説明

ビニルアセタール樹脂の製造方法

【課題】酸触媒を使用せずとも、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを反応させて、アセタール化度の高いビニルアセタール樹脂を、短時間、効率的に、かつ、樹脂の着色を抑えて製造することができるビニルアセタール樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを、100〜400℃、0.5〜100MPaの高温高圧流体中でアセタール化反応させるビニルアセタール樹脂の製造方法であって、前記アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入する工程を有するビニルアセタール樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸触媒を使用せずとも、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを反応させて、アセタール化度の高いビニルアセタール樹脂を、短時間、効率的に、かつ、樹脂の着色を抑えて製造することができるビニルアセタール樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアセタール樹脂は、合わせガラス用中間膜、金属処理のウォッシュプライマー、各種塗料、接着剤、樹脂加工剤及びセラミックスバインダー等に多目的に用いられており、近年では電子材料へと用途が拡大している。なかでも、ビニルブチラール樹脂は、製膜性、透明性、衝撃エネルギー吸収性、ガラスとの接着性に優れることから、合わせガラス用の中間膜等に特に好適に用いられている。
【0003】
ビニルアセタール樹脂は、通常、特許文献1に開示されているように、ポリビニルアルコールとアルデヒドとを塩酸等の酸触媒の存在下で脱水縮合させて製造される。また、特許文献2には、水溶液中において酸触媒の存在下でポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとを一定の攪拌動力で混合するビニルブチラール樹脂の製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に開示されているビニルアセタール樹脂の製造方法では、酸触媒を用いるため、特に電子材料用途に用いる場合には、酸を中和する工程が必要であり、更に、樹脂中に残存した触媒のハロゲン化物イオンや、中和に用いたアルカリのイオン等を洗浄し、樹脂中の不純物を取り除く極めて煩雑な工程が必要であった。
一方、塩酸等の酸触媒を用いずにビニルアルコール系樹脂とアルデヒドを反応させると、実用的には70モル%以上のアセタール化度が求められているにもかかわらず、40モル%程度のアセタール化度を有するビニルアセタール樹脂しか得ることができなかった。ここで、アセタール化反応を促進させるために高温に加熱すると、樹脂の主鎖が切断したり、昇温過程でアルデヒドによる副反応が起きたりして、生成するビニルアセタール樹脂が着色してしまうことがあった。
【0005】
特許文献3には、超臨界流体等の高温高圧流体の触媒作用を利用して、塩酸等の酸触媒を用いずにビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを反応させビニルアセタール樹脂を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3に開示されている方法でも、短時間に充分なアセタール化度を有するビニルアセタール樹脂を得ようとしても、充分なアセタール化度には達せなかったり、生成するビニルアセタール樹脂が着色してしまったりすることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−1853号公報
【特許文献2】特開平11−349629号公報
【特許文献3】WO2003/033548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酸触媒を使用せずとも、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを反応させて、アセタール化度の高いビニルアセタール樹脂を、短時間、効率的に、かつ、樹脂の着色を抑えて製造することができるビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを、100〜400℃、0.5〜100MPaの高温高圧流体中でアセタール化反応させるビニルアセタール樹脂の製造方法であって、前記アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入する工程を有するビニルアセタール樹脂の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、高温高圧流体中でビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを反応させてビニルアセタール樹脂を製造する方法において、高アセタール化度のビニルアセタール樹脂を得ようとすると樹脂が着色してしまう原因を検討した。その結果、高アセタール化度のビニルアセタール樹脂を得るには、処理温度を高温にしたりアルデヒドを過剰に投入しなければならず、その結果、アルデヒド同士が反応して副生成物が発生して、該副生成物が直接着色の原因となったり、副生成物が生成した樹脂と更に副反応して樹脂が変性したり、主反応であるアセタール化を阻害してしまったりすることを見出した。
【0010】
そこで、本発明者らは、高温高圧流体中でビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを反応させてビニルアセタール樹脂を製造する際に、一度に全量のアルデヒドを投入するのではなく、反応進行に伴い段階的に追加投入することにより、着色を抑えて、アセタール化度の高いビニルアセタール樹脂を短時間、効率的に得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法は、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを、100〜400℃、0.5〜100MPaの高温高圧流体中でアセタール化反応させるものである。
【0012】
上記ビニルアルコール系樹脂は特に限定されず、例えば、酢酸ビニル系樹脂をアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造された従来公知のビニルアルコール系樹脂を用いることができる。
上記ビニルアルコール系樹脂は、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1カ所にメソ、ラセミ位に対して2連の水酸基を有するユニットが最低1ユニットあれば完全けん化されている必要はなく、部分けん化ビニルアルコール系樹脂であってもよい。
上記ビニルアルコール系樹脂は、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂等の、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとビニルアルコールとの共重合体も用いることができる。
【0013】
上記酢酸ビニル系樹脂は特に限定されず、従来公知の酢酸ビニル系樹脂を用いることができる。
上記酢酸ビニル系樹脂は、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂等の、酢酸ビニルと共重合可能なモノマーと酢酸ビニルとの共重合体も用いることができる。
【0014】
上記アルデヒドは特に限定されず、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒドが挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。また、上記アルデヒドは、例えば、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。上記アルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとは、混合液の状態で反応に供されることが好ましい。上記混合液は、水等の流体を用いた溶液や懸濁液等が挙げられる。
【0016】
上記高温高圧流体は特に限定されず、例えば、水、メタノール、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。上記高温高圧流体は単独で用いてもよいし、複数を混合流体として用いてもよい。なかでも、水、又は、水と二酸化炭素の混合流体が好適である。
【0017】
本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法において、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとのアセタール化反応は、100〜400℃、0.5〜100MPaの高温高圧流体中で行われる。
上記ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとのアセタール化反応では、反応の進行に伴い、樹脂が不溶化、不均質化して析出する場合がある。このように析出した樹脂では、アセタール化反応すべき水酸基が部分的に樹脂の内部に閉じこめられることから、アセタール化反応の進行が阻害され、常圧反応では40モル%程度のアセタール化度までしか達成できない。しかし、高温高圧流体中で反応を行うことにより、析出した樹脂の内部にまでアルデヒドが浸入でき、常圧では達成できなかった高アセタール化度を達成できる。なお、反応時に攪拌機を併用することにより、析出樹脂の大きさを小さくできることから、更に高いアセタール化度を達成することができる。
【0018】
上記高温高圧流体の温度の下限は100℃、上限は400℃である。上記高温高圧流体の温度が100℃未満であると、アセタール化反応が不充分となり高アセタール化度を達成できず、400℃を超えると、得られるビニルアセタール樹脂が激しく劣化して分解してしまうことがある。上記高温高圧流体の温度の好ましい上限は350℃、より好ましい上限は300℃である。
【0019】
上記高温高圧流体の圧力の下限は0.5MPa、上限は100MPaである。上記高温高圧流体の圧力が0.5MPa未満であると、アセタール化反応が不充分となり高アセタール化度を達成できず、100MPaを超えると、製造装置の耐圧性を確保するのが困難になる。上記高温高圧流体の圧力の好ましい下限は10MPaである。
【0020】
本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法において、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとのアセタール化反応は、例えば、図1に示したような回分式反応装置を用いて行うことができる。
図1の回分式反応装置は、反応部4に対して、原料タンクA1、原料タンクB2及び原料タンクC3とが耐圧性のラインで接続されており、例えば、原料タンクA1には原料となるビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂を、原料タンクB2には原料となるアルデヒドを、原料タンクC3には水等の流体を貯留する。原料タンクA1と反応部4とを結ぶ耐圧性のライン上には、スラリーポンプ9とバルブA5とが配置されている。原料タンクB2、C3と反応部4とを結ぶ耐圧性のライン上には、高圧液送ポンプ10とバルブB6とが配置されている。原料タンクB2と反応部4とを結ぶ耐圧性のライン上には、流体加圧ヒーター7も設置されている。更に、反応部4には、液体二酸化炭素製造機14が高圧液送ポンプ15を介して接続されている。
反応部4は、反応部撹拌機12と反応部加熱ヒーター8とが設置されている。そして、反応部4の内部にはメッシュ11で画分されており、生成した樹脂と未反応のアルデヒドとを分離し、圧力調整弁13を開放することにより、未反応のアルデヒドを反応部4から排出できるようにしている。
以下、図1の回分式反応装置を用いて本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法を詳しく説明する。
【0021】
図1の回分式反応装置を用いた本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法では、まず原料となるビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂を水等の適当な媒体に溶解又は懸濁させた流体を原料タンクA1に投入する。この原料流体をスラリーポンプ9を反応部4に送液し、バルブA5を閉じた後、撹拌、加熱して、系内の温度、圧力を所定の温度、圧力とする。
一方、原料となるアルデヒドを原料タンクB2に投入し、バルブB6を閉じた状態で高圧液送ポンプBで送液することにより、アルデヒドを所定の温度、圧力にまで加熱、加圧する。バルブB6を開いて加熱、加圧されたアルデヒドを、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂が投入された反応部4に導き、系内の温度、圧力を所定の温度、圧力に保った状態で撹拌することにより、アセタール化反応を進める。
【0022】
本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法の特徴は、アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入する点にある。アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入することにより、アルデヒド同士が反応して副生成物が発生するのを抑制することができ、該副生成物が直接の原因となる着色を防止し、また、該副生成物が生成したビニルアセタール樹脂と更に副反応して樹脂が変性したり、主反応であるアセタール化を阻害してしまったりすることを防止することができる。
【0023】
本発明において「アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入する」とは、反応初期に一定量のアルデヒドを投入した後、時間の進行(反応進行)に伴いアルデヒドを追加投入することであり、一回のアルデヒド追加投入量が10分間当たり理論反応量の0.5倍以下であるのが好ましい。アルデヒドが投入されるとアセタール化反応が進行しアルデヒドが消費されるが、一度に過剰のアルデヒドが投入されるとアセタール化反応が追いつかずにアセタール化以外の副反応が起きる原因となる。
上記アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入する方法としては特に限定されないが、例えば、複数回に分割して断続的に投入してもよいし、連続的に投入してもよい。
なお、本発明における「理論反応量」とは、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂中の水酸基又はアセチル基の全てをアセタール化するのに必要なアルデヒド量と定義する。
【0024】
上記アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入する際には、圧力調整弁13を開放して、いったんそれまでに投入したアルデヒドを反応部4から系外へ排出し、圧力調整弁13を閉じた後、新たにアルデヒドを投入することが好ましい。アルデヒドを入れ替えることにより、アルデヒド同士が反応して副生成物が発生するのを抑制することができ、該副生成物が直接の原因となる着色を防止し、また、該副生成物が生成したビニルアセタール樹脂と更に副反応して樹脂が変性したり、主反応であるアセタール化を阻害してしまったりすることを防止することができる。
【0025】
上記アルデヒドの最終的な投入量の合計は、上記ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂の全量に対する理論反応量の1倍以上であることが好ましい。上記アルデヒドの投入量の合計が理論反応量の1倍未満であると、アセタール化反応が不充分となり高アセタール化度を達成できないことがある。
上記アルデヒドの投入量の合計の上限は特に限定されないが、好ましい上限は上記ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂の全量に対する理論反応量の30倍である。上記アルデヒドの投入量の合計が理論反応量の30倍を超えても、それ以上はアセタール化度の向上に寄与せずコストアップにつながるおそれがある。上記アルデヒドの投入量の合計のより好ましい上限は理論反応量の12倍であり、更に好ましい上限は理論反応量の3倍である。目的とするビニルアセタール樹脂の用途や求めるアセタール化度にもよるが、過剰量のアルデヒドを用いても副反応を抑えることができるのも本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法の効果である。
【0026】
本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法を用いて製造されるビニルアセタール樹脂の重合度は特に限定されないが、好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。得られるビニルアセタール樹脂の重合度が200未満であると、フィルムに成形した際の強度が低下することがあり、5000を超えると、溶融粘度が高くなりすぎて成形性が悪くなることがある。得られるビニルアセタール樹脂の重合度のより好ましい下限は300、より好ましい上限は2000である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、酸触媒を使用せずとも、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを反応させて、アセタール化度の高いビニルアセタール樹脂を、短時間、効率的に、かつ、樹脂の着色を抑えて製造することができるビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のビニルアセタール樹脂の製造方法に好適な回分式反応装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
ポリビニルアルコール(重合度500)と水とをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液をタンクA1に投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で200℃に加熱した容積100mLの耐圧性の反応部4に70g投入した後、バルブA5を閉めた。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。
【0031】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.3MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に2.15g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は3.0MPaとなった。
15分間攪拌しながら反応を行った後、高圧液送ポンプ10を用いてn−ブチルアルデヒドを反応部4に更に2.15g追加投入した。同様の操作を更に2回行い、15分間攪拌した後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0032】
(実施例2)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
ポリビニルアルコール(重合度500)と水とをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液をタンクA1に投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で160℃に加熱した容積100mLの耐圧性の反応部4に70g投入した後、バルブA5を閉めた。このとき系内の圧力は1.0MPaであった。
【0033】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.1MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に2.15g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は1.2MPaとなった。
30分間攪拌しながら反応を行った後、高圧液送ポンプ10を用いてn−ブチルアルデヒドを反応部4に更に2.15g追加投入した。同様の操作を更に2回行い、30分間攪拌した後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0034】
(実施例3)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
ポリビニルアルコール(重合度500)と水とをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液をタンクA1に投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で200℃に加熱した容積100mLの耐圧性の反応部4に70g投入した後、バルブA5を閉めた。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。
【0035】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.3MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に8.6g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は3.0MPaとなった。
15分間攪拌しながら反応を行った後、反応部4を100℃まで冷却し、圧力調整弁13を開放して反応部内の液体を全て排出した。圧力調整弁13を閉じ、タンクC3から水を高圧液送ポンプ10にて反応部4に63g投入した。反応部4を200℃に加熱した後、更にタンクB2から高圧液送ポンプ10を用いてn−ブチルアルデヒドを反応部4に8.6g投入した。15分間攪拌した後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0036】
(実施例4)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
ポリビニルアルコール(重合度500)と水とをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液をタンクA1に投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で200℃に加熱した容積100mLの耐圧性の反応部4に70g投入した後、バルブA5を閉めた。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。
【0037】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.3MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に17.2g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は5.0MPaとなった。
7.5分間攪拌しながら反応を行った後、反応部4を100℃まで冷却し、圧力調整弁13を開放して反応部内の液体を全て排出した。圧力調整弁13を閉じ、タンクC3から水を高圧液送ポンプ10にて反応部4に63g投入した。反応部4を200℃に加熱した後、更にタンクB2から高圧液送ポンプ10を用いてn−ブチルアルデヒドを反応部4に17.2g投入した。7.5分間攪拌した後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0038】
(実施例5)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
酢酸ビニル樹脂粉末(重合度2000)7g、酢酸0.63g及び水62.4gをタンクAに投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で容積100mLの耐圧性の反応部4に全量を投入した。バルブA5を閉め、反応部4を攪拌しながら200℃に加熱した。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。このまま3時間攪拌を行った。
【0039】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.3MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に1.1g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は3.0MPaとなった。
7分間攪拌しながら反応を行った後、高圧液送ポンプ10を用いてn−ブチルアルデヒドを反応部4に更に1.1g追加投入した。同様の操作を更に2回行い、9分間攪拌した後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0040】
(実施例6)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
酢酸ビニル樹脂粉末(重合度2000)7g、酢酸0.63g及び水62.4gをタンクAに投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で容積100mLの耐圧性の反応部4に全量を投入した。バルブA5を閉め、反応部4を攪拌しながら200℃に加熱した。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。このまま3時間攪拌を行った。
【0041】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.3MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に4.4g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は3.0MPaとなった。
15分間攪拌しながら反応を行った後、反応部4を100℃まで冷却し、圧力調整弁13を開放して反応部内の液体を全て排出した。圧力調整弁13を閉じ、タンクC3から水を高圧液送ポンプ10にて反応部4に63g投入した。反応部4を200℃に加熱した後、更にタンクB2から高圧液送ポンプ10を用いてn−ブチルアルデヒドを反応部4に4.4g投入した。15分間攪拌した後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0042】
(実施例7)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
ポリビニルアルコール(重合度500)とメタノールとをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液をタンクA1に投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で200℃に加熱した容積100mLの耐圧性の反応部4に70g投入した後、バルブA5を閉めた。このとき系内の圧力は3.5MPaであった。
【0043】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が3.6MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に2.15g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は3.8MPaとなった。
15分間攪拌しながら反応を行った後、高圧液送ポンプ10を用いてn−ブチルアルデヒドを反応部4に更に2.15g追加投入した。同様の操作を更に6回行い、15分間攪拌した後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0044】
(実施例8)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
ポリビニルアルコール(重合度500)と水とをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液をタンクA1に投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で120℃に加熱した容積100mLの耐圧性の反応部4に70g投入した後、バルブA5を閉めた。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。
更に、高圧液送ポンプ15を用いて、液体二酸化炭素製造機14で製造した二酸化炭素を反応部4に10MPaとなるまで投入した。
【0045】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が10.5MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に2.15g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は11MPaとなった。
15分間攪拌しながら反応を行った後、高圧液送ポンプ10を用いてn−ブチルアルデヒドを反応部4に更に2.15g追加投入した。同様の操作を更に2回行い、15分間攪拌した後、反応部4を室温まで冷却し、二酸化炭素をリークして、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0046】
(比較例1)
ポリビニルアルコール(重合度500)と水とをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液70gと、n−ブチルアルデヒド17.2gとを容積100mLの耐圧性の回分式反応装置に投入した。バルブを閉じ密閉状態としてから回分式反応装置を200℃に加熱した。回分式反応装置内の圧力は5.0MPaとなった。3時間攪拌しながら反応を行った後、反応容器を室温まで冷却し、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0047】
(比較例2)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
ポリビニルアルコール(重合度500)と水とをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液をタンクA1に投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で200℃に加熱した容積100mLの耐圧性の反応部4に70g投入した後、バルブA5を閉めた。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。
【0048】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.3MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に8.6g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は3.0MPaとなった。
1時間攪拌しながら反応を行った後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0049】
(比較例3)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
ポリビニルアルコール(重合度500)と水とをセパラブルフラスコにて加熱攪拌し得られた10重量%の水溶液をタンクA1に投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で200℃に加熱した容積100mLの耐圧性の反応部4に70g投入した後、バルブA5を閉めた。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。
【0050】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.3MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に34.4g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は3.0MPaとなった。
1時間攪拌しながら反応を行った後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0051】
(比較例4)
酢酸ビニル樹脂粉末(重合度2000)と水とをセパラブルフラスコにて攪拌し得られた10重量%の水溶液70gと、n−ブチルアルデヒド4.4gとを容積100mLの耐圧性の回分式反応容器に投入し、バルブを閉じて密閉状態としてから200℃に加熱した。反応容器内の温度は30分で200℃に到達し、圧力は3.0MPaとなった。3時間攪拌しながら反応を行った後、反応容器を室温まで冷却し、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0052】
(比較例5)
図1に示す回分式反応装置を用いてビニルアセタール樹脂を製造した。
酢酸ビニル樹脂粉末(重合度2000)7g、酢酸0.63g及び水62.4gをタンクAに投入し、バルブA5を開けて、スラリーポンプ9で容積100mLの耐圧性の反応部4に全量を投入した。バルブA5を閉め、反応部4を攪拌しながら200℃に加熱した。このとき系内の圧力は1.2MPaであった。このまま3時間攪拌を行った。
【0053】
n−ブチルアルデヒドをタンクB2に投入し、高圧液送ポンプ10にて流速40g/分で耐圧性のラインに投入し、圧力が1.3MPaとなったところでバルブB6を開放して、n−ブチルアルデヒドを反応部4に4.4g投入し、バルブB6を閉めた。反応部4の圧力は3.0MPaとなった。
30分間攪拌しながら反応を行った後、反応部4を室温まで冷却して、ポリビニルブチラールを含有する混合液を得た。
【0054】
(評価)
実施例及び比較例で製造したポリビニルブチラールを含有する混合液について、以下の評価を行った。
結果を表1、2に示した。
【0055】
(1)ポリビニルブチラールのブチラール化度
実施例及び比較例で得られたポリビニルブチラールを含有する混合液にはポリビニルブチラールの樹脂片が数個分散していた。該樹脂片を5個採取し、それぞれをジメチルスルホキシドに溶解し、水への沈殿を3回行ってから充分乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに再溶解し、H−NMR測定によりブチラール化度を測定した。
【0056】
(2)ポリビニルブチラールの着色
実施例及び比較例で得られたポリビニルブチラールを含有する混合液中のポリビニルブチラールの着色を目視にて評価した。白色であった場合を「○」、黄又は茶色に着色していた場合を「×」として評価した。
【0057】
(3)副反応物の生成量
得られたポリビニルブチラールを含有する混合液から重クロロホルムにより副反応物を抽出した。得られた重クロロホルム溶液をH−NMRにより測定し、仕込んだアルデヒド量に対する副反応物(縮合物)に変化したアルデヒド量の割合を求めた。なお、副反応物に変化したアルデヒド量は、縮合物中に存在する二重結合の量と縮合物の末端に存在するアルデヒド基の量を合計することによって計算した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、酸触媒を使用せずとも、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを反応させて、アセタール化度の高いビニルアセタール樹脂を、短時間、効率的に、かつ、樹脂の着色を抑えて製造することができるビニルアセタール樹脂の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 原料タンクA
2 原料タンクB
3 原料タンクC
4 反応部
5 バルブA
6 バルブB
7 流体加熱ヒーター
8 反応部加熱ヒーター
9 スラリーポンプ
10 高圧液送ポンプ
11 メッシュ
12 反応部攪拌機
13 圧力調整弁
14 液体二酸化炭素製造機
15 高圧液送ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂とアルデヒドとを、100〜400℃、0.5〜100MPaの高温高圧流体中でアセタール化反応させるビニルアセタール樹脂の製造方法であって、前記アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入する工程を有することを特徴とするビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項2】
アルデヒドを反応進行に伴い段階的に追加投入する工程において、いったんそれまでに投入したアルデヒドを反応系外に排出し、新たにアルデヒドを反応系内に投入することを特徴とする請求項1記載のビニルアセタール樹脂の製造方法。
【請求項3】
アルデヒドの最終的な投入量の合計が、ビニルアルコール系樹脂又は酢酸ビニル系樹脂の全量に対する理論反応量の1倍以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のビニルアセタール樹脂の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−77183(P2012−77183A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223102(P2010−223102)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】