説明

ビタミンB2関連物質を含有する呈味改善剤、及びそれを用いる食品の呈味改善方法

【課題】呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与することによる食品の呈味の改善方法、並びに有効量のリボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上、及び食品として許容可能な添加物を含有する呈味改善剤を提供する。
【解決手段】リボフラビン及びその類縁体から選択される群が、ビタミンB2、フラビンモノヌクレオチド及びフラビンモノヌクレオチドナトリウムからなり、さらに酵母エキスを含む。
【効果】酵母エキスを用いた態様では、合成添加物を用いることなく、旨味の増強、厚味の付与が可能である。合成添加物を用いることによる種々の問題を考慮する必要がなく、天然志向にも合致するものとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は調味料組成物に関する。より詳細には、呈味性核酸関連物質に対して旨味を付与し、厚味を増強するための、ビタミンB2関連物質の使用に関する。ビタミンB2関連物質は、酵母エキス由来であってもよい。本発明は、食品分野で有用である。
【従来技術】
【0002】
味は、食品の最も重要な特性の一つであり、主として甘味、塩味、酸味、苦味、及び旨味の五原味で構成されると考えられている。実際の食品においては、各種の呈味物質が混在し、相乗効果、マスキング効果、抑制効果、対比効果等の相互作用により、総合的な味が奏される。食品の味の向上に関しては、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1は、ビタミンC脂肪酸エステルを有効成分として含有する風味向上剤を開示する。この風味向上剤自体には、味、匂いがほとんどなく、そのため添加した場合に食品本来の風味に悪い影響を及ぼさないとされている。また、特許文献2は、ワニリルアルコール誘導体を含有する呈味増強剤を開示する。飲食品が本来有する味覚バランスや呈味、風味、香味を損なうことなく、こく味を付与・増強することを目的になされたものである。
【0004】
食品のおいしさの訴求にあたっては、旨味に主眼をおき、旨味の増強について検討がなされることが多い。代表的な旨味の成分は、グルタミン酸ナトリウム(MSG)のようなアミノ酸系物質、並びにイノシン酸及びグアニル酸に代表される呈味性核酸関連物質である。MSGは、それ自身も旨味を有するが、呈味性核酸関連物質のもつ旨味を増強することも知られている。同様に呈味性核酸関連物質のもつ旨味を増強するものとして、特許文献3は、グルコン酸の非毒性塩を有効成分とする旨味増強剤を開示する。また、呈味性核酸関連物質に限らず、旨味を増強し、かつコク味を付与するものとして、特許文献4は、3-ガロイルキナ酸又はその塩、没食子酸又はその塩、若しくはこれらを含有する茶などの天然抽出物画分などを飲食物に添加することを開示し、これにより、旨味、コク味に加えて、さらには甘味、塩味、苦味、酸味など呈味が、よりまろやかで深みのある好ましいものに改善されるとしている。
【0005】
一方、ビタミンB2(リボフラビン)は、動物性食品としては牛乳、肉、卵類、また植物では緑色野菜に広く分布する物質として知られている。リボフラビンの5'位の -CH2OHが-CH2O-P(O)(OH)2に置換された構造を有するフラビンモノヌクレオチド(FMN)は補酵素として、酸化還元反応の中心的役割を担う物質である。このようなビタミンB2関連物質は、種々の食品組成物中に栄養成分として混合されてきた(例えば、特許文献5)。また、ビタミンB2関連物質自体は苦味を有することが知られており、従来より、その苦味を何らかの方法によってマスキングすることが検討されてきた。例えば、特許文献6は、風味の改善されたビタミンB含有経口液剤を開示する。ビタミンB以外に、糖、5’-リボヌクレオチド及びフルーツフレーバーを含有させることにより、ビタミンBの持つ苦味のマスキングを達成しようとするものである。
【0006】
他方、酵母エキスが旨味、厚味を付与する調味料の一つであることはよく知られている。
酵母エキスに含有される旨味に寄与する物質としては、呈味性核酸関連物質、アミノ酸、有機酸、及びペプチド等である。特許文献7は、5’-イノシン酸、5’-グアニル酸を高含有し、かつペプチド、遊離アミノ酸を高含有する酵母エキスにより、食品の旨味を増強し、かつコク味を付与することができることを開示する。
【特許文献1】特開2004-159507号公報(特許第4045173号)
【特許文献2】国際公開WO 2005/004635公報
【特許文献3】国際公開WO 01/60178公報
【特許文献4】特開2006-238815号公報
【特許文献5】特開平4-247024号公報
【特許文献6】特開2002-34504号公報
【特許文献7】特開平4-288178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MSGは、呈味性核酸関連物質に対してのみ旨味を増強することができ、また増強できるのは旨味に限られる。グルコン酸塩は、それ自体はわずかな塩味を呈する程度で旨味を呈さない一方で、混在する旨味物質の旨味を増強することができる点はユニークであり、食品の味の設計手段の一つとして期待できるものではあるが、MSGと同様、増強できるのは旨味に限られる。また、人は呈味のバランスのよい食品をおいしく感じるものであり、あらゆる呈味を増強することが食味バランスの点において好ましいとはいえない。特定の呈味を選択的に増強するような技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、酵母エキスに含まれるビタミンB2、FMN及びFMNNaが、酵母エキスの呈味に寄与していることを見いだした。また、さらに詳細に検討を進めた結果、これらの成分が核酸単独の旨味を増強し、かつ厚味の強い呈味を付与するこを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、以下のものを提供する。
1)呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与することによる、食品の呈味の改善方法。
2(有効量のリボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上、並びに食品として許容可能な添加物を含有する、呈味改善剤。
3)リボフラビン及びその類縁体からなる群が、ビタミンB2(VB2)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)及びフラビンモノヌクレオチドナトリウム(FMNNa)からなる、2)記載の剤。
4)酵母エキスを含む、2)又は3)に記載の剤。
5)呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与することにより、食品の呈味を改善するための、酵母エキス。
6)リボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上、並びに食品として許容可能な添加物を含有する、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与するための剤。
7)リボフラビン及びその類縁体からなる群が、VB2、FMN及びFMNNaからなる、5)記載の剤。
8)酵母エキスを含む、5)又は6)に記載の剤。
9)リボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上を含有する、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与するための、酵母エキス。
10)呈味性核酸関連物質からなる群から選択される一以上、並びにリボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上を含有する、食品の呈味を改善するための調味料組成物。
11)呈味性核酸関連物質からなる群が、5’-イノシン酸、5'-グアニル酸及びそれらのナトリウム塩からなり、かつリボフラビン及びその類縁体からなる群が、VB2、FMN及びFMNNaからなる、8)記載の組成物。
12)呈味性核酸関連物質からなる群が、5’-イノシン酸、5'-グアニル酸及びそれらのナトリウム塩からなり、かつリボフラビン及びその類縁体からなる群が、VB2、FMN及びFMNNaからなる、8)の組成物。
13)呈味性核酸関連物質100重量部に対して、リボフラビン及びその類縁体を0.005〜0.5重量部含む、8)又は9)記載の組成物。
14)リボフラビン又はその類縁体を添加することを含む、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与する方法。
15)呈味性核酸関連物質からなる群から選択される一以上、並びにリボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上を含有し、呈味性核酸関連物質の100重量部に対して、リボフラビン及びその類縁体を0.005〜0.5重量部含む、飲食品。
【0010】
本明細書で「リボフラビン及びその類縁体」というときは、特別な場合を除き、ジメチルイソアロキサジンの10位に置換基をもつ一群の誘導体(フラビン)をいう。これには、下記の構造のリボフラビン(ビタミンB2、ラクトフラビン、ビタミンGということもある。)
【0011】
【化1】

【0012】
及び、リボフラビンの5'位の -CH2OH が -CH2O-P(O)(OH)2に置換された構造を有するフラビンモノヌクレオチド(リボフラビン5'-リン酸、リボフラビン5'-(リン酸二水素)ということもある。)、フラビン-アデニンジヌクレオチド(リボフラビン(5')ジホスホ(5')アデノシン、ガラクトフラビン、D-アラボフラビン、リキソフラビン、ルミフラビン、ルミクロム、アロキサジン、イソアロキサジン、並びにそれらの食品として許容される塩を含む。
【0013】
本明細書で「食品として許容される塩」というときは、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩のいずれかをいう。
本発明の剤は、有効成分として、リボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上を含有するが、本発明の有効成分として好ましい例は、ビタミンB2(VB2)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)及びフラビンモノヌクレオチドナトリウム(FMNNa)である。特に好ましいのは、VB2である。
【0014】
本明細書で「呈味性核酸関連物質」というときは、特別な場合を除き、当業者には「呈味性ヌクレオチド」、「ヌクレオチド呈味物質」等としてよく知られた、旨味を呈する核酸関連物質をいい、これには少なくともイノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸、及びそれらの食品として許容される塩が含まれる。
【0015】
本発明の剤は、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与するものであるが、特に、5’−イノシン酸、5'−グアニル酸及びそれらのナトリウム塩の、より特定すれば、5’−イノシン酸、5'−グアニル酸の、旨味・厚味に寄与するものである。
【0016】
本明細書で「旨味」というときは、特別な場合を除き、当業者にはよく知られた五原味の一つであり、主として、アミノ酸(特に、グルタミン酸)、核酸関連物質(特に、イノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸)、有機酸(特に、コハク酸)によって呈される。
【0017】
ある試料に対して旨味が増強されたか否かの評価は、当業者であれば適宜行うことができるが、例えば、次のように実施することができる:パネラー5人以上に、対照(例えば、5’−イノシン酸及び5'−グアニル酸を各0.1%ずつ含む溶液)と、対照に適当な濃度で試料を添加した検体とを比較させ、1.非常に弱い、2.弱い、3.強くも弱くもない、4.強い、5.非常に強いの5段階で評点させる。そして検体についてのパネラーの平均スコアが対照のそれを上回った場合、例えば0.8以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.8以上、最も好ましくは2.0以上上回った場合に、旨味が増強されていると判断する。
【0018】
本明細書で「厚味」というときは、特別な場合を除き、味質を問わず、呈味強度と時間とに着目した概念である。味は、試飲開始後、最大の呈味強度を、直ちに感じる「先味(さきあじ)」、やや遅れて感じる「中味(なかあじ)」、遅れて感じる「後味(あとあじ)」とに分類することができる。酸味を例にすれば、クエン酸は先味として、酢酸は中味として、乳酸は後味として捕らえることができる。厚味は、中味、又は中味と後味とにより構成されるものと定義される。厚味は、食品の味のバランスに寄与する。例えば、グルタミン酸ナトリウム(MSG)や核酸系調味料によって調味されたような、先味又は後味が強い食品は、厚味が付与されることによりバランスが向上し、より好ましい味を呈するようになる。
【0019】
ある試料に対して厚味が付与されたか否かの評価は、当業者であれば適宜行うことができるが、例えば、次のように実施することができる:パネラー5人以上に、対照(例えば、5’-イノシン酸及び5'-グアニル酸を各0.1%ずつ含む溶液)と、対照に適当な濃度で試料を添加した検体とを比較させ、1.非常に弱い、2.弱い、3.強くも弱くもない、4.強い、5.非常に強いの5段階で評点させる。そして検体についてのパネラーの平均スコアが対照のそれを上回った場合、例えば1.8以上、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.5以上、最も好ましくは2.7以上上回った場合に、厚味が付与されていると判断する。
【0020】
本発明においては、厚味を付与する際、食品の元来の呈味を崩さないことが好ましい。より特定すれば、食品が元来有する、旨味以外の味(例えば、甘味、塩味、酸味、苦味)には影響を与えずに、厚味を付与することが好ましい。
【0021】
本明細書で「剤」というとき、及び「組成物」というときは、特別な場合を除き、有効成分であるリボフラビン及びその類縁体(本明細書では、単に「リボフラビン等」ということもある。)、及びそれ以外の他の成分を含むものをいう。なお、本明細書では、本発明の剤又は組成物のうち、剤を例に説明することがあるが、特別な場合を除き、その説明は本発明の組成物にもあてはまる。
【0022】
本発明の剤は、有効量のリボフラビン等を含む。本明細書でリボフラビン等に関し「有効量」というときは、特別な場合を除き、旨味を増強し、かつ厚味を付与するために有効な量をいう。リボフラビン等の有効量は、呈味性核酸関連物質100重量部に対して、好ましくは0.005〜0.5重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。なお、「呈味性核酸関連物質100重量部に対して、リボフラビン等をx重量部というときは、重量100 gの呈味性核酸関連物質に対し、重量x gのリボフラビン等を用いることを指す。
【0023】
本発明の剤は、リボフラビン等以外の他の成分として、食品として許容される種々の添加物、例えば、乳化剤、安定剤、甘味料、着色料、保存料、酸化防止剤、香料、酸味料、調味料、防かび剤(防ばい剤)、ビタミン(例えば、ビタミンC、ビタミンB群、ビタミンE、葉酸)、ミネラル(例えば、カルシウム、銅、コバルト、マンガン)を含んでもよい。
【0024】
本発明の組成物は、呈味性核酸関連物質からなる群から選択される一以上(本明細書では、単に「呈味性核酸関連物質」ということもある。)、並びにリボフラビン等を含有する。本発明の組成物に含まれる呈味性核酸関連物質及びリボフラビン等の量比は、リボフラビン等が呈味性格酸物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与することができる限り、特に制限されないが、呈味性核酸関連物質100重量部に対して、リボフラビン等を、好ましくは0.005〜0.5重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部含む。
【0025】
本発明の組成物は、調味料組成物とすることができる。
本発明の剤の有効成分であるリボフラビン等は、酵母由来のものであってもよい。すなわち、本発明の剤は、酵母エキスを含んでもよい。
【0026】
本明細書で「酵母エキス」というときは、特別な場合を除き、酵母菌体が含有するアミノ酸、核酸、有機酸等の呈味物質を抽出したものをいう。酵母エキスは、天然調味料の一つである。本発明には、食用に適した種々の酵母から得られる酵母エキスを用いることができる。酵母の好ましい例は、サッカロマイセス属に属する酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ、サッカロマイセス・ロゼイ、サッカロミセス・ウバルム、サッカロミセス・シバリエリに属する酵母)、又はキャンディダ属に属する酵母(例えば、キャンディダ・ウチリスに属する酵母)である。本発明には、市販の酵母エキスを用いてもよい。
【0027】
本発明の剤は、液状、ペースト状、粉末状、顆粒状とすることができる。
本発明の剤は、種々の食品に添加することができる。食品への使用量は、当業者であれば適宜決定することができる。例えば、喫食時に食品重量あたり、0.01〜1%となるように添加することができる。
【0028】
本発明の剤又は酵母エキスは、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与するために用いることができる。また、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与することから、食品の呈味を改善するために用いることができる。
【0029】
本発明の剤又は酵母エキスは、これまで酵母エキスが添加されなかった食品に対しても、旨味を増強し、かつ厚味を付与することが好ましい食品である限り、用いることができる。素材そのものの風味が重要視される食品に対しては、これまで酵母エキスの使用は難しいと考えられてきた。このような例としては、鰹節、及び/又は昆布から得られる素だし、醤油、酢のような基礎調味料、並びに野菜ペーストのような加工度がかなり低い食品が挙げられる。本発明により、このような食品に対しても本発明の剤又は酵母エキスは効果的に使用することができる。
【0030】
また、本発明の剤又は酵母エキスは、これまで酵母エキスが添加されてきた食品であっても、旨味を増強し、かつ厚味を付与することが特に好ましい食品に対して、より好適に用いることができる。さらに、本発明の剤は、これまで酵母エキスが添加されてきた食品であっても、食品の元来の呈味を崩さないことが好ましいような食品、より特定すれば、食品が元来有する、旨味以外の味(例えば、甘味、塩味、酸味、苦味)には影響を与えずに、旨味を増強し、かつ厚味を付与することが好ましいような食品に対して、さらに好適に用いることができる。
【0031】
旨味を増強し、かつ厚味を付与する目的では、本発明の剤又は酵母エキスの使用量は、対象とする食品に予め含まれる呈味性核酸関連物質の量、及び剤又は酵母エキスに含まれる呈味性核酸関連物質の量を考慮するとよい。詳細には、対象とする食品において最終的に、呈味性核酸関連物質100重量部に対して、リボフラビン等が、好ましくは0.005〜0.5重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部含まれることとなるように、当該食品へ本発明の剤、組成物、及び酵母エキスを使用するとよい。 本明細書で「食品」又は「飲食品」というときは、特別な場合を除き、ヒトを対象とした、食物全般をいい、飲料の形態であるもの、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品、ドリンク剤、サプリメント、治療食(濃厚流動食、嚥下障害用食品、その他の治療食)、アスリート向け製品(飲料、粉末プロテイン)、栄養調理食品(ブロック状食品、飲料、ゼリー飲料、粉末、シリアル)が含まれる。
【0032】
本発明の剤は、肉・魚・野菜料理に利用でき、具体的な食品の例としては、コンソメスープ、ポタージュスープ、ミネストローネ、ホワイトソース、ミートソース、デミグラスソース、トマトソース、カレー、シチュー、ソース類(ウスターソース、中濃ソース、濃厚ソース、とんかつソース、お好み焼きソース、焼きそばソース、たこ焼きソース等)、めんつゆ(ラーメンつゆ、そばつゆ、うどんつゆ等)、鍋つゆ(おでんつゆ等)、味噌汁、八宝菜、中華丼、炒飯、餃子、焼売、包子、スナック菓子、ドレッシング、ふりかけ、たれ(焼肉のたれ)、佃煮等を挙げることができる。
【0033】
本発明の剤はまた、冷凍食品、レトルト食品、インスタント食品に使用することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、呈味性核酸関連物質に対して、旨味を増強することができる。食品においては、核酸関連物質の量はそのままで、旨味を増すことができる。
また、本発明により、呈味性核酸関連物質に対して、厚味を付与することもできる。
【0035】
本発明は、微量のリボフラビン等により達成できる。
酵母エキスを用いた態様では、合成添加物を用いることなく、旨味の増強、厚味の付与が可能である。合成添加物を用いることによる種々の問題を考慮する必要がなく、天然志向にも合致するものとなる。
【実施例1】
【0036】
5’-イノシン酸ナトリウム及び5'-グアニル酸ナトリウム(IG)の0.1%溶液(5’-イノシン酸ナトリウム(I)0.05%、5'-グアニル酸ナトリウム(G)0.05%の溶液)に対して、以下1〜4の物質をそれぞれ段階的に添加した。
1:VB2
2:FMN
3:FMNNa
4:VB2+FMNNa
旨味、厚味は、以下の5段階で評価した。5名のパネラーを用いた。
【0037】
旨味:
1.非常に弱い。
2.弱い。
3.強くも弱くもない。
4.強い。
5.非常に強い。
【0038】
厚味:
1.非常に弱い。
2.弱い。
3.強くも弱くもない。
4.強い。
5.非常に強い。
【0039】
添加量は、IG 100重量部に対して、0.001〜1重量部となるように添加した。また、混合物を添加する場合には、均等量ずつを用いた。
結果、4種類の物質の添加により、いずれにおいても旨味、厚味の増強が確認された。また、添加量が一定量を超えると、ビタミンB2由来と考えられる苦味が目立つことが確認され、呈味に影響することが確認された。したがって、増強効果を得るために適する量比関係の存在が示唆された。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【実施例2】
【0042】
IG、VB2及びFMNNaを含有する酵母エキス(VertexIG 20、ジェイティフーズ株式会社販売。村松伸康、倉持高志; 月刊フードケミカル, 2006-10; 34-37 (2006))を用いて、当該酵母エキスの持つ強い旨味、厚味への寄与を検証した。
【0043】
酵母エキスの分析:
逆相カラムを用いて当該酵母エキスを分画し、質量分析により各成分を同定した。
分画は、次のように行った。酵母エキスの分画及びピーク分取に際してHPLC((株)島津製作所)を使用した。検出は260 nmもしくは400 nmの吸光度を測定することによって行った。カラムは、逆相カラム『Develosil RPAQUEOUS-AR-5』 4.6×250 mm(野村化学(株))を用いた。また、溶離液(A)は蒸留水(TFA 0.05%)、溶離液(B)はアセトニトリル(TFA 0.05%)、流速は0.5 ml / min及びカラム温度は40℃とそれぞれ設定の上、下表に示したグラジエント溶出条件によって実施した。
【0044】
【表3】

【0045】
質量分析は、次のように行った。LC部はHPLC(Agilent社)、MS部は『3200Q TRAP』(Applied Biosystems社)からなるLC / MS / MSを使用した。カラムは、逆相カラム『Develosil RPAQUEOUS-AR-3』 2.0×150 mm(野村化学(株))を用いた。また、溶離液(A)は蒸留水(ギ酸 0.1%)、溶離液(B)はアセトニトリル、流速は0.2 ml / min及びカラム温度は40℃とそれぞれ設定の上、10分間の直線グラジエント溶出条件A/B(100/0)→A/B(40/60) によって実施した。またイオン化法はエレクトロスプレーイオン化(ESI)法、ポラリティーは核酸関連物質の場合は主にネガティブモード、またビタミンB2関連物質の場合はポジティブモードを用いた。そのほかの設定条件は下表の通りとした上で、EMSモードによりMSスペクトルを、またEPIモードによりMS / MSスペクトルを得た。
【0046】
【表4】

【0047】
HPLCによる高核酸含有酵母エキスのクロマトグラムを図1に示した。44分、90分及び164分の溶出時間によって分画した結果、3つの画分が得られた。それぞれを溶出順に画分F、R1、及びR2と命名した。
【0048】
分画前酵母エキスの旨味や中〜後味に寄与することが、確認された画分R2について、主だったピークを分取した上、そこに含有される成分の同定及び定量を行った。図2は図1の拡大図であり、分取したピーク1〜3を示した。また、ピーク1〜3のMS / MSスペクトルを図3〜5に示した。図3において、439.3に確認された分子量関連イオンを基にMS / MS測定によるフラグメンテーションの開裂パターンを解析した結果、ピーク1はフラビンモノヌクレオチドの脱水物と推察された。また図4において、457.3に確認された分子量関連イオンについて同様に開裂パターンを解析した結果、フラビンモノヌクレオチドと推察された。ただし、HPLCのリテンションタイムの整合性を確認した結果、最終的にピーク2は、推察されたフラビンモノヌクレオチドのナトリウム塩であることが明らかになった。また図5において、377.3に確認された分子量関連イオンについて同様に開裂パターンを解析した結果、ピーク3はビタミンB2と推察された。
【0049】
定量の結果、分画前酵母エキスの製品に占める各成分の重量割合を下表に示した。
【0050】
【表5】

【0051】
呈味の検証:
VB2及びFMNNaの有無による酵母エキスの呈味を検証した。旨味、厚味は、以下の5段階で評価した。5名のパネラーを用いた。
【0052】
旨味:
1.非常に弱い。
2.弱い。
3.強くも弱くもない。
4.強い。
5.非常に強い。
【0053】
厚味:
1.非常に弱い。
2.弱い。
3.強くも弱くもない。
4.強い。
5.非常に強い。
【0054】
用いた酵母エキスは粉末もしくは顆粒状の調味料であり、IGをおよそ20%含有している。加えて、IG 100重量部に対し、VB2は0.015重量部、FMNNaは0.17重量部に相当する量を含有している。呈味の評価はもとの酵母エキス成分が0.5重量部に相当する量を用いた。
【0055】
その結果、VB2及びFMNNaを含む画分を除いたものに対し、相当量のVB2及びFMNNaを添加した溶液は分画前の酵母エキスと同等の旨味、厚味を示した。このことより、VB2及びFMNNaは酵母エキスの旨味、厚味に寄与、増強していることが確認された。
【0056】
【表6】

【実施例3】
【0057】
コンソメスープに対して、IGもしくはIG+VB2+FMNNaを添加した溶液を比較試飲し、その添加効果を確認した。旨味、厚味は、以下の5段階で評価した。5名のパネラーを用いた。
【0058】
旨味:
1.非常に弱い。
2.弱い。
3.強くも弱くもない。
4.強い。
5.非常に強い。
【0059】
厚味:
1.非常に弱い。
2.弱い。
3.強くも弱くもない。
4.強い。
5.非常に強い。
【0060】
コンソメスープは表に示した配合であるコンソメミックスを用意して、2重量部となるようにお湯に溶解させた。IGは、きっ食時に0.1%となるように添加した。また、VB2及びFMNNaは、IG100重量部に対して0.1となるように添加した。
【0061】
【表7】

【0062】
その結果、IG+VB2+FMNNaを添加した溶液の方が、旨味、厚味のいずれにおいても増強され、コンソメスープとして好ましさが増していた。
【0063】
【表8】

【実施例4】
【0064】
実施例2において調製した、
(1):VertexIG20よりVB2及びFMNNaを含む画分を除いた溶液、(2):(1)に対し相当量のVB2及びFMNNaを添加した溶液、及び(3):分画前酵母エキス(VertexIG 20)を用いて、コンソメスープへの添加効果を検証した。旨味、厚味は、以下の5段階で評価した。5名のパネラーを用いた。
【0065】
旨味:
1.非常に弱い。
2.弱い。
3.強くも弱くもない。
4.強い。
5.非常に強い。
【0066】
厚味:
1.非常に弱い。
2.弱い。
3.強くも弱くもない。
4.強い。
5.非常に強い。
【0067】
添加量は、IGがきっ食時に0.1%となるように調整した。
その結果、VB2及びFMNNaを含む画分を除いたものに対し、相当量のVB2及びFMNNaを添加した溶液は分画前の酵母エキスと同等の旨味、厚味を示した。
酵母エキスを由来とするVB2及びFMNNaが、旨味及び厚味の増強効果を有することが、実際の食品においても確認された。
【0068】
【表9】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、高核酸含有酵母エキスの逆相HPLCによるクロマトグラムである。画分F、R1及びR2を以下条件により得た。溶離液(A): 水(TFA0.05%)、溶離液(B): アセトニトリル(TFA0.05%)、流速: 0.5 ml / min、カラム温度: 40℃、検出吸光度及び試料: Abs(260 nm) 1%製品 10μl、 Abs(400 nm) 10%製品 500μl、溶出条件は実施例2中に示した。
【図2】図2は、高核酸含有酵母エキスの逆相HPLCによるクロマトグラムである。ピーク1, 2及び3を以下条件により得た。溶離液(A): 水(TFA0.05%)、溶離液(B): アセトニトリル(TFA0.05%)、流速: 0.5 ml / min、カラム温度: 40℃、検出吸光度及び試料: Abs(400 nm) 10%製品 500μl、溶出条件は実施例2中に示した。
【図3】図3は、ピーク1のMS / MSスペクトルである。衝突エネルギー: 40 eV 439.3に確認された分子量関連イオン[M+H]+を基にフラグメンテーションの開裂パターンを解析した結果、ピーク1はフラビンモノヌクレオチドの脱水物と推察された。
【図4】図4は、ピーク2のMS / MSスペクトルである。衝突エネルギー: 40 eV 457.3に確認された分子量関連イオン[M+H]+を基にフラグメンテーションの開裂パターンを解析した結果、ピーク2はフラビンモノヌクレオチドと推察された。またその後のHPLCによる確認において、フラビンモノヌクレオチドのナトリウム塩であることが判明した。
【図5】図5は、ピーク3のMS / MSスペクトルである。衝突エネルギー: 40 eV 377.3に確認された分子量関連イオン[M+H]+を基にフラグメンテーションの開裂パターンを解析した結果、ピーク3はビタミンB2と推察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与することによる、食品の呈味の改善方法。
【請求項2】
有効量のリボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上、並びに食品として許容可能な添加物を含有する、呈味改善剤。
【請求項3】
リボフラビン及びその類縁体からなる群が、ビタミンB2(VB2)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)及びフラビンモノヌクレオチドナトリウム(FMNNa)からなる、請求項2記載の剤。
【請求項4】
酵母エキスを含む、請求項2又は3に記載の剤。
【請求項5】
呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与することにより、食品の呈味を改善するための、酵母エキス。
【請求項6】
リボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上、並びに食品として許容可能な添加物を含有する、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与するための剤。
【請求項7】
リボフラビン及びその類縁体からなる群が、VB2、FMN及びFMNNaからなる、請求項5記載の剤。
【請求項8】
酵母エキスを含む、請求項5又は6に記載の剤。
【請求項9】
リボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上を含有する、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与するための、酵母エキス。
【請求項10】
呈味性核酸関連物質からなる群から選択される一以上、並びにリボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上を含有する、食品の呈味を改善するための調味料組成物。
【請求項11】
呈味性核酸関連物質からなる群が、5’-イノシン酸、5'-グアニル酸及びそれらのナトリウム塩からなり、かつリボフラビン及びその類縁体からなる群が、VB2、FMN及びFMNNaからなる、請求項8記載の組成物。
【請求項12】
呈味性核酸関連物質からなる群が、5’-イノシン酸、5'-グアニル酸及びそれらのナトリウム塩からなり、かつリボフラビン及びその類縁体からなる群が、VB2、FMN及びFMNNaからなる、請求項8記載の組成物。
【請求項13】
呈味性核酸関連物質100重量部に対して、リボフラビン及びその類縁体を0.005〜0.5重量部含む、請求項8又は9記載の組成物。
【請求項14】
リボフラビン又はその類縁体を添加することを含む、呈味性核酸関連物質に対して旨味を増強し、かつ厚味を付与する方法。
【請求項15】
呈味性核酸関連物質からなる群から選択される一以上、並びにリボフラビン及びその類縁体からなる群から選択される一以上を含有し、呈味性核酸関連物質の100重量部に対して、リボフラビン及びその類縁体を0.005〜0.5重量部含む、飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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