説明

ビニルピロリドン系重合体、及びその製造方法

【課題】エンドトキシン活性が低く、かつ黄変の程度も低いビニルピロリドン系重合体を提供すること。
【解決手段】本発明のビニルピロリドン系重合体は、色相が30以下で、エンドトキシン活性が1EU/g以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルピロリドン系重合体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビニルピロリドン系重合体(例えば、ポリビニルピロリドン)は、安全な機能性ポリマーとして、粉体または水溶液の形態で、医薬品添加物、化粧品、医療用素材、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは種々の特殊工業用途に、幅広く用いられている。なかでも、水溶性ビニルピロリドン系重合体粉体(水溶性ポリビニルピロリドン系粉体)は、医薬錠剤の結合剤や賦形剤として、また、人工透析用の中空糸膜を製造する際の原料液の粘度調整剤として、あるいは、人工透析用の中空糸膜の微細孔形成剤として、広く用いられている。例えば、特許文献1〜4には、膜形成性重合体であるポリスルホンやポリエーテルスルホンと親水性重合体であるポリビニルピロリドンとを含有する原料液を紡糸口金から押し出して、水を主成分とする凝固浴中に浸漬、凝固させた後、巻き取ることにより、中空糸膜を製造する方法が開示されている。
【0003】
ところで、ビニルピロリドン系重合体は、これを医薬品添加物、あるいは人工透析用の中空糸膜の原料として使用する場合、例えばエンドトキシン(Endotoxin)活性が低いことなど、高度な安全性が要求される。エンドトキシンは、生体内で発熱、白血球や血小板の減少、骨髄出血壊死、血糖低下などの生物活性を示すからである。
【0004】
しかしながら、従来のビニルピロリドン系重合体には、エンドトキシン活性が比較的高いものがあり、このため、ビニルピロリドン系重合体のエンドトキシンを失活させる必要があった。その際、エンドトキシンは熱に対して安定であり、通常の滅菌処理ではエンドトキシンを失活させることができないことから、エンドトキシンを失活させる方法として、乾熱法等が採用されている。
【0005】
乾熱法とは、160〜200℃で、30分〜2時間加熱して、微生物やタンパク質を熱変性させる滅菌法であり、日本薬局方による規定によれば、160〜170℃であれば120分間、170〜180℃であれば60分間、180〜190℃であれば30分間の処理が常法とされている。また、エンドトキシンの不活性化のためには、250℃で少なくとも1時間の乾熱処理が必要と言われている(非特許文献1)。しかしながら、ビニルピロリドン系重合体を250℃もの高温で処理すると、ビニルピロリドン系重合体が変質したり、分解して著しく黄変するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−121324号公報
【特許文献2】特開2002−239348号公報
【特許文献3】特開2003−245524号公報
【特許文献4】特開2006−239576号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山田 奈津子、外9名、“消毒薬テキスト 第3版”、[online]、2008年10月、吉田製薬株式会社、[2009年12月2日検索]、インターネット<URL:http://www.yoshida-pharm.com/text/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであって、エンドトキシン活性が低く、かつ黄変の程度も低いビニルピロリドン系重合体を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討の結果、エンドトキシン活性が低い水を含む溶剤を反応溶媒として用いてN−ビニル−2−ピロリドンを含む単量体を重合すれば、エンドトキシン活性が低く、かつ黄変の程度も低いビニルピロリドン系重合体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のビニルピロリドン系重合体は、色相が30以下で、エンドトキシン活性が1EU/g以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明には、上記ビニルピロリドン系重合体を製造する方法であって、水のエンドトキシン活性を低下させる工程と、該工程を経て得られるエンドトキシン活性が低下した水を含む溶剤中で、N−ビニル−2−ピロリドンを含む単量体を重合する工程とを含むことを特徴とする製造方法も包含される。
【0012】
本発明は、水から不溶物を除去する工程と、該工程を経て得られる不溶物が除去された水を殺菌する工程とを含み、前記エンドトキシン活性を低下させる工程を、前記殺菌する工程の後に行うことが好ましい実施態様である。前記エンドトキシン活性を低下させる工程によって、エンドトキシン活性が1EU/g以下の水を得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンドトキシン活性が低く、かつ黄変の程度も低いビニルピロリドン系重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(ビニルピロリドン系重合体)
本発明のビニルピロリドン系重合体は、エンドトキシン活性が低く、かつ黄変の程度も低い。具体的には、本発明のビニルピロリドン系重合体は、エンドトキシン活性が1EU/g以下で、色相が30以下を示す。
【0015】
また、本発明のビニルピロリドン系重合体は、K値が25〜35(より好ましくは27〜32)のもののみならず、75〜95(より好ましくは80〜90)のものであっても、上記エンドトキシン活性と色相を示す。
【0016】
以下に、上記エンドトキシン活性と色相を示す、本発明に係るビニルピロリドン系重合体の好適な製造方法について説明する。
【0017】
(ビニルピロリドン系重合体の製造方法)
本発明のビニルピロリドン系重合体の製造方法は、水のエンドトキシン活性を低下させる工程(以下、エンドトキシン失活工程と言う。)と、当該工程を経て得られるエンドトキシン活性が低下した水(以下、失活水と言う。)を含む溶剤を反応溶媒として用い、当該溶剤中でN−ビニル−2−ピロリドンを含む単量体を重合する工程(以下、重合工程という。)とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の製造方法によれば、ビニルピロリドン系重合体のK値が大きいもの(具体的には、75〜95)であっても、上記エンドトキシン活性と色相を示す重合体を高い生産性を維持しつつ製造することができる。その理由は以下の通りである。すなわち、エンドトキシン活性の低いビニルピロリドン系重合体を得る方法としては、ビニルピロリドン系重合体の溶液を、後述するエンドトキシン除去能を有するフィルターでろ過して、ビニルピロリドン系重合体中のエンドトキシンを除去する方法も想起されるが、この溶液は粘性が高く、ろ過操作に長時間を要したり目詰まりが発生する場合があるため、現実的な方法ではない。また、前述の通り、ビニルピロリドン系重合体を乾熱処理した場合には、ビニルピロリドン系重合体が変質したり、分解して着色する場合がある。
【0019】
これに対し、本発明のように、失活水を反応溶媒として用いてN−ビニル−2−ピロリドンを重合させれば、ビニルピロリドン系重合体中のエンドトキシンを除去するために当該重合体の溶液をろ過することを要しないため、ビニルピロリドン系重合体のK値が大きくなって重合体溶液の粘性が上がっても、当該溶液の濾過に長時間を要するということがない。また、ビニルピロリドン系重合体のエンドトキシン活性が低いことから、当該重合体に乾熱処理を施す必要がなくなるため、当該処理に起因してビニルピロリドン系重合体が黄変するのを防ぐことができる。
【0020】
本発明のビニルピロリドン系重合体の製造方法の各工程の詳細は、以下の通りである。なお、本発明の製造方法に用いられる水は特に限定されず、例えば精製水、純水、超純水、蒸留水、イオン交換水等が挙げられる。
【0021】
<エンドトキシン失活工程>
水のエンドトキシン活性を低下させる方法としては、特に限定されず、例えば、エンドトキシン除去能を有するフィルター(以下、エンドトキシン除去用フィルターと言う。)で水をろ過して、エンドトキシンを水中から除去する方法や、電子線やガンマ線などの放射線を水に照射したり、水に乾熱処理を施して、水中のエンドトキシンを失活させる方法などが挙げられる。これらの方法は単独で行っても、併用して行ってもよい。失活水を多量に必要とする場合には、エンドトキシン除去用フィルターで水をろ過する方法を採ることが好ましい。
【0022】
本工程でエンドトキシン除去用フィルターを用いる場合、このフィルターの材質は、水による腐食、溶解、あるいは変質等が起こらないものであれば特に限定されない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製や金属製の他に、セルロースアセテート製、セルロースニトレート製、ポリエーテルスルホン製、ポリプロピレン製、ポリアミド製のフィルター等が挙げられる。
【0023】
エンドトキシン除去用フィルターの孔径は、エンドトキシンを除去(吸着除去)できれば特に限定されず、その上限が2μm(より好ましくは1μm、さらに好ましくは0.5μm)であればよい。また、孔径の下限についても特に限定されないが、孔径が0.2μmのポリアミド製フィルターや、孔径が0.45μmのセルロースアセテート製フィルターが市販されており、入手のし易さの点からこれらの孔径を下限とするのが好ましい。
【0024】
本工程でエンドトキシン除去用フィルターを用いる場合、材質及び孔径の異なる2種以上のフィルターを併用してもよい。
【0025】
本工程で得られる失活水は、エンドトキシン活性が1EU/g以下(より好ましくは0.5EU/g以下、さらに好ましくは0.2EU/g以下)になっていることが好ましい。これにより、当該水を含む溶剤中でN−ビニル−2−ピロリドン等を重合して得られるビニルピロリドン系重合体のエンドトキシン活性を1EU/g以下に抑えることが容易になる。
【0026】
<貯水工程>
本発明では、重合工程の都度、エンドトキシン失活工程を行って失活水を調製してもよいが、これではビニルピロリドン系重合体の製造に手間がかかる場合がある。そこで、本発明は、エンドトキシン失活工程を経て得られた失活水を貯水槽等に一旦貯水する工程を含み、重合工程は、この貯水した失活水を用いて行うようにしてもよい。失活水を貯水しておくことにより、重合工程の際に反応溶媒(失活水)を速やかに供給できることから、ビニルピロリドン系重合体の生産効率が向上する。
【0027】
なお、本発明において、貯水した失活水を用いて重合工程を行う場合、当該失活水には、再度、上記エンドトキシン失活処理が施されることが好ましい。一旦貯水した失活水を重合工程に供給するのに、外気等のエアを用いて失活水を圧送した場合、かかるエア中の菌類やエンドトキシンが失活水に混入する場合もあるからである。
【0028】
<不溶物除去工程>
本発明では、エンドトキシン失活工程前に、予め水中から不溶物を除去しておくことが好ましい。蒸留水やイオン交換水等には、スケールや菌類など、種々の不溶物が含まれており、かかる不溶物を含む水を反応溶媒として用い、ビニルピロリドン系重合体を製造した場合には、得られる重合体にも不溶物が含まれることとなる。また、不溶物を含む水に、エンドトキシン除去用フィルターを用いたエンドトキシン失活処理を施した場合に、エンドトキシン除去用フィルターが目詰まりし易くなる。一方、不溶物除去工程を行うことによって、上記問題の発生を回避できる。
【0029】
水から不溶物を除去する方法としては、特に限定されず、例えば、不溶物よりも小さい孔径を有する多孔性フィルターや、不溶物に対する吸着能を有するフィルターを用いて水をろ過する方法などが挙げられる。これらの不溶物除去用フィルターは単独で用いても、併用してもよい。
【0030】
不溶物除去用フィルターの材質は、エンドトキシン除去用フィルターと同じであってよい。また、多孔性フィルターを用いる場合のフィルターの孔径は、50μm以下(より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下)であることが好ましい。孔径が50μmを超えると、水中の不溶物を除去できない場合がある。孔径の下限は、特に限定されないが、1μm(より好ましくは1.5μm、さらに好ましくは2μm)であることが好ましい。孔径が1μmより小さいと、水のろ過速度が遅くなる場合がある。本工程も、材質、及び孔径の異なる2種以上のフィルターを併用してもよい。
【0031】
本工程の好ましい態様としては、先ず不溶物よりも小さい孔径を有する多孔性フィルターを用いて水をろ過し、次いで、さらに不溶物に対する吸着能を有するフィルターでろ過する方法が挙げられる。
【0032】
<殺菌工程>
本発明では、不溶物除去工程の後、水を殺菌しておくことが好ましい。不溶物除去工程によっても、水中の菌類等を完全に除去できない場合があり、このような菌類の除去が不十分な水を反応溶媒として用いてビニルピロリドン系重合体を製造すると、得られる重合体に菌類が含まれる場合がある。
【0033】
水を殺菌する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法で行えばよい。例えば、脱酸素処理、放射線照射、煮沸処理などが挙げられる。これらの殺菌方法は、単独で行っても2種以上を併用して行ってもよい。
【0034】
なお、エンドトキシンは、内毒素ともいわれ、菌が死んで溶菌するときや機械的に破壊されたとき、あるいは菌が分裂するときなどに遊離してくるものである。このため、殺菌工程によって、水中にエンドトキシンが遊離して、得られる重合体のエンドトキシン活性が高くなる場合がある。しかしながら、このエンドトキシンは、上記エンドトキシン失活工程によって不活性化される。
【0035】
<溶剤>
本発明は、上記工程を経て得られた失活水を含む溶剤中で、N−ビニル−2−ピロリドンを含む単量体を重合させることに特徴がある。かかる構成によって、溶剤由来のエンドトキシンがビニルピロリドン系重合体に混入することを防止できるため、エンドトキシン活性の低いビニルピロリドン系重合体を製造することができる。
【0036】
かかる溶剤としては、N−ビニル−2−ピロリドン等の重合反応溶媒として用いることができ、かつ、エンドトキシンの混入を防止できれば、特に限定されるものではなく、例えば、失活水の単独溶剤や、この失活水と低級アルコールとの混合溶剤が挙げられる。低級アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールなどが挙げられる。混合溶剤中の低級アルコールの含有率は50質量%を超えないことが好ましい。
【0037】
<重合工程>
N−ビニル−2−ピロリドンを含む単量体を重合する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、溶剤に単量体を添加した単量体溶液に、重合開始剤としてアゾ化合物および/または有機過酸化物を添加して重合を行う方法や、重合開始剤として過酸化水素を添加して重合を行う方法などが挙げられる。また、重合開始剤の他に、必要に応じて、任意の連鎖移動剤、pH調整剤、緩衝剤などを添加してもよい。
【0038】
重合反応における重合開始剤の濃度は、単量体成分の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、単量体100質量部に対して、0.001質量部以上(より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上)が好ましく、3質量部以下(より好ましくは2質量部以下、さらに好ましくは1質量部以下)であることが好ましい。
【0039】
<単量体溶液中の単量体量>
溶剤に対する単量体の添加量は、溶剤100質量部に対して、5質量部以上(より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上)が好ましく、150質量部以下(より好ましくは120質量部以下、さらに好ましくは110質量部以下)が好ましい。
【0040】
<他の単量体>
本発明では、単量体成分としてN−ビニル−2−ピロリドンのみを用いて重合工程を行ってもよいが、他の単量体成分を併用して重合工程を行ってもよい。かかる他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、及びそれらの塩、ジビニルベンゼンやポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体、(メタ)アクリル酸エステル、マレイン酸エステル、(メタ)アクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、アルキルビニルエーテル、アクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニル、アリルアルコール、オレフィン類等の群から選択される1種または2種以上の単量体が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステルには、炭素数1〜20のアルキルエステル、ジメチルアミノメチルアルキルエステル、及びその四級塩、ヒドロキシアルキルエステル等が含まれる。これら他の単量体の含有率は、重合体を構成する構成単位全体に対して、0〜50モル%であることが好ましく、0〜20モル%であることがより好ましく、0〜10モル%であることがさらに好ましい。
【0041】
<重合前のpH調整工程>
本発明では、重合反応を行う際に、重合前の単量体溶液にpH調整剤を添加して、単量体溶液のpHを調整してもよい。単量体(N−ビニル−2−ピロリドン)が加水分解されることを防ぐためである。
【0042】
本工程で用いるpH調整剤としては、公知の化合物を使用することができ、例えば、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン等のアミン化合物;NaOH、KOH、Ca(OH)2等のアルカリ(土類)金属水酸化物;Na2CO3や炭酸グアニジン等の炭酸塩等が挙げられる。これらのpH調整剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのpH調整剤のうち、第2級アミンが好ましい。
【0043】
pH調整剤は、そのまま添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。水溶液とする場合には、失活水を用いることが好ましい。
【0044】
本工程により、重合前の単量体溶液のpHを7以上とすることが好ましく、10以下(より好ましくは9以下)とすることが好ましい。
【0045】
pHを調整するために使用可能な第2級アミンとしては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどの脂肪族第2級アミン;N−エチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどの脂肪族ジアミンおよびトリアミン;N−メチルベンジルアミンなどの芳香族アミン;N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどのモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジプロパノールアミンなどのジアルカノールアミン;ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、N−メチルピペラジン、モルホリンなどの環状アミン;などが挙げられる。これらの第2級アミンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの第2級アミンのうち、ジアルカノールアミンおよびジアルキルアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましく、ジエタノールアミンが特に好ましい。
【0046】
<重合開始剤:アゾ化合物および/または有機過酸化物>
単量体溶液(pH調整済み単量体溶液を含む;以下同じ)に、重合開始剤としてアゾ化合物および/または有機過酸化物を添加する際、予め単量体溶液に窒素ガスを吹き込んで、単量体溶液中の酸素濃度を好ましくは1ppm(体積基準)以下、より好ましくは0.5ppm(さらに好ましくは0.2ppm)以下に調整しておいてもよい。また、単量体溶液を予め好ましくは40℃以上(より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上)、好ましくは100℃以下(より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下)に加熱しておいてもよい。これにより、重合反応を速やかに進めることができる。
【0047】
重合開始剤として使用可能なアゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。これらのアゾ化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤として用いるアゾ化合物は、そのまま添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。水溶液とする場合には、失活水を用いることが好ましい。
【0048】
重合開始剤として使用可能な有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシドなどが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤として用いる有機過酸化物は、そのまま添加してもよいし、アルコール溶液として添加してもよい。
【0049】
また、上記の有機過酸化物と還元剤とを併用するレドックス系重合開始剤で重合を開始させてもよい。
【0050】
還元剤としては、例えば、モール塩に代表されるような、鉄(II)、スズ(II)、チタン(III)、クロム(II)、V(II)、Cu(II)などの低原子価状態にある金属の塩類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミン塩酸塩、ヒドラジンなどのアミン化合物およびその塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属亜硫酸塩や、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムなどの低級酸化物およびその塩;D−フルクトース、D−グルコースなどの転化糖;L−アスコルビン酸(塩)、L−アスコルビン酸エステル、エリソルビン酸(塩)、エリソルビン酸エステル;などが挙げられる。
【0051】
有機過酸化物と還元剤の混合比(質量比)は、特に制限されるものではなく、重合体の分子量によって適宜選択すればよいが、10:1〜100:1が好ましい。
【0052】
有機過酸化物と還元剤との組合せの具体例としては、例えば、ベンゾイルペルオキシドとアミンとの組合せ、クメンヒドロペルオキシドと鉄(II)、Cu(II)などの金属化合物との組合せが挙げられる。
【0053】
<重合開始剤:過酸化水素>
単量体溶液に、重合開始剤として過酸化水素を用いる場合、予め単量体溶液に金属触媒を添加するとともに、助触媒としてアンモニアや第2級アミンを添加してもよい。
【0054】
重合開始剤として用いる過酸化水素は、そのまま添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。水溶液とする場合には、失活水を用いることが好ましい。
【0055】
金属触媒としては、N−ビニル−2−ピロリドンの重合に用いられる従来公知の金属触媒であれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、酢酸銅(II)などの重金属塩などが挙げられる。金属触媒の添加量は、N−ビニル−2−ピロリドンの仕込み量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、N−ビニル−2−ピロリドンに対して、質量比で、その下限が好ましくは50ppb(質量基準)であり、また、その上限が好ましくは600ppbである。
【0056】
助触媒として用いるアンモニアは、そのまま添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。水溶液とする場合には、失活水を用いることが好ましい。アンモニアの添加量は、最終的に得られるビニルピロリドン系重合体のアンモニア含有量が50〜4000ppm(質量基準)になるように適宜調節することが好ましい。
【0057】
助触媒としてアンモニアに加えて第2級アミンを用いる場合、この第2級アミンは、そのまま添加してもよいし、水溶液として添加してもよい。水溶液とする場合には、失活水を用いることが好ましい。助触媒として用いる第2級アミンは、pH調整剤について説明した際に列挙したものを用いることができる。第2級アミンの添加量は、最終的に得られるビニルピロリドン系重合体の第2級アミン含有量が500ppm(質量基準)以上(より好ましくは1000ppm以上)、5000ppm以下(より好ましくは4000ppm以下)となるように適宜調節することが好ましい。
【0058】
<重合温度>
重合反応における反応温度は、反応原料などの種類に応じて適宜設定すればよく、好ましくは40℃〜100℃、より好ましくは50℃〜95℃、さらに好ましくは60℃〜90℃である。
【0059】
<重合中のpH調整工程>
本発明では、重合反応を開始してから終了するまでの適当な段階で、反応液に第2級アミンまたはその水溶液を添加してpHを所定の値に調整してもよい。単量体(N−ビニル−2−ピロリドン)が加水分解されることを防ぐためである。また、第2級アミンを用いることにより、得られた重合体溶液を乾燥する際に、重合体の一部が不溶化することを抑制できる。
【0060】
重合中に反応液のpHを調整するのに使用可能な第2級アミンとしては、重合前のpH調整工程においてpH調整剤として用い得るものとして列挙した第2級アミンを用いることができる。なお、重合中に反応液のpHを調整するために添加する第2級アミンは、単量体水溶液のpHを調整するために添加する第2級アミンと同一であっても異なっていてもよい。
【0061】
pH調整剤の使用量は、単量体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、反応液のpHが好ましくは7以上、好ましくは10以下(より好ましくは9以下)になるようにすればよい。
【0062】
<酸の添加による単量体の低減化工程>
本発明では、重合反応後、重合体溶液に酸またはその水溶液を添加することが好ましい。この際、重合反応時の反応温度を維持して行うことが好ましい。これにより、単量体(N−ビニル−2−ピロリドン)を酸によって加水分解して、未反応の単量体量(すなわち、重合体溶液中における単量体の残存量)を低減することができる。
【0063】
未反応の単量体量を低減するのに使用可能な酸としては、たとえば、塩酸等の無機酸;ギ酸や酢酸等の低沸点有機酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アスパラギン酸、クエン酸、グルタミン酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、フタル酸、トリメリト酸、ピロメリト酸等の高沸点有機酸などが挙げられ、これらを単独で用いても2種以上を併用してもよい。好ましくは、添加時の重合体溶液温度より高い沸点(例えば100℃以上)を有する高沸点多価カルボン酸であり、マロン酸が特に好ましい。なお、本発明において、酸の水溶液を重合体溶液に添加する場合には、失活水を用いることが好ましい。
【0064】
酸の使用量は、重合反応時の単量体の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重合後の反応液のpHが5以下(より好ましくは4以下)、3以上になるようにすることが好ましい。
【0065】
<重合後のpH調整工程>
本発明では、酸により未反応のN−ビニル−2−ピロリドンを加水分解した後は、重合後の重合体溶液に第2級アミンまたはその水溶液を添加して、重合体溶液のpHを所定の値に調整することが好ましい。これにより、重合体溶液中の重合体の経時安定性を高めることができる。また、第2級アミンを用いることにより、中和時(第2級アミン添加時)に、重合体の一部が不溶化すること防ぎつつ、得られた重合体溶液を乾燥する際に、重合体の一部が不溶化することを抑制できる。この際、重合反応時(あるいは、酸添加時)の反応温度を維持して行うことが好ましい。
【0066】
重合後に重合体溶液のpHを調整するのに使用可能な第2級アミンとしては、重合前のpH調整工程においてpH調整剤として用い得るものとして列挙した第2級アミンを用いることができる。また、重合後に重合体溶液のpHを調整するために添加する第2級アミンは、単量体水溶液のpHを調整するために添加する第2級アミンや、重合中に反応液のpHを調整するために添加する第2級アミンと、同一であっても異なっていてもよい。
【0067】
本工程での第2級アミンの使用量は、酸の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、重合体溶液のpHが好ましくは4以上(より好ましくは5以上)、7以下になるようにすればよい。
【0068】
<ビニルピロリドン系重合体溶液中の不溶物除去工程>
本発明では、上記工程を経て得られたビニルピロリドン系重合体の溶液から、不溶物を除去することが好ましい。後日、本発明のビニルピロリドン系重合体を中空糸膜やメンブランフィルター用途に用いるために当該重合体を溶解した原料液をフィルターでろ過、精製する際に、フィルターで濾別される不溶物量が減少するため、フィルターの交換頻度を抑えることができる。その結果、中空糸膜等の生産性を向上することができる。
【0069】
不溶物を除去する方法としては、たとえば、孔径が20〜100μmのフィルターにビニルピロリドン系重合体の溶液を通す方法等が挙げられる。
【0070】
本工程で用いるフィルターの材質は、重合体による腐食、溶解、あるいは変質等が起こらないものであれば特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製や金属製のフィルターが挙げられる。
【0071】
本工程では、材質及び孔径の異なる2種以上のフィルターを併用してもよい。
【0072】
<乾燥工程>
本発明では、上記製造方法によって得たビニルピロリドン系重合体溶液を乾燥し、次いで粉砕することにより、ビニルピロリドン系重合体の粉体としてもよい。
【0073】
ビニルピロリドン系重合体溶液を乾燥する方法としては、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、スプレードライヤー乾燥法、ドラムドライヤー乾燥法などが挙げられる。乾燥の温度や時間などの条件は、乾燥すべきビニルピロリドン系重合体溶液の量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは100℃以上(より好ましくは120℃以上)、好ましくは160℃以下(より好ましくは150℃以下)の温度で、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは10分以内で乾燥すればよい。
【0074】
乾燥したビニルピロリドン重合体を粉砕する方法としては、従来公知の方法を採用すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、ピンミル、ハンマーミルなどで乾式粗粉砕する方法;ジェットミル、ローラミル、ボールミル、ミクロンミルなどで乾式微粉砕する方法;などが挙げられる。粉砕の条件は、特に限定されるものではなく、粉体の用途などに応じて所望の粒度が得られるように適宜設定すればよい。
【0075】
なお、乾燥法としてスプレードライヤー乾燥法を採用する場合などは、粉砕工程を省略しても、ビニルピロリドン系重合体粉体とすることができる。
【0076】
ここで、ビニルピロリドン系重合体粉体は、例えば、粒状、顆粒状、球状、塊状、鱗片状、無定形などの形状であってもよい。また、ビニルピロリドン系重合体粉体の大きさは、粉体の用途などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、作業性、溶解性などの点で、平均粒子径は、好ましくは10μm以上、3,000μm以下、より好ましくは50μm以上、1,000μm以下、さらに好ましくは80μm以上、800μm以下である。ここで、「平均粒子径」とは、後述する方法で測定された数値である。
【0077】
<外気の菌類除去工程>
本発明では、少なくとも乾燥工程(好ましくは重合工程以降の工程)が、未処理の外気(すなわち、菌類の除去処理を施されていない外気)と接触しない環境下で行われることが好ましい。これにより、製造工程中に外気から菌類がビニルピロリドン重合体に混入するのを防ぐことができる。また、エンドトキシンは菌類中に内包されるものであることから、菌類の混入を防ぐことにより、結果として、菌類に由来するエンドトキシンの混入も防ぐことができる。
【0078】
未処理の外気と接触しない環境下で本発明を実施する方法としては、例えば、菌類を除去した外気(以下、菌類除去外気と言う。)中で、本発明にかかる上記各工程を行うとともに、上記工程間にも菌類除去外気を充填しておく方法が挙げられる。
【0079】
外気の菌類を除去する方法としては、特に限定されるものではなく、外気を、MEPA(Medium Efficiency Particulate Air)フィルター、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター、及びULPA(Ultra Low Penetration Air)フィルターなどに通す方法が挙げられる。
【0080】
なお、本発明において、未処理の外気と接触しない環境下で乾燥工程を行う場合には、発生する排気ガス(水蒸気)はエンドトキシン活性が低下しているため、この排気ガスを本発明のいずれかの製造工程内に再利用するようにしてもよい。これにより、ビニルピロリドン系重合体の製造コストを低く抑えることが可能になる。
【0081】
(用途)
本発明のビニルピロリドン系重合体は、例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜やメンブランフィルターの製造)に用いることができる。特に、エンドトキシン活性が低いことから、中空糸膜やメンブランフィルターの製造に好適である。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお下記実施例および比較例において「部」、「%」とあるのは、それぞれ質量部、質量%を意味する。
【0083】
先ず、ビニルピロリドン系重合体粉体のエンドトキシン活性、色相、K値、固形分量、平均粒子径、残存N−ビニル−2−ピロリドン量;ビニルピロリドン系重合体溶液の濃度、K値、色相、;及び、本発明で用いたイオン交換水や失活水のエンドトキシン活性の各測定方法について説明する。
【0084】
(1)重合体粉体のエンドトキシン活性
ビニルピロリドン系重合体粉体のエンドトキシン活性を、日本薬局方に記載の方法に準拠して測定した。詳細は以下の通りである。
【0085】
(検量線の作成)
日本薬局方エンドトキシン1000標準品に、注射用蒸留水を加えて、1000EU/mLの対照エンドトキシン標準品を調製した。次いで、この標準品を、注射用蒸留水を用いて順次希釈を行って、エンドトキシン活性が0EU/mL、0.002EU/mL、0.003EU/mL、0.005EU/mL、0.01EU/mL、0.1EU/mL、1.0EU/mLのスタンダードサンプルを調製した。
【0086】
各スタンダードサンプル200μlを、ライセート試薬(リムルスES−IIシングルテスト、和光純薬工業社製)に加え、よく撹拌した後、エンドトキシン測定装置(ET−2000、和光純薬工業社製)にセットして、ゲル化までの時間を測定した。X軸をゲル化時間、Y軸をエンドトキシン活性として、両対数の検量線を作成した。
【0087】
なお、スタンダードサンプルをライセート試薬に加えてから30秒以内に、エンドトキシン測定装置にセットするようにした。
【0088】
(エンドトキシン活性の測定)
注射用蒸留水9.9gに、実施例または比較例で得られたビニルピロリドン系重合体の各粉体0.1gを加えて溶解して、ビニルピロリドン系重合体溶液を調製した。
【0089】
得られた重合体溶液200μlを、ライセート試薬(リムルスES−IIシングルテスト、和光純薬工業社製)に加え、よく撹拌した後、上記エンドトキシン測定装置にセットして、ゲル化までの時間を測定した。この操作は2回行い、その平均値を各ビニルピロリドン系重合体のゲル化までの時間とした。
【0090】
なお、重合体溶液をライセート試薬に加えてから30秒以内に、エンドトキシン測定装置にセットするようにした。
【0091】
上記検量線と、ビニルピロリドン系重合体のゲル化までの時間とから、重合体溶液中のエンドトキシン活性を求め、重合体溶液の重合体濃度から、ビニルピロリドン系重合体粉体中のエンドトキシン活性(単位:EU/g)を求めた。
【0092】
(2)重合体粉体の色相
ビニルピロリドン系重合体粉体の色相を、JIS K3331に記載の方法に基づいて求めた。詳細は以下の通りである。
【0093】
(APHA標準液の調製)
試薬特級塩化白金酸カリウム(第二、K2PtCl6)1.245g(Ptとして0.5gを含有)、及び試薬特級塩化コバルト(CoCl2・6H2O)1.000g(Coとして0.25gを含有)を精秤して、純水約100mlを加えた後、試薬特級塩酸(36%含有)100mlを加えて加温溶解した。冷却後、純水を加えて1000mlとした。この原液は、APHA.No.500に相当する。
【0094】
このAPHA原液を純水で希釈して、下記の標準液をそれぞれ作成した。
APHA.No. 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
原液採取量(ml)1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
【0095】
(色相の測定)
実施例または比較例で得られたビニルピロリドン系重合体の各粉体を用いて、固形分濃度が5%の溶液をそれぞれ調製した後、これを白色紙上に置いて、自然光の下で肉眼にて上方から各APHA標準液と比色して、対応するAPHA標準液を選び、ビニルピロリドン系重合体粉体の色相とした。
【0096】
(3)重合体粉体のK値
K値は、ビニルピロリドン系重合体の各粉体の1%水溶液について、25℃で毛細管粘度計により相対粘度を測定し、下記のフィケンチャーの粘度式:
【0097】
【数1】

【0098】
[式中、ηrelは相対粘度、cは水溶液の濃度(g/100mL)、すなわち水溶液100mL中に含有されるビニルピロリドン系重合体のg数、kはK値に関係する変数を表す]
に代入して、得られたkの値を1,000倍した数値である(以下、このようにK値を求める方法を「フィケンチャー法」ということがある。)。K値が大きいほど、分子量が高いことを表す。
【0099】
(4)重合体粉体の固形分量
予め質量を測定したアルミカップに、重合体粉体2gを素早く入れ、0.1mgの単位まで精秤した。次いで、150±5℃に調節された熱風乾燥器中にアルミカップごと収納し、1時間乾燥した後、アルミカップを乾燥器から取出し、直ちに蓋をしてデシケーター中で60分間冷却した。冷却後、0.1mgの単位まで精秤した。固形分量は、次式にしたがって算出した。なお、固形分量は、3点測定し、その平均値をとった。
固形分量(%)=(W×100)/S
[式中、Wは乾燥後の重合体粉体質量(g)、Sは重合体粉体採取量(g)]
【0100】
(5)重合体粉体の平均粒子径
ビニルピロリドン重合体粉体を酢酸エチルに分散させた。次いで、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−3000(株式会社島津製作所製)を用いて、得られた分散液の粒度分布を測定した。得られた粒度分布データのメディアン径を平均粒子径とした。
【0101】
(6)重合体粉体中の残存N−ビニル−2−ピロリドン量の測定方法
N−ビニル−2−ピロリドンの残存量は、ビニルピロリドン系重合体粉体の5%水溶液を調製し、液体クロマトグラフィーを用いて、吸収波長を235nmとして、当該水溶液中に残存するN−ビニル−2−ピロリドン量を測定し、ビニルピロリドン系重合体粉体の含有量に対するN−ビニル−2−ピロリドンの相対的な残存量を算出することにより求めた。
【0102】
(7)重合体水溶液の濃度
予め質量を測定したアルミカップに、実施例または比較例で得られたビニルピロリドン系重合体の各水溶液2gを素早く入れ、0.1mgの単位まで精秤した。次いで、150±5℃に調節された熱風乾燥器中にアルミカップごと収納し、1時間乾燥した後、アルミカップを乾燥器から取出し、直ちに蓋をしてデシケーター中で60分間冷却した。冷却後、0.1mgの単位まで精秤した。濃度は、次式にしたがって算出した。なお、濃度は、3点測定し、その平均値をとった。
重合体水溶液の濃度(%)=(W×100)/S
[式中、Wは乾燥後の重合体質量(g)、Sは重合体水溶液採取量(g)]
【0103】
(8)重合体水溶液のK値
実施例または比較例で得られたビニルピロリドン系重合体の各水溶液を用いて、ビニルピロリドン系重合体濃度が1%の水溶液をそれぞれ調製した。
【0104】
K値は、得られたビニルピロリドン系重合体濃度が1%の水溶液について、25℃で毛細管粘度計により相対粘度を測定し、上記のフィケンチャーの粘度式に代入して、得られたkの値を1,000倍した数値である。
【0105】
(9)重合体水溶液の色相
ビニルピロリドン系重合体水溶液の色相を、JIS K3331に記載の方法に基づいて求めた。詳細は以下の通りである。
【0106】
(色相の測定)
実施例または比較例で得られたビニルピロリドン系重合体の各水溶液を用いて、ビニルピロリドン系重合体濃度が5%の水溶液をそれぞれ調製した後、これを白色紙上に置いて、自然光の下で肉眼にて上方から上記APHA標準液と比色して、対応するAPHA標準液を選び、ビニルピロリドン系重合体水溶液の色相とした。
【0107】
(10)イオン交換水及び失活水のエンドトキシン活性
注射用蒸留水9.0gに、イオン交換水または失活水1.0gを加えて、イオン交換水または失活水の希釈液を調製した。
【0108】
得られたイオン交換水または失活水の希釈液200μlを、ライセート試薬(リムルスES−IIシングルテスト、和光純薬工業社製)に加え、よく撹拌した後、上記エンドトキシン測定装置にセットして、ゲル化までの時間を測定した。この操作は2回行い、その平均値をイオン交換水または失活水の希釈液のゲル化までの時間とした。
【0109】
なお、イオン交換水または失活水の希釈液をライセート試薬に加えてから30秒以内に、エンドトキシン測定装置にセットするようにした。
【0110】
前記の重合体粉体のエンドトキシン活性の測定方法(検量線の作成)で得られた検量線と、イオン交換水または失活水の希釈液のゲル化までの時間とから、当該希釈液中のエンドトキシン活性を求め、希釈液のイオン交換水または失活水濃度から、イオン交換水または失活水のエンドトキシン活性(単位:EU/g)を求めた。
【0111】
(実施例1)
<不溶物除去工程>
イオン交換水(平均値30EU/g)1000部を、不溶物除去用フィルターとして、孔径3μmのフィルター(キュノ株式会社製、ポリネット(登録商標)NT09T030S0BA)に通して、不溶物(粗大異物)を除去した。次いで、不溶物除去用フィルターとして、異物吸着用フィルター(キュノ株式会社製、ゼータプラス(登録商標)JB12D50SP)に通して、不溶物(微細異物)およびエンドトキシンを除去した。
【0112】
<殺菌工程>
不溶物除去工程を経て得られたイオン交換水1000部を、常圧下で30分間沸騰させて、殺菌した。
【0113】
<エンドトキシン失活工程>
殺菌工程後のイオン交換水1000部を、エンドトキシン除去用フィルターとして、孔径0.2μmのポリアミド製フィルター(キュノ株式会社製、ステラシュア(登録商標)PSA020F02BA)に通して、エンドトキシンを除去した。
【0114】
得られたエンドトキシン活性を低下させた水(失活水)のエンドトキシン活性を測定したところ、0.2EU/gであった。
【0115】
<重合工程>
撹拌機、温度計、還流管を備えた反応器に、上記工程を経て得られたイオン交換水(失活水)640部、N−ビニル−2−ピロリドン160部を仕込み、pH調整剤としてジエタノールアミン0.02部を添加して、pH8.3の単量体水溶液を調整した。この単量体水溶液を撹拌しながら、窒素ガスを導入して溶存酸素を除去し(酸素濃度0.2ppm;体積基準)、次いで反応器の内温が75℃になるように加熱した。この反応器に、重合開始剤として、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.44部をイソプロパノール4.5部に溶解した溶液を添加して、重合を開始した。重合開始剤添加後、重合反応による内温の上昇が認められた時点から、ジャケット温水温度を内温に合わせて昇温して、重合反応を行った。
【0116】
<酸の添加による単量体の低減化工程>
重合開始剤を添加してから約3時間反応を継続した後、酸としてマロン酸0.14部をイオン交換水(失活水)1.8部に溶解した水溶液を添加して、反応液のpHを3.7に調整し、90℃で90分間内温を維持した。
【0117】
<重合後のpH調整工程>
次いで、pH調整剤としてジエタノールアミン0.24部をイオン交換水(失活水)2.7部に溶解した水溶液を添加して、反応液のpHを6.6に調整し、90℃で30分間内温を維持して、20%のビニルピロリドン系重合体を含有する水溶液を得た。
【0118】
<乾燥・粉砕工程>
得られた水溶液をドラムドライヤーに投入し、ドラム表面温度140℃、ドラム回転数1.5rpmの運転条件で20秒間乾燥した後、得られた乾燥物を粗砕機に投入して粗砕し、次いで、粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製、ヴィクトリーミル/VP−1)を用いて粉砕して、ビニルピロリドン系重合体粉体を得た。当該粉体の特性を表1に示す。
【0119】
なお、ドラムドライヤーおよび粗砕機は、HEPAフィルター(多風量型HEPAフィルター23CW79J、進和テック株式会社製)を通過させた空気が流通する乾燥室内に設置して、乾燥・粉砕工程中に、ビニルピロリドン系重合体が外気中の菌類等と接触しないようにした。
【0120】
【表1】

【0121】
(比較例1)
実施例1において、不溶物除去工程、殺菌工程、およびエンドトキシン失活工程を経て得られたイオン交換水(失活水)に代えて、これらの工程を経ない(すなわち未処理の)イオン交換水を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニルピロリドン系重合体粉体を得た。
【0122】
<乾熱処理工程>
得られたビニルピロリドン系重合体粉体を、熱風乾燥機にて、170℃で2時間処理して、エンドトキシンを失活させた。乾熱処理後の粉体の特性を表1に示す。
【0123】
(比較例2)
実施例1において、不溶物除去工程、殺菌工程、およびエンドトキシン失活工程を経て得られたイオン交換水(失活水)に代えて、これらの工程を経ない(すなわち未処理の)イオン交換水を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニルピロリドン系重合体粉体を得た。当該粉体の特性を表1に示す。
【0124】
(実施例2)
<重合工程>
上記不溶物除去工程、殺菌工程、およびエンドトキシン失活工程を経て得られたイオン交換水(失活水)430.8部と、金属触媒として硫酸銅(II)0.00023部とを反応器に仕込み、80℃まで昇温した。次いで、80℃を維持しながら、N−ビニル−2−ピロリドン450部、助触媒として25%アンモニア水溶液0.9部とジエタノールアミン1.25部、および重合開始剤として30%過酸化水素水9部を、それぞれ180分間かけて滴下した。滴下終了後、30%過酸化水素水2.7部を3回に分けて1.5時間間隔で添加し、3回目の添加後、さらに80℃で1時間保持し、ビニルピロリドン系重合体水溶液を得た。
【0125】
<乾燥・粉砕工程>
得られた水溶液を、実施例1と同様の方法にて乾燥、及び粉砕して、ビニルピロリドン系重合体粉体を得た。当該粉体の特性を表2に示す。
【0126】
【表2】

【0127】
(比較例3)
実施例2において、不溶物除去工程、殺菌工程、およびエンドトキシン失活工程を経て得られたイオン交換水(失活水)に代えて、これらの工程を経ない(すなわち未処理の)イオン交換水を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニルピロリドン系重合体粉体を得た。
【0128】
<乾熱処理工程>
得られたビニルピロリドン系重合体粉体を、熱風乾燥機にて、170℃で2時間処理して、エンドトキシンを失活させた。乾熱処理後の粉体の特性を表2に示す。
【0129】
(比較例4)
実施例2において、不溶物除去工程、殺菌工程、およびエンドトキシン失活工程を経て得られたイオン交換水(失活水)に代えて、これらの工程を経ない(すなわち未処理の)イオン交換水を用いた以外は実施例1と同様にして、ビニルピロリドン系重合体粉体を得た。当該粉体の特性を表2に示す。
【0130】
実施例1と、比較例1及び2との比較(表1)、及び実施例2と、比較例3及び4との比較(表2)から、本発明の製造方法によれば、エンドトキシン活性が低く、かつ黄変の程度も低いビニルピロリドン系重合体を、そのK値の大小に関わらず、効率良く得ることができるのが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のビニルピロリドン系重合体は、それ自体を原料または添加剤として、例えば、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤などの用途に、あるいは、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜やメンブランフィルターの製造)に、幅広い分野で用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色相が30以下で、エンドトキシン活性が1EU/g以下であることを特徴とするビニルピロリドン系重合体。
【請求項2】
請求項1に記載のビニルピロリドン系重合体を製造する方法であって、
水のエンドトキシン活性を低下させる工程と、
該工程を経て得られるエンドトキシン活性が低下した水を含む溶剤中で、N−ビニル−2−ピロリドンを含む単量体を重合する工程と
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項3】
水から不溶物を除去する工程と、
該工程を経て得られる不溶物が除去された水を殺菌する工程と
を含み、前記エンドトキシン活性を低下させる工程を、前記殺菌する工程の後に行う請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記エンドトキシン活性を低下させる工程によって、エンドトキシン活性が1EU/g以下の水を得る請求項2または3に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−195624(P2011−195624A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61089(P2010−61089)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】