB1を得る。
【0040】
最後に、本発明は、上述のように、本発明の方法によって得られたGDAを、ビタミンB1の製造方法における中間生成物として使用することを含む。
【0041】
図中、以下の略語を用いる。「NFGDA」=N−ホルミルGDA、「IT」=内部温度、「w/w」=重量/重量、「eq.」=モル当量、「h」=時間。
【0042】
図1は、メタノールまたはエタノールを式IIの化合物を加水分解するための溶媒として用いる方法(左側)と、脂肪族C−またはC−アルコールを式IIの化合物を加水分解するための溶媒として用いる方法(右側)の簡単な概略図を示す。
【0043】
メタノールまたはエタノールを式IIの化合物を加水分解するための溶媒として用いる場合、その反応溶液は均一反応系であり、一方、脂肪族C−またはC−アルコールを同じ目的で溶媒として用いる場合、その反応溶液は不均一反応系である。
【0044】
メタノールを溶媒として用いる場合、GDAは、反応溶液からの結晶化によって得られ得る。
【0045】
エタノールが溶媒として用いられる場合、副生成物のギ酸ナトリウムが、結晶化によって生成物GDAから分離される。その後、GDA自体は、結晶性ギ酸ナトリウムの分離後、その溶液を濃縮することによって得られる(下記の表2を参照)。
【0046】
脂肪族C−もしくはC−アルコールまたはその混合物が溶媒として用いられる場合、水相と有機相とが反応終了時に分離され、有機相の濃縮によって(上記代替案1を参照)か、または有機相からのGDAの結晶化によって(上記代替案2を参照)、GDAが得られる。
【0047】
図2は、加水分解が脂肪族C−アルコールまたはその混合物で行われる場合の、本発明に係る加水分解されたGDAの処理および単離の一例の図を示している。出発材料として、純度が95%で2−クロロアニリンの含量が最大4000ppmのNFGDAが用いられる。(反応溶液の総量に対して)20重量%のNFGDAを含むC−アルコール溶液を、(NFGDAのモル量に対して)1.05モル当量のNaOHを含むNaOH水溶液と、80〜85℃の温度で2〜5時間反応させることによって、加水分解を行う。その後、有機相および水性相を40〜60℃の温度で互いに分離させる。
【0048】
水相をC−アルコールで抽出し、その後蒸発させて、加水分解中に生成されたギ酸ナトリウムの量(=NFGDAの使用量)に対して80〜90%の収率で、ギ酸ナトリウムを再度得る(図2の右側を参照)。
【0049】
有機相の処理には2つの選択肢がある。
【0050】
選択肢1(左側)によると、温度50℃および圧力10mbarで、有機相を濃縮、すなわち溶媒を蒸発させる。こうして分離したC−アルコールにおいて、出発材料に2−クロロアニリンが90〜95%含まれていることがわかる。このように単離したGDAをさらに、温度60℃および圧力20mbarで12時間乾燥させる。こうして得られたGDAの純度は90〜94%で、2−クロロアニリンの含量は250ppm未満であり、GDAは、ギ酸ナトリウムを6〜10%含み、単離したGDAの収率は、(NFGDAの使用量に対して)93〜98%である。
【0051】
選択肢2(中央)によると、有機相を、0℃の温度まで12時間冷却し、それによってGDAを結晶化させる。その後、分離結晶を、温度60℃および圧力20mbarで12時間乾燥させる。こうして得られたGDAの純度は94〜96%で、2−クロロアニリンの含量は50ppm未満であり、GDAは、ギ酸ナトリウムを4〜6%含み、単離したGDAの収率は、(NFGDAの使用量に対して)75〜80%である。
【0052】
図3は、加水分解が脂肪族C−アルコールまたはその混合物内で行われる場合の、本発明に係る加水分解されたGDAの処理および単離の一例の図を示している。出発材料として、純度が95%で2−クロロアニリンの含量が最大4000ppmのNFGDAが用いられる。(反応溶液の総量に対して)20重量%のNFGDAを含むC−アルコール溶液を、(NFGDAのモル量に対して)1.05モル当量のNaOHを含むNaOH水溶液と、80〜100℃の温度で1〜4時間反応させることによって、加水分解を行う。その後、有機相および水性相を40〜60℃の温度で互いに分離させる。
【0053】
水相をC−アルコールで抽出し、その後蒸発させて、加水分解中に生成されたギ酸ナトリウムの量(=NFGDAの使用量)に対して80〜90%の収率で、ギ酸ナトリウムを再度得る(図の右側を参照)。
【0054】
有機相の処理には2つの選択肢がある。
【0055】
選択肢1(左側)によると、温度60℃および圧力20mbarで、有機相を濃縮、すなわち溶媒を蒸発させる。こうして分離したC−アルコールにおいて、出発材料に2−クロロアニリンが90〜95%含まれていることがわかる。このように単離したGDAをさらに、温度60℃および圧力20mbarで12時間乾燥させる。こうして得られたGDAの純度は93〜95%で、2−クロロアニリンの含量は250ppm未満であり、GDAは、ギ酸ナトリウムを2〜6%含み、単離したGDAの収率は、(NFGDAの使用量に対して)96〜98%である。
【0056】
選択肢2(中央)によると、有機相を、0℃の温度まで12時間冷却し、それによってGDAが結晶化させる。その後、分離結晶を、温度60℃および圧力20mbarで12時間乾燥させる。こうして得られたGDAの純度は94〜97%で、2−クロロアニリンの含量は50ppm未満であり、GDAは、ギ酸ナトリウムを2〜4%含み、単離したGDAの収率は、(NFGDAの使用量を対して)75〜80%である。
【0057】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0058】
実施例1〜33の加水分解の条件、GDAの単離方法、およびギ酸ナトリウムの単離方法は、以下の表1〜9において簡単に説明する。実施例3〜8、10、11、13、15および17〜33については、これによってのみ簡単に説明する。
【0059】
以下の略語を使用する。
「NFGDA」は、N−ホルミルグルー−ジアミン(Grewe−diamine)(化合物II、R=水素)を意味する、「ML」は、母液を意味する。「rpm」は、1分間当たりの回転数を意味する。「GC」は、ガスクロマトグラフィを意味する。「HPLC」は、高性能/高圧液体クロマトグラフィを意味する。「int.」は、内部を意味する。「ext.」は外部を意味する。「一晩」は12時間を意味する。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
【表6】

【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【0068】
【表9】

【0069】
実施例1、2、9、12、14および16を以下により詳細に説明する。
【0070】
実施例1:メタノールにおけるGDAの調製
Ar雰囲気下で、NFGDA9.36g(53.5ミリモル)をメタノール16.6gに懸濁した。この懸濁液を400rpmで撹拌し、340K(内部温度)まで加熱した。25.17重量%の水酸化ナトリウム溶液6.97ml(56.2ミリモル)を、30分以内(0.23ml/分)で添加した。この混合物を349Kで4時間撹拌した。この混合物を氷浴で0℃まで一晩冷却し、濾過した。その結晶を333K、20mbarで一晩乾燥させた。
【0071】
純度が、GDA62.25%(HPLC(内部標準)で分析)、2−クロロアニリン20ppm、ギ酸ナトリウム36.8%(HPLC(外部標準)で分析)、水0.7%(カールフィッシャー滴定で分析)、メタノール40ppm(ヘッドスペースGCで分析)で、淡く黄色みがかった結晶4.26gを得た。単離収率35.9%はNFGDAを基準にした。母液を減圧下(10mbar、323K)で蒸発させ、333K、20mbarで一晩乾燥させた。7.85gの黄色みがかった残留物は、GDA58.56%(HPLC(内部標準)で分析)、ギ酸ナトリウム27.0%、2−クロロアニリン80ppm(HPLC(外部標準)で分析)、水11.4%(カールフィッシャー滴定で分析)、メタノール1ppm(ヘッドスペースGCで分析)を含有していた。収率60.0%はNFGDAを基準にした。反応の化学収率は、NFGDAを基準にして95.9%であった。母液残留物内でギ酸ナトリウム56.3%を単離し、43.1%を、その単離したGDAの淡く黄色みがかった結晶内で検出した。
【0072】
実施例2:エタノールにおけるGDAの調製
Ar雰囲気下で、NFGDA18.72g(107ミリモル)をエタノール47.8gに懸濁した。この懸濁液を350rpmで撹拌し、353K(内部温度)まで加熱した。24.1重量%の水酸化ナトリウム溶液18.64g(112.3ミリモル)を、20分以内で添加した。この混合物を353Kで3時間40分間撹拌した。この反応中にギ酸ナトリウムが析出した。混合物を室温まで冷却し、濾過した。ギ酸ナトリウムの結晶を323K、20mbarで一晩乾燥させた。純度が、ギ酸ナトリウム94.04%(HPLC(外部標準)で分析)、GDA0.88%(HPLC(内部標準)で分析)で、白色の結晶4.86gを得た。NFGDAを基準にしてギ酸ナトリウム62.8%を単離した。アルコール溶液を減圧下(10mbar、313K)で蒸発させた。
【0073】
純度が、GDA68.28%(HPLC(内部標準)で分析)、ギ酸ナトリウム12.1%、2−クロロアニリン610ppm(HPLC(外部標準)で分析)、水13.5%(カールフィッシャー滴定で分析)、エタノール280ppm(ヘッドスペースGCで分析)で、黄色みがかった結晶19.03gを得た。単離収率87.9%はNFGDAを基準にした。反応の化学収率は、NFGDAを基準にして88.2%であった。ギ酸ナトリウム31.6%を、その単離したGDAの淡く黄色みがかった結晶内で検出した。
【0074】
実施例9:プロパン−2−オールにおけるGDAの調製
(有機(アルコ−ル)相の濃縮によるGDAの単離)
Ar雰囲気下で、NFGDA52.5g(300ミリモル)をプロパン−2−オール175gで懸濁した。この懸濁液を400rpmで撹拌し、355K(内部温度)まで加熱した。25.35重量%の水酸化ナトリウム溶液38.95ml(315ミリモル)を、30分以内(1.3ml/分)で添加した。この混合物を356Kで5時間撹拌した。液体−液体相分離を353Kで行った。ギ酸ナトリウムの結晶化を避けるために、蒸留水10mlを水相に添加した。この水相を、室温で、3×15mlのプロパン−2−オールで抽出した。ギ酸ナトリウム28.92%(HPLC(外部標準)で分析)を含有する水相60.81gを得た。GDAおよび2−クロロアニリンは検出されなかった(HPLC(内部/外部標準)で分析)。合わせた有機相を減圧下(10mbar、323K)で蒸発させ、333K、20mbarで一晩乾燥させた。2−クロロアニリン1430ppmを蒸留プロパン−2−オール内で検出した。
【0075】
純度が、GDA87.09%(HPLC(内部標準)で分析)、2−クロロアニリン390ppm、ギ酸ナトリウム4.5%(HPLC(外部標準)で分析)、水8.3%(カールフィッシャー滴定で分析)、メタノール420ppm(ヘッドスペースGCで分析)で、淡く黄色みがかった結晶45.84gを得た。単離収率96.3%はNFGDAを基準にした。水相でギ酸ナトリウム86.2%を単離し、10.1%を、その単離したGDAの淡く黄色みがかった結晶内で検出した。
【0076】
実施例12:プロパン−2−オールにおけるGDAの調製
(有機(アルコ−ル)相からの結晶化によるGDAの単離)
Ar雰囲気下で、NFGDA52.5g(300ミリモル)をプロパン−2−オール72.1gで懸濁した。この懸濁液を500rpmで撹拌し、356K(内部温度)まで加熱した。25.17重量%の水酸化ナトリウム溶液39.1ml(315ミリモル)を、30分以内(1.3ml/分)で添加した。この混合物を357Kで3.5時間撹拌した。液体−液体相分離を343Kで行った。ギ酸ナトリウムの結晶化を避けるために、蒸留水10mlを水相に添加した。この水相を、室温で、3×15mlのプロパン−2−オールで抽出した。ギ酸ナトリウム33.24%と、微量の2−クロロアニリン(HPLC(外部標準)で分析)と、GDA0.1%未満(HPLC(内部標準)で分析)とを含有する水相53.97gを得た。合わせた有機相を氷浴で0℃まで一晩冷却し、濾過した。結晶を333K、20mbarで一晩乾燥させた。
【0077】
純度が、GDA95.60%(HPLC(内部標準)で分析)、2−クロロアニリン130ppm、ギ酸ナトリウム4.4%(HPLC(外部標準)で分析)、水1.0%(カールフィッシャー滴定で分析)、微量のプロパン−2−オール(ヘッドスペースGCで分析)で、白色の結晶33.20gを得た。単離収率76.60%はNFGDAを基準にした。母液を減圧下(10mbar、323K)で蒸発させ、333K、20mbarで一晩乾燥させた。
【0078】
黄色みがかった残留物8.75gは、GDA79.60%(HPLC(内部標準)で分析)、ギ酸ナトリウム6.1%、2−クロロアニリン1250ppm(HPLC(外部標準)で分析)、水8.1%(カールフィッシャー滴定で分析)、プロパン−2−オール110ppm(ヘッドスペースGCで分析)を含有していた。収率16.8%はNFGDAを基準にした。反応の化学収率は、NFGDAを基準にして93.4%であった。水相でギ酸ナトリウム87.8%を単離し、7.2%を、その単離したGDAの白色の結晶内で検出した。
【0079】
実施例14:ブタン−1−オールにおけるGDAの調製
(有機(アルコ−ル)相からの結晶化によるGDAの単離)
Ar雰囲気下で、NFGDA35.0g(200ミリモル)をブタン−1−オール149gで懸濁した。この懸濁液を400rpmで撹拌し、373K(内部温度)まで加熱した。25.17重量%の水酸化ナトリウム溶液26.1ml(210ミリモル)を、30分以内(0.87ml/分)で添加した。この混合物を353Kで1時間撹拌した。液体−液体相分離を297Kで行った。ギ酸ナトリウムの結晶化を避けるために、蒸留水10mlを水相に添加した。この水相を、室温で、3×10mlのブタン−1−オールで抽出した。ギ酸ナトリウム24.6%とGDA0.3%(HPLC(内部標準)で分析)を含有する水相47.8gを得た。合わせた有機相を氷浴で0℃まで一晩冷却し、濾過した。結晶を333K、20mbarで一晩乾燥させた。
【0080】
純度が、GDA94.50%(HPLC(内部標準)で分析)、2−クロロアニリン95ppm、ギ酸ナトリウム3.9%(HPLC(外部標準)で分析)、水1.0%(カールフィッシャー滴定で分析)、ブタン−1−オール400ppm(ヘッドスペースGCで分析)で、白色の結晶24.2gを得た。単離収率82.7%はNFGDAを基準にした。母液を減圧下(15mbar、333K)で蒸発させ、333K、20mbarで一晩乾燥させた。
【0081】
黄色みがかった残留物3.1gは、GDA91.60%(HPLC(内部標準)で分析)、ギ酸ナトリウム0.8%、2−クロロアニリン650ppm(HPLC(外部標準)で分析)、水5.1%(カールフィッシャー滴定で分析)、ブタン−1−オール500ppm(ヘッドスペースGCで分析)を含有していた。収率10.2%はNFGDAを基準にした。反応の化学収率は、NFGDAを基準にして92.9%であった。水相からギ酸ナトリウム86.2%を単離し、6.9%を、その単離したGDAの白色の結晶内で検出した。
【0082】
実施例16:ブタン−1−オールにおけるGDAの調製
(有機(アルコ−ル)相の濃縮によるGDAの単離)
アルゴンの雰囲気下で、NFGDA186.9g(1000ミリモル)にブタン−1−オール810gを添加した。この懸濁液を400rpmで撹拌し、373K(内部温度)まで加熱した。25.35重量%の水酸化ナトリウム溶液129.8ml(1050ミリモル)を、30分以内(4.33ml/分)で添加した。この反応溶液を373Kで3.5時間攪拌した。反応終了時、内部温度を313Kまで冷却した。液体−液体相分離を313Kで行った。ギ酸ナトリウムの結晶化を避けるために、蒸留水50mlを水相に添加した。この水相を、室温で、3×50mlのブタン−1−オールで抽出した。ギ酸ナトリウム33.1%(HPLC(外部標準)で分析)とGDA0.1%未満(HPLC(内部標準)で分析)とを含有する水相186.6gを得た。2−クロロアニリンは、検出されなかった(HPLC(外部標準)で分析)。合わせた有機相を減圧下(20mbar、333K)で蒸発させ、333K、20mbarで一晩乾燥させた。2−クロロアニリン565ppmを蒸留ブタン−1−オール内で検出した。
【0083】
純度が、GDA95.20%(HPLC(内部標準)で分析)、2−クロロアニリン200ppm、ギ酸ナトリウム3.6%(HPLC(外部標準)で分析)、水0.9%(カールフィッシャー滴定で分析)、ブタン−1−オール650ppm(ヘッドスペースGCで分析)で、淡く黄色みがかった結晶139.70gを得た。単離収率96.2%はNFGDAを基準にした。水相からギ酸ナトリウム90.9%を単離し、7.4%を、その単離したGDAの淡く黄色みがかった結晶内で検出した。
【0084】
実施例1〜33の収率および純度に関する結果を以下の表10にまとめる。
【0085】
【表10】

【0086】
【表11】

【0087】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】単離方法の概略。
【図2】C−アルコールにおけるNFGDA(=N−ホルミルグルー−ジアミン(Grewe−diamine)加水分解および廃棄物分離。
【図3】C−アルコールにおけるNFGDA(=N−ホルミルグルー−ジアミン(Grewe−diamine)加水分解および廃棄物分離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式II
【化1】


(式中、Rは、水素または直鎖もしくは分枝鎖C1〜4アルキルである)
の化合物を水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属水溶液で加水分解する工程を含む、グルー−ジアミンの製造方法であって、
前記加水分解は、有機溶媒の存在下で行われることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記有機溶媒の誘電率が7〜35の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、脂肪族アルコ−ル、エーテルまたはそれらの任意の混合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が反応条件下では本質的に水に溶解しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記脂肪族アルコ−ルが、脂肪族C1〜4−アルコールまたはそれらの任意の混合物であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記脂肪族アルコ−ルが、好ましくは、プロパン−1−オール、プロパン−2−オール、ブタン−1−オール、ブタン−2−オール、および2−メチル−プロパン−2−オールからなる群から選択される、より好ましくは、プロパン−2−オール、ブタン−1−オール、およびブタン−2−オールからなる群から選択される、脂肪族C3〜4−アルコールであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記エーテルが、グルー−ジアミンが溶解するエ−テルであることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項8】
前記エーテルが、テトラヒドロフランまたは1,2−ジメトキシエタンであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
Rが水素またはメチル、好ましくは、水素である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記加水分解が20〜110℃の範囲の温度で行われることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
式III
【化2】


(式中、Rは、C1〜4−アルカノイル、好ましくは、アセチルである)
の化合物の製造方法であって、
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって得られるグルー−ジアミンは、二硫化炭素と、好ましくは、3−クロロ−5−ヒドロキシペンタン−2−オン、3−クロロ−5−アセトキシペンタン−2−オン、3−メルカプト−5−ヒドロキシペンタン−2−オン、3−メルカプト−5−アセトキシペンタン−2−オン、およびそれらの任意の混合物からなる群から選択されるクロロケトン誘導体と反応されることを特徴とする方法。
【請求項12】
式IV
【化3】


の化合物の製造方法であって、
請求項11に記載の方法において得られた式IIIの化合物を酸とさらに反応させることを特徴とする方法。
【請求項13】
ビタミンBの製造方法であって、式II
【化4】


(式中、Rは水素または直鎖もしくは分枝鎖C1〜4アルキルである)
の化合物は、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によるグルー−ジアミンに加水分解され、得られた前記グルー−ジアミンをさらに反応させて、好ましくは、請求項12に記載のように、式IV
【化5】


の化合物にし、こうして得られた前記式IVの化合物を、好ましくは、Hでさらに酸化させることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって得られたグルー−ジアミンの、ビタミンBの調製方法における中間生成物としての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−528529(P2008−528529A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−552562(P2007−552562)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【国際出願番号】PCT/EP2006/000600
【国際公開番号】WO2006/079504
【国際公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】